ライトニング・ストライク演習
米陸軍の新たな作戦コンセプトとして考え出されたマルチドメイン作戦であるが、これを実際の部隊に適用するまでには多くの課題があることは誰も疑うことのない事実である。机上での作戦コンセプトの検証の重要性もさることながら、米陸軍の地理的な戦闘軍(Geographic combatant commands)以下で適用していくための努力が必要となってくると考えられる。
米国のインド太平洋の戦域を責任範囲とする米インド太平洋軍は、同地域に所在する強力な敵対国に対して新たなマルチドメイン作戦コンセプトを適用して軍事的に打ち勝つための能力を向上させることが求められている。
この責任地域において陸上戦力の主要な部隊として米第25歩兵師団がハワイ州に所在するが、正にこの師団が統合任務部隊の中核としての地位を与えられることになるのであろう。マルチドメイン作戦は、正に陸上ドメインに存在する部隊だけではなく、米海軍、米海兵隊、米空軍、米宇宙軍やその他の関連する組織が一体化して行うものである。米第25歩兵師団は、師団が行う演習を通してこのコンセプトの実行可能性を探っている。
その演習を通じたマルチドメイン作戦の検証についてのMilitary Reviewの記事を紹介するものである。(軍治)
ライトニング・ストライク演習 – Lightning Strike –
Brig. Gen. Joel B. (J. B.) Vowell, U.S. Army[1]
Maj. Benjamin Scott, U.S. Army[2]
Maj. Edward Guelfi, U.S. Army[3]
MILITARY REVIEW ● March-April 2020の論文から
2019年4月14日、ハワイ州ハワイ島のポハクロア訓練地域で「ライトニング・ストライク作戦2019」間に、安全状態を提供することを割り当てられた第25歩兵師団(25th ID)第3旅団戦闘チーム第4騎兵連隊第3騎兵隊の騎兵(写真:Pz.Ezra Camarena米陸軍1等兵)
実弾射撃状況下での任務上不可欠なタスクでの諸兵種連合の体制を証明することの重要性は変わらない。兵士が直面する地形、環境、状況を再現する場合、仮想的で建設的な訓練(virtual and constructive training)には欠点がある。マルチドメイン作戦(MDO)が登場したことで、実弾射撃状況下でのマルチドメイン作戦の信条(tenet of MDO)の証明が不可欠となった[4]。21世紀において、諸兵種連合の一体化は米陸軍部隊の成功の基礎となっている。現在および将来の戦場では、収束(convergence)を達成するために、諸兵種連合の一体化に重ねられた複数のドメインからの各種効果を使用することが求められる。仮想的で建設的な要素(virtual and constructive element)で強化された生地状況での収束(convergence)の実践は、大規模な編成と参謀の訓練を可能にする。そのような実践は、戦闘で可能な限り最高の習熟度を達成するために必要である。
2019年4月、第25歩兵師団(25th ID)が、正にこれを行うためにハワイ州ハワイ島、通称ビッグアイランドのポハクロア訓練地域に展開した。「ライトニング・ストライク作戦2019(Operation Lightning Strike 2019)」は、第25歩兵師団(25th ID)の最近の「戦闘演習(Warfighter Exercise:WFX)19-01」からの教訓を得て、マルチドメイン作戦(MDO)構造内の一体化された仮想および実弾射撃状況下で戦闘演習(WFX)の重要な事象を演練するようにデザインされたものである。戦闘演習(WFX)は訓練の目標と成果を達成しながら、より熟練した師団参謀を育成することに成功したが、すべての訓練は意思決定プロセスを強化するために組み込まれた限られた建設的な部分を仮想環境で実施したものである。実弾条件下で戦闘演習(WFX)シナリオを実行するという決心は、1つの簡単な質問「師団訓練は戦うのと同じ方法で行われたのだろうか?」に基づいていた。
Lightning Strike 2019[5]:ライトニング・ストライク2019
