見えない力:ウクライナにおけるロシアの監視、攻勢作戦、防衛作戦における電磁スペクトラムの役割 (Armada International)
MILTERMでは、ロシア・ウクライナ戦争の教訓として電磁スペクトラムをめぐる戦いについて紹介してきたところである。ロシアについての電磁スペクトラムが果たす役割について論じた記事を紹介する。(軍治)
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見えない力:ウクライナにおけるロシアの監視、攻勢作戦、防衛作戦における電磁スペクトラムの役割
The Invisible Power: the role of the Electromagnetic Spectrum in Russian surveillance, offensive and defensive operations in Ukraine
パスクアーレ・イオリロ(Pasquale Iorillo)
カラン・ペーパーズ – 第1号
November 6, 2024
Armadaは、電磁スペクトラムの専門家と実務家による新しい論文シリーズ「Curran Papers」を発表できることを誇りに思う。このシリーズは、第二次世界大戦中にチャフ対レーダー探知機の開発で先駆的な業績を残したウェールズ出身の物理学者、ジョーン・カラン(Joan Curran)博士にちなんで名付けられた。このシリーズが、電子戦(EW)と電磁スペクトラム作戦(EMSO)に関連する革新的な視点を紹介することで、彼女の記憶に敬意を表することを願っている。
カラン・ペーパー第1弾では、パスクアーレ・イオリロ(Pasquale Iorillo)が、ウクライナで進行中の戦争における両陣営にとっての電磁スペクトラムの重要性について、自身の見解を述べている。本稿では、ロシア陸軍の戦術ドクトリンにおける電子戦(EW)の重要な位置づけを詳細に解説している。シリアとジョージアにおけるロシアの最近の電子戦作戦の影響と、それがウクライナにおける現在の戦争に与えた影響を検証している。最後に、ロシアの情報作戦における電子戦の重要性、そしてそれが現在および将来の紛争における陸上環境に与える影響について考察している。
イギリス首相ウィンストン・チャーチル(Winston Churchill)卿は、第二次世界大戦の回顧録の中で、レーダー、電波、暗号化信号といった革新的な技術を用いて繰り広げられた、目に見えない会戦(invisible battle)について言及した。この戦いは、従来型の戦い(conventional warfare)の喧騒に隠れ、国民にはほとんど知られていなかった。今日、この「魔法戦争(Wizard War)」は存続し、さらに決定的な力を持つようになり、その静かで目に見えない力で紛争の帰結を左右するほどになっている。
はじめに
現代戦において、電磁スペクトラム(EMS)は、監視、攻勢行動、そして防衛戦略への影響を通じて、作戦を左右し、紛争の帰結を決定づける極めて重要な環境となっている。このパラダイムは、ウクライナで進行中の紛争において特に顕著であり、電磁スペクトラム作戦(EMSO)が現代戦をいかに変革しているかを示す明確な事例研究となっている。ロシアとウクライナ両国は、これらの作戦を紛争のダイナミクスを形成するために活用しており、電磁スペクトラム(EMS)の習得がいかに戦争の行方(the course of a war)を劇的に変化させ得るかを示している。
この文脈において、ロシアによる「無線電子戦(REB/Radioelektronnaya Borba:radio electronic warfare)の広範な使用は、この戦略的アプローチの明確な例である[1]。モスクワは、無線電子戦(REB)を従来の軍事戦術と組み合わせることで、たとえ一時的であっても、電磁スペクトラム(EMS)の優位性が敵対者の作戦に悪影響を及ぼし、場合によっては実効的な効果を発揮できることを示した[2]。偵察(surveying)、妨害(jamming)、スプーフィング、欺瞞(deception)といった高度な技術は、対抗する部隊(opposing forces)の通信と意思決定プロセスを著しく阻害し、敵の目をくらませることで作戦上の混乱と不確実性を生み出してきた。キネティックな作戦(kinetic operations)と統合することで、電磁スペクトラム作戦(EMSO)と交戦の相乗効果はロシアの軍事戦役(military campaign)の有効性を増幅させ、電磁スペクトラムの統制(control)が単に有利なだけでなく、戦場での勝利に不可欠であることを実証している。
