市街作戦での諸兵科連合:ある歩兵中隊の失敗と成功

陸上自衛隊は、2019年度にアメリカ合衆国 カリフォルニア 州フォート・アーウィン(NTC:ナショナル・トレーニング・センター)で米陸軍との実動訓練を行っている。最近米陸軍がいう大規模な戦闘作戦(large-scale combat operation)を実動レベルで行うには米国がゆえに行うことが出来るのであろう。ここでは、米国のナショナルトレーニングセンターで勤務する米陸軍将校のコンバインドアームズに関する有効性を歩兵中隊の訓練から分析した記事を紹介する。装甲車両化された歩兵部隊が、兵士が下車した後の車両をどのように扱ったらよいのかというテーマである。一見、複雑なものでもないと受け取られやすいが、現場レベルの隊員が陥りそうな近視眼的な思考を見直すきっかけとなれば幸いである。(軍治)

市街作戦での諸兵科連合:ある歩兵中隊の失敗と成功:Combined Arms in Urban Operations: Failure and Success in One Infantry Company

パトリック・K・オキーフ米陸軍大尉

 

INFANTRY Fall 2020

著者:パトリック・K・オキーフ米陸軍大尉は、カリフォルニア州フォートアーウィンのナショナルトレーニングセンター(NTC)でスコーピオンチームの歩兵中隊のトレーナーを務める装甲将校である。彼の最近の任務は、第1騎兵師団第3装甲旅団戦闘団第12騎兵連隊第1大隊の戦車中隊長であった。彼の他の以前の任務には、第1機甲師団第1ストライカー旅団戦闘団第1騎兵連隊第6戦隊で部隊副隊長および偵察小隊長に従事したことが含まれる。

2019年9月8日、カリフォルニア州フォートアーウィンのナショナルトレーニングセンター(NTC)での訓練中に、架空のアトロピア国のウジェン市を離れる第2歩兵師団の第2ストライカー旅団戦闘チームの兵士達

(写真:ライアン・バーウィック米陸軍3等軍曹)

世界はますます都市化の傾向にある。北米、南米、および欧州では、人口の75〜82パーセントが都市部に住んでいる。国連は、世界の総人口の68パーセントが2050年までに都市環境に住むと予測している[1]。過去80年間のほぼすべての主要な紛争は、第二次世界大戦でのアーヘンの会戦[2]やスターリングラードの会戦[3]などの会戦から、過去数年間のラッカの会戦[4]やモスルの会戦[5]をめぐる会戦まで、都市部の永続的な戦略的重要性を証明している。我々の軍隊が対反乱作戦(counterinsurgency)の実施から大規模な戦闘作戦(largescale combat operations)に焦点を合わせるように移行し続けるにつれて、我々は市街作戦(urban operations)に固有の新しい一連の課題に直面している。市街戦(urban warfare)に関する報告書の中で、米陸軍非対称戦グループは、学んだ最大の戦術的教訓を述べている。「諸兵科連合の戦いは市街作戦(urban operations)に不可欠であり、装甲は歩兵を支援し、歩兵は装甲を支援する[6]」歩兵中隊は、真の諸兵科連合の戦闘(combined arms fighting)の優位性を理解し、市街戦で諸兵科連合の同期(combined arms synchronization)を達成するために取り組むことが不可欠である。この記事では、カリフォルニア州フォートアーウィンのナショナルトレーニングセンター(NTC)でのライフル銃中隊の行動の小話を紹介する。

市街地戦闘(urban combat)の複雑さは十分に文書化されている。都市での闘い(Fighting in cities)は、部隊に「軍事的死傷者率が高く、敵部隊から奪われたほぼすべての建物を継続的に警備する必要がある」ストレスを与える[7]。部隊は、「通信の課題、個々の兵器に対する…装甲の脆弱性、および降車した歩兵が通常利用できる戦術的運動性(tactical mobility)の欠如」に対処する必要がある[8]。都市の地形(urban terrain)は防御側にとって当然有利であり、そして、米国の国軍の戦力投射能力により、米陸軍は通常、市街作戦(urban operations)中に攻撃者としての地位を見出すであろう。乗車した歩兵中隊は、下車した歩兵中隊と比較して、都市部でより効果的に戦うことを可能にする独特の特徴を持っている。

陸軍技術出版(ATP)3-90.1装甲・機械化歩兵中隊チーム」は、機械化歩兵部隊の能力について説明している。彼らは「都市部、森林、山岳地などの厳しく制限された地形で作戦する歩兵部隊の実力を、装甲部隊に固有の機動性と火力と組み合わせて利用する[9]陸軍技術出版(ATP)3-21.11ストライカー旅団戦闘チーム(SBCT歩兵ライフル中隊」は、同様にストライカー歩兵中隊の能力について説明している。それは「歩兵分隊を都市部に配置し、地元住民と緊密に連絡を取りながら機動、通信、相互作用し、.50口径、MK-19、またはMGS (モバイルガンシステム)を使用して重要な要塞化された場所を探索または破壊することができる。車両自体が装甲で保護を提供し、遠隔兵器ステーションを使用して安全かつ正確に敵と交戦することができる[10]」ドクトリンは、市街作戦(urban operations)で諸兵科連合を利用する乗車した歩兵中隊に固有の優位性を説明しているが、特定の戦術、技術、および手順(TTP)の詳細は提供していない。

