米陸軍のマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF) (米国連邦議会調査局)

米陸軍において米陸軍参謀総長文書#1:2021年3月16日付けの「米陸軍マルチドメイン変革-競争と紛争における勝利への備え」の公表以来「マルチドメイン」をキーワードとする変革が行われている。更に2025年4月30日付の国防長官の米陸軍変革の覚書の下に行われている「米陸軍変革イニシアティブ(Letter to the Force)」もその取組みの真っ只中にあるのであろう。日本としても、2025 年3 月末、自衛隊の統合作戦司令部の創設とタイミングを合わせる形で、在日米軍の統合軍司令部化への動きも気になるところである。これに合わせて在日米陸軍の司令部機能の改編も検討されているとの報道もある。ここで紹介するのは、マルチドメインの戦いを行う上で重要な役割を持つマルチドメイン・タスク・フォースに関わる米国議会調査局のレポートである。マルチドメイン・タスク・フォースは数々の実験の結果を反映して組織を作り上げているようであり、レポートも2021年3月29日の初版から数えて第24版となっている。(軍治)

米陸軍のマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)

The Army’s Multi-Domain Task Force (MDTF)

Updated July 2, 2025

マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の意義

米国議会は、ロシアと中国による米国の国家安全保障への脅威について懸念を表明している。米陸軍は、この脅威に対処するためには、マルチドメイン(空、陸、水、宇宙、サイバー、情報)環境で活動できなければならず、新たな作戦コンセプト、技術、兵器、部隊が必要になると考えている。マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、この取り組みにおける米陸軍の自称「組織の中心的存在(organizational centerpiece)」である。

マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)とは何か?

米陸軍参謀総長文書#1:2021年3月16日付けの「米陸軍マルチドメイン変革-競争と紛争における勝利への備え」では、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)について、「全てのドメインにおける敵対者(adversary)の接近阻止・領域拒否(A2/AD)ネットワークに対して、全てのドメインにおける精密効果と精密火力を同期させるようにデザインされた戦域レベルの機動要素であり、統合部隊が、作戦計画で示された役割を遂行することを可能にする」と記述している。

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接近阻止/領域拒否(A2/AD)とは何か?接近阻止(Anti-Access)とは、進攻してくる軍事部隊が作戦地域に進入するのを阻止するためにデザインされた行動、活動、能力のことである。領域拒否(Area Denial)とは、作戦領域内での敵対者の行動の自由を制限するようにデザインされた行動、活動、能力のことである。脅威となる接近阻止/領域拒否(A2/AD)防衛は、長距離精密打撃システム、沿岸対艦能力、防空システム、長距離砲兵・ロケット・システムなどが重層的かつ統合的に構成されている。

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マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の組織

図1の図は、概念的な一般的なマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)を示している。

図1. 一般的なマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)

凡例

MDEB = Multi-Domain Effects Battalion:マルチドメイン効果大隊

HHC = Headquarters and Headquarters Company:本部及び本部中隊

MI = Military Intelligence:軍事インテリジェンス

ERSE = Extended Range Sensing Element:拡張範囲センシング要素部隊

ID = Information Dominance:情報優位性   LRFB = Long-Range Fires Battalion:長距離火力大隊

HHB = Headquarters and Headquarters Battery:本部及び本部砲列

LRHW = Long-Range Hypersonic Weapon:長距離極超音速兵器

MRC =Mid-Range Capability (also referred to by the Army as Strategic Mid-Range Fires (SMRF)):中距離能力(米陸軍では戦略的中距離火力(SMRF)とも呼ばれている。)

HIMARS = High Mobility Artillery Rocket Systems:高機動砲兵ロケット・システム

FSC = Forward Sustainment Company:前方後方支援中隊

IFPC = Integrated Fire Protection Capability:統合火力防護能力

BSB = Brigade Support Battalion:旅団支援大隊     DISTRO = Distribution Company:補給中隊

MAINT = Maintenance Company:整備中隊            MED = Medical Company:衛生中隊

米陸軍は、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は戦闘軍指揮官(Combatant Commander)の要求に合わせて調整されると述べている。したがって、図1の一般的なマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、割り当てられた作戦戦域の要求に応じて、より多くの、あるいはより少ない、あるいは他のタイプの単位部隊を含む可能性がある。

マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)開発のための米陸軍の各種計画

米陸軍は当初、5つのマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)を構築する計画を立てていた。すなわち、インド太平洋地域に配備される2つのマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)、ヨーロッパに配備される1つのマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)、北極圏に配備され複数の脅威に対応する1つのマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)、そしてグローバルな対応に配備される5番目のマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)である。

第1 MDTF

第1マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)はワシントン州ルイス・マコード統合基地に本部を置き、米陸軍太平洋軍に所属している。2017年の発足以来、さまざまな演習に参加している。2023年2月、第1マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の長距離火力大隊(第3野戦砲兵連隊第5大隊)は、遠征極超音速発射能力の完全リハーサルであるサンダーボルト・ストライクの期間中、統合基地ルイス・マッコードからフロリダ州ケープカナベラルまで3,100マイル以上にわたって長距離極超音速兵器(LRHW)システムを展開した。

第2 MDTF

2021年4月13日、米陸軍は第2マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)をドイツに駐留させると発表した。ドイツを拠点とするマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は米陸軍の欧州とアフリカを支援する。2021年9月16日、米陸軍はヴィースバーデンのクレイ・カーゼルネで第2マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)を発足させ、当初は司令部部隊、情報・サイバー空間・電子戦・宇宙分遣隊、旅団支援中隊で構成された。

ニューヨーク州フォート・ドラムの第2MDTFの分割駐留

2023年12月13日、チャールズ・シューマー上院議員とエリス・ステファニック下院議員は、2025年にニューヨーク州フォート・ドラムが、第2マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の長距離火力大隊、旅団支援大隊(BSB)、防空大隊の1,495人の兵士と人員の本拠地になると発表した。第2マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の本部大隊と効果大隊は2021年に活動を開始するが、ドイツに残る。

第3MDTF

米陸軍は2022年9月、ハワイのスコフィールド・バラックスで第3マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)を発足させた。第3マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、米インド太平洋軍(USINDOPACOM)の構成部隊として米陸軍太平洋方面を支援する。第3マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、演習ノーザン・エッジ23-1の一環として、2023年5月4日から19日まで最初の演習に参加した。

2024年米陸軍部隊構造変革イニシアティブとマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)

2024年2月27日、米陸軍は白書「米陸軍部隊構造の変革」を発表し、部隊の変革計画を概説した。この白書では、米陸軍は「米陸軍の5つのマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の構築を完了する」つもりであり、次のように言及している。

3つのタスク・フォースは米陸軍太平洋地域(USARPAC)に、1つは米陸軍欧州アフリカ軍(USAREUR-AF)に、そしてもう1つは中央軍(CENTCOM)の責任地域(AOR)に重点を置いて、それぞれ配属される予定である。マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)本部の1つはすでにドイツにあり、もう1つはハワイに駐留している。同盟国との協議が進むにつれて、米陸軍は抑止力強化のため、マルチドメイン効果大隊や長距離火力大隊など、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の要素を恒久的に前方駐留させることになるだろう。

2024年4月マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の配置と駐留に関する最新情報

2024年4月の防衛ニュースの記事によると、米陸軍はマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の事前決定計画を更新した。米陸軍は、中距離能力と長距離極超音速砲列を長距離火力大隊(LRFB)の下に統合し、今後5年間で残りの間接火力防護能力(IFPC)大隊の事業化を完了させる計画だという。米陸軍はまた、すべての旅団支援中隊を大隊に転換する予定である。特定のマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)に関しては

