認知戦の存在論的基盤 (NATO CCDCOE)

認知戦についての研究は、数多くみられるが、既存のアプローチは通常、認知的影響や行為主体、技術的側面からの説明が多いとし、より根本的な疑問は未解決のままだと主張し、社会技術的システムが認知攻撃に対して脆弱な理由、なぜある社会は認知操作の下で不安定化するのか、そして、他の社会はレジリエンスを保てるのか等の答えを提供するNATOサイバー防衛協力高等研究所(CCDCOE)の論文を紹介する。

論文では、あらゆる社会システムの存在論的基盤いわゆるシステミック不変要素(systemic invariants)に焦点を当てている。認知戦と情報戦を存在論的レペルで区別することで、著者らは反応的対策から積極的な脆弱性診断、そして戦略的社会的資産としての認知的レジリエンスの強化へと移行するための基盤について論じている。

学術的色合いの強い論文であるが、認知戦に関する施策の研究などに関わっている方には有益だと考える。(軍治)

文中の[数字]は末尾の参考文献番号

 認知戦の存在論的基盤

Ontological Foundations of Cognitive Warfare

Dr Fedir Korobeynikov, Dr Andrii Davydiuk, Prof Volodymyr Mokhor

NATO Cooperative Cyber Defence Centre of Excellence

G.E. Pukhov Institute for Modelling in Energy Engineering National Academy of Sciences of Ukraine

Tallinn 2026

著者について

フェディル・コロベイニコフ(Fedir Korobeynikov)は、情報セキュリティの博士号を取得しており、システム・キャピタル・マネジメントのデジタル技術・情報セキュリティ担当ディレクター、セキュリティ研究センター(ウクライナ・キエフ)の創設者、およびウクライナ国立科学アカデミーG.E.プホフエネルギー工学モデリング研究所の博士課程(理学博士課程)の学生である。

アンドリー・ダヴィディウク(Andrii Davydiuk)は、サイバーセキュリティの博士号を取得しており、NATOサイバー防衛協力高等研究所(CCDCOE)のP&C部門長、ウクライナ国家特別通信・情報防護局傘下の国家サイバー防護センターの副部門長、ならびにウクライナ国立科学アカデミーG.E.プホフエネルギー工学モデリング研究所の上級研究員および博士課程(理学博士課程)の学生を務めている。

ヴォロディミル・モホル(Volodymyr Mokhor)は、理学博士であり、数理モデリング・サイバーセキュリティ・リスク科学の教授、ウクライナ国立科学アカデミー(NAS)の通信会員、同アカデミーエネルギー・エネルギー技術部門の副委員長、ならびに同アカデミーG.E. プホフエネルギー工学モデリング研究所の所長を務めている。

NATOサイバー防衛協力高等研究所(CCDCOE)について

NATOサイバー防衛協力高等研究所(CCDCOE)は、NATOが認定した知識拠点であり、サイバー防衛における最重要課題に対し、独自の学際的アプローチを提供している。NATOサイバー防衛協力高等研究所(CCDCOE)の中核をなすのは、軍、政府、学術界、産業界から集まった多様な国際専門家グループであり、現在39カ国を代表している。

NATOサイバー防衛協力高等研究所(CCDCOE)は、国際的に認められたサイバー防衛の拠点として、またサイバー防衛の戦略的、法的、作戦的、技術的側面における専門知識の主要な供給源かつ不可欠なリソースとしての地位を維持している。同センターは、サイバー防衛のあらゆる側面における最先端の思想的リーダーシップを発揮し、この分野を360度の視点から捉えている。当センターは、技術、戦略、作戦、法という密接に関連した重点分野において、サイバーセキュリティをNATOおよび各国のガバナンスや能力に統合するプロセスを促進し、支援している。

NATOサイバー防衛協力高等研究所(CCDCOE)の招きにより作成された「タリン・マニュアル(Tallinn Manual)」は、国家間および国家と非国家主体との間で行われるサイバー作戦に国際法がどのように適用されるかについて、政策アドバイザーや法律専門家に向けた最も包括的な指針である。2010年以来、同センターは、世界最大かつ最も複雑な実戦形式のサイバー防衛技術コンテスト「ロックド・シールズ(Locked Shields)」を主催している。毎年開催される「ロックド・シールズ(Locked Shields)」は、サイバーセキュリティの専門家に対し、リアルタイムの攻撃下において国家のITシステムや重要インフラを防衛するスキルを向上させる機会を提供している。本演習では、現実的なシナリオ、最先端技術、そして戦略的意思決定や法的・コミュニケーション的側面を含む大規模なサイバーインシデントの全容をシミュレートすることに重点が置かれている。

NATOサイバー防衛協力高等研究所(CCDCOE)は、タリンで毎年開催されるユニークなイベント「サイバー紛争に関する国際会議(CyCon)」を主催しており、世界中のサイバー防衛コミュニティから主要な専門家や意思決定者が一堂に会する。2009年からタリンで開催されているこの会議には、毎年春に600名以上の参加者が集まる。

NATOサイバー防衛協力高等研究所(CCDCOE)は、NATO加盟国全体を対象に、サイバー防衛作戦分野における教育・訓練ソリューションの特定と調整を担当している。NATO認定の卓越センターは、NATOの指揮統制機構の一部ではない。

www.ccdcoe.org

免責事項

本書はNATOサイバー防衛協力高等研究所(CCDCOE)が作成したものである。本書の内容は、必ずしも当センターまたはNATOの方針や見解を反映するものではない。当センターは、本書に含まれる情報の利用によって生じたいかなる損失や損害についても責任を負わず、また、本書で参照されている外部ウェブサイトを含む外部情報源の内容についても責任を負わない。

本出版物のデジタル版または印刷版は、NATO内部での利用、および非営利かつ非商業的な目的での個人利用や教育利用のために複製することができる。ただし、複製物には完全な出典を明記する必要がある。

1. 概要

本研究では、認知戦の存在論的基盤を検証し、分析の焦点を、観察可能な効果、行為主体(actors)、技術的手段から、認知的脆弱性の「システミック条件(systemic conditions)」1へと移す、構造中心のコンセプト化(structure-centric conceptualisation)を提示する。このアプローチの核心となるのは、「システミックな不変要素(systemic invariants)」というコンセプトである。これは、複雑な社会技術的システム(socio-technical systems)の一貫性、同一性、適応の能力容量を支える、認識論的(epistemic)、価値論的(axiological)、識別的、社会的、目的論的な構造を指す。

※1 この論文で使用されているシステミック(systemic)とは個別要素ではなく、システムの構造・相互関係・制度設計に起因することを指す意味合いを持つものとして理解される。

これらの「システミックな不変要素(systemic invariants)」は、認知アーキテクチャの存在論的足場を構成するとされる。すなわち、構成要素間の接続性を確保し、適応的変革(adaptive transformation)の境界条件を定義し、不確実性の下でも首尾一貫した意味の構築と戦略的な自己決定を可能にするものである。認知戦は、システムの多重アーキテクチャ(multiplex architecture)内のレイヤー間連携を悪用して「システミックな不変要素(systemic invariants)」を意図的にターゲティングし、認知的デコヒーレンス(cognitive decoherence)を誘発することを戦略的な狙いとするものとして再コンセプト化される。

このフレームワークにおいて、デコヒーレンス(decoherence)とは、構造的に条件付けられ、潜在的に不可逆的な認知的主権の侵食と理解される。これにより、システムは、統合された認知的秩序として、現実を首尾一貫して知覚・分析し、発展し、適応し、自己防護(self-protection)する能力容量を失うことになる。

