「FM 3-0 Operations」(2025年版)【第6章 武力紛争の間の作戦】
MILTERMでは、米陸軍の作戦に関するフィールド・マニュアル「FM 3-0 Operations」(2022年版)について2022年11月4日の「FM 3-0 Operations」(2022年版)【「序文」から「はじめに」まで】をはじめとして、以下章ごとに紹介してきているところである。そのマニュアルが2025年3月21日付で米陸軍ドクトリン刊行物(ADP 3-0)「Operations」とともに改訂版が出され公表されたので逐次紹介している。
先に「第1章 作戦の基礎」と「第2章 戦闘力の生成と適用」、「第3章 作戦の根本的事項」、「第4章 武力紛争以下の競争間の作戦」、「第5章 危機の間の作戦」を投稿している。
ここで紹介する「第6章 武力紛争の間の作戦」は、4つの節から成り、第I節では、大規模戦闘作戦とその変化について、第II節では防勢的作戦について、第III節では攻勢的作戦について、そして第IV節では、紛争後の競争と安定化作戦への移行について述べている。2022年版に加えられているのは、核環境での作戦についてであり、また、他の章と同じように特殊作戦部隊に関する記述も追記されている。
全体を通じて戦域軍、軍団、師団、旅団、そして特殊作戦部隊の役割の違いについての理解に役立つと思われる。ちなみに「FM 3-0 Operations」(2022年版)の第6章は「FM 3-0 Operations」(2022年版)【第6章 武力紛争の間の作戦 第I節】と「FM 3-0 Operations」(2022年版)【第6章 武力紛争の間の作戦 第II節から第IV節】でご覧いただける。(軍治)
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FM 3-0 OPERATIONS
MARCH 2025
Approved for public release; distribution is unlimited.
This publication supersedes FM 3-0, dated 01 October 2022.
HEADQUARTERS, DEPARTMENT OF THE ARMY
第6章 武力紛争の間の作戦
兵法は簡単だ。敵の居場所を突き止めろ。出来るだけ早く敵を捕らえできる限り激しく打ち、そして進み続けろ。
ユリシーズS.グラント(Ulysses S. Grant)
本章の第I節では、大規模戦闘作戦とその変化について紹介する。敵の手法、相対的優位性、統合部隊(joint force)との統合、撃破メカニズム(defeat mechanisms)、作戦を可能にする活動(Enabling operations)など、攻勢的作戦と防勢的作戦の両方に適用できるテーマを扱っている。第II節では防勢的作戦について説明する。第III節では攻勢的作戦について述べる。第IV節では、紛争後の競争と安定化作戦への移行について説明する。
第I節-武力紛争と大規模戦闘作戦
6-1. 武力紛争は、相手が目標を達成し、他者に彼らの意志を課すための主要な手段として、致死性の力(lethal force)を用いる戦略的関係の状態を包含する。致死性の力(lethal force)の行使は、武力紛争の特性であり、陸軍の主要な機能である。致死性の直接的な効果は、物理的な次元、つまり敵の闘うための能力と能力容量を低下させることである。しかし、致死性の力(lethal force)の効用は情報と人間の次元にまで及び、他の国力の手段とともに、敵の行動、意志決定、闘う意志(will to fight)などに影響を与える。
6-2. 競争間の作戦は武力紛争の間も継続され、紛争の致死性の側面を補完する。例えば、「受入れ、準備、前方移動、統合(RSOI)」作戦は継続するが、受入部隊(inbound forces)の急増を支援するために拡大する必要があるかもしれない。拡大した「受入れ、準備、前方移動、統合(RSOI)」作戦は、敵の攻撃に対してより脆弱になる。インテリジェンス作戦と宇宙作戦も継続されるが、その活動と権限は戦闘作戦の支援を含むように拡大する。武力紛争間に実施される安全保障協力活動は、状況に応じて拡大することもあれば、焦点を絞ることもある。
6-3. 武力紛争の間、通常、従来型の戦い(conventional warfare)と非正規戦のアプローチを組み合わせた作戦が行われる。指導者は、従来型の戦い(conventional warfare)のアプローチを必要とする限定的な不測事態において、大規模戦闘作戦のためのドクトリンを適用する。非正規戦は従来型の戦い(conventional warfare)を補完することもあれば、それとは独立したものであることもある。また、特殊作戦部隊(SOF)が主導する小規模なものから、従来型の部隊と特殊作戦部隊が実施する大規模なものまである。非正規戦には、対テロ、対反乱、非従来型の戦い(unconventional warfare)、対外国内防衛(Foreign internal defense)、致死性の力を用いる安全保障協力活動などが含まれる。(対テロ、対外国内防衛(Foreign internal defense)についてはADP 3-05を参照のこと。安全保障協力についてはFM 3-22を参照。非従来型の戦い(unconventional warfare)の詳細についてはATP 3-05.1を参照)。
6-4. 大規模戦闘作戦は、投入される部隊の範囲と規模から見て大規模な統合戦闘作戦であり、武力行使を通じて作戦・戦略目標を達成することを狙いとする戦役(campaigns)として実施される。陸上での大規模戦闘は、より大規模な統合戦役のフレームワークの中で行われ、通常、陸軍司令部が統合部隊(joint force)司令部の基盤となる。これらの作戦は通常、高いテンポ、高い資源消費、高い死傷率を伴う。大規模戦闘は、他の作戦では一般的でない複雑さ、致死性、曖昧さ、スピードのレベルを軍事活動にもたらす。大規模戦闘作戦中の初期行動は、競争や危機の間に開始される行動と重なる可能性が高い。例えば、攻勢作戦または防勢作戦に関与している部隊もあれば、敵部隊と接触しながら非戦闘退避(non-combat evacuations)を完了している部隊もある。
6-5. 大規模戦闘作戦は、通常、国家対国家の紛争に関連する状況で発生し、複数のドメインから統合および陸軍の能力を諸兵科連合の様式に使用する師団や軍団を包含している。従来型の戦い(conventional warfare)も非正規戦も目的は敵を撃破することである。作戦を成功させるためには、ほとんどの場合、両方のアプローチの統合が必要である。従来型の戦い(conventional warfare)、非正規戦、特殊作戦部隊(SOF)は、互いに接近して作戦を行う。このような近接は、成功を収めるためには、あらゆる種類の友軍部隊(friendly forces)が協力する必要がある。また、非正規戦の大部分が第二次統合作戦地域(joint operations area :JOA)または別の作戦地域で発生する場合もある。このような場合、戦闘軍指揮官(combatant commander :CCDR)は、国家レベルでの目的の統一を支援するために、他の戦闘軍指揮官(combatant commander)と作戦の十分な調整を確保する。
6-6. 大規模戦闘作戦の成功は、敵武装部隊(enemy armed forces)を撃破すると同時に、土地と住民の支配を確立し、作戦・戦略目標を達成する。大規模戦闘作戦は、優れた軍事能力を活用して、弱い敵を迅速に圧倒し、迅速な戦役(campaign)の一環として獲得した戦果を集約・強化することができる。より能力の高い敵部隊(enemy forces)に対する大規模戦闘作戦は、数カ月またはそれ以上の長期間に及ぶ可能性が高い。
6-6. 陸軍部隊(Army forces)は、地上機動部隊の大部分を構成するのではなく、支援する、実現可能にする、または助言する役割で大規模戦闘作戦を実施することができる。その一例が、2014年に始まった「イラク・シリア・イスラム国」の打倒を目指すイラク治安部隊とシリア民主軍を米軍主導の統合タスク部隊が支援した「生来の決意作戦(OPERATION INHERENT RESOLVE)」である。これらのケースでは、米軍部隊(U.S. forces)はパートナー部隊を支援するために大規模戦闘作戦戦術を適用した。
6-7. 大規模戦闘作戦の特性は、敵を含む多くの要因に基づいて変化する。能力が劣る敵と闘う場合、米統合部隊(U.S. joint force)はほとんどのドメインで大きな優位性を持つことができる。このような作戦での主な関心事は、最小限のコストでいかに迅速に勝利するか、獲得した戦果を集約・強化するか、地域の責任を合法的な当局に移行させるか、などである。全てのドメインで統合部隊(joint force)と闘うことができる同等の敵(peer enemy)と闘う場合、作戦環境はより困難になる。統合防空・長距離火力システム、サイバースペースと電子戦能力、化学・生物・放射線・核能力(CBRN)、グローバル偵察・監視ネットワークは、特に紛争初期や自国の国境近くで作戦する場合、一つ以上のドメインで同等または大きな敵の優位性(enemy advantages)を生み出すことができる。成功するためには、米統合部隊(U.S. joint force)は自ら相対的優位性を作り出し、戦闘力を維持し、作り出した機会を迅速に利用しなければならない。指揮官はリスクを負って機会を作り出し、作戦を順序立てて行わなければならない。なぜなら、一回の決定的な会戦(decisive battle)で敵部隊(enemy forces)を撃破することはできないからである。
武力紛争への敵のアプローチ
6-9. 一旦武力紛争に至ると、同等の敵(peer enemies)は脅威の方法を組み合わせて、可能な限り米国の軍事力を無力化し、米国、同盟国、パートナーに受け入れがたい損失を与える。ロシアと中国は、国力と軍事力の手段をそれぞれ異なる方法で使用している。
国家と非国家の敵対者は、共通の到達目標と利益を達成するために互いに協力する。彼らの協力は、米国やその同盟国、パートナーに対する優位性を生み出すかもしれない。 |
ロシアの武力紛争のアプローチ
6-10. ロシアの戦争観は、しばしば宣戦なしに、比較的限定された政策的目標のために闘われ、全てのドメインで発生する、というものである。ロシアの指導者は、現代の紛争は、過去よりも破壊的で急速な初期戦争期間が特性であり、決定的なものであると評価している。また、ロシアは、非核の戦略的精密誘導兵器が核兵器と同等の戦略的効果を発揮できると考えている。理論的には、非核兵器による攻撃がロシアの主権を脅かす場合、それに対応するために戦術的核兵器を使用する計画である。
6-11. 武力紛争の間、ロシアは全てのドメインで同時に圧力をかけようとする。ロシアの戦略は、対立のコストを高め、米国とその同盟国の目標を政治的・経済的に支えられないようにすることを意図している。ロシアの目標は、米軍部隊(U.S. forces)に目につきやすく恥ずかしい損失を与えることで、紛争を継続しようとする米国の国家意志を弱めることである。
6-12. ロシア軍は大規模かつ精密な火力で紛争に勝利することを意図している。ロシア軍は、米軍部隊(U.S. forces)の展開が最終的に米国の国益に反するように、作戦条件を設定しようとする。米国が部隊を展開する場合、ロシアの到達目標は、米国の戦役(campaign)の成功を妨げる制約を作り出すことにある。ロシアの方法論は、4つの主要な分野に焦点を当てている。
・ 作戦環境を混乱させ、理解を妨げる。ロシアの情報戦活動は、ロシアの好む結果に合うように、情報の取得、伝達、提示を操作する。
・ 安定をターゲットとする。ロシアは、主要地域や主要な集団の間で不安定さを助長し、地域の安全保障条件が米国の作戦要求を支援しないようにする可能性がある。
・ パートナーシップの分断。ロシアは米国の同盟国やパートナーに働きかけ、米国が望ましい合同、統合、省庁間協力の方法で作戦する能力を低下させる。
・ 接近を阻止する。ロシアは紛争前の活動として、当初は非致死的手段を用い、必要であれば致死的手段に移行して、米軍部隊(U.S. forces)への接近を拒否する。関係を損ない、政治的利害を高め、世論を操作し、基地の権利、上空飛行回廊、後方支援、同盟国の協調行動を制約または拒否するために決意を攻撃しようとする。
6-13. ロシアは国力の手段を適用する際、全体的な戦役(overall campaign)の一環として、軍事力およびその他の手段を選択した時と場所で統合し、望ましい目標を達成する。ロシアは、犯罪やテロ行為を含む攻撃的・防御的な戦術や技術を用いる。これらの行動は、国民の知覚を操作し、米軍やその他の機関への支援を思いとどまらせるために用いられることもある。ロシアは必要に応じて、物理的な暴力行為、心理作戦、情報操作のさまざまな手段を用いて、ターゲットの住民に影響を与え、自発的または強制的な協力を展開させる。同時に、間接的な手段で米国の戦闘力やインフラ資源を徐々に低下させ、作戦環境の政治、社会、経済、軍事、情報の変数に心理的な影響を与えることも行っている。
6-14. ロシアの戦術レベル部隊は、精密打撃と大量の火力の両方の効果を利用するために、諸兵科連合部隊として作戦する。劣勢な相手に対しては、ロシア軍は可能な限り縦深機動を採用し、紛争の初期に敵の抵抗意志を撃破する。また、より限定的な目標を達成するために、敵の戦線を固めつつ、大量の戦力を投入する場合もある。どのような状況であっても、ロシア軍の行動の基本原則は、軍事的成功のための条件を作り出すために打撃行動の効果を利用することである。
6-15. ロシアは機動部隊の使用に先立ち、利用可能なすべての国力の要素を用いることを好む。部隊同士の作戦(force-on-force operations)開始後も、これらの統合的な国力を用いて戦術的な機動を支援する。また、ロシア軍は作戦の真意を覆い隠すために、否定と欺瞞(maskirovka)を使用する。戦術を実行するために、ロシア軍は科学的根拠に基づくインテリジェンス手法と意志決定を適用する。
・ 作戦に影響を及ぼす作戦環境の状況を理解することができる。
・ 特定の時間と場所において任務を遂行するために必要な戦術的機能を判断し、必要な戦闘力の配分を計算することができる。
・ 作戦環境において競争する友軍部隊(friendly forces)、侵略軍、地域住民、その他のアクター間の心理的・認知的問題を理解する。
中国の武力紛争のアプローチ
6-16. 中国は紛争を、平時の定常的な抑止作戦から主要な戦闘作戦まで、連続的なものとして捉えている。この連続性の中で、中国は、地域的な従来型の紛争を、直面する可能性が最も高いタイプの紛争と見ている。地域紛争の間、中国は地域的または国際的な経済秩序の維持、中国共産党の保護、あるいは中国の経済的または政治的利益の支援のために軍事部隊使用する。
6-17. 核兵器を保有する国は中国の政策に影響を与える。中国は、地域紛争が核兵器を保有する国々を巻き込む可能性があることを認識している。そのため、中国は抑止力として小規模ながら急速に拡大する核兵器(nuclear arsenal)を維持しており、中国の指導者は先制不使用(no-first-use)政策を公言している。しかし、中国では、核兵器の先制使用が必要となる可能性のある状況について内部対話が行われている。
6-18. 中国は、国の紛争観として、「包括的国力(comprehensive national power)」「欺瞞(deception)」「三戦(Three Warfares)」の3つを考えている。包括的国力(comprehensive national power)とは、ハード・パワーとソフト・パワーで構成される。ハード・パワーには、軍事能力と軍事能力容量、防衛産業能力、インテリジェンス能力、および脅威や威圧などの関連する外交行動が含まれる。ソフト・パワーには、経済力、外交取組み、対外開発、グローバルなイメージ、国際的な威信などが含まれる。中国は、総合的な国力を自国の世界的地位の重要な尺度として捉えている。最終的には、軍事、外交、その他のあらゆる形の紛争が、中国の包括的な国力を高めるものでなければならない。(中国の包括的な国力の詳細については、ATP 7-100.3を参照されたい。)
6-19. 欺瞞は、中国の紛争に対するアプローチのあらゆる部分で重要な役割を担っている。人民解放軍の計画策定者は、欺瞞の到達目標を達成するために軍略(stratagems)を使用する。軍略(stratagems)は敵の考え方を説明し、いかにして相手が望む知覚を得るかに焦点を当て、そしてその知覚を利用する方法を規定する。
6-20. 中国の紛争に対する戦略的アプローチには、人民解放軍の伝統的な軍事作戦を支援・強化するためにデザインされた「三戦(Three Warfares)」が採用されている。これらのアプローチは「戦い(warfares)」と呼ばれるが、普遍的に非致死性であり、直接的な戦闘作戦を伴わない。もし戦闘を行わなければならない場合、「三戦(Three Warfares)」は相手のバランスを崩し、欺き、強要し、相手の知覚に影響を与え、優位性に立てるようデザインされている。「三戦(Three Warfares)」とは
・ 世論戦(public opinion warfare)
・ 心理戦(psychological warfare)
・ 法律戦(legal warfare)
6-21. 世論戦(public opinion warfare)は、政治的議論の条件を設定するためにデザインされた中国のハイレベルな情報戦役(information campaign)である。中国はこの取組みを、世論を形成し、政治的立場を左右し、中国の国益に対する国際的受容を構築することによって、発砲される前に紛争における主導性(initiative)を握ることができると考えている。
6-22. 中国の心理戦(psychological warfare)は、特定の聴衆の行動に影響を及ぼすことを意図している点で、米軍の情報支援作戦と大きく類似している。心理戦とは、ターゲットの聴衆の心理的反応を意図的に操作することであり、中国の目標に有利な態度や行動を生み出し強化し、敵対者の行動を中国の望ましい結果に導くようにデザインされている。
6-23. 中国にとっての法律戦(legal warfare)とは、国内および国際的な勝利のための法的条件を設定することである。法律戦(legal warfare)は、国際法または国内法を利用して相手の軍事行動を妨げることにより、潜在的な相手のバランスを崩し、世界中で人民解放軍の作戦を法的に正当化し、有効な法的フレームワークを通じて中国の国益を支援しようとする。人民解放軍が捕虜、抑留者、民間人をどのように扱うか、また人民解放軍が国際法条約、規範、法律をどのように遵守するかという指針となっている。
6-24. 武力紛争の間、中国はシステム戦を、封じ込め、孤立、聖域といった他の脅威方法と組み合わせて用いる。中国は、全てのドメインとすべての戦いのレベル(levels of warfare)において、これらの脅威方法を採用している。システム戦には以下が含まれる。
・ 敵システムの得意分野を回避し、非対称にアプローチすることで戦闘優位性を獲得する。
・ 敵のシステムの弱点を突くことに長けたシステムを開発し、それによって敵のシステムの強みを相殺し、与えられた任務を遂行する能力を弱めること。
・ 外交取組みによる国際的な同盟関係の弱体化。
・ 航空・海港を不能にするサイバースペース攻撃を行う。
・ 特殊作戦部隊(SOF)を使い、秘密作戦で市民の士気を低下させる。
注: 中国はATP 7-100.3に基づき、特殊部隊を識別するために「特殊作戦部隊」という用語を使用している。ロシアのドクトリンでは、特殊部隊に対して「特殊目的部隊」という用語が使用されている。本書では簡潔にするため、敵対者、敵または友軍部隊に運用される特殊部隊を表すのに「特殊作戦部隊(SOF)」という用語を使用する。
6-25. 世界の舞台では、ロシアを含む多くの主体がシステム戦のコンセプトを受け入れているが、中国はその用兵能力(warfighting capabilities)と方法のあらゆる側面にこのコンセプトを織り込んでいる。システム戦のコンセプトは、2つの基本的な考え方から成る。すなわち、主要な能力を1つのコマンドの下に統合した専用の作戦システムを構築することと、これらの作戦システムを使用して、相手システムの脆弱な部分を非対称的にターゲットにし、利用することである。人民解放軍は、重要な能力を効果的に破壊、隔離、無力化、相殺することで、敵の意志と抵抗力を十分に低下させ、勝利を達成できると考えている。
6-26. 戦術レベルでは、システム戦はレーダー、指揮通信ノード、野戦砲兵(field artillery)と防空システム、および重要な後方支援手段などの高価値の戦場システムをターゲットとすることが大きな中心となっている。中国は、友軍の統合イネーブラと指揮・統制(C2)ノードをターゲットとするため、最大スタンドオフ距離での長距離火力を多用する。戦術的システム戦の例としては、重火器ロケット砲を使用して敵のレーダーや砲兵システムを撃破・破壊すること、電子戦で敵の指揮・通信ネットワークを制圧・無力化すること、敵指導者の状況理解をターゲットとした欺瞞作戦などが挙げられる。
核環境における作戦
6-27. 脅威のドクトリンには戦術核兵器の使用を含むものもある。陸軍部隊は、このような兵器のリスクにさらされながら、また核放射線に汚染された環境下で作戦する準備を整えておかなければならない。敵が敗北に近づくにつれ、敵が戦術核兵器を使用する可能性は高まる。核攻撃後、陸軍部隊は次のような課題に直面する。
・ 高い死傷率
・ 整備上の課題の増大
・ 通信効率の低下
・ 移動性の低下
・ 情報収集およびインテリジェンス作戦の低下
陸軍部隊は、敵の戦術核兵器の使用を通して闘い続ける。
6-28. これらの要因は戦闘効果を低下させるものであり、特殊なものではないが、核シナリオではより深刻で広範囲に及ぶ可能性がある。しかし、指揮官は訓練によってこれらの影響を軽減し、任務を達成することができる。核の脅威からの防護は独立したタスクではなく、十分に準備されたチームが規律正しい方法で綿密に計画された作戦を実行した結果である。
核兵器の効果
6-29. 核兵器は従来型の兵器(conventional weapons)とは異なる効果を持つ。これらの効果は4つのカテゴリに分けられる。
・ 装備品を損傷し、兵士を死亡または負傷させる爆発と衝撃。
・ 熱放射線(熱と光)と核放射線(ガンマ線、エックス線、中性子線)からなる即発放射線で、重度の火傷や可燃物の発火を引き起こす。
・ 残留放射線は、摂取または吸入を通じて人員に外部および内部の脅威をもたらし、機動の計画(scheme of maneuver)に影響を及ぼす可能性がある。
・ 電磁パルス(EMPとして知られる)は、望ましくない電流を誘導することによって、電子機器やインフラを混乱させたり、損傷させたり、破壊したりする。
6-30. このような効果と作戦への影響を考慮し、陸軍部隊は脆弱性を軽減する手段を採用している。これらの対策には、残存性の強化、部隊の分散、ネットワーク復元性の強化、および放射の統制が含まれる。これらの行為は、任務に大きな悪影響を与えることなく、核影響に耐える部隊の能力を大幅に向上させることができる。これらの緩和行為は、第3章で概説した義務(imperatives)の基本的考え方に類似している。
核交換環境に関する考慮事項
6-31. 核攻撃は重大かつ突然の損害を引き起こし、特に準備の整っていない部隊に衝撃と混乱をもたらす。これは意思決定を遅らせ、戦闘力を低下させ、任務達成の妨げとなる。卓越した規律とリーダーシップは、集中力を維持し、闘い続けるために極めて重要である。このため、指揮官は、作戦環境に核の脅威が存在する場合、核兵器使用の考慮事項を計画策定の初期指針に含める。