装甲旅団戦闘団(ABCT)とストライカー旅団戦闘チーム(SBCT)歩兵中隊は、多くの場合、下車した要素と車両要素の両方の能力を十分に活用するのに苦労しているため、諸兵科連合を使用して効果的に闘うことに失敗している。ナショナルトレーニングセンター(NTC)では、歩兵中隊は両極端な方向(two edges of a spectrum)に向かう傾向にある。つまり、彼らはめったに下車せずに車両の闘いに集中するか、または車両を除外してほぼ完全に下車した闘いに集中するかである。具体的には、ナショナルトレーニングセンター(NTC)の歩兵中隊は、車両に搭載された兵器プラットフォームを都市の闘い(urban fight)に一体化することに苦労している。多くの場合、彼らは支援を受けることなく下車のみを利用するか、効果的な車両一体化の不適切な計画によって複雑な都市の目標(urban objectives)を掃討している。

2019年10月31日にナショナルトレーニングセンター(NTC)で行われる決定的行動ローテーション20-02の間に、自分の位置を前進させる第3機甲騎兵連隊所属の兵士達。(写真:ブルーク.デービス米陸軍特技兵)

最近のナショナルトレーニングセンター(NTC)でのローテーション訓練中に、乗車したライフル中隊は市街作戦(urban operations)でさまざまなレベルの成功を示している。中隊の戦闘力は、13の戦闘プラットフォーム、6つのライフル分隊、3つの兵器分隊で構成されていた。その中隊の訓練戦略は、降車した作戦に重点を置いていた。中隊の指導者たちは、車両の訓練を怠ったことを認め、主に訓練演習への車両の関与を輸送に格下げし​​、分隊および小隊の実弾射撃訓練(LFX)中の車載の火力による支援を制限した。ナショナルトレーニングセンター(NTC)に対する彼らの初期の戦術計画は、この訓練の焦点を反映しており、任務が完了するまで車両が降車地点に留まり、しばしば暗闇に覆われた長い下車した移動で構成されていた。彼らの最初の都市の目標(urban objective)に近づいたならば、彼らは都市を取り巻く鉄条網を隠れながら下車兵による突破を実行し、続いて目標の下車兵による掃討を実施することを計画した。車両を一体化する意図的な計画はなく、中隊は4km離れた下車地点に車両を残していた。掃討作戦中、彼らは足場を占領した後にかなりの死傷者(heavy casualties)を出し、効果的に抑制または破壊できない敵の強みに遭遇したときに追加の死傷者(casualties)を出した。この中隊は戦術的な一時停止、再編成、車両を前進させて任務を遂行することができたが、敵の15人の死者を出すのに、39人が戦傷(wounded in action: WIA)、そのうち37人が戦傷死亡(died of wounds: DOW)を出している。

最初の都市の目標(urban objective)におけるこの中隊の課題は、分隊レベルの会戦ドリル(battle drills[11])を実行する習熟度(proficiency)によるものではなかった。分隊と小隊は、我々が見た中で最も下車した作戦を訓練された1つであった。その苦悩は主に、敵の強点の位置を打ち負かすことができず、死傷者集合点(CCP)から効果的な負傷者後送(MEDEVAC)または死傷者搬送(CASEVAC)を実施できないことにあった。これらの欠点は両方とも、中隊の車両を一体化するための計画を立てることで対処できたはずである。中隊の指導者はこれを認識し、次の都市の目標(urban objective)のために車両を組み込んだより広範な計画策定を行った。彼らが足場を占領し、最初の地域から対戦車兵器を排除すると、車両を前進させ、主要な歩兵分隊の後ろの1〜2ブロックを支援させる。その後、分隊は前方を掃討し、対戦車脅威を排除する一方で、車両は強力な火力で前進する歩兵を支援するために利用可能であった。

友軍の戦傷 友軍の戦傷死亡 我が下車兵による敵の戦死者 我車両による敵の戦死者 敵の戦死者合計

都市部での車両支援無し

39

37 15 0

15

都市部での車両支援有 32 6 12 13

25

実行中、2番目の都市の目標(urban objective)を確保するという同中隊の計画ははるかに成功した。同中隊は、兵士が小さな兵器で効果的に交戦できなかった敵を破壊するために、車両を何度も前方に呼んだ。彼らの最初の目的と比較して、中隊は25人の敵の戦闘員を殺している間、32人の戦傷(wounded in action: WIA)に苦んだ。車両に搭載された重火器が殺された敵の半分を占め、中隊が足場を確保した後、対戦車兵器によって車両が破壊されることはなかった。車両を一体化するという意図的な計画と、その計画に従った車両の利用により、同中隊は敵の強点を破壊し、死傷者(casualties)を次のレベルのケアに迅速に避難させることができた。上の図は、比較を一目で示している。

