AIを使ったレースに負けないために、AIを知り学ぶ

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人工知能(AI)は、これまで人類が築き上げてきたあらゆる前提を覆し、勤勉を奪い、勤労を奪い、敬虔な神への信仰をさえも奪いとってしまうような測り知れない力を持つものとして、新たな信仰心さえ生み出しかねないもののように見られる向きもある。

一方で、人工知能(AI)は、あくまでも人間の作り出した道具の遙かに発展したものであり、人間社会が規範としてきたディシプリンとの軋轢が生じるのであればそれはそれとしてしっかりと議論していこうとする考えもある。

人工知能(AI)の適用できる分野は、多種多様な広がりを見せるであろうが、特に軍事分野での適用も、単に戦場をシンギュラリティ化するものであるとする意見にひとっ飛びするのには疑問を持つものである。

人工知能(AI)を、あくまでも人間の作り出した道具として捉え、多大な殺傷力を持つ兵器の登場後に後付けでその管理方法を議論してきた過去の反省に基づいて、倫理的な考察を行うことが求められていると考える。更に、軍事分野で未知の力を兼ね備えた人工知能(AI)を倫理観に沿って使いこなすためには、それが得たいが知れないものであるがゆえに、専門的な知識が必要となるのであろう。

ここでは、人工知能(AI)の軍事分野での適用に当たっての軍事専門教育(Professional Military Education:PME) に関するMick Rayn※記事を紹介する。

※Mick Ryanは、オーストラリア陸軍の中将である。ジョンズ・ホプキンス大学、米海兵隊参謀大学、アドバンス・ウォーフェア・スクールを卒業した彼は、専門教育と生涯学習の熱心な提唱者である。

将来の戦争への知的な準備:人工知能は軍事専門教育をどのように変えるのか

Intellectual Preparation for Future War: How Artificial Intelligence Will Change Professional Military Education

ミック・ライアン

人工知能と自律兵器の登場は軍事分野において新たな革命をもたらしたのだろうか?これは、Frank Hoffmanの最近の記事[1]が提起した問いである。これまでの革命と同様に、技術だけが、軍事機関が成功裏に作戦を行う方法を大きく変えたわけではない。新しい組織の開発と新しい戦闘コンセプトも大きな役割を演じてきた。そして、これらは人間のドメインであり、機械のドメインではない。したがって、軍事組織がこの新しい時代にうまく適応しようとすれば、軍隊は知的な優位(edge)を得るために人間の潜在力を最大限にしなければならない。この優位(edge)を維持して構築するためには、指導者は軍事専門教育システムを再考し、人間と人工知能を最良に組み合わせる方法を学ぶ必要がある。

この記事では、どのように人工知能が軍事専門教育に影響を与えるかと同様に、軍事組織の人々が人工知能の可能性を利用することによって将来戦で成功するための知的な準備を確実にすることのできる方法を探求する。早期に完了すれば、教育モデルのこれらの変化は、軍事機関が、軍事に関わる全体にわたる協調的な環境で人間の強みと人工知能を最大限にすることを可能にする。これを行うにあたって、組織はまた、軍事作戦の考え方、計画策定、実行の新しい効果的な方法を発掘するかもしれない。

人工知能の軍事的可能性-The Military Potential of Artificial Intelligence

軍事機関、政策立案者、情報機関は、人工知能の軍事的適用(および広範な国家安全保障の適用)の利用を拡大するという競争的な圧力を感じている。米国と中国の両政府は、人工知能の開発と利用において世界をリードする長期戦略を発表した。

しかし、人工知能、またはAIは何なのか?Michael Horowitzが、Texas National Security Reviewの最近の記事[2]で述べているように、この用語を特定した意味についての普遍的な合意はない。私たちの目的のために、私はAmir Husainの著書「The Sentient Machine[3]」で仮定された定義、「人工知能は、データから学習するか否かにかかわらず、アルゴリズムに関係する包括的な科学である」を使用する。この定義に基づいて、オーストラリア国立大学Genevieve Bell[4]は、AIを「21世紀の蒸気機関であり、最後のゲームではないが、それは物事を終わらせるための手段である」と述べている。最後に、この記事で説明する潜在的な適用は、現在西側諸国の技術的能力内の「特化型[5]」の人工知能の使用を前提としている。

軍隊が人工知能を必要とする主要な理由は、大量のセンサー、通信ネットワーク、データと情報の加速的な流れを収束することである。情報の量が増え続けるにつれて、人間がそれを取り扱う能力は比例して増加するわけではない。実際、人間は早くなる意思決定において最も遅いリンクになっている。そして、自律的な兵器システムの適用について西側で多くの倫理的議論が行われているが、Ian Morrisは、「ナノ秒のOODA [observe, orient, decide, and act]ループを持つロボットが、ミリ秒のOODA ループで人間を殺し始めると、もう議論にならない[6]」と書いている。

