適応の戦争-エグゼクティブ・サマリー (www.scsp.ai)

2月28日の米国とイスラエルによるイランへの攻撃に始まった戦争は、終わりが見えない。イランによるドローンを含む無人機による攻撃に対処するためにウクライナの対ドローン対応で蓄積されたノウハウを米国などが必要としているといった話題も聞かれる。イランによるドローンも相手の防空システムを搔い潜って侵入しているとの報道もある。

今回は、豪陸軍の退役少将のミック・ライアン(Mick Ryan)氏がSpecial Competitive Studies Project (scsp)のHomepageに2025年11月に掲載の論稿「Adaptation War」を紹介する。「ロシア、イラン、中国、北朝鮮といった権威主義国家の間で、現在、学習・適応ブロックが形成されつつある」とし、そこから学び西側、特に米国として対応すべきことを提言しているものである。

現代戦は、戦いの勝敗を決める決定要因が、戦力規模や戦争当初に装備している兵器ではなく、“変化への対応速度”に移ったと云われている。軍事における科学・技術の役割が、次の戦争で勝つための準備をするというものだけでなく、日々進展する戦いの変化に遅れることなく、更に相手を上回る速度での対応に必須の役割を担うようになったともいえるものである。技術的適応が決め手になっているとも言える。

「Adaptation(適応)」という言葉が当てはまる要素には、単に、科学・技術に限らない多くの要素がある。軍事組織が適応できる能力を育み高めていくためには何が必要なのかを考える一助となる論稿である。長文のためいくつかに分けて投稿する。(軍治)

適応の戦争

新たな敵対者の学習・適応のブロックとの対決

Adaptation War

Confronting the New Adversary Learning and Adaptation Bloc

Major General Mick Ryan, AM(RET.)

November 2025

著者略歴

ミック・ライアン(Mick Ryan)はオーストラリア陸軍に35年間在籍し、分隊、中隊、連隊、タスク部隊、旅団の各レベルで指揮を執った。東ティモール、イラク、アフガニスタンでの任務経験を持つ。2022年以降、ミックは3冊の著書を出版している。『変容する戦争(War Transformed)』(2022年)、『白日の戦争:台湾への戦役(White Sun War: The Campaign for Taiwan)』(2023年)、そして『ウクライナをめぐる戦争:砲火の下での戦略と適応(The War for Ukraine: Strategy and Adaptation Under Fire)』(2024年)である。

ミック(Mick)は、米国のドローン企業スカイディオ(Skydio)、ワシントンD.C.を拠点とするスペシャル・コンペティティブ・スタディーズ・プロジェクト(Special Competitive Studies Project)、オーストラリアの防衛ベンチャーキャピタル企業ビーテン・ゾーン(Beaten Zone)、ユーティル・フィクション(Useful Fiction)社、そして英国を拠点とするジェーンズ(Janes)など、複数の企業や組織の戦略アドバイザーを務めている。また、シドニーのローウィー研究所(Lowy Institute)では初代軍事研究上級研究員を、ワシントンD.C.の戦略国際問題研究所(CSIS)では客員研究員を務めている。

戦闘中に部隊が適応しなければならないという要件は、戦争の本質に内在している。

フランク・ホフマン(Frank Hoffman)著「火星への適応(Mars Adapting)」

中国、ロシア、イラン、北朝鮮の協力関係は近年急速に拡大しており、各国が個別に脅威を増大させると同時に、米国の世界的な強さや国力にも新たな課題をもたらしている。

米国インテリジェンス・コミュニティ年次脅威評価、2025年3月

エグゼクティブ・サマリー

はじめに
第1部:適応の戦争の理解
第2部:適応の戦争の構成要素
構成要素その1:戦術的学習と適応
構成要素その2:戦略的適応
間奏:戦術的・戦略的な適応は、ウクライナとロシアの軍事効果を向上させたのか?
構成要素その3:国際的学習と国際的適応
第3部:軍事学習における課題
第4部:現代の適応の戦争の特徴
第5部:調査結果と提言
結論
エビローグ

エグゼクティブ・サマリー

過去3年間、ウクライナとロシアは学び、適応してきた。また、双方は「学び方を学び(learned to learn」、得られた教訓を軍事・産業システムにますます迅速に取り入れるようになった。ウクライナ戦争によって生み出され、中東の戦争からも影響を受けたこの「学習(learning)と適応(adaptation)」のエコシステムは、今や国際的な学習・適応競争へと発展している。

