アレクサンドル・スヴェチンの戦略における陣地戦 (ISW)

先般まで、「陣地戦(positional warfare)」に関する論稿を紹介している。それらの論稿で引用されていた中に、作戦術(operational art)という言葉と初期のコンセプトを導入したことで有名なアレクサンドル・スヴェチンというロシア帝国、ソ連時代の軍人がいる。ここで紹介するのは、そのスヴェチンの著書「Strategy」で論じられている「陣地戦(positional warfare)」についての戦争研究所(ISW)のサイトにある論稿である。この著作では「陣地戦(positional warfare)」について最も詳細かつ洞察に満ちた議論されているとし、陣地戦を引き起こす要因、それを特徴づける戦闘などについて論じている。「陣地戦(positional warfare)」と聞くと、固定的な陣地を構築した戦いをイメージしてしまうが、相対する部隊間に形成される“positional front”を解き明かすことで、「陣地戦(positional warfare)」についての理解が深まると考えるところである。(軍治)

アレクサンドル・スヴェチンの戦略における陣地戦

POSITIONAL WARFARE IN ALEXANDER SVECHIN’S STRATEGY

Pieter Garicano, Grace Mappes, and Frederick W. Kagan

WAR STUDIES OCCASIONAL PAPER SERIES – ISW

2024.4.30

はじめに

ロシアのウクライナ戦争の性質に関する議論では、紛争の状況を表すために「膠着状態(stalemate)」や「消耗的(attritional)」といった用語がますます用いられるようになっている。両用語は第一次世界大戦の西部戦線と類似しており、完全に不正確ではないが、やりすぎると誤解を招くことがある。現在のロシアのウクライナ戦争は、どちらの側もこれ以上の進展を遂げられない段階に達しているという意味での膠着状態ではない。また、厳密に言えば「消耗的(attritional)」でもない。

消耗的戦争(an attritional war)とは、消耗そのものが勝利のメカニズムとなる戦争のことだ。つまり、一方の側が損失(losses)を通じて相手を消耗させて勝利を狙う。ドイツ軍は1916年のヴェルダンの会戦(Battle of Verdun)で明確に消耗的戦役(attritional campaign)を展開した。しかし、ロシアもウクライナも現時点では、敵対者に大きな損失を与えて勝利しようとはしていない。むしろ、彼らは「陣地的(positional)」と表現するのが最も適切な一種の戦争に従事している。

陣地戦争(positional war)は比較的静的な前線と動きをほとんど生み出さない通常の戦闘が特徴だが、その狙いは一般的に、着実ながらも小さな前進によって前進を図るか、戦場の機動性(maneuver)回復のための条件を作ることである。本エッセイは、ソ連軍事理論家アレクサンドル・スヴェチン(Alexander Svechin)が1926年の著作「戦略(Strategy」で示した、「陣地戦(positional warfare)」に関する最も詳細な考察の一つを探求する。この著作はソ連、ロシア、ウクライナ軍に影響を与えている。これは現在の紛争とその予想される経路に対する私たちの理解に重要な修正を提供する。

陣地戦とは何か?

元ウクライナ最高司令官ヴァレリー・ザルジニ(Valerii Zaluzhnyi)将軍は、2023年11月のEconomistのエッセイで、ウクライナ戦争が「陣地戦(positional warfare)」の段階に達していると評価した[1]。「陣地戦(positional warfare)」は西洋の軍事思想において定義が曖昧で理解が浅い。陣地戦は「膠着状態(stalemate)」を意味するのではなく、比較的静的な前線と攻撃が特徴で、わずかな成果しか生み出さない一時的な戦いの段階である。

陣地戦は、戦闘員(combatant)が敵の防御線を突破し、その突破口を突いて大きくかつ迅速な前進を目指す機動戦(maneuver warfare)とは対照的である。陣地戦争(a positional war)の戦闘員は、局地的な交戦や「物質的な会戦(material battle)」を通じて戦術的・戦略的な戦場効果を達成できるが、多くの場合、ザルジニ(Zaluzhnyi)将軍のエッセイのように機動の戦争(maneuver war)の回復をしようとすることに焦点をおくのが正当である。