例えば、ウクライナで進行中の紛争で実証されているように、妨害(jamming)は砲兵打撃(artillery strikes)に先行して頻繁に行われ、敵のレーダーと通信を効果的に遮断することで、キネティックな作戦(kinetic operations)の成功率を高めている。これは、ロシアが無線電子戦(REB)(電磁誘導兵器による欺瞞)を用いて友軍の配置や意図について敵を欺き、奇襲を容易にし、戦場における戦略的主導性を維持するという手法と整合していると思われる。さらに、電磁スペクトラム作戦(EMSO)の防護的側面には、敵の干渉から自軍の電磁アセットを防御し、作戦上の復元性を強化するための行動が含まれる。このように電磁作戦と従来型の軍事作戦を融合させることで、戦力増強効果が著しく高まり、作戦のテンポと機動の有効性(effectiveness of manoeuvre)が大幅に向上する。したがって、今日の軍事組織は、電磁環境下で効果的に作戦を展開する能力を開発する必要がある。本稿では、近年の紛争における電磁スペクトラム作戦(EMSO)の特異性を検討し、技術者と非専門家の両方にとって有益な知見を提供し、現代および将来の作戦におけるスペクトラムの中心的な役割を明らかにする。
ロシアによる電磁作戦の活用
2009年から2018年の間に、ロシア軍は無線電子戦(REB)部隊を150%増強した[3]。この大幅な増強は、ロシア軍にとって電磁スペクトラム作戦(EMSO)が極めて重要であることを強調した。米国の諸兵科連合ドクトリン部局(CADD)の分析で概説されているように、ロシアの軍事ドクトリンは、戦略的計画策定から戦場での戦術的実行まで、軍事作戦のすべてのレベルに無線電子戦(REB)を統合することを強調している[4]。このアプローチは、情報ドメイン(information domain)を統制し、敵の通信および探知能力を妨害することが、作戦上の優位性(operational advantages)を獲得するために不可欠であるという信念を反映している。したがって、無線電子戦(REB)は支援機能であり、現代の軍事作戦に不可欠な要素と見なすことができ、敵対者の通信ネットワークを妨害、欺瞞、破壊するようにデザインされた幅広いシステムを開発している。防御面では、これらの技術は敵のインテリジェンス・監視・偵察(ISR)能力を妨害し、ロシア軍の部隊を検出してターゲットにする能力を制限することで、ロシア軍を防護している。攻勢面では、無線電子戦(REB)は敵の指揮・統制インフラを解体し、通信回線を効果的に遮断し、敵部隊間の連携を阻害する。さらに、偵察作戦においては、これらの技術は敵の監視システムを検知・無効化することで、安全なインテリジェンス収集を可能にする。これにより、ロシア軍部隊は戦場を高いステルス性で移動することが可能になる。
この点で、これらの無線電子戦(REB)技術は敵の通信を混乱させるだけでなく、兵器システムやセンサーを欺いて敵の防御の有効性を低下させ、ロシアの戦術行動の全範囲に不可欠なものとなっている[5]。注目すべき例としては、大規模な妨害作戦(large-scale jamming operations)が可能な移動式および固定式プラットフォームを含む無線電子戦(REB)システムがウクライナ戦線全体に配備されていることが挙げられる[6]。旅団や大隊などの戦術部隊に統合されたこれらの複合体は、攻勢作戦と防勢作戦を支援している。
これらの無線電子戦(REB)能力を基盤として、特にウクライナにおいて、戦術的偵察打撃複合体または偵察火力複合体(Reconnaissance Fire Complex)としても知られる戦術的偵察打撃複合体(TRSC:Tactical Reconnaissance Strike Complex)は、戦場の認識を大幅に向上させた[7]。無人航空機(UAV)、精密誘導砲、電子戦能力を統合することで、戦術的偵察打撃複合体(TRSC)は継続的なインテリジェンス収集と精密打撃作戦を可能にし、従来方の戦闘ダイナミクス(conventional combat dynamics)を再構築する。この継続的な監視と動的な無線電子戦(REB)対策を組み合わせることで、敵対的部隊の脆弱性が高まる期間が生まれ、電磁スペクトラム(EMS)優位性の重要性が浮き彫りになる。この高度な複合体の開発は、スペクトラムの支配が敵の通信を妨害するだけでなく、キネティックな交戦(kinetic engagements)の精度と致死性を高めることを示している[8]。
