合成訓練環境(THE SYNTHETIC TRAINING ENVIRONMENT:STE)

米陸軍が各種近代化の一つとして米陸軍将来コマンド内に機能横断チーム(CFT)を作って取り組んでいる課題の中に、マルチドメイン作戦(MDO)での米陸軍の能力を向上するための新たな訓練環境構築の戦略として構想しているSYNTHETIC TRAINING ENVIRONMENTがある。Miltermでも数回このSTEについて取り上げているところである。

2017 年9 月のSYNTHETIC TRAINING ENVIRONMENTのWhite Paper発出から3年以上が経過し、STEプログラムで開発されたものは米陸軍のプロジェクト・コンバージェンスでもその有効性が試されているという。

ここで紹介するのは、STEを確立するに至った米陸軍が抱える訓練上の問題と、このSTEプログラムのこれまでの訓練用施設・器材と違う最新のバーチャル・リアリティの技術を駆使した特徴と、情報技術を多用する中でのSTEプログラムを進めるうえでの課題が取りまとめられた米陸軍協会のHP上に掲載の論文である。(軍治)

合成訓練環境(THE SYNTHETIC TRAINING ENVIRONMENT:STE)

2020年12月10日

ジェレマイア・ロズマン博士[1]

 

問題:ISSUE

近接戦闘部隊は、ますます複雑化する戦闘空間で対等な者を圧倒するために、アクセス可能で現実的な訓練を必要としている。

注目すべき視点:SPOTLIGHT SCOPE

  •  合成訓練環境(STE)が、マルチドメイン作戦能力のある部隊の一部として活動する近接戦闘部隊の訓練ギャップの橋渡しをすることをどのように目指しているかを強調している。
  •  合成訓練環境(STE)を立ち上げるための課題と解決策を特定する。

洞察:INSIGHTS

  •  合成訓練環境(STE)は、現実的で、アップグレード可能で、相互運用可能で、必要な場所(point of need)でアクセスできる利用者が使いやすい訓練を提供する。
  •  合成訓練環境(STE)は、地形マッピング、任務計画策定、ミッション・リハーサルなどの追加の作戦上の利便性を提供する。
  • 心理的な忠実度と現実的な効果は、最先端技術のグラフィックスよりも重要である。

さらなる情報:FOR MORE INFORMATION

2019年8月にフロリダ州オーランドで、STE CFT[2]とPEO STRI[3]の車両用訓練装置の試作器を試験するフォートベニングの機動高等研究所(Maneuver Center of Excellence)(米国陸軍の写真)

ホームステーション、兵器庫、施設、配備された場所など、どこにいても、我々は、兵士が戦う場所、彼らが戦う相手、彼らが戦う地形を再現した多様で複雑な作戦環境内に、兵士が没入できる合成訓練環境に入っていけることを望んでいる。

マリア・ジャーヴェイス米陸軍少将[4]

何年にもわたる予算の不安定さと低い技術の相手に対する高い作戦テンポは、大国間の競争相手に対するハイエンドの紛争のために近代化する国防総省の努力を妨げてきた。米国防総省の指導部は、地上の近接戦闘の編成があらゆる対等者間の闘い(peer-on-peer fight)で重要な役割を演ずることを期待している[5]。これらの近接戦闘の編成は、敵の火力に対して最も脆弱であり、米軍従事者の4%を占めているが、すべての死傷者の90%に苦しんでいる。彼らの脆弱性にもかかわらず、彼らは米国防予算の2パーセント未満しか受け取っていない[6]

合成訓練環境(STE)は、米陸軍全体の訓練パラダイムに革命を起こすための米陸軍のプログラムである。合成訓練環境(STE)は、ライブ訓練の効率と現実性を強化し、地形に精通し、任務の繰り返しを提供し、戦闘を模擬することにより、兵士の致死性と生存率を向上させるために特に重要である[7]。合成訓練環境(STE)は、ライブ訓練、バーチャル訓練、コンストラクティブ訓練、およびゲームの訓練環境を組み合わせることにより、アクセス可能で相互運用可能な訓練を提供する。これにより、現実世界の地形を完全に複雑に模擬する。その高度な3次元マッピングソフトウェアは、作戦上の有用性も提供する。

背景:BACKGROUND

2018年の米国家防衛戦略(NDS)で述べられているように、大国の競争相手であるロシアと中国は、接近阻止/領域拒否(A2 / AD)を通じて米軍の強みに対抗しようとしている。彼らは国際規範に挑戦し、米国とその同盟国およびパートナーの安全を脅かしている。イランと北朝鮮は永続的で重大な脅威をもたらし、暴力的な過激主義組織は依然として危険である。2018年の 米国家防衛戦略(NDS)に掲示された任務を達成するには、地上の近接戦闘部隊を保護し、その致死性を高めることが不可欠である[8]