ソ連の軍事理論家アレクサンドル・スヴェチン(Alexander Svechin)は、陣地戦(positional warfare)について最も詳細かつ洞察に満ちた議論を提供し、機動の回復を試みながらも闘争の陣地的段階で成果を上げる方法について提案している。スヴェチン(Svechin)と彼の1926年の著戦略(Strategy」は、ソ連およびポスト・ソ連の軍事思想に大きな影響を与えた。

1990年代初頭以降、著名なソ連およびロシアの軍人たちが著作や演説でスヴェチンを引用しており、最後のソ連参謀総長ウラジーミル・ロボフ(Vladimir Lobov)将軍や現ロシアの参謀総長である軍のヴァレリー・ゲラシモフ(Valery Gerasimov)将軍も含まれる[2]。したがって、スヴェチンの著作は、ウクライナにおけるロシア戦争の戦闘員たちが現在の戦場状況をどのように理解しているかについて、意味のある洞察を提供している可能性が高い。

スヴェチンは戦略(Strategyにおける陣地戦のコンセプトを明確に定義していないしかしながら、彼は陣地戦を引き起こす要因、それを特徴づける戦闘、そして指揮官が戦線(positional front)をどのように突破できるかの概要を提供している。スヴェチンのソ連およびポストソ連圏での顕著な影響力と、最近の主要な軍事紛争では見られない戦いの形態の詳細な議論は、ウクライナの現状の戦線(positional front)を理解しようとする西側の軍事思想家にとって特に有益なものとなっている。

スヴェチンによる、陣地戦を引き起こす要因

陣地戦は外部と内部の条件の両方の産物である。スヴェチンは、戦闘員の目標と能力を、戦争が陣地的な形態を取る二つの主要な要因であると指摘している。戦場指揮官は、積極的な目標(positive objectives)または消極的な目標(negative objectives)のいずれかを追求する[3]。積極的な目標は現状を変えようとし攻撃的であり、消極的な目標は敵が積極的な目標を追求する能力を奪うことを目指す[4]

陣地戦には二つの積極的な目標がある。戦線(positional front)を維持しつつ敵に圧力をかけること、または戦場の機動の回復を意図した作戦を行うことである[5]。スヴェチンはまた、消極的な目標が戦略的防御に貢献しうると主張し、敵の攻撃に対する防御と資源の節約のバランスが必要だと主張している[6]

消極的な目標を追求することは、戦争が陣地的な形態を取る可能性を高める。両陣営が消極的な到達目標を追求すれば、陣地戦はほぼ確実になる[7]。連合戦争はまた、戦線(positional front)形成の可能性を高める。なぜなら、連合加盟国は自国の資源や戦闘能力を他の狙い(後の攻勢の取組みや戦闘員に和平交渉を強制するため)を自らの資源や戦闘能力を節約しようと、個別に消極的な到達目標を追求することがあるからである[8]

防御作戦ではなく攻勢の取組みのための準備をしているという「錯覚(illusion)」は、陣地戦を助長することがある[9]。指揮官は特定の地域で防御に留まることを認めず、代わりに前線での攻勢作戦再開の準備をしていると主張することがある。この考え方は、実際には防御的なままの軸の資源節約を妨げ、機動の回復に必要な真の攻勢作戦のための資源集中を弱めてしまう。

能力の欠如や積極的目標を追求できないことも、戦線(positional front)形成に貢献する。紛争の一方または複数の陣営で物資不足が生じると、戦闘員は攻撃能力を使い果たし、陣地的闘い(positional fighting)に突入することがある[10]戦略(Strategy)には、戦前の準備不足、困難な地形での兵站の不備、人員と攻撃力の枯渇、機動力の制限のある部隊による海上上陸の試みなど、紛争双方における物資不足の歴史的事例や複数の原因が含まれている[11]。陣地戦への移行は、部隊編成が休止・再編成される間、時に一時的なものである。