第25歩兵師団(25th ID)は、実弾射撃状況下で新たな米陸軍ドクトリンをテストおよび検証するために、2019年春にポハクロア訓練地域に展開した。師団は、「戦闘演習19₋01(WFX 19-01)」で戦った方法が、実際の環境の現実と摩擦(friction)を乗り切ることができるかどうかを判断しようとした。第25歩兵師団(25th ID)は、「2028年のマルチドメイン作戦における米陸軍」のコンセプトを演習デザインの要(keystone)として使用して、ライトニング・ストライク作戦(Operation Lightning Strike)を計画し、資源配分し、および実行した。計画策定と実行は、米太平洋陸軍(U.S. Army Pacific)の後援の下で、統合、省庁間、および多国籍のパートナーと緊密に連携して行われた。第25歩兵師団(25th ID)は、統合部隊の一部として機能し、師団として、(1)「敵の接近阻止・領域拒否システムを貫通し崩壊させる」(2)「敵のシステム、態勢、目標を打ち破り、我々自身の戦略的目標を達成するために結果として生じる機動の自由(freedom of maneuver)を活用する」(3)「米国、その同盟国、およびパートナー国にとってより有利な条件で競争への復帰を強制するために獲得した成果を集約する[6]」能力を検証するものである。
師団の戦闘演習(WFX)の完了後、第25歩兵師団(25th ID)長、ロン・クラーク米陸軍少将が師団参謀と旅団参謀に、合成した実動訓練環境、仮想訓練環境、建設的訓練環境によって可能にした実弾射撃状況下で戦闘演習(WFX)で採用されているコンセプト、プロセス、および技法を計画し、資源配分し、および訓練できるように指示した。ライトニング・ストライク演習に対する指揮官の意図は、「戦闘演習19₋01(WFX 19-01)」の期間中に師団が戦った方法を検証しながら、師団参謀の能力を再訓練して維持することであった。師団は、ポハクロア訓練地域でのライトニング・ストライク諸兵種連合実弾射撃(CALFEX)に、訓練を促進するために仮想および建設的システム(virtual and constructive system)と編成を採用した統合空地一体化センター(JAGIC)に焦点を置いた師団の主要指揮所の参加を組み込むことを適用した。実弾射撃部隊として、第25師団砲兵(25th DIVARTY);第25戦闘航空旅団(25th CAB);第4騎兵連隊第3騎兵隊(3-4 CAV);第94野戦砲兵連隊第1大隊A砲列隊(一部欠落)が参加した。
第25歩兵師団(25th ID)は、2018年10月に「戦闘演習19₋01(WFX 19-01)」を実施した。この演習では、任務要件を満たすためのコンセプト、プロセス、および技法を適用しながら、シミュレーション環境で純粋に戦った。これらのうち重要なものは以下である(図1を参照)。
図1.演習のためにデザインされた演習組織
(第25歩兵師団G35のベンジャミンスコット米陸軍少佐とマットデサビオ米陸軍少佐による図)
・すべてのドメインにわたる師団の意図的かつ動的なターゲティングの実行
・利用可能なすべての資源を使用した師団の縦深戦闘の形成
・師団の近接戦闘での圧縮された時間と空間の形成
・師団野戦砲兵本部として第25師団砲兵(25th DIVARTY)を使用
・師団偵察タスク部隊のミッション・コマンド要素として第25戦闘航空旅団(25th CAB)を使用
・統合自動化縦深作戦調整ソフトウェア(Joint Automated Deep Operations Coordination Software:JADOCS)および高度野戦砲兵戦術データシステム(Advanced Field Artillery Tactical Data System:AFATDS)を介して処理された統合火力、マルチドメイン火力の使用
Exercise Design:演習デザイン
図2. ライトニング・ストライク2019(Lightning Strike 2019)諸兵種連合実弾射撃 のコンセプト
(第25歩兵師団G35将来作戦部署のベンジャミン・スコット米陸軍少佐とマット・デサビオ米陸軍少佐、米国陸軍による図)
ライトニング・ストライク2019(Lightning Strike 2019)の演習デザインは、諸兵種連合実弾射撃(CALFEX)、模擬された環境、および意図的なターゲティングを刺激するために必要なより広いシナリオの3つの領域に集中した。訓練の目標と利用可能な部隊を理解することにより、演習計画者はポハクロア訓練地域で実行可能な諸兵種連合実弾射撃(CALFEX)オプションを創り出した。利用可能な編成と地形で、諸兵種連合実弾射撃(CALFEX)は以下のもので構成された(図2を参照)。
・師団主指揮所はミッション・コマンドを提供
・第4騎兵連隊第3騎兵隊(3-4 CAV)は師団偵察タスク部隊の地上構成部隊として機能した。この役割では、騎兵隊は砲兵陣地地域を掃討した後に、遮蔽を確立するために航空攻撃と地上機動を実施
・第25戦闘航空旅団(25th CAB)は、師団偵察タスク部隊のミッション・コマンド要素を務め、航空攻撃を支援し、友軍部隊との接触および非接触で敵に対する攻撃を遂行
・第25師団砲兵(25th DIVARTY)は師団部隊の野戦砲兵本部を務め、対抗射撃、近接射撃、敵防空の抑制、破壊的な射撃を提供
・演習統制:ポハクロア訓練地域は、演習場支援と安全化活動を実施し、演習場統制の単一の連絡先として機能
・諸兵種連合実弾射撃(CALFEX)を昼間は3回、夜間は2回の5回を反復した。各反復は、3日間で約4時間半行われた。反復は独立しており、シナリオは各反復後にリセットされた。
師団は、実弾と模擬演習のために敵の戦闘ゾーンで防御された機械化、軽量、および自動車化の部隊で構成される敵旅団に対して主な進入路沿いから南東に攻撃する。これらの敵部隊はほぼ対等な脅威を表しており、地形を最大限に活用しながら、相当な防空能力と長距離野戦砲能力を有していた。敵はまた、米軍部隊による効果的なターゲティングと態勢形成を防ぐために地下施設を使用した。課題は、圧縮された時間と空間の中で敵部隊を検知して破壊するために準備されたセンサーと配備アセットの両方を使用して、敵にこれらの施設を解き明かすことである。
諸兵種連合実弾射撃(CALFEX)の機動計画(maneuver scheme)が完了した後、諸兵種連合実弾射撃(CALFEX)、統合空地一体化センター(JAGIC)、および指揮所を刺激するために必要な模擬環境(simulated environment)の作成に焦点が移った。シミュレーションの中で、計画者は、ポハクロア訓練地域の影響する地域内で演習場内の物理的ターゲットの位置を重ねる敵の機動計画(scheme of maneuver)を開発した。模擬された敵は、模擬の射撃アセット、機動部隊、インテリジェンス、監視、偵察部隊、地下施設などと組み合わせ、動的なターゲティングと諸兵種連合実弾射撃(CALFEX)を起こさせるために必要となる刺激を提供した。地上のターゲットに結び付けられたシミュレーションは、統合火力、機動、および意思決定を駆動するまとまった敵の刺激を提供した(図3を参照)。
これにより、部隊は台本と戦うのではなく、登場した敵と戦うことを余儀なくされた。模擬された敵部隊とシステムは、ターゲットの識別を提供し、建設的な敵の編成に対して達成された効果を再現するために不可欠なものだった。シミュレーションは、建設的な隷下部隊の機動を提供し、敵の行動を引き起こすために旅団を射撃し、師団の作戦参謀(現行担当)に訓練を提供した。適切な仮想的環境と建設的環境がなければ、諸兵種連合実弾射撃(CALFEX)は師団を適切に刺激せず、旅団参謀のプロセスを有効にせず、訓練の機会を制限または低下させる。演習統制(任務訓練センター:Mission Training Center)は、計画立案者と師団シミュレーション将校とこれらのシミュレーションの作戦を実行し実施するために訓練された部隊の参謀によって率いられる。
図3.イベントテンプレートに描かれた諸兵種実弾射撃のための敵の可能行動
(第25歩兵師団G35の将来作戦部署のマット・デサビオ米陸軍少佐による図)
諸兵種連合実弾射撃(CALFEX)の現実味を促進する模擬された環境を計画者が作成した後、師団は、ターゲットプロセスの実行を支援するために演習の範囲を拡大した。戦闘演習19₋01(WFX 19-01)の場合と同様に、この師団は96時間のターゲッティング期間を使用したエアー・タスキング・オーダー・サイクル内で情報収集、機動、火力を入れ込んだ。
計画作成者は、7日間に延長された統合タスク部隊作戦の枠組みを提供するために、軍団レベルの作戦を開発した(図4を参照)。諸兵種連合実弾射撃(CALFEX)は、演習全体でシナリオがターゲティング期間を確実に支援するように、3日前と3日後に提供された計画の4日目に計画した。師団計画者は、グラフィックス、同期マトリックス、視覚化マトリックス、実行チェックリスト、および意思決定支援テンプレートと意思決定支援マトリックスを含む師団作戦命令を作成した。
Convergence at the Division Echelon:師団内階層での収束(convergence)