新たな敵対者の学習・適応ブロック(adversary learning and adaptation bloc)が出現した。正式な同盟関係ではないものの、中国、ロシア、イラン、北朝鮮は、さまざまな合意や戦略的パートナーシップの網を築き上げ、これらの権威主義体制が21世紀の戦略的競争と紛争に関する相互連携した知識市場を構築することを可能にした。この知識市場への貢献者は、それぞれが自らの目的のためにそこから情報を引き出すことができる。

敵対者の学習・適応ブロック(adversary learning and adaptation bloc)に属する諸国間の関係について理解を深めることは、異なる国々間の知識の流動に関する洞察をもたらす。しかし、ロシアとイランの間、およびロシアと中国の間におけるこうした連携の性質は、同時に、そうした関係が抱える限界も浮き彫りにする[1]。その結果、そうした関係を弱体化させるための戦略を構築することが可能となる。本報告書では、こうした戦略の策定を支援するため、いくつかの重要な調査結果を提示するとともに、それらに対処するための提言を併せて示している。

調査結果その1ウクライナとロシアは、過去3年間でより迅速に学び方を学び(learned to learn、その教訓を軍や産業システムにますます速いペースで浸透させる術を身につけた。この「適応の会戦(adaptation battle)」は、組織的・ドクトリン的な側面だけでなく、技術的な側面も有している。ウクライナとロシアの学習と適応の有効性は、軍やその他の政府機関に学習・適応の文化が存在することに支えられている。

提言事項国防総省(Department of War)は、適応を組織文化の不可欠な要素として取り入れる必要がある。上級指導者は、継続的な学習への意欲とリソースを与えられ、迅速に適応できる人材やチームを育成すべきである[2]。こうした文化は、リスクや新しいアイデアに対する指導部の許容度を明確に示すことから始まる。指導者が、分散化されながらも連携のとれた適応を積極的に推進するためには、適切な権限の付与が不可欠である。

提言事項国防総省(Department of War)は、ウクライナやロシアをはじめとする各国の軍事組織が、いかにして「学び方(how to learn)」を習得してきたかについて、より一層の調査・研究に投資すべきである。これには、防衛産業における学習や、そうした教訓が軍事分野とどのように関連しているかについても含まれる。

調査結果その2ウクライナや中東における学習と適応は、国際的な学習・適応競争へと発展した。新たな敵対者の学習・適応ブロック(adversary learning and adaptation bloc)が出現した。このブロックの構成国の一つが学習すれば、他のすべての国も学習できる。

提言事項米国とそのパートナー国は、敵対者の学習・適応ブロック(adversary learning and adaptation bloc)における脆弱な要素をターゲットとし、協力して敵対者の学習・適応ブロック(adversary learning and adaptation bloc)に対抗し、それを上回るよう取り組むべきである。そのアプローチにおいては、自国の軍事組織の活動から得る学習と、海外の戦争や演習から得る学習とのバランスを保つ必要がある。

提言事項NATOの「統合分析・教訓学習センター」に相当するインド太平洋版機関を設立し、教訓の迅速な普及(dissemination)を図るため、同センターをインド太平洋軍司令官および国防総省(Department of War)と連携させるべきである。国防総省(Department of War)は、ウクライナ戦争から得られた教訓を太平洋およびその他の戦域における軍事作戦に適応させるため、その転換メカニズムを構築すべきである。

提言事項米国とその同盟国は、さまざまな権威主義国家間の関係についてより深い理解を深め、各国間の知識の交流が、各国の軍事的能力にどのような影響を与えているか、あるいは与えていないかをより的確に把握すべきである。ロシアとイランの間、およびロシアと中国の間におけるこうした結びつきの本質をより深く理解することは、そうした関係が持つ限界についても洞察をもたらすだろう。

調査結果その3西側諸国がこの新たな「適応の戦争」を認識する動きが遅れているため、組織が問題を認識し、解決策を特定してから、その解決策を構成する技術的、コンセプト的、組織的な要素が普及(disseminated)そして実装(implemented)されるまでの間に、依然として時間的なギャップが生じている。