6-32. 陸軍部隊は、敵の核兵器使用に関連する指標、タイムライン、および潜在的な決心点(decision points)を理解しなければならない。核兵器の影響が部隊の割り当てられた地域内の民間人に及ぼす影響を理解することは重要である。さらに、核の効果を緩和するために使用される移動技術を理解することも極めて重要である。例えば、部隊を分散させるためには、行軍部隊間の間隔を広げた小規模な移動系列が必要になる場合がある。
6-33. 指揮官は、核爆発によって作戦環境が変化した後、不測事態対処計画(contingency plans)を実行する。実行見積り(Running estimates)は、戦術核兵器のさらなる使用、汚染地域の規模と範囲、戦闘力への影響を考慮しなければならない。核環境における補給と再構成(reconstitution)の要件を理解することは極めて重要である。これには、汚染されていない経路と汚染された経路の両方を知ること、汚染除去の要件、通信システムが中断または劣化した場合にこれらの要件を処理する方法などが含まれる。(核環境での作戦の詳細については、ATP 3-72を参照)。
武力紛争の間の相対的優位性
6-34. 陸軍指導者は敵の優位性(enemy advantages)を予測し、それを克服する計画を持たなければならない。陸軍部隊(Army forces)は敵の強さに直接攻撃することを避ける。陸軍部隊(Army forces)は与えられた目標を達成するために、自分たちの有利な状況を作り出すことによって、敵の優位性(enemy advantages)を克服するのが最善である。陸軍の編成が最も効果的なのは、敵の能力容量と抵抗意志を攻撃し、敵の作戦的アプローチを撃破するために連鎖的なジレンマを作り出すような方法で優位性を組み合わせたときである。
物理的優位性
6-35. 友軍部隊(friendly forces)は、敵部隊(enemy forces)を撃破し陸地を占領し、後方連絡線(lines of communications)を支配し、情報と人的優位性を得るための物理的インフラを守るために、物理的優位性を必要とする。武力紛争中、指導者は以下のような物理的優位性を求める。
・ 位置
・ 範囲
・ 移動の速さ
・ 技術的な優位性
・ 地形・天候
6-36. 位置的優位性は、ある部隊の位置が敵の弱点を突くことを容易にする場合に生じる。例えば、異なる方向を向いている敵の防御の翼側を攻撃するように配置された部隊は、敵部隊(enemy forces)に再配置させ、準備された防御の優位性の一部を否定するため、有利となる。この優位性を得るためには、通常、機動が必要であり、編成や担当区域の別の場所でのリスクを負うことになる。
6-37. 友軍部隊(friendly forces)は、特に統合能力を使用する場合、射程の優位性を享受することができる。優れた射程距離により、敵部隊(enemy force)が即座に対応できないような効果を発揮することができる。射程の優位性は、敵部隊(enemy forces)に対して友軍部隊(friendly forces)が移動できる距離にも適用され、特に友軍部隊(friendly forces)が迅速に移動できる場合は顕著である。
6-38. 敵部隊(enemy forces)より速い移動速度は、指導者がそれを利用して敵部隊(enemy forces)が効果的に反応したり再配置したりするよりも速く移動するときに有利となる。移動速度は、判断して使用すれば、他のほとんどの物理的優位性を可能にする。敵の火力能力の範囲内で部隊が敵部隊(enemy forces)に接近する場合、速度はリスクを軽減し、防御を可能にする。敵との接近が早ければ早いほど、その暴露は短くなる。しかし、スピード重視の判断では、敵の交戦区域に迷い込み、大きな損失を被ることもある。
6-39. 指導者は行動方針策定と機動の計画(schemes of maneuver)を指示しながら、技術的優位性を利用する。新しい技術的優位性は、必ずしも新しい装備品である必要はない。旧来の技術を利用したり、陸軍能力と統合能力を新しく斬新な方法で組み合わせたりすることは、優位性に立つために有効であることが多い。
6-40. 地形と天候は、特に移動性(mobility)と移動対抗性(countermobility)の面で有利に働くことが多い。指導者は移動速度を上げるために高速の進入路を使用する。敵の機甲部隊の移動性を低下させるために、厳しい制約のある地形を利用する。攻撃では、指導者は地形を利用して動きを隠す。防御では、逆勾配を利用して掩蔽(cover)と隠蔽(concealment)を提供する。攻守ともに、雨は歩兵が森林地帯を下馬して移動する際の騒音を軽減させるのに有効である。視界の悪い時間帯は、敵の偵察活動から戦闘陣地や友軍の動きを隠すのに役立つ。
情報的優位性
6-41. 情報的優位性は常に物理的優位性及び人的優位性と重なり合い、そこから生まれる。情報的優位性を得るために、部隊はまず物理的または人的優位性を必要とする。陸軍部隊(Army forces)は、作戦環境の物理的・人的次元を通じて行動することにより、情報的優位性を創造し活用する。
指導者は、情報的優位性と他の優位性を組み合わせて、敵部隊(enemy forces)よりも早く状況を理解し、判断し、行動する。武力紛争の間における情報的優位性の例としては、以下のようなものがある。
・ 敵の指揮・統制(C2)システムにアクセスし、敵の情報を混乱させたり、劣化させたり、搾取する能力
・ 奇襲を達成し、敵のターゲティングを妨害するために欺瞞作戦が作り出す機会
・ 電磁シグネチャをマスクする能力
・ 冗長通信を使用することにより、拒否された、または劣化した環境下で友軍部隊(friendly forces)を統合し同期させる能力
・ 敵の悪意に満ちたナラティブに対抗するため、国内外と迅速に情報を共有する能力
・ 正当性を維持し、友好的なナラティブを促進するために、幅広い聴衆に情報を提供する能力
・ 指揮官や参謀の間で情報を迅速に共有・分析し、意志決定や命令を円滑に行うことができること。
人的優位性
6-42. 戦争は対立する人間の意志の衝突であるため、人間的次元が戦争の中心である。陸軍の編成は主に、心理的効果を持つ知性性の力(lethal force)の威嚇または使用によって目標を達成するようにデザインされている。敵部隊(enemy force)の死傷者に対する耐性とそれに対して耐える政治的・社会的意志を理解することは、大規模戦闘作戦で敵部隊(enemy forces)に勝利するために必要な取組みのレベルを理解する上で重要である。指導者は、敵の闘う意志(will to fight)を削ぐために、物理的・情報的な次元で可能な限りのことをする。武力紛争の間、人的優位性(human advantages)は以下の通りである。
・ 戦略的目標を支援する政治的・国家的意志
・ 経験豊富でよく訓練された編成
・ ミッション・コマンド・アプローチによる指揮・統制(C2)に精通した指導者
・ 戦争法の遵守
・ 部隊の結束力、戦闘に耐えうる精神的・肉体的スタミナのある兵士
・ ホスト国の住民の信頼
・ 最善の医療と十分な物資を提供する後方支援システムに対する信頼・相互運用性と相互信頼
・ 同盟国と相手国の相互運用性と相互信頼
統合部隊の一部としての作戦
6-43. 陸軍は常に統合部隊の一員として、また大規模戦闘作戦の際には通常、多国籍連合の一員として闘う。戦闘軍指揮官(combatant commanders :CCDRs)は陸軍上級指揮官を統合部隊陸上構成部隊コマンド指揮官(joint force land component commander :JFLCC)に任命することが多いため、統合部隊陸上構成部隊コマンド指揮官(JFLCC)から旅団レベルまでの陸軍指導者は、陸上での作戦と統合部隊(joint force)の他のドメインでの作戦の統合を理解することが不可欠である。
6-44. 陸軍は、陸上で敵を撃破するために必要なあらゆる規模の移動、近接戦闘、火力を通じて、持続的な諸兵科連合の陸上戦力を適用する能力と能力容量を提供することで、統合部隊(joint force)を支援する。陸軍は、陸上での地上作戦を支援するために陸上、海上、航空、宇宙、サイバースペースの各ドメインの能力を用い、他のドメインでの作戦を可能にするために地上の能力を用いることでこれを実現する。
6-45. 陸軍部隊(Army forces)の統合部隊(joint force)への貢献は、陸軍の他軍種への支援(Army support to other Services :ASOS)をはるかに超え、様々な行動を通じて行われている。これらには以下が含まれる。
・ 陸上での指揮・統制(C2)を確立する。
・ 空と海の行動の自由を奪う空とミサイルの脅威に対し、陸上システムを用いて対抗する。
・ 緊要地形の防御と統制する。
・ 敵の接近阻止(anti access :A2)及び領域拒否(area denial :AD)の構成要素を撃破する。
・ 大規模戦闘作戦を実施する。
・ 大規模戦闘作戦を維持する。
・ 獲得した戦果を集約・強化する。
陸上での指揮・統制の確立
6-46. 陸上で指揮・統制(C2)を確立するには、陸上地域を割り当て、下位部隊間の指揮・支援関係を適切に定義し、特殊作戦統合タスク部隊(SOJTF)のような、近接して作戦する他の主要部隊と調整する陸上構成部隊コマンド(land component command)が必要である。指揮官は、任務と指揮官の作戦コンセプトに基づいて、陸上地域と指揮・支援関係を割り当てる。指揮官はまた、陸上地域を割り当て、部隊をタスク編成する際、利用可能な統合支援のレベルも考慮する。陸軍部隊(Army forces)は、統合部隊指揮官(JFC)、通常は統合部隊陸上構成部隊コマンド指揮官(JFLCC)の指示により、陸上地域の指揮・統制(C2)を確立する。統合部隊陸上構成部隊コマンド指揮官(JFLCC)は、統合軍(unified command)、統合軍隷下部隊(subordinate unified command)、または統合タスク部隊(JTF)内の指揮官で、指揮官に対して、配属、付属、またはその他の利用可能な陸上戦力の適切な活用を勧告し、陸上作戦を計画策定し調整し、与えられた任務を達成する責任を負っている。陸上構成部隊コマンド指揮官(land component commander)の割り当てられた地域の幅と縦深に渡る指揮・統制(C2)には、戦略的通信へのアクセスが必要である。従って、指揮官は指揮・統制(C2)ノードにおける戦略的通信システムの移動と配置を計画する。(統合部隊陸上構成部隊コマンド指揮官(JFLCC)の詳細については、JP 3-31とFM 3-94を参照。)
6-47. 陸軍部隊(Army forces)は、与えられた任務に加えて、一般に4つの重要な問題を考慮する。それらは、下位の陸上地域の割り当て、下位間の相互支援のコンセプト、時間・空間・目的の観点からの部隊階層の統合、および陸上部隊の適切なタスク編成である。
陸上地域の割当て
6-48. 統合部隊指揮官(JFC)は通常、陸上作戦地域(AO)を陸上構成部隊コマンド(land component command)に割り当てる。陸上作戦地域(AO)は通常、統合部隊指揮官(JFC)の統合作戦地域(JOA)の陸上作戦地域全体を包含しないが、統合部隊陸上構成部隊コマンド指揮官(JFLCC)が任務を遂行し、統合部隊陸上構成部隊コマンド指揮官(JFLCC)の統制下にある部隊を防護するために適切な大きさ、形状、位置でなければならない。陸上作戦地域(AO)において、統合部隊陸上構成部隊コマンド指揮官(JFLCC)は作戦地域(AO)の作戦フレームワークを確立し、下位の地上部隊指揮官に責任を負わせ、その責任を果たすための能力を割り当てる。状況に基づき、陸上構成部隊コマンド(land component command)は下位の戦術部隊階層に地域(作戦地域(AO)、地帯(zone)、または区域(sector))を割り当てる。図6-1は、部隊階層ごとの縦深と間口に関する基本的なドクトリンの雛形である。(下位部隊階層への地域割り当ての考慮事項の詳細については、第2章を参照)。
注:政治的制約、地理、同盟国やパートナーの力学、利用可能な戦力、実施される作戦の種類、敵はすべて、各部隊階層に適した作戦地域(AO)の規模に影響を与える。
![]() 図6-1. 縦深と幅のドクトリン上のテンプレート |
相互支援の適用
6-49. 指揮官は部隊をタスク編成し、陸上地域を割り当て、部隊を配置する際に相互支援を考慮する。部隊間の高度な相互支援は指揮官に柔軟性と選択肢を与え、敵部隊(enemy forces)に複数のジレンマを生じさせる。部隊が互いに支援し合えれば、指揮官はすべての用兵機能と各ドメインの能力を組み合わせるための選択肢を増やすことができる。指揮官と参謀は、相互支援と友軍部隊(friendly forces)の詳細な撃破に対する脆弱性の低減に関する選択肢を詳細に理解するために、部隊間の支援能力を評価する。航空能力と間接火力は、部隊間の支援範囲を広げる選択肢を提供する。
6-50. 支援距離は編成の移動性、地形、敵の状況によって異なる。部隊が兵器の射程外で作戦する場合、支援距離から機動してお互いを有効にすることができる場合がある。歩兵部隊は、制限の厳しい地形では、装甲編成を有効にするために短い支援距離を機動することができるかもしれない。戦闘航空旅団は、師団の他の部分から孤立した歩兵旅団を支援するために、支援距離にいることができる。部隊が広範囲に分散して作戦しなければならない場合、指揮官と参謀は状況に応じて複数の編成の支援に機動できるように予備を配置する。
6-51. 部隊が通信できない、または敵部隊(enemy forces)に固定されている場合は、お互いの近接度に関係なく支援距離内とはならない。部隊が共通の作戦映像(COP)を共有している場合、相対的な近接性は機動と火力の調整能力より重要ではない。相互支援の優位性を生かすには、部隊が敵部隊(enemy forces)よりも効果的に機動と火力を同調させることが必要である。
6-52. 大規模作戦には、従来型の作戦(conventional operations)と特殊作戦の取組みの統合と同期化が必要である。統合タスク部隊(JTF)指揮官は、特に指揮・統制(C2)や後方支援の分野で、部隊と特殊作戦部隊(SOF)の双方の能力や限界が異なることを考慮しなければならない。大規模戦闘作戦の間、特殊作戦部隊(SOF)を戦術的機動に統合する主な方法は、特殊作戦部隊連絡部隊(SOFLEとも呼ばれる)を通じて行う。特殊作戦部隊連絡部隊(SOFLE)は通常、軍団または師団レベルで連携するが、従来型のどの部隊階層とも連携できる。(従来型の戦い(conventional warfare)部隊と特殊作戦部隊の調整に関する詳細は、FM 6-05を参照。)
6-53. 指揮官は、分散した前進軸(axes of advance)に沿って移動するため、あるいは後方地域などの場所で発見を最小限にするため、状況に応じて下位部隊に非連続の地域を割り当てる。このような場合、上位司令部は未割り当ての地域に関連するリスクに対する責任を保持し、自らが管理する能力でそのリスクを軽減する。友軍部隊(friendly forces)が主導性(initiative)を握り、敵に対応を迫ることができる限り、非連続地域で作戦する大規模部隊は後方連絡線(lines of communication)を防護することができ、許容できるリスクで作戦することが可能である。しかし、非連続的な部隊のリスクは、特に後方地域で静止する時間が長くなればなるほど、急速に増大する。部隊数が限られた大規模な作戦地域(AO)や、異なる島々をまたいで作戦が行われる海洋環境は、非連続の割り当て地域を必要とする条件である。
6-54. 下位部隊が、他の地上部隊の支援範囲や支援距離を超えた非連続的な作戦区域で作戦する場合、統合能力はリスクを軽減することができる。しかし、陸軍指揮官が直接管理できない統合能力を利用することは、敵の活動、天候、または統合部隊指揮官(JFC)の高い優先順位により、それらの能力が利用できなくなるリスクを伴う。(相互支援の詳細については第7章を参照。海洋環境における非連続的な割り当て地域の詳細については、第8章を参照)。
部隊階層の統合
6-55. 部隊階層の役割と責任を時間、空間、および目的で記述することにより、敵の編成や非正規軍が友軍部隊(friendly forces)と混在する作戦区域の縦深を通じて、作戦の一貫性を高めることができる。部隊の混在は複雑さを増し、部隊階層間の取組みの統一を保つことを難しくする。指揮官と参謀は、すべての部隊階層の作戦を統合し、優位性に立ち、目標を達成することを確実にする。
適切な焦点を当てることで、部下の主体性が発揮されるとともに、上位司令部は限られた能力を最大限に活用することができる。 |
6-56. 部隊階層は敵部隊(enemy forces)を撃破するために下位の編成を機動する。任務の成功には、上位の部隊階層が下位の作戦を支援することが必要である。大規模戦闘作戦では、旅団戦闘チーム(BCT)と師団は一般的に敵の機動部隊の撃破に重点を置く。軍団とそれより上位の部隊階層は、統合部隊指揮官(JFC)の計画と優先順位に従って、敵の統合防空システム(IADS)および敵の統合火力複合体(integrated fires complex)の一部を撃破することに重点を置くのが一般的である。
6-57. 旅団戦闘チーム(BCT)は敵の警戒活動や機動の部隊階層を倒すための時間と空間が必要である。師団は、近接・後方作戦を脅かす後続部隊、予備、短・中距離火力の統合を崩壊させることにより、下位の編成に時間と防護を提供する。師団は、敵機動部隊に対する近接作戦で旅団を機動させる。師団は攻撃航空と近接航空支援を使用して作戦を可能にし、テンポと作戦範囲を維持するために後方作戦を使用する。敵の機動部隊に焦点を当てることは、旅団戦闘チーム(BCT)と師団が敵の統合防空または火力能力の構成要素を攻撃することを妨げるものではない。軍団は通常、師団の割り当て地域または影響範囲内にある優先的な敵の能力を攻撃するよう師団に要求する。
6-58. 軍団は、敵の中・長距離火力、防空・ミサイル防衛能力、およびそれらに関連するネットワークやセンサーを打ち負かすために、宇宙やサイバースペース効果を含む統合能力を用いて師団を機動させ条件を設定する。さらに、軍団は後続の敵の機動編成の動きを混乱させる。軍団は、師団後方地域がその統制のための能力容量を超えて拡大しないようにし、師団の初期取組みを拡大し、獲得した戦果を集約・強化することを継続する。陸上構成部隊コマンド(land component command)は、他の部門との相互支援を行い、統一行動パートナーとの陸上での取組みの統一を維持する。陸上構成部隊コマンド(land component command)の評価は、戦術的行動が物理的、情報的、人的次元において望ましい効果を上げていることを確認する。それらは、コマンドのナラティブが戦術的状況に合致し、戦術的行動がコマンドのナラティブを補強することを保証する。(部隊階層の役割と責任を実行間の時間、空間、目的の観点から想定して描いたのが132ページの図6-2である。)
6-59. 上級司令部は、単に追加能力を付与するだけでなく、下位の編成の戦闘を積極的に支援する。指揮官と参謀は、それら自身の部隊階層の役割と責任に固執するあまり、下位の編成の失敗を招くことを積極的に避ける。
![]() 図6-2. 異なる部隊階層における時間、空間、目的の観点からの想定される役割と責任 |
タスク編成
6-60. 指揮官は、部隊がその役割、責任、目的を果たすことができるように、部隊をタスク編成する。タスク編成(Task-organizing)とは、固有のタスクや任務を達成するために、特定の規模と構成を持つ部隊、支援参謀、または後方支援パッケージをデザインすることである(ADP 3-0)。部隊をタスク編成する際に考慮すべきことは、任務、訓練、経験、部隊の能力、持続可能性、作戦環境、および敵の脅威である。タスク編成は、下級指揮官へのアセットの割り当てと、指揮・支援関係の確立を行う。タスク編成は、指揮官が作戦中に後続の任務のために部隊を再編成するため、継続的に行われることがある。陸軍部隊(Army forces)のタスク編成能力は、編成の敏捷性を高める。指揮官は、利用可能な資源を最大限に活用するために、部隊を構成することができる。また、陸軍部隊(Army forces)は部隊の能力をタスクに適合させることができる。後方支援部隊の調整能力とタスク編成能力により、指揮官は任務要求に応じた行動の自由を確保することができる。
6-61. 編成のタスク編成は指揮・統制(C2)を支援し、部隊間の指揮・支援関係を公式化する。効果的なタスク編成は
・ 指揮官の意図と作戦のコンセプトを促進する。
・ 指揮支援関係の適切な使用により、指揮の統一と取組みの同期を確保する。
・ 作戦コンセプトの柔軟性を維持する。
・ 不測の事態に対応し、将来の作戦を支援するための柔軟性を確保する。
・ 主たる取組み(main effort)に重点を置く。
・ 敵の脆弱性を突く。
・ 資源を最小限の制約のもとに配分する。
・ 変化する状況に適応する。
・ 効果的な統合部隊を維持・創設する。
・ 有効な諸兵科連合チームを維持・創設する。
・ 制限を相殺し、利用可能なすべての戦力の可能性を最大化する。
・ 可能な限り、下位部隊間の相互支援を行う。
6-62. 部隊は作戦期間中、上位司令部が与える任務に基づいて部隊を編成・再編成する。指揮官は、各下位の部隊階層に任務遂行のための十分な戦闘力が割り当てられ、配属し、または支援されていることを確認する。支援する統合の能力と陸軍の能力の割り当ては、作戦の段階ごとに主たる取組みと支援の取組みを考慮し、また、戦力の経済性に努めてリスクを受け入れ、別の場所で機会を生み出すといった他の要因も考慮する。
6-63. タスク編成の変更は、下位の部隊がいかに機敏であっても、負担をかけることになる。タスク編成を変更する前に、指導者は支援関係や支援の優先順位の変更など、より破壊的でない選択肢を検討する。
航空脅威とミサイル脅威への対抗
6-64. 敵の航空・ミサイル能力は、重大な脅威である。これらは、集結地で戦闘力を構築する編成や、後方連絡線(lines of communications)を通過する部隊、後方作戦を実施する部隊に対するリスクを増大させる。攻勢作戦中に友軍部隊(friendly forces)を攻撃することもできるが、特に指揮所や静止している時に発見された部隊にとっては危険(dangerous)である。敵の航空・ミサイルの脅威を撃破することは、攻勢的機動(offensive maneuver)の機会を創出するために必要である。しかし、前方に配置された敵の航空・ミサイル戦力を移動させる機動部隊の投入は、対空作戦を補完することができる。
6-65. 対空は、地上と空中の敵航空機とミサイルを無力化または破壊することで、望ましい制空権を確立・維持するための攻勢作戦と防勢作戦を統合した戦域任務である。この作戦には、陸軍の有人・無人航空機や長距離火力、機動部隊、特殊作戦、宇宙作戦、サイバースペース作戦、電磁戦能力を使用することがある。
6-66. 防勢的対空作戦は、友好的領空に侵入または攻撃しようとする敵部隊(enemy forces)を無力化または破壊するために戦域内で行われるすべての防御的措置である。防勢的対空作戦は、友軍部隊(friendly forces)およびアセットに対する敵対的な航空およびミサイルの脅威を破壊し、無効化し、またはその効果を減じるためにとられる能動的および受動的な防御行動を包含している。防勢的対空作戦の到達目標は、攻勢的対空作戦と連携して、部隊が空とミサイルの脅威から防護されながら作戦できる地域を提供することである。防勢的対空作戦は、攻勢的対空作戦および他のすべての統合部隊の作戦と統合され、同期化されなければならない。地域防空指揮官は、統合部隊指揮官(JFC)が設置した場合、防空の計画策定および作戦の責任者である。