戦争は最終的には接近地域の支配によって決定される。米陸軍の作戦コンセプトであるマルチドメイン作戦(MDO)は、大国間の紛争における近接戦闘部隊の中心的な役割を定義している。高度に訓練された歩兵は、敵の精密な火力に対して生き残り、敵の地上部隊を支配するために分散して機動する。彼らはドメイン間で敵を検知し、通信し、各種火力を収束するためイセンサーのシステムを運用する。非常に争われた環境で作戦する彼らの実力は、統合部隊が敵の接近阻止/領域拒否(A2 / AD)によって保護された地形を競争し、侵入し、崩壊させ、利用し、形作ることを可能にするために重要である[9]。これには、不屈で、現実的で、反復的で、アクセスしやすく、動的な合成訓練が要求される[10]

M-4ライフルの複数一体化レーザー交戦システム(MILES)のアタッチメントを「ゼロ調整」することで兵士を支援するアンドレア・ウィットマー上等兵。STE CFTは、この訓練システムや他の数十年前の訓練システムの最新のアップグレードの開発に取り組んでいる。(写真:ジェニファー・スプラディン特技兵)

現状の近接戦闘訓練:CURRENT CLOSE-COMBAT TRAINING

近接戦闘地上部隊はますます複雑な任務(complicated missions)を持っている。彼らは、ますます手ごわい敵の火力に直面しながら、通信が困難な都市などの複雑な環境で作戦する準備ができている必要がある。米国防総省の近接戦闘致死性タスクフォース(Close Combat Lethality Task Force:CCLTF)と合同して、対等な競争相手と比較して近接戦闘能力を向上させることは、米陸軍の主要な戦闘課題(warfighting challenges)の1つである[11]。準備のために、米陸軍は同一基地部隊訓練[12](One Station Unit Training:OSUT)を14週間から22週間に延長し[13]、訓練の効率と現実性を向上させるためにバーチャル訓練(virtual training)に目を向けている。

現状のバーチャル訓練(virtual training)にはいくつかの欠点がある。

  • それは現実的でも動的でもない。
  • 人間の相互作用を模擬していない。
  • あまりにも独創性に乏しすぎる。
  • データを最適に収集できていない。
  • クロスドメインの収束を訓練していない。
  • 相互運用性がない。
  • アクセスするのが難しい。
  • ライブ訓練とコンストラクティブ訓練は一体化されていない[14]

米陸軍フォートライリー基地で2019年4月22日から26日までの間、「ミッショントレーニング・コンプレックス」でのSTE CFTのユーザー評価中に再構成可能な仮想集成訓練装置の試作器を試験するジェレミー・シーマン3等軍曹と彼のチーム (写真:米陸軍マーガレット・ジファー)

簡単に言えば、相互運用性がなく、5つの戦闘ドメインすべてにわたって収束を訓練できない訓練プログラムは廃止された。米陸軍の一体化訓練環境(Integrated Training Environment:ITE)の訓練装置は、相互運用性のない独自のシステムを使用しているため、訓練のアップグレードやカスタマイズが困難である。現在のシステムでは、マルチドメイン・コンバージェンスを訓練したり、兵站、医療、工兵、輸送の各チームなどの実現可能なもの(enablers)をもたらすことができない[15]

米陸軍は現在、部隊対抗訓練のために数十年前の複数一体化レーザー交戦システム(MILES)を使用している。これは費用がかかり、時間のかかるセットアップが必要であり、現実性に欠け、悪い習慣を植え付ける可能性があります。たとえば、兵士は、実際には弾丸を止めることができないが、MILESが射撃を登録するのをブロックする柔らかい障害物の後ろに隠れることができる[16]。さらに、実際の弾薬は弾道に沿って移動する。MILESレーザーのターゲティングは直線で移動する。

現在のシミュレーションは、閉じた制約のあるネットワーク上で動作し、施設を基盤にし、高い人件費を必要とし、特徴ある57の互換性に一貫性のない地形フォーマットを備えている[17]。手動による地形の再構築には、費用と時間がかかる[18]。ライブ、バーチャル、コンストラクティブ演習の設定は、現在、計画に約120〜180日かかり、米国本土に10か所、海外に2か所の12か所でのみ行うことができる。これにより、訓練の利用可能性と指揮官のニーズへの対応には限界がある[19]

STE:将来の米陸軍の訓練:STE: THE FUTURE OF ARMY TRAINING

合成訓練環境(STE)は、米陸軍の最優先の訓練近代化の取組みである[20]。米陸軍の上級指導部は、2021年までに合成訓練環境(STE)の初期の運用能力を持ち、2023年までに完全な運用能力を持つことを期待している[21]

