「術(art)」という用語 (Military Review)
作戦術に関してはMILTERMではいくつか投稿してきているところである。ここで紹介するのは「作戦術」に関するMilitary Reviewの2023年の記事である。冒頭に「用語の起源を歴史的に概観するのではなく、現在の統合部隊の定義の問題点を論じ、解決策を提示し、現代の課題に備えるために統合部隊が作戦術をより明確に定義する必要がある理由を概説」したものであり、昨今、分散化した戦いを求められるようにますます戦いの様相が変化する中で「作戦術」を理解する時の参考となるものと考える。(軍治)
「術(art)」という用語
統合ドクトリンが作戦術について誤っている点とその重要性
Term of Art
What Joint Doctrine Gets Wrong about Operational Art and Why It Matters
March-April 2023, Military Review
Maj. Rick Chersicla, U.S. Army
著者:リック・チェルシクラ(Rick Chersicla)米陸軍少佐は、ドイツのシュトゥットガルトで統合計画担当を務めるFA59(戦略家特技)である。フォーダム大学で学士号、ジョージタウン大学で修士号、高等軍事研究大学院(SAMS)で修士号を取得。
![]() 2022年3月22日、テキサス州フォートフッドにあるファントム・ウォーリアー・センターで開かれた同司令部の春の任務計画策定会議で、ブリーフィングを行う統合タスク部隊「民間支援」(JTF-CS)将来作戦セルに配属されたクリストファー・コリアー(Christopher Colyer)少佐。このイベントは、JTF-CSの主要ミッション・パートナー間の任務理解と相互運用性を高めるために開催された。 (写真:バリー・ライリー(Barry Riley)米海軍マスコミ担当特技兵) |
作戦術(operational art)は、軍事用語の中で最も論争が多い用語の一つである。作戦術ほど、ドクトリン上の定義が揺れ動き、さまざまな意味を持つものはない。計画担当者にとって残念なことに、現在の統合ドクトリンは、この用語を過度に複雑化し、統合部隊に限られた有用性と何の洞察も与えない中途半端な定義を提示している。
これは、ドクトリンにこだわる者にとって単なる文法上の些細な問題ではない。21世紀の「ほぼ対等な紛争(near-peer conflict)」において、作戦術の混乱した、あるいは不明確な定義は、統合部隊にとって災難となる可能性がある。なぜなら、将来の戦場では、作戦術の専門的な適用を必要とする(necessitate)ような分散型の作戦(distributed operations)が展開される可能性が高いからだ。本稿では、この用語の起源を歴史的に概観するのではなく、現在の統合部隊の定義の問題点を論じ、解決策を提示し、現代の課題に備えるために統合部隊が作戦術をより明確に定義する必要がある理由を概説する。
問題の解決
2020年版統合出版物5-0「統合計画策定(Joint Planning)」では、作戦術(operational art)を「指揮官と参謀が、その技能、知識、専門性、創造性、判断力に支えられ、最終目的(ends)、方法(ways)、手段(means)、リスク(risks)を統合して軍事力を組織し運用するための戦略、戦役、作戦を策定する認知的アプローチ[1]」と定義している。この定義には2つの問題点がある。
第一に、多くのドクトリン用語(一般的なものではあるが)の原罪である言葉が多すぎる。第二に、第2項を削除したとしても、作戦術と、戦略で一般的に広く受け入れられている最終目的(ends)、方法(ways)、手段(means)の定式化を混同した空虚な定義である[2]。統合部隊は、米陸軍の2016年版米陸軍ドクトリン公刊物3-0「作戦(Operations)」、またはその変形版で提示されている定義に戻る方がよいだろう。2016年版では、作戦術を「時間、空間、目的における戦術行動の配置を通じて、全体的または部分的に戦略的目標を追求すること[3]」と簡潔に定義している。
良いこと、悪いこと、そして醜いこと
現在の作戦術(operational art)の定義には、たしかに良い部分もある。作戦術を「認知的アプローチ(cognitive approach)」と表現することで、少なくともそれを思考の方法(a way of thinking)として枠組みづけることができる。認知的アプローチとしての作戦術は、戦争の性質の変化により、必然的に生まれたものである。作戦術の起源は決定的な会戦の時代の終わりにある。ナポレオン以降、会戦の範囲と規模により、単一の決定的な会戦で戦争の帰結を決定づけることができなくなった[4]。