技術開発、特に技術の均衡は、戦線(positional front)の発展を促進することも可能である。スヴェチンは、主に鉄道や通信技術などの近代技術が第一次世界大戦における戦線(positional front)の構築を可能にしたと主張している[12]。鉄道は防御にあった大軍が徒歩の攻撃者よりも速く遠くまで移動できるようにし、軍司令部が敵の突破に備え、敵の機動を防ぐ防御前線を構築・維持することが、攻撃側が突破口を突くよりも容易になった[13]

スヴェチンは鉄道が戦場の両側に「均質化(equalizing)」効果をもたらしたと指摘している[14]。彼は、通信技術の均衡もこの均質化効果に貢献しており、20世紀初頭の通信技術は固定回線を必要とすることで静的な位置を優先していたため、この均質化効果に貢献したと付け加えている。

スヴェチンは、戦場の地理的特徴が陣地戦の可能性を低くすると考えている。戦略的な縦深や広大な後方地域を欠く小国は、長期間にわたり戦線(positional front)を維持するための資源を生み出せない[15]。スヴェチンは、これがヴェルサイユ条約後のドイツにも当てはまると主張し、第二次世界大戦前に、条約によってドイツの国境が再編され、陣地戦が不可能となり、ドイツが代わりに攻勢作戦の準備を「物理的に必要(physically necessary)」としていると述べている[16]

防衛には使い捨ての領土と時間が必要であり、大国は一時的に数百から数千平方キロメートルを失うことを許容できる一方で、小国は防衛のために外部からの支援に依存する[17]。突破を防ぎ、積極的な目標を追求するための必要な質量を生み出すことは、戦闘員が戦争の取組みを支えるために必要な産業的縦深と後方地域を有しているときに容易になる[18]

したがって、能力、目標、地理、そして一般的な技術が陣地戦の開始を決定する。外部要因が重要な場合がある。戦闘員が戦闘中ずっと機動を維持しようとしても、外部の状況や不利な判断は陣地的闘い(positional fighting)を引き起こす可能性がある。

陣地戦の特徴

陣地戦は局地的な交戦と消耗的会戦(attritional battles)を特徴とし、比較的静的な前線の文脈でも戦術的・戦略的な効果を生み出すことがある[19]。戦線(positional front)で闘う部隊は、敵が積極的な到達目標を達成するのを防ぐために要塞や大規模部隊を用いており、スヴェチンは各戦闘員が敵の正面に「寄りかかろう(lean)」と表現している[20]。静的戦線の存在と機動の不在は、スヴェチンの陣地戦コンセプトの本質的要素である。静的戦線は戦闘自体が動的でないという意味でも、戦闘員がこの戦闘を通じて優位性や主導性を得られないという意味でもない。

局地的な会戦(local battles)とは、敵が得る「位置的(positional)」な静けさを乱すことを狙いとした戦術的な戦闘である。これらの取組みには夜間急襲火力や狙撃火力が含まれ、敵が前方の防御線で成功裏に作戦を行うことを困難にする[21]。スヴェチンは、これらの取組みが敵に大きな損害を与え、敵に前線全体の兵力密度を増強させることができると主張している[22]

陣地戦の局地的な会戦(local battles)は、単独で作戦的または戦略的効果をもたらすことはできない。戦闘員は代わりに、「物質的な会戦(material battle)」と呼ばれる一連の「戦略(Strategy」を通じて、戦線(positional front)で戦略的目標を追求する。この「物質的な会戦(material battle)」は、狙いを定めないか、あるいは戦線(positional front)の機動の回復を試みて失敗する作戦レベルの攻勢の取組みにおいて最も起こりやすい結果である[23]

戦闘員は領土拡大ではなく、敵の部隊を固定・破壊することで「物質的な会戦(material battle)」で敵を打ち負かそうとする。「物質的な会戦(material battle)」とは、規模が拡大し、敵の犠牲を最大化し自軍の犠牲を最小限に抑えることを狙いとした局所的な会戦の集合体である[24]。「物質的な会戦(material battle)」は、敵を兵站拠点、工業地帯、港湾都市、または情報的・文化的価値のあるその他の作戦的または戦略的アセットに縛り付けることで、不利な交換で敵に予備金や資源の浪費を強いろうとする[25]