この多角的な視点により、社会技術的システム(socio-technical system)の類型に応じて脆弱性の論理を区別することが可能となり、これは個々の状況に合わせた認知的防護戦略の開発において実用的な示唆を与える。本フレームワークは、存在論的レベルで認知戦と情報戦を区別することで、システミックな脆弱性(systemic vulnerabilities)を診断し、認知的レジリエンスに向けた予防的戦略を推進するための基盤を確立する。

キーワード:認知戦(cognitive warfare)、認知的デコヒーレンス(cognitive decoherence)、システム不変要素(systems invariants)、多重ネットワーク(multiplex networks)、構造的脆弱性(structural vulnerability)、認知的レジリエンス(cognitive resilience)、トランスモルファンンス(transmorphance)、社会技術システム(socio-technical systems)、ハイブリッド脅威(hybrid threats)、情報セキュリティ(information security)。

謝辞

著者らは、本研究の遂行に際し、エストニア軍事アカデミーおよびNATOサイバー防衛協力高等研究所(CCDCOE)から多大なる支援をいただいたことに、深く感謝する。

2. はじめに

「認知戦」というコンセプトは、国家間の対立の性質に生じている明らかな変化を受けて浮上したものである。キネティック、経済的、外交的、情報的な要素を含む従来の紛争形態に加え、敵対者の国民の認知プロセスをターゲティングした組織的な介入が、ますます行われるようになっている。

キネティックな戦い(kinetic warfare)が物質的なインフラを破壊し、経済戦(economic warfare)が資源基盤や再生産の能力容量を損ない、外交戦(diplomatic warfare)が同盟体制や国際的な正当性を不安定化させ、情報戦(information warfare)がコンテンツを歪めデータの利用可能性を妨げるのに対し、認知戦(cognitive warfare)は解釈のメカニズムそのものをターゲットとする。具体的には、人々が何を知っているかではなく、彼らがどのように知識を構築し、現実を知覚し、その中で自らの位置づけを決定しているかをターゲティングする。

2021年、NATO科学・技術機構(NATO STO)は認知ドメイン(cognitive domain)を戦略的研究の重要分野として位置づけた[1]。この取り組みは2022年までに大幅に拡大した[2]。こうした組織的な認識そのものが、この現象が戦術的な手段の枠を超え、戦略的理論のレベルでのコンセプト的な考察を必要としていることを示唆している。

しかし、認知戦に関する既存のコンセプト化[3–9]には顕著な不均衡が見られる。すなわち、社会的分極化、制度への信頼の失墜、ナラティブの操作、意思決定サイクルの混乱といった影響についてはかなり詳細に記述している一方で、こうした結果を招くメカニズムを説明し得る真にシステミックなモデル(systemic model)を提示していない。

NATO連合軍変革コマンド(NATO ACT)における定義では、認知戦を「優位性を獲得するために、個人や集団の認知に影響を与え、防護し、および/または混乱させることで、態度や振舞いに作用させるべく、他の権力手段と連動して行われる活動」と特徴づけている[3]。この定義は目標を捉えているものの、社会技術的システム(socio-technical system)の構造の中で、具体的に何がそのような影響を受けやすくしているのか、また、その影響がどのような経路を通じてシステミックな効果(systemic effects)へと結びつくのかという疑問は残されている。

NATO内で発展してきた「認知戦」の理論的分野(theoretical field)を拡大することに対する学術的な関心が高まっているにもかかわらず、既存のアプローチでは、社会技術的システム(socio-technical systems)が認知攻撃に対して抱える構造的な脆弱性を説明する首尾一貫したモデルはまだ提示されていない。その主な障害は方法論的な限界にあり、これはデッペ(Deppe)とスカール(Schaal) [10] によって特に明快に指摘されている。

NATO連合軍変革コマンド(NATO ACT)コンセプトを分析する中で、著者らは、「コンセプトの拡張」という問題、隣接するコンセプト(ハイブリッド脅威、外国による情報操作・干渉(FIMI: Foreign Information Manipulation and Interference)、情報戦など)との境界の曖昧さ、そしてこの用語を分析的に厳密かつ実証的に扱いやすい形で具体化することの難しさを指摘している。

この分野を体系化するための試みとして、NATO人間要因・医学パネル調査チーム(HFM-356)は、いわゆる「ハウス・モデル」を提案した[11]。このモデルは、認知神経科学から社会文化研究に至るまで、認知戦を理解する上で関連する7つの知識ドメインを網羅している。

とはいえ、この分類法は依然として主に記述的な性質を帯びている。このモデルは学問分野の全体像を描き出し、重要なドメインを明確にはしているものの、プロセスそのものの力学、とりわけ認知的影響がシステム内でどのように伝播し、観察可能な効果を生み出すのかという点については捉えきれていない。

「認知戦の条件下で何が起こるのか」という問いを通じて、主に記述的レベルに焦点を当てている既存のコンセプト的フレームワークとは対照的に、本研究は分析的・存在論的次元へと注目を移す。本研究の狙いは、そうした影響を有効なものとする構造的基盤を特定し、それらが作用する社会技術的システム(socio-technical systems)の要素を明らかにすることにある。

ここで提示される中心的な論点は、認知戦とは、社会技術的システム(socio-technical systems)の不変要素(「システミックな不変要素(systemic invariants)」)を意図的にターゲティングするものであるという点である。これらは、システムの一貫性を維持し、破壊的な影響に対して適応的に対応する能力容量を支える、安定した構造的要素である。ここでいう不変性のコンセプトは、複雑で進化するシステムにおける安全保障理論[37]から借用され、認知戦の文脈に適用されたものである。

「システミックな不変要素(systemic invariants)」とは、社会技術的システム(socio-technical system)の構造、機能、および環境の変革を超えて維持される性質を指し、それによってアイデンティティの継続、中核的プロセスの再生産、および擾乱(perturbations)2に対する首尾一貫した適応的反応の能力容量が保証される。

※2 擾乱(perturbations)とは、社会システムを外部からの介入によって安定から外れさせる状態を指していると解釈される。

認知的セキュリティの文脈において、不変要素には、認識論的構造(共有された真偽の基準や検証の様式)、価値論的階層(axiological hierarchies)(集団的選択を規定する価値の優先順位)、アイデンティティの構築(集団への帰属意識やイン・グループの境界に関するコンセプト)、社会的信頼のアーキテクチャ(制度的正当性や対人協力のモデル)、そして最後に、目的論的投影ーすなわち、システムが自らの発展を構想する基盤となる将来像ーが含まれる。

これらは、許容可能なシナリオと許容不可能なシナリオに関する規範的指向、戦略的期待、および存在論的仮定を包含しており、これらを総合することで、変革の方向性と可能性の境界の両方が定義される。

本研究で提案されたアプローチを実践に移すため、認知的脆弱性の多重アーキテクチャ(multiplex architecture)というコンセプトを導入する。社会技術的システム(socio-technical systems)(国家、コミュニティ、組織、多国籍企業など)は、多重ネットワーク[12–13]として記述される。このネットワークでは、同一の行為主体(actors)(ノード)が、ネットワークの異なるレイヤーに対応する多様な関係によって結びついている。

各レイヤーは、認識論的(epistemic)、価値論的(axiological)、識別的(identificatory)、社会的(social)、あるいは目的論的(teleological)といった特定の種類の不変的な関連性を反映しており、位相的には独立しているものの、機能的には相互に結びついた相互作用の回路を構成している。

