米陸軍のターゲッティングゴーグル:VR訓練にJEDIクラウドを使用する:Army Targeting Goggles, VR Training May Use JEDI Cloud
米国防総省が推し進めてきた統合エンタープライズ国防インフラストラクチャ(Joint Enterprise Defense Infrastructure:JEDI)を、大本命であると報じられてきたAmazonではなく、Microsoftが落札したことが報じられ、話題となった。
米陸軍は、マルチドメイン作戦の能力を構築するために推進中の米陸軍近代化の取り組みの中の一つに、米陸軍兵士の致死性の向上が挙げられている。この致死性向上の施策の中では、訓練によるもの、装備によるものが代表的に取り上げられるが、これらはいずれも進展する人工知能やビッグデータと連携させることが必須のものとなっている。このためには、軍事用のクラウド環境が必要となってくる。ここで紹介するのは、米陸軍は米国防総省が構築するクラウドである統合エンタープライズ国防インフラストラクチャ(JEDI)を利用する考えについて、米陸軍省のCIOである米陸軍中将が米国内でのカンファレンスで述べた内容についての記事である。
米陸軍のターゲッティングゴーグル:VR訓練にJEDIクラウドを使用する:Army Targeting Goggles, VR Training May Use JEDI Cloud
By Sydney J. Freedberg Jr.
on January 24, 2020
米陸軍はこの惑星の詳細なVR(virtual reality)地図を構築し、米陸軍種のCIO(Chief of Information Officer)[1]はJEDI(Joint Enterprise Defense Infrastructure)[2]をこのような大規模なデータベースを置く論理的な場所と考えている。
バージニア州、マクレーン発:ペンタゴンの物議をかもしているクラウドコンピューティングイニシアチブであるJEDIの将来に対する信頼の重要な兆候である可能性があるものにおいて、米陸軍の新しい拡張現実訓練システムはJEDIに依存する可能性がある。
我々は「JEDIに関しては、合成訓練環境(STE)と一体型視覚増強システム(IVAS)を最初の提供物と見ている」と、陸軍CIOのBruce T. Crawford米陸軍中将は、今週のAFCEA[3]会議で語った。彼は、全軍種において、2月初旬にJEDIの秘密区分なしの能力の最初のリリースに間に合うように、潜在的な「早期導入者」を現在探していると付け加えた。
米陸軍省CIO Bruce crawf米陸軍中将 |
米国防総省のCIOのDana Deasy [4]に報告した内容によると「クラウドコンピューティングプログラムオフィス(CCPO)は、米陸軍内の合成訓練環境の機能横断的チーム(STE CFT)[5]および一体型視覚増強システム(IVAS)を所掌する機能横断的チーム(Soldier Lethality CFT[6])と連携している」と、CIOの広報担当者はBreaking Defenseに確認した。「両機能横断的チームはJEDI クラウドの契約者が提供する商用クラウド技術の活用に関心を持っていますが、クラウドコンピューティングプログラムオフィス(CCPO)にはSTEおよびIVASの使用に関するJEDI クラウドの時程表は現在ない。それでもクラウドコンピューティングプログラムオフィス(CCPO)は、米陸軍のこの取り組みを支援することに前向きである」
そのため、決まった日付はまだないが、米陸軍と統合の両方から明確な関心がある。
What the Army Needs:米陸軍が必要とするもの
米陸軍の機能横断的チームである兵士致死性チームによって開発された一体型視覚増強システムは、基本的にMicrosoft 社の拡張現実ゴーグルHololens[7]の軍事化版である。装着者の視野にデジタルデータを表示することにより、一体型視覚増強システム(IVAS)は周囲の戦術的な現実を奪うことなく、訓練シミュレーション内で戦う相手となる、彼らの目標への方向、次に狙って打つ正確な場所、現実的な戦術を備えた仮想の敵対者まで、兵士に何でも見せることができるものである。これは基本的に、戦闘機のパイロットのヘッドアップディスプレイに相当し、小型化と高耐久化されている。
戦闘モードでは、IVASは米陸軍戦術ネットワークからの実世界のインテリジェンスを表示するようになっている。しかし、訓練モードでは、ゴーグルは兵士を新しい合成訓練環境(STE)にリンクするようになっている。合成訓練環境(STE)は米陸軍のビッグシックスの近代化の優先項目の1つである。合成訓練環境(STE)は最先端の技術を使用して、異なる兵器システム用の互換性のない不格好な戦車用のシミュレーター、航空機、地上車両、地上歩兵部隊のビデオゲームの発想を得た訓練システムなどを、諸兵科連合で共に訓練するためのものに置き換える大規模な取り組みである。
合成訓練環境(STE)の基盤は、One World Terrainとして知られる地球表面の3Dデジタルモデルである。この巨大地図は、米国地理空間インテリジェンス局(NGA)のインテリジェンスデータベースからすべてを描き出す。このデータベースは、異なる木々の種類を区別できるほどにとても詳細である。
米陸軍と米海軍の特別なオペレーターは、すでにミッションを計画するために初期の限定版のOne World Terrainを使用しているが、必要となる世界をカバーするには膨大なデータが必要である。個々の兵士のIVASゴーグル、または指揮所用システムのサーバーでさえ、すべてを保存することはできなく、また、実際の作戦地域の詳細な地図のみが必要なため、保存する必要はない。しかし、誰もが必要なものをダウンロードできるように、データの大鉱脈をどこに配置するのか?が課題となる。
自分のコンパスをIVASゴーグルのナビゲーション機能で確認する兵士 |
「どこかに格納しなければならない」とCrawford米陸軍中将は言う。米陸軍では、「我々はデータセンターを運営しているが、それらのデータをクラウドに移行する取り組みをしている」
「クラウドコンピューティングにより、STEはフル解像度のOne World Terrainデータを保存し、人工知能と機械学習タスクの性能を有効にし、必要な場所での部隊が分散した状態での訓練を可能にする」と、ペンタゴンCIOの広報担当者は言った。
米陸軍州兵機動訓練センターのあるフォートピケットの演習場で拡張現実用ヘッドセットであるIVASを装着して訓練する兵士等 |
統合エンタープライズ国防インフラストラクチャ(JEDI)は、そのクラウドの有力候補である。国防総省の多くの組織はすでに独自の専用クラウド契約を締結しており、JEDIはそれらすべてに取って代わるものではないが、新しい既定の単純モードのクラウドコンピューティングオプションを国防総省全体に提供し、組織全体にわたる規模と経済性を可能にすることを意味するものである。
「これらの能力がこれまで存在しないとは言わないが、これは初めてで、すべての軍種と国防総省全体に秘密区分なし(unclassified)、秘密区分あり(secret)、そして最高機密(Top Secret)のレベルのシステムにおいて、その能力を提供するための取り組みである」とCrawford米陸軍中将は言った。
「私はこの質問“この能力に米陸軍は関心があるのか?”を何度も聞かれるのですが」と彼は言い、「もちろん関心がある」と言った。
これは、この事業の進展があることを前提とするものである。2019年10月、米大統領による米国予算の数ヶ月の遅延、レビュー、抗議、およびパブリックコメントの後、米国防総省はMicrosoft Azureに対して100億ドル相当のJEDI契約を与えた。それは、すぐに訴訟を起こしたと推定されるAmazon Web Servicesに衝撃を与えた。Amazonは従来の米監査院(GAO)の抗議プロセスを迂回し、裁判所に直接訴えたため、自動停止作業命令はなかった。現在、会社は裁判所にこれを発行するよう求めている。
「DoDが最初のJEDIアクティビティを続行することを許可するというAWSの最初の決定は、DoDの要求に応じたものでした」と記者等にAmazonメールを送信し、「しかし、1月22日に、AWSは、裁判所が抗議を決定するまで、さらなる契約履行を停止するよう申し立てを提出した」
Multi-Domain Cloud:マルチドメイン・クラウド
しかし、JEDIで何が起ころうとも、米陸軍はより多くのクラウドを必要とするという状況に変わりはない。米陸軍だけでも、「今から23年度の間にデータクラウドに約7億3,000万ドルを費やす予定である」とCrawford米陸軍中将は指摘した。Crawford米陸軍中将は昨年、米陸軍の新しいデータ戦略を発表し、それ以来、「米陸軍全体の4つ星将軍の司令部、3つ星将軍の司令部ごとに執行命令が送られた」と述べた。
米国防総省の500以上のクラウド契約のすべてではないが多くを単一の統合エンタープライズ国防インフラストラクチャ(JEDI)に統合整理する計画で、JEDIの単一の「先駆者となる」契約が複数のJEDI契約に発展する可能性があるという提言に注意が必要 |
クラウドは米陸軍だけでなく、訓練などの非戦闘機能だけでなく、陸、空、海、宇宙、およびサイバースペース全体でのマルチドメイン作戦を遂行するためのすべての軍種の取り組みにとって必須のものである。
「データとクラウドの取り組みについて私が言うことを思い出さなくても、作戦上の欠かせないものであることを思い出してください。それはすべてマルチドメインの力を有効にすることなのです」とCrawford米陸軍中将はAFCEA会議で語った。
マルチドメイン作戦では、ターゲットデータやその他の戦術インテリジェンスを「センサー・ノード、シューター・ノード、指揮ノードへのニア・リアルタイムのアクセス」で共有するためのネットワークが求められる。 それは途方もない仕事で、我々のデータを収集し、レガシーアプリケーションを売却し、最も重要で権威のあるデータをクラウドホスト環境で移動することなく、それを行うことはできない」と彼は言った。
それは米陸軍ではなく、統合の取り組みでなければならない、と彼は言った。 しかし、私は尋ねました、陸軍固有の解決策を必要とする米陸軍にはどのような特異なニーズがあるのですか?「米陸軍のみの解決策、米海軍のみの解決策、米空軍のみの解決策で統合戦闘への貢献を提供するという議論を始めるのは間違いだと考える」とCrawford倍陸軍中将は答えた。
各軍種全体で、「我々はこれまでに見たことのある協業の面では密接な関係を持っている」と彼は言い、そして「我々のデータ移行、レガシーアプリケーションの売却、クラウドホスティング環境への移行することで、統合人工知能センターが行うことを本当に活用できるようになる・・・・統合コミュニティ全体で前例のない協業が見られると考えている・・・・」と語った。(軍治)
[1] Bruce T. Crawford米陸軍中将、米陸軍省G6所属の米陸軍CIO, https://api.army.mil/e2/c/downloads/575220.pdfを参照
[2] 米国防総省が調達するクラウドで統合エンタープライズ国防インフラストラクチャ(Joint Enterprise Defense Infrastructure:JEDI)という。 https://fas.org/sgp/crs/natsec/R45847.pdfを参照
[3] https://www.afcea.org/site/
[4] 米国防総省のCIO、https://www.defense.gov/Our-Story/Biographies/Biography/Article/2051485/dana-deasy/
[5] https://armyfuturescommand.com/ste/
[6] https://armyfuturescommand.com/sl/
[7] https://www.microsoft.com/ja-jp/hololens/hardware、https://www.moguravr.com/us-army-hololens-2/