ロシアのウクライナに対する戦争 -現代のクラウゼヴィッツ戦争の複雑性- ⑩ポスト工業化時代における「国家と戦争」の理論的関係 ロシア・セミナー2024
前回の投稿「ロシアのウクライナに対する戦争 -現代のクラウゼヴィッツ戦争の複雑性- ⑨ウクライナ戦争がロシアの軍事プレゼンスに与える影響 ロシア・セミナー2024」に続いてロシア・セミナー2024の論文集の第10弾を紹介する。
この論考は、ロシア・ウクライナ戦争の背景にあるポスