人工知能(AI)に対応した軍事の労働力 (Joint Force Quarterly)
人工知能の適正利用、または人工知能の規制についての話題が各種報道で見られる。MILTERMでは、これまでも軍事に関わる人工知能に関する記事等を紹介してきたところである。2023年3月には「信頼できる人工知能のために:米陸軍の専門知識への人工知能の一体化」と「上院公聴会で専門家がAI規制を呼びかけ (www.techtarget.com)」を紹介している。今回は、米国の統合参謀監修の機関誌「Joint Force Quarterly」に掲載されていた、軍事組織における人工知能に関する人材についての記事を紹介する。一口に人工知能に関わる人材といっても多岐にわたることが理解できる。そのうえで組織的ごとに特定の能力に偏らないバランスの取れた人材確保が重要であることの示唆を与えてくれるものと考える。(なお、下線は訳者によるもの。)(軍治)
人工知能(AI)に対応した軍事の労働力
An AI-Ready Military Workforce
By Iain Cruickshank
Joint Force Quarterly 110
イアン・クルックシャンク(Iain Cruickshank)博士は、ウェストポイント米陸軍士官学校の上級研究員である。
2021年3月4日、ジョージア州ムーア基地(旧ベニング基地)で行われた米陸軍遠征戦士実験部隊の実戦デモンストレーションで、ネット・ウォリアーのエンド・ユーザ用デバイスをチェックする兵士たち(写真:米陸軍/ジェイソン・アマディ(Jason Amadi))。 |
人工知能に関する国家安全保障委員会の最終報告書など、最近の軍事専門書の多くは、「人工知能(AI)に対応した労働力(artificial intelligence (AI)-ready workforce)」の必要性を強調している[1]。AIは、その技術を最もうまく活用できる戦争当事者に戦場での優位性をもたらす明確な可能性を持っており、その優位性を得るためには「AIに対応した軍事の労働力(AI-ready military workforce)」が不可欠なのである[2]。したがって、軍が「AIに対応した労働力(AI-ready workforce)」を必要としていることは一般的に明らかだが、それが実際に何を意味するのかはあまり明確ではない。
この分野のコメンテーターの多くは、軍の「AIに対応した労働力(AI-ready workforce)」の解決策として「制服を着たAI専門家(AI Experts in uniform)」を漠然と提案している[3]。最近の研究では、AIの生産には明確な役割があり、役割ごとに異なる訓練ニーズがあることが示されている[4]。
さらに、コメンテーターは、上級指導者、調達担当者、AI対応システム(AI-enabled systems)の利用者がAIをある程度理解する必要性を指摘している[5]。労働力におけるAIとのさまざまな関係を明らかにする最近の研究があるにもかかわらず、労働力のさまざまな部分の規模などのニーズを考慮した「AIに対応した労働力(AI-ready workforce)」の統一モデルは存在しない。
これまでのAI労働力の提案は、AI対応システム(AI-enabled system)の構築(例えば、AIプロジェクトの実行、ゼロからのモデルの作成)、または完全なデータ・サイエンス・プロジェクトの実行のみを検討している。さらに、これらの提案は、作戦環境の変化に合わせてモデルを維持・調整するといった作業を含む、軍事環境におけるAIのより現実的な利用法を無視している。
この記事では、軍隊のための「AIに対応した労働力(AI-ready workforce)」は、AIのスキル・イン・デプス・モデル(AI skills-in-depth model)を中心に構築されるべきであると主張する。
〇 AI活用の技術(AI-enabled technologies)が軍隊に与える実際の需要に対応した AI 技術スキル(AI technical skills)の段階的な向上を図る。
〇 AIを活用する機会を認識し、AI能力を評価するためのリーダーシップと調達コミュニティの教育に重点を置く。
〇 より高い技術を持つAIの専門家(AI Experts)を作るよりも、より低い技術を持つ技術者を作ることを優先している。
軍種における「AIに対応した労働力(AI-ready workforce)」とはどのようなものか、提案されているモデルを探る前に、AIの利用についていくつかの点を明確にしておくことが重要である。第一に、AI活用のシステム(AI-enabled systems)には保守が必要である。AI活用のシステム(AI-enabled system)の中核をなす機械学習アルゴリズムは、モデルのドリフト、データ生成環境の変化、実戦配備されたモデルの問題、より新しく優れたモデルの登場など、多くの問題に悩まされる[6]。
AI活用のシステム(AI-enabled systems)にはこうした固有の問題があるため、有用性を維持し続けるためには、定期的な保守、更新、モデル性能やデータ入力の変化に対する監視が必要となる。第二に、AIの適用(application of AI)には問題を慎重に検討する必要がある。AIはどんな問題でも解決できる万能ではない。
AI活用のシステム(AI-enabled systems)は通常、特定の問題に合わせて調整する必要がある。そのため、どのような問題がAIによる解決策(AI solution)に適しているのか、また、その解決策を組織に適した形で導入するにはどうすればよいのかを考える必要がある[7]。第三に、AIは多くの場合、より大規模な一体化されたシステムの一部として導入される。
AI活用のシステム(AI-enabled system)を構成する実際の機械学習は、通常、比較的小さなコンポーネントであり、モバイル自律プラットフォームの自律脅威認識アルゴリズムのような、より大きなシステムの1つのコンポーネントに過ぎない[8]。実世界の問題にAI活用のシステム(AI-enabled system)を使用する際には、そのシステムの保守が必要であること、そして機械学習モデルは与えられた問題に対して狭い範囲でしか適用できないことを覚えておくことが重要である。
これらの基本的な観察から、特定の詳細が欠落しているとしても、軍事におけるAIの大まかな輪郭を推測することができる。AIは、車両からミッション・コマンド装備(mission command suites)まで、ほとんどではないにせよ、多くの戦場システムに存在し、防衛請負業者によってそれらの戦場システムの中核部品として組み込まれるだろう。
これらのAI活用のシステム(AI-enabled systems)と関連する機械学習モデルはすべて保守が必要で、少なくともその一部は制服組(uniformed personnel)が行う必要がある。また、特定の指揮官や戦場の問題をサポートするために、軍の部隊内で作成されるアドホックなデータ・サイエンスやAIによる解決策(AI solution)も必要になるだろう。
したがって、AI活用のシステム(AI-enabled systems)との相互作用は、主にユーザ・レベルに限定され、保守・タイプの相互作用はかなり少なくなり、デザインと実装タイプの相互作用はごくわずかとなる。
AIを活用した軍の労働力の概要:Outline of an AI-Enabled Military Workforce
軍隊でAIを使用する現実的な要求を考えると、「AIに対応した労働力(AI-ready workforce)」を作り出す最善の方法は、訓練と教育のAIのスキル・イン・デプス・モデル(AI skills-in-depth model)に従うことである。このモデルは、リソースを節約しつつ、AIが提供する戦場での優位性を実際に活用できる軍の労働力を生み出すものでなければならない。
このモデルのどの部分も、AI活用の労働力(AI-enabled workforce)を生み出すのに十分ではないが、各部分は必要な要素に対処しており、それらを組み合わせることで、望ましい最終状態を達成するのに十分である。このモデルの基本的なダイナミズムは、仕事上の役割に必要なAI技術スキル(AI technical skills)を高めるにつれて、仕事上の役割に従事する軍人の数が指数関数的に減少していくことに要約できる。
この減少には主に2つの理由がある。第一に、AI 技術スキル(AI technical skills)の専門性が高まるにつれて、そのスキルに習熟するための「コスト」は指数関数的に増加する。第二に、このモデルによって、専門的なAI 技術スキル(AI technical skills)を必要とするAI活用のシステム(AI-enabled systems)との軍種の要員の相互作用の数が減少する。
図1は、モデルとそのさまざまな構成要素をまとめたものである。各コンポーネント(つまり、ユーザ、AI技術者(AI Technicians)、など)の詳細は表で説明する。
表. AIに対応した軍事の労働力のための専門知識深化モデルのさまざまなレイヤーのまとめ | ||||
構成要素 | 労働力の分類 | 求められる技能 | 必要な時間 | 説明 |
ユーザ | 労働力の大半 | AIに関するごく簡単なハイレベルの知識で、関連するAI対応技術を採用する方法 | 数時間から1~2日
実地経験(on-the-job experience)で補う |
労働力が関連するAI対応技術を快適に効果的に使用し、一般的な能力と限界を理解できるようにするための訓練。 |
調達担当者
指導者層 |
中級から上級の指導者層と調達担当の労働力 | AIのコンセプト、 AI活用のシステム(AI-enabled systems)のハイレベルな仕組みと要件に関する知識。
AI技術のトレンドと近い将来の可能性に関する知識。 |
数週間から数ヶ月 | リーダーや調達担当者が AIによる解決策(AI solution)に適した問題を特定し、提案された解決策を評価できるようにするための短期教育課程。
初回教育の後、定期的に再教育が行われる。 |
AI 技術者
(AI Technician) |
1つまたは複数のAI対応システムの保守を担当する選出された個人 | モデルの微調整、モデルのモニタリング、データのモニタリングなど、 AI活用のシステム(AI-enabled system)を維持するための要素に関する専門知識 | 数ヶ月から1年 | AI活用のシステム(AI-enabled system)のさまざまな側面の保守を監督付きで実習する教育課程 |
AI機能専門家
(AI Functionary) |
斬新な AIによる解決策(AI solution)を創造し、限定された範囲のシステムを開発の必要がある選出された個人 | 基本的な AIによる解決策(AI solution)のデザインと実装、探索的データ分析の実行、機械学習パイプラインの作成など、 AI活用のシステム(AI-enabled systems)の使用に関する専門知識 | 2年から4年 | AIの理論と問題へのAIの応用の両方を、監督された実地体験とともに教える拡大教育課程(例えば、正式な学術教育)。 |
AIの専門家
(AI Expert) |
軍用AI対応システムの構築、デザイン、研究を職務とする専門要員 | AI活用のシステム(AI-enabled systems)のデザイン、理論、使用法に関する専門知識 | 5年以上 | AIの理論から実装までをカバーする拡張教育課程(正式な学術教育など)。
AI分野での研究経験と、最先端のAIの創造や AIによる解決策(AI solution)の実装に関する多くの実務経験。 |
AIのスキル・イン・デプス・モデル(AI skills-in-depth model)を考えるもう一つの方法は、各コンポーネントのメンバーがAIスキルを使った実作業に費やす相対的な時間の長さである。例えば、ユーザ・レベルでは、AIの技術的な実作業は、AI活用のシステム(AI-enabled system)が適切に動作していないことを認識することから主に構成される。
一方、AI技術者(AI Technician)やAI機能専門家(AI Functionary)は、実践的なAI技術タスク(モデルの微調整、新しいデータに対するモデルのパフォーマンス・チェック、データの整合性チェックなど)をこなさなければならないため、これらのタスクをこなすためにかなり多くの時間を必要とする(おそらく副業や追加業務に相当する)。図2は、仕事の一部としてAI 技術スキル(AI technical skills)を実行するために必要な労働時間を示している。
このモデルは、さまざまな軍社会で既に実施されているものと酷似している。一例として、軍の医療コミュニティがある。米陸軍はすべての隊員に緊急医療手順を訓練している。この種の訓練は、AIユーザのコンポーネントで必要とされるものとほぼ類似している。戦場では、米陸軍は部隊レベルで衛生兵を配置し、限定的な救急(戦術的負傷者治療)医療を提供している。
次のレベルは救護所であり、医師助手と正看護師が配置される可能性がある。両者とも、より高度な医学的専門知識を持ち、より多くの医学教育と訓練を必要とする。彼らは、次のレベルの医療を行い、患者を安定させることができる。これらの個人とそれぞれの技能レベルは、AI活用のシステム(AI-enabled system)で働く場合のAI技術者(AI Technicians)とAI機能専門家(AI Functionaries)にほぼ類似している。
最終的に、負傷者は救命のための手術を受けるため、完全な外傷センターに搬送されるかもしれない。このような人たちは、AIの専門家構成員(AI Experts component)に含まれる人たちにほぼ類似している。機能的専門性に対する階層的アプローチは、軍事医学のようないくつかの軍事機能においてすでに存在している。
具体的には、ユーザ、指導者・調達専門家(leaders and acquisitions experts)、技術者(Technicians)、機能専門家(Functionaries)、専門家(Experts)の5つの異なる構成要素からなるAI訓練・教育モデルであり、それぞれの構成要素は、実践的なAI 技術スキル(AI technical skills)と軍事AI対応システム(military AI-enabled systems)との相互作用の範囲において異なっている。
これらの構成要素を組み合わせることで、AIを戦闘に取り入れることが労働力にもたらすあらゆる要求を満たすことができる、強固で実現可能な「AIに対応した労働力(AI-ready workforce)」を実現することができる。表は、AIのスキル・イン・デプス・モデル(AI skills-in-depth model)のさまざまな構成要素をまとめたものである。
戦場にAI活用のシステム(AI-enabled systems)や装備が大量に出現すると予測されることから、ほとんどの軍人がAI活用の技術(AI-enabled technology)と相互作用しなければならない可能性が高く、AI活用の技術(AI-enabled technologies)との相互作用のほとんどはユーザ・レベルで発生することになる[9]。従って、ユーザが自分の装備を信頼し、それを効果的かつ倫理的に使用できるように、AI活用の技術(AI-enabled technologies)の適切な使用方法について労働力を訓練することが必要である。
このような効果を得るためには、この訓練には当然、機械学習のようなシステムを動かす技術のハイレベルなコンセプトについての指導も含まれるはずだ。また、訓練には、技術が正しく機能していないことを検知/特定するスキルも含まれる必要がある。しかし、AI活用の技術(AI-enabled technologies)の誤作動は、かなりの程度、アプリケーションに特化したものとなる(つまり、グーグル・マップが誤作動する理由は、デジタル・カメラの検知モデルとは異なる)。
米陸軍の標準的な実戦配備プロセスの一部である新装備訓練のようなものは、この種のユーザ・レベルの訓練を取り入れるのに適した場所だろう[10]。米国以外の軍隊も同様に、AI活用のシステム(AI-enabled systems)のユーザ向けの訓練を推奨し、その概要を説明している[11]。
一般的に、このレイヤーの訓練は、AIの基本的な知識のみを必要とする。ユーザはそれぞれの分野で実践している。その分野の実践は、AI活用の技術(AI-enabled technologies)を使うことで改善されるかもしれないが、AIの実践的な技術作業は必要ない。
このモデルの次の構成要素は、軍のリーダーと、労働力の調達専門家で構成されている。この教育は、指導者にAI機能とその技術的応用の一部を大局的に理解させ、AIによる解決策(AI solution)が可能な問題を最適に特定することを意味している。AI活用の技術(AI-enabled technologies)を軍事作戦にうまく活用するためには、他の戦闘手段と同様に、軍事指導者もAIに関する十分な知識を有していなければならない。
中級および上級の軍種の学校のカリキュラムにAIに関する教育を導入することで、これを達成できるだろう。米陸軍の軍事インテリジェンス高等研究所(Military Intelligence Center of Excellence)では、すでにこの種の訓練を准尉上級課程(warrant officer advanced course)で先駆けて実施しており、学生たちに機械学習のハイレベルな概要、AI活用のシステム(AI-enabled systems)がうまくいかない場合にどのように見えるか、学生がAI活用の技術(AI-enabled technologies)に出くわす可能性のある軍のインテリジェンス機能について教えている[12]。
課程のインストラクターはまた、AI活用の解決策(AI-enabled solution)によって対処できる可能性のある自身のワークフローの問題を特定し、その解決策(solution)をどのように導入するかを計画するよう学生に課している。統合コミュニティ内部では現在、米国防総省デジタル・人工知能担当室(Chief Digital and Artificial Intelligence Officer :CDAO)が、同様の目標を追求し、上級指導者のAI能力に対する認識を高めることに努める「リードAI」課程を試験的に実施している[13]。
AIが何を提供できるかを知るためにリーダーを訓練し、AIから恩恵を受ける可能性のある機能や役割について考えるよう指導者に課すことで、「AIに対応した軍隊(AI-ready military)」の創設を大幅に早めることができる。
さらに、AI活用の技術(AI-enabled technologies)のデザインと生産は防衛関連企業の領域であり続けるため、調達プロセスに携わる人材がAIの知識を有していることは重要である。
民間のAIの専門家(AI Experts)がAIによる解決策(AI solution)を構築する軍事問題を理解しているとは限らず、軍関係者がAI技術を理解しているとも限らないため、これらの担当者はそのギャップを埋める必要がある。調達担当者が提案されたAIによる解決策(AI solution)を評価し、AIが軍のシステムに適切に組み込まれるようにすることは、軍の健全性にとって不可欠である。
他のコメンテーターは、調達担当者に対するAIの訓練の必要性を指摘しており[14]、最近では、開発段階の軍事プロジェクトに対するAI固有のチェックの概要を示す作業も行われている[15]。AI活用の労働力(AI-enabled workforce)のこのレイヤーは、AIの練習や専門知識から恩恵を受ける可能性があるが、これら2つの労働力機能のどちらも、それぞれの組織機能を遂行するために、これらの人材がAIの実践者(AI practitioners)であることを要求していない。
また、軍の調達担当者におけるプロセスや役割はかなり複雑であり、AIの技術的専門知識に対するニーズは調達業務を行う事業体にわたって大きく異なる可能性が高いことにも留意する必要がある。
例えば、可能性のある新システムのテストや評価に携わる者は、プロジェクト管理や契約に携わる者よりも、よりAI 技術スキル(AI technical skills)を必要とする可能性が高い。このモデルにおける調達の構成要素は、調達のより主要で一般的な機能に適用されることを意図している。
国防総省の統合チームは、2022年8月26日の写真に写っているX-62A可変安定飛行シミュレーター試験機をAIエージェントが操縦し、2022年12月1日から16日までカリフォルニア州エドワーズ空軍基地で高度な戦闘機操縦を行う12回の人工知能飛行試験を実施した(写真:米空軍/カイル・ブレイジャー(Kyle Brasier)) |
AI技術者(AI Technicians)部門は、主にAI活用のシステム(AI-enabled systems)の保守を担当する個人で構成され、機械学習モデルやデータ・パイプラインの保守が必要となる。この保守には、実践的な(専門家レベルではない)AI 技術スキル(AI technical skills)が必要となる。
学生には、モデルの微調整のような機械学習関連のスキルや、クラウド・インスタンスのようなAIイネーブラの実行に関する実地経験(hands-on experience)が必要となる。米陸軍の人工知能統合センター(Artificial Intelligence Integration Center)は、AIクラウド技術者課程の第3版を開始する予定だ[16]。
課程の学生は、Pythonプログラミング、クラウド管理、機械学習モデルの修正に関する基本的なスキルを学ぶ。教室での指導に続いて、理想的にはさらにスキルを磨くことができる利用ツアーを行う。
このプログラムは良いスタートではあるが、こうした技術者プログラムは今後、機械学習モデルの保守やデータのキュレーションなど、AI活用のシステム(AI-enabled systems)の特定の保守機能に焦点を当て、拡大していく必要があるだろう。
米国防総省デジタル・人工知能担当室(CDAO)は、この役割もカバーする「Embed AI(AIを組み込む)」という労働者の原型も強調している(ただし、この役割に関連する訓練はないようだ)[17]。技術者のレイヤーでは、AIの保守面に関する実習を含む教育が必要となる。
AI技術者(AI Technicians)と密接な関係にあるのが、AI機能専門家(AI Functionaries)である。AI活用のシステム(AI-enabled systems)の保守管理では、より大規模で複雑な機械学習業務において、より詳細なスキルが上級職で必要とされることがある[18]。また、特定の部隊や戦場の問題に対して、アドホックでカスタマイズされたデータ・サイエンスやAIによる解決策(AI solution)が必要になることもあるだろう。
第513軍事インテリジェンス旅団(513MIB)のように、部隊の問題に簡単な機械学習の解決策(machine learning solutions)を迅速に提供できる部隊のデータ・サイエンティスト担当官を置くことで、このコンセプトをすでに実験的に導入している部隊もある[19]。このレイヤーでは、学生は前のレイヤーよりも深い実践的な技術スキルだけでなく、AI活用のシステム(AI-enabled system)のより多くの要素にわたる幅広い知識も必要となる。
この種の仕事には、現時点ではより高度な教育プログラムによってのみ授けられる経験的学習が必要だろう。一例として、米陸軍の人工知能統合センターは、AI奨学生プログラムの第2弾を実施している[20]。
米陸軍の中隊グレードの将校(尉官)は、AI関連分野の修士号を取得するために大学院に送られ、その後、人工知能統合センターで利用ツアーを行い、理想的には、スキルをさらに磨き、実践する。米空軍は、空軍アクセラレーター・プログラムで同様の成果を上げている[21]。
このレイヤーでは、労働力はAIの実践的なスキルの幅と深さの両方を必要とするだろう。しかし、軍事組織内でこのレベルのスキルを必要とする相互作用は比較的少ないだろう。
そして、AIにおける専門家-AIの実践に専心し、関連するAI分野で高度な教育と実践経験を積んだ専門家-がいる。彼らの職業は専らAIである。彼らはまた、トップレベルの学位が必要とされることが多いため、教育的観点からだけでなく、実務への時間投資という観点からも、輩出するには非常にコストがかかる。
さらに、こうした人材を本当に育て、保持し、雇用できるようにするには、たとえ基本的なレベルであっても、人工知能に関する国家安全保障委員会の最終報告書で概説され、他の著者も主張しているように、軍はその人員配置方法を大幅に変更しなければならないだろう[22]。
真の専門家を必要とするAI活用の軍事システム(AI-enabled military systems)との相互作用は比較的少ないため、専門家は重要なスキルの練習から外れてしまう可能性がある。これは、そのような専門的スキルへの初期投資と、そのスキルが使用されなくなることによる損失の両方により、コストがかかる。
したがって、専門家は絶対に必要だが、AI活用の戦い(AI-enabled warfare)の需要が高まり、戦場での経験から専門家への投資が必要な場所が明確になるまでは、より少ない専門家をより効果的に活用することを優先すべきである。
軍の意思決定者にとって重要なのは、制服組の中でAIスキルに広く触れることを犠牲にしてまで、最高のAI実践者を確保することに固執しないことである。最後に、他のコメンテーターが指摘しているように[23]、コンポーネント3(米陸軍予備役)部隊のような兵役方法(method of service)は、コンポーネント1(現役兵)のような他の兵役方法(method of service)よりも、軍の労働力としてAIの専門家(AI Experts)を育てるのに適しているかもしれない。
第75イノベーション・コマンド(75IC)は、米陸軍将来コマンド(AFC)に所属するコンポーネント3の部隊で、AIの専門家(AI Experts)を育てるのに適した場所だろう。コンポーネント3の人員のほとんどは民間キャリアも持っており、AI/機械学習を含む科学、技術、工学、数学の分野で既に働いている者もいるかもしれない。
予備役部隊の勤務は、リモート・ワークのようなイネーブラーと組み合わされることで、AIの専門家(AI Experts)がその分野の実務家にとどまる可能性を示しているが、軍部は、AIの専門家(AI Experts)が実際に必要とされるときに彼らを活用する能力を依然として持っている。
米中央軍の2022年イノベーション・オアシスで優勝したシュイラー・ムーア最高技術責任者(左)とミッキー・リーブス陸軍軍曹が、ペンタゴンで人工知能と無人システムに関する記者ブリーフィングを行う(2022年12月7日、ワシントンDC)(DOD/Alexander Kubitza) |
最後に、このモデルには、技術的な実作業に従事する人数や時間という点で、一定の階層が存在しているが、各コンポーネントに必要なスキルは必ずしも重複していない。
例えば、事前に訓練されたモデルを微調整するようなスキルは、AI技術者(AI Technicians)とその上のすべてのコンポーネント(AI機能専門家(AI Functionary)、AIの専門家(AI Expert))に共有されるが、AI採用の戦略的計画策定やプロジェクト管理のような他のスキルは、階層の上位に変換されない。また、モデルに存在する階層は、必ずしも専門知識のレベルを意味するものでもない。
例えば、AI技術者(AI Technicians)はコンピューター・ビジョン・モデルを微調整する専門家かもしれないが、強化学習モデルなどのAIの専門家(AI Expert)は基本的な専門知識しか持っていないかもしれない。一般的に、専門知識やスキルはモデルの階層が上がるにつれて向上するが、必ずしもそうとは限らない。
最後に思うこと:Closing Thoughts
AI活用の労働力(AI-enabled workforce)の実現に向けた組織改革を行うための最良の出発点は、リーダーシップと調達のための教育と訓練から始めることであろう。このレベルの教育はまた、提案されている、あるいは可能性のあるAI活用のシステム(AI-enabled systems)の採用方法に関する現実的な実験演習やウォーゲームと組み合わせるべきである。
この一部は、すでに第18空挺部隊のAI活用の実弾演習(AI-enabled live fire exercises)や米陸軍将来コマンド(AFC)の将来研究プログラムで行われている[24]。さらに、すべてのAI活用の技術(AI-enabled technologies)を「購入」する責任を負う調達担当者にとって、戦闘員のニーズを満たし、軍人が使用・保守できるAI活用のシステム(AI-enabled systems)を入手することは極めて重要である。
