米陸軍の新M-1E3エイブラムス戦車近代化計画 (Congressional Research Service)

米陸軍の戦車開発についてのニュースが流れた。先月に「米陸軍がSEPv4中止とM1E3開発を発表、初期作戦能力は2030年代初頭」、今月に「米陸軍、エイブラムスは2040年までにハイエンドの戦場で無力になる」との記事が航空万能論GF (grandfleet.info)で見られる。

この件について米国議会調査局(Congressional Research Service:CRS)に掲載されているレポートを紹介する。少なからず、ウクライナでの戦車に関する教訓が反映されているともとれる内容である。(軍治)

米陸軍の新M-1E3エイブラムス戦車近代化計画

The Army’s New M-1E3 Abrams Tank Modernization Program

Updated September 18, 2023

米国議会調査局(Congressional Research Service:CRS)

IF12495

Andrew Feickert, Specialist in Military Ground Forces

背景:Background

M-1エイブラムス戦車(図1)は、移動性(mobility)、残存性(survivability)、火力(firepower)の手段によって、砲火の中で機動し、戦場の敵機甲部隊を撃破するようにデザインされている。M-1は、第二次世界大戦の装甲大隊指揮官として知られ、後に1972年から1974年まで米陸軍参謀総長を務めたクライトン・エイブラムス将軍にちなんで命名された。M-1エイブラムス戦車は、装甲旅団戦闘チーム(ABCT)の主要な兵器システムである。現在、現役米陸軍には11の装甲旅団戦闘チーム(ABCT)があり、米陸軍州兵には5つの装甲旅団戦闘チーム(ABCT)がある。各装甲旅団戦闘チーム(ABCT)には87両のM-1エイブラムス戦車が配備されている。

図1.M-1A2エイブラムス戦車

出典:米陸軍取得・調達支援センター

M-1プログラムは1971年12月に開始された。1973年6月、米陸軍はクライスラー・コーポレーションの防衛部門(1982年にゼネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ(GDLS)となる)とゼネラル・モーターズ(GM)のデトロイト・ディーゼル・アリソン部門にプロトタイプ開発のための2つの契約を発注した。1988年、ゼネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ(GDLS)はM-1A2バージョンの契約を獲得し、最初のM-1A2は1992年後半に就役を開始した。

M-1A2はこの戦車の基本的な輸出版である。輸出版は様々な装甲と通信パッケージを備えている。米国はM-1A1およびM-1A2を、対外有償援助(FMS)を通じてオーストラリア、エジプト、イラク、モロッコ、クウェート、サウジアラビアに売却している。2023年1月25日、バイデン大統領は、米国がウクライナに31両のM-1エイブラムス戦車を供与すると発表した。

進行中のM-1エイブラムス近代化の取組み:Ongoing M-1 Abrams Modernization Efforts

M-1エイブラムスの近代化の取組みは、M-1A2システム強化パッケージ・バージョン3(M-1A2 SEP v3)の実戦配備と、新しいM-1A2システム強化パッケージ・バージョン4(M-1A2 SEP v4)の開発に集中している。米陸軍によると、M-1A2 SEP v3の生産とM-1A2 SEP v4の開発はともに2018年度に開始された。2020年度には、最初の部隊がM-1A2 SEP v3を装備した。2020年12月、ゼネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ(GDLS)はSEP v3アップグレードのための46億ドルの契約を受け、2028年6月までに完了する予定であった。2024年度、米陸軍はエイブラムス・アップグレード・プログラムに6億9800万ドルを要求した。

新たなM-1E3エイブラムス近代化プログラム:The New M-1E3 Abrams Modernization Program

2023年9月6日、米陸軍は「M-1A2 SEP v4の取り組みを終了し、M-1E3エイブラムスを開発する」と発表した。米陸軍の発表では、グレン・ディーン(Glenn Dean)米陸軍少将(陸上戦闘システム担当プログラム・エグゼクティブ・オフィサー)が、この決定の根拠を述べている。

エイブラムス戦車は、もはや重量を増やすことなく能力を向上させることはできず、その兵站的フットプリントを減らす必要がある。ウクライナでの戦争は、兵士のための一体化された防護の必要性を浮き彫りにした。

