超低コストシミュレーションプログラムがパイロット訓練を強化-DOD NEWSews-
XR技術とは、VR(Virtual Reality:仮想現実)、AR(Augmented Reality:拡張現実)、MR(Mixed Reality:複合現実)と言われる技術の総称であるが、そのデバイスの進展はすさまじいものがあるといわれている。特に5Gの導入により特にエンターテインメント分野での普及が話題になっている。
このXR技術を軍事分野にも適用しようとする動きは以前からあったようだが、仮想化技術の進化による再現の忠実度や、その価格の低減傾向が、軍事における教育や訓練の場での活用が促進していると思われる。
ここで紹介するのは昨年12月8日の米国防総省のニュース記事である。記事中にある没入型訓練デバイス(immersive training devices)の没入させるような(immersive)という用語は、仮想環境であるが如何にも実際の環境下にあるような状況だと認識するようなという意味を持っているといえる。人間の脳にそのような状況だと錯覚させるようなことが最近の技術で可能となっているといえるのであろう。
HMD(Head Mounted Display)を装着した姿やシミュレーション映像を見て「あぁ、ウォーゲームね」と一笑に付す人がいれば、これらのデバイスやシミュレーションソフトウェアの持つ力をただ知らないだけなのかもしれないと思われる。
記事中に「リアルタイムの飛行訓練に取って代わるものではない」との表現があるが、そのとおりであろう。しかし、軍事の教育や訓練等に関するデジタル化の有用性は、場所を問わない、何度も繰り返せる、訓練の記録が容易である等々、リアルタイムの訓練を行うためのコストに比して安価である以上のものがあると真剣に取り組む時代に来ているのではないだろうか。
また、記事中にあるデジタルバックボーン(digital backbone)は、これらの新たな訓練用デバイスが、仮想現実のためのデータベースや、人工知能、機械学習などの機能と連携するために必要となる基盤なのであろう。(軍治)
超低コストシミュレーションプログラムがパイロット訓練を強化
Ultra-Low Cost Simulation Program Augments Pilot Training
DEC. 8, 2020 | BY DAVID VERGUN, DOD NEWS
現在、パイロット訓練をサポートするために、通常のコンピューターやラップトップ(デジタルバックボーンに接続された一連の没入型訓練デバイス(immersive training devices))にインストールできるシミュレーションプログラムが使用されている。
2020年12月7日、テキサス州サンアントニオ‐ランドルフ統合基地で統合没入型訓練システムを使用する米第19空軍第24派遣隊の参謀責任者の米空軍大尉クリスティン「スイッチ」ダーラム |
「伝統的に、パイロット飛行指導はシミュレーターと実際の飛行の組み合わせを含む」と、防衛イノベーション・ユニット(DIU)[1]のプログラムマネージャーの米空軍中佐エリック・フラームは言った。
しかし、国防総省全体でパイロットが不足しているため、1対1の訓練を行うことができる飛行指導員の数が制限されていると彼は述べた。また、シミュレーターは実際の航空機とほぼ同じくらいの費用がかかるため、シミュレーターを増設するのは法外な費用となる。
2020年12月7日、テキサス州サンアントニオ-ランドルフ空軍基地の統合基地で統合没入型訓練システムを使用する米第19空軍第24分遣隊の作戦副部長米空軍少佐ジェームズ「スクリーム」スティルワゴン |
デジタルバックボーンに接続された一連の没入型訓練デバイスは、シミュレーターやリアルタイムの飛行訓練に取って代わるものではないが、既存のシステムを強化し、訓練のペースを加速し、新しいパイロットの訓練コストを大幅に削減することを約束するものである。
デジタルバックボーンに接続された没入型訓練デバイスのソフトウェアによる範囲は、仮想現実、人工知能、機械学習、および市販のアイテムの組み合わせを使用したものまでに至ると彼は言った。ジョイスティックと同様のコントロールは、通常のUSB接続を使用してシステムに接続される。
学生はラップトップを家に持ち帰り、自分のペースで訓練、職場で使用したりできる。より洗練されたデジタルバックボーンに接続された一連の様々な没入型訓練デバイスの中には、特殊なゲーミングチェアとコックピットを模倣したリアルな飛行制御を備えていると彼は言った。
2020年12月7日、テキサス州サンアントニオ-ランドルフ空軍基地の統合基地で統合没入型訓練システムを使用する米第19空軍第24分遣隊の作戦副部長米空軍少佐ジェームズ「スクリーム」スティルワゴン |