現在のバーチャル訓練

・非現実的:独創性に欠け、予測可能、不自然。

・ダイナミックさに欠ける。

・人間の相互作用を模擬しない。

・不十分なデータ収集。

・クロスドメインの収束を訓練できない。

・システムは古く、相互運用性がない。

・アクセスが困難、特別な施設が必要、待ち時間が長い。

・設定に4〜6か月、一貫した互換性のない形式。

将来の訓練(STE)

・現実的な地形、効果、相互作用。

・ダイナミック、問題解決とミッションコマンドを訓練する。

・人間の相互作用と動的な民衆を模擬。

・膨大な量のデータを収集・分析する。

・マルチドメインの訓練を可能にする。

・すべてのシステムは相互運用可能。

・必要な場所(point of need)で利用可能。

・ワン・ワールド・テライン(OWT)を介して任意の地形を即時に模擬。

近接戦闘訓練は、真のジレンマを提示しなければならず、兵士が予期しない周囲の状況(circumstances)に適応することを要求し、クロスドメイン収束訓練を可能にしなければならない。合成訓練環境(STE)は、ライブ訓練とコンストラクティブ訓練を補完して、あらゆる戦場(battlefield)を複製し、米国防総省のリーダーシップによって不可欠と見なされる、戦闘を経験する前の「25回の無血の会戦(25 bloodless battles)」を含む繰り返しを可能にする[22]。兵士の実際の装備を使用し、特定の場所に縛られることなく、さまざまなシナリオでの繰り返しを増やすために、ライブ訓練環境とバーチャル訓練環境を複数の配信システムを備えた単一のプラットフォームに融合する。メガシティを含む、争われている環境での高強度の戦闘に焦点を当てる[23]

相互運用性:INTEROPERABILITY

合成訓練環境(STE)は、時代遅れの相互運用不可能な訓練シミュレーターの寄せ集めに取って代わるものである。合成訓練環境機能横断チーム(STE CFT)の対象分野の専門家は、相互運用性のビジョンを鉄道の開発と比較した。相互運用不可能なプラットフォームは、必然的に相互運用可能なプラットフォームに取って代わられた[24]。独自のシステムにパッチを適用する一体化訓練環境(ITE)とは異なり、合成訓練環境(STE)は、統合、省庁間、および多国籍の相互運用性を可能にする[25]。合成訓練環境(STE)のワン・ワールド・テライン(One World Terrain:OWT)ソフトウェアは、統合全ドメイン指揮統制(JADC2)アーキテクチャと互換性がある。

国際的なパートナーは、ワン・ワールド・テライン(OWT)と互換性があるようにデザインされた技術を開発しており、その技術の約束を示している。たとえば、GPSが拒否された環境でのナビゲーションとターゲティングのためのイスラエルのCT-MENTORマッピングシステムは、ワン・ワールド・テライン(OWT)を含む他のシステムからマッピング素材を受信するようにデザインされたオープンアーキテクチャを利用できる[26]

ソフトウェア:SOFTWARE

合成訓練環境(STE)はソフトウェアに重点を置いている。その非専有なシステムは、米陸軍を特定のプロバイダーとの限定的な契約に縛り付けることなく簡単にアップデートでき、その合成訓練が変化する戦場に追いつくことを可能にする[27]。合成訓練環境(STE)は簡単に、必要な場所(point of need)でアクセスできるため、兵士はこれまでにない現実的なバーチャル訓練にアクセスできます。また、オープンアーキテクチャにより、階層、ドメイン、部隊間、およびパートナーとの相互運用が可能になる[28]

人工知能(AI)は合成訓練環境(STE)アーキテクチャに組み込まれる[29]。スマートフォンのマッピングアプリケーションのように、戦場、タイミング、精度、致死性、生体認証などのデータを並べ替えて表示する。収集したデータの予測分析を使用して、機械学習を通じて継続的に自己アップグレードする[30]

分隊用没入バーチャル訓練装置(SIVT):SQUAD IMMERSIVE VIRTUAL TRAINER (SIVT)

説明 機能
下車兵士のためのシミュレーションソフトウェア。

「隔週と義務履行のように複雑」;

一体化視覚増強システム(IVAS)の一部。

兵士致死性機能横断チーム(SL CFT)との共同作業。

2021年に装備化された最初の能力セット。

実社会の複雑性をライブ訓練とコンストラクティブ訓練に追加。

部隊が長所と短所を理解するのを助け、訓練効率と米陸軍の即応性を向上させる[31]

ワン・ワールド・テライン(OWT):ONE WORLD TERRAIN (OWT)

説明 機能
詳細な地形マッピング、分析、および配布。

AI分析により、不可欠なタスクに対する即応性のスコアが得られる[32]