可視性と電磁スペクトラムにおける関与のリスク
ウクライナで進行中の紛争において、スペクトラム内の可視性は深刻なリスクとなる。もし検知されれば、部隊が交戦する可能性が高くなる。これは、巧みなスペクトラム管理とシステムを効率的に再プログラムする能力の重要性を浮き彫りにしている。ロシアの「無線電磁会戦(radio-electromagnetic battle)」戦略は、電磁スペクトラム作戦(EMSO)と砲撃などのキネティックな行動(kinetic actions)を効果的に融合させている。この作戦的フレームワークにおいて、無線電子戦(REB)は攻勢作戦と防勢作戦の両方を統制する上で不可欠であり、電磁スペクトラム(EMS)管理は状況認識を強化し、迅速かつ同期した対応を促進するための基盤となる。
ロシアは敵対者の部隊の無力化(incapacitate)と混乱(disorient)するための無線電子戦(REB)システムを展開しており、これは戦略的フレームワークだけでなく、作戦的レベルや戦術的レベルにおいても非常に効果的である。高度な電子戦手法によって戦場環境を混乱させ、欺瞞し、改変する能力は、攻勢戦役(offensive campaigns)を阻止し、戦場への浸透を困難にする上で重要な役割を果たしてきた。電波妨害(jamming)や無人航空機を基盤とするISR(UAV-based ISR)の進歩は、こうした交戦の致死性と複雑さを増大させており、一時的かつ部分的なスペクトラムの統制は、あらゆるレベルの戦いにおいて作戦の遂行を支援し、その帰結を左右する重要な要素となっている。
逆に、電磁スペクトラム(EMS)の重要性はロシアの軍事理論家にとって新しいコンセプトではない。ソ連海軍の元司令官セルゲイ・ゴルシコフ(Sergei Gorshkov)提督は、60年以上前の1956年に次のように主張した。
戦場で電磁スペクトラムを統制(control)する者が次の戦争に勝利するだろう。
この引用は、ロシアの軍事ドクトリンが間接火力や精密誘導弾の攻勢能力と無線電子戦(REB)の連携を重視し、敵対者の防衛線への協調攻撃を容易にし、センサーとシューターの連携を強化する理由を要約している[9]。ロシアは、ターゲットを定めた打撃を行うと同時に敵の通信を妨害し、誤導することで、敵対者の効果的な対応能力を著しく阻害し、意思決定プロセスを弱体化させている[10]。
敵対者のレーダーと通信を通信妨害(jamming)より意図的に混乱し、その後、ターゲットを絞った砲撃を行うことは、電磁スペクトラム(EMS)の熟練度がキネティックな作戦(kinetic operations)の有効性を大幅に高めることを示す好例である。電子戦と物理的な攻勢(physical offensives)を融合させたこの一貫した戦略により、ロシア軍は高い作戦上のテンポを維持しながら、同時に相手の混乱と無力化を図ることができる。さらに、モスクワの特殊部隊である無線電子戦(REB)部隊は、無人機(UAV)や地上を基盤とするセンサーと高度な連携を発揮し、作戦の同期を確保し、最適な作戦上のテンポを維持している。
これらすべての作戦は、ロシアの戦術的偵察打撃複合体(TRSC)にシームレスに組み込まれたドクトリンである「無線電磁会戦(radio-electromagnetic battle)」のコンセプトを象徴している。敵の通信およびレーダーシステムを効果的に混乱させることにより、無線電子戦(REB)イニシアティブは偵察および打撃能力の両方を大幅に強化し、それによってロシア軍の致死性および作戦上の効率を増幅する[11]。さらに、ロシアの電磁スペクトラム作戦(EMSO)は、敵対者を混乱させながら作戦上の効果を最大化するために偵察、火力支援、および戦術的活動を組み合わせる高度な調整を示している。無線電子戦(REB)部隊は、戦術的、作戦的、および戦略的コマンド・レベル全体に展開され、電磁環境内での防御と攻撃への階層化されたアプローチを確保している。この構造により、ロシア軍は重要なISRデータを収集しながら、敵の対抗手段からシステムを防護することができる。さらに、これらの作戦は攻勢的なサイバー能力を支援し、妨害(jamming)、スプーフィング、およびその他の妨害的な方法による電子攻撃のために敵の電子アセットを特定および位置を特定する。