6-67. 統合部隊指揮官(JFC)は、統合航空作戦センターを通じて、統合部隊全体の防勢的対空作戦を計画、調整、統合する権限を持つ地域防空コマンドを指定する。これらの司令部は、統合防空システム(IADS)を構築する。地域防空コマンドは、構成部隊指揮官の支援を受けて、統合部隊指揮官(JFC)承認の統合地域防空計画を策定し、統合し、配布する。
6-68. 友軍部隊(friendly forces)は、通常統合部隊航空構成部隊コマンド指揮官である地域防空指揮官が定めたガイドラインと規則に従って、空とミサイルの交戦を行う。統合部隊航空構成部隊コマンド指揮官は、最も多くの航空アセットを持ち、作戦地域(AO)での統合航空作戦を計画、任務、統制する能力を持つ軍種であり、通常、空軍または海軍である。
6-69. 陸軍航空・ミサイル防衛コマンド(AAMDC)は、戦域における陸軍航空・ミサイル防衛(AMD)部隊のための陸軍の主導的組織である。陸軍航空・ミサイル防衛コマンド(AAMDC)指揮官は陸軍航空・ミサイル防衛(AMD)調整官として、陸軍部隊(ARFOR)指揮官と地域防空指揮官を支援し、重要アセット・リストの計画策定と調整と防衛アセット・リストの作成にあたる。
6-70. 陸軍防空砲兵(ADA)部隊は、統合部隊のために陸軍航空・ミサイル防衛(AMD)作戦を行う。陸軍部隊(Army forces)は、敵の航空・ミサイル防衛(AMD)の一部を撃破するために、統合部隊指揮官(JFC)による戦域防空・ミサイル防衛システムの配備・運用のための緊要地形を確保するために攻撃することができる。前方展開または早期参入した陸軍防空砲兵(ADA)部隊は、統合部隊指揮官(JFC)が戦闘力を増強する間、重要なアセットを航空攻撃から防御する。
6-71. 重要アセット・リストは、防護を必要とする最も重要なアセットを特定し、利用可能な陸軍防空砲兵(ADA)部隊を割り当てる防御アセット・リストの基礎となる。統合作戦地域(JOA)における統合または多国籍の陸軍航空・ミサイル防衛(AMD)構成部隊との統合により、陸軍航空・ミサイル防衛(AMD)システムの不足をある程度緩和することができる。短距離防空は、主に水陸両用上陸地点、港湾、飛行場、指揮所、交差点など、合同および陸軍の重要なアセットに対する低高度の航空脅威に対する防空を提供する。陸軍防空砲兵(ADA)の全部隊階層で統合された指揮・統制(C2)により、限られた短距離防空と早期警戒のアセットを最も効率的に配分することができる。高高度から中高度までの陸軍航空・ミサイル防衛(AMD)部隊は、弾道ミサイルの脅威から統合部隊(joint forces)と陸軍部隊(Army forces)を防御する。
6-72. 陸軍防空砲兵(ADA)部隊の計画策定、配置及び残存性移動の必要頻度を決定する際、部隊は敵間接火力の範囲及び敵部隊(enemy forces)の陸軍防空砲兵(ADA)部隊のシグネチャを識別する能力を考慮する。機動部隊は地上攻撃から陸軍防空砲兵(ADA)部隊を守るために必要とされることがある。(空とミサイルの脅威に対抗するための詳細な情報はJP 3-01を参照。陸軍陸軍航空・ミサイル防衛(AMD)作戦の詳細についてはFM 3-01を参照)。
緊要地形の防御と統制
6-73. 統合部隊は、前方駐留部隊による同盟国の防御、戦闘力の展開を可能にする戦略的後方連絡線(lines of communications)の統制、統合強行突入作戦(joint forcible entry operations)で必要となる緊要地形の管理など、永続的な要求を有している。陸軍部隊(Army forces)の貢献は、統合部隊の他の構成員を防護し、有効にするものであり、その結果、陸上での行動の自由度と作戦の機会が拡大する。(大規模戦闘作戦時の防御については、本章第Ⅱ節を参照)。
前方駐留部隊による防御
6-74. 武力紛争は多くの場合、長期にわたる競争の後に発生し、米国の同盟国またはパートナーに対する何らかの敵の侵略、前方駐留米軍部隊(forward-stationed U.S. forces)に対する攻撃、またはその両方から始まる可能性が高い。戦闘任務が同盟国の取組みの一環としての防御を伴う前方駐留部隊は、移動防御または地域防御、後退を行うか、将来の作戦での役割に備えることができる戦術集積地に再配置するよう求められることがある。戦域連携安全保障部隊支援旅団(SFAB)の顧問団は、脅威となる相手国の側に身を置き、リアルタイムの戦術的インテリジェンスを提供し、米国の能力を利用することができる。指揮官や参謀は、防御部隊に陸軍火力や統合火力の適切な優先権があることを確認する。作戦計画(OPLAN)および支援する下位計画では、主要な防御位置、警戒地域、部隊要求、戦術的集結地の位置、その他の計画地が特定される。競争間の準備に基づき、部隊はこれらの陣地を占領し、可能であれば頭上の掩蔽、隠蔽、通信、射界を改善する。友軍部隊(friendly forces)は、実際の準備と偽陣地(fake positions)の準備を組み合わせることにより、敵の発見取組みを妨げる。競争間の防御準備、特に残存性のある陣地(survivability positions)の確立は、敵の準備火力がほとんどあるいは全く警告なく開始された場合、戦闘力を維持する。
6-75. 武力紛争の初期に再配置する任務を持つ前方駐留部隊は、経路と将来の位置について熟知し、理解することが必要である。これは競争間に習得する。リハーサルの一環として、部隊は実際に通過する部隊と一緒に、警戒・召集手順、積載計画、弾薬の引き込みと分配、戦術的な道路行進、および超越交代(passage of lines)を訓練する。指導者はリハーサルが戦闘状況をできるだけ反映するようにし、視界の限られた移動、友軍との安全な無線通信、移動中の整備計画などの細部に注意を払う。
6-76. 陸軍部隊(Army forces)、特に前方に駐留する部隊や重要な統合能力を防護する任務を負う部隊は、その陣地の生存能力を継続的に向上させる。可能な限り、指導者は重要な能力を移動できるようにし、不規則に移動させ、偽装を使い、静止しているときは掘り下げ、分散を維持することで、競争や危機の間のターゲットを複雑にする積極的な手段を取る。訓練中に防護意識を植え付け、習慣化させた部隊の基準と規律が、紛争の初期段階での成否を決める。
6-77. 特定の作戦計画や状況に応じて、前方駐留部隊は特定の任務を遂行したり、戦闘力を維持するために戦術的集結地に再配置されることがある。これらの作戦は接触しているときでもしていないときでも可能であり、指導者は作戦を計画し、リハーサルを行わなければならない。作戦が同盟軍の後方の超越交代(passage of lines)を伴う場合、部隊は作戦の安全を維持するために、実際の実行と同じ手順と安全な通信を使用してリハーサルに参加する。
6-78. 敵機動部隊に迂回された場合、前方展開部隊の指揮官は率先して戦闘に参加する。敵の後続部隊の要素を撃破しようとする。敵の後方支援能力と長距離火力能力を破壊し、友軍部隊(friendly forces)に対する縦深打撃を行うためにあらゆる試みを行う。これらの作戦は、現地住民の支援を得た場合に最も成功する。(超越交代(passages of lines)の詳細については6-170から6-172項を参照せよ。後退作戦(retrograde operations)の詳細については6-201項を参照)
戦略的後方連絡線と緊要地形の統制
6-79. 戦略的後方連絡線(lines of communications)と緊要地形を統制することは、戦闘力を持続的に投射するための統合部隊(joint force)の能力が不可欠である。ロシアと中国は、米国本土の戦略的支援地域から、空路、陸路、海路の輸送路、中間準備基地、戦術的集結地まで、地球上のあらゆる場所で統合作戦に対抗することが可能である。戦略的後方連絡線(lines of communications)は通常、重要な陸上地域を含むため、陸軍部隊(Army forces)はその防御に重要な役割を果たす。
6-80. 敵は従来型の戦い(conventional warfare)の能力と非正規戦の能力を統合し、戦略支援地域から近接地域までの後方連絡線(lines of communications)を寸断する。敵の航空、宇宙、サイバースペース、ミサイルの能力は、世界のどこのターゲットも射程に入れることができる。敵は、米国本土のインフラや住民を攻撃するために、スパイや代理人(surrogates)を使用することができる。敵の地表・地下の海上能力は、非従来型のアプローチと相まって、海上での後方連絡線(lines of communications)を混乱させる。敵の中・長距離火力は、陸軍が戦闘力を前方戦術集結地に移動させる能力を脅かす。
6-81. 陸軍部隊(Army forces)は飛行場、鉄道駅、港湾などの重要な中継地点を制圧する。彼らは、状況に適した残存性の高い方法と技術を採用し、その地位を固める。作戦や任務の変数によっては、これらの地域は敵のサイバースペース攻撃やその他の情報戦の方法、スパイ活動、テロ攻撃、特殊作戦部隊(SOF)、弾道ミサイル攻撃、大量破壊兵器に対して脆弱になる可能性がある。
6-82. 航空・海上後方連絡線(lines of communications)の確保は他の軍種が担当するが、陸軍部隊(Army forces)は陸地、特に飛行場や港湾の周辺を確保することがある。航空機や艦船は不定期に移動しなければならないため、敵のターゲットが複雑化し、その結果、陸軍部隊(Army forces)が防護やその他の支援を行う必要がある場合の計画策定要求が複雑化する。他の軍種が利用できる緊要地形を確保することは、他の目的に利用できる戦闘力を最初は低下させるとしても、重要である。他の軍種の使用を可能にすることは、陸軍部隊(Army forces)の戦地への流入を確保するのに役立つ。
6-83. 武力紛争の間、制裁の執行や封鎖を行うための統合作戦で、陸軍部隊(Army forces)が陸上から重要な海上交通の要衝を制圧することが必要になる場合がある。陸軍の能力は、無人航空機システム(UAS)、長距離精密火力、陸軍航空・ミサイル防衛(AMD)、攻撃航空、電磁戦、通知活動・影響力活動、安全保障部隊支援、地域警備(area security)などで、統合部隊(joint force)に選択肢を提供する。(制海権の詳細についてはJP 3-32を参照)。
6-84. 攻勢作戦の間、指揮官は後方地域の安全確保と後方連絡線(lines of communications)の防護を節約し、主たる取組み(main effort)を強化する。リスクを軽減するため、指揮官は統合部隊内部および多国籍軍や他の統一行動パートナーと協力し、支援を受ける。特に同盟国やパートナーは、安全保障の能力容量、状況認識、現地住民との交流に関する専門知識を提供し、陸軍部隊(Army forces)がホスト国軍に適した地域警戒活動(area security operations)を行うのを緩和することが可能である。
敵の接近阻止(A2)と領域拒否(AD)の撃破
6-85. 敵の接近阻止(A2)および領域拒否(AD)アプローチは、友軍の部隊防護と行動の自由を奪う。敵は致死性の手段(lethal means)で接近阻止(A2)および領域拒否(AD)アプローチを追求し、前方駐留部隊のリスクと戦術的集結地に追加部隊を展開・配置する能力を著しく増大させる。敵の統合火力コマンドの構造と機能を理解することは、友軍部隊(friendly forces)が敵の接近阻止(A2)および領域拒否(AD)アプローチの結束を崩壊させ、統合部隊が攻勢作戦を行うための利用可能な機会を作り出すのに役立つ。
敵の統合火力コマンド
6-86. 統合火力コマンドは、指揮・統制(C2)構造と有機および付属の統合火力支援部隊の専用の組み合わせである。統合火力コマンドは、そのレベルの司令部が保持する、割り当てられた専用の火力支援アセットの集中的な指揮・統制(C2)を実施する。これは、異なる司令部や軍種からの航空、砲兵、艦砲火力、および地対地ミサイル部隊を含むことができる。また、その支援に専念するすべての偵察、インテリジェンス、監視、ターゲット捕捉アセットの指揮・統制(C2)も行使する。統合火力コマンドは、指定された作戦的ターゲットおよび戦略的ターゲットに対処する任務を負う。統合火力コマンドは、通常、戦役レベル(campaigns-level)の司令部に所属する。しかし、統合火力コマンドが戦域レベルで編成される場合もある。例えば、戦域は2つの別々の戦役(campaigns)を持つことができ、戦略または戦域戦役(theater campaign)の目標を達成するために、重要な火力支援アセットを戦域レベルで集中化することが必要となる。敵部隊(enemy forces)は、その能力と状況に応じて、様々な方法で防空・ミサイル防衛(AMD)能力を統合火力コマンドに統合する。図 6-3は、戦域レベルの統合火力コマンドを想定したものである。
![]() 図6-3.想定される戦域レベル統合火力コマンドの火力アセット |
6-87. 統合火力コマンドは、支援される司令部のために全ての火力支援任務を遂行する。統合火力コマンドは以下のためにデザインされる。
・ 地上・航空火力支援との連携により、精密火力と大量の火力を駆使する。
・ ターゲット捕捉から交戦までの時間を最短にする。
6-88. 統合火力コマンドとその構成システムは、陸軍部隊(Army forces)が統合部隊の作戦を支援する際にターゲットとすることができる重要な脆弱性を持っている。他の軍事システムと同様に、陸軍部隊(Army forces)が探知し攻撃できる後方支援能力および他の支援を必要とする。それは、全てのドメインからの友軍のインテリジェンス、監視、偵察(ISR)から検出できる電磁シグネチャを有している。敵のネットワークは、陸軍部隊(Army forces)がターゲットとできる指揮・統制(C2)ノードに依存する。おそらく最も重要なことは、統合火力コマンド内のシステムは、センサー、火力能力、指揮・統制(C2)ノードを含む陸上能力で構成され、そのすべてが陸軍部隊(Army forces)の攻撃可能であることである。
接近阻止(A2)と領域拒否(AD)の撃破
6-89. 敵の接近阻止(A2)および領域拒否(AD)アプローチを撃破するためには、継続的な取組みが必要であり、敵対行為開始前に前方に配置され防護された部隊によって最も促進される。これにより、航空・海軍の戦力は統合部隊のターゲットに接近し、出撃回数を増加させることができる。これにより、陸軍部隊(Army forces)をはじめとする前方駐留統合部隊は、友軍部隊(friendly forces)の追加投入に必要な地形と施設を保持することができる。紛争の初期段階において、前方駐留部隊を維持し、重要な地形を戦域内に保持することは、統合部隊の縦深と作戦範囲を拡大する。
6-90. 接近阻止(A2)と領域拒否(AD)は、統合部隊が通常遭遇すると予想される、2つの異なる敵のアプローチである。地理的地域へのアクセスを維持または回復するには、全てのドメインを通じてのまとまった統合アプローチが必要なため、統合部隊はしばしばこれらを同じ課題の一部と見なす。敵の統合防空システム(IADS)と統合火力複合体(integrated fires complex)は、接近阻止(A2)と領域拒否(AD)の双方にとって重要な要素である。これらは耐久性があり、順応性のある能力であるため、単一の決勝点(decisive point)や単一ドメインへの攻撃では容易に打ち破れない。
6-91. 敵の接近阻止(A2)および領域拒否(AD)アプローチを撃破するには、指揮官は複数の攻撃を用いる必要がある。ネットワーク化された防空・火力の能力は、単一の決勝点や単一のドメインに対して復元性がある。すべての脅威のシステムが完全な能力容量で作戦している場合、重要な脆弱性を攻撃するために適切な能力を範囲内で機動することは、リスクが高すぎるかもしれない。したがって、指導者は敵のシステムの最も露出した部分を時間をかけて破壊または分離し、作戦を支援し、他の活用の機会を生み出すのに十分な程度に劣化させる。敵の統合火力複合体(integrated fires complex)や防空システムの様々な部分の破壊、隔離、転位(dislocation)はすべてその崩壊に貢献する。
6-92. 敵の統合防空システム(IADS)および統合火力複合体(integrated fires complex)システムの主な物理的構成要素は、センサー、火力プラットフォーム、ネットワーク、指揮・統制(C2)、後方支援、およびそれらを確保する部隊である。陸軍部隊(Army forces)は、利用可能なすべての能力を統合した統合作戦の一部として、これらの構成要素を攻撃する。統合部隊陸上構成部隊コマンド指揮官(JFLCC)は統合効果を要請し、その効果を下位の編成に配分する。これには、敵の統合防空システム(IADS)および統合火力複合体(integrated fires complex)の構成要素を探知するために、特殊作戦部隊(SOF)と連携して縦深地域で情報収集や打撃を行うことも含まれる。特殊作戦部隊(SOF)は、敵の通信や指揮所、兵器の発射・回収拠点、弾薬庫、輸送能力、後方支援作戦を混乱させたり、破壊したりするために、一方的に、またはパートナーの非正規部隊と協力して、縦深地域で機動したり、打撃を行ったりすることができる。統合部隊陸上構成部隊コマンド指揮官(JFLCC)は、敵のシステムを探知するための宇宙能力、特定の効果を狙った攻撃的宇宙作戦、敵のネットワークを攻撃するための攻撃的サイバースペース作戦または電磁能力を要求できる(攻撃的サイバースペース作戦に関する情報はFM 3-12を参照)。
6-93. 陸軍部隊は、統合防空システム(IADS)や統合火力複合体(integrated fires complex)を混乱させ、その他の効果を生み出すために、宇宙空間やサイバースペースでの効果を要請する。陸軍の編成は敵のネットワークに対してサイバースペースと電磁戦の効果を同期させ、センサー、火力部隊、指揮所間の人間および自動通信を混乱させる。陸軍の計画担当者は、要求を特定すると、部隊の手順に従って、宇宙およびサイバースペース効果を要求する。彼らは、要求している効果に必要な計画策定と準備のタイムラインを理解しなければならない。例えば、サイバースペース効果を開始するには時間がかかり、それは最初の作戦計画(OPLAN)開発と改訂の一部であるべきである。多くのサイバースペース効果は、いったん開発されれば迅速に提供できるにもかかわらず、その生成には数カ月を要することがある。これは、戦闘中の計画策定期間が時間や日単位で測定される陸軍の部隊階層にとっては難題である。したがって、陸軍の指導者は、望ましいサイバースペース効果を、それを統合する必要が生じる時期よりかなり前に、予測することが重要である。(サイバースペース効果の要求に関する詳細については、FM 3-12を参照。宇宙作戦の詳細については、FM 3-14を参照)。
6-94. 陸軍部隊(Army forces)は、敵の統合防空システム(IADS)や統合火力複合体(integrated fires complex)の構成要素を攻撃するため、敵の機能の凝集力を低下させ、最終的に撃破するという全体的な意図の下に、撃破メカニズム(defeat mechanisms)を組み合わせて使用する。下位の部隊階層は、陸上構成部隊コマンド(land component command)が設定した条件に自らの作戦と目標を合致させ、それを利用するために迅速に行動する。このような攻撃と目標の組み合わせは、最終的に敵の好む作戦手法を打ち破り、敵部隊を統合部隊指揮官(JFC)による後続作戦に対して脆弱にする。指揮官は意図的ターゲッティングと動的ターゲッティングを使用して、敵を攻撃する機会を作り、友軍部隊(friendly forces)のために冗長性を作り出す。(動的ターゲッティングと意図的ターゲッティングの詳細についてはJP 3-60とFM 3-60を参照。)
6-95. 統合部隊陸上構成部隊コマンド指揮官(JFLCC)は、下位の編成が採用する、または、下位の編成に割り当てる統合効果を要請する。これには、敵の統合防空システム(IADS)の構成要素を探知または打撃するための特殊作戦部隊(SOF)との連携や、縦深地域での統合火力複合体(integrated fires complex)も含まれる。特殊作戦部隊(SOF)は、一方的に、またはパートナーの不正規部隊とともに、縦深地域で機動したり、打撃を行ったりすることができる。その効果には、以下の敵を混乱させたり、破壊したりすることが含まれる。
・ 通信または指揮所
・ 兵器の発射・回収場
・ 弾薬保管地域
・ 輸送能力
・ 後方支援作戦
6-96. 指揮官は、敵部隊(enemy forces)がその能力の一部または全部を、場合によっては他の場所から部隊を再配置することによって再生することができる可能性を考慮しなければならない。指揮官と参謀は敵の統合防空システム(IADS)や統合火力複合体(integrated fires complex)システムを継続的に評価し、敵の再生取組みを打ち負かすのに十分な戦闘力を維持することで奇襲を避け、友軍の行動の自由を保持することができる。敵の統合防空システム(IADS)や統合火力複合体(integrated fires complex)を混乱または撃破することで、通常、統合強行突入作戦(joint forcible entry operations)と、友軍部隊(friendly forces)の空中離発着港や海上離発着港から戦術的集結地までの移動が可能になる。
統合強行突入作戦
6-97. 強行突入(Forcible entry)とは、武装した敵に直面して軍の宿営地を占領・保持すること、あるいは作戦達成のための移動・作戦を可能にするため、拒否された地域へのアクセスを強制することである(JP 3-18)。強行突入作戦は、主導性(initiative)を握るための統合部隊指揮官(JFC)の最初の一手となりうる。強行突入作戦は、位置的優位性を得るための作戦行動や、欺瞞の一部として使用されることもある。特殊作戦部隊(SOF)と現地部隊との関係は、重要なインテリジェンスを提供し、敵の戦闘力の優位性を相殺することによって、強行突入作戦を補完することができる。
6-98. 指揮官は、武装勢力に対抗して宿営地を奪取・保持するために、強行突破作戦を立案する。拠点(lodgment)とは、敵対的または潜在的に敵対的な作戦地域内に指定された地域で、これを占領・保持すれば兵員や物資の継続的な上陸が可能になり、その後の作戦に機動空間を提供できる(JP 3-18)。このため、友軍部隊(friendly forces)は宿営地の地上に到着する前に戦闘装甲を施し、即時の戦闘行動に備えておく必要がある。部隊は、脱走して攻勢作戦を行うのに十分な戦力が整うまで、宿営地の周囲を防御する。
大規模戦闘作戦の遂行
6-99. 大規模戦闘作戦中、陸軍部隊(Army forces)は敵部隊(enemy forces)を撃破するため、攻撃、防御および安定化作戦を展開する。近接戦闘による敵部隊(enemy forces)の撃破は、通常、敵対行為開始後の戦役目標(campaign objectives)および国家戦略的到達目標を達成するために必要である。師団および軍団は、大規模戦闘作戦の実施に中心的な編成であり、近接戦闘中に下位部隊の成功を可能にする縦深作戦、後方作戦および支援作戦のために組織、訓練および装備されているからである。