必要な場所(point of need)に配信されるソフトウェアアップデート。

再構成可能な訓練装置、アップデートのための商業的革新。

米陸軍ネットワークを通じてアクセス可能。

マッピング

任務の計画策定とミッション・リハーサル

現実的な訓練

複製された地形

統合とパートナーとの一体化[33]

訓練シミュレーション用ソフトウェア(TSS):TRAINING SIMULATION SOFTWARE (TSS)

説明 機能
データをあらゆるバーチャルリアリティ・システムで実行できる商用言語に変換する。

あらゆる地形の3Dシミュレーションの「プラグアンドプレイ」のダウンロードができる。

オープンアーキテクチャと共通標準。

シミュレーションは、完全に仮想化することも、ライブ訓練とコンストラクティブ訓練を強化することもできる。

直感的な兵士のインターフェース。パートナーの演習を容易にし、設定時間を短縮する。

実際の都市部隊が訓練しているデータを使用して、都市のダイナミックさを模擬する。

群集の振舞いを模擬する[34]

米陸軍が特定のベンダーからの購入に縛られないことを確実にする。

兵士を現場に送る代わりに、ワン・ワールド・テライン(OWT)能力を含む合成訓練環境(STE)により、兵士は、再構成可能な仮想集成訓練装置を使用して、ホームステーションから、模擬された戦場の設定で複数の演習を繰り返すことができる。(写真:米陸軍)

施設:FACILITIES

合成訓練環境(STE)は、ストリーミング機能を備えたクラウドコンピューティングを使用して、部隊の訓練を「煉瓦とモルタル」の施設から解放する。合成訓練環境(STE)は、米陸軍の既存の作戦ネットワークと戦術ネットワークを使用するWebベースのアプリを介して「必要な場所(point of need)」でアクセスできる。兵士のモバイルデバイス、ワークスペース、戦闘プラットフォーム、または駐車場や配備された場所などの共通の作戦環境に配信できる[35]

装備:EQUIPMENT

合成訓練環境(STE)は次世代の光学機器や兵器の中に一体化され、兵士が同じ装備で訓練、リハーサル、闘いを行えるようになる。ゴーグルセンサーは、拡張現実を利用して潜在的なターゲットを識別し、範囲を見つけ、合成訓練を可能にするヘッドアップディスプレイを備えたIVASを備えている。IVASはドローンにリンクし、サーマルカメラや暗視カメラなどのさまざまな射手からの兵器の照準器のリモートビューイングを提供し、低リスクで迅速な目標捕捉を可能にする。センサーは心臓と呼吸数を追跡し、脳震盪を検出することもできる[36]。訓練は、恐怖と疲労感を呼び起こし、本物のように感じる[37]。また、友軍部隊を追跡し、友軍の火力を減ずる。試作器は、COVID-19の蔓延に対抗するために温度をチェックするのと同じくらい多用途に使用されている[38]。合成訓練環境(STE)互換の光学系は、インテリジェンス、偵察、監視(ISR)も強化し、データの収集と地形のマッピングを行う。シグネチャ・プログラムには、次世代の分隊火器、強化された暗視ゴーグル、適応型兵士アーキテクチャが含まれる。

STE技術一体化統合施設(TIF)は、兵士が新しい訓練技術の開発を助けるフィードバックを提供する場所として機能する。また、ベンダーは、評価のために TIF に新しい技術を持ち込むこともでき、評価を得たニーズを満たすものは STE 内に一体化される場合がある(写真:米陸軍)

訓練の現実性:TRAINING REALISM

現状の模擬された訓練では、仮想の敵は事前にプログラムされた行動と対応を持っている。現実世界の対戦相手は予測不可能である。AI対応の模擬された対戦相手は、独自の課題やますます困難になるシナリオを学習し、適応し、提示できる。これにより、兵士は、ゲームの事前にプログラムされたシナリオを打ち負かす方法を学ぶのではなく、リアルタイムで適応するようになる[39]

合成訓練環境(STE)は、演習場、軌道、ターゲット、および効果を正確に模擬する必要がある。たとえば、仮想の一斉射撃(rounds)は、実際の演習場のどこかに弾着する必要があり、同じ効果を提供する必要がある。同様に、模擬された保護装置、装備、および地形は、打撃の影響を正確に記録する必要がある。創傷は、データ生成の目的で可能な限り正確に登録する必要がある。触覚スーツは、模擬された経験を向上させることができるもう1つの選択肢である。兵士が演習間にそれらを着用すると、さまざまな強度で振動して、視覚的および聴覚的感覚体験に接触感を追加する[40]。合成訓練環境(STE)は、空包射撃訓練と実弾射撃訓練の間で使用され、後者を明らかに改善することを目的としている[41]