「2028年のマルチドメイン作戦における米陸軍」は、現在の収束(convergence)は、現在の状況下でのほぼ対等な脅威に対する将来の作戦の課題を満たすには不十分であると断言している[7]。「現在、統合部隊は、ドメインを連合した解決策の偶発的な同期を通じて能力を収束(converge)している」 この小冊子の次の文章は、相手に打ち勝つことを達成するためにマルチドメイン能力を継続的かつ迅速に一体化するための要件という形でのギャップを文書化している[8]。この目的のために、統合部隊はすべてのプラットフォームで相互運用可能なセンサー・シューターになる必要があり、共通作戦図(common operating picture:COP)を開発する必要がある。敵に複数のジレンマを提示するには、会戦が始まる前に、統合部隊が解決策とアプローチを収束させ一体化しなければならない。
図4.意図的なターゲティングを容易にするための7日間を対象とした作戦の計画策定
(第25歩兵師団司令部G35将来作戦のベンジャミン・スコット米陸軍少佐による図。この製品は、高度軍事科学学校の上級軍事研究プログラムでブルース・スタンレー博士が考えたモデルに基づいている)
第25歩兵師団(25th ID)は、統合部隊の一部として活動し、米インド太平洋軍責任地域の一連のパートナーと連絡を取り、演習のクロスドメインの側面をテストおよび検証するために、ライトニング・ストライク作戦への参加を求める。複数のドメインに渡って統合効果を階層化するという訓練目標を達成するために、第25歩兵師団(25th ID)は米太平洋海兵隊(US. Marine Forces Pacific:MARFORPAC)から傑出した参加者を得た。米太平洋海兵隊(MARFORPAC)は、統合戦術航空管制官と海兵航空管制連絡将校(LNO)を差し出した。米海軍と太平洋艦隊(US. Navy Pacific Fleet:PACFLT)は、イージス艦を装備したアーリーバーク級駆逐艦である米艦船ウェインE.マイヤーと、クロスドメイン(陸から海、海から陸)のリアルタイムの実行を提供する米海軍砲撃連絡士官チームを差し出した。
インド太平洋軍の太平洋空軍(US. Pacific Air Forces:PACAF)司令部は、従来の第25航空支援隊の要員で支援されていた。第25航空支援隊の要員は、師団統合空地一体化センター(JAGIC)の位置を埋め、師団偵察隊を組み込んだ海兵隊統合末端攻撃統制官チームと緊密に連携して、真珠湾ヒッカム統合基地から空域管理との支援航空機の空地一体化を提供した。
第25歩兵師団(25th ID)は、統合部隊のパートナーとともに、直接、師団統合空地一体化センター(JAGIC)と米艦船ウェインE.マイヤーに搭載された米海軍火力統制室(Navy Fire Control Room)との間で通信するために、上位の戦術基盤ネットワーク全体にミッション・コマンドシステムとの一体化を求めた。この師団は、第25歩兵師団(25th ID)統合空地一体化センター(JAGIC)の統合自動化縦深作戦調整ソフトウェア(JADOCS)と高度野戦砲兵戦術データシステム(AFATDS)から米艦船ウェインE.マイヤーの艦砲統制システムと海軍艦砲システムへ直接接続することを支援する通信アーキテクチャを確立した。
これらのミッション・コマンド・ネットワーク・アーキテクチャの確立には、実行の3か月前に開始する意図した計画策定が必要であった。第25歩兵師団(25th ID)と米国太平洋艦隊の参謀との間に既存の関係がないため、師団は一連の意図的なミッション・コマンド・脅威テストを実行した。これらの脅威テストは、最初に第25歩兵師団(25th ID)が米艦船ウェインE.マイヤーとの持続的なデジタル接続を確立することを妨げる閉じた飛び地を通じて行われた。米空軍と米陸軍の間の多くの既存のファイアウォールは馴染みがあるが、この一連の障壁は師団にとって未知であり、支援するために師団統合空地一体化センター(JAGIC)のミッション・コマンド・ネットワーク・アーキテクチャの再設計が必要であった。
第25歩兵師団(25th ID)と海軍の間に素晴らしいミッション・コマンド・アーキテクチャを確立した後、第25歩兵師団(25th ID) 統合空地一体化センター(JAGIC)と米艦船ウェインE.マイヤーは、一連の意図的なクロス・ドメイン任務のリハーサルを試み、敵の接近阻止/領域拒否システムを貫通し崩壊させるチームの能力を検証し、 次に、結果として得られる機会の窓を活用して、統合部隊に機動の自由を提供する。ターゲットの最初のセットでは、第25歩兵師団(25th ID)が、意図的なトマホークの陸上攻撃ミサイル打撃と統合電子攻撃を、師団縦深地域内の師団戦闘航空旅団(CAB)非接触攻撃を可能にする既知の敵防空ターゲットに対する第25師団砲兵(25th DIVARTY)からの地上火力と同期させた。
第25歩兵師団(25th ID) 統合空地一体化センター(JAGIC)は、統合自動化縦深作戦調整ソフトウェア(JADOCS)と米海軍Mako Chat(クライアント用)[9]を利用して、これらの攻撃を統合空地一体化センター(JAGIC)の米海軍砲撃連絡士官および米空軍要員と計画し、調整し、そして同期させた。Mako Chat(クライアント用)は、インターネット・リレー・チャット(IRC)とXMPPプロトコルを活用する海軍のメッセージング・サービスである。このサービスにより、Mako Chatは、頻繁に中断される衛星接続のある低帯域幅で高遅延の環境で運用できる。第25歩兵師団(25th ID) 統合空地一体化センター(JAGIC)はMako Chat(クライアント用)に直接つながるため、地理的な場所に関係なく、複数のユーザー間のリアルタイムのチャット通信を活用する機会を与えてくれる。この場合、場所には、スコーフィールド・バラックの複合任務訓練 施設(Mission Training Complex)、真珠湾ヒッカム統合基地、ポハクロア訓練地域、および米艦船ウェインE.マイヤーが含まれる。表面的には、Mako Chat(クライアント用)はトランスバース(Transverse)などの米陸軍ユーザーが使い慣れている歴史的なチャットクライアントに似ている。Mako Chat(クライアント用)の独自の機能は低帯域幅環境を考慮しており、第25歩兵師団(25th ID)は複雑な通信環境で統合ソリューションを活用できる。
ターゲット・セットは、第17野戦砲兵旅団の高機動砲ロケットシステムを使用した効果的なターゲット実行を可能にする海上の脅威に対して、米艦船ウェインE.マイヤー艦上から直接第25 歩兵師団(25th ID)統合空地一体化センター(JAGIC)に送られた。第25師団砲兵(25th DIVARTY)は、利用可能な長距離攻撃兵器の使用を訴求して、米国海軍の航行の自由を可能にした。計画者はこれらの火力の実行を意図的なターゲットとして開発し、リハーサルしたが、どちらの場合も、第25歩兵師団(25th ID) 統合空地一体化センター(JAGIC)のチームも米艦船ウェインE.マイヤーのチームも、演習統制チームによって求められるまで、ターゲット位置または一連の事象として認識していなかったため、タイミングと同期は動的に行われた。
The Division’s Cyberspace Electromagnetic Activities:師団のサイバースペース・電磁活動(CEMA)
サイバースペース電磁活動(CEMA)も諸兵種連合実弾射撃(CALFEX)に一体化された[10]。主なサイバースペース電磁活動(CEMA)の目標は、戦術的な電子戦支援(ES)を一体化し、”拒否・劣化・混乱した宇宙運用環境(D3SOE)”で作戦する部隊の能力を演練することであった(図5を参照)[11]。電子戦支援(ES)の一体化における主要なタスクには、電磁スペクトラムの状況認識の提供、電子戦の共通作戦図(COP)の確立、タイムリーで実用的な情報の提供によるターゲティングの有効化が含まれる。電子戦支援(ES)を提供するために、第25歩兵師団(25th ID) G39と第3歩兵旅団戦闘チームの要員は、特別な小隊を作成して、更新された電子戦小隊部隊のデザインを複製した[12]。
このチームは、搭載型または非搭載型の両方のリゾルブ3型のような地上システムと同様の電子戦支援(ES)ペイロードであるスペクトラムをふるい分ける機能を装備した小型無人航空機システムRQ-20A PUMAを採用した。これらの電子戦システムは、高度な計画策定、実行、および分析をプラグインしたサイバースペース電磁活動(CEMA)能力を使用したラプターXフレームワークに一体化された。これらのシステムを使用して、小隊は、衝突エリアに配置され、模擬された敵と実弾射撃のターゲットに結び付けられたエミッターから発生する無線周波数放射を正しく識別した。ターゲットの放射を検出すると、統合空地一体化センター(JAGIC)と現行作戦参謀は、敵の編成を破壊するために致命的な火力を使用する前に、追加の仮想および実動のインテリジェンス、監視、偵察のプラットフォームに情報収集を命じた。
図5.ライトニング・ストライク時の電子戦支援のコンセプト
(第25歩兵師団G39のザック・セルバンテス米陸軍3等准尉による図)