人工知能の適用についての洞察は、民間企業から広く入手可能である。MicrosoftのCortana、GoogleのNow、Amazonのショッピングサイト、Netflixのストリーミングアルゴリズム、AppleのSiriはすべて、ユーザー入力、大規模データベースへのアクセス、特注アルゴリズムを組み合わせて、ユーザの以前の決心や他の何百万人ものユーザーをベースとしたユーザのための決心支援を提供する。これは、Yuval Harari[7]が述べているように、人間からアルゴリズムへの権限の遅くて着実な移行を表している。そこには、いくらかの決定支援と意思決定を機械に移すことには、落とし穴(pitfall)がある。しかし、この動きはまた、軍隊組織に情報の精査、多くの選択肢の探索、それらの選択肢の深い分析において潜在的な利点も提供する。これにより、複雑な作戦上の環境および複雑な戦略上の環境において、より迅速に、またはより質の高い意思決定の提供することもできる。

人工知能と戦争の知的な準備-Artificial Intelligence and Intellectual Preparation for War

第4次産業革命にあって、軍の人員を知的に備えるためには、軍事機関は人工知能の基礎レベルの教育を開始する必要がある。この人工知能と専門軍事教育の交差点は、軍人の間でコンセプトについてのより広範なリテラシーを促進し、教育プロセスに人工知能を一体化し、Benjamin Jensen, Scott Cuomo, そしてChris Whyte等が調査した最近の記事[8]にあるように、新しい戦闘コンセプトを探求する軍事機関を支援するためにAIを使用する。

人工知能についての教育-Teaching Artificial Intelligence

AIが商用分野に激増したように、それは軍事的な意思決定の分野を通じて激増する可能性も高い。インテリジェンス分析、戦略的意思決定支援、作戦計画策定、指揮統制、兵站、兵器システムなどあらゆる環境で利用できる。しかし、軍事機関がAIを使用する場合、AIの適用を形作り、品質保証を提供するために、情報を保有したユーザーが必要になる。AIの課題は、「説明可能性」の欠如である。これらの新しい機能を支えるアルゴリズムが何をするのかは必ずしも明らかではない。この「ブラックボックス」の品質は、様々な場面で適用する軍事要員を準備するための異なるアプローチを推進するべきである。

したがって軍事組織は、アルゴリズムの開発と軍事システムの人工知能のデザインにおいて、まさに深い技術的専門家以上のことを必要とする。最近の英国政府の報告によると、AIを使用する熟練労働者は、基本的な理解、より多くの情報を保有するユーザー、高度な技能を持つ専門家を混在させる必要がある。近年、ほとんどすべての階級において、軍事要員は、AI適用の知識、保証のレベルと品質管理を提供する方法、AIを人間の知能と最適に結合する方法を含んで、人工知能の基本的なリテラシーが求められる。西側の軍事教育システムは、現在、すべての軍事要員にこのように強化されたリテラシーを提供していない。しかし、英国の報告書が指摘しているように、それは、将来の軍事組織が人工知能の利点を十分に活用することを可能にする部隊全体にわたる先進技術的リテラシーを伴う技術専門家を結合することである。

軍隊はアルゴリズムを設計する専門家や請負業者の知識を補完するためにAIの基準となるリテラシーを開発しようとしており、購読図書リスト、長期滞在型教育プログラム、オンライン技能教育、学術界とのパートナーシップや会議が有益である。既存の軍事専門教育プログラムは、この高いレベルの技術的リテラシーを実現するために適応されなければならない。現在、少なくとも西側では、軍事専門教育カリキュラムは、国家安全保障政策と国家安全保障戦略の分野、統合戦闘法の分野、指揮・リーダーシップ、倫理の重要分野の3つの分野に重点を置いている。調達と兵站では専門分野のコースがある一方で、先進技術の意味と活用の幅広い理解を発展させる機会は限定されている。技術リテラシー、先進技術の倫理、調達と兵站に重点を置いたカリキュラムに別の柱を加えることで、新たな技術を理解し、品質管理を促進し、バイアスや誤動作アルゴリズムのリスクに対処するための幅広い制度的能力が作り出されることになる。

個々の軍務初期段階から上級段階に至る連続する追加された教育の焦点は、軍が人工知能を理解し、各指揮階層で効果的に機械と協調できる真価を認められた人間の大きな制度的プールを開発するのを助けることができる。しかし、そのような変化は簡単ではない。すべての重要な制度的変化と併せて、知的重視のこの追加領域を組み込むための軍事専門教育の進展は、上級指導者の支持、新しいカリキュラムへの投資、統合と単一軍種の教育プログラムにわたる規律ある履行が求められる。