「物質的な会戦(material battle)」を行う戦闘員は、機動戦(maneuver warfare)ではなく有利な相対的な消耗(relative attrition)によって敵部隊を壊滅させる。戦闘員は数か月にわたり「物質的な会戦(material battle)」を戦い、領土拡大で敵を打ち負かすことよりも、自軍の損失よりも敵に大きな損失を与えることを優先することを選ぶかもしれない[26]

戦線(positional front)は大規模な機動作戦(maneuver operations)に必要な人員や物資が少なくて済み、これにより戦闘員は後に戦線(positional front)を突破するための作戦的または戦略的予備を作戦的に構築できる。スヴェチンは、戦闘員が前線に投入する兵力を防衛維持に必要な最小限に削減し、余剰から予備兵力を形成できると指摘している[27]。軍司令部はまた、前線の特定地域から部隊を撤退させ、撤退した部隊から予備部隊を編成することも可能である[28]

スヴェチンによる第一次世界大戦におけるソ連戦略予備隊の創設の例は警告であり、ソ連指揮官は会戦準備が整った編成を戦線(positional front)に配備し、平凡な部隊を上級軍司令部に従属させて戦闘作戦を遂行させた[29]。スヴェチンは、「物質的な会戦(material battle)」は敵が作戦的または戦略的な予備を築く機会を明確に奪い、友軍部隊が自ら予備を作れるようにしようとしていると指摘している。

陣地戦は戦闘員が高官の軍事指揮をますます中央集権化し、敵を最も効果的に攻撃するために部隊編成を促すことがある。スヴェチンは、陣地戦により、作戦のテンポが短縮されることで情報が上層部に届き、命令が前線に届く時間が与えられ、戦場状況が大きく変わることなく、上層軍司令部が作戦レベルの意思決定を行うことができると主張している[30]

過度に集権化された上位軍事司令部からの決定は、機動戦の急速なペースには遅すぎる可能性が高いが、陣地戦のテンポが低くなっているため、最高司令部は前線指揮官を迂回し、場合によっては弱体化させることさえ可能にしている。「幻想のない知的(illusion-free and intelligent)」な高官軍司令部は、指揮の過度な中央集権化による無秩序を克服し、敵を不利な状況で戦域全体に展開させるために兵力を配置できる[31]

スヴェチンはまた、軍司令部は陣地戦中に「休止(idle)」状態になる輸送部隊のような軍事組織を一時的に縮小する必要があると主張し、必要な人員が減ったにもかかわらず前線を配置する追加の編成が必要だと主張している[32]。これらすべての変更は、軍の機動戦再開能力を損なうものであり、意図的であれ意図的であれ、長期的な陣地戦へのコミットメントを生み出す可能性がある。

陣地戦は、前線の二次セクターを機動戦の場合よりも重要にする。しかしスヴェチンは、軍の指揮官が戦線(positional front)における特定のセクターの価値を過大評価しがちだと警告している[33]。戦闘員は、その地域の地理的価値に注目する傾向がある。なぜなら、その地域の兵站や地形的特徴が、機動戦の期間に比べて異なるセクター間の差が小さくなるからである[34]

これらの特徴工業の中心地、重要な道路の交差点、鉄道路線などは戦闘員に対し、これらの前線セクターを他のセクターよりも守らせる「強制(compel)」となる。スヴェチンは、1914年にイギリス海峡がフランスとベルギー間の戦線(positional front)で最も重要なセクターとなったことを指摘している。これは、ドイツにとってイギリスがフランス北部沿岸を確保するのを防ぐための作戦・戦略的封鎖能力の重要性からである[35]

陣地戦からの突破

スヴェチンは、特に敵の「物質的な会戦作戦(material battle operations)」に対抗する戦闘員にとって、「物質的な会戦(material battle)」はコストがかかるため、戦闘員はその関与を避けたいと考えるかもしれないと指摘している。陣地戦にとどまる代わりに、戦場の機動の回復することが代替案である。スヴェチンは、戦闘員が戦線(positional front)を突破したり交戦条件を変えたりすることで戦場での機動性を回復できると主張する。