6-100. 陸軍の編成は、従来型の部隊(conventional forces)、特殊作戦部隊(SOF)、非正規部隊を補完的かつ補強的方法で統合している。この諸兵科連合のアプローチ(combined arms approach)は、敵軍に複数のジレンマを生じさせながら、指揮官の機会を拡大する。各能力には、強さを補強し、他の弱点を軽減する優位性がある。
大規模戦闘作戦の維持
6-101. 大規模戦闘作戦は、他の作戦に比べてより大きな後方支援を必要とする。そのテンポの良さと致死性は、維持の必要性と物資、弾薬、装備の支出を著しく増加させる。大規模な戦闘では、大量の死傷者が出るリスクがあり、医療サービス支援、霊安室業務、大規模な人員と装備の交換などの要求が高まる。大規模な戦闘作戦では、膨大な量の物資、人員、装備を移動・分配するための後方支援システムが必要となる。(後方支援の詳細についてはFM 4-0を参照)。
6-102. 陸軍の後方支援は、陸上における統合部隊の重要な推進力である。陸軍部隊(Army forces)は統合部隊指揮官(JFC)の指示に従い、統合部隊の他の部隊に後方支援を提供する。統合部隊指揮官(JFC)は戦域全体の後方支援に全責任を持つが、統合部隊指揮官(JFC)司令部は戦域後方支援コマンド(TSC)を通じて後方支援の責任の多くを遂行する。陸軍の後方支援能力は、指示があれば、行政機関、共通利用者兵站、主導する軍種、その他の共通後方支援資源を通じて、他の軍種に対する陸軍支援(ASOS)の大部分を提供する。(統合の後方支援に関する詳細はJP 4-0を参照。陸軍の後方支援の役割と責任に関する詳細はADP 4-0を参照)。
6-103. 他のドメインからの能力により、陸軍部隊(Army forces)隊の後方支援が可能になる。航空後方支援能力は、優先度の高い要求に対応する後方支援を提供する。海上対応の後方支援(maritime-enabled sustainment)は、大規模な要求をサポートする。宇宙およびサイバースペース対応のネットワークは、後方支援要求の迅速な伝達と正確な配給を可能にする。
6-104. 成功する後方支援作戦は、後方支援能力の防護と、前線部隊の近くでの迅速な支援との間でバランスを取っている。よく計画され実行された後方支援作戦は、柔軟性、耐久性、および戦闘力の適用を可能にする。計画は、敵部隊(enemy forces)が友軍の後方支援能力を探知し攻撃するリスクを予期し軽減しなければならない。後方支援編成は、他のすべての部隊と同じレベルで作戦の安全性、残存性、および防護を追求する。後方支援作戦の多くは、師団や軍団に戦闘力を配分する際の戦力の効率化を図るが、縦深・近接作戦においては、これらの作戦の継続性と残存性が極めて重要である。
6-105. アセットの分散と冗長性が後方支援編成の防護に役立つ。後方支援編成を分散させることで、敵の長距離火力によって大量の物資が破壊される可能性を低くすることができる。また、分散させることにより、複数のノードが単一障害点なしに後方支援のコンセプトを実行できるため、柔軟性が生まれる。しかし、分散した後方支援作戦は指揮・統制(C2)を複雑にし、集中したアプローチよりも効率が悪くなる可能性がある。指揮官は分散と効率のバランスをとり、敵の攻撃から身を守る一方で、支援部隊のテンポ、持久力、作戦範囲を維持する。
6-106. 指揮官は、人員、物資、装備の大きな損失の可能性に備えて計画を立てなければならない。継続的かつ効果的な後方支援支援を受けたとしても、敵の行動により部隊は急速に戦闘不能に陥る可能性がある。あらゆるレベルの指揮官は、効果のない部隊を、再編成された部隊が将来任務を遂行できるような有効性のレベルにまで回復させるための再構成(reconstitution)の取組みを行う準備をしなければならない。再構成(Reconstitution)は、部隊を任務の要求と利用可能な資源に見合った望ましいレベルの戦闘効果に回復させるために、指揮官が計画し実施する作戦である(ATP 3-94.4)。
6-107. 再構成(reconstitution)は重要な諸兵科連合作戦であり、再構成(reconstitution)に関わる行動は通常の日常的な部隊後方支援行動を超える。再構成(reconstitution)は司令部の決定であり、通常、復興する部隊の部隊階層の2つ上で行われ、既存のシステムと部隊を使用して、すべての戦力機能にまたがって行われる。再構成(reconstitution)だけを行うだけの資源は存在しない。再構成(reconstitution)には、将来の任務成功に見合った必要な結果を得るためには、あらゆる部隊階層の指揮官と参謀の全面的な支援が必要である。化学、生物、放射線、核(CBRN)攻撃後の再構成の取組み(reconstitution efforts)には、さらに大きな課題がある。部隊が装備品を汚染除去できない場合、指揮官は汚染された装備品を使って、あるいは使わずに作戦を継続する場合の任務と人員に対するリスクを評価しなければならない。(再構成(reconstitution)の詳細については、ATP 3-94.4を参照)。
6-108. 戦闘軍、陸軍軍種構成コマンド(ASCC)、野戦軍、軍団、または師団の部隊階層の機動指揮官は、作戦として再構成(reconstitution)を指示する。司令部の指針は、時期、場所、部隊の再建の程度、および再建された部隊が作戦を再開するまでに必要な訓練について述べるべきである。一般に、部隊が劣化し戦闘不能になればなるほど、部隊を戦闘可能な状態に戻すために必要な後方支援の取組みと個人および集成訓練の量は多くなる。(再構成(reconstitution)の補給の詳細についてはFM 4-0を参照。)
武力紛争の間の獲得した成果の集約・強化
6-109. 陸軍部隊(Army forces)は、一時的な優位性をより永続的なものにすることで、統合部隊の獲得した戦果を集約・強化する。獲得した戦果を集約・強化は段階的なものではなく、むしろ戦役(campaigns)と作戦の最終的目的を達成するための必須事項である。陸軍部隊(Army forces)は、各部隊階層が時間経過とともに重視する点を変えながら、作戦実施中に継続的に獲得した戦果を集約・強化する。獲得した成果の集約・強化(consolidating gains)は、まず、敵部隊(enemy forces)が最初に撃破した地域でいかなる形の抵抗も再開できないようにするために、戦術的成功の活用に焦点を当てる。小部隊が目標を集約・強化し、敵の逆襲(counterattacks)に備えることは、獲得した戦果を集約・強化するためのより大きな取組みの最初の部分となり得る。
6-110. 獲得した成果の集約・強化するための目的の統一は、戦域戦略レベルで始まり、指導者は統合部隊指揮官(JFC)の望む最終状態を達成するために必要な資源を計画し、調整する。指導者は、望ましい政治的・戦略的最終状態に必要な安全保障条件を、下位の部隊階層と共有で可視化する。望ましい最終状態を達成するためには、一般に、作戦地域内外の統一行動パートナーとの政府全体の取組みが必要である。作戦・戦術レベルでは、陸上構成部隊コマンド(land component command)と軍団は、敵残存部隊、迂回部隊、および敵部隊(enemy forces)が紛争を長引かせるために軍事化しうる能力との接触を維持することによって、師団の戦術的成功を利用する。友軍部隊(friendly forces)は残存する敵部隊(enemy forces)を細部にわたって撃破するため、致死性能力と非致死性能力を使用する。指揮官は情報活動を指示し、これらの部隊の抵抗意志と地元住民の支援意志を低下させる。
6-111. 抑留作戦(detainee operation)の実施は、獲得した成果の集約・強化する上で重要な役割を果たす。敗走する敵部隊(enemy forces)を迅速に確保できなければ、敵部隊(enemy forces)は接触を断ち、闘う意志(will to fight)を回復し、残された手段を駆使して抵抗を再編成する機会を得ることになる。したがって、友軍の行動によって分離または混乱した敗走する敵の部隊および個人の捕獲は極めて重要である。戦術部隊が戦闘力を流用して被留置者の処理と確保を行うため、大量の被留置者が作戦部隊に多大な負担をかける可能性がある。さらに、友軍部隊(friendly forces)は、市民の安全や市民管理の欠如を利用する非正規軍や犯罪行為者の抑留を考慮しなければならない。指導者は、非正規軍や犯罪行為者がもたらす脅威を評価し、これらの集団が友軍部隊(friendly forces)の抑留を正当化するかどうかを判断する。(抑留作戦(detainee operation)の詳細についてはFM 3-63を参照)。
6-101. 陸軍部隊(Army forces)は、獲得した成果の集約・強化は資源を必要とし、統一行動パートナーとの重要な調整を必要とするため、意図的に計画し準備する必要がある。獲得した成果の集約・強化の計画策定には、作戦リスク、利用可能な戦闘力、タスク編成の変更、および望ましい最終状態を達成するために必要な追加アセットの評価が含まれる。アセットには、地域警備タスクを提供する追加部隊も含まれるかもしれない。これらの部隊には、以下が含まれる。
・ ホスト国、パートナー国、同盟国の治安部隊
・ インテリジェンス、監視、偵察(ISR)アセット
・ 工兵
・ 憲兵隊
・ 爆発物処理部隊
・ 衛生部隊
・ 兵站部隊
・ 民事部隊
・ 心理作戦部隊
・ 化学、生物、放射線、核(CBRN)部隊
6-113. 獲得した戦果を集約・強化するための作戦は多くの形態をとることができる。これらの作戦は以下を含むことができる。
・ 攻勢作戦(Offensive operations)。固定または迂回した敵部隊(enemy forces)を完全に撃破するために、攻勢作戦を行う部隊。
・ 地域警備(area security)。部隊は、敵の残党、代理人または反乱軍、およびテロリストを撃破し、人口と緊要地形を管理し、割り当てられた地域内の経路、重要インフラ、人口、および活動を確保するために警備任務を遂行する。
・ 安定化作戦。部隊は、必要最小限の安定化作戦の任務を遂行し、(ホスト国の支援またはホスト国に代わる)必要不可欠な政府サービスの提供、緊急インフラの再建、人道的救済を確保する。これには、軍事的な統治が含まれることもある。
・ 地元や地域の聴衆に影響を与える(Influence local and regional audiences)。指揮官は、特定の聴衆に信頼できるメッセージを伝え、妨害を防ぎ、作戦やホスト国への支援を生み出す。
・ 防勢作戦(Defensive operations)。指揮官は外部からの脅威に対する安全保障を確立する。指揮官は、友軍部隊(friendly forces)が獲得した軍事的利益を覆す、あるいは破壊しようとする脅威から物理的混乱を防ぐために、十分な戦闘力を確実にする。
・ 抑留作戦(detainee operation)。指揮官や参謀は、紛争前、紛争中、そして大規模な戦闘行為が終わった後の抑留作戦(detainee operation)について考えなければならない。抑留作戦(detainee operation)は、作戦上、戦略上、長期的な影響を及ぼす。
6-114. 作戦レベルでいつ、どのように獲得した戦果を集約・強化し、戦術レベルで必要な資源を投入するかを決定するには、作戦中にどこでリスクを受け入れるかを明確に理解する必要がある。獲得した戦果を集約・強化を失敗すると、最初の戦術的成功が踏みにじられ、紛争を長引かせようとする敵に主導性(initiative)を奪われてしまうため、一般に望ましい最終状態の達成に失敗することになる。警備(security)は、合法的な統治当局への責任移行と戦闘作戦の成功のために必要である。陸軍部隊(Army forces)は、すべての統一行動パートナーの能力を統合し、獲得した戦果を集約・強化する際にその運用を同期させる。
6-115. 獲得した戦果を集約・強化する作戦は、時には戦力の経済性になるかもしれないが、統合部隊の作戦の長期的成功には不可欠である。敵部隊(enemy forces)は、有利な政治的解決のための時間を稼ぎ、抵抗を長引かせる条件を整え、紛争の性質を変えて相対的な優位性を得るために、敵部隊(enemy forces)を撃破した後も獲得したものに挑戦し続けるであろう。敵部隊(enemy forces)は情報戦を展開し、文化の違いを利用し、安全保障に挑戦し、資源獲得競争を促し、対立するナラティブを広め、宗教的分裂を支援し、正当な権威に代わるものを作り出すだろう。敵部隊(enemy forces)に抵抗の意志がある限り、友軍の獲得したものを損なおうとし続けるだろう。
6-116. 獲得した成果の集約・強化するには、テンポと敵主力部隊への圧力を維持するための戦闘力に加えて、かなりの戦闘力の投入が必要である。陸軍部隊(Army forces)は、現地住民との密接な交流を伴う作戦に適した敵対者軍を、利用可能な場合は信頼する。敵対者や同盟国が支援を提供できない場合、陸軍部隊(Army forces)は獲得した成果の集約・強化する責任を負う。大規模戦闘作戦においては、軍団は師団を、師団は旅団戦闘チーム(BCT)を計画し、獲得した成果の集約・強化を目的とした作戦を実施すべきである。
撃破メカニズムの適用
6-117. 第2章で述べたように、撃破メカニズム(defeat mechanisms)とは、指揮官が敵部隊(enemy forces)をどのように撃破するかを視覚化し、説明するための広範な手段である。撃破メカニズム(defeat mechanisms)には、利用可能な資源と想像力によってのみ制約される、相互作用的で動的な関係がある。撃破メカニズム(defeat mechanisms)が最も有用なのは、師団の部隊階層以上の指揮官が、敵部隊(enemy forces)を撃破するための作戦・戦略的アプローチを開発する場合である。旅団戦闘チームの部隊階層以下の指揮官にとって、撃破メカニズム(defeat mechanisms)の有用性は限定的であろう。撃破メカニズム(defeat mechanisms)は戦術的な任務ではないので、下位の戦術的部隊階層の指揮官は撃破メカニズム(defeat mechanisms)や安定性メカニズムを開発したり、採用したりしない。
6-118. 撃破メカニズムを開発すると、指揮官と参謀は敵部隊(enemy forces)を倒すための戦術的選択肢を詳細に決定することができるようになる。指揮官は撃破メカニズムを戦術に変換し、作戦コンセプトに記述する。指揮官は戦術を利用して、できるだけ多くのドメインから最も有利な方法で敵部隊(enemy forces)に対して友軍の能力を適用する。戦術がどのように各撃破メカニズムを支えているかを理解することは、戦術的判断を向上させる。(戦術の詳細についてはADP 3-90を参照)
破壊
6-119. 破壊と破壊の脅威は、すべての撃破メカニズム(defeat mechanisms)の核心であり、特定の文脈でそれらを説得力のあるものにする。これは最も永続的な効果を持つ撃破メカニズムである。指揮官は、小規模な部隊の破壊を大規模な火力で達成することができる。しかし、破壊は大規模に達成するために最も資源を必要とする結果である。指揮官が破壊を撃破のメカニズムとして使用するのは以下の場合である。
・ 敵部隊(enemy forces)は他の手段に対して脆弱でない。
・ 戦術的状況により、圧倒的な戦闘力の使用を必要とする。
・ 損失のリスクは許容できる。
・ 他の撃破メカニズム(defeat mechanisms)を講じるための条件整備が必要である。
6-120. 破壊の物理的効果は、情報と人間の次元で重要な意味を持つ。敵の能力を破壊することは、敵部隊(enemy forces)が劣勢であり、撃破が差し迫っているというメッセージを送ることになる。一般に、大きな死と破壊は敵の士気と意志を低下させる。統合部隊は、控えめで的確な戦闘力の行使により、同様の結果を得ることができる場合がある。しかし、控えめな戦闘力の行使は、決定的な結果を得るための統合部隊の能力を長引かせる可能性がある。インフラの過度な破壊は人道的危機を引き起こし、軍事作戦に対する国内外の支援を損なうような民間人の死傷や苦痛を生み出す可能性があるため、指揮官はそれぞれの作戦状況に応じた判断を下さなければならない。道徳的、法的、現実的な理由から、指揮官は作戦の成功に不必要な死や破壊を避けるための予防策を講じるべきであり、武力紛争法を常に遵守しなければならない。
6-121. 作戦レベルでは、物理的破壊が包括的な撃破メカニズム(defeat mechanisms)として実現可能で、受け入れられることは稀である。作戦レベルの指揮官は、他の撃破メカニズム(defeat mechanisms)を可能にするために、破壊されなければならない敵部隊(enemy forces)の要素を選択する。彼らは、陸軍、統合、統一行動パートナーの能力を同期させ、センサー、長距離火力能力、指揮・統制(C2)ノード、補給基地、重要インフラストラクチャなど、敵の用兵システム(warfighting systems)の重要な構成要素を破壊する。
6-122. 戦術レベルでは、下位の部隊階層ほど破壊が作戦の中心となる。軍団と師団は、戦術的成功を可能にするために、敵の編成と重要な能力を破壊する。敵の監視、偵察、指揮・統制(C2)、火力、機動、防護、後方支援の各能力を破壊する。これらの能力を破壊することで、敵の攻撃または防御計画の有効性を制限し、友軍の戦闘力を維持する。旅団の部隊階層以下では、敵部隊(enemy forces)を抵抗不能にするため、兵器システム、戦闘プラットフォーム、および人員に接近し、これを破壊する。
転位
6-123. 撃破のメカニズムとしての転位(dislocate)は、敵の位置を無効化し、理想的には無関係にする。転位(dislocation)は奇襲を可能にする。敵部隊(enemy forces)に予想外の反応をさせ、敵の意志決定者に新たなジレンマを与える。転位(dislocation)が十分に大きければ、敵部隊(enemy forces)はリスク評価を再考し、もはや成功の見込みがないため、降伏するか再配置しなければならないと結論づけるかもしれない。より一般的には、転位(dislocation)は敵部隊にその配置を大きく変更させ、かなりの地盤を放棄させることになる。
6-124. 転位(dislocation)が難しいのは、敵の指導者が友軍の望む陣地の価値を理解し、それを守るために取組みしている可能性が高いからである。従って、敵の配置を無効にするほど有利な位置に部隊を移動させるためには、指揮官はしばしば欺瞞を用い、かなりのリスクを負わなければならない。
6-125. 転位(dislocation)は人的・情報的次元にも及ぶ。物理的な作戦と情報活動の組み合わせは、意志決定者とその部隊の自信を失わせることができる。奇襲を可能にする欺瞞作戦は、敵部隊(enemy forces)に予期せぬジレンマを与え、友軍の行動方針について立てた他の仮定に疑問を抱かせることができる。例えば、地形と天候が翼側を守ってくれると信じて防御を準備していた敵部隊(enemy forces)は、攻撃中にそこに友軍部隊(friendly forces)が機動してくると奇襲されることになる。敵の防御の地理的位置と方向が無効となるだけでなく、部隊の自信も失われる。部隊は、時間と友軍との接触という圧力の中で配置を調整する間、その指導力に疑問を持ち始めるかもしれない。
6-126. 作戦レベルでは、指揮官は友軍部隊(friendly forces)を複数の集結地に配置することで敵を混乱させ、単一の行動方針を明らかにせず、敵部隊(enemy force)の大量効果能力を超える複数の前進軸(axes of advance)に沿った作戦を威嚇する。転位(dislocation)だけでは敵部隊(enemy forces)の闘う意志(will to fight)を喪失させることはできないが、撃破メカニズム(defeat mechanisms)を組み合わせるための好条件を作り出すことができる。敵のネットワーク化された防空・統合火力システムを圧倒し、敵の防御力が回復できないようなテンポの良い攻勢作戦を可能にすることができる。
6-127. 戦術レベルでは、垂直・水平方向の包囲と迂回(turning movements)が、転位(dislocation)させることができる一般的な機動の方式(forms of maneuver)である。これらの戦術は迅速な成功をもたらすが、後方地域や翼側、作戦範囲、および特定のタイムラインに従って目標を達成するために必要な勢いの維持に大きなリスクを伴うことがある。これらの戦術は、支援能力の限界、またはそれを超えて作戦する敵部隊、隣接部隊、または予備に対して最もよく成功する。基本的に、友軍は有利な位置を獲得し、支援の敵部隊(enemy forces)が反応するよりも早くそれを利用できると判断する。1950年の北朝鮮軍の撃破は、破壊と転位という撃破メカニズム(defeat mechanisms)の関係を示している。
北朝鮮人民軍の撃破(1950年9月) 1950年8月初旬、北朝鮮人民軍(NKPA)の進攻により、米韓両軍は朝鮮半島南東部に後退し、海に突き落とされる恐れがあった。米軍と韓国軍は、北朝鮮人民軍(NKPA)の進出を阻止するため、洛東江と南江に沿って約140マイルの幅で防御境界線を保持した。 その後数週間、北朝鮮人民軍(NKPA)と友軍部隊(friendly forces)は激しい戦闘を繰り広げ、北朝鮮人民軍(NKPA)は防御線を突破しようと、全周囲で攻撃と逆襲(counterattacks)が発生した。この時期、北朝鮮人民軍(NKPA)は米軍と韓国軍に対して主導性(initiative)を握っていたが、9月中旬には友軍部隊(friendly forces)に主導性(initiative)が移った。 9月15日、国連軍と韓国軍が南部で決定的な交戦をしている間に、米第X軍団はソウルの北、韓国の西海岸にあるインチョンに2個師団の水陸両用上陸作戦を実施した。この作戦レベルの迂回(turning movements)は、コードネーム「クロミット作戦」と呼ばれ、敵陣の150マイル後方で行われ、北朝鮮人民軍(NKPA)を完全に奇襲した。その後、X軍団はソウル-水原地域を占領し、北朝鮮人民軍(NKPA)の後方連絡線(lines of communications)を遮断した。 この水陸両用上陸作戦と同時に、米第8軍は南方で対峙する北朝鮮人民軍(NKPA)12個師団に対して大規模な反攻作戦を開始した。国連軍の航空戦力の支援を受け、第8軍は敵の前方防御を複数箇所で突破し、北西に前進してX軍団と合流した。 第 X 軍団と第8軍の合同行動により、北朝鮮人民軍(NKPA)の推定8個師団は韓国南西部に孤立した。北朝鮮人民軍(NKPA)は翼側から攻撃され、補給や増援を受けることができず、また近接・後方地域からの強い圧力にさらされ、崩壊し始めた。一部の北朝鮮人民軍(NKPA)部隊と個人が退却を開始し、最初の退却はすぐに敗走となった。退却できない北朝鮮人民軍(NKPA)部隊は、友軍部隊(friendly forces)によって破壊されるか、捕獲された。9月末には、韓国における組織的な戦闘力としての北朝鮮人民軍(NKPA)は消滅した。 |
孤立
6-128. 敵部隊(enemy force)を孤立させることは、その物理的、情報的、人的支援源から敵部隊を切り離すことである。これは、敵部隊(enemy force)から人員や装備の補給、インテリジェンスへのアクセス、隣接する部隊や上位部隊階層司令部との理解の共有などを奪うことになる。敵の地上部隊が他のドメインの能力を利用できないようにし、手持ちの資源で陸上ドメインの限られた地域でのみ作戦することを余儀なくさせる。