指導者はしばしば、車両を都市の目標(urban objectives)に進めない理由として車両を失うリスクを挙げるが、車両なしで作戦している下車した分隊のリスクはめったに考慮されない。前の小話から解るように、最初の接触時と兵士が負傷した後の生存率の両方の観点から、下車した分隊のリスクは、車両で支えられていない場合にはるかに高くなる。中隊の下車した要素および車両要素は、作戦のすべての段階でサポート範囲と距離内にとどまる必要がある。これにより、それぞれの優位性を最大化し、各要素へのリスクを個別に軽減することになる。

2020年3月18日にナショナルトレーニングセンター(NTC)で行われた決定行動ローテーション20-05の間に目標に向かって行動する第2歩兵師団第1ストライカー旅団戦闘チーム第20歩兵連隊第5大隊アルファカンパニー所属の兵士達(写真:ブルーク.デービス米陸軍特技兵)

上記の各都市の目標(urban objective)の特定の戦術計画は、特定の戦術シナリオに対して必ずしも正しいまたは間違った答えを提供するわけではない。むしろ、2つの小話は一緒になって、中隊レベルでの諸兵科連合の作戦の失敗に関連するリスクの増大を強調し、ある中隊がその過ちから学んだ教訓を適用した後にどのように成功を収めることができたかを示している。市街作戦(urban operations)を行う際には、乗車歩兵中隊の両方の要素を戦術計画に一体化することを忘れないでもらいたい。下車した歩兵は対戦車兵器を排除し、待ち伏せ(ambushes)を防ぎ、建物や街区を効果的に掃討することができる。これらのタスクは、地形を確実にし、車両に安全を提供し、勢いを維持するのに役立つ。車両は、優れた射程と光学系を備えた監視を提供でき、困難な標的と交戦して破壊し、存続可能な火力による支援要素として作用し、そして、迅速な死傷者搬送(CASEVAC)と負傷者後送(MEDEVAC)を提供する。これらのタスクにより、歩兵は敵の強点に遭遇したときに勢いが失われないようにしながら、前進を続けることができる。司令官は、諸兵科連合チームの各要素が提供するすべての能力を理解し、敵に接近して破壊するために両方の優位性を最大限に活用することが不可欠である。

ノート

[1] United Nations World Urbanization Prospects 2018, United Nations Department of Economic and Social Affairs, 16 May 2018, accessed from https://population.un.org/wup/.

[2] 【訳者註】アーヘンの会戦:アーヘンの戦いは、1944年10月にドイツの都市アーヘンをめぐって行われた戦いである。https://ja.wikipedia.org/wiki/ 参照

[3] 【訳者註】スターリングラードの会戦:スターリングラード攻防戦は、第二次世界大戦の独ソ戦において、ソビエト連邦領内のヴォルガ川西岸に広がる工業都市スターリングラード(現ヴォルゴグラード)を巡り繰り広げられた、ドイツ、ルーマニア、イタリア、ハンガリー、およびクロアチアからなる枢軸軍とソビエト赤軍の戦いである。https://ja.wikipedia.org/wiki/ 参照

[4] 【訳者註】ラッカの会戦:ラッカの戦い(2013年3月)(反体制派のコードネーム 「神の襲撃[8]」)は、シリア内戦中のスンニ派イスラム主義者を主体とする反体制派勢力とシリア陸軍とのシリア北部の都市ラッカの支配を巡る戦いである。https://ja.wikipedia.org/wiki/ 参照

[5] 【訳者註】:モスルの会戦:モースルの戦いは、イラク政府軍が、ISILにより2014年6月に奪われた都市モースルを奪還するため、同盟関係にある民兵組織、クルディスタン地域政府(英語版)ならびに国際的な有志連合と共同で2016年に開始した大規模軍事作戦。https://ja.wikipedia.org/wiki/ 参照

[6] “Modern Urban Operations: Lessons Learned from Urban Operations from 1980 to the Present,” U.S. Army Asymmetric Warfare Group, November 2016.

[7] Dr. Margarita Konaev and MAJ John Spencer, “The Era of Urban Warfare is Already Here,” Foreign Policy Research Institute, 21 March 2018.

[8] Robert F. Hahn II and Bonnie Jezior, “Urban Warfare and the Urban Warfighter of 2025,” Parameters, Summer 1999.

[9] Army Techniques Publication (ATP) 3-90.1, Armor and Mechanized Infantry Company Team, January 2016, 1-5.

[10] ATP 3-21.11, SBCT Infantry Company, February 2016, 2-23.

[11] 【訳者註】会戦ドリル:synonym.englishresearch.jpによると、drillは手順に従った訓練(ドリル)、trainingは主に向上するための訓練、practiceは主に習得するための訓練(練習)、exerciseは上達させる訓練(演習)と区別されている。ただし、()は、訳者による。