訓練への影響:TRAINING IMPACT

心理的忠実度(シミュレーションがパフォーマンスに関連する認知的、感情的、振舞い上の反応を促す程度)は、効果的なシミュレーションベースの訓練をデザインするための物理的忠実度よりも重要である[42]。訓練は、実環境での作戦時に発生する、注意、作業負荷の認識、および反応や感情に対する同様の必要性を引き出す必要がある。ユーザーインターフェイスは、物理的なオブジェクトや地形のリアルな視覚的描写など、他のどの指標よりも重要である。合成訓練環境(STE)は、最も洗練されたビデオゲームを作成するのではなく、致死性を高めることを目的としている。バーチャル訓練が戦場の習熟度に変換されない場合、それはせいぜい時間の無駄である。最悪の場合、それは悪い習慣を強化することになる。

作戦上の有用性:OPERATIONAL UTILITY

合成訓練環境(STE)は、Project Convergence 2020でその作戦上の有用性を実証した。これは、米陸軍がマルチドメインの戦場で統合の、そして最終的には連合のパートナーと作戦するための準備をする一連の演習の最初のものである。Project Convergence 2021では、合成訓練環境(STE)は「ミッション・スレッド(mission threads)」の一部になる。これには、指揮統制(C2)プラットフォームへのリンクや、ISRデータを活用して、兵士や指揮官に3次元の地形表現をリアルタイムで提供することが含まれる。合成訓練環境機能横断チーム(STE CFT)は、インテリジェンスコミュニティと協力して、技術の他の可能な用途についても協力する予定である[43]

各種課題:CHALLENGES

データのレンダリング:RENDERING DATA

地形は合成訓練環境(STE)の「アキレス腱」である[44]。合成訓練環境(STE)は、収集したデータを使用可能なシミュレーションにレンダリング[45]する必要がある。たとえば、壁や建物の空中ビデオを、特定の範囲で特定の弾薬が当たったときに正確に応答するシミュレーションに変換する。米陸軍は、AIを使用してこのプロセスを加速することを検討している。米陸軍は、特にアクセスが制限されている場合、地下ネットワークと密集した都市地形の困難なマッピングに引き続き直面している。

拡張現実:AUGMENTED REALITY

拡張現実訓練は物理的であるため最適である。兵士は、仮想アバターと「クラッター」を使用して現実世界の複雑性を再現しながら、困難な地形上で、フル装備で機動しなければならない[46]。模擬された地形は、オーバーレイされる物理的な空間と一致しないため、これは重大な課題をもたらすことになる。たとえば、合成訓練環境(STE)は、建物の高さが制限された建設施設内で訓練を行っている部隊に、超高層ビルでの都市作戦のための拡張現実訓練をどのように提供すればよいか?という課題である。

帯域幅と遅延:BANDWIDTH AND LATENCY

不十分なネットワーク帯域幅、長い遅延、サイバーセキュリティは重要であるが、克服できない課題をもたらしている。合成訓練環境(STE)には、兵士1人あたり推定50メガビット/秒が必要であり、現在の帯域幅を増やす必要がある。帯域幅の消費は、特に帯域幅が不足している作戦環境では、既存の米陸軍ネットワークに過剰な負担をかけることはできない。合成訓練環境(STE)は、クラウドストレージを通じてこれに対処することになる。エッジコンピューティングは、クラウドを補完するために不可欠である。これにより、デバイスとユーザーが配置されている場所でのデータ処理が可能になり、遅延と帯域幅の使用量が削減されることになる[47]

サイバーセキュリティ:CYBERSECURITY

合成訓練環境(STE)は、兵士と部隊がどのように戦うか、どのようなギャップが存在するか、および兵器システムがどのように機能するかに関するデータを生成する。セキュリティ侵害は、敵対者にデータの宝庫を提供することになる。国際的なパートナーとの相互運用性は、これらのリスクを増大させる。合成訓練環境(STE)には組み込みのサイバーセキュリティが必要であるが、これには欠点がある。ゼロトラスト[48]などの堅牢なサイバーセキュリティ戦略は、システムのアーキテクチャ全体にファイアウォールを組み込んで、データ侵害を阻止する。ただし、これにより、システム内のデータの自動フローもブロックされ、機械学習を通じて自己アップグレードする機能が妨げられることになる[49]

認知的限界:COGNITIVE LIMITATIONS

米陸軍士官学校(United States Military Academy)の近代戦争研究所の研究者は、シミュレートされた訓練がライブパフォーマンスにどのように影響するかをテストするための実験を実施した。バーチャルリアリティ・ゴーグルとプリロードされた画像が提示されたとき、多くの技術に精通した士官候補生は、シミュレーションを効果的に使用するにはあまりにも認知的に過負荷であった。戦場のパフォーマンスを向上させるために模擬された訓練を最適化するには、さらに研究が必要である[50]