6-129. 作戦レベルでは、敵主力(enemy main body)から物理的に分離されていない敵部隊(enemy force)を完全に孤立させることは困難である。空、陸、海の後方連絡線(lines of communications)へのアクセスが制限されていても、準備と決意のある敵部隊(enemy force)を長期間維持することは可能である。しかし、作戦レベルのコマンドは、1つまたは複数のドメインにおいて、敵の他の編成から部隊または重要な能力を一時的に分離する能力を使用することができる。これにより、敵の細部を撃破したり、他のドメインでの作戦のための条件を整えたりすることができる。作戦司令部は、敵の指導者をその編成や他の支援源から物理的・心理的に孤立させる活動を行う。これには、特定の敵の部隊階層の通信ネットワークや宇宙・サイバースペース能力へのアクセスを妨害することや、国家目標に対する現地の支援を低下させる影響力活動を行うことが含まれる。敵部隊(enemy force)が異なる国の要素を含む場合、そのうちの1つまたは複数を物理的または情報的手段で孤立させることが可能である。国家目標や文化的分裂の違いを利用することで、敵の全体的な効果を低下させる。
6-130. 戦術レベルでは、後方連絡線(lines of communications)の物理的遮断、緊要地形の統制、支援部隊の固定、敵部隊(enemy force)の包囲が孤立の達成を支援する戦術である。電磁攻撃能力は、戦術指導者が敵部隊(enemy forces)から信頼できる通信を遮断するのに役立ち、心理的孤立を作り出すのに大きな役割を果たすことができる。ある部隊階層で敵の指揮所を破壊すると、その部隊階層の下位編成を次の上位部隊階層から孤立させ、首尾一貫した指揮・統制(C2)に一時的に大きな混乱を引き起こすことができる。
6-131. 孤立はそれ自体では撃破を引き起こさないかもしれないが、敵部隊(enemy forces)の破壊、転位(dislocation)、崩壊に対する脆弱性を高める。また、闘う意志(will to fight)を低下させ、情報に基づかない意志決定の確率を高め、他の撃破メカニズム(defeat mechanisms)の効果を増幅させることもある。
崩壊
6-132. 崩壊させるとは、全体の結束を攻撃することであり、敵の編成や能力の構成要素が全体の取組みの一部として役割を果たすことを阻止することを含む。崩壊は編成や能力の機能を低下させ、友軍が利用できる脆弱性を作り出す。崩壊は、他の3つの撃破メカニズム(defeat mechanisms)の組み合わせで作られた場合に最も効果的であり、敵部隊(enemy forces)への物理的および認知的な影響を含む。崩壊は通常一時的であり、敵部隊(enemy forces)を適応させる。より永続的な効果を生み出すには、崩壊によってもたらされる機会を利用する準備が整った部隊が必要である。指揮官は、搾取のための十分な戦闘力を確保し、搾取の取組みを崩壊の一時的効果に同期させる。
6-133. 崩壊は作戦レベルの目標を達成するための条件を整える。破壊、孤立、転位(dislocation)はいずれも特定の地理的範囲にあるより大きい敵部隊(enemy force)の比較的限られた部分に焦点を当てるが、崩壊の効果は敵の部隊階層の縦深と広さ全体に影響を及ぼすことができる。効果的な崩壊は、作戦上重要な期間、首尾一貫した組織的抵抗力を崩壊させることができる。
6-134. 敵の編成や能力を崩壊させるために、指揮官は望ましい最終状態を達成するために必要な程度に敵部隊(enemy forces)を混乱させたり、非同期化させたりするだけでよい。この意味で、崩壊は他の撃破メカニズム(defeat mechanisms)にはない経済性の指標を提供する。指揮官は、空間、時間、またはドメイン内の一点に決定的な効果をもたらす必要はない。複数のドメインにわたる目標の組み合わせに適度な影響を与えるだけでも、必要な効果を時間をかけて生み出すことができる。
作戦レベルの崩壊
6-135. 作戦レベルの部隊階層は、敵の大規模な編成とその能力を、個々の構成要素を攻撃することで崩壊させる。作戦レベル指揮・統制(C2)インフラへの攻撃は、敵の全機能に影響を与え、崩壊を引き起こす最も直接的な方法である。致死性の火力、電磁攻撃、統合可能な攻撃的サイバースペース作戦を組み合わせて敵の通信を劣化させ、敵部隊の作戦同期能力を混乱させる。欺瞞は、他の撃破メカニズム(defeat mechanisms)が崩壊に寄与する効果を増大させ、加速させる。
6-136. 陸軍部隊(Army forces)は、統合防空システム(IADS)、長距離火力システム、および指揮・統制(C2)ネットワークの構成要素を解体し、友軍の行動の自由を可能にする。これらのシステムを崩壊させる要求は、強行突入作戦や攻勢作戦の開始で終わるものではない。これらのシステムは復元性があるため、崩壊させるには、戦役の期間(duration of a campaign)を通して、それらを評価する必要がある。
6-137. 接近阻止(A2)および領域拒否(AD)アプローチを可能にする敵のシステムには、センサー、火力プラットフォームへの通信リンク、宇宙ベースのグローバル・ナビゲーション衛星システムおよび電磁スペクトラム(EMS)への依存を含む脆弱性がある。探知と火力任務の伝達を促進するデータとプロセッサは、悪用可能な脆弱性である可能性がある。指揮官は統合火力能力を用いて、交換が困難な敵の長距離地対地・地対空システムを破壊することができる。敵の防御部隊階層に侵入した友軍部隊(friendly forces)は、直接攻撃または限度を超える脅威により、敵の統合防空システム(IADS)をさらに崩壊させることができる。敵部隊(enemy forces)が再配置する間、その効果は低下する。
6-138. 陸軍部隊(Army forces)は、主要補給路、移動回廊、橋、鉄道駅、飛行場、フェリー、トンネルなどの交通インフラを妨害する方法で統合能力を収束させ、敵機動部隊を崩壊させることができる。これらの行動は、敵の再配置と友軍の作戦への迅速な反応に影響を与える。指揮官は、特定の編成の中で最も訓練され装備の整った敵部隊(enemy forces)を破壊することに集中することができ、それによってより大きな編成の結束を乱し、士気を低下させることができる。
6-139. 敵の作戦は友軍の作戦と同様に後方支援システムに依存している。補給基地、兵站輸送隊、燃料施設、および後方支援部隊を破壊または破壊することで、それらが維持する敵の編成は意図した目標を達成することができなくなる。敵の後方支援能力に対する限定的な攻撃であっても、敵の作戦を遅らせ、戦闘力を低下させ、早期決着をさせやすくすることができる。
戦術レベルの崩壊
6-140. 上級戦術的部隊階層は、敵部隊(enemy forces)が作戦に諸兵科連合アプローチを採用できないようにする脆弱性を攻撃することで、敵部隊(enemy forces)を崩壊させる。電磁攻撃による敵の通信の妨害や指揮・統制(C2)ノードに対する物理的な攻撃はその手段である。指揮官は、不確実性を生み出し、敵の決定を遅らせるために、欺瞞を用いる。敵部隊(enemy forces)が友軍の配置や行動方針を正確に把握できないように、偵察や警戒活動を行い、作戦の安全性を維持する。
6-141. 陸軍部隊(Army forces)は、敵部隊(enemy force)の主たる取組み(main effort)を回避し、友軍部隊(friendly forces)が長距離火力の固定のターゲットにならずに敵部隊(enemy forces)と決定的に交戦できるような機動の方式(forms of maneuver)を採用する。攻撃可能な翼側を求め、または作り出すことにより、敵部隊(enemy forces)に不利な地形や予期しない方向から闘わせ、縦深での戦果拡張の機会を作り出す。突破、包囲、迂回(turning movements)はこのような作戦に適した機動の方式(forms of maneuver)である。敵部隊(enemy forces)は最も有利な友軍の機動の方式(forms of maneuver)を予測できるため、その準備にはそれを否定することに重点を置く。したがって、友軍の作戦を成功させるには、ステルス、スピード、欺瞞、リスク受容の組み合わせで十分な戦闘力を発揮することが必要である。
6-142.敵戦術的部隊階層を崩壊させるために指導者が組み合わせる共通のタスクと効果の例には、混乱、劣化、無力化、減少、孤立、遅滞、抑制、拒否、固定、迂回、欺瞞などがある。指導者はこれらのタスクを用いて、敵の作戦の自由を制限し、敵の作戦に摩擦を与え、敵の同調を混乱させる。
6-143. 諸兵科連合アプローチにより、崩壊の機会を利用するために必要な十分な戦闘力と機動力を保持することができる。1973 年のアラブ・イスラエル戦争は、崩壊を達成するための複合戦力アプローチの重要性を示している。
エジプトの防御の崩壊:1973年アラブ・イスラエル戦争 1967年の六日間戦争でイスラエルに空軍を破壊され、地上軍を敗退させられたエジプトは、次の戦争に備え、軍隊の再編成を行った。ソ連の援助により、最新の統合防空システム(IADS)と対戦車誘導弾システムを獲得し、過去3回の戦争で撃破の大きな要因となったイスラエルの空軍と機甲部隊に対抗した。これらの新戦力は、エジプト軍に強力なイスラエル国防軍の空陸チームを驚かす機会を与え、1973年にはそれを利用することができた。 綿密な計画とリハーサルに基づいた作戦で、エジプト軍はスエズ運河を越えて急速に突撃し、イスラエル防衛部隊の防衛拠点に侵入し、短期間の前進の後、意図的な防御を確立した。航空機と装甲旅団によるイスラエルの逆襲(counterattacks)は、地対空ミサイルと対戦車誘導弾システムによってそれぞれ大きな損害を受け、撃破した。 この損失は、それまで無敵だったイスラエル空軍と機甲部隊に衝撃を与え、1967年とは全く異なる作戦環境に迅速に復興し、適応する必要があった。イスラエル陸軍は、近代的な長距離対戦車ミサイルを装備した訓練された歩兵に、車載戦車のみのアプローチでは勝てないことを認識していた。近接戦闘には諸兵科連合によるアプローチが有効であるため、歩兵部隊を機甲旅団に迅速にタスク編成した。 タスク編成された旅団がエジプト軍の第1梯隊の防御を突破し、重要目標をクリアすると、イスラエル軍は脆弱な発射装置とレーダーを直接火力で破壊することで、統合防空システム(IADS)を混乱させ、最終的に撃破することができた。このイスラエルの行動により、残りの統合防空システム(IADS)はエジプトにさらに移動することを余儀なくされた。統合防空システム(IADS)を効果的に撃破したことで、イスラエル空軍は地上軍を支援するために無制限に機動し、エジプト軍の戦術的な完全撃破に貢献した。 戦争後期のイスラエル国防軍の作戦の諸兵科連合アプローチの成功は、その性急で不均衡な初期逆襲(counterattacks)の失敗とは対照的である。また、イスラエル国防軍の成功は、地上部隊が空のドメインの作戦を可能にし、それが地上軍を可能にした例でもある。 最後に、イスラエル国防軍の作戦アプローチは、比較的固定された位置への依存を含む統合防空システム(IADS)の重大な脆弱性を利用したものであった。統合防空システム(IADS)の崩壊は、イスラエル国防軍が地上での激しい近接戦闘を通じて機会を作り出し、それを利用することができるまで起こらなかった。 |
作戦を可能にする活動
6-144. 作戦を可能にする活動(Enabling operations)は、ほとんどの作戦に必要な友好的条件を設定する。指揮官は、攻撃・防御・安定化作戦および文民当局への防衛支援任務の遂行を支援するために、作戦を可能にする活動(Enabling operations)を指示する。作戦を可能にする活動(Enabling operations)の実施だけでは、指揮官の最終状態を直接達成することはできないが、任務を完了するためには、作戦を可能にする活動(Enabling operations)が行われなければならない。作戦を可能にする活動(Enabling operations)の例としては
・ 偵察(Reconnaissance)
・ 警備
・ 部隊の移動
・ その場交代(relief in place)
・ 超越交代(passage of lines)
・ 移動対抗性(countermobility)
・ 移動性
偵察
6-145. 偵察(Reconnaissance)は、敵または敵対者の活動や資源に関する情報を得たり、特定の地域の気象学的、水路学的、地理学的、またはその他の特性に関するデータを確保したりするために、視覚的観察またはその他の探知方法によって実施される任務である(JP 2-0)。偵察は全てのドメインで継続的に行われる。偵察は地形の特性、移動の障害物、敵部隊(enemy forces)の配置、民間人の関連する特性などを特定する。それは移動性を高め、奇襲を防ぐ。部隊の移動と集結地の占領に先立つ偵察は、友軍部隊(friendly forces)を防護し戦闘力を維持するために極めて重要である。部隊は敵部隊(enemy forces)と有利な条件で接触するために偵察を行う。各部隊階層の指導者は、デジタルおよびアナログ・システムの報告と迅速な更新の重要性を強調する。(偵察の詳細については、ADP 3-90を参照)。
6-146. 成功する偵察活動の基本は7つある。それらは
・ 偵察を継続的に行うこと。
・ 偵察アセットを予備に置かないこと。
・ 偵察目標に沿って配備すること。
・ 必要な情報は迅速かつ正確に報告すること。
・ 作戦の自由を保持すること。
・ 敵との接触を維持すること。
・ 状況を迅速に把握すること。
6-147. 偵察活動には5つの種類がある。それらは…
・ 地帯偵察
・ 地域偵察
・ 経路偵察
・ 強行偵察
・ 特殊偵察
6-148. 地帯偵察(Zone reconnaissance)は偵察作戦の一種で、境界線によって定義された地帯(zone)内のすべての経路、障害物、地形、および敵部隊(enemy forces)に関する詳細な情報を得るための指示された取組みを伴う(ADP 3-90)。指揮官は、他の部隊を投入する前に、その地帯に関する追加情報を必要とする場合に、地帯偵察を割り当てる。
6-149. 地域偵察(Area reconnaissance)は偵察作戦の一種で、所定の地域内の地形や敵の活動に関する詳細な情報を得ることに重点を置く(ADP 3-90)。この地域は、町、尾根、森林、飛行場、橋、施設、または障害物などの重要な作戦上の特性のような単一の場所で構成されることがある。(地域偵察の詳細についてはADP 3-90を参照。)
6-150. 経路偵察(Route reconnaissance)は、指定された経路と、その経路に沿った移動に敵が影響を与える可能性のあるすべての地形の詳細な情報を得るための偵察作戦の一種である(ADP 3-90)。経路は道路、高速道路、小道、移動回廊、進入路、または進撃軸であることがある。偵察活動は、障害物や橋の分類などの経路の状況、経路沿いの敵、敵対者、民間人の活動に関する新規または更新された情報を提供する。(経路偵察、経路の分類、経路沿いの特性の分類の詳細については、ATP 3-34.81を参照)
6-151. 強行偵察(reconnaissance in force)とは、敵の戦力、配置、反応を発見または試し、その他の情報を得るために行われる偵察活動の一種である(ADP 3-90)。通常、大隊規模のタスク部隊またはそれ以上の組織が強行偵察を行う。指揮官は、敵部隊(enemy force)がある地域内で作戦しており、他の手段では敵部隊(enemy force)に関する十分な情報を得られない場合にこの作戦を行う。
6-152. 特殊偵察(Special reconnaissance)は、敵対的、拒否的、または外交的・政治的に敏感な環境において、戦略的・作戦的に重要な情報を収集または検証するために、通常軍にはない軍事能力を用いて特別な作戦として行われる偵察・監視行動である(JP 3-05)。特殊偵察は指揮官に追加能力を提供し、他の通常偵察・監視行動を補完するものである。
6-153. 偵察の実施中に、指揮官は作戦地域(AO)の特定の側面に関する情報を必要とすることがある。この情報を得るために、指揮官は特定の重点任務を指示することができる。この焦点となるタスクは、通常、その任務のために独自に訓練され装備された組織の使用を必要とする。焦点となるタスクには、電磁偵察、工兵偵察、化学、生物、放射線、核(CBRN)偵察、民間偵察などがある。
6-154. 電磁偵察(Electromagnetic reconnaissance)は、外来電磁放射線の探知、位置確認、識別、評価である(JP 3-85)。電磁偵察は、割り当てられた電磁戦の人員と能力を使って、旅団やそれ以上の部隊階層での情報収集を支援する。電磁偵察で得た情報は、指揮官の状況理解に役立ち、通信インテリジェンス活動(signals intelligence activities)を支援することができる。電磁偵察は、電磁防護の修正につながることもあれば、敵の能力に対する電磁攻撃につながることもある。(電磁偵察の詳細についてはFM 3-12を参照)。
6-155. 工兵偵察は、インフラ、地形、または脅威に関する情報を入手する。これには、障害物、間隙横断(gap crossing)地点、飛行場、橋、トンネル、道路、小道などのデータが含まれることがある。工兵部隊は指定された偵察チームを持っていない。工兵偵察は、他の工兵任務を支援するアセットを使用し、任務要求に基づいて指示され、タスク編成される。(工兵偵察の詳細については、ATP 3-34.81を参照。)
6-156. 化学、生物、放射線、核(CBRN)偵察には、指定された地域における化学、生物学、放射性物質または核の脅威および危険(hazards)の疑いまたは確認に関する情報を入手する任務が含まれる。化学、生物、放射線、核(CBRN)偵察は、敵の化学、生物、放射線、核(CBRN)製造または使用の指標、および損傷または破壊された場合に兵器化されるか危険(hazards)を生じる可能性のある民間または工業施設に関連する指標を特定する(化学、生物、放射線、核(CBRN)偵察の詳細については、「化学、生物、放射線、核(CBRN)偵察」を参照のこと)。(化学、生物、放射線、核(CBRN)偵察の詳細については、ATP 3-11.37を参照。)
6-156. 民間偵察(Civil reconnaissance)は、地域、構造物、能力、組織、人、出来事など、環境の特定の民間的側面について、ターゲットを定め、計画し、調整した観測と評価である(JP 3 57)。民間偵察は、民間情報の検証や反論、作戦環境評価の支援、民間部門の変化の検出と監視を行う。これは能動的、受動的センサー、仮想センサー、その他の手段を用いた日常的な交戦とパターン化された市民観察を通じて、長期的に実施される。(民間偵察の詳細については、FM 3-57を参照)。
警戒活動
6-158. 部隊は本隊の前方、側方、後方に警戒タスクを遂行することができ、割り当てられた地域に関連する全てのドメインで敵の脅威を認識しなければならない。警戒タスクと偵察タスクの主な違いは、警戒タスクは確保される部隊、地域、または施設を対象とし、偵察タスクは敵部隊(enemy forces)と地形を対象とすることである。警戒タスクは支援の取組みである。警戒活動の究極の到達目標は、本体部隊を奇襲から守り、敵の行動の自由を奪って友軍部隊(friendly forces)に集中させないことである。防護される部隊は、必ずしも軍事部隊とは限らない。部隊の配属地域の民間人、民間機関、民間インフラストラクチャである場合もある。
6-159. 警戒活動を行う際には、いくつかの一般的な考慮事項がある。これらは全ての警戒タスクに適用されるが、最も適用されるのは遮蔽、警備、および掩護の各タスクである。遮蔽、警備、掩護の各タスクは、警戒地域を定める境界線を始めとして、多くの共通の管理手段を有している。本体部隊は警戒地域を設定する。本体の前方で作戦する警戒部隊(security force)の場合、警戒地域の横の境界線は通常、本体の横の境界線の延長線上にある。警戒部隊(security force)の後方境界は、通常、戦闘引渡し線である。(警戒活動のための一般的な警戒統制措置に関する追加情報については、ADP 3-90を参照)。
6-160. 警戒活動(Security operations)とは、敵の活動を早期かつ正確に警告し、防護されている部隊に敵に対応するための時間と行動空間を提供し、指揮官が防護されている部隊を有効に使えるように状況を発展させるために指揮官が行う活動のことである(ADP 3-90)。警戒活動の4つの種類は、地域警備(area security)、掩護、警備、遮蔽である。
6-161. 地域警備(Area security)は、特定の地域内の友軍部隊(friendly forces)、後方連絡線(lines of communications)、設定経路、行動を防護するために行われる警戒活動の一種である(FM 3-90)。警戒部隊(security force)は、部隊の割り当てられた地域とともに、民間人、民間機関、民間インフラを防護することができる。
6-162. 掩護(Cover)とは、本隊から独立して行われる警備活動の一種で、敵の地上からの本隊に対する監視と直接火力を防ぎつつ、時間を稼ぐために闘うことによって本隊を守ることである(ADP 3-90)。援護をタスクとする部隊は、攻勢的に行うことも守勢的に行うこともできる。
6-163. 警備(Guard)とは、敵の地上からの監視と本体への直接火力を防ぎつつ、時間を稼ぐために戦って本体を守るために行われる警備活動の一種(ADP 3-90)である。警護を行う部隊は単独で行動することはできない。本隊の火力や機能的・多機能的な支援アセットに依存する。警護をタスクとする部隊は、攻撃的にも防御的にも行うことができる。
6-164. 遮蔽(Screen)は、主に被防護部隊に早期警戒を提供する警備活動の一種である(ADP 3-90)。遮蔽は、警備員や掩護よりも防護力が弱い。遮蔽の任務は防御的なものであり、割り当てられた地域の観測を確実にするために一連の観測所と哨戒を設置することによって達成される。遮蔽部隊は、作戦命令に従って敵との接触を獲得・維持し、対偵察を行って敵偵察部隊を撃破・撃退する。
6-165. 遮蔽、警備、掩護の各警戒活動は、戦闘力のレベルを上げ、本隊の警戒レベルを上げる。地域警備(area security)は、予備の移動、火力支援手段の配置、指揮・統制(C2)システムの防護、および後方支援作戦の実施の自由を維持する。指揮官は警備のために使用する戦闘力を、主たる取組みと支援の取組みの要求と均衡させる。
6-166. すべての機動部隊は警戒活動を実施することができる。すべての陸軍旅団戦闘チーム(BCT)は、その任務必須タスク・リストの一部として警戒活動を行い、機動強化旅団は、適切にタスク編成された場合、割り当てられた作戦地域(AO)全体で遮蔽と地域警備(area security)を行い、戦域陸軍、軍団、および師団を支援する。師団や軍団の複数の部隊階層にまたがる警戒活動では、付属部隊との習慣的な支援関係と確立された標準作戦手順により、取組みの統一と効率化が促進される。
6-167. どのようなドメインにおいても、警戒活動の成功は、5つの基本を適切に適用することに依存する。これらの基本は次のとおりである。
・ 早期かつ正確な警告を行う。
・ 反応時間及び行動空間を提供する。
・ 防護される部隊、地域、施設に照準を合わせる。
・ 継続的な偵察を行う。
・ 敵との接触を維持する。
(See ADP 3-90 for additional information on the conduct of security operations.)