その後、AI活用の技術(AI-enabled technologies)が部隊全体に普及し始めると、ユーザ・レベルと保守レベルの訓練を優先することが重要になる。最後に、この記事のほとんどの例は米陸軍の視点からのものであるが、モデルとそれに関連する役割と見解は、一般的にどの軍種にも当てはまるはずである。
軍事における革命(revolution in military affairs)の重要な構成要素は、軍隊が新技術を作戦、訓練、ドクトリン、その他の軍事プロセスにうまく取り入れる能力である[25]。AIの優位性は、それを最もうまく活用できる軍隊にもたらされる[26]。
AI技術の潜在的な画期的価値を実現するために、軍事組織はAI活用の労働力(AI-enabled workforce)の創出に取り組まなければならない。この労働力の創出は、専門知識にこだわったり、AIに関する知識が不足しているためにAIの専門家(AI Experts)に頼るのではなく、軍におけるAIの本質(nature of AI in the military)に基づくべきである。
このようなことから、私はAIのスキル・イン・デプス・モデル(AI skills-in-depth model)を提唱し、AIの専門家(AI Experts)の育成に重点を置くことを減らす。これはコストがかかる上に、一体化したAI用兵(integrated AI warfighting)がまだ完全には実現していないことを考えると、彼らのスキルが萎縮してしまうだけで、大勢が必要とするものではない。AI活用の労働力(AI-enabled workforce)の創出には、AIの専門家(AI Experts)を育成し、AIが戦場で革命的な効果をもたらすことを期待するだけでは不十分なのだ。JFQ
ノート
[1] Final Report (Washington, DC: National Security Commission on Artificial Intelligence, 2021), 119–131, https://www.nscai.gov/wp-content/uploads/2021/03/Full-Report-Digital-1.pdf.
[2] Michael Raska and Richard Bitzinger, “Artificial Intelligence: A Revolution in Military Affairs?” Singapore Defence Technology Summit, June 26–28, 2019, https://www.dsta.gov.sg/docs/default-source/documents/190625_tech-summit-commentary_a-revolution-in-military-affairs.pdf.
[3] Michael Raska and Richard Bitzinger, “Artificial Intelligence: A Revolution in Military Affairs?” Singapore Defence Technology Summit, June 26–28, 2019, https://www.dsta.gov.sg/docs/default-source/documents/190625_tech-summit-commentary_a-revolution-in-military-affairs.pdf.
[4] Diana Gelhaus and Santiago Mutis, The U.S. AI Workforce: Understanding the Supply of AI Talent, CSET Issue Brief (Washington, DC: Center for Security and Emerging Technology, January 2021), https://cset.georgetown.edu/publication/the-u-s-ai-workforce.
[5] Griffiths and Lynch, “How to Build a Well-Rounded AI Workforce”; Joe Chappa, “Trust and Tech: AI Education in the Military,” War on the Rocks, March 2, 2021, https://warontherocks.com/2021/03/trust-and-tech-ai-education-in-the-military.
