米空軍のF-15EXがF-15型機の将来なのか

米国防省が3月に発表した2020年度予算要求案では、F-15EX戦闘機8機の調達費として10億5000万ドルを計上。
2020年度から2024年度までの5年間で80機を調達する方針を発表[1]した。
米空軍では、F-35型機の調達への影響は無いとしていますが、F-35型機の調達・維持コストの問題も含めて資金を巡る攻防が続いているようです。

2014年に出た米議会報告[2]「US-China Economic and Security Review Commission」の「Chapter 2; Section 2 China’s Military Modernization」では、中国の技術進歩が急速で米優位性が1980年代と比べると急速にその幅を減らしていると指摘し、「1980年代にはF-15は中国機に大きく優位性を有していたが、J–10, J–11, JH–7, Su-27, Su-30などの第4世代戦闘機への機種更新が進んだことにより、台湾海峡および尖閣諸島等での対処能力は、その支援能力を踏まえて日米等の戦力を凌駕する可能性」を指摘し、これらへの対応が急務であると指摘していました。
当時の記事[3]では、米空軍のF-15型機は、電子戦、超高速コンピューター、赤外線捜索追尾システム、ネットワーク能力の強化、火器管制能力の向上を目指しており、まず2021年にF-15CへAESAレーダー搭載が完了し、2032年にEW(電子戦)装備更新が終わると空軍とボーイング関係者が説明していました。

現在、国際共同開発されたF-35型機の導入が各国で進んでいますが、日本の主力戦闘機のF-15型機の今後についてもこれまで各種の検討が進められてきているようです。
平成29年度の防衛予算では、F-15型機の米国での状況を調査する調査費が計上され、F-15の延命策とその能力の向上策を改めて検討することとなった[4]としており、航空自衛隊の中期計画に何らかの項目が計上されるものと考えられていました。
今のところ、具体的な項目は上がってきていないようですが、200機に上る第4代戦闘機のF-15の取り扱いについては、航空機の減勢管理等を考えると、F-35型機の増加取得のみでは対応が難しいのではと考えられます。

Airforce Magazieの5月号にこの問題を考える上で興味ある記事[5]が出ています。
今後の第4世代戦闘機である我が国のF-15型機の将来を考える上で参考になるのでは無いでしょうか。以下記事を紹介します。

F-15EX vs. F-35A  MAY 2019 JOHN A. TIRPAK  EDITORIAL DIRECTOR

 Two jets from different eras, with different missions, strengths, and weaknesses, face off in a battle for today’s funds.
世代の違う2つの戦闘機、異なる任務、強さと弱点、今日の資金を巡る戦いに直面

F-35ライトニングは、F-22ラプター計画が早々に終了した2009年以来、空軍の唯一の新戦闘機の計画であった。
スケジュールに遅れはあるものの、この計画は10年以上にわたって空軍の最優先課題であり、最近まで未決定の将来戦闘機が始まるまで、米空軍の唯一の戦闘機プログラムであり続けると期待されていた。

今、F-35型機は、旧タイプの戦闘機設計F-15ストライクイーグル(前時代からの航空機で、異なる任務のために製造された)の派生形からの新たな挑戦に直面している。
空軍はそれを否定しているが、2つの戦闘機は軍の戦闘機のポートフォリオの中で必然的に限られた予算のなかで競争している。
空軍の2020年度の予算要求には、計画された144機のF-15EX型航空機の最初の8機を購入するための11億ドルが含まれている。

新しい飛行機は、現在カタール向けに製造されているバージョンと非常によく似ている。
F-15EX型機は1人か2人の飛行士によって飛行することができる2人乗りの戦闘機で、耐用年数の終わりに近づいているF-15CとDを置き換えることを意図している。
計画では、空軍は2022年に2機、2023年に6機、そして今後5年間で合計80機のF-15EX型航空機を受け取ることになっている。
これとは別に、2020年の予算要求には、既存のF-15型機をアップグレードするための9億4,900万ドルも含まれている。

新しいF-15型機を追加することは空軍の考えでは無かったが、国防総省の費用とプログラム評価室(CAPE)から考え出され、そして元国防長官ジェームズ・マティスによって承認されたものだ。
空軍の長きにわたるスタンスは第5世代戦闘機技術にのみ投資することであったが、F-15C型機の飛行部隊の老朽化とF-35型機の調達ペースが遅いことを考え、戦闘機能力を維持する方法として新しいF-15型機を購入する計画を主張している。
空軍はF-15EX型機を購入する事が1,763機のF-35を建造する要求を減らすことにならないと譲っていないが、歴史と空軍自身の予算要求はそうでないことを示唆している。
2020年の予算提出は、空軍が去年の計画と比較して今後5年間で24機少ないF-35型機を購入することとなっている。


An Advanced F-15 during system and flight control testing in Palmdale, Calif.  Photo: Boeing
カリフォルニア州パームデールでのシステムおよび飛行制御試験中のAdvanced F-15:写真Boeing