“拒否・劣化・混乱した宇宙運用環境(D3SOE)”での作戦の準備をするために、第25歩兵師団(25th ID)は実弾射撃期間以外で、“拒否・劣化・混乱した宇宙運用環境(D3SOE)”訓練支援パッケージを使用した。第25師団砲兵(25th DIVARTY)、第25師団戦闘航空旅団(25th CAB)、および個々の各航空機の要素は“拒否・劣化・混乱した宇宙運用環境(D3SOE)”上で指示され、特定の有機的宇宙対応機器が含まれていた。その後、これらの部隊は、非搭載型システムと搭載型システムによる、意図的に計画され、そして実行された反復したGPS妨害にさらされた。「クロール(crawl)」および「ウォーク(walk)」段階で実施される妨害行動により、将来の状況訓練および実弾訓練事象での「ラン(run)」レベルの訓練の条件が設定される[13]。この訓練は、劣化した環境で作戦し、初期の技術と手順を開発して「キルチェーン」を維持し、生き残り、より回復力のある指揮・統制・通信計画で戦う機会を射撃する砲列と航空機に与えた。
Outcomes:成果
ライトニング・ストライク2019(Lightning Strike 2019)は、戦闘演習19₋01(WFX 19-01)の戦術と機能を組み込み、第25歩兵師団(25th ID)の実力を演習し、ポハクロア訓練地域での実動・仮想・建設的な演習で、師団のマルチドメインの縦深作戦と統合クロスドメイン火力を検証した。師団は、師団砲兵(DIVARTY)と戦闘航空旅団(CAB)と地上騎兵隊を使用して、縦深火力を同期させ、対偵察と対火力の戦いで機動した。師団は迅速に機動して射撃部隊を配置し、ロケットの運用範囲を拡大すると同時に、兵器位置測定レーダーを使用して、パターン分析と敵の長距離火力および防空システムに対する積極的な攻撃を可能にした。師団はその後、敵に複数のジレンマを提示するために、空襲、襲撃、非接触攻撃の形でテンポとクロスドメインの機動を適用した。
最終的に、実動環境と建設的な環境のバランスにより、師団は強制的に配置され、旅団の参謀は最高の方法を評価して、師団の縦深地域での火力と機動を同期させ、師団の近接地域への移行を管理し、建設的な機動旅団が敵に接近し、地形を占領し、友軍に好ましい敵の決心を強要することが出来る。
統合の相互運用性とミッション・コマンドについては、演習により、師団は現在のミッション・コマンド・システムを使用して統合の利用可能な能力をより良く活用し、米空軍と米海軍からのクロスドメイン射撃と効果を一体化する手順を開発することを許容した。この師団では、固定翼近接航空支援、ウェインE.マイヤーによる海軍海上火力、模擬された電子攻撃と非致死的火力の一体化から配信される動的ターゲットを同期するためにデジタル通信と音声通信をテストした。これらの機会は、師団に、許容火力を可能にする空域制御手段を構築および管理することを強制し、マルチドメインの地上火力と空対地火力の配分間のトレードオフは強制しなかった。
開発された手順は、師団縦深地域内の敵の高いペイオフ・ターゲットに対して空域と複合した効果の提供を迅速に同期をとることを許容するために、高度野戦砲兵戦術データシステム(AFATDS)、統合自動化縦深作戦調整ソフトウェア(JADOCS)、戦術空域一体化システム(Tactical Airspace Integration System:TAIS)、戦域戦闘管理中核システム(Theatre Battle Management Core System:TBMCS)、対空対ミサイル防衛用ワークステーション(Air and Missile Defense Workstation:AMDWS)などの既存のミッション・コマンドシステムを利用した。最後に、この演習は統合の相互運用性を高める手順を特定する機会を提供したことで、将来のライトニング・ストライク訓練(Lightning Strike training)を、米インド太平洋軍の責任地域のパートナーおよび同盟国との多国籍演習として拡大する可能性も明らかにした。
ハワイ州ハワイ島のポハクロア訓練地域でのライトニング・ストライク作戦2019(Operation Lightning Strike 2019)で4月13日にM777榴弾砲から155㎜砲弾の発射準備する第25歩兵師団(25th ID)第7野戦砲兵連隊第3大隊の兵士
(写真:Lawrence Broadnax米陸軍1等兵)