(警戒活動の実施に関する追加情報については、ADP 3-90を参照)。
部隊移動
6-168. 部隊移動(Troop movement)とは、兵士と部隊をある場所から別の場所へ、利用可能なあらゆる手段で移動させることである(FM 3-90)。部隊は、様々な方法、例えば、降車した徒歩での行進、戦術車両を用いた乗車行進、あるいは、様々な組み合わせの航空、鉄道、水上手段などを用いて部隊の移動を行う。採用される方法は、状況、移動部隊の規模および構成、部隊が移動しなければならない距離、実行の緊急性、および部隊の状態によって異なる。また、さまざまな輸送手段の利用可能性、適合性、および能力容量によっても異なる。長距離の部隊移動には、広範な後方支援の考慮が必要である。
その場交代
6-169. その場交代(relief in place)とは、上位機関の指示により、ある地域において部隊の全部または一部を受入部隊と交代させ、交代した部隊の任務と与えられた作戦地帯(zone of operations)に対する責任を受入部隊に移譲する作戦である。部隊には、順次、同時、または時間をずらして交代を行う3つの方法がある。順次交代は、被解放部隊の各要素を、右から左、左から右、前から後ろ、後ろから前へと順次交代するものである。同時交代は、すべての部隊が同時に交代される場合に発生する。時差交代は、各要素が地理的な方向ではなく、戦術的な状況によって決定される順序で交代される場合に行われる。同時交代は実行時間が最も短いが、敵部隊(enemy forces)に発見されやすい。順次交代または時差交代は、かなりの時間をかけて行われることがある。これら3つの交代方法は、部隊が参加している作戦テーマに関係なく発生することができる。(その場交代の詳細については、ADP 3-90を参照)。
超越交代
6-170. 超越交代(passage of lines)とは、敵との接触または離脱を意図して、部隊が他部隊の戦闘陣地を前方または後方に移動する作戦である(JP 3-18)。前方超越交代と後方超越交代の2種類がある。前方超越交代(forward passage of lines)は、部隊が敵に向かって移動している間に他の部隊の陣地を通過するときに起こる(ADP 3-90)。後方超越交代(rearward passage of lines)は、部隊が敵から遠ざかる間に他の部隊の陣地を通過するときに発生する(ADP 3-90)。
6-171. 部隊は攻撃を継続するため、または他部隊の陣地を進退する逆襲(counterattacks)、後退、および警戒のタスクを遂行するために超越交代を行う。超越交代は近接戦闘を伴う可能性がある。これは2つの部隊間で作戦地域(AO)の責任を移譲することを含む。その権限の移譲は通常、通過する部隊のおよそ3分の2が1つ以上の通過地点を移動したときに行われる。超越交代を指示する司令部は、超越交代の開始と終了の時刻を決定する責任がある。もし、より高い権限の指示がなければ、固定部隊の指揮官と通過する部隊の指揮官は、相互の合意により、ある地域の責任を引き継ぐ時期を決定する。両者はこの情報を両組織の最下層に伝達する。
6-161. 部隊には、超越交代を実施するいくつかの理由がある。これらの理由は以下の通り。
・ 攻撃のテンポを維持し、集束を回避する。
・ ある部隊から別の部隊に責任を移行させることにより、防御の実行可能性を維持する。
・ ある部隊による遅延または警戒タスクの遂行を、防御側の部隊に移行させる。
・ 他の任務やタスクのために部隊を解放する。
防御から新しい部隊による攻撃への移行(超越交代の詳細についてはFM3-90を参照)。
移動対抗性活動
6-173. 移動対抗性(countermobility)とは、敵の移動と機動の自由を妨げるために、自然および人工の障害物を利用し、またはその効果を高める一連の諸兵科連合の活動である(ATP 3-90.8)。移動対抗性(countermobility)の主な目的は、敵の運動と作戦を形成し、敵部隊が有利な立場を得るのを阻止することである。移動対抗性(countermobility)は、軍事作戦の範囲内で作戦する部隊を支援するために実施される。移動対抗性(countermobility)は、攻勢作戦および防勢作戦を直接支援する。
6-174. 攻勢作戦の支援として、移動対抗性(countermobility)活動は目標を孤立させ、敵部隊(enemy forces)の再配置、増援、逆襲(counterattacks)を阻止する。作戦が敵の防御の縦深まで進行すると翼側の防御を可能にし、または統合された戦力として一般的な翼側の警戒を提供する。防勢作戦の支援では、敵の攻撃編成を混乱させ、友軍部隊(friendly forces)が敵を詳細に撃破するのを支援し、攻撃してくる敵部隊(enemy forces)を交戦地域又は防御縦深全体にわたるに誘導し、友軍反撃部隊の側方を防護するための移動対抗性(countermobility)活動がある。
6-175. 移動対抗性(countermobility)活動の実施には通常、工兵が必要であり、機動計画との適切な統合、障害物設置権限の遵守、積極的な障害物統制が含まれる。諸兵科連合の障害物の統合は、移動対抗性(countermobility)を作戦コンセプトに同期させる。ほとんどの障害物は友軍部隊(friendly forces)と敵部隊(enemy forces)双方の軍隊の移動と機動の自由を妨げる可能性があるため、指揮官はリスクを検討し、異なる種類の障害物を採用することのトレードオフを評価することが重要である。移動対抗性(countermobility)活動には以下が含まれる。
・ 障害物を設置する。
・ 障害物の建設、設置または爆発。
・ 障害物のマーキング、報告、および記録。
・ 障害物の統合を維持すること。
(移動対抗性(countermobility)の詳細については、ATP 3-90.8を参照)。
移動性作戦
6-176. 作戦地域内での移動と機動の自由は、戦闘力を発揮するために不可欠である。ほとんどの作戦環境と敵部隊(enemy forces)は、移動と機動に多くの難題をもたらす。指導者は、諸兵科連合の移動性を統合することにより、これらの課題を克服する。
6-177. 移動性タスク(Mobility tasks)とは、障害物の影響を緩和し、移動と機動の自由を可能にする諸兵科連合の活動である(ATP 3-90.4)。6つの主要な移動性タスクがある。
・ 啓開(breaching)の遂行
・ 掃討(地域、経路)の遂行
・ 間隙横断(gap crossing)の遂行
・ 戦闘用道路及び戦闘用航跡の建設及び維持
・ 前方飛行場及び着陸地帯(landing zones)の建設及び維持
・ 交通管理と交通取締りの遂行
6-178. 移動性タスクは、友軍部隊(friendly forces)が戦場で自由に移動し、機動することを可能にする。移動性タスクの効果的な遂行は、情報収集とインテリジェンスにかかっている。機動支援のための啓開(breaching)と間隙横断(gap crossing)は、主に戦闘工兵部隊を用いて、しばしば近接戦闘中に行われる。
6-179. 間隙横断(gap crossing)、掃討、戦闘道路や小道、前方飛行場、着陸地帯(landing zones)の建設は主に移動を支援するもので、戦闘部隊と一般工兵部隊を必要とする。移動を支援する移動性タスクは、常に火力の脅威が存在するものの、通常は火力下で行われることはない。
6-180. 啓開(breach)とは、障害物を通過して機動するために行われる、機動指揮官の指揮下にある同期化された諸兵科連合の活動である(ATP 3-90.4)。障害物啓開(obstacle breach)の成功は、機動部隊の統制の下、同期されリハーサルされた諸兵科連合の活動である。啓開(breach)は障害物を突破するために行われる任務である。啓開(breach)は直接・間接火力で覆われた敵の補強障害物への侵入を容易にする。
6-181. 掃討(Clearing)とは、通常後続の工兵や爆発物処理班が行う障害物の完全な除去または無効化を伴う移動性(移動に重点を置いた)タスクである(ATP 3-90.4)。一般的には、障害物を破壊、変更、除去することで達成される。
6-182. 隙地(gap)とは、渓谷、峠、川、またはその他の地形的特性で、橋をかけることができる障害物のことである(ATP 3-90.4)。隙地(gap)は作戦環境に存在し、移動と機動に大きな困難をもたらす。間隙横断(gap crossing)とは、直線的な障害物(湿地の隙地(wet gap)または乾燥した隙地(dry gap))を横断して戦闘力を投射することである。
第II節-防勢作戦
敵の襲撃を待つ防御態勢でも、我々の弾丸は攻勢に転じる。つまり、戦争の防御形態は単純な盾ではなく、うまく誘導された打撃で構成された盾である。
カール・フォン・クラウゼヴィッツ
6-183. 防勢作戦(defensive operations)は、敵の攻撃を撃破し、緊要地形を保持し、時間を稼ぎ、部隊を節約し、攻勢作戦や安定化作戦に有利な条件を整備するものである。攻勢作戦は通常、決定的な結果を得るために必要であるが、防御することが必要な場合も多く、望ましい場合さえある。国境を守るなど、全体的な政治的到達目標を達成するのに十分でない限り、防勢作戦だけでは通常、決定打を得ることはできない。
防勢の目的と条件
6-184. 防御の目的の一つは、陸軍部隊(Army forces)が主導性(initiative)を取り戻すことができるような攻撃条件を作り出すことである。防御を行う他の理由は以下の通りである。
・ 敵部隊(enemy force)に対して決定的な地形を保持し、重要な地域を与えないこと。
・ 攻撃の前段階として、敵部隊(enemy force)を追い詰め、または固定すること。
・ 敵の行動を妨害する。
・ ある地域でリスクを受け入れ、他の何処かで攻撃の機会を作る。
6-185. 防勢作戦には、多くの潜在的な条件がある。それらは以下の通り。
・ 敵の攻撃により武力紛争が発生した場合、前方の友軍部隊(friendly forces)は防御して時間を稼ぎ、増援まで戦闘力を温存する必要がある。
・ 攻勢作戦が頂点に達し、敵の攻勢作戦に対抗しつつ、戦闘力を高める必要がある。
・ 部隊は、支援の取組みとして戦力の効率的な防御の役割を割り当てられる。
・ 上位部隊階層司令部は、全体行動方針を支援するため、地域、住民、重要インフラ、その他の緊要地形を防御するための任務を指示する。
・ 米軍部隊(U.S. forces)はすべての目標を達成し、将来の敵の侵略を抑止するための防御に移行する。
6-186. 軍団または師団の防御を成功させる鍵は、防御部隊が敵の勢いを止め、主導性(initiative)を握ることができるような作戦コンセプトである。防御は攻撃と同様に奇襲が重要であり、防御コンセプトは明白な配置や技法を避けるべきである。防御を実行するとき、指揮官は利用可能な全てのドメインから戦闘力を編成し、敵を撃破させる決定的な場所と時間に効果を調和させる。指揮官は、どこに戦闘力を集中させ、どこにリスクを許容するかを決定する。成功のためには、防御部隊が陣前出撃(spoiling attack)や逆襲(counterattacks)のような主導性(initiative)を握る機会を利用することが必要となる場合がある。
6-187. 防御部隊にとって、時間はしばしば最も重要な資源である。敵は攻撃の時間と場所を選ぶので、友軍部隊が防御を準備する時間は未知数であることが多く、通常は不十分なものである。防御する軍団や師団は、計画策定、調整、リハーサル、情報収集の実施を完了するために、緊急の意識を持たなければならない。部下は、戦闘陣地の準備、後方支援アセットの事前配置、障害物の設置など、交戦地域を整備する時間が必要である。つまり、仕事の優先順位と取組みの優先順位を厳密に守ることが、時間管理には重要なのである。
6-188. 防御指揮官は、効果的な防御を準備するための時間を確保しようとする。軍団長または師団長は、準備時間を増やし奇襲を防ぐ手段として、主戦闘地域(main battle area)部隊の警護または援護のために警戒部隊(security force)をタスク編成し、警戒地域に配備することができる。指揮官はまた、敵の準備を混乱させ、準備のための時間を増やすために、陣前出撃(Spoiling attacks)、急襲、または陽動を行うことができる。防御部隊は、敵部隊(enemy forces)を消耗させ、その機動の計画(scheme of maneuver)を混乱させるために、合同および陸軍の火力と航空で敵部隊(enemy force)を継続的に縦深まで攻撃する。友軍の従来型の部隊(conventional forces)および特殊作戦部隊(SOF)は、敵部隊(enemy force)の移動と補給を複雑化することにより、敵の攻撃を遅らせることができる。敵部隊(enemy forces)がいつ、どこで攻撃してくるかわからない場合、指揮官はより多くの予備を維持する必要がある。
6-189. 防御を成功させるには、利用可能なすべてのアセットを統合し、同期化することが必要である。防御指揮官は、任務を割り当て、部隊(予備を含む)を配分し、支援と後方支援のための資源を、主たる取組みと支援の取組みの構成の中で配分する。指揮官は、作戦環境のインテリジェンス準備の結果に基づいて、どこに防御の取組みを集中し、どこでリスクを受け入れるべきかを決定する。この決定には、敵の偵察と監視の取組み、および敵の集中火力に対する友軍の脆弱性を考慮することが含まれる。指揮官は、友軍部隊(friendly forces)に影響を与えることができる各ドメインにおける敵の能力を考慮する。
防勢の特性
6-190. 成功した防御策には、いくつかの重要な特性がある。それらは以下の通りである。
・ 混乱(Disruption)‐敵の偵察部隊を欺き、破壊し、戦闘編成を分断し、部隊階層を分離し、敵部隊(enemy force)の諸兵科連合の同調する能力を阻害することである。
・ 柔軟性(Flexibility)-敵の様々な行動を予測し、それに応じて資源を配分する計画を策定すること。
・ 機動(Maneuver)-敵部隊(enemy force)に対して物理的に有利な位置を獲得し、利用すること。
・ 量と集中(Mass and concentration)-特定の場所に圧倒的な戦闘力を作り出し、主たる取組み(main effort)を支援する。
・ 縦深(Depth)-複数の敵の部隊階層、敵の長距離火力、後方支援、指揮・統制(C2)への関与。
・ 準備(Preparation)-攻撃する敵部隊(enemy forces)が到着する前に防御を準備すること。
・ 保全(Security)-警戒、防護、情報活動、作戦保全、およびサイバースペースと電磁戦のタスクを実施する。
(防御の特性についてはADP 3-90を参照のこと)。
敵の攻勢
6-191. 敵の戦術、能力、および想定される行動方針はすべて防御の計画策定に反映される。防御指揮官は、脅威の行動方針と敵部隊(enemy force)が利用しうる友軍の弱点の両方を予測するために、関連する全てのドメインにおいて敵の視点から地形と自軍を見なければならない。防御指揮官は敵の目標とそれを達成するための敵の接近経路(enemy avenues of approach)の可能性を確認する。全てのドメインにおける敵の能力を理解することは、最も効果的な友軍の防御策を考案するために不可欠である。敵の限界を把握することは、友軍の優位性を利用する機会を決定するのに役立つ。
6-192. 攻勢作戦の開始時、敵部隊(enemy forces)は友軍指揮・統制(C2)の混乱と破壊、圧倒的な火力の適用、そして友軍後方への急速な侵入を目指す。敵部隊(enemy force)は情報戦により、情報システムを攻撃し、欺瞞し、自軍の情報システムを防護する。敵部隊(enemy forces)は、指揮・統制(C2)システム、情報収集システム、防空システム、航空機に対して電子攻撃や長距離打撃を行う。敵の到達目標は、統合部隊の意志決定、防空・ミサイル防衛(AMD)、航空戦闘能力を弱めるか破壊することであり、これにより敵部隊(enemy forces)が早期に決定的な成功を収める機会を作り出す。
6-193. 敵部隊(enemy force)が早期の支配性を達成するための能力の鍵は、最初に打撃することである。敵部隊(enemy force)の攻勢作戦を開始する決心に影響を与える一般的な考慮事項には、敵が統合部隊に攻撃の準備がないと判断した場合、敵が統合部隊の弱点を突いた場合、敵が完全に準備しいつでも作戦に参加できる場合、が含まれる。敵の決心は、最初の会戦に勝つための最大の機会を提供する要素に結びつけられ、それが後の作戦の成功の可能性を大きく高めると考えるからである。
6-194. 敵部隊(enemy force)は、空・宇宙・サイバースペース・ドメインで早期に優位性に立ち、海のドメインと陸のドメインで優位性に立つための条件を整えようとする。敵部隊(enemy force)は、統合部隊が紛争地域に追加部隊を投入することを阻止し、前方展開部隊を可能にする友軍の兵站システムを混乱させることを狙いとする。敵部隊(enemy forces)は長距離攻撃を指揮・統制(C2)ノード、兵站基地、集結地に集中させ、統合部隊の防勢作戦を混乱させ、統合部隊の攻勢作戦準備能力を低下させる。
6-195. 敵の指導者が攻勢作戦中に地上戦に部隊を投入する場合、通常、地上での複数の固定攻撃により主たる取組み(main effort)の位置を隠蔽し、友軍前方部隊を孤立させることを試みる。敵部隊(enemy forces)は火力や電子攻撃により、重要な友軍の指揮所、レーダー、火力指示センターを混乱させる。
6-196. 一般に、敵部隊(enemy forces)は成功の補強を目指し、脆弱な地点に戦力を集結して大きな戦力比の優位性を獲得し、友軍防御陣地への迅速な侵入を可能にする。敵の指導者は移動部隊を使用して、侵入を迅速に最大限の縦深まで利用し、友軍全体の防御陣地を維持できなくさせる。敵部隊(enemy forces)は火力の量と範囲の両方で優位性に立ち、侵入地点で同時に大量の火力を行い、迅速な閉鎖と突破を可能にし、自軍の前線に沿って他の友軍要素を固定し、防御の縦深に沿って重要な友軍指揮・統制(C2)および兵站ノードをターゲットとする。敵部隊(enemy forces)は、可能な限り友軍戦闘陣地を固定し、移動し、必要な場合は破壊された部隊の中を移動するために、火力を使用することを望む。敵部隊(enemy forces)は、その全体的な戦略目的を支援するために、作戦目標を達成する縦深まで戦術的に機動しようとする。敵部隊(enemy forces)は、偵察、電子戦、情報戦およびその他の能力を駆使して、初期の戦術的成果を可能にし、それを利用する。これらには化学兵器も含まれる可能性が高い。(敵の攻勢作戦の想定図は図6-4を参照)。
![]() 図6-4. 想定される敵の攻勢作戦 |
防勢作戦の種類
6-197. 防勢作戦には3つの種類がある。これらの作戦は、著しく異なるコンセプトを持ち、異なる問題を提起する。部隊は防御を計画策定し実行する際、それぞれを独立して検討する。これらの種類の名称は選択された作戦の全体的な狙いを伝えるが、師団やそれ以上の部隊階層におけるほとんどの防御は、3つの種類すべての要素を兼ね備えている。防勢作戦の種類は次のとおりである。
・ 地域防御(area defense)
・ 移動防御(mobile defense)
・ 後退(retrograde)
地域防御
6-198. 地域防御(area defense)は防勢作戦の一種で、敵を完全に破壊するのではなく、指定された地形への敵部隊(enemy forces)のアクセスを一定時間拒否することに重点を置く(ADP 3-90)。地域防御のバリエーションとしては、線状障害物の防御、円陣防御(perimeter defense)、反射面防御(reverse slope defense)などがある。地域防御の目的は、防御部隊の大部分が相互に支援する準備された陣地に位置する地形を保持することである。部隊はその位置を維持し、これらの位置の間の地形を統制し、交戦地域に火力を集中させる。部隊はこれらの火力を逆襲(counterattacks)の可能性で補うことができる。すべての部隊階層の部隊は地域防御を行うことができ、陸軍部隊(Army forces)は海上の交戦地域を持つことができる。陸軍部隊(Army forces)は攻勢作戦、後退作戦、または安定化作戦に移行するために地域防御を行うことができる。(地域防御の詳細については、ADP 3-90を参照。)
移動防御
6-199. 移動防御(mobile defense)は、打撃部隊による決定的な攻撃により敵を破壊または撃破することに重点を置いた防勢作戦の一種である(ADP 3-90)。移動防御は、敵部隊(enemy forces)を打撃部隊による決定的な逆襲(counterattacks)にさらされる地点まで前進させることにより、敵部隊(enemy force)を撃破または破壊することに主眼を置く。打撃部隊(striking force)は、利用可能な戦闘力の大部分で構成される移動防御における専用の逆襲部隊(counterattack force)である(ADP 3-90)。拘束部隊(fixing force)は、特定地域からの敵の移動を一定時間阻止することにより、打撃部隊を補足するために指定された部隊である(ADP 3-90)。拘束部隊(fixing force)は、攻撃する敵部隊(enemy forces)を所定の位置に保持し、攻撃する敵部隊(enemy forces)を伏撃地域に転換し、打撃部隊を送り出す地域を保持するために使用される。
6-200. 移動防御(mobile defense)には、相当な縦深地域を割り当てる必要がある。部隊は戦場を形成し、敵部隊(enemy force)に後方連絡線(lines of communications)を過剰に延長させ、敵部隊の翼側を露出させ、その戦闘力を浪費させる。同様に、部隊は自軍を攻撃部隊を撃破できる位置まで移動させることができなければならない。通常、師団やそれ以上の編成は移動防御を行う。(移動防御の詳細についてはADP 3-90を参照)。
後退
6-201. 後退(retrograde)は、敵から離れるための組織的な移動を伴う防勢作戦の一種である(ADP 3-90)。後退(retrograde)の3つのバリエーションは、遅延、撤退、および退却である。敵部隊(enemy force)がこれらの作戦を強要することもあれば、警戒部隊(security force)が主戦闘地域(main battle area)を後方に通過するときなど、部隊が自発的に実行することもある。いずれの場合も、後退(retrograde)を実行する上位部隊階層司令部は、その作戦を開始する前に承認しなければならない。後退(retrograde)は単独で行われるものではなく、過渡的な作戦である。それは、将来の作戦のために戦闘力を維持するようにデザインされた、より大きな作戦計画の一部である。前方駐留部隊は、紛争初期に劣勢になった場合、多国籍軍の一部として後退作戦(retrograde operations)を実行する準備を整えておく必要がある。
防勢的作戦上のフレームワークの考慮事項
6-191. 防御では、指揮官は通常、縦深地域と後方地域を保持するが、近接地域を警戒地域と主戦闘地域(main battle area)の2つの明確な部分に分ける。指揮官はこの方法を用いて、航空・宇宙・サイバースペースを含む作戦を同期化し、敵部隊(enemy force)をその縦深全体で撃破する。図6-5は、想定される作戦フレームワークにおける友軍の防勢作戦を描いている。
![]() 図6-5. 防勢作戦時の想定される作戦フレームワーク |
拡張された縦深作戦
6-203. 作戦・戦略レベルの縦深作戦は、通常、軍団または師団に割り当てられた陸上の作戦地域(AO)の外にあるが、一部は陸軍上級編成の関心地域と影響地域内にある。防勢作戦中、陸軍部隊(Army forces)は敵の攻勢作戦を可能にする戦略インフラや聖域(sanctuary area)に対して、統合部隊指揮官(JFC)やその他の戦略的効果を要求することができる。
6-204. 戦略的指導者は、陸軍の長距離火力、サイバースペース、宇宙、およびその他のグローバル能力を、友軍の防勢作戦のための条件を整えるために、拡張された縦深地域のターゲットへの攻撃を支援するためにタスクとすることができる。長距離砲兵および地上発射ミサイル能力は、敵の長距離ミサイル砲列、製造・経済拠点、飛行場や港湾などの重要インフラ、戦略的通信拠点、戦略的後方支援・予備拠点などを射程に収めることができる。特殊作戦部隊(SOF)は、単独でまたは現地部隊(indigenous forces)と組み合わせて、脆弱なターゲットを攻撃し、住民に影響を与え、地元の民兵や抵抗組織などの確立したネットワークを動かして支援し、貴重な情報を集め、敵部隊(enemy forces)に対抗し、敵の攻撃活動に対する民衆の支援を弱めることができる。友好的に支援された現地部隊(indigenous forces)やゲリラ部隊は、重要なインフラに損害や障害を与えて敵の後方支援活動を阻害することも可能である。
防勢作戦間の縦深作戦
6-205. 縦深作戦は防御の有効性に不可欠である。指揮官はこれを用いて攻撃編成を萎縮させ、孤立させ、混乱させ、先頭の敵部隊階層に対して決定的な行動をとるための好機を作り出す。縦深作戦は、敵の選択肢を制限し、敵の友軍戦闘陣地に対する大量火力能力を混乱させ、後続部隊階層が先頭の部隊階層を支援する能力を否定することにより、主戦闘地域(main battle area)での成功を確保するための指揮官の手段である。指揮官はロケット砲、回転翼航空、無人航空システム(UAS)、特殊作戦部隊(SOF)、宇宙・サイバースペース能力、電磁戦、影響力活動を駆使し、縦深作戦を展開する。指揮官は、敵の長距離能力を陸軍部隊(Army forces)と直接接触する前に迂回、混乱、遅延、または破壊するために、統合火力を要求する。戦場調整分遣隊は、上級陸軍作戦指揮官の航空部門との連絡役として、統合航空作戦センターに統合火力の要求を伝える中心的な役割を果たす。(阻止に関する情報はJP 3-03を参照)
6-206. 縦深作戦は、敵が警戒地域内の機動部隊と接近する前に、できるだけ早期に敵の攻撃の結束を混乱させるために開始される。心理的効果は、敵部隊(enemy forces)の闘う意志を低下させ、敵の意志決定を妨げ、特に指揮・統制(C2)ノード、火力、兵站への攻撃と組み合わせた場合には、敵の攻撃を開始と同時に混乱させる。防御部隊の位置と配置を隠し、敵の火力の効果を制限するための欺瞞は、敵の大量効果能力を遅らせることができる。防御に当たる陸軍部隊(Army forces)は、縦深作戦を行う。