AIを利用したソフトウェアにより、学生は指導官不在の中、自分で飛行を練習することができる。ただし、デジタルバックボーンに接続されたさまざまな没入型訓練デバイスは、事実上存在する指導官と一緒に使用することもでき、その指導官は多数の学生を同時に監視できるため、飛行指導官の工数を節約できる可能性がある。
「私たちがやろうとしているのは、指導を教師中心のモデルから学習者中心の訓練モデルに変更することである」と彼は言った。
防衛イノベーション・ユニット(DIU)は、業界と提携することにより、デジタルバックボーンに接続された一連の没入型訓練デバイスを生み出す米空軍の取り組みを支援したと彼は語った。 「我々は4つの異なる企業と提携した。それぞれが、このデバイスとそれをサポートする周辺のエコシステムを作成するために必要な、より広範な技術のコンポーネントをもたらした」
Vertex Solutionsは、専用のゲーミングチェアを含むソフトウェアとハードウェアを構築したと彼は語った。
Googleはクラウド基盤とサイバーセキュリティを提供している。これらのコンピューターは、クラウドに存在する多数のアプリケーションによって処理される膨大な数のデータをストリーミングしていると彼は語った。
2020年12月7日、テキサス州サンアントニオ‐ランドルフ統合基地で統合没入型訓練システムを使用する米第19空軍第24派遣隊の参謀責任者の米空軍大尉クリスティン「スイッチ」ダーラム |
CAE Inc.は、学生がデバイスを使用して学習する能力を監視し、全体的な訓練プロセスを管理する学習管理システム(LMS)を構築していると彼は言った。
Discovery Machine Inc.は、人間の指導官を補完し、学生が空中機動を行う際に監視および指導するAIベースの構造を構築していると彼は言った。
2020年12月7日、テキサス州サンアントニオ‐ランドルフ統合基地で統合没入型訓練システムを使用する米第19空軍第24派遣隊の参謀責任者の米空軍大尉クリスティン「スイッチ」ダーラム フライトシミュレーターのモニター画面で複製したコックピットを見ることができる |
来年(2021年)、防衛イノベーション・ユニット(DIU)はテキサス州のランドルフ空軍基地とオクラホマ州のバンス空軍基地に約50台のデバイスを配備すると彼は語った。これらのデバイスは、T-6およびT-38航空機で学生を訓練するために使用される。
「我々のチームは、システムがどのように機能するかを理解するために、毎日の指導官と学生から詳細なフィードバックを収集している」と彼は言った。「そのフィードバックを、ハードウェアの少なくとも3回の再設計とソフトウェアの数えきれないほどの見直しに組み込んでいる。最終的には、柔軟性、適応性、拡張性があり、パイロット部隊内での能力達成率を加速するシステムが必要となる 」
来年(2021年)、デジタルバックボーンに接続されたさまざまな没入型訓練デバイスが稼働するようになり、最終的にはプラットフォームを拡張して、リモートパイロット航空機を含むすべてのタイプの固定翼航空機とヘリコプターに訓練を提供することが目標である。
デジタルバックボーンに接続された一連の没入型訓練デバイスは、その前身である米空軍の次期のパイロット訓練プログラム(PTN:Pilot Training Next Program)によって学んだ教訓を利用していると、第19空軍の訓練担当の副責任者でパイロット訓練変革の革新・技術の責任者でプログラムマネージャーである米空軍中佐スティーブC.「タイガー」ブリオネスは述べた。
次期のパイロット訓練プログラム(PTN)は2018年にテキサス州オースティンで最初に設立され、2019年後半にランドルフ空軍基地に移転したとブリオネス中佐は語った。
現在、次期のパイロット訓練プログラム(PTN)卒業生の3つのクラスが、米空軍、米海軍、英国空軍および海軍全体の部隊で飛行していると、ブリオネスは述べている。
ブリオネス中佐は、学生と指導官は次期のパイロット訓練プログラム(PTN)に感銘を受けており、デジタルバックボーンデバイスに接続された新しい一連の没入型訓練デバイスは、それらを使用しない人よりもはるかに速く航空技能を向上させると考えている。
ノート
[1] 【訳者註】防衛イノベーションユニット(DIU)は、軍全体での商用技術の採用を加速し、国家安全保障イノベーションの基盤を拡大することにより、国家安全保障を強化する。DIUは、各軍種や構成部隊から各戦闘軍(combatant commands)や防衛機関に至るまで、国防総省(DoD)全体の組織と提携し、国家安全保障の課題に対処する高度な商用ソリューションのプロトタイプを迅速に作成して現場に投入している。 DIUは、シリコンバレー、ボストン、オースティン、および国防総省に事務所を構え、国防総省のパートナーと全国の主要なテクノロジー企業を結び付けている。(https://www.diu.mil/about)