変化する戦いの側面への適応 (Marine Corps Gazette)
生成型の人工知能に関する事柄は、「国家としてどのように向き合うのか」レベルの話題から、学校や企業としていかに活用するべきかといった議論までさまざまである。MILTERMでも何度も紹介している米海兵隊機関誌「Gazette」の2023年7月号のテーマは、「Focus on Artificial Intelligence & Machine Learning」である。この号ではいくつかの観点から人工知能を論じた文献がみられる。
ここでは、先ず、若い米海兵隊の中尉の論稿で、人工知能を戦いに変化を与えるものとして捉え、これは避けがたい事実として認識し、この新しい技術を取り入れて情報環境における戦いに勝つことを論じた「Adapting to the Changing Face of Warfare‐The urgent need for AI technologies in the Marine Corps」を紹介する。(軍治)
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変化する戦いの側面への適応
米海兵隊で急務とされるAI技術について
Adapting to the Changing Face of Warfare
The urgent need for AI technologies in the Marine Corps
by 1stLt William “Colton” Rapagnani
Marine Corps Gazette • July 2023
ラパニャーニ(Rapagnani)米海兵隊中尉は、現在第17戦闘兵站連隊に所属する財務管理将校で、作戦将校の補佐や将来作戦将校を務め、また様々な実験的遠征前進基地プロジェクトの管理も行っている。以前は、中央軍責任区域で、連合統合タスク・フォース「生来の決意作戦(Operation INHERENT RESOLVE)」の統合増強兵士として、イラク、シリア、クウェートに電子戦計画担当者および部隊防護の対無人航空システム一体化担当として派遣されている。
技術、特に人工知能(AI)やスマート・ロボットの活用が進むことで、新しい戦争の方法(a new way for war)が生まれつつあり、米海兵隊は時代に適応して変化する必要がある。対反乱作戦(counterinsurgency operations)に主眼を置いた過去20年の戦争から、中国という潜在的なほぼ対等な敵対者への移行は、戦略、技術、戦術を迅速に調整しなければ、米軍を失敗に陥れることになる。
中国は軍事的能力に多額の投資をしており、米軍はすでにその影響を感じている。ほぼ対等な競争者は、訓練と技術進歩の両方で米軍を凌駕している。
中国は、現代の戦場で普及しつつある無人航空機や海底ドローンなどの自律型システムに取り組んでいる。また、戦場管理や意思決定など、軍事適用のための人工知能(AI)にも投資している。
米国家防衛戦略委員会の報告書によると、「パワーバランス(balance of power)は、我々の競争者や挑戦者に有利な形で変化している」とある。報告書はさらに、「米軍は次の紛争で、許容できないほど多くの死傷者と主要な資本資産の損失を被る可能性がある。中国やロシアとの戦争に勝つのは難しいか、あるいは負けるかもしれない」と述べている。
米海兵隊は、世界で最も手ごわい闘う部隊の1つ(one of the most formidable fighting forces)としての地位を維持することを望むなら、時代に合わせて適応し、変化しなければならない。フォース・デザイン2030の一環として、米海兵隊は将来の戦いに備えるため、部隊構造の近代化と合理化を目指している。
これには、無人システム、人工知能(AI)、サイバー戦(cyber warfare)などの新興技術への投資も含まれる。しかし、米海兵隊内には変化に抵抗する者もいる。新しいチャウダー・ソサエティ(new Chowder Society)とは、変化に抵抗し、過去のやり方にしがみつく上級指導者を表す言葉である。
米海兵隊総司令官であるデビッド・バーガー(David Berger)米海兵隊大将は、2019年の全米国防産業協会での講演で、「我々は、文化的な変化への抵抗が、将来に備える能力を阻むことを許すわけにはいかない」という点を強調した。
米海兵隊は、手ごわい闘う部隊(formidable fighting forces)を維持するために、戦争の変化する側面と技術の利用を受け入れなければならない。バーガー(Berger)大将は、「米海兵隊は、近代化された装備、戦術、組織で、ハイエンドの紛争を闘うための準備をしなければならない。我々は、敵の兵器交戦区域内で作戦し、敵の重層的な防御を突破することができなければならない」と述べている。
技術、特に人工知能(AI)やスマートロボットの活用が進むことで、新しい戦争のあり方が生まれつつあり、米海兵隊は時代に適応して変化する必要がある。米国は過去20年間、対反乱作戦に注力してきたが、中国のようなほぼ対等な敵対者に直面したとき、軍は失敗を覚悟しなければならない。
米海兵隊は、無人システム、人工知能(AI)、サイバー戦(cyber warfare)などの新興技術に近代化し、投資しなければならない。しかし、チャウダー・ソサエティ(Chowder Society)からの変化への抵抗や、古い血統のメンタリティは、米海兵隊が近代化し、新たな課題に適応する能力を妨げることになる。軍が新たな脅威や課題に直面する中、変化を受け入れ、時代に適応していくことが不可欠である。