戦いが「単一(single point)」の戦争から脱却するにつれて、会戦はより大きな全体の一部とみなされるようになり、会戦を戦役として組織するための新しい思考の方法(a new way of thinking)が必要となった[5]。現代の作戦術は、全体的な戦略的狙い(strategic aim)を達成するために、会戦や戦術的行動を、目的をもって戦役にアレンジする認知活動(cognitive activity)として誕生した[6]。
現在の過度に広範なドクトリン上の定義に間違いなく影響され、作戦術の誤った解釈が蔓延している。作戦術は戦争のレベルではないし、「戦いのすべて(entirety of warfare)」でもない[7]。作戦術を「思考の方法(a way of thinking)」と定義することで、作戦術は作曲に類似した活動と考えることができる。作戦術家(operational artist)は、作曲家が交響曲をアレンジするように、より広範な戦略的目的のために戦術的行動をアレンジする[8]。
同期されていないセクションで演奏された個々の音は、個別には耳に心地よいかもしれないが、全体としては支離滅裂で混沌とした、目的のないノイズになる。作曲家は、時間やテンポの変化、楽器同士の相互作用などを意識しながら、それらを時間と空間の中でアレンジして曲を作り上げなければならない。作戦術は方法論として捉えられるものの、規範的なプロセスではない。むしろ、「戦略的推論と戦術的推論のバランスをとる精神的な相互作用」である[9]。
作戦術は戦略とは別物であり、独立した定義空間を必要とする。したがって、「最終目的(ends)、方法(ways)、手段(means)」への言及は、作戦術を論じる際に混乱を招くだけである。このおなじみの三要素はすでに、リッケ戦略策定モデルと関連付けられているからである[10]。その代わり、作戦術は戦略の「召使い(servant)」であり、戦略的狙いの達成を助ける戦役を構築することによって戦略を可能にする[11]。戦略は作戦術よりも広い視野を持ち、「政策の最終目的(ends)を達成するための軍事的手段」の分配と適用を、より広く、潜在的には複数の戦域にわたって検討する[12]。作戦術は最終的に戦略に貢献するものであるため、戦役の戦略的目的は作戦術家(operational artist)の「道しるべとなる星(lodestar)」である。
より良い定義が重要な理由
作戦術(operational art)をより明確に定義する必要性は、ドクトリン上の出版物を明確にするだけではない。むしろ、戦争の将来的な性質、すなわち近代的な分散型作戦において予想される変化は、作戦術の明確な定義と、それに対するより深い理解を必要とする。
2016年の米陸軍の定義を使用し、作戦術の中心が戦略的最終目的(strategic ends)を達成するための「時間、空間、目的における戦術的行動の配置」であることを強調することで、ジェームズ・シュナイダーが作戦術の定義的特徴であると呼んだ「縦深の分散型作戦における部隊の運用」について、計画担当者や戦略家の方向性をより明確にすることができる[13]。
分散型作戦は、あらゆるドメインで、戦争の性質における次の進化を定義づける特徴になる可能性が高い。シナリオベースのウォーゲームで確認されているように、艦船や航空機やその他の部隊の戦闘力は、敵対者が保有することが知られている近代兵器の種類を考えると、互いに強化し合うために集まった場合には特に脆弱である[14]。量(mass)は長い間戦争の原則(a principle of war)であり、現代の部隊は戦闘力の効果を集中させるために必ずしも物理的に集まる必要はないが、軍事部隊は歴史的に闘うために物理的に集中する傾向がある。
しかし、統合部隊が集約され、敵が近代的な長距離火力、センサー、ネットワーク化されたシステムを持っていれば、部隊が脆弱になるのは当然である。防護のためには、部隊を分散させる必要がある。なぜなら、遍在するセンサーによって部分的に定義される将来の戦場では、部隊を集結させることは文字通り、そして比喩的に行き止まりになるからである。
分散が進むと、個々の戦果を累積的な作戦効果として登録するために、時間的、空間的、目的的にバラバラの戦術行動を同期させる必要性が高まる。
戦争の性質の変化を予測することに加えて、作戦術の定義を改訂し簡素化することで、統合部隊として闘うための準備がより良くなるだろう。統合ドクトリンは、すべての軍種の計画担当者が共通の言語で話せるようにする「基本原則(fundamental principles)」で構成されており、「統合作戦を計画し実行する上での権威ある指針を提供する」ものである[15]。不正確な定義は、真の意味を理解できない空虚なコンセプトを生み出す。