今後の方法:THE WAY FORWARD

ワン・ワールド・テライン(OWT)には、大規模なデータ収集、処理、保存、配布、および3Dコンテンツ開発が必要である。合成訓練環境機能横断チーム(STE CFT)の首脳部は、これらの要件への対応に向けた産業界の大きな進歩を見ている[51]

合成訓練環境(STE)の設定には、能力主導の調達プロセス、産学界との緊密なパートナーシップ、および予算の安定性が必要である。米陸軍の指導部は、要件の決定が12か月のタイムスケールで行われ、兵士のフィードバックによって完全に通知されることを望んでいる[52]

2019年、合成訓練環境機能横断チーム(STE CFT)は、防衛産業のモデリング、シミュレーション、訓練の中心地であるセントラルフロリダ大学に移転した。この場所は、米陸軍省内のシミュレーション・訓練・装置に関する計画執行局(PEO STRI)、および学界や業界のリーダーと緊密に連携することができる。合成訓練環境機能横断チーム(STE CFT)は、数十億ドル規模のゲーム業界を活用して、実世界の地形の正確なシミュレーションを開発することを計画している[53]

米陸軍は国際的なパートナーとの協力を奨励すべきである。たとえば、ワン・ワールド・テライン(OWT)開発は、リアルタイムマッピングでイスラエル国防軍部隊9900と協力することで恩恵を受ける可能性がある。この部隊は、航空機と衛星を使用して、地上部隊が仮想的にフロアごと、部屋ごとにターゲットを見つけることを可能にする仮想3次元マッピングを含むリアルタイムデータを運用者に提供する[54]

合成訓練環境(STE)は、プロトタイプのフィールドテストからのユーザーのフィードバックに基づいて、段階的に開発される[55]。業界への要求は、プロトタイプが必要な機能と軍の運用者からのフィードバックによって駆動されるように柔軟である必要があるが、業界が明確なパラメーターを持つように十分に構造化されている必要がある。軍の運用者と緊密に協力することは、米陸軍が戦場のスキルを開発するために最適化された訓練プログラムを作成するのにも役立つことになる[56]

2020年10月21日にバージニア州フォートピケットで開催された兵士タッチポイント3の実弾テストイベント中に、米陸軍の統合視覚増強システム(IVAS)の機能セット3軍事化フォームファクタ試作器をテストする兵士(写真:米陸軍)

結論:CONCLUSION

将来の戦場がより複雑になるにつれて、地上の近接戦闘部隊は、ますます重要で、複雑で、危険な任務を負うことになっていく。訓練に革命を起こす技術はすでに存在し、近接戦闘の圧倒度を増やすという近接戦闘致死性タスクフォース(CCLTF)ビジョンをサポートしている。合成訓練環境(STE)は、ISR、データ収集、およびデータ分析を強化する。十分な繰り返しに必要な訓練能力、作戦能力、およびアクセス可能性を提供する。置き換えられる一体化訓練環境(ITE)とは異なり、合成訓練環境(STE)は相互運用性があり、アクセスが簡単で、戦闘で使用する装備とともに兵士を訓練する。これにより、クロスドメイン、クロスフォース、マルチパートナーコンバージェンスなどの現実的で動的なマルチドメイン作戦(MDO)訓練が可能になる。特に、煩雑性(clutter)、動的な群衆(crowd dynamics)、兵站、長距離火力、サイバーおよび電子戦を模擬することにより、都市作戦の訓練を改善する。帯域幅、遅延、サイバーセキュリティ、および認知的過負荷の可能性は、克服可能な課題である。安定した予算と産業界、学界、国際的なパートナーとの効率的な調整により、合成訓練環境(STE)は2028年のマルチドメイン作戦(MDO)に対応できる米陸軍と2035年のマルチドメイン作戦(MDO)に熟練した米陸軍に重要な訓練を提供するものである。

ノート

[1] 著者>ジェレマイア・ロズマンは、合衆国陸軍協会の国家安全保障アナリストである。彼はイスラエル国防軍で歩兵として務め、バージニア大学で外交の博士号を取得している。

[2] 【訳者註】STE CFTはSynthetic Training Environment Cross Functional Teamの略で、米将来コマンド内の合成訓練環境の機能横断チーム

[3] 【訳者註】PEO STRIはProgram Executive Office for Simulation, Training and Instrumentationの略で、米陸軍省内のシミュレーション・訓練・装置に関する計画執行局

[4] 合成訓練環境機能横断チーム「合成訓練環境」米陸軍Stand-To!2018年3月26日、U.S. Army STAND-TO! | Synthetic Training Environment