[6] Marianne Bellotti, “Helping Humans and Computers Fight Together: Military Lessons from Civilian AI,” War on the Rocks, March 15, 2021, https://warontherocks.com/2021/03/helping-humans-and-computers-fight-together-military-lessons-from-civilian-ai.
[7] Veljko Krunic, Succeeding with AI: How to Make AI Work for Your Business (New York: Manning, 2020).
[8] D. Sculley et al., “Hidden Technical Debt in Machine Learning Systems,” Conference and Workshop on Neural Information Processing Systems, 2015, https://proceedings.neurips.cc/paper/2015/file/86df7dcfd896fcaf2674f757a2463eba-Paper.pdf.
[9] Zachary S. Davis, Artificial Intelligence on the Battlefield: An Initial Survey of Potential Implications for Deterrence, Stability, and Strategic Surprise (Livermore, CA: Center for Global Security Research, Lawrence Livermore National Laboratory, 2019), https://cgsr.llnl.gov/content/assets/docs/CGSR-AI_BattlefieldWEB.pdf.
[10] Keith Jordan, “All Together Now,” U.S. Army, August 20, 2014, https://www.army.mil/article/132125/all_together_now.
[11] Marigold Black et al., Supporting the Royal Australian Navy’s Campaign Plan for Robotics and Autonomous Systems: Human-Machine Teaming and the Future Workforce (Canberra: RAND Australia, 2022), chap. 3, https://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/research_reports/RRA1300/RRA1377-2/RAND_RRA1377-2.pdf.
[12] Eric Holder, email correspondence with author, July 2021.
[13] DOD AI Education Strategy: Cultivating an AI Ready Force to Accelerate Adoption (Washington, DC: Joint Artificial Intelligence Center, 2020), https://www.ai.mil/docs/2020_DoD_AI_Training_and_Education_Strategy_and_Infographic_10_27_20.pdf.
[14] Griffiths and Lynch, “How to Build a Well-Rounded AI Workforce.”
[15] Bruce Nagy, “Tips for CDRLs/Requirements When Acquiring/Developing AI-Enabled Systems,” Proceedings of the Nineteenth Annual Acquisition Research Symposium, May 2, 2022, https://dair.nps.edu/bitstream/123456789/4587/1/SYM-AM-22-074.pdf.
[16] Army Futures Command, “Recruiting Window Now Open for Next AFC Software Factory, Cloud Technician Cohorts,” U.S. Army, June 7, 2021, https://www.army.mil/article/247292/recruiting_window_now_open_for_next_afc_software_factory_cloud_technician_cohorts.
[17] DOD AI Education Strategy.
[18] Harshit Tyagi, “What Is MLOps—Everything You Must Know to Get Started,” Towards Data Science, March 25, 2021, https://towardsdatascience.com/what-is-mlops-everything-you-must-know-to-get-started-523f2d0b8bd8.
[19] Alexandra Farr and Bre Washburn, email correspondence with author, February 2022.
[20] “CMU Partners with U.S. Army To Grow Data Science and AI Expertise,” Carnegie Mellon University, September 1, 2020, https://www.cmu.edu/news/stories/archives/2020/september/army-partners-grow-data-science.html.
[21] “DAF-MIT AI Accelerator,” Department of the Air Force and Massachusetts Institute of Technology, 2023, https://aia.mit.edu.
[22] Final Report, 119–131.
[23] Griffiths and Lynch, “How to Build a Well-Rounded AI Workforce.”
[24] Dan Roper, “Special Edition: Army Future Study Program,” interview with Stephanie Ahern and Jean Vettel, Association of the United States Army’s Army Matters podcast, March 29, 2021, https://podcast.ausa.org/e/special-edition-army-future-study-program.
[25] Williamson Murray and Macgregor Knox, “Thinking About Revolutions in Warfare,” in The Dynamics of Military Revolution, 1300–2050, ed. MacGregor Knox and Williamson Murray (Cambridge: Cambridge University Press, 2001), 175–194.
[26] Paul Scharre, Robotics on the Battlefield—Part 1: Range, Persistence, and Daring (Washington, DC: Center for a New American Security, May 2014), https://www.jstor.org/stable/resrep06404.