戦闘員は物理的・政治的な地理的条件を活用して機動の回復を助けることができる。例えば、より有利な地形に撤退すると、敵は防御が難しい地形に入りやすくなり、そこでは機動が容易で、戦線(positional front)を安定させるのが難しくなる[36]。戦闘員は、以前戦場に含まれていなかった地形を利用して戦線(positional front)を乱すこともできる。この地形には、かつて中立国家に属していた土地や紛争の範囲外の地形を含む場合がある。

陣地戦争(a positional war)における戦闘員は、彼らの指揮を過度に集中させすぎて敵が防御線を突破した際に適切に対応できなくなる罠に陥らないようにしなければならない。陣地戦が過度に集権的な指揮(an overcentralized command)を好む傾向があることを認識した知識豊富な軍司令部は、これらの異なる要件に対応し、指揮の目標、敵の目標、そして戦場の現状に応じて適切にバランスを取ることができる。

陣地戦における軍事指揮の過度集中傾向や、戦線(positional front)が静的な兵站能力を必要とするという事実は、敵の指揮システムを混乱させる突破を可能にし、作戦上の影響を生み出す。突破口を開いた戦闘員は、敵が軍事司令部を過度に集権化し、兵站インフラを制限し、陣地戦に過度に最適化している場合、敵の指揮・統制構造や兵站組織を容易に破壊する可能性がある。

戦線(positional front)は内線を持つ戦闘員による戦略的行動にも有利である。戦略的予備を形成するために戦線(positional front)の優位性を取る戦闘員は、後にこの戦略予備を用いて敵の前線を突破し、戦場への機動性を取り戻すことができる[37]。戦線(positional front)は、特定の戦闘員がより少人数の兵力で敵の大量を固定し、解放された兵力を使って他の場所での作戦成功を収める機会を生み出す可能性がある。

スヴェチンは、これらの可能性の優位性を活かすために、部隊のあらゆるレベルで包括的な修正が必要だと強調している。このアプローチは前線の戦術、兵站、指揮・統制にも適用される[38]。軍司令部は、機動の回復という戦略目標に自軍の戦術訓練を整合させなければならない。

スヴェチンは奇襲を重視し、奇襲が陣地戦での成功と戦場の機動性の回復に不可欠であると論じている。スヴェヒンは、第一次世界大戦末期のドイツ軍の手法で最も重要な特徴は、戦場に奇襲を回復させることであったと主張している[39]。スヴェチンはこの奇襲が戦略的、作戦的、または戦術的なレベルで起こるかどうかを具体的に指摘していないが、戦術的および作戦上の奇襲は、敵の防御を突破し戦場の機動性を回復しようとする戦闘員にとって必要不可欠である可能性が高い。

結論

アレクサンダー・スヴェチン(Alexander Svechin)の「戦略(Strategy」でコンセプト化された陣地戦とは、地理的には静的でありながらも動的な機会とリスクを生み出す戦争の一段階である。この考え方は、「陣地戦(positional warfare)」や「静的前線(static front)」というコンセプトが呼び起こす現代の戦略的麻痺(strategic paralysis)の意味合いとは相容れない。戦線(positional front)での局地的な会戦(local battles)は、後の作戦成功を形作る鍵となり得る。消耗的物質的な会戦(the attri­tional material battle)は戦略的効果をもたらし、戦闘員が戦線(positional front)を崩すことなく戦場の優位性を獲得できるようにする。

スヴェチンは、陣地戦の成功が機動の回復(the restoration of maneuver)の条件を整え、それは戦術的・戦略的影響力の機会と同じくらい重要である可能性があると考えている。戦線(positional front)は、戦闘員に内側の線を設け、既存の線を迂回するために物理的・政治的地理的条件を活用する者にとって有利な条件を作り出す。陣地的闘い(positional fighting)に有利な集権的な指揮・統制(centralized command and control)は、準備が整い組織された戦闘員にとって初期突破の作戦的・戦略的成功の可能性を高めることができる。