このモデルにおいて、あるレイヤー(例えば、知識源の信用失墜を通じて認識論的レイヤー(epistemic layer)で、あるいは集団帰属のコンセプトの断片化を通じてアイデンティティ・レイヤーで)で生じた擾乱(perturbation)が、隣接するレイヤーへと伝播し、連鎖的かつ非線形な影響を引き起こす仕組みを分析することが可能となる。

したがって、構造的な脆弱性は、レイヤー間の接続性が高いノードに局在する。これらは多重構造内の特定の点であり、そこから擾乱(perturbations)がシステム全体へと伝播する可能性が最も高い。その結果、不変要素間の一貫性(coherence)が失われる状態、すなわち「認知的デコヒーレンス(cognitive decoherence)」が生じ、システムは統合的な自己記述能力容量と協調的な応答能力容量を失うことになる。

提案されたアプローチは、相互に関連する3つのタスクに取り組むものである。

第一に、本書は認知戦の効果について、単に戦術を羅列するのではなく、そうした戦術が効果を発揮する「システミック条件(systemic conditions)」を明らかにすることで、理論的な説明を試みている。

第二に、本手法は、脆弱性が悪用される前にそれを特定するための分析ツール・キットを提供し、社会技術的システム(socio-technical systems)におけるレジリエンスとトランスモルファンンス(transmorphance)3[37]の強化を、事後対応から事前予防へと重点を移すものである。

※3 トランスモルファンンス(transmorphance)について、引用文献によると、「『トランスモルファンンス』を、複雑な社会技術システムが、システムのアイデンティティを構成する不変要素を維持しつつ、その内部アーキテクチャ、機能構造、および資源循環を変化させることによって、自らの残存性と開発を保証する能力と定義する。固定された位相空間内での外部擾乱(external perturbations)への単なる適応―これは従来のレジリエンス・パラダイムに典型的な方向性である―とは異なり、トランスモルフィックなシステムは継続的な構造的変容を行い、到達可能な状態のドメインを拡大し、機能に関する新たな可能性を生み出す」としている。

第三に、本書は認知戦に関する軍事的な議論と学術的な議論の間にコンセプト的な架け橋を築き、戦略的推論(strategic reasoning)と科学的分析の隔たりを乗り越えることのできる共通のフレームワークの構築に寄与している。

3. コンセプト上の景観:認知戦を理解するためのアプローチ

3.1効果中心のアプローチ

認知戦をコンセプト化する上で最も一般的な様式(mode)は、観察可能な影響を基準としてそれを定義することである。NATOのドクトリン文書[3]では、予想される結果として5つのカテゴリが挙げられており、これにはOODA(観察・志向・決心・行動)サイクルおよび意思決定プロセスの混乱[14]、社会の分極化と分断、アイデンティティの政治利用、ナラティブの操作、そして抵抗意志の弱体化が含まれる。

2025年版NATO戦略技術局(STO)主任科学者研究報告書[15]は、認知戦を「認知的優位性をめぐる争い」と位置づけ、敵対者の認知能力の低下、自軍の認知・技術能力の強化、および外部からの影響に対するレジリエンスの育成という3つの機能的ベクトルを提示している。

確かに、効果中心のアプローチ(effect-centric approach)には大きな実用的な価値があり、脅威の分類、監視体制の構築、早期警戒指標の開発に向けた強固な基盤を提供する。しかし、その説明力は依然として限定的である。なぜなら、単に影響を記録しただけでは、それが生じるメカニズムを理解したことにはならないからである。

例えば、認知戦が社会の分極化を招くという主張は、ある重要な疑問を未解決のまま残している。それは、なぜ一部の社会技術的システム(socio-technical systems)はそうした介入に対して脆弱性を示す一方で、他のシステムは安定性を維持できるのか、という点である。どのような構造的特性が、特定の影響様式に対するシステムの感受性を決定づけるのだろうか。

このアプローチに対する批判者たち[10]は、しばしば「コンセプトの拡張(conceptual stretching)」と表現される認識論的な問題(epistemological problem)を指摘している。ある現象がその結果のみによって定義されると、受容者の態度を変化させる幅広い情報介入が「認知戦の枠組み(the rubric of cognitive warfare)」に包含され得るため、そのコンセプトの境界は曖昧になりがちである。これは厳密な科学的実証化を妨げ、ハイブリッド脅威、情報戦、外国による情報操作および干渉(FIMI)といった隣接するコンセプトとの区別を複雑にする。

したがって、作戦上の診断(operational diagnostics)においては有効であるとはいえ、効果中心のレンズ(effect-centric lens)だけでは因果メカニズムを解明するには不十分である。影響の内部的力学をシステミックなプロセス(systemic process)として説明できる、より構造化された分析的フレームワークによって補完する必要がある。

3.2 行為主体中心のアプローチ

もう一つのコンセプト化の様式(mode)では、焦点が「影響」そのものから、その背後にある行為主体(actors)ー国家および非国家主体ー、ならびにそれらのドクトリン、動機、戦略的文化へと移される。この視点において、認知戦は、歴史的に固有の戦略的思想の伝統に根ざした、より広範な地政学的対立の手段の一つとして捉えられる。

その典型的な例が、ロシアの「反射的統制(reflexive control)」というコンセプトである[16–17]。「反射的統制(reflexive control)」とは、影響力の行使者にとって有利な決定を敵対者に下させるべく、特別に作り込まれた情報を相手に伝達することを指す。

その中心的な前提は、ターゲットが主観的な自律的選択の感覚を保ちつつ、利用可能な選択肢の空間が事前に構造化されていることに気づかないという点にある。スプリズボエル・ハンセン(Splidsboel Hansen) [18] は、このコンセプトの変遷を、ソ連の軍事理論の発展から現代の情報対決の実践に至るまで追跡している。

「三戦(Three Warfares)」としてコンセプト化された中国の戦略、すなわち心理戦、世論戦、法律戦については、リー(Lee) [19] および アウキア(Aukia) [20] によって分析されている。意思決定プロセスの操作を重視するロシアのモデルとは対照的に、中国の戦略は、知覚、正当性、規範的フレームワークに対して長期的な影響力を及ぼすことで、有利な戦略的環境を形成することを目指している。

この論理は、孫子の戦略的思想に遡る。孫子によれば、「戦争において最も重要なことは、敵の戦略を攻撃することである」[21]。ここでは、認知的側面が、直接的な対決を避けつつ目標を達成することを狙った、より広範な戦略に統合されている。

バジル・リデル・ハート(Basil Liddell Hart)の「間接行動(indirect action)」戦略[22]にも、同様のアプローチが見られる。その本質は、正面攻撃によってではなく、敵対者の環境の知覚、対応の論理、および利用可能な選択肢の範囲を形作ることで、敵対者の戦略的主導性(strategic initiative)の能力容量を弱体化させる点にある。

認知的影響力行使の実践において、認知バイアスや暗示性に関する研究およびその活用には、特に注目すべきである。トヴェルスキー(Tversky)とカーネマン(Kahneman)[23]の研究は、人間の思考が合理的モデルから体系的に逸脱する現象を理解するための基礎を築いた。また、チャルディーニ(Cialdini)[24]は、社会的証明、権威、希少性、互恵性など、大衆への影響力行使において活用される説得の原則を体系化した。

20世紀初頭の研究に端を発する古典的な「暗示のドクトリン(doctrine of suggestion’)」[25]は、アルゴリズムを介したコミュニケーションという文脈において、再び注目を集めている[26]。認知戦のフレームワークにおいては、認知バイアスや暗示性こそが、操作的な影響力を行使するための「侵入口(entry points)」と見なされている。

確かに、行為主体中心のアプローチ(actor-centric approaches)は、認知戦の理解に大きく寄与している。それは、問題となっているのが自発的な社会的反射でも、技術によって決定づけられたプロセスでもなく、紛争に関する独自の思考の伝統に根ざした、目的のある戦略のレパートリーであることを浮き彫りにしている。しかし、その限界は、ある意味では、効果中心の説明(effect-centric accounts)に見られる限界とは正反対のものだ。

後者が「何が起こるか」を記録するだけでその理由を説明しないのに対し、行為主体中心のアプローチ(actor-centric approaches)は「誰が、どのような意図を持って行動するか」を明らかにする。しかし、それが具体化される特定のドクトリンや戦略的文化にかかわらず、その有効性を支える認知的影響の一般的な原理とは何かという、より根本的な問いについては言及していないのではないか。

なぜ、間接的な影響力、解釈の操作、意思決定空間の構築、情報源への信頼の弱体化、目的論的志向(teleological orientations)の弱体化といった認知戦術の原則は、ある社会技術的文脈では決定的な役割を果たす一方で、他の文脈では同等の効果を生み出せないのだろうか?

ターゲット・システムが、単に特定のドクトリン的表現に対してではなく、認知的影響そのものに対してどれほど影響を受けやすいかを決めるのは、どのような特性なのだろうか。これらの問いに対する満足のいく答えが見当たらないことは、行為主体中心の分析(actor-centric analysis)における方法論的な限界を示しており、認知的脆弱性について構造的・システミックな説明へと移行する必要性を浮き彫りにしている。

3.3 技術中心のアプローチ

3つ目のコンセプト化の様式(mode)は、認知戦の手段的側面、具体的には影響力が及ぼされる技術、プラットフォーム、および伝達経路に焦点を当てている。この視点において、認知戦は主に技術的アフォーダンスの機能として現れ、ソーシャル・ネットワークやアルゴリズムによる増幅、ビッグデータやマイクロターゲティング、合成メディアやディープフェイク、そして将来的には神経技術やブレイン・コンピュータ・インターフェースによって推進されるものである。

「ハウス・モデル」は、この論理と一部共鳴しており、認知戦を理解する上で関連する7つの知識ドメインの一つとして「技術的推進要因」を位置づけている。NATOの研究者らは、影響力の技術的ベクトルを体系化すべく、3つの大分類(伝統的(キネティックな手段、マスメディア)、既存技術(ソーシャル・ネットワーク、ビッグデータ、拡張現実)、新興技術(合成メディア、生成AI、メタバース、および将来的な神経技術的手段))に区分している[11]。このような分類は、技術開発の力学を反映しており、拡大し続ける認知的影響力の手段を予測することを容易にする。

技術中心の文献(technology-centric literature)の中には、いわゆる「エコー・チェンバー(echo chambers)」や「フィルター・バブル(filter bubbles)」の研究に特化した一派が存在する。サンスティーン(Sunstein)とパリサー(Pariser)[27–29]は、パーソナライゼーション・アルゴリズムがユーザーをイデオロギー的に同質な環境に閉じ込め、それによって二極化を助長し、民主的な議論の基盤を損なう可能性があるという、影響力のある説を提唱した。

しかし、実証研究の系統的レビューによれば、状況ははるかに複雑であり、実際、議論の分かれるものであることが明らかになっている。それによると、大多数の利用者は多様なコンテンツに接しており、アルゴリズムによるフィルタリングは、観察される分極化のほんの一部にしか寄与していないようである[30–32]。このことは、技術中心のアプローチ(technology-centric approach)には根本的な限界があることを示唆している。なぜなら、技術は、その前提条件が社会システム自体の構造的特性に存する力学の「生成器(generator)」というよりは、むしろ「変調器(modulator)」として機能することが多いことを示唆しているからである。

近年、合成メディアやディープフェイク技術は特に急速な発展を遂げている。ヴァッカリ(Vaccari)とチャドウィック(Chadwick) [33] は、ディープフェイクが認知プロセスに影響を与えるのは、単に欺瞞によるだけでなく、不確実性を生み出すことによるものでもあることを示している。なぜなら、たとえ失敗したディープフェイクであっても、メディア・コンテンツに対する全般的な不信感を強める可能性があるからである。

この現象は一般に「嘘つきの配当(liar’s dividend)」と呼ばれ、行為主体(actors)が本物の記録を「捏造された可能性が高い」ものとして位置づけることで、その信用を損なうことを可能にする[34]。中国の軍事理論家たちは、アルゴリズムを用いてターゲットの聴衆のプロファイリングを行い、影響力行使のためのコンテンツの配信タイミング、ターゲティング、および配信方法を最適化する「アルゴリズム的認知戦(algorithmic cognitive warfare)」というコンセプトを提唱している[35–36]。

技術中心のアプローチ(technology-centric approach)には、特に、技術的レパートリーの変遷の追跡、技術的対策の開発、そして新技術の出現に伴うリスクの評価を容易にするという点で、明らかな強みがある。しかし、その説明力は、このアプローチに特有の還元主義によって制約されている。ここでは、技術が、影響の性質や規模を決定づける独立変数として扱われている。

しかし重要なのは、レコメンデーション・アルゴリズムやバイラル・コンテンツ、ターゲットとした広告といった同じ技術的手段であっても、システムによって異なる影響をもたらすという点である。ソーシャル・ネットワークは、それ自体で社会を二極化させるわけではない。むしろ、それらの社会が持つ構造的特性に前提条件を置くプロセスを増幅し、加速させる。

つまり、技術中心のアプローチ(technology-centric approach)は、「システミック的になぜ(why systemically)」という問いを回避しつつ、「技術的にはどのように」という問いには答えるものである。それは影響を及ぼす手段については記述するが、ターゲット・システムのアーキテクチャのどの部分が、その影響を受けやすい状態にあるのかを正確に説明することはできない。技術は「変調器(modulator)」として現れ、本質的には、その生成メカニズムが技術的分析の範囲を超えたプロセスに対する増幅器や加速器として機能する。

3.4構造中心のアプローチに向けて

以上の考察は、認知戦に関する現行のコンセプト化において体系的な欠落が存在することを明らかにしている。効果中心のアプローチ(effect-centric approaches)は、観察可能な結果を捉えるものの、その発生過程については説明していない。行為主体中心のアプローチ(actor-centric approaches)は、影響力を行使する主体者の意図やドクトリンを明らかにするものの、そのような影響力が効果を発揮する「システミック条件(systemic conditions)」という問題を未解決のまま残している。技術中心のアプローチ(technology-centric approach)は、利用可能な手段のレパートリーを明らかにするものの、複雑な社会的力学を技術的決定要因に還元してしまう傾向が見られる。

これら3つの視点に共通しているのは、社会技術的システム(socio-technical system)の構造のどの部分が、それを認知的影響に対して脆弱にしているのかという核心的な問いに対する答えが欠如している点である。この問いに取り組むには、分析の焦点を、効果(effects)や行為主体(actors)、技術(technologies)の記述から、認知的脆弱性の構造的基盤の分析へと移す必要がある。

本稿では、認知戦の分析に向けた構造中心のアプローチ(structure-centric approach)を紹介する。その基本的な前提は、認知的影響の有効性は、介入そのものの特性のみによって決定されるのではなく、ターゲット・システムのアーキテクチャ、具体的にはその不変要素の構成、レイヤー間連携のトポロジー、および認知的完全性の連鎖的な破壊を可能にする潜在的な脆弱性の存在によっても決定されるというものである。

このアプローチに関する詳細な説明が、次の節の主な内容となっている。

4. 理論的フレームワーク:不変要素と認知的脆弱性の多重アーキテクチャ

4.1認知戦の対象としての不変要素

認知戦は、国家や国際機関、金融グループや産業企業、法的・宗教的機関、国民共同体や超国家的な共同体など、複雑な社会技術的システム(socio-technical systems)によって、またそれらの間で行われる。

この意味で、その影響力が制度的形態ではなく「システミックな不変要素(systemic invariants)」をターゲットとしている限りにおいて、それは狭義の制度的意味での国家や組織間の対立というよりも、システム間の戦略的争い(inter-systemic strategic contestation)の様式として捉えることが最も有意義である[37]。こうしたシステムは、原則、法則、規範、価値観、さらにはシステミック・アイデンティティ(systemic identity)の究極的な輪郭を規定する高次の構造的コミットメントを表す、象徴的に表現された将来像に根ざしている限りにおいて、自己生成的(autopoietic)[38–39]であり、動的に進化している。

まさにこうした高次のコミットメントこそが不変要素として機能し、複雑なシステムの統一性、完全性、再現性を支える比較的安定した基盤となる。

不変要素は単なる安定したパラメータではなく、認識論的前提(epistemological assumptions)、価値論的階層(axiological hierarchies)、規範的期待(normative expectations)、アイデンティティの象徴的構築(symbolic constructions of identity)、そして目的論的ベクトル(teleological vectors)を含む、システミックな存在(systemic existence)の構成的基盤そのものである。その機能は二つある。

一方では、それらは異質な構成要素を首尾一貫した全体へと結びつける統合的な基盤を成しており、他方では、他のシステムとの外部的な結合様式を規定することで、協力、対立、あるいは戦略的撤退(strategic disengagement)のパラメータといった要素を形作っている。

不変要素は意味論的インフラを形作り、歴史的・構造的な変化を超えてシステムが自己を再生産するための内的秩序を提供する。それらが破壊されることは、単に機能の喪失を意味するだけでなく、適応的変革(adaptive transformation)を通じてシステムが「それ自身であり続ける」能力容量を失うことを伴う、存在論的連続性の侵食を意味する。

前述のNATOの戦略的文書とドクトリン文書および学術文献を分析した結果、認知戦の公言された目標と「不変要素のカテゴリ(category of invariants)」というコンセプトとの間に、直接的な対応関係があることが明らかになった。

学術文献で要約されているように、NATO連合軍変革コマンド(NATO ACT)のコンセプト化の中で、一般的に5つの主要な認知的影響のベクトルが区別されており、それらはOODAサイクルの混乱、社会の分極化と分断、アイデンティティの兵器化、ナラティブの兵器化、そして闘い意志(the will to fight)の弱体化から成っている[10]。

これらの各ベクトルは、システム分析の言語に置き換えると、検証の認識論的構造、信頼の社会的アーキテクチャ、アイデンティティの構築物、歴史的記憶のナラティブのマトリックス、そして将来への目的論的投影といった、特定の種類の不変要素に対する攻撃を構成している。

認知戦と情報戦の重要なコンセプト的違いは、影響の所在に関するものであり、認知戦は特定の情報内容の受容または拒否だけでなく、「人間の心の感情的および潜在意識的プロセス」の操作をターゲットとする[10]。

バックス(Backes)とスワブ(Swab)[40]は、認知戦を、ターゲットの人々の思考様式を変え、ひいてはその行動様式を変えることに焦点を当てた戦略と定義している。デュ・クルゼル(Du Cluzel)[41]は、認知戦が、ターゲットとした人々、制度、国家の選択に影響を与えるために、それらを弱体化させ、干渉し、不安定化させることを狙いとしたグローバル戦略の一環として、体系的に利用されていると指摘している。

これらの定義を見渡すと、ある共通のパターンが浮かび上がってくる。すなわち、影響の対象となるのは個々の認知行為や情報の流れではなく、あらゆる情報の処理様式を決定づける安定した構造であり、本研究ではこれを「不変要素(invariants)」としてコンセプト化している。

認知戦、とりわけ不安定化と影響力の行使という目標は、不変要素の構造を崩壊させることによってこそ達成される。NATOイノベーション・ハブの文書[41]は、その狙いが「個人の考えそのものではなく、その思考の仕方を攻撃することにある」と強調しており、そのような影響力は「社会を支える社会契約全体を崩壊させる可能性を秘めている」と指摘している。

このようなシステミックな崩壊(systemic disintegration)の状態は、単なるデータの歪曲や隠蔽(情報戦のようなもの)によって引き起こされるものではない。それは、認知的一貫性(cognitive coherence)が構築される基盤そのものを覆すことを必要とし、それは、共有された真実の基準、規範的な階層、識別性のモデル、信頼の構造、そしてあり得る将来像をターゲティングすることで達成される。

したがって、不変要素のコンセプト(concept of invariants)は、認知戦に関する議論に対して外生的なものではなく、そこにすでに萌芽的に存在しているものを認識論的に解明する役割を果たしている。その主な優位性は、断片的な記述や効果の多様性を統一的な分析フレームワークへと変換し、影響の対象を体系的に特定し、それらの相互依存関係を評価し、不安定化の連鎖メカニズムを予測することを可能にする能力容量にある。

4.2 認知的脆弱性の多重アーキテクチャ

前節で明らかにされた不変要素の相互接続性を解明するには、適切な分析的装置が必要となる。単一のレイヤーの表現に限定された古典的ネットワーク・モデルは、個人、集団、制度といった同一の行為主体(actors)が、認識論的(epistemic)、価値論的(axiological)、識別的、制度的といった領域にまたがる、質的に異なる多様な関係によって同時に結びつけられている認知システムの特異性を捉えるには不適切である。

このような構造をモデル化するため、本研究では、社会的相互作用の分析[42]や相互依存システムにおける連鎖的な脆弱性の分析[43]に適応させた、多重ネットワークの装置[12–13]を採用している。

多重ネットワークとは、単一のノード群が複数の種類のエッジによって接続され、それによって位相的には異なるが機能的には結合されたレイヤーを形成するシステムのことであり[44]。各レイヤーは、認識論的、価値論的、識別的、社会的、目的論的といった、不変要素の結びつきの特定の種類を反映している。

多層ネットワークの重要な特性は、レイヤー間の連結性である。これは、あるレイヤーに加えられた認知的影響が他のレイヤーへと連鎖的に伝播し、単なる局所的な擾乱(perturbation)だけでは説明できないシステミックな効果(systemic effects)を生み出す、レイヤー間の構造的依存関係として定義される。

この多角的アプローチにより、例えば、異なるタイプの政治体制を標的とした認知戦戦略間の根本的な違いを形式化することが可能となる。

この区別は、多重ネットワークの視点において形式化された、社会技術的システム(socio-technical systems)の類型論ーすなわち「機能的に安定したシステム」と「進化的に動的なシステム」との対比ーに喩えることで、さらに明確化することができる[45]。この解釈によれば、高度に中央集権化された体制は機能的に安定したアーキテクチャ(多重性の低さと強い垂直的結合)に近似する傾向があるのに対し、多元的な民主主義は、より高い不可約的多重性を示し、それに応じて異なる脆弱性の論理を呈する。