[5] 近接戦闘は「敵との視界の中で下車した歩兵の分隊規模の編成によって実行され、極端な暴力によって特徴付けられる地上戦闘」と定義されている。米国防総省メモ形式の指示書「近接戦闘致死性タスクフォース(CCLTF)の設立」2018年3月18日、https://fas.org/irp/doddir/dod/dtm-18-001.pdf

[6] ダニエル・S・ローパー「戦術的優位を取戻すために:近接戦闘致死性タスクフォース」米陸軍協会Spotlight 18-2201842Regaining Tactical Overmatch: The Close Combat Lethality Task Force | AUSA

[7] ジェン・ジャドソン「25回の無血の会戦:合成訓練は、現在および将来の作戦の準備に役立つ」Defense News、2018年9月5日、25 bloodless battles: Synthetic training will help prepare for current and future operations (defensenews.com)

[8] 米国防総省「2018年米国家防衛戦略の要約:米国の軍事的競争力の先鋭化」2018年1月19日、Summary of the 2018 National Defense Strategy

[9] Department of the Army, U.S. Army Training and Doctrine Command (TRADOC) Pamphlet 525-3-1, The U.S. Army in MDO 2028 (Washington, DC; U.S. Government Printing Office 2018).

[10] Mark A. Milley and Mark T. Esper, The Army Vision, June 2018, https://www.army.mil/e2/downloads/rv7/vision/the_army_vision.pdf.

[11] Army Warfighting Challenges “Army Capabilities Integration Center,” 2019, http://arcic-sem.azurewebsites.us/initiatives/armywarfightingchallenges.

[12] 【訳者註】同一基地部隊訓練:入隊後の米陸軍基礎訓練全体の最初に行われる基本戦闘訓練(Basic Combat Training、BCT)と、基礎訓練全体の残りの期間で行われる高等個別訓練(Advanced Individual Training、AIT)を同じ基地で、同じ仲間と、同じインストラクターから訓練を受けること。

[13] Thomas Bradding, “22-Week Infantry OSUT Set to Increase Lethality, With More Career Fields to Follow,” Army News Service, 5 November 2019. 22-week infantry OSUT set to increase lethality, with more career fields to follow | Article | The United States Army

[14] Maria R. Gervais, “The Synthetic Training Environment,” TRADOC MadSci 2018, Georgia Tech Research Institute, 26 June 2018.

[15] Ryan Pickrell, “This Smart Tech Can Tell Instantly Whether or not a US Army Soldier is Ready for War,” Business Insider, 12 October 2018.

[16] Staff, “Ready Trainee One: U.S. Army Builds Synthetic Battlefield to Blend With Live Training,” Raytheon Intelligence & Space, 3 June 2018.

[17] Sydney J. Freedberg Jr., “Special Ops Using Army’s Prototype 3D Maps on Missions: Gervais,” Breaking Defense, 13 October 2019.

[18] Kyle McCullough, “Prototypes,” Institute for Creative Technologies One World Terrain OWT,” University of Southern California Institute for Creative Technologies, November 2018, http://ict.usc.edu/prototypes/one-world-terrain-owt/.

[19] Gervais, “The Synthetic Training Environment.”

[20] Joint Intermediate Force Capabilities U.S. Department of Defense Non-Lethal Weapons Program, Army pursuing improved realism in live and virtual training, 3 December 2019, https://jnlwp.defense.gov/Press-Room/In-The-News/Article/2052043/army-pursuing-improved-realism-in-live-and-virtual-training/.

[21] Connie Lee, “I/ITSEC NEWS: Extended CR Threatens Timeline for Army’s New Training System,” National Defense Magazine, 4 December 2019.

[22] Gina Cavallaro, “A New Way to Train,” ARMY 69, no. 9 (September 2019), 18–20.

[23] Maria R. Gervais, “The Synthetic Training Environment Revolutionizes Sustainment Training,” Army News Service, 23 August 2018.

[24] Damon Durall, “STE and the Digital Revolution,” Infantry 107, no. 3 (July–September 2018), 37–38.

[25]  “Synthetic Training Environment (STE),” white paper, Combined Arms Center, Training (CAC-T), 2018, https://usacac.army.mil/sites/default/files/documents/cact/STE_White_Paper.pdf.