作戦術のような重要なものについては、定義が不明確だと、戦術的行動がより大きな政治的目的を達成する戦役に向かって構築されない場合、深刻な影響を及ぼしかねない。作戦術は、戦争の目的、すなわち戦略的狙い(strategic aim)のために、会戦を戦役として組織する[16]。単一の会戦では戦争に勝てなくなった今、作戦術は、戦略的到達目標(strategic goals)を達成する戦役をデザインする上で、戦術と戦略の認知的橋渡しの役割を果たすことが求められている。
![]() 2022年3月22日、テキサス州フォートフッドにあるファントム・ウォーリアー・センターで開催された同司令部の春の任務計画策定会議で、冒頭のあいさつをする統合タスク部隊「民間支援」(JTF-CS)のマイケル・コリンズ(Michael Collins)副司令官。このイベントは、JTF-CSの主要ミッション・パートナー間のミッション理解と相互運用性を高めるために開催された。 (写真:バリー・ライリー(Barry Riley)米海軍マスコミ担当特技兵) |
作戦術を定義し理解することは、作戦術の要素を確実に同期させるための第一歩である。太平洋やヨーロッパでの紛争を想定した場合、米国やおそらく同盟国やパートナー国の部隊は、作戦可能範囲(operational reach)が課題となるような長距離を横断して闘う必要があると言っても過言ではない。作戦可能範囲(operational reach)への課題は作戦のテンポに影響し、その逆もまた然りであり、それが作戦到達点(culmination)に影響する。もし、この用語の包括的な定義が、その概念が何を意図しているのかを計画担当者に明らかにしないのであれば、計画担当者はどのように作戦術の要素を統合すればよいのだろうか。答えは簡単である。統合部隊として、「作戦術(operational art)」という言葉を簡潔に定義できなければ、計画担当者に作戦術に精通していることを期待することはできない。
結論
米陸軍の2016年の定義は、現行の統合定義にはない方法で、作戦術(operational art)が何をなすべきかを計画担当者に伝えている。作戦術は戦術行動の「アレンジメント」と説明される。つまり、戦術行動は作戦術の構成要素であり、作戦術家(operational artist)は戦略目標に向かう道筋を構築するためにそれらの構成要素を利用するのである。戦術が時間的にも空間的にも限定され、会戦の結果に関わるものであるのに対し、作戦術は、より大きな目的のためにそれらの出来事をつなぎ合わせようとするものである。
戦術が特定の場所における地形や敵との関係において戦場での行動を決定し、交戦を終わらせることに重点を置くのに対し、作戦術は効果的な戦役を通じて、そうした戦術的行動を戦略に結びつける結合組織として全体的に描くことができる[17]。
簡単に言えば、我々は、作戦術とは、戦略的狙い(strategic aims)を達成するために、時間、空間、目的において戦術的行動をアレンジすることである、と簡潔に定義しなければならない[18]。この簡潔な定義は、統合部隊に作戦術の意味を伝えると同時に、作戦術には全体的な戦略的狙い(strategic aims)の理解が必要であることを示唆している。それに比べ、現行の定義は、単に多くのことを行おうとしすぎ、そうすることで焦点と有用性を失っている。
提案された改訂定義を使用すると、現在の定義には含まれていない強制機能も果たすことになる。時間、空間、目的に合わせて戦術行動をアレンジするためには、(統合参謀に任命された場合は)作戦的デザインの要素の相互作用を、(米陸軍参謀に任命された場合は)作戦術の要素の相互作用を理解しなければならない[19]。
例えば、軍団が作戦術を採用するためには、基地化(basing)の必要性を理解するだけでは不十分で、参謀は基地をテンポ、作戦可能範囲(operational reach)、作戦到達点(culmination)と関連づけて理解しなければならない[20]。統合部隊は、余計な表現を捨て、このような用語で作戦術を考えることで、広大な地域に分散した作戦、つまり、中国とロシアという2つの主要な競争者との紛争で発生する可能性の高いタイプの紛争に備える必要がある。
筆者は、高等軍事研究学校(SAMS)のブルース・スタンリー(Bruce Stanley)博士と故ピーター・シファーレ(Peter Schifferle)博士から受けた作戦術の紹介と指導に感謝している。
ノート
[1] Joint Publication (JP) 5-0, Joint Planning (Washington, DC: U.S. Government Publishing Office [GPO], 2020), IV-1, accessed 29 July 2022, https://www.jcs.mil/Portals/36/Documents/Doctrine/pubs/jp5_0.pdf?ver=us_fQ_pGS_u65ateysmAng%3d%3d.