米陸軍の発表によると、新プラットフォームは

M-1A2 SEP v4の長所を含み、最新のモジュラー・オープン・システム・アーキテクチャー標準に準拠するため、迅速な技術アップグレードが可能で、必要なリソースも少なくて済む。これにより、米陸軍とその商業パートナーは、より生存性が高く、より軽量な戦車をデザインすることができるようになる。

M-1A2 SEP v3の生産について、

米陸軍はM-1E3エイブラムスに生産が移行するまで、M-1A2 SEP v3の生産を縮小して継続するとしている。

米陸軍は2030年に初期運用能力(IOC)を達成すると予測している。米国防長官府(OSD)に提出された米陸軍の2025年度予算案には、M-1E3のデザイン作業を開始するための資金要求が含まれていると伝えられている。

M-1E3の特徴と能力:Possible Features and Capabilities of the M-1E3

米陸軍はM-1E3の新要件を公表していないが、伝えられるところによると、2019年の米陸軍科学委員会(Army Science Board)による将来の戦車に関する研究は、米陸軍上層部にM-1E3プログラムの設立に影響を与えた。米陸軍科学委員会の研究は、「第5世代の戦闘車両」を開発するための29億ドル、7年間のプログラムを推奨していると伝えられており、以下のような能力が提案されている。

– ハイブリッド電気駆動

– オートローダーと新型主砲

– 機動性極超音速ミサイルや砲発射対戦車誘導ミサイルなどの先進弾薬

– 一体型装甲防護

– 指揮・統制・ネットワーク能力の向上

– 人工知能(AI)アプリケーション

– ロボット車両とのペア能力

– 車両の熱および電磁シグネチャを低減するマスキング機能

前述のように、米陸軍は正式なM-1E3プログラム要件を明確にしていないが、伝えられるところによると、軽量化とハイブリッド電気駆動の両方が米陸軍にとって不可欠な機能であり、兵站要件を減らすために優先されていると考えられている。

2022年10月、ゼネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ(GDLS)はエイブラムスX技術実証機(図2)を発表したと報じられた。エイブラムスXの特徴は以下の通り。

– 軽量化(現行のM-1エイブラムスより10トン軽量化)

– 現行エイブラムスより50%燃費の良いハイブリッド電気ディーゼル・エンジン

– 乗員を4人から3人に減らす無人砲塔

– 無人機が投下する爆弾から身を守るための装甲強化

– 無人航空機との通信機能

– 長距離の脅威を乗員に警告し、複数の脅威に対して射撃の優先順位をつけることができる搭載AIシステム

エイブラムスXは、米陸軍が最終的に調達候補とするM-1E3のすべての要件を満たしていないかもしれないが、現在の戦車デザイン能力を示すものと見られている。

図2. ゼネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ(GDLS)エイブラムスX

出典:Breaking Defense

議会への考慮事項:Considerations for Congress

議会に対する監督上の考慮事項としては、以下のようなものが考えられる。

– M-1A2 SEP v3の生産削減に関する米陸軍の詳細なプログラム計画は?

– M-1A2 SEP v3生産に充当された資金はどのように再配分されるのか。

– M-1A2 SEP v3生産に参加している国防産業基盤、特にプログラムに関与している中小企業への経済的影響は?

– M-1E3は、現在運用されている M-1 エイブラムス戦車と1対1で置き換わるのか、それとも米陸軍は混合戦車群を維持するのか?

– 米陸軍州兵装甲旅団戦闘チーム(ABCT)はM-1E3を受領するのか?

– 米陸軍の装甲旅団戦闘チーム(ABCT)すべてにM-1E3を配備するには何年かかるのか?

– M-1E3は、対外有償援助(FMS)に認可されるのか?

– 競争という点では、GDLSのエイブラムスX以外に、他の防衛企業が将来の米陸軍M-1E3競争の候補となりそうな技術実証機やプロトタイプをデザインしているか?

– M-1E3には、現在のウクライナ紛争で効果が実証されている対戦車誘導弾(トップ・アタック弾を含む)や徘徊型弾薬(loitering munitions)に対抗するためのアクティブ・ディフェンス機能は盛り込まれるのか?