・ 警戒地域及び主戦闘地域(main battle area)における敵部隊(enemy forces)を後続部隊階層から孤立させる。
・ 敵部隊(enemy force)の火力及び兵站支援能力を混乱させる。
・ 友軍予備の投入を妨げないようにする。
・ 主戦闘地域における有利な戦力比を達成するために、敵の戦闘力を十分に消耗させる。
・ 攻勢に転じる。
6-207. 縦深作戦を実施する一環として、軍団長および師団長は、その関心地域全体における敵部隊(enemy forces)の最新のインテリジェンス図を維持する。特殊作戦の中核的活動によって生み出される効果を調整・統合し、作戦・戦略目標を達成し、敵の攻撃活動を支える敵部隊(enemy forces)・能力・インフラを崩壊させる。指揮官はまた、縦深作戦が近接作戦に過度に固執することを避けながら、警戒と主戦闘の部隊の条件設定に集中し続けるようにする。
6-208. 敵の編成が前線部隊に接近すると、指導者は敵の動きを監視し、敵部隊(enemy force)のどの要素が最も脅威であるかを決め、敵の長距離火力、防空システム、兵站アセット、指揮・統制(C2)ノードなどの高報酬ターゲットを攻撃する。指揮官は偵察部隊、警戒部隊(security force)、火力を使用して敵の接近を妨害し、敵の攻撃を非同期化する方法で敵の第2梯隊と予備を遅延させる。
利用可能な場合、指揮官は攻撃的な宇宙およびサイバースペース能力を電磁攻撃と組み合わせて採用し、敵の通信を妨害して敵の適応能力を阻害する。防御における縦深作戦は、航空阻止や近接航空支援を含む友軍の航空能力が警戒地域(security area)と主戦闘地域(main battle area)で作戦できるように、敵の防空を制圧することも目指すことができる。
6-209. 指揮官は火力支援調整手段を用いて下位部隊階層間の縦深作戦を同期させる。火力調整線(coordinated fire lines)、指揮官がターゲットの迅速な交戦のために使用できる許容的な火力支援調整手段であり、同時に友軍部隊(friendly forces)に柔軟性を提供する。防御では、軍団は配下の師団と協調して火線を確立し、師団が自らの近接地域と縦深地域に集中する必要のある場所より先に、地対地火力で重要な敵能力をターゲットにすることができるようにする。
警戒地域の作戦
6-210. 防御の間、警戒部隊(security force)は主戦闘地域(main battle area)部隊を奇襲から守るため、戦闘地域の前縁(forward edge of the battle area)より十分前方の割り当てられた地域を占領する。警戒部隊(security force)は、主戦闘地域(main battle area)部隊が敵の機動に対して部隊を再配置する時間を与え、敵の中距離火力の効果を軽減するために早期警戒(early warning)を提供する。
6-211. 指揮官は、任務の変数に応じて、警戒地域で遮蔽、警備、または掩護を採用する選択肢がある。どの選択肢を使用するかを決定するとき、指揮官は以下を考慮する。
・ 利用可能な部隊数に対する警戒地域の縦深、幅、地形。
・ 直面する脅威に対する警戒部隊(security force)の能力、特にその移動性。
・ 指揮官が警戒部隊(security force)に主戦闘地域(main battle area)での戦力を提供するために必要とする時間。
6-212. 指揮官は、利用可能な地形と防御の目的に基づき、警戒地域の位置、方向、縦深を決定する。部隊は敵の接近経路(enemy avenues of approach)を特定し、関心のある地域を指定する。警戒地域の縦深は、敵部隊(enemy forces)の接近に対応するための時間を決定する。縦深警戒地域を占領することにより、警戒部隊(security force)は重要な観測所や位置を損なうことなく、敵の偵察アセットを破壊することができる。敵部隊(enemy forces)が警戒地域に容易に侵入するのを防ぎ、観測所や部隊が移動したり、失われたりした場合の空白を防ぐことができる。警戒部隊(security force)は、縦深に配置する資源が少なく、地形を利用する機会も少ないため、広い戦線に沿った縦深を掩護することができない。浅い警戒地域では、部隊は警戒部隊(security force)をタスク編成し、本隊の反応時間を増やすための警備活動を行わなければならない。
6-213. 警戒部隊(security force)のタスク編成は、防御の全体コンセプトにおけるその役割に依存する。掩護部隊と警備部隊は、遮蔽部隊よりも多くの増援を必要とする。火力、工兵、航空、およびその他の任務は、敵を減速させ、混乱させ、敵の警戒部隊(security force)を低下させ、防御指揮官のために時間を稼ぐための警備部隊または掩護部隊の能力を向上させる。
6-214. 指揮官は、考えられる全ての敵の可能行動(enemy courses of action)と主戦闘地域(main battle area)で必要とされる準備の評価に基づいて、警戒地域をいつ占領するかを決定する。そして、警戒部隊(security force)の移動と陣地確立のために十分な時間を確保する。任務の変数は、これらの警戒部隊(security force)がどのように展開し、陣地を占領するかに影響を与える。指揮官は、地形の有利不利や敵の配置に応じて、警戒地域を確立するために前進することも、主戦闘地域(main battle area)をさらに後方に準備しながら現在の前線部隊に沿った警戒地域を確立することもできる。
6-215. 情報収集能力は、警戒のタスクの遂行を可能にする。指揮官は、敵部隊(enemy forces)を探知・追跡するために、指定された関心領域に収集を集中させる。無人航空機システム(UAS)、インテリジェンス作戦、地上センサー、国家アセットからのデータと報告は、監視地域を拡大し、早期警戒を提供し、警戒部隊(security force)に合図を送ることができる。回転翼機は、センサーで遠距離の敵部隊(enemy forces)を探知し、報告する。これにより、地上の警戒部隊(security force)は、敵の接近経路(enemy avenues of approach)、指定された関心領域、ターゲットとされた関心地域、センサーの性能を低下させる制限のある地形などに部隊を集中させることができる。指揮官は情報収集アセットを利用して敵部隊(enemy force)の動きを察知し、警戒部隊(security force)を再配置して敵の行動に対抗するためのアセットを採用する時間を確保する。
6-216. 警戒部隊(security force)の後方境界線は、通常、戦闘引渡し線である。警戒地域にいる部隊から主戦闘地域(main battle area)の部隊への戦闘の引継ぎは、混乱と友軍相撃(fratricide)を避けるため、緊密な調整を必要とする。警戒部隊(security force)は、後方通過線を実施するための機動的自由を保持しなければならない。主戦闘地域(main battle area)部隊は、主戦闘地域(main battle area)内の接触点、通過レーン及び経路を設定する。間接火力の統制は、警戒部隊(security force)が通過レーンを移動する際に主戦闘地域(main battle area)部隊に引き継がれる。通常、警戒部隊(security force)の大隊規模の部隊は、通過する旅団に戦闘を引き継ぐ。規模や部隊階層に関係なく、特定の進入路で敵が接近していることを主戦闘地域(main battle area)指揮官に知らせ、敵の先頭部隊を監視下に置くことができなければならない。通過後、警戒地域部隊は指示された場所に移動し、その後の作戦の準備を開始する。
主戦闘地域の作戦
6-217. 主戦闘地域(main battle area)とは、指揮官が部隊の戦闘力の大部分を投入し、襲来する敵部隊(enemy force)を撃破しようとするところである。指揮官は、敵の侵入を阻止するために主戦闘地域(main battle area)に部隊を配置し、敵部隊(enemy forces)が可能な限り不利になるような地形を選択する。指揮官は、下位の機動部隊の作戦を統制する手段として、主戦闘地域(main battle area)において下位の部隊に区域(sector)を割り当てる。防御区域(defensive sectors)は、主要な敵の接近経路(enemy avenues of approach)に沿うべきである。最も危険な区域(dangerous sector)を担当する部隊は、一般的に主たる取組み(main effort)となる。指揮官は、敵の攻撃を阻止し、侵入してきた敵の編成を破壊し、または主導性(initiative)を取り戻すための逆襲(counterattacks)をするために、主戦闘地域(main battle area)において予備を使用する。
6-207. 制限の多い地形、チョーク・ポイント、河川のような自然の障害物は、通常、緊要地形と進入路を指向する地域防御に有利である。開放的で制限の少ない地形は、通常、敵部隊に志向した機動的な防御に有利である。師団や軍団レベルの防御のほとんどは、移動防御と地域防御の組み合わせの機会を提供する。軍団長や師団長は、主戦闘地域(main battle area)での近接作戦に関する状況認識を維持しながら、敵部隊(enemy forces)の前方部隊階層の増援や効果的な支援を防ぐための縦深作戦に焦点を合わせる。
6-219. 陣前出撃(Spoiling attacks)と逆襲(counterattacks)は、敵部隊(enemy forces)を混乱させ、主戦闘地域(main battle area)における戦闘力の集結や成功の利用を阻止するために用いられることがある。将来作戦セル(Future operations cells)は、主戦闘地域(main battle area)への潜在的な敵の侵入に対抗するため、従来型の部隊の再配置と予備の投入の決心点(decision points)を確立することにより、不測事態対応の分岐(branch)と続行(sequel)の計画策定を行う。
予備
6-220. 指揮官は、敵部隊(enemy force)の能力と意図に関する不確実性のレベルに基づいて、予備の規模を決定する。指揮官の作戦コンセプトは、予備の規模、構成、位置、および計画策定の優先順位を記述する。不確実性が高ければ高いほど、予備は大きくなる。防御中の予備の目的は、不確実性に対するヘッジを維持し、通常、侵入を阻止するか、翼側から包囲することによって、敵の成功に対抗することである。防御を計画策定するとき、指揮官は通常どこでも強いというわけにはいかないので、ありそうもない敵の可能行動(enemy courses of action)についてのリスクを受け入れることになる。予備は指揮官が負うリスクを軽減する。指揮官は予備を、露出した翼側や支援部隊などの敵の弱点に逆襲(counterattack)するため、または敵の前方部隊階層の孤立した部分を撃破するために使用することができる。場合によっては、指揮官は予備を主戦闘地域(main battle area)における戦闘陣地を強化し、重要な地形を保持し、敵部隊(enemy forces)の侵入を阻止し、または師団または軍団の後方領域に対する脅威に対応するために使用しなければならない。部隊は最大限の柔軟性をもって予備部隊(reserve force)を配置する。
6-221. 指揮官は状況の予測に基づき、予備の計画策定の優先順位を決定する。旅団またはそれ以上の編成の指揮官は、従来型の部隊の約4分の1を予備に保持するが、その割合は機動の計画(scheme of maneuver)および指揮官の不確実性のレベルに依存する。不確実性が高ければ高いほど、より多くの予備を必要とする。
6-222. 逆襲(counterattacks)はタイミングが重要である。指揮官は予備の投入を必要とする状況を予測し、主戦闘地域(main battle area)への投入のリハーサルを行わなければならない。リハーサルは予備の対応計画を確認し、対応速度を向上させるのに役立つ。指揮官は、既存の地形や天候の中で、集結地から主戦闘地域(main battle area)までの移動と展開のスケジュールを十分に理解した上で、予備の投入を速やかに決定する。予備の投入が早すぎる場合、期待された効果が得られなかったり、後でより危険な状況(dangerous situation)になったときに投入しやすい状態になかったりすることがある。投入が遅すぎると、予備は全体的な意図を満たすのに十分な影響を与えることができないかもしれない。後方地域の移動統制と防空は、予備を時間通り、秩序正しく戦闘に参加させるために不可欠である。
6-223. 予備は、航空または地上機動部隊、あるいは両者の組み合わせとすることができる。予備は、諸兵科連合能力のタスク編成を行い、統合能力の活用を優先させるべきである。指揮官は予備の長所と短所を考慮し、それに従って計画を立てる。例えば、航空攻撃隊を採用すれば、脅威のある地域に迅速に対応し、緊要地形を押さえた後に敵の翼側を迅速に脅かすことができる編成を提供することができる。しかし、一旦投入されると、移動能力と後方支援能力に限界がある。
6-224. 攻撃航空の移動性と致死性は、最も即応性が高く効果的な予備の1つである。敵の装甲侵入に対して迅速に逆襲(counterattack)することができる。その有効性にもかかわらず、天候の潜在的な影響と、警戒地域の作戦を可能にするような他の重要な役割に十分な航空を利用できないことによるリスクから、攻撃航空は決して唯一の予備の要素(reserve element)であってはならない。
6-225. 指揮官は一旦予備を投入すると、未投入の部隊や脅威の少ない地域の部隊から、直ちに別の予備を構成し始める。新しい予備を選択する際、指揮官はどのような能力がその状況下で最も効果的であるか、また、どのような場所で使用される可能性が高いかを検討する。
防勢作戦間の後方作戦
6-226. 後方作戦は、警戒地域と主戦闘地域(main battle area)における行動の自由を維持し、最終段階となることを防止する。後方指揮所は、後方支援の計画策定と指示、地形管理の実施、移動統制の提供、後方地域の地域警備(area security)を行うことにより、この行動の自由を可能にする。後方作戦は、防勢作戦中に需要の高い商品、特に弾薬の迅速な配送を確保する。敵の状況に応じて、指揮官は機動部隊を後方作戦の確保に投入するが、後方作戦を行う全ての部隊は現地の安全を維持し、残存性タスクを実施しなければならない。指導者は、後方に位置する上級司令部や統合イネーブラの地形、防護、後方支援の必要性を考慮しなければならない。(後方指揮所についての詳細はFM 3-94を参照)。
6-227. 後方作戦は戦闘力を他の優先事項から転用するため、指揮官はこの転用の必要性を他の潜在的影響と比較検討しなければならず、任務分析と実行予測の両方に基づいてリスクを引き受ける覚悟が必要である。リスクを負うということは、後方地域で作戦する部隊が重要な局面での自己防御に集中できるよう、後方地域の重要な作戦以外を一時的に停止するというような単純なことかもしれない。
6-228. 指導者は、敵の探知を制限し、重要なノードを固め、敵の攻撃が大きな損失を与える前に対抗するために可能な限りのことをすることで、指揮所、支援地域、準備地域、輸送作戦に関連する脆弱性を軽減する。効果的な対無人航空システム(UAS)作戦は、報酬の高い友軍ターゲットを特定しようとする敵の偵察要素に対抗するために重要である。特に重要な指揮・統制(C2)ノードの敵のターゲットを複雑にするために、後方地域内の電磁防護、限定的な攻撃的宇宙統制作戦、分散、再配置能力は、師団や軍団が長期間比較的静止している防御時に非常に重要である。(対無人航空機システム(UAS)作戦の詳細についてはATP 3-01.81を参照)。
攻勢への移行
6-229. 防勢作戦の究極の到達目標は、敵の攻撃を撃破し、攻撃への移行を図ること、またはそのおそれがあることである。部隊は移行を意図的に計画し、移行を成功させるために必要な友軍及び敵の条件を特定し確立しなければならない。友軍部隊(friendly forces)が防御目標を達成すると、部隊は攻勢作戦のために集約・強化し、再編成を行い、または新編成のために前方での超越交代(passage of lines)を促進する準備を行う。部隊は、友軍部隊(friendly forces)が後続の作戦の準備をしている間に、敵部隊(enemy forces)が前方部隊階層を強化し、集約・強化し、再編成することを防ぐために可能な限りのことを行うべきである。
6-230. 指揮官は、敵に圧力をかけ続けるのに十分な戦闘力があると判断した時点で攻撃に移行する。敵の編成を完全に撃破することで、回復後に同じ敵の編成と戦って犠牲者が出るリスクを減らすことができるからである。指揮官は相手と比較して自軍の戦闘効果を継続的に評価し、その評価に基づいて敵部隊(enemy forces)をどれだけ激しく追撃するか、どれだけ高いテンポを維持するかを決定する。(防御に関する追加情報はADP 3-90を参照)。
第III節-攻勢作戦
私は、特に多勢に無勢の場合、攻撃しなければ勝つことはできないと確信しているからである。しかし、今日の戦場で攻撃するには、技巧と狡猾さが必要である。
ドン・A・スターリー(Donn A. Starry)米陸軍大将
6-231. 攻勢作戦(offensive operations)を成功させる鍵は、最高潮に達する前にすべての望ましい目標を達成することである。そのためには、攻撃側の部隊が物理的、情報的、または人的次元において、何らかの相対的優位性を持つことが必要である。一般的に、攻勢作戦は複数のドメインで優位性に立つ必要があるが、指揮官は戦闘力という物理的手段だけでなく、欺瞞作戦や奇襲によってその優位性を達成することができる。
攻勢のための目的と条件
6-232. 攻勢作戦の目的は、敵部隊(enemy forces)を撃破または破壊し、地形、資源、または人口集中地の支配権を獲得することである。攻勢作戦は敵部隊(enemy force)から何かを奪う。攻勢作戦は、下位指揮官の積極的な主導性(initiative)、機会を作り出し利用するための主たる取組み(main effort)の迅速な移動、勢い、敵の防御計画およびそれを可能にする能力を最も縦深に、かつ最も迅速に破壊することによって特性づけられる。
攻勢の特性
6-233. 攻勢作戦はリスクが高く、テンポが速く、物理的な負担が大きいため、部隊の訓練、士気、結束力が高いことが必要である。成功する攻勢作戦は、これらの特性を備えている。
・ 大胆さ(Audacity)-リスクを負ってでも大胆に行動し、チャンスを生み出す能力
・ 集中(Concentration)-機会を作り出し、それを利用するために、力や効果を組織化すること。(効果を集中させることを「量(mass)」と呼ぶ)。
・ 奇襲(Surprise)-敵部隊(enemy forces)の意表をつく行動
・ テンポ(Tempo)-敵よりも速いペースを維持するが、与えられたすべての目標を達成するのに必要な時間だけ維持することができないほど速くはないこと。(攻撃の特性についての詳細はADP 3-90を参照)。
敵の防御
6-234. 敵の防勢作戦の目的は、攻勢作戦を再開するための軍事的条件を整えること、または敵が有利な政治的結果を達成するまで防御することである。敵は、一般に移動防御と地域防御の2種類の防御を用いる。移動防御は、地形を利用して相手の編成の一部を破壊し、相手の戦闘システムを無力化する機会を提供する。地域防御では、敵は重要な地域を友軍部隊(friendly forces)に与えない。対等な相手(peer opponent)や優越する相手(superior opponent)に対しては、ほとんどの場合、敵部隊(enemy forces)は主要な戦闘力を維持するために地形を放棄することを厭わない。なぜなら、これらの戦力の損失は敵の国家や体制の存続を脅かすからである。図6-6は、敵の移動防御を想定したものである。
![]() 図6-6. 想定される敵の移動防御 |
6-235. 敵は有利な地形に防御システムを構築し、戦場の縦深全域に能力を用いる。敵の到達目標は、地上部隊と米統合部隊(U.S. joint force)の統合した行動を不可能にするレイヤー化されたスタンドオフを形成することにより、統合部隊の縦深攻撃能力に抵抗することである。混乱地帯(disruption zone)では、敵部隊(enemy forces)は長距離火力と地上軍による限定目標の攻撃(limited objective attacks)で統合部隊を攻撃し、統合部隊の計画した攻撃を先制したり、混乱させたりする。敵部隊(enemy forces)は航空、野戦砲、弾道ミサイルを使用して、統合部隊の指揮・統制(C2)システム、長距離火力能力、攻撃ヘリ、兵站基地、集結地に対する遠距離攻撃を行う。敵は、特殊作戦部隊(SOF)、ゲリラ部隊、代理人部隊(proxy forces)を利用し、友軍部隊(friendly forces)の攻勢作戦の準備を妨害する限定目標の攻撃(limited objective attacks)を行っている。
6-236. 主戦闘地帯(main battle zone)において、敵部隊(enemy force)は統合部隊の地上・空中・航空攻撃部隊による主防御線の侵入と包囲を破るために防御システムをデザインする。敵はその防御線に沿って、障害物、準備された陣地、電子戦、有利な地形を組み合わせて友軍部隊(friendly forces)を減速させ混乱させようとする。敵の基本的な到達目標は、友軍部隊(friendly forces)を機動部隊で固定し、レイヤー化された防御アプローチで大量の火力をもって破壊することである。レイヤー化されたなアプローチは、長距離の空・宇宙・サイバースペース能力を持つ友軍部隊を特定することから始まり、近接戦闘で機動可能な範囲に入る前に火力でターゲットにする。理想的なのは、友軍部隊(friendly forces)が最初の成功を収めるための戦闘力を欠くところまで消耗させることである。
6-237. 敵部隊(enemy forces)は、敵部隊(enemy forces)に対する攻撃をより高価にし、敵部隊(enemy force)が最小限の地上戦闘力を前方に投入できるような方法で、継続的に陣地を改善する。敵部隊(enemy forces)は欺瞞、分散、再配置を行い、友軍の情報収集システムによる容易な捕捉を回避する。敵部隊(enemy forces)は通常、侵入と包囲の試みに逆襲(counterattack)するため、かなりの予備を使用する。縦深に配列された統合防空システム(IADS)は、敵の機動部隊と火力システムを防護し、移動の自由(freedom of movement)を提供する。
6-238. 前方に配置された敵部隊(enemy forces)は、長距離地対地システムに対して観測火力を行い、これらのシステムが効果的に交戦するのに十分な時間、友軍部隊(friendly forces)を固定することに重点を置いている。敵部隊(enemy forces)は、可能な限り、後続の一連の戦闘陣地を利用して縦深を確保し、機動的な防御を行う可能性が高い。敵の指揮官は、防御する地上部隊が再配置される際に、火力や障害物を利用して決定的な交戦を妨げ、一方、友軍部隊(friendly forces)を連続火力の下でできるだけゆっくりと移動させることを目指す。敵部隊(enemy force)は、この防御取組みの一環として、重要な電子戦、偵察、監視(無人航空機システム(UAS)を含む)、およびサイバースペース能力を使用すると予想される。同等の敵(peer enemies)は化学兵器を使用し、一部は戦術核兵器を使用して、防御力の集大成を阻止することができる。
攻勢作戦の種類
6-239. 攻勢作戦の種類は、攻撃の一般的な順序と推奨されるフォーメーションを記述している。目的は、1つを他のものと区別する。攻勢作戦の4つの種類は
・ 接触までの移動(movement to contact)
・ 攻撃(attack)
・ 戦果拡張(exploitation)
・ 追撃(pursuit)
6-240. 攻勢的機動(offensive maneuver)は、上級部隊階層が下位の部隊階層の成功のための条件を整えたか、攻勢作戦の潜在的コストがリスクに見合うと指揮官が評価したときに開始できる。条件が設定されるのは、下位部隊(subordinate elements)が十分な機動の自由(freedom of maneuver)を持ち、有利な部隊比と他の相対的な優位性を組み合わせて、許容可能なリスクのレベルで任務を達成できる場合である。戦術的部隊(tactical forces)は、敵の統合防空システム(IADS)と統合火力複合体(integrated fires complex)を崩壊させ、敵の機動力を許容可能なレベルまで消耗させるために、陸上構成部隊指揮官と軍団を必要とする。
6-241. 実力のある脅威に対する攻勢作戦には、敵の大量の火力、計画の同期化、縦深の防御の利用する能力を最小化する諸兵科連合のアプローチを採用した移動性の高い部隊が必要である。指揮官は各部隊階層で攻勢作戦を実施するためにタスク編成を行い、各部隊階層は近接戦闘を行う友軍部隊が克服すべき不利をできるだけ少なくするように、特定の責任を果たす。諸兵科連合を使用する編成の調整されたタスク編成は、敵のジレンマを最大にする一方、特定の時間内に解決できる以上の問題を提供することで優位性(enemy advantages)を最小にする。
6-242. 攻勢作戦が成功する可能性が最も高いのは、友軍部隊が自分たちの条件で断固として敵と交戦するときであり、そのためには優れたインテリジェンス、欺瞞、敵に猶予を与えない迅速な移行が必要である。迅速な移行により、陸軍部隊は収束(convergence)によって生み出された最初の機会を、戦果拡張(exploitations)と追撃(pursuits)に拡大することができる。戦果拡張(exploitations)と追撃(pursuits)は、指揮官が側面の安全、防護、後方支援の面でリスクを負うことを必要とする。成功のための計画策定は、敵の指揮・統制に対する圧力を維持し、縦深を拡大するテンポの維持に伴うリスクを考慮すべきである。
6-243. 戦果拡張(exploitations)と追撃(pursuits)の両方が、移動性の高い諸兵科連合の部隊を必要とする。部隊は迅速に移動し、有利な条件で、しばしば近距離で敵と接触しなければならない。戦果拡張(exploitations)と追撃(pursuits)は、敵の指揮・統制(C2)ノード、間接火力システム、兵站を混乱させ、敵が首尾一貫した防衛を再確立するのを阻止しようとするものである。