こうした側面はウクライナ紛争で顕在化し、特にウクライナ東部のクピャンスクとバフムート近郊で顕著な事例が見られた。同地域では、ロシアの無線電子戦(REB)の能力が複雑で階層化された防御を構築し、ウクライナの無人機作戦(UAV operations)を著しく妨害した。航空機の制御チャネルを妨害することで、シロク-1(Silok-1)やストリジ-3(Strizh-3)などのロシアの無線電子戦(REB)システムは、ウクライナ軍が航空優越(air superiority)を維持したり、無人機(UAV)を効果的に展開したりすることを困難にし、毎月最大1万機の航空機の損失につながった[12]。対照的に、シリアでのロシアの電磁スペクトラム作戦(EMSO)は、主にあまり進歩していない通信手段を使用する非正規軍の有効性を低下させることに特化しており、それによって無線電子戦(REB)の取組みは敵対的な無人機(UAV)の活動と局所的な通信の無力化に集中した[13]。 2008年のジョージア(Georgia)との紛争では、交戦期間が短期だったこととジョージア部隊(Georgia forces)の電子戦能力が限られていたため、ロシアの電磁スペクトラム作戦(EMSO)の範囲は比較的制限されていた。
近年の様々な紛争におけるロシアの電磁スペクトラム作戦(EMSO)を評価すると、明確なパターンが浮かび上がり、ロシアの軍事戦略における堅実性と革新性の両方が浮き彫りになる。これらの作戦に共通するテーマは、電磁スペクトラム作戦(EMSO)を用いて敵対者の技術的能力を弱体化させることである。しかしながら、これらの作戦の実行は、それぞれの戦場の固有の戦術的、作戦的、戦略的特性に合わせて洗練されてきた。「ヘルツ・アンド・マインド(Hertz and Minds)」の実現に向けた進展における極めて重要な戦場であるウクライナ紛争において、ロシアは無人機(UAV)統制システムの妨害(jamming)、通信チャネルの遮断、全地球航法衛星システムの位置・航法・タイミング信号のターゲット化といった高度な戦術を巧みに実行してきた[14]。これらの措置をより広範な戦術的偵察打撃複合体(TRSC)に組み込むことは、戦場での勝利のためには、たとえ一時的であっても電磁的優越(electromagnetic superiority)を獲得することが極めて重要であることをさらに強調する。これらの戦術は、シリアにおける以前の交戦においても用いられており、そこでは非正規部隊の比較的単純な通信手段の無力化に重点が置かれていた。それでもなお、2008年のジョージア紛争から得られた知見は、その後ウクライナ戦域で観察された、より複雑で高度なスペクトラム戦略の開発を促進する上で極めて重要であった。これらの戦略は、敵のセンサーやシステムを妨害することで情報優越(information superiority)を効果的に確保すると同時に、電磁環境を偵察活動の強化に活用できる可能性を示した[15]。
ロシアの無線電子戦(REB)戦略の重要な側面は、「マスキロフカ(maskirovka)」というコンセプトである。これは、ロシアが長年培ってきた偽装(camouflage)と欺瞞(deception)のドクトリンである。マスキロフカ(maskirovka)は単なる戦術的ツールではなく、ロシアの軍事戦略に深く根付いた作戦的哲学を体現している。無線電子戦(REB)の能力を活用し、マスキロフカ(maskirovka)は欺瞞と情報操作(information manipulation)を駆使して不確実性を生み出し、重大な誤判断を誘発することで、敵対者の作戦環境に対する知覚(perception)を歪める。このアプローチは、2008年のジョージア戦争からウクライナとシリアでの継続的な作戦に至るまで、ロシアの紛争への関与を通じて継続的に洗練されてきた。
ウクライナで実証されたように、ロシアの電磁スペクトラム作戦(EMSO)は敵の能力を混乱させるだけでなく、戦場そのものの再形成にも重点を置いている。ロシア軍は電磁作戦(electromagnetic operations)とキネティックな作戦(kinetic operations)を融合させることで、攻勢的支配性(offensive dominance)と防勢的支配性(defensive dominance)を確保する戦略を策定し、作戦上の成功に不可欠な要素である電磁スペクトラムの統制(control)を維持している。
結論
プロイセンの戦略家カール・フォン・クラウゼヴィッツは次のように的確に指摘している。
どの時代にも、その時代特有の戦争、その時代特有の制約条件、そしてその時代特有の先入観がある[16]。