独裁政権、権威主義体制、その他の閉鎖的な政治体制など、高度に中央集権化された体制に対する認知戦は、現実の解釈における独占を侵食することに向けられている。こうした体制は、その認知的構造が、権威の垂直的構造によって支配される単一の支配的なレイヤーへと収束してしまうため、多重性の度合いが低いという特徴を持つ。

効果的な影響力行使の戦略とは、このレイヤーに意図的に高い情報エントロピーを注入すること、すなわち、政権が自らの認識論的権威(epistemic authority)を損なうことなくしては解決できない不確実性を持ち込むことにある。陰謀論や曖昧なナラティブ、「ディープ・ステート」や「隠された意思決定の中心」に関する二面性のある主張は、公式の見解と競合する代替的な説明フレームワークを生み出す。

体制は、自らの支配が不完全であることを認めることなく、こうした解釈を肯定することも否定することもできない。その結果、権威あるナラティブは断片化し、このシステムは効果的な認知的圧縮、すなわち複雑性の削減を行う能力容量を失うことになる。

民主主義や多元的な体制に対する認知戦は、逆説的な論理に基づいている。民主主義体制は、高度で不可逆的な多レイヤー性を特徴としており、そのレジリエンスは、ナラティブの独占によってではなく、価値論的合意、制度への信頼、検証の手順の共有、そして将来像の共有といった、複数のレイヤーにわたる一貫性によって確保されている。

この文脈における認知的影響力行使の有効な戦略は、エントロピーの増大を目指すものではなく、レイヤー間の一貫性を崩すことを目指すものである。NATOの認知戦に関するコンセプト的議論の中で広く指摘されている、社会の分極化、制度への信頼の失墜、アイデンティティの断片化、そして認識論的権威の信用失墜といった現象は、すべてマルチプレックスの各レイヤー間の結びつきに対する攻撃を構成している。

その結果、システムは一貫性を欠いた部分構造へと分断され、個々の構成要素の局所的な機能は(状況に応じて)維持されるものの、協調的な対応を行う能力容量を失ってしまう。

民主主義体制に対する特筆すべき脅威となるのは、多レイヤー的な構造の中に埋め込まれた、閉鎖的で機能的に安定した形成体である「寄生的な下部構造」の定着である。腐敗した垂直的ネットワーク、影の影響力構造、および外国勢力に操られる代理ネットワークは、「システム内のシステム」として機能し、正当な手続きや規範的なレイヤーを迂回しつつ、単一の連関形態を通じて自己増殖する可能性がある。

こうした構造は、長期的な認知的影響力を行使する手段として、外部の行為主体(actors)によって形成される可能性がある。こうした構造が定着すると、適応の能力容量は徐々に低下していく。すなわち、民主主義の多層構造は外見上の複雑さを保ちつつも、機能的な不可逆性を失い、重要な決定が隠された単一のレイヤーの回路によってますます左右されるようになる。

多重アーキテクチャ(multiplex architecture)における脆弱性の作戦上の診断(operational diagnosis)は、レイヤー間トポロジーの分析に基づいている。特に重要なのは、その不安定化によってシステムの全体的な接続性が最も大きく低下するレイヤーである。オピニオンリーダー、認識論的権威(epistemic authority)を持つ機関、集団間コミュニケーションの仲介者など、レイヤー間の連携に深く関与するノードは、構造的連結点として機能する。

それらの正当性の喪失、乗っ取り、あるいは無力化は、認知的連結性を断ち切り、機能的な複雑性から断片化された矛盾(incoherence)への移行を示す連鎖的なデコヒーレンスを引き起こす可能性がある。

このように、多重モデル(multiplex model)は、認知的脆弱性を分析するための作戦上のフレームワーク(operational framework)を提供するものであり、システムの種類に応じて影響戦略を区別し、重要な結節点や連関を特定し、連鎖的な不安定化のシナリオを予測することが可能である。

これは、単なる構造の維持ではなく、認知的一貫性(cognitive coherence)の維持およびシステムの不変的な組織のレジリエンスに向けた適応的防衛戦略の構築に向けた基盤を提供するものである。

4.3システミックな効果(systemic effect)としての認知的デコヒーレンス

前節で紹介した多重アーキテクチャ(multiplex architecture)に基づけば、認知的デコヒーレンス(cognitive decoherence)は、効果的なレイヤー間破壊がもたらすシステミックな結果(systemic outcome)として定義することができる。高度に中央集権化された体制においては、デコヒーレンス(decoherence)は通常、情報エントロピーによって支配的な解釈レイヤーを不安定化させることによって誘発され、それによって体制の認識論的独占が崩壊する。

対照的に、多元的な民主主義においては、レイヤー間の一貫性が侵食されることによって脱整合が生じることが多く、その結果、認識論的検証、制度的信頼、アイデンティティの統合、目的論的志向の間の「結合組織」が事実上損なわれることになる。いずれの場合も、そのメカニズムはレイヤー間の依存関係によって媒介される。なぜなら、擾乱(perturbations)は接続ノードを通じて伝播し、局所的な混乱をシステム全体の認知的完全性(cognitive integrity)の喪失へと変換するからである。

「認知的デコヒーレンス(cognitive decoherence)」というコンセプトは、多重アーキテクチャ(multiplex architecture)に対して認知的影響が及ぼされることによって生じる、特定のシステミックな効果(systemic effects)を指す。デコヒーレンス(decoherence)とは、システムの不変要素間の一貫性が失われる現象であり、これにより多重構造の各レイヤーは局所的には機能し続けるものの、整合的な全体を構成しなくなる。システムは信念、価値観、アイデンティティ、制度といった構成要素を保持するものの、それらの統合性を失うため、協調的な行動の方向性を示すことのできる統一された意味論的秩序へと融合しなくなる。

デコヒーレンス(decoherence)のメカニズムは、連鎖的な性質を持っている。あるレイヤーで引き起こされた一次的な擾乱(perturbation)ー例えば、主要な認識論的権威(epistemic authority)の信用失墜や、対立するアイデンティティのナラティブの登場などーは、レイヤー間の接続点を通じて、隣接するレイヤーへと伝播していく。

知識の源泉(認識論的レイヤー)に対する信頼の喪失は、選択肢の評価(価値論的レイヤー)における不確実性を生み出し、それがひいては集団的な選択と調整(社会的レイヤー)の根拠を揺るがし、望ましい将来に関する共有された認識(目的論的レイヤー)を徐々に崩壊させていく。ある不変要素が崩壊すると、他の要素もその意味論的根拠を失うことになるため、こうした各段階の移行は、不安定化をさらに深刻化させる。

このプロセスの非線形性により、特定のリンク構成下では、比較的弱い初期の擾乱(perturbation)が、それに見合わないほど大規模な影響を引き起こす可能性がある。これは、複雑系理論において「臨界状態の遷移(critical transition)」として知られる現象である[46]。

現象学的に見れば、認知的デコヒーレンス(cognitive decoherence)は、一連の特徴的な症状として現れる。意思決定のレベルでは、共通の評価フレームワークが欠如しているために、意思決定の麻痺、あるいは互いに相容れない選択肢の間での混沌とした揺れ動きとして現れる。アイデンティティのレベルでは、互いに敵対するグループへの分裂として現れ、各グループは自らがシステムの「真の」アイデンティティを体現していると主張する。