接触までの移動
6-244. 接触までの移動(Movement to contact)は、状況を発展させ、接触を確立または回復させるためにデザインされた攻勢作戦の一種である(ADP 3-90)。それは、その後の戦術的行動のための有利な条件を作り出す。部隊は、敵の状況が漠然としているか、攻撃を行うには十分でない場合に、接触までの移動(Movement to contact)を実施する。接触までの移動(Movement to contact)を行う部隊は、実行可能な最小の友軍と接触することを目指す。接触までの移動(Movement to contact)の結果、遭遇戦(meeting engagement)になることもある。遭遇戦(meeting engagement)とは、戦闘のための展開が不完全な移動部隊が、予期せぬ時間と場所で敵と交戦することによって起こる戦闘行為である(ADP 3-90)。友軍部隊(friendly forces)が敵部隊(enemy force)と接触した場合、攻撃、防御、迂回、遅延、撤退の5つの選択肢がある。
攻撃
6-230. 攻撃(attack)とは、敵部隊(enemy forces)の撃破、地形の確保、またはその両方を行う攻勢作戦の一種である(FM 3-90)。攻撃は、協調的な作戦を取り入れる。攻撃は、敵の配置を知ることにより、部隊が同期し、戦闘力をより効果的に使用することができるため、接触までの移動(Movement to contact)とは異なる。攻撃には4つのバリエーションがある。
・ 伏撃(ambush)
・ 逆襲(counterattack)
・ 襲撃(raid)
・ 陣前出撃(spoiling attack)
戦果拡張
6-246. 戦果拡張(exploitation)とは、通常、攻撃の成功に続いて行われる攻勢作戦の一種であり、敵の縦深を混乱させることである(FM 3-90)。戦果拡張(exploitation)は、収束(convergence)による崩壊を拡大し、敵部隊が降伏するか撤退するしかないほど破壊する。戦果拡張(exploitation)によって敵部隊の結束を混乱し、細部にわたって撃破しやすくする。師団および上級部隊階層司令部は通常、現在の作戦の分岐(branch)または続行(sequel)として作戦を計画する。
追撃
6-247. 追撃(pursuit)とは、逃走しようとする敵対する部隊(hostile force)を破壊する狙いを伴って捕捉または遮断し、これを撃破することをデザインした攻勢作戦の一種である(ADP 3-90)。追撃(pursuit)は、迅速な移動と分散統制を必要とする。敵の抵抗がなくなり、敵部隊(enemy forces)が逃亡した場合、あらゆる攻勢作戦は追撃(pursuit)に移行することができる。一般に、追撃(pursuit)は通常、攻略に成功した後に行われる。追撃(pursuit)には2つの種類がある。
・ 正面(frontal)
・ 複合(combination)
攻勢的作戦上のフレームワークの考慮事項
6-248. 指揮官は、上位部隊階層の指揮官の作戦フレームワークと一般的な段階的計画の中で攻撃をデザインする。攻撃をデザインする際、指揮官は敵部隊(enemy force)を撃破するタスクを分担し、縦深作戦、近接作戦、後方作戦を通じて統合されたアプローチを維持する。指揮官は作戦フレームワーク全体にわたって、空、宇宙、サイバースペース、そして関連する場合は海上の能力を考慮する。図6-7は、想定される作戦フレームワークにおける友軍の攻勢作戦を示したものである。
![]() 図6-7. 攻勢作戦時の想定される作戦フレームワーク |
攻勢作戦間の拡張された縦深作戦
6-249. 拡張された縦深地域は、友軍部隊(friendly forces)に損害を与え、友軍部隊(friendly forces)の作戦範囲と耐久力に影響を与える敵の能力が存在するため、どの編成の関心地域においても重要な部分である。敵の戦略的指揮・統制(C2)ノードと地上ミサイルや航空アセットなどの長距離火力能力は、一般的に軍団や師団の作戦地域(AO)から外れた縦深地域に位置している。拡張された縦深地域の状況は今後の作戦に影響を与え、攻勢作戦が進展し、前方の境界線が前進し、部隊が戦場を移動すると、割り当てられた地域の一部となることがある。指揮官は、特殊作戦部隊(SOF)とパートナーである非正規部隊の効果と活動を、拡張された縦深地域において統合する。陸軍部隊(Army forces)は、縦深地域において統合効果を要求し、統合部隊指揮官(JFC)から拡張された縦深地域のターゲットに対して長距離火力を行うよう命じられることがある。敵の意志決定を混乱させ、敵の長距離火力能力を破壊することで、敵の連携防御能力を制限し、逆襲(counterattacks)のために再編成または準備中の敵部隊(enemy forces)を破壊することができる。
攻勢作戦間の縦深作戦
6-250. 縦深作戦は、編成の主力(main body of the formation)と直接火力接触していないが、将来接触する可能性のある、割り当てられた地域の一部に焦点を当てる。長距離火力能力を有する師団や軍団では、縦深地域は部隊の前列を越え、陸軍能力や統合能力が到達可能な距離まで広がっている。師団と軍団は、指揮・統制(C2)関係に応じて特殊作戦部隊(SOF)を縦深作戦に統合し、敵の闘う意志(will to fight)を低下させ、報酬の高いターゲットを破壊し、敵の防御インフラと後方支援を混乱させる。縦深地域で作戦する特殊作戦部隊(SOF)は、行動を同期させ、リスクを軽減するための統制手段を必要とする。
6-251. 指揮官は縦深地域において、ターゲットに対する責任、火力の使用、前進軸(axes of advance)、将来の地上目標を明確にするために図表統制手段(graphic control measures)を使用する。前方境界線、火力調整線(coordinated fire lines)、火力支援調整線、キル・ボックス(kill boxes)、火力制限地域はすべて、指揮官が部隊階層間の縦深作戦を統合するために使用する調整手段である。
6-252. 指揮官は、敵の部隊階層を混乱させ、予備を無力化し、近接作戦に影響を与える対戦車レーダーや火力システムを含む重要な能力を破壊するために、縦深地域において統合および組織的な致死性効果と非致死性効果を同期化させる。例えば、指揮官は敵の予備に対する集中火力と軍事情報支援作戦を組み合わせ、その部隊の補給作戦を攻撃して本体(main body)から心理的に孤立させ、その闘う意志(will to fight)を喪失させることができる。
6-253. 軍団と師団は、近接作戦を支援し、縦深作戦を実施するために陸軍と統合の火力能力を使用することができる。指揮官は空と地上の偵察部隊と警戒部隊(security force)を運用し、初期接触を行い、ターゲットを探知し、縦深作戦を支援するための火力を容易にする。また、主たる取組み(main effort)を支援するために、縦深作戦から近接作戦へと火力の優先順位を変更することもある。
6-254. 指揮官はまた、縦深作戦を行うために偵察部隊と警戒部隊(security force)を採用することができる。指揮官は、可能な限り小さな地上部隊と接触し、本隊が決定的に交戦する前に状況を進展させるために、専門の警戒部隊(security force)をタスク編成することができる。通常、攻撃部隊は大規模な前方警戒部隊(forward security forces)を必要としない。ほとんどの攻撃は、すでに敵と接触している位置から行われるため、別個の前方警戒部隊(forward security forces)の有用性は低くなる。ただし、攻撃部隊が防御から攻撃に移行する際に、防御の一環として前方警戒地域を設置した場合は例外である。
近接作戦
6-255. 近接戦闘は師団以下の部隊階層の機動と旅団戦闘チーム(BCT)以下の部隊階層の直接戦闘が最も多く行われる場所である。旅団戦闘チーム(BCT)以下の部隊階層の編成は、近接作戦中の移動及び火力により敵部隊(enemy forces)を破壊し、又は戦闘不能に陥らせる。旅団戦闘チーム(BCT)レベル以下の近接戦闘は、指導者と小部隊チームの用兵技能(warfighting skill)と決意に大きく依存する。会戦訓練(Battle drills)と集団間接火力を効果的に行うことが、近接戦闘の成功に重要な役割を果たす。
6-256. 指揮官は近接地域での初期目標を達成すると、作戦の次の段階へ移行し、または状況により当初の計画の変更を必要とする場合には、分岐(branch)または続行(sequel)を実行する。分岐(branch)では、友軍部隊(friendly forces)に師団の翼側にある逆襲する敵部隊(enemy force)を統合能力または予備で撃破することを要求することがある。指揮官は敵の防御部隊(enemy defensive forces)の大部分を撃破すると、獲得した成果を集約・強化することに重点を移すことができる。例えば、先行する友軍の部隊階層が敵部隊(enemy forces)を固定し、迂回させて勢いを維持する場合、後続の友軍部隊(friendly forces)は迂回した敵部隊(enemy forces)を撃破し、友軍の後方連絡線(lines of communications)を混乱させ、地元住民に悪影響を与え、あるいは脱走することを防がなければならない。指揮官は、敵部隊(enemy units)に接近している間に、できるだけ早い段階で獲得した成果を集約・強化する作戦を開始し、敵部隊(enemy units)との接触が途切れたときに発生しうるリスクを軽減する。
6-257. 近接作戦では、戦闘力の適用を同期化し、下位部隊の統合を確保し、敵への最大限の圧力を維持し、友軍内の友軍相撃(fratricide)のリスクを軽減するために、図表統制手段(graphic control measures)を必要とする。特定の作戦で図表統制手段(graphic control measures)の数を最小化または最大化することに、任意の利点はない。最適な図表の数は、任務の変数に依存する。多くの図表があることで、計画に選択肢と敏捷性がもたらされ、これは特に空と地上の連携や迅速な方向転換を促進するのに役立つことがある。指導者は、統制手段の複雑さのバランスをとる。大胆に実行できるほど単純であり、状況に応じて機敏に適応できるほど詳細であるべきである。統制策を採用する最善の方法は、下位部隊の行動の自由度を最大にし、下位部隊が合理的に達成できる以上のタスクを持つことがないようにすることである。
6-258. 指揮官は状況に応じて図表統制手段(graphic control measures)の採用を調整するが、常に下位部隊の能力の範囲と速度、および全体的な作戦テンポを考慮する。部隊の前進に伴い、後方の境界線は通常、部隊の割り当て領域がその影響範囲を超えないように対応するシフトを必要とする。旅団戦闘チーム(BCT)は長い後方連絡線(lines of communications)を管理する能力が限られており、そのテンポと持久力は、補給、死傷者の避難、その他の後方支援に関する考慮事項の時間と距離によって影響を受ける。師団の境界は同様の考慮を必要とするが、作戦を支援するために師団指揮・統制(C2)ノードを移動させるという複雑さも加わる。師団指揮・統制(C2)ノードの移動は、下位編成の継続的な指揮・統制(C2)を維持し、不必要な戦術的中断を避けるために、慎重な計画策定を必要とする。
6-259. 指揮官と参謀は、関心地域内の隣接する友軍部隊(friendly units)と敵部隊(enemy units)について状況認識を維持する。指揮官と参謀は攻撃地帯(zone of attack)がどこになるかの計画を持ち、それを使って初期境界線と他の図表統制手段(graphic control measures)を作ることができるが、敵部隊(enemy forces)はそれとは無関係に行動する。つまり、友軍部隊(friendly forces)には担当区域外の能力を使用する上で何らかの制約や制限があるが、敵部隊(enemy forces)にはそれがない。このため、友軍は担当区域外の敵の能力が友軍の作戦にどのような影響を及ぼすかを理解し、翼側や後方の友軍部隊と対応を緊密に調整する必要がある。
攻勢間の後方作戦
6-260. 後方作戦は、軍団または師団の後方指揮所を通じて直接統制される広範な活動を包含する。後方作戦には、後方支援作戦、支援地域警備(support area security)、下位部隊に割り当てられていない地域のリスク軽減、地形管理、移動統制、防護能力の調整と同期化、獲得した成果を集約・強化、および必要に応じた安定化作戦の実施などが含まれる。軍団と師団の予備は通常、投入前に後方地域に位置しており、再配置または投入される際には後方地域を優先して移動しなければならない。後方作戦は、作戦範囲、テンポ、行動の自由度、耐久力、および編成全体の勢いに寄与する。
6-261. 後方作戦は攻撃する師団または旅団戦闘チーム(BCT)の前進に適応しなければならない。そのため、攻撃の進行に伴い、支援部隊、後方指揮所、および後方支援活動を前方に移動させることが必要となる場合がある。後方指揮所は通常、攻撃部隊が新たに獲得する陸地の大部分を担当する。師団後方指揮所は、前進する部隊によって残された土地の責任を引き受ける準備をしなければならない。特に、経路の管理と修復、後続の支援部隊のための地形管理、そして師団予備の移動が妨害されないようにするための準備が必要である。これらの活動は、後方指揮所が重要なインフラや重要な資源を脅かす爆発物の削減を指示することも必要となる場合がある。
6-262. 戦術部隊は軍団または師団の作戦に統合される途中、後方地域を移動する。これらの部隊は後方指揮所を通じて報告し、近接または縦深作戦の一部として採用される場合、主指揮所と統合できるまで後方指揮所が指定する集結地を使用する。遠距離火力、陸軍防空砲兵(ADA)、化学、生物、放射線、核(CBRN)除染、航空、および予備部隊(reserve units)は、後方地域の集結地および他の位置を占有している。火力やその他の支援物資の要求、地上や空域の使用、その他の活動は、主指揮所の指示がない限り、後方指揮所を通じて調整される。
6-263. 指揮官は通常、後方作戦を防護するために確保した戦闘力を節約する。迂回した敵部隊(enemy forces)、敵の特殊作戦部隊、および非正規軍は、後方作戦に大きな脅威を与える。通常、師団は後方地域の安全を確保し、獲得した戦果を集約・強化するために旅団戦闘チーム(BCT)を配置する。機動強化旅団は増強部隊とともに、主要な後方支援ノードや主要補給路を含む支援地域全体でレベル3の脅威を撃破するために戦術的戦闘力を用いる(脅威レベルの詳細についてはJP 3-10を参照)。
6-264. 後方作戦は、移行期に重要な役割を果たす。例えば、防御と攻撃の間の移行では、作戦に必要な燃料、整備、移動支援の量が増加する。安定化作戦への移行では、人道支援物資、戦力防護・建設資材、契約支援などがより多く必要となる。
6-265. 必要な場合、指揮官は敵の直接火力の可能性が低い後方領域で再構成作戦(reconstitution operations)を実施する。再構成作戦(reconstitution operations)は後方支援の要因に支配されるが、後方支援部隊の独占的な責任ではない。すべての用兵機能(warfighting functions)は効果的な再構成(reconstitution)に貢献する。
6-266. 安定化作戦が重視されるようになると、指揮官は任務に照らして利用可能な資源を評価し、最低限必要な安定化作戦のタスクを遂行する最善の方法と、許容できるリスクを判断しなければならない。陸上構成部隊コマンド指揮官(land component commander)は、後方地域で作戦する民事タスク部隊(civil affairs task force)を設置し、暫定的な軍事当局を形成したり、望ましい戦略的最終状態を支援するために、最終的な獲得した成果の集約・強化を促進する文民行政を支援したりすることが可能である。民事タスク部隊(civil affairs task force)の目的は、指揮官の主たる取組み(main effort)の下に、作戦地域(AO)における安定化活動を集中させることである。さらに、指揮官は、現地の警戒部隊(security force)がタスクを遂行できるようになるまでの間、すべての兵科の兵士に暫定的な治安維持タスクなどの民事治安関連タスクを行わせることができる。米軍部隊(U.S. forces)から現地当局への移行に要する時間は、戦術・作戦レベルでの統治の整備と正当化を狙いとした要素を計画・統制する指揮官の能力に左右される。(民事タスク部隊(civil affairs task force)に関する詳細はFM 3-57を参照)
防勢と安定化への移行
6-267. 敵部隊(enemy forces)を撃破する前に攻勢作戦が終了した場合、友軍部隊(friendly forces)は速やかに防御に移行する。指揮官は、敵部隊(enemy forces)が機会を十分に生かすことができない場合、または敵部隊(enemy forces)が効果的に反応する前に攻撃再開のための戦闘力を構築できると確信した場合、意図的に防御に移行することができる。集束の場所によっては、友軍部隊(friendly forces)は防御可能な地形に部隊を再配置し、任務変数の評価に基づいて防御形態(form of defense)と機動の計画(scheme of maneuver)を策定する必要がある場合がある。
6-268. 攻勢作戦が成功するのは、陸軍部隊(Army forces)が与えられた目標を達成したためである。攻勢作戦を成功させるには、安定化作戦と紛争後の政治的到達目標に向けた戦略環境が支配する防御態勢への移行も必要である。これらの作戦は、安全保障と統治の責任を米軍部隊(U.S. forces)以外の正当な当局に移行させることを到達目標としている。
6-269. 安定化作戦への移行が行われると、指導者は安定化タスクと、住民への情報提供と影響力の行使、安全保障部隊支援を行うための情報活動に注力する。外交・人道支援組織との効果的な連携は、安定メカニズムを実現する能力を高める。陸軍部隊(Army forces)は、文民当局や政府が割り当てられた地域の支配権を得るまで、統合部隊が軍事的な統治を確立し、実施できるようにする上で重要な役割を果たす。
第IV節-紛争後の競争と安定化作戦への移行
6-270. 陸軍部隊(Army forces)は、地上において米国に有利な条件を確立することにより、武力紛争を終結させる。陸軍部隊(Army forces)は、武力紛争を通じて、獲得した成果を集約・強化し、望ましい最終状態を念頭に置いて作戦を遂行することにより、これらの状態を支援する。敵対行為(hostilities)が終了すると、安全な環境で合法的な当局に責任を移行させる目的で、安定化タスクが作戦を支配する。陸軍部隊(Army forces)は統合部隊に対し、ホスト国政府などの暫定政府に完全な統治責任を移行する前に、軍事的な暫定政府を樹立する選択肢を提供する。
6-271. 統治責任の移行の基準は、武力紛争の間に確立された有利な条件を維持するための統治組織の信頼性、能力、能力容量に左右される。戦略的指導者は、作戦開始時に移行のための大まかな条件を決定し、状況の変化に応じてそれを改善する。陸軍部隊(Army forces)は、ホスト国の文化を理解し、重要なインフラを把握し、現実的な移行の到達目標と時期の策定において戦略指導者を支援し、安定維持に必要な米国のコミットメントの期間と規模を決定する上で重要な役割を担っている。
紛争後の競争への移行間の戦域軍
6-272. 戦域軍は、紛争後の競争への移行において重要な役割を果たす。期間限定の統合タスク部隊(JTF)とは異なり、戦域軍は戦域戦略と関連する国益に継続的かつ長期的に焦点を合わせる。戦域軍は、移行を支援するために必要な追加的な部隊、機能的能力、および資源を予期し、要求する。戦闘作戦が縮小し、安定化タスクへの重点が高まるにつれ、戦域要求は変化する。戦域軍は、兵站の見積りを見直し、安全保障協力計画を更新し、インフラ整備が可能な工兵部隊を要求し、民政要求に焦点を合わせ、通信インフラを改善し、その他の重要な要求に対応する。
6-273. 合法的な当局を実現するには、統一行動パートナーとの調整と、取組みを支援する友軍部隊(friendly forces)に対する住民の好意的な態度が必要である。戦域軍の到達目標は、米軍の戦闘部隊をホスト国軍または他の暫定的な当局に置き換えることである。
6-274. 安全保障部隊支援(SFA)は、移行計画の重要な要素である。安全保障部隊支援(SFA)には、パートナー国の治安部隊の信頼できる軍事顧問として、訓練、教育された専門将校と下士官が必要である。戦域軍は、従来型の部隊(conventional forces)と特殊作戦部隊(SOF)を、移行と持続可能な政治的成果を支援する安全保障部隊支援(SFA)計画に統合することで、統合部隊指揮官(JFC)を支援する。特殊作戦部隊(SOF)はまた、市民活動の移行、ホスト国の主権の再確立、紛争を減らし安全保障環境を安定させるための条件整備を支援する。(民亊作戦の詳細についてはFM 3-57を参照)。
6-275. 戦域軍は、地域の安定を促進し、移行の管理を支援するため、他の地域の関係者を関与させる。ほとんどの場合、移行を成功させるには、戦域軍が装備を後退させ、統合作戦地域(JOA)を締結し、陸軍部隊(Army forces)の再展開を調整し、長期安全保障協力計画を管理することが必要である。地域の指導者との関係は、これらの要求を促進し、地域住民に安定をもたらすのに役立つ。
紛争後の競争への移行間の軍団
6-276. 軍団は、戦闘から安定重視の作戦への移行において、重要な役割を果たす。その一環として、獲得した戦果を集約・強化する活動では、陸軍部隊にこれらのタスクを遂行するための部隊を要求することがある。
・ 軍団作戦地域(AO)全域の地域警備(area security)を確立する。これには、残存する脅威を破壊または無力化し、民間人とインフラを防護するための攻撃と防御のタスクが含まれる。
・ 最終的に合法的な権力への移行を可能にする条件を整えるために必要な安定化タスクを実施する。
・ 外国の治安部隊の能力と能力容量を向上させるための安全保障部隊支援を実施する。
・ 敵対的または破壊的な作戦を再び開始することを敵や敵対者に思いとどまらせ、制裁、法律、国際的な命令を遵守するよう説得する。
・ ホスト国または他の当局による責任の引き受けを調整し、影響を与える。
・ 友軍部隊の活動(行動、言葉、イメージを含む)と連動した心理的行動を行い、友軍の治安部隊に対する市民の態度に好影響を与え、最終的に合法的な権力への移行を図る。
6-277. 軍団作戦地域(AO)で大規模戦闘作戦が終了すると、軍団は敵部隊(enemy forces)の部隊と作戦の再構成を阻止する態勢を維持しながら、安定化タスクに対する需要の高まりに対応するため、作戦フレームワークを調整し続ける。作戦は主に、脅威の高い地域での地域警備(area security)の提供に重点を置き、次いで脅威の低い地域での安定化タスクの遂行を行う。移行期間中、軍団は攻撃、防御、安定化作戦を同時に実施する可能性が高い。
紛争後の競争への移行間の師団
6-278. 移行期間中、師団は攻撃、防御、および安定化作戦を同時に行う可能性が高い。師団は、安定化作戦と同時に戦闘作戦を行う部隊を維持しなければならない。さらに、師団の支援部隊は、地域警備(area security)が確立される前に、戦闘活動を行う部隊をよりよく支援するために、確立された支援地域から、安全が確立されていない地域を経て、新しい支援地域に移動できるように準備しなければならない。
6-279. 師団は、合法的な文民当局または統一行動パートナーへの移行を可能にする条件を作戦地域(AO)内に作り出すために必要な安定化タスクを遂行する。また、師団は旅団を管理し、外国の治安部隊の能力と能力容量を向上させる安全保障部隊支援(SFA)を実施する。最後に、敵対的または破壊的な作戦の再開を思いとどまらせ、制裁、法律、国際的な取り決めを守るよう、敵を説得するのも師団の役割である。
紛争後の競争への移行間の旅団
6-280. タスク編成された旅団戦闘チーム(BCT)は、ほとんどの地域警備(area security)タスクを遂行し、統一行動パートナーと協力して、ほとんどの安定化タスクの達成を促進する。陸軍部隊(Army forces)は、大規模戦闘作戦の終了後、特定の行動をとる。これらの行動には以下が含まれる。
・ 集約・強化(Consolidation)
・ 地域警備(area security)の確立
・ 安定化タスク(stability tasks)の遂行
6-281. 大規模戦闘作戦から地域警備(area security)タスクへの移行はリスクを伴う。戦闘から集約・強化(consolidation)に焦点を移す部隊は、逆襲(counterattack)に対して脆弱である。歴史的な証拠によると、部隊は苦戦の末に勝利した後が最も脆弱である。指揮官と参謀は、迅速な移行を計画し、地域の治安維持の重要性を強調すべきである。(集約・強化(consolidation)に関する追加情報は、FM 3-90を参照。)
6-282. 部隊はまず、最低限必要な安定化タスクを遂行し、安定した作戦環境を維持または再確立し、必要不可欠な政府サービス、緊急インフラの再建、人道支援を提供する。旅団戦闘チーム(BCT)はさらに、継続的な情報収集を通じて、状況、知覚、機会を発展させ、再評価し、さらなる利益を得るための積極的な機運を維持する。
紛争後の競争への移行間の陸軍特殊作戦部隊(ARSOF)
6-283. 陸軍特殊作戦部隊(ARSOF)の部隊は、陸上構成部隊コマンドおよび軍団の割り当て地域の武力紛争から、持続可能な政策成果を支えるより安定した環境への移行を支援する。作戦環境を理解し、政治的影響を認識し、組織間協力を促進し、長期的影響を予測するという特殊作戦の義務(imperatives)は、統合部隊全体で共有される理解と効果的な意思決定に重要な貢献のひとつである。
6-284. 陸軍特殊作戦部隊(ARSOF)は、市民活動の移行を支援し、ホスト国の主権を回復し、紛争を減らして安全保障環境を安定させるための条件を整える。特殊作戦部隊(SOF)は、統合作戦に対する継続的または新たな抵抗を組織しようとする迂回した敵部隊を発見し、無力化する。