[26] Seth J. Frantzman, “New Rafael System Helps Vehicles Navigate in GPS-Denied Environments,” C4ISRnet, 16 October 2020. New Rafael system helps vehicles navigate in GPS-denied environments (c4isrnet.com)

[27] STEソフトウェアには、訓練のためのライブ・バーチャル・コンストラクティブ一体化アーキテクチャ(LCV-IA)ゲーム、合成環境コア、近接戦闘戦術訓練装置、航空諸兵種戦術訓練装置、統合地上構成用コンストラクティブ訓練能力が含まれる。詳細については、PEO:STRI「ライブ、バーチャル、コンストラクティブの一体化」を参照のこと。https://www.peostri.army.mil/live-virtual-constructive-integrating-architecture-lvc-ia.

[28]  Gervais, “The Synthetic Training Environment Revolutionizes Sustainment Training.”

[29] “Synthetic Training Environment (STE),” white paper.

[30] Durall, “STE and the Digital Revolution.”

[31] Jon Harper, “Army Accelerating Synthetic Training Environment Programs,” National Defense Magazine, 21 November 2018.

[32] Pickrell, “This Smart Tech Can Tell Instantly Whether or not a US Army Soldier is Ready for War.”

[33] Office of the Undersecretary of Defense (Comptroller)/Chief Financial Officer, Defense Budget Overview, Fiscal Year 2020, March 2019, 9-3.

[34] “Synthetic Training Environment (STE),” white paper.

[35] Beverly M. Cooper, “Training at the Point of Need Boosts Soldier Lethality,” Signal, 22 August 2019.

[36] Joshua Brustein, “Microsoft Wins $480 Million Army Battlefield Contract,” Bloomberg, 28 November 2018.

[37] Gervais, “The Synthetic Training Environment.”

[38] Jaspreet Gill, “Army using IVAS prototype in COVID-19 efforts,” Inside Defense, 27 April 2020.

[39] Major General Maria R. Gervais, “The Synthetic Training Environment,” TRADOC MadSci 2018, Georgia Tech Research Institute, GA, 26 June 2018.

[40] ハプティクスは、振動パターンを使用して、ユーザーに情報を伝達する(例えば、模擬された反動や衝撃)。陸軍が訓練に触覚を使用することを想定する方法の詳細は「STTCは、訓練シミュレーション環境におけるハプティクス技術の使用を評価するためのECS BAA契約を授与」Engineering & Computer Simulations、https://www.ecsorl.com/sttc-awards-ecs-baa-contract-to-evaluate-the-use-of-haptics-technologies-in-training-simulation-environments/.

[41] Staff, “Investment in Synthetic Training Environments,” Israel Homeland Security iHLS, 4 January 2019, https://i-hls.com/archives/88009.

[42] Susan G. Straus et al., Collective Simulation-Based Training in the U.S. Army (Santa Monica, CA: RAND, 2019).

[43] Mandy Mayfield, “AUSA News: Army Sees Expanded Role for 3D Training Tool,” National Defense Magazine, 15 October 2020.

[44] Jacqueline M. Hames and Margaret C. Roth, “Virtual Battlefield Represents Future of Training” Army News Service, 15 January 2019.

[45] 【訳者註】レンダリング(rendering)とは、データ記述言語やデータ構造で記述された抽象的で高次の情報から、コンピュータのプログラムを用いて画像・映像・音声などを生成することをいう。(https://ja.wikipedia.org/wiki/

[46] Gervais, “The Synthetic Training Environment.”

[47] Phil Goldstein, “Edge Computing: Air Force and FEMA Take Advantage of the Intelligent Edge,” FedTech Magazine, 28 February 2019.

[48] 【訳者註】ゼロトラストとは、厳しい ID 検証プロセスに基づいたネットワーク・セキュリティ・モデルのことです。このフレームワークでは、認証や許可を受けたユーザーおよびデバイスのみがアプリケーションやデータにアクセスできます。さらに、アプリケーションやユーザーをインターネット上の高度な脅威から保護します。(https://www.akamai.com/jpから)

[49] For more information about Zero Trust cyber security, see Gus Hunt, “How zero trust solves the ‘weakest link’ problem,” FCW: The Business of Federal Technology, 24 August 2020.

[50] John Spencer and John Amble, “The Simulations Road to Real War,” Association of the United States Army, 22 August 2018.

[51] Jon Harper, “Army Accelerating Synthetic Training Environment Programs,” National Defense Magazine, 21 November 2018.

[52] Daniel S. Roper, “Seizing the High Ground: United States Army Futures Command,” Association of the United States Army, Spotlight 18-4, 1 October 2018.

[53] James Rogers, “Notre Dame Cathedral fire: How a Video Game and 3D Laser Scans Could Help the Reconstruction Effort,” Fox News, 16 April 2019.

[54] Anna Ahronheim, “Meet the Unit Behind the Scenes of the IDF’s Precision Warfare,” Jerusalem Post, 2 July 2020.

[55] “Synthetic Training Environment (STE),” white paper.

[56] John Spencer and John Amble, “The Simulations Road to Real War.”