ウクライナ紛争を振り返ると、電磁スペクトラムは現代戦において極めて重要な環境として浮上しており、ロシア軍はこれを監視、偵察、そして攻勢的活動と防勢的活動の両方に活用している。電磁スペクトラム作戦(EMSO)の活用拡大はパラダイム・シフトを象徴しており、電磁環境は作戦地域(the area of operations)を形成する上で重要な要素となっている。将来の紛争では、特に電磁スペクトラム作戦(EMSO)において、スピード、収束(convergence)、統合(integration)をより重視する必要がある。この点において、電磁環境における機動性は、戦術的、作戦的、そして戦略的成功を達成するために不可欠となるだろう。
同時に、技術的進歩にもかかわらず、戦いは本質的に人間的なものであり、敵対者に対する優越を確保するという永遠の目標によって突き動かされていることを念頭に置くことが不可欠である。時間、資源、そして主導性のバランスは、今後も成功を左右するだろう。勝利は、十分な資源と時間を確保する、限られた資源で迅速に行動する、あるいは敵対者の行動を制約するなど、様々な戦略を通じて追求することができる。現代の電磁スペクトラム作戦(EMSO)はこの方程式を複雑化し、ますます複雑化する戦争に対処する人間の能力に疑問を投げかけている。
これらの考察によれば、ロシアの軍事ドクトリンは、スペクトラムの戦略的価値に対する深い理解を体現しており、混乱(disruption )、欺瞞(deception)、そして電磁能力の防護を重視している。妨害(jamming)、欺瞞(deception)、そしてスペクトラム管理の統合はロシアのアプローチの中核を成し、作戦の成功のためには電磁環境における統制(control)の追求、あるいは達成が重要であることを強調している。
紛争が進展するにつれ、このスペクトラムを支配する能力は、軍事戦略とドクトリンの将来を決定づけることになる。したがって、電磁環境は単なる技術的要素としてではなく、機動のための動的な舞台(a dynamic arena for manoeuvre)として捉えるべきである。ロシアが電磁スペクトラム作戦(EMSO)を重視しているのは、この環境を掌握することの変革的可能性に対する警告であり、世界中の軍隊が将来の紛争に向けた戦略的、作戦的、戦術的準備において、電磁スペクトラム作戦(EMSO)を採用し適応していくための道筋を示している。
著者について
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パスクアーレ・イオリロ(Pasquale Iorillo)は、電子戦インテリジェンス、監視・偵察、そして電磁スペクトラム作戦(EMSO)を専門とする研究者であり、電磁スペクトラム作戦(EMSO)のサイバー空間における視点も研究している。彼の研究は、軍事史から得られた教訓に特に着目しながら、安全保障のフレームワークや戦略的計画策定と作戦的計画策定における先進技術の統合に重点を置いている。北大西洋条約機構(NATO)を含む国際的なプロジェクトや協力において豊富な経験を有し、防衛・安全保障分野における様々な取り組みに貢献している。本稿で提供される情報は、学術的および情報提供のみを意図している。ここに表明された意見はすべて著者の見解である。
ノート
[1] REB(Radioelektronnaya Borba)とは、無線、レーダー、通信システムをターゲティングして敵の能力を妨害、欺瞞、または無効化するなど、電磁波を軍事目的で使用することを意味する。無線電子戦(REB)は特に無線電子戦に焦点を当てているが、より広義の電磁スペクトラム作戦(EMSO)は赤外線やレーザー・システムといった他の電磁能力も含む。ロシアの軍事ドクトリンは、無線電子戦(REB)を偵察、射撃、戦術作戦の不可欠な要素として、そして軍事力全体の効率性の向上に重視している。本稿では、これらの能力を無線電子戦(REB)と称する。
[2] 過去20年間の作戦とは異なり、電磁スペクトルの優位性は、西側諸国にとっても、また実際のところ、同等の競争国にとっても、もはや計画における想定され保証された要素とはみなされない。
[3] マクダーモット、R、「現代ロシアの軍事思想における電子戦」、https://jamestown.org/program/electronic-warfare-in-contemporary-russian-military-thought/
[4] ATP 7-100.1: ロシアの戦術、米陸軍、2024年、https://rdl.train.army.mil/catalog-ws/view/100.ATSC/796D87F6-9E95-4D54-8ED9-DDA10E9C209E-1708699291986/ATP7_100x1.pdf.