ライトニング・ストライク2019(Lightning Strike 2019)では、環太平洋演習2018(Rim of the Pacific Exercise 18)や戦闘演習19₋01(WFX 19-01)など、以前のマルチドメイン演習からマルチドメイン作戦(MDO)の一部に教訓を拡大することが許容された。この演習は、師団統合空地一体化センター(JAGIC)にクロスドメイン火力を最適なセンサーおよび最適な火力装備と同期させて、クロスドメイン機動を可能にする機会を与えた。既存の統合空地一体化センター(JAGIC)に海軍砲撃連絡将校と海兵隊火力統制チームを増強することにより、師団は最高の効果を達成するための高いペイオフ・ターゲットから師団のターゲットを見つけ、破壊し、評価し、再攻撃するための統合の検知アセットと火力配分アセットに動的に再度タスクを割り振る常駐の専門家を獲得した。
統合ターゲティング・プロセスを活用することで、統合空地一体化センター(JAGIC)は、マルチドメイン作戦(MDO)のドクトリンで述べられている機会の窓を生成するために、実動環境での致死性効果と建設的環境での階層化された非致死性効果を達成した。これらの機会は、第25歩兵師団(25th ID)がマルチドメイン環境で火力で戦うことによって任務を完了する即応性を整えることに貢献し、効果を達成するためにタイミング、テンポ、および同期を確立するために求められる特別の権限ととミッション・コマンド・プロセスを特定するのに役立った。
ライブ、仮想、および建設的な統合訓練演習を通じてホーム・ステーションで“拒否・劣化・混乱した宇宙運用環境(D3SOE)”を複製する師団の実力は、劣化した環境で戦う機会を提示し、師団全体の火力の有効性を維持するための方法を特定した。重要な位置、ナビゲーション、タイミング、および通信を混乱または拒否する妨害の適用は、師団に、センサーと火力装備の連携(sensor to shooter linkage)の弾力性を高めるために求められる追加能力を訓練し特定することを強要した。また、訓練は残存性を高めるために、欺瞞、囮、電磁スペクトラム放射を削減するための取り組みに集中することを各階層の指揮所に強制した。
この演習では、戦闘演習19₋01(WFX 19-01)で特定されなかった実動演習での欠落事項が明らかになった。第1に、戦闘航空旅団(CAB)には、現在修正されている編成装備表の師団偵察任務部隊として従事する能力容量(capacity)がない。火力の計画策定と実行、インテリジェンス、および機動計画策定は、この役割における重大な欠落である。成功するためには、戦闘航空旅団は大幅な増強を必要とする。第二に、部隊は、戦闘演習(WFX)およびその他のシミュレーション演習の結果として、師団作戦の指揮・制御のために、上位の戦術的なインターネットに過度に依存するようになった。この演習では、指揮所が主要通信、代替通信、不測事態の通信、および緊急時の通信を改善し、これらの計画の弾力性を高めるための手順を開発する必要性を実証した。
部隊は、センサーと火力装備のキルチェーンを維持するために、主要通信計画と代替通信計画の両方を同時に運用するための訓練に集中しなければならない。緊急時通信計画の訓練には、主要通信計画および代替通信計画が失敗した場合に部隊が戦闘の実力を失うことがないように、追加的の焦点が求められる。第三に、これまでの第25歩兵師団(25th ID)の日々の訓練では、シームレスな一体化を達成するために求められる範囲内には、米海軍と米海兵隊が適切に組み込まれていない。
Way Forward:今後に向けて
第25歩兵師団(25th ID)は、実証済みの実績を一体化し、実動訓練時に使用できないシステムと技術を改善することにより、ライトニング・ストライク作戦2019(Operation Lightning Strike 2019)からの成功と教訓に基づいて構築される。今後数か月にわたって、この師団は、大規模な地上戦闘作戦(large-scale ground combat operation)中にマルチドメイン環境で戦い、勝利する即応性を完全に達成するために求められる検証された戦術、技術、および手順を組み込み、さらに開発する。師団は、ライトニング・ストライク作戦2019(Operation Lightning Strike 2019)で開発したことを指揮所演習で演練し、ライトニング・ストライク作戦2020(Operation Lightning Strike 2020)で洗練された実績をテストする。師団レベルから、3つのすべての原則を成功裏に守るには、これまでの訓練や演習の経験を越えた国家レベルのアセットや統合のアセットとのシームレスな同期と活用が求められる。
ノート