この記事のような簡単なものでも、軍事用途に人工知能(AI)を使用することは、かつて孫子が言ったように、「すべての会戦は闘う前に勝利する(Every battle is won before it is fought)」という米海兵隊の要石(keystone)を物語っている。これらの人工知能(AI)技術は、人命へのリスクを最小限に抑えながら、効率、スピード、正確性を高めることで、現代の戦いに大きな優位性をもたらすことができる。軍事作戦に人工知能(AI)を戦略的に応用することで、会戦が始まる前に勝利を手にすることができる。
前の段落は、OpenAIが開発した人工知能言語モデル「ChatGPT」によって作成されたものである。これは推奨を意味するものではなく、常に変化し、困難な作戦環境における新興技術やイノベーションの適用を強調するものである。
言い回しや構成がぎこちないのは、軍隊式の文章の影響や、人工知能(AI)言語生成の独特な特質によるものかもしれない。しかし、CNETが自社の人工知能(AI)生成記事について長時間の訂正を余儀なくされたような、広範な誤りや盗用の事例は回避されているようである[1]。
日々進化する作戦環境の中で、米軍は軍事的優越(military superiority)を維持するために、新たな技術の先取りをする必要性を認識している。その中でも特に注目されているのが、情報作戦(information operations)である。これには、軍事目標を達成するための情報関連能力(information-related capabilities)の利用を含む。
米軍の情報作戦に関するドクトリン出版物を新たに更新したのは、このような認識を反映し、複雑な情報環境における軍の作戦能力を強化することを狙いとしている。
更新されたドクトリン出版物は、「軍事情報支援作戦のための多軍種の戦術、技法、手順(MCTP 8)[2]」と呼ばれ、サイバースペース作戦、電子戦、心理作戦などのさまざまな情報関連能力の一体化を強調している。
これらの能力を組み合わせることで、米軍は相乗効果を生み出し、情報環境に影響を与え、形成する能力を高めることを狙いとしている。さらに、MCTP 8は、戦場で望ましい効果を得るために、これらの能力を従来の軍事作戦と一体化する方法についての指針を提供する。
全体として、更新された MCTP 8 は、米軍が新たな技術に適応し、情報環境における競争力を維持するための取組みにおいて、重要な一歩を踏み出すものである。様々な情報関連能力の一体化を重視することで、米軍は、敵対者が情報ドメインの脆弱性を突く可能性が高い、複雑で動的な環境で作戦するためのより良い装備を備えている。
OpenAIは、生成AIベースのチャットボット「ChatGPT」を公開し、世界中で広く人気を集めている。 (画像:OpenAI/ChatGPT 詳細情報: https://openai.com/blog/chatgpt.) |
米海兵隊の情報作戦に関するドクトリン出版物であるMCDP 8は、ほぼ対等な大国の競争者の影響力がもたらす課題に対処するために更新された。更新された出版物は、より的を絞った効果的な方法で聴衆と関わるために、新しい技術の一体化とソーシャル・メディアの使用に焦点を当てている。
機械学習や人工知能などの新しいツールを活用することで、軍隊は敵対者の動機や振舞い、そして敵対者が影響を与えようとしている人々の理解を深めることができる。この理解により、主要な聴衆の共感を得やすいメッセージングや戦略を策定することができ、同時に偽情報やプロパガンダに対抗することができる。
全体として、更新されたMCDP 8は、米軍の情報作戦能力にとって重要な一歩を踏み出すものである。新たな技術とイノベーションを取り入れることで、軍事力はより効果的にほぼ対等な競争者と競争し、戦場での目標を達成することができる。
結論として、人工知能(AI)がこのように活用されることは重要であり、コンテンツ作成のスピードと効率を高めつつ、作業負荷を軽減することで、軍の意思決定サイクルに反映させることができる。これにより、貴重な時間と資源を他の指揮・統制のタスクに振り向けることができる。
さらに、この形態では、人工知能(AI)が生成したコンテンツは、ユーザーの興味に合わせた軍事ニュース記事を生成するなど、ユーザーにパーソナライズされた体験を提供するために使用することができる。人工知能(AI)が生成するコンテンツは、人間のバイアスが報道に影響を与える可能性を排除することで、ジャーナリズムにおけるバイアスを減らし、多様性を促進することができる。
全体として、人工知能(AI)が自分で記事を書く能力は、コンテンツ作成の分野に革命を起こし、誰もが情報の質とアクセスの容易性を向上させる可能性を秘めている。これらの更新には、情報環境に影響を与える機能が含まれており、その結果、戦いの本質(nature of warfare)や紛争の将来(future of conflicts)に影響を与えることになる。
ノート
[1] 【訳者註】参考:IT分野に特化したメディア企業であるCNET社が人工知能(AI)生成の記事を掲載して件について様々反応の記事がある。その代表的な記事(www.theverge.com)を紹介する、「CNETは、AIが作成したストーリーの半分以上でエラーを発見した」
[2] 【訳者註】米海兵隊のドクトリン関連の文書には、MCDP :Marine Corps Doctrine Publication 、MCWP :Marine Corps Warfighting Publication 、MCTP :Marine Corps Tactical Publication 、MCRP :Marine Corps Reference Publicationがある。