時間的指向性のレベルにおいて、これは将来に対する共通の展望の喪失として現れ、統一された目的論的ベクトルが、互いに相容れない多様な展望へと解体される形で表れる。システムは、「我々は誰か」「何が真実か」「我々は何を追求するのか」といった問いに対して答えられなくなる。それは答えが存在しないからではなく、答えが多すぎて、それらが互いに排他的なためである。

認知的デコヒーレンス(cognitive decoherence)は、適応システムの2つの重要な特性であるレジリエンスとトランスモルファンス(transmorphance)の対極に位置する。レジリエンスとは、不変の構造を維持しつつ擾乱(perturbation)を吸収するシステムの能力容量を指す。トランスモルファンス(transmorphance)[37]とは、アイデンティティを失うことなく、根本的な構造的変革(structural transformation)を遂げる能力容量を指す。

いずれの能力も、不変要素の一貫性(coherence of invariants)を前提としている。なぜなら、システムは、適応的変化と崩壊とを区別することを可能にする内部の一貫性を維持している場合にのみ、適応することができるからである。したがって、デコヒーレンス(decoherence)とは、戦略的な自己決定、発展、適応、および自己防衛の能力容量として理解される、システムの「認知的主権」が不可逆的に弱体化する一形態である。

デコヒーレンス状態(state of decoherence)にあるシステムは、物理的に破壊されるわけではないが、意味のある自律性を発揮する能力容量を奪われている。独自の一貫性あるベクトルを欠いているため、その混沌を一時的に構造化できるあらゆる外部からの影響を受けやすくなってしまう。

認知戦において、敵対者の戦略的目標となるのは、まさに認知的デコヒーレンス(cognitive decoherence)の誘発である。ターゲット・システムが内部から自らを破壊し、抵抗の能力容量を失ってしまうという状態は、単なる比喩ではなく、認知的影響が向けられる特定のシステミックな効果(systemic effects)の描写である[41]。

NATO連合軍変革コマンド(NATO ACT)に関する議論では、この脅威が認識されており、防衛の戦略的優先事項として認知的レジリエンスを育成する必要性が強調されている。本研究で提案された理論的フレームワークは、この課題の実践化を可能にするものである。すなわち、認知戦に対する防衛とは、特定の信念やナラティブを防護することではなく、システムが有意義な自律統治と適応的変革(adaptive transformation)を行う能力容量の基盤となる不変の構造の一貫性(coherence of the invariant structure)を維持することである。

このフレームワークの実践的な応用例については、補足情報[48](例Aおよび例B)を参照のこと。そこでは、多元的な民主主義体制と高度に中央集権化された権威主義体制の双方において、不変要素の崩壊から認知的デコヒーレンス(cognitive decoherence)に至るまでの経路を示す、2つのシナリオに基づく具体例が紹介されている。

4.4認知戦における存在論的特性としての不可視性

前述の分析を踏まえ、我々は、認知戦が、その本質的な不可視性によって定義される点において、他の形態の対立とは根本的な存在論的差異を有すると論じる。現在、NATOは陸、海、空、宇宙、サイバー空間の5つの作戦ドメインを公式に認めている[47]。認知ドメインは、潜在的な第6の作戦ドメインとして議論されている[9]が、公式なドクトリンにおけるその制度化については依然として議論の余地がある[10]。

これら5つの認識されているドメインを分析すると、いずれのドメインにおける攻撃も、原則として検知可能であるという点に共通の特徴が見られる。陸上ドメイン、海洋ドメイン、空のドメインにおけるキネティックな行動(kinetic action)は、無視できない物理的な破壊をもたらす。宇宙作戦は一般の人々には目に見えにくいものの、専用の監視システムによって記録される。

サイバー攻撃は(例えば「高度持続的脅威(APT)」のような形態で)しばらくの間は潜在的な状態にある場合があるが、システムの誤動作、データの流出、あるいは物理的インフラの機能停止といったその影響は、やがて顕在化し、攻撃が行われた事実が明らかになる。

対照的に、認知戦は質的に異なる現象である。その本質的な特徴は、構成的な不可視性にある。すなわち、それは単なる戦術的優位性(隠蔽)としてではなく、存在論的な特性として備わっている。認知的影響のターゲットは、自分が攻撃されたことに気づくことさえ決してないかもしれない。

さらに、従来の意味での「攻撃」というコンセプトそのものが、ここではそのコンセプト的な説得力を大きく失っている。なぜなら、ターゲットは、疑念、価値観の再評価、アイデンティティの変革、制度への信頼の喪失といった誘発された変化を、自らの有機的なプロセスとして、また自らの見解が表向きには「自然な」進化を遂げた結果として体験するからである。

この存在論的構成形態(ontological configuration)は、認知戦を他の対立形態とは明確に区別する一連の特異な含意を生み出す。第一に、そこには明確な開戦事由が存在しない。従来型のドメインにおいては、実際にはその境界が曖昧であっても、平和の状態(state of peace)と戦争の状態(state of war)の間には依然として識別可能な境界線が存在する。すなわち、爆撃、侵攻、あるいは重要インフラに対する大規模なサイバー攻撃などは、対応を要する侵略行為として認識される。

認知戦は、戦争行為(act of war)として認識されるような明確な、出来事としての閾値を超えることはめったにない。それは、たとえ国家の「専管事項(domaine réservé)」に対する強制的な介入に相当する場合であっても、武力紛争の閾値を下回るグレーゾーンにおいて展開される。武力紛争の閾値を下回るグレーゾーンで継続的に行われるため、ターゲットは「戦争」が始まったという明確なシグナルを受け取ることができず、その結果、防衛体制を適時に整えることができない。

第二に、認知戦は主体性の逆転をもたらす。キネティックな紛争(kinetic conflict)において、被害者は自らが外部からの暴力の対象であることを自覚している。対照的に、認知戦においては、ターゲットは自らを自身の意思決定の主体として体験し、それによって外部から誘導された結論に「到達」し、操作によってあらかじめ構造化されたアーキテクチャに基づいて信念を「形成」する。影響の対象を仮定上の主体へと変革させるこの逆転こそが、攻撃の不可視性を支えるメカニズムそのものである。

第三に、認知戦はその影響が現れるまでの遅延性によって特徴づけられる。キネティックな影響(kinetic influence)は即座に結果をもたらすが、サイバー攻撃の影響は数時間から数日遅れて現れることが多い。認知的な影響は、数ヶ月あるいは数年経ってから現れることもある。制度への信頼の浸食、アイデンティティの断片化、そして価値論的合意の崩壊は、世代単位の時間軸で進行するプロセスである。このため、介入と結果の間の因果関係を確立すること、すなわち帰属の特定は極めて困難であり、原則として政治的な争点となる。

最後に、認知戦には、従来型の終結の明確な指標が存在しない。伝統的な戦争は、降伏、休戦、あるいは条約によって終結する。デュ・クルゼル(Du Cluzel)が指摘するように、認知戦は「この種の紛争には和平条約や降伏という形が存在し得ないため、潜在的に終わりのないものとなり得る」[40]。いったん誘発されると、不整合状態は内発的に再生産される可能性がある。なぜなら、不変要素間の一貫性を失ったシステムは、それ以上の外部刺激がなくても、惰性によって崩壊し続ける可能性があるからである。

提案されている多重モデル(multiplex model)において、認知戦が不可視である理由は、影響力が主にネットワークのノード(行為主体(actors))に向けられるのではなく、レイヤー間の連結、より具体的には意味形成のアーキテクチャそのものに向けられているという事実によって説明される。行為主体(actor)は機能し続け、主観的な自律性を保ち、いかなる介入も感知しない。変化するのは、意識の内容(特定の思考)ではなく、その内容が世界の一貫した像として組織化されるための構造である。