F-15EX型機の導入開始は、現在のF-15C型機の耐用年数と状態による。
F-15C型機は制空戦闘機として設計され、1970年代に最初に就役したが、そろそろ引退する予定だった。
しかし、186機の調達しかなかったF-22型機の早すぎる計画終了(計画生産量の半分以下)は、空軍にF-15型機の就役を延長することを強いた。
現在、主要な構造部材は設計された耐用年数の終わりを迎えており、そのため、今日では多くのF-15Cがかなりの速度及びG荷重の制限下で運用しなければならない。

F-15EX型機に対する空軍の主張は、戦闘能力の維持を有効にするものだ。
F-15C型機は、新しいF-35型機が稼働するよりも早く寿命が来るので、同時に利用可能な戦闘部隊が減ると、国家安全保障戦略で求められる62個飛行部隊のうちの7個飛行部隊が不足すると空軍は主張している。
米空軍は、F-15EX型機は本質的に量産中の航空機であると主張している。
それはすでに米空軍で就役中のF-15C及びF-15E型機と70%以上の部品の共通性を持ち、現在使用中のイーグルとほぼ同じ地上設備、格納庫、シミュレーターおよび他の支援器材を使用することができる。
F-35型機とほぼ同等の単価では、F-15飛行隊は数週間でF-15EXに移行することができるが、パイロット、整備、設備および機器をF-35に変換するには何ヶ月もかかると空軍は言う。
しかし、F-15EX型機はF-35型機とF-22型機のステルス特性とセンサーフュージョンを欠いている第4世代の航空機であり、それゆえ現代の防空戦にはそれほど生存できないだろう。
米空軍は、2028年は戦闘機が争う敵の空域の近くで運用することができるものがおそらく最新のものであると言った。
CAPEと空軍当局者は、本土と空軍基地の防衛、防空が制限されているか存在していない飛行禁止区域の維持、および離れた地域への弾薬の提供において、F-15EX型機は実行可能な任務を続けていくだろうと言っている。

空軍は2001年以来「新規に旧型の」戦闘機を購入しないこと、そして全第5世代の部隊にできるだけ早く移行する必要があると主張してきたが、提案者はF-15型機とF-35型機を同時に購入すると、戦闘機のギャップをより早く埋めることができると主張している。
そのうえ、新しいF-15型機の購入を擁護する米空軍指導者たちは、F-35型機が宣伝されたコスト(F-16に匹敵する、1時間あたり約2万ドル)で維持できることを証明していないとし、軍は、Block 4バージョンが2020年代半ばに組立ラインからのロールオフを開始した後に、航空機の大量購入を待つ方を選択したいと語った。
彼らの言うこのアプローチは、F-35型機の初期のバージョンをブロック4形態に更新するために多額の経費を費やすことを回避する事になるだろう。


An F-35 performs a weapons bay door pass during Demonstration Team training over Luke AFB, Ariz.  Photo: SrA. Alexander Cook
アリゾナ州ルークAFB、デモチームの訓練中にF-35がウエポンベイドアの変化を見せる。写真SrA。

空軍が新しいF-15型機の購入を検討したのは今回が初めてではないが、F-15EX型機は以前にジェット機メーカーのボーイングが提案していたアップグレードモデルと同じではない。
最新の提案では、大規模な開発作業が必要だった。
2009年、ボーイングはF-15「Silent Eagle」を提案した。それはステルス特性を加えるというものであった。そのジェット機は、コンフォーマルステーションで内部に武器を保有し、レーダー特性を減らすために傾斜した垂直フィンと表面処理を備えているというものであった。
ボーイングは昨年、別のコンセプト、「AdvancedF-15型機またはF-15 2040C型機」を提案した。
そのジェット機は実質的に増加したペイロードと先進のアビオを保有させるというものであった。
それよりも、F-15EX型機はほとんど新しい開発を必要とせず、非常に迅速にテストプログラムを実行することができ、そして最小限の追加開発ですむというものである。

空軍当局者は、F-15EX型機のための1つの潜在的な任務は、極超音速ミサイルのような「特大」の弾薬を実行することやF-22と共同して働く可能性のある孤立した武器弾倉として運用するものであるだろとしている。
F-35とF-15EXは異なるミッションのために異なる時代に設計された。
F-15C型機はステルス以前の時代における空軍の航空優勢のために設計され:F-35型機は戦場でのステルス攻撃を実行し敵の戦闘機を狙い撃ちしながら、敵ラインの後ろから膨大な量の情報を集める「クォーターバック」である。
それでも、議会が将来の航空機への投資方法を決定するとき、2つの飛行機が資源を奪い合うので比較は必要である。
(黒豆芝)


[1] https://trafficnews.jp/post/85525

[2] 「Chapter 2; Section 2 China’s Military Modernization.pdf」http://www.uscc.gov/Annual_Reports/2014-annual-report-congress

[3] 「Air Force Begins Massive High-Tech F-15 Upgrade to Stay in Front of Chinese J-10」 http://www.scout.com/military/warrior/story/1697094-air-force-massive-high-tech-f-15-upgrade

[4] 日経8.21 http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS20H0J_Q6A820C1PE8000/

[5] 「F-15EX vs. F-35A」MAY 2019 JOHN A. TIRPAK  EDITORIAL DIRECTOR

http://www.airforcemag.com/MagazineArchive/Pages/2019/May%202019/F-15EX-vs-F-35A-.aspx