  • 第1マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、2024年度にマルチドメイン効果大隊(MDEB)、間接火力防護能力(IFPC)大隊、旅団支援大隊(BSB)、長距離火力大隊(LRFB)から構成される。
  • 第2マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)はドイツに本部を置き、マルチドメイン効果大隊(MDEB)とその他の部隊はニューヨーク州フォート・ドラムに駐留し、間接火力防護能力(IFPC)大隊、旅団支援大隊(BSB)、長距離火力大隊(LRFB)を配備する。第 2 マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF) は 2025 年度に完全運用を開始し、2026 年度に 長距離火力大隊(LRFB)を追加する。第2マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は欧州戦域の支援に重点を置く。
  • 第3マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、ハワイに本部を置き、マルチドメイン効果大隊(MDEB)を擁するが、間接火力防護能力(IFPC)大隊、旅団支援大隊(BSB)、長距離火力大隊(LRFB)がワシントン州ルイス・マッコード統合基地に駐留し、2026年度までに完全運用を開始する。
  • 第4マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、コロラド州フォート・カーソンに駐留するが、インド太平洋戦域に重点を置き、2027年度までに完全運用を開始する。
  • 第5マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)はノースカロライナ州フォートブラッグに駐留し、決定された地域に集中する。第5マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は2028年度までに完全に運用される。

第2マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)戦略的火力大隊がドイツに駐留へ

2024年7月10日、ホワイトハウスはドイツとの共同声明を発表した。

米国は2026年、ドイツにおけるマルチドメイン・タスク・フォースの長距離火力能力を、将来的に永続的に駐留させる計画策定の一環として、臨時的に配備を開始する。完全に開発されれば、これらの通常型長距離火力ユニットには、SM-6、トマホーク、および開発中の極超音速兵器が含まれることになり、これらは欧州における現在の陸上を基盤とする火力よりも大幅に射程が長くなる。

第3マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)、長距離火力大隊を立ち上げる

報道によれば、2025年3月、第3マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の司令官は、「米陸軍第3マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、今後12カ月から18カ月の間に、タスク・フォースの「大規模な成長(sizeable amount of growth)」の一環として、長距離火力大隊を立ち上げる」と述べた。さらに、「マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)が火力大隊を立ち上げるのと同じ期間に、ルイス・マッコード統合基地に後方支援大隊も設立する」とし、米陸軍はハワイに拠点を置く同部隊のマルチドメイン効果大隊(MDEB)とマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)本部に人員を追加する計画であると述べた。

マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の新しい本部

報道によると、米陸軍の2025年5月の陸軍変革イニシアティブ(ATI)の一環として、米陸軍はインド太平洋戦域に2つの新しいコマンドを創設し、この地域の3つのマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)を管理する計画である。1つは日本(マルチ・ドメイン・コマンド・ジャパン)、もう1つはワシントン州ルイス・マコード統合基地(マルチ・ドメイン・コマンド太平洋)に設置される。第1マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)と第3マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)はマルチ・ドメイン・コマンド太平洋の下に、第4マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)はマルチ・ドメイン・コマンド日本の下に置かれる。

議会にとっての潜在的な監督の問題

議会が監督する可能性のある問題は以下の通りである。

  • 米陸軍の「マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF) の配置と駐留に関する 2024 年 4 月の最新情報」によると、米中央軍とアフリカ 軍の作戦地域には、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF) 専用のカバーがないようである。この2つの戦闘軍(combatant command)は、2028年度に第5マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)が運用開始された場合、その対象となるのか、それとも米陸軍は米中央・アフリカ軍をマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)で支援する他の計画を有しているのか?
  • 北極地域は3つの戦闘軍(combatant command)、つまり、米北方軍、米欧州軍、米インド太平洋軍が担当しているの管轄地域である。このような責任の共有は、米陸軍のマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の連携、指揮・統制、責任にどのような影響を与えるのか?
  • 2024 年 7 月、第 2 マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF) の戦略的火力大隊がニューヨーク州フォート・ドラムではなくドイツに駐屯することが決定されたが、その戦略的意味は何か?大隊の長距離火力部隊はドイツだけに限定されるのか、それとも他のNATO諸国にも展開できるのか。このことは、ニューヨーク州フォート・ドラムへの長距離火力部隊の駐留計画にどのような影響を与えるか?

著:アンドリュー・フェイケルト(Andrew Feickert、軍事地上部隊の専門家