この存在論的な区別は、防衛戦略に直接的な影響を及ぼす。攻撃が不可視である場合、従来の「検知→帰属→対応」という一連の流れは適用できなくなる。したがって、認知戦に対する防衛には、事後的な脅威対応から、不変の一貫性を先制的に強化する方向への転換が必要となる。これこそが、NATOの戦略的議論において「認知的レジリエンス」としてますますコンセプト化されつつあるものである。

5. 議論

本研究で提案されたコンセプト的フレームワークにより、認知戦に関する従来の定義を再検討し、構造中心の視点(structure-centric perspective)を統合した新たな定義を提示することが可能となる。

認知戦について最も広く引用されている定義は、クラヴェリー(Claverie)とデュ・クルゼル(Du Cluzel)によるものである。「認知戦とは、サイバー・ツールを用いて敵の認知プロセスを変革させ、心理的バイアスや反射的思考を利用し、思考の歪みを誘発し、意思決定に影響を与え、行動を阻害する、非従来型の戦いの形態であり、個人レベルおよび集団レベルの両方で悪影響を及ぼすものである」[7]。この定義は、認知的効果が行動の副産物ではなく、その直接的な目標であるという点において、認知戦と情報戦の重要な相違点を捉えている。

NATOの実用的な定義は、その手段的側面を前面に打ち出している。「認知戦とは、敵対者に対して優位性を獲得するため、個人、集団、あるいは国民全体の認知に影響を与え、防護し、あるいは混乱させることによって、態度や振舞いに変化をもたらすよう、他の権力手段と連動して行われる活動を含む」[3]。バッケス(Backes)とスワブ(Swab)は、より簡潔な定義を提示している。「認知戦とは、ターゲットの人々の思考様式を変革させることに焦点を当て、それによってその行動様式を変革させる戦略である」[40]。

これらの定義は、その発見的有用性にもかかわらず、攻撃の対象を明示的に規定することなく、プロセス(認知の歪み、意思決定、振舞い)を前面に押し出しているという点で、共通の限界を抱えている。「認知プロセス」が攻撃される際、具体的に何がターゲットとされているのか。この問いに対し、既存の定義は体系的な答えを提示できていない。

本研究で開発された構造中心のアプローチ(structure-centric approach)により、別の定義が可能となる。

認知戦とは、社会技術的システム(socio-technical system)の不変要素―すなわち、一貫した機能を支える認識論的、価値論的、識別的、社会的、目的論的構造(共有された真実の基準、価値の階層(value hierarchies)、アイデンティティの境界、信頼のアーキテクチャ、そして将来像)―を意図的にターゲティングするものである。これは、システムの多重アーキテクチャ(multiplex architecture)内のレイヤー間連携を利用することで行われ、認知的デコヒーレンス(cognitive decoherence)―すなわち、自己理解の一貫性、協調的な行動、および適応的変革(adaptive transformation)のシステミックな喪失(systemic loss)―を誘発することを狙いとしている。その本質的な特徴は「構成的不可視性」にあり、これは、ターゲットが誘発された変化を、外部からの介入の結果ではなく、内発的かつ「有機的」なものとして体験することを意味する。

このコンセプト化には、いくつかの明確な分析上の優位性がある。それは、攻撃の対象(安定した構造的基盤としての不変要素)を明らかにし、そのメカニズム(レイヤー間の結合を介した連鎖的な伝播)を特定し、目標をシステミックな用語(systemic terms)(認知的デコヒーレンス(cognitive decoherence))として明確に示すものである。

また、本書は認知戦と情報戦を区別している。後者が主にコンテンツの真実性を争うのに対し、前者はあらゆるコンテンツが解釈される仕組みそのものをターゲットとする。最後に、本書はトポロジー、接続ノード、およびレイヤー間依存関係に分析の焦点を当てることで、異なる種類の社会技術的システム(socio-technical systems)における影響戦略の作戦上の差別化(operational differentiation)を支持している。

提案されたアプローチの限界は、主にその抽象化の度合いにある。多重モデル(multiplex model)を実証的に適用するには、レイヤー間の接続性を示す指標、接続ノードを特定する方法、および認知的一貫性(cognitive coherence)の測定基準など、さらなる具体化が必要である。これらの課題は本研究の範囲を超えているため、今後の研究に向けた明確な課題として位置づけられる。

6. 結論

本研究では、認知戦に関する構造中心のコンセプト的フレームワーク(structure-centric conceptual framework)を提示し、分析の焦点を、効果、行為主体(actors)、技術から、認知的脆弱性の構造的基盤へと移行させた。この分析の中心にあるのは、社会技術的システム(socio-technical systems)の不変要素とその相互接続のアーキテクチャ、具体的には、認知的一貫性(cognitive coherence)、戦略的アイデンティティ、および適応的変革(adaptive transformation)の能力容量を支える構成である。

主な調査結果は、次のように要約できる。

第一に、認知戦は、不変の構造、すなわち、システムの認知アーキテクチャの存在論的な基盤となるフレームワークを構成し、不確実性や外部からの圧力下における有意義な自律統治の能力容量を規定する、認識論的、価値論的、アイデンティティ的、社会的、目的論的基盤を意図的にターゲティングするものとして、そのコンセプトが再定義された。

第二に、提案された認知アーキテクチャの多重モデル(multiplex model)は、厳格に中央集権化されたシステムと適応的な多重システムという両者において、影響戦略の区別と具体化を可能にする。前者の場合、攻撃の主要なベクトルは支配的なレイヤーにおける情報のエントロピーを高めることにあり、後者の場合はレイヤー間の一貫性を破壊することにある。この区別は、差別化された認知防衛戦略の策定において、単なる理論的な意義にとどまらず、実践的な意義も持つ。

第三に、本研究では、敵対者の影響が向けられるシステミックな効果(systemic effects)として、「認知的デコヒーレンス(cognitive decoherence)」というコンセプトを導入した。デコヒーレンス(decoherence)とは、個々の構成要素の断片的な機能は維持されたまま、システムが自己を首尾一貫して記述し、戦略的な行動を取り、適応的に再構成する能力容量を失う状態を指す。これは破壊を意味するのではなく、統治する側から統治される側へとシステミックな移行(systemic shift)を示す、内部的な崩壊を意味する。

第四に、本研究は、認知戦が本質的に不可視であり、ターゲット・システムの有機的な自己発展を模倣する能力容量を有することから、認知戦と他の形態の対立との間に存在論的な相違があることを明らかにした。影響力は、認識されない限りにおいてこそ効果を発揮する。その帰結は、内発的な進化として体験される。これにより、従来の「検知-帰属-対応」という三要素モデルは適用不能となり、システムミックな安全保障(systemic security)の条件として、認知的一貫性(cognitive coherence)の能動的な維持に向けた方向転換が求められる。

本稿で構築したフレームワークの実践的意義は、個別の情報的脅威に対する事後的な対応から、認知的脆弱性のシステミックな診断(systemic diagnosis)へと移行することを可能にする点にある。このような診断には、レイヤー間接続性の指標、構造的接続ノードを特定するための方法論、およびシステムのレジリエンスとトランスモルファンス(transmorphance)を評価可能な認知的一貫性(cognitive coherence)の測定基準の開発が前提となる。これらの方向性は、複雑系理論、社会心理学、サイバネティクス、神経生物学、戦略的分析、および情報セキュリティの交差点における今後の研究課題を提示するものである。

7. 参考文献