[2] Arthur Lykke Jr., “Defining Military Strategy = Ends + Ways + Means,” Military Review 69, no. 5 (May 1989): 2–8, accessed 29 July 2022, https://cgsc.contentdm.oclc.org/digital/collection/p124201coll1/id/504/rec/8.
[3] Army Doctrine Publication (ADP) 3-0, Operations (Washington, DC: U.S. GPO, 11 November 2016), 4, accessed 29 July 2022, https://usacac.army.mil/sites/default/files/publications/ADRP%203-0%20OPERATIONS%2011NOV16.pdf.
[4] Georgii Samoilovich Isserson, The Evolution of Operational Art, trans. Bruce W. Menning (Fort Leavenworth, KS: Combat Studies Institute Press, 2013), 16.
[5] Ibid., 19.
[6] Ibid., xi.
[7] Huba Wass de Czege, “Thinking and Acting like an Early Explorer: Operational Art Is Not a Level of War,” Small Wars Journal, 14 March 2011, 4 accessed 29 July 2022, https://smallwarsjournal.com/blog/journal/docs-temp/710-deczege.pdf; Justin Kelly and Mike Brennan, Alien: How Operational Art Devoured Strategy (Carlisle, PA: U.S. Army War College, September 2009), accessed 29 July 2022, https://publications.armywarcollege.edu/pubs/2027.pdf.
[8] Confutatis K.626 – Scrolling Score, YouTube video, posted by “gerubach,” 26 October 2011, accessed 8 August 2022, https://www.youtube.com/watch?v=UMwaiA581AQ. This thinking is influenced by a video made to graphically represent a conversation from the movie Amadeus including the composition of a symphony between Wolfgang Amadeus Mozart and Antonio Salieri.
[9] Wass de Czege, “Thinking and Acting like an Early Explorer,” 4.
[10] Lykke, “Defining Military Strategy,” 2.
[11] Kelly and Brennan, Alien, 2.
[12] B. H. Liddell Hart, Strategy (London: Faber & Faber, 1967), 321.
[13] James Schneider, “Vulcan’s Anvil: The American Civil War and the Foundations of Operational Art” (unpublished manuscript, 16 June 1992), 28, accessed 29 July 2022, https://cgsc.contentdm.oclc.org/digital/collection/p4013coll11/id/9.
[14] Tara Copp, “It Failed Miserably: After Wargaming Loss, Joint Chiefs Are Overhauling How U.S. Military Will Fight,” Defense One, 26 July 2021, accessed 29 July 2022, https://www.defenseone.com/policy/2021/07/it-failed-miserably-after-wargaming-loss-joint-chiefs-are-overhauling-how-us-military-will-fight/184050/.
[15] JP-1, Doctrine for the Armed Forces of the United States (Washington, DC: U.S. GPO, 2013 [incorporating Change 1, 12 July 2017]), xxv, accessed 29 July 2022, https://www.jcs.mil/Portals/36/Documents/Doctrine/pubs/jp1_ch1.pdf?ver=2019-02-11-174350-967.
[16] Carl Von Clausewitz, On War, ed. and trans. Michael Howard and Peter Paret (Princeton, NJ: Princeton University Press, 1976), 128. This is to paraphrase Carl von Clausewitz, who wrote that “tactics teaches us the use of armed forces in the engagement; strategy, the use of engagements for the object of the war,” in Book II of his seminal On War. Clausewitz’s use of strategy is closer to our modern definition of operational art, which makes sense considering his historical context as a contemporary (and adversary) of Napoleon.
[17] Dan Madden et al. Toward Operational Art in Special Warfare (Santa Monica, CA: RAND Corporation, 2016), xvii, accessed 29 July 2022, https://www.rand.org/pubs/research_reports/RR779.html.
[18] ADP 3-0, Operations, 4. This definition is inspired by and draws from earlier doctrinal definitions of operational art as opposed to the overly inclusive current definition.
[19] Field Manual (FM) 5-0, Planning and Orders Production (Washington, DC: U.S. GPO, 16 May 2022), 2-12, accessed 29 July 2022, https://armypubs.army.mil/epubs/DR_pubs/DR_a/ARN35403-FM_5-0-000-WEB-1.pdf.
[20] See ibid., para. 2-47–2-76, for an in-depth discussion of the elements of operational art.