予見された要因と予見されない要因の両方が戦争における戦線(positional front)の形成に貢献するが、戦線(positional front)は困難を伴いながらも必ずしも恒久的または静的であるわけではない。スヴェチンは「たとえ意志に反してでも、陣地戦に巻き込まれるのは簡単だが、そこから抜け出すのはそれほど簡単ではない」と指摘している[40]。この事実は、陣地戦に極めて困難かつ永続的な評判を与えている。スヴェチンの同時代人グレゴール・イッサーソン(Gregor Isserson)が「作戦術の進化(Evolution of Operational Art」で述べているように、「戦闘の陣地的形態(positional forms of combat)は恐ろしく、嫌悪感を抱くものだ。人々はまるで軍事的な疫病のようにそれらを拒絶する[41]」。

戦線(positional front)は、戦場で優位性を得ようとする戦闘員に義務を課し、機会を提供する。陣地戦とは、さまざまな危険や機会を伴う戦闘の一形態であり、部隊は成功のために特定の手段を必要とする。

スヴェチンの「戦略(Strategy」における議論は、特に現代の西洋軍事思想家にとって陣地戦のコンセプトに微妙な差異(nuance)と深み(depth)を加え、陣地戦は崩壊可能であり、戦闘員が機動戦を再開し、重要な作戦上の成功を収めることを思い出させてくれる。

ノート

[1] ヴァレリー・ザルジニ(Valerii Zaluzhnyi)著「現代陣地戦とそれに勝つ方法」The Economist、2023年11月1日、https://infographics.economist.com/2023/ExternalContent/ZALUZHNYI_FULL_VERSION.pdf

[2] 同時代のミハイル・トゥハチェフスキー(Mikhail Tukhachevsky)ほど有名ではないものの、「作戦術(operational art)」などのコンセプトを最初に提唱したのはスヴェチン(Svechin)である。ジェイコブ・W・キップ(Jacob W. Kipp)の「戦略(Strategy」序文(ミネアポリス、East View Information Services、1992年)、Loc 641。アンドリュー・モナガ(Andrew Monagham)著「モスクワはいかに戦争と軍事戦略を理解しているか」、Center for Naval Analyses、2020年11月、https://apps.dtic.mil/sti/trecms/pdf/AD1145613.pdf。ヴァレリー・ゲラシモフ(Valery Gerasimov)著「現代の状況下における軍事戦略の発展。軍事科学の課題」、ハロルド・オレンスタイン(Harold Orenstein)およびティモシー・トーマス(Timothy Thomas)訳(Army University Press、2019年11月)、https://www.armyupress.army.mil/journals/military-review/online-exclusive/2019-ole/november/orenstein-gerasimov/

[3] アレクサンダー・スヴェチン(Alexander Svechin)著「戦略(Strategy」(ケント・D・リー編、ミネアポリス、イースト・ビュー・インフォメーション・サービス、1992年)、Loc 6062。

[4] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6062

[5] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6187

[6] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6124

[7] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6061

[8] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6051

[9] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6160

[10] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6062; 6138

[11]スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6145

[12] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6084; 6297

[13] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 711; 1952

[14] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 1952

[15] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6084

[16] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6084

[17] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6091

[18] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6138

[19]戦略(Strategy」初版序文Loc 1635

[20] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6160

[21] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6648

[22] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6645

[23] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6666-6672

[24] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6655-6666

[25] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6655-6666

[26]スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6604

[27] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6187-6190

[28] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6160-6166

[29] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 8041-8042

[30] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 7627

[31] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6160-6166

[32] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 7836

[33] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6174

[34] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6174

[35] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6173

[36] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6187-6190

[37] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6160-6166; 6187-6190

[38] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 7627

[39] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6615-6618

[40] スヴェチン(Svechin)著「戦略(Strategy」Loc 6178

[41] グレゴール・イッサーソン(Gregor Isserson)著「作戦術の進化(Evolution of Operational Art」(Combat Studies Institutional Press: July 2013)108ページ