提言事項国防総省(Department of War)における学習と適応の取り組みは、指導者がイノベーションに対してより積極的にリスクを取るよう促すことで、新技術の登場と戦場での実用化との間のギャップを埋めることに重点を置くべきである。そのためには、学習と適応の重要な要素である「失敗に対する組織的な許容度」を高める必要がある。

提言事項新技術の登場と軍事機関(military institutions)によるその適応との間のギャップを迅速に埋める上で、指導者の選抜は極めて重要な役割を果たす。すべての軍事指導者の選抜にあたっては、そのリスク許容度や、部下の学習とイノベーションをいかに促進するかを評価すべきである。各軍種の参謀長および統合参謀本部の上級指導者は、許容される失敗の範囲を明確に定義し、あらゆるレベルの指導者は、部下の学習と適応を可能にするためにリスクを許容する姿勢を明確に表明しなければならない[3]

調査結果その4民間および軍事の情報源から情報を収集し、最も重要な洞察の分析を優先する新たな技術は、敵対者の学習と適応をより深く理解し、米国の学習と適応を向上させる可能性を秘めている。

提言事項真の学習とは、その普及の速度や浸透の深さと同じくらい、多様な情報源からの洞察を統合することにある。国防総省(Department of War)は、学習と適応を支援するため、戦略的・作戦的機能向けにカスタマイズされた分析用AIを導入すべきである。AIは、断片化した学習プロセスを統合し、分析を加速させ、軍隊の適応や戦略的意思決定のスピードと質を向上させるのに役立つ。米国は、集団安全保障活動や連合軍による用兵作戦(warfighting operations)の恩恵を引き続き享受するため、自らの学習と適応、およびそれを支えるプロセスや技術を共有すべきである。

調査結果その5平時、戦時への移行期、そして戦時対応の各段階では、求められるリーダーシップの要件がそれぞれ微妙に異なり、異なる考え方、即応性(readiness)、および戦力態勢(force posture)設定が必要となる。

提言事項各適応タイプの要件は、国防総省(Department of War)の「教訓の活用」機能に組み込まれるべきである。これら3つの適応タイプはそれぞれ、学習と適応のために、軍種レベル、国家レベル、国際レベルにおいて、異なる制度的枠組みとリーダーシップの哲学を必要とする。

2018年の『国家防衛戦略(National Defense Strategy)』では、「徹底性を追求し、何よりもリスクの最小化を重視する現在の官僚的なアプローチは、ますます状況への対応力が低下していることが明らかになっている」と述べられている[4]。こうした組織的な機敏性(agility)の欠如がもたらす戦略的脅威は、敵対者の学習・適応ブロック(adversary learning and adaptation bloc)によってさらに増幅されている。米国は現在、権威主義的な勢力との間で、激しく長期にわたる「適応の戦争」を繰り広げている。

米国国防総省(Department of War)をはじめとする西側諸国は、新たに形成された敵対者の学習・適応ブロック(adversary learning and adaptation bloc)に対抗するため、戦略、軍事、経済、情報の各分野にわたる教訓共有の既存の仕組みを強化することが急務である。

ノート

[1] アンドラーシュ・ラッツ(András Rácz)、アリナ・フリツェンコ(Alina Hrytsenko)著「同盟には至らないパートナーシップ:ロシアと中国の軍事協力」、欧州政策分析センター(CEPA、2025年6月16日、https://CEPA.org/comprehensive-reports/partnership-short-of-alliance-military-cooperation-between-russia-and-china/

[2] こうした上級幹部による提言は、組織としての学習と改革を成功させる上で不可欠な要素の一つである。ベトナム戦争後の米陸軍における大規模な変革に関する有益な事例研究については、ドン・スターリー(Don Starry)著「軍隊を変える(To Change an Army)」(Military Review1983年3月号、20-27ページ)を参照されたい。

[3] こうした上級幹部による提言は、組織としての学習と改革を成功させる上で不可欠な要素の一つである。ベトナム戦争後の米陸軍における大規模な変革に関する有益な事例研究については、ドン・スターリー(Don Starry)著「軍隊を変える(To Change an Army)」(Military Review1983年3月号、20-27ページ)を参照されたい。

[4] 米国国防総省、「2019年米国国防戦略の概要」、2018年、10ページ。