人工知能で学ぶ-Learning with Artificial Intelligence

人工知能はまた、軍隊が人員を教育する方法を変える大きな可能性を持っている。最近報告された1つの報告書として、人工知能によって駆動される知的個人指導システムは、シミュレートされた1対1の人間個人指導を提供することになるかもしれない。生徒は、人工知能の「生涯学習パートナー」の恩恵を受けることもあり、それらは、軍隊への入隊時に発行され、経歴を通じて発行されるものであり、多分War on the Rocksの記事でJensen、Cuomo、Whyteが作成した提案に並ぶものである。彼らのために、軍事機関のインストラクターは、個々の生徒のプロフィールを解釈し、設えられた学習に関する提案を提供する学生のパートナーとコミュニケーションするインストラクタ自身の助手の恩恵を受けるかもしれない。

人工知能はまた、軍事組織が歴史的な教訓を共有し、効果的で一貫したチームを構築するために長い間使用してきた共同学習にも応用されている。今日では、ほとんどの共同学習が訓練(次元の低い戦術的スキルセットなど)に使用されている。しかし、AIはチーム内のより高い次元の作戦計画策定や戦略計画策定を支える認知的技能の開発を助けることも可能になる。これは、共同学習のためのより本格的な環境を提供すること、学生に挑戦するより知的な敵対者の組織を提供すること、または以前に行われた活動の教訓を融合させる目的でデザインされたアルゴリズムとカリキュラムデータを使用することによって行うことができる。

最後に、Jensen、Cuomo、Whyteが述べたように、軍事専門教育の高度なシミュレーションに人工知能を使用することができる[9]。現在、軍事機関のほとんどのシミュレーションシステムは、砲撃、操縦、飛行、船の艦橋、および砲兵観測などの訓練結果に焦点を当てている。統合演習ウォーゲーム判定ツール(JSWAT:Joint Seminar Wargaming Adjudication Tool[10])、統合紛争・戦術シミュレーション(JCATS:Joint Conflict and Tactical Simulation[11])、戦闘シミュレーション2000(WARSIM 2000:Warfighters Simulation 2000[12])のような、より高度な認知的技能に焦点を当てたシミュレーションがいくつかある。背景入力を提供するために多くのインタラクタを必要とするこれらのツールは、統合戦闘や連合戦闘でより多くの上級将校を教育する早初期の取組みを代表するものである。AIを使用したより洗練されたツールは、軍事上級指導者や潜在的に文民の政策立案者の認知的技能を磨くことが出来る。

結局、人材データベース、ドクトリンのライブラリ、教訓のデータベース、カリキュラム・デザインとつながることによって、人工知能は、彼らを将来の紛争に知的に適合できることを確実にするための解決策と同様に軍事専門家の学習経験のギャップを特定出来るかもしれない。これは最終的に軍種の軍事専門教育と統合の軍事専門教育との間の官僚的な区別を少なくし、軍と国家の安全保障機関全体に単一で統一された連続する教育を可能にする。

教育とコンセプト開発における人工知能-Education and Artificial Intelligence in Concept Development

軍事機関が、コンセプトについてのリテラシーを構築し、一般的に学習者を支援するために人工知能の利点を活用できれば、これは21世紀の新しい戦闘コンセプトの実験の基礎を築くことができる。Ellie Bartels[13]が指摘しているように、ウォーゲーミングは米国国防総省でルネッサンスを謳歌している。国防総省や海軍戦争大学などの複数の軍事教育機関は、軍隊の新たな作戦アプローチの開発を支援する深い専門知識を有している。それらは、軍事教育機関が戦闘能力の変革の重要な要素となる将来の戦闘コンセプトを開発するために使用されてきたという長い歴史もある。

人工知能の長所と短所に精通したよく教育され経験豊かな軍の将校は、機関が”ヒューマン・マシン・チーム”と”人間と人工知能チーム”を特徴とする新しい統合の作戦コンセプトを作り上げるための制度を可能にする。これらの探求を通じて、組織は、自律システムの機能が、人を指揮系統による作戦能力を高めるために強化するスピードを見つけ出した。Thomas Adams[14]が2001年に指摘したように、戦術的な戦いは機械のビジネスとなり、人々にとってはまったく相応しくないかもしれない。これらの実験が制度的な近代化と作戦コンセプトを周知させるとしても、将来の人工知能のより効果的で倫理的な使用についてのフィードバックを提供することもできる。