[1] ジョエル(J. B.)ヴォウェル米陸軍准将は、米インド太平洋軍司令部J-5の副部長である。彼は1991年にアラバマ大学から彼の委任を受けた、職業歩兵将校である。彼はヨーロッパ、太平洋、および米国中の多くのポストについた経歴を持つ。彼の最後の任務は、ハワイ州のスコフィールド・バラックで第25歩兵師団副指揮官(作戦)であった。ヴォウェルはアフガニスタンで3回、イラクで1回、両方の増派戦役を含む戦闘に参加している。彼はケンタッキー州フォートキャンベルとアフガニスタンの第101空挺師団の第3旅団戦闘チーム(Rakkasans)を指揮した。 ヴォウェルは、スタンフォード大学の戦争大学フェローであり、ブルッキングス研究所の陸軍参謀長上級フェローであった。
[2] ベンジャミン・スコット米陸軍少佐は、ハワイ州のスコフィールド・バラックの第25歩兵師団の将来の作戦計画者としての任務を完了した後、第14騎兵連隊第2騎兵隊の作戦将校として務めている。スコット少佐は歩兵将校であり、テネシー大学から委任を受けている。彼は、米陸軍指揮参謀大学で軍事作戦の修士号を取得している。彼の作戦上の割り当てられた任務経験には、イラクとアフガニスタンでの複数の軍務とリベリアへの人道支援任務が含まれる。
[3] エドワード・ゲルフィ米陸軍少佐は、ハワイのスコフィールド・バラックの第25歩兵師団の師団火力支援将校として最近勤務した後、第11野戦砲兵連隊の第2大隊の副指揮官である。ゲルフィ少佐は、2007年に野戦砲兵将校として任命され、大隊火力支援将校、砲列指揮官、統合即応訓練センターの訓練観察統制官/訓練指導官、補佐官、そして最近ではペンタゴンの陸軍参謀長の特別助手として務めた。彼は、海兵隊指揮参謀大学で政治学の学士号と安全保障研究の修士号を取得している。彼の作戦上の割り当てられた任務経験には、イラクとアフガニスタンでの複数の軍務が含まれる。
[4] 米陸軍訓練ドクトリンコマンド発行の小冊子525-3-1「マルチドメイン作戦における米陸軍」(Fort Eustis, VA: TRADOC, 6 December 2018)
[5] ライトニング・ストライク演習は、ハワイのポハクロア訓練地域で行われる第25歩兵師団レベルの演習で、分隊から師団参謀に訓練を行うものである。師団参謀によって同期され、航空騎兵隊、騎兵隊、野戦砲兵大隊、および後方支援部隊が一緒になって敵を打ち破るものである。この演習では、宇宙、サイバーでのマルチドメイン作戦だけでなく、米海軍、米空軍、および米海兵隊との統合作戦もテストする。https://www.dvidshub.net/feature/LightningStrike
[6] U.S. Army Training and Doctrine Command (TRADOC) Pamphlet 525-3-1. The U.S. Army in Multi-Domain Operations, iii, 15–17.
[7] Ibid., 20.
[8] Ibid.
[9] 【訳者註】Mako Chatは米海軍の共通作戦図(COP)が使用できるチャットシステム
[10] Ibid., 19–20.
[11] U.S. Army Forces Command (FORSCOM), “FORSCOM Command Training Guidance – Fiscal Year 2019” (Fort Bragg, NC: FORSCOM, 7 August 2018), 13–14.
[12] Office of the Army Deputy Chief of Staff, G-3/5/7, “HQDA Form 5 – Electronic Warfare Platoon Force Design Update” (Washington, DC: Headquarters, Department of the Army, 21 February 2019), Tab A.
[13] 【訳者註】Crawl-Walk-Run Methodology「這う・歩く・走る」方法論:米陸軍が適用している訓練練度に応じた段階的訓練の方法論で、単純な事象ますます複雑化する事象へと訓練事象を逐次高めることによって、兵士、リーダー、および部隊は、部隊の訓練計画の進行状況に応じて個人および集団の職務遂行能力を構築していくアプローチの考え方。このアプローチにより、職務の習熟度が次第に向上し、より複雑な職務や事象に進む前に強固な基盤が構築する。(参考:「FM 7-0 TRAIN TO WIN IN A COMPLEX WORLD 5 October 2016」の2₋15ページ https://usacac.army.mil/node/1433)