[5] 「ウクライナの教訓により電子戦のペースが加速しており、一刻の猶予もない」https://www.janes.com/osint-insights/defence-news/air/special-report-no-time-to-lose-as-lessons-from-ukraine-force-the-pace-in-electronic-warfare.
[6] Tartachnyi, O, 『見えない戦争:ウクライナの戦争の方向性を決定づける電子戦軍拡競争の内幕』https://kyivindependent.com/the-invisible-war-inside-the-electronic-warfare-arms-race-that-could-shape-course-of-the-war/.
[7] Bartles, C, Grau, LW、「ロシアの偵察火力複合体が成熟期を迎える」、https://www.ccw.ox.ac.uk/blog/2018/5/10/the-russian-reconnaissance-fire-complex-comes-of-age.
[8] Bailey, R, Barros, G, Bugayova, N, Clark, M, Hird, K, Kagan, FW, Kagan, K, Stepanenko, K,ウクライナと現代戦争における機動性回復の問題(ワシントン D.C.: 戦争研究研究所、2024年)。
[9] Axe, D, 「ロシアのドローンとミサイルは迅速かつ正確に作動し、ウクライナの最良の兵器のさらに多くを発見し破壊している」https://www.forbes.com/sites/davidaxe/2024/03/22/working-fast-and-accurately-russian-drones-and-missiles-are-finding-and-destroying-more-of-ukraines-best-weapons/.
[10] Chiriac, OR, Withington, T, 「ロシアの電子戦:歴史から現代の戦場へ」、https://irregularwarfare.org/articles/russian-electronic-warfare-from-history-to-modern-battlefield/.
[11] 同上
[12] Cranny-Evans, S, 「ウクライナにおけるロシアの砲兵戦争:課題と革新」、https://www.rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/russias-artillery-war-ukraine-challenges-and-innovations; 「ウクライナにおけるストリジ3の脅威」、https://www.strategypage.com/htmw/htada/articles/20230302.aspx; 16; Zikusoka, D, 「戦争の未来は電磁気的である」、https://www.newamerica.org/future-frontlines/blogs/the-future-of-war-is-electromagnetic/.
[13] ポメルロー、M、「なぜシリアは地球上で最も積極的な電子戦環境であるのか」、https://www.c4isrnet.com/electronic-warfare/2018/04/24/socom-chief-syria-most-aggressive-ew-environment-on-earth/
[14] ウィジントン、T、「ヘルツとマインズ:ウクライナにおける陸上戦術電子戦の戦い」(ケンブリッジ/トゥールーズ:CRFS/アルマダインターナショナル、2024年)
[15] Asmus, RD, 「世界を揺るがした小さな戦争(A Little War that Shook the World)」(ニューヨーク:Palgrave Macmillan、2010年);Courtney, WH、Lee, C、「ロシアのウクライナ戦争:将来の軍事力開発への影響」、https://www.rand.org/content/dam/rand/pubs/research_reports/RRA700/RRA791-1/RAND_RRA791-1.pdf
[16] クラウゼヴィッツ著『戦争論』(マイケル・ハワード、ピーター・パレット訳)(ニューヨーク:プリンストン大学出版局、1984年)