これらの実験はまた、装備、部隊構造、人事管理と経歴管理の構造の潜在的な是正を示唆するかもしれない。Bell[15]が指摘しているように、過去の産業革命は以前には存在しなかった仕事を生み出した。これは、AIの適用を伴うがっちりとした実験が、既存の多くの軍事雇用カテゴリが役に立たなくなると判断し、新しいカテゴリの雇用の必要性が強調される可能性がある。1913年には、「戦車乗員」というカテゴリーはなかったが、多くの騎乗騎兵がいた。1945年、私たちは軍の核となる機能として「サイバー戦士」を想像しなかった。デジタル時代に成長する必要がある我々が未だ想像していない将来の人事のカテゴリーがある。

結論-Conclusion

米国国防総省は、2017年の将来の作戦環境の研究で、人工知能を「時代の中で最も破壊的な技術」と表現している。人工知能とディープ・ラーニングの潜在的な適用は、 第4次産業革命の最も意味深い側面の一つである。確かに、2世紀に亘って初めて、情報豊かで経験豊富な専門家や実践者が、技術的な変化が戦争の本質を変えるかどうかを疑問視している。

将来の紛争では、決心サイクルは、処理する人間の認知能力よりも速くなる可能性が高い。軍の指揮統制と戦略的意思決定者は、情報を処理し、敵対者よりも迅速に(あるいは質の高い)意思決定を行うための選択肢を推奨する人工知能が必要である。私がこれまでに書いたように、軍事組織には何らかの形であらゆるものに人工知能を含んだ無人およびロボットシステムが数千〜数万も含まれているよう。すべてのものが人工知能と自律システムを持つこの環境では、レースは知的に迅速に行われる。

この新しい自律システム時代と、その結果として生まれた新しい組織や新しい戦闘コンセプトは、軍事要員の大部分が人工知能とその他の先進技術を学ぶことを要請している。軍隊の人々を教育する新しい方法が必要になる。そして、技術が進化するスピードは、進化した軍事専門教育システムでの人材の頻繁な再技能習得と再教育も必要となる。軍事専門教育への進化したアプローチにAIの潜在的な能力を活用することで、将来の敵対者に知的な優位(edge)を構築することができる。

[1] 【参照】F. G. Hoffman著「戦争の本質は第7の軍事革命で変わるだろうか?」(https://ssi.armywarcollege.edu/pubs/parameters/Issues/Winter_2017-18/Vol47No4.pdf)

[2] Michael Horowitz著「人工知能、国際的競争とパワーバランス」 (https://tnsr.org/2018/05/artificial-intelligence-international-competition-and-the-balance-of-power/)

[3] Amir Husain著「知覚できる機械:人工知能の時代の到来」 (https://www.amazon.com.au/Sentient-Machine-Coming-Artificial-Intelligence/dp/1501144677)

[4] Distinguished Professor Genevieve Bell (https://cecs.anu.edu.au/people/genevieve-bell)

[5] 一般に、人工知能を「汎用型の人工知能:General AI」 と「特化型の人工知能:Narrow AI」と区分している。「特化型の人工知能:Narrow AI」を「狭義の人工知能」という言い方もある。また、「汎用型の人工知能」を「弱いAI」、「特化型の人工知能」または「狭義の人工知能」を「強いAI」という言い方もある。

[6] Ian Morris 著「戦争:それは何のためになるのか?」(https://profilebooks.com/war-what-is-it-good-for.html)

[7] Yuval Noah Harariは”SAPIENS”(訳本『 サピエンス全史:文明の構造と人類の幸福』)の著者、”SAPIENS”の次の書籍”Homo Deus”で科学技術の進んだ人類の未来(21世紀)を述べている<www.ynharari.com/book/homo-deus/>

[8] Wargaming with Athena: How to Make Militaries Smarter, Faster, and More Efficient with Artificial Intelligence (https://warontherocks.com/2018/06/wargaming-with-athena-how-to-make-militaries-smarter-faster-and-more-efficient-with-artificial-intelligence/)

[9] Wargaming with Athena: How to Make Militaries Smarter, Faster, and More Efficient with Artificial Intelligence (https://warontherocks.com/2018/06/wargaming-with-athena-how-to-make-militaries-smarter-faster-and-more-efficient-with-artificial-intelligence/)

[10] http://www.defence.gov.au/adfwc/Simulation/mdm.html

[11] http://www.terrasim.com/brochures/products/plugins/jcats.pdf

[12] https://ieeexplore.ieee.org/document/638138/

[13] Elizabeth M. Bartels (https://www.rand.org/blog/2016/01/getting-the-most-out-of-your-wargame-practical-advice.html)

[14] THOMAS K. ADAMS著「将来の戦いと人間による意思決定の衰退」 (http://strategicstudiesinstitute.army.mil/pubs/parameters/Articles/01winter/adams.pdf)

[15] Distinguished Professor Genevieve Bell (https://cecs.anu.edu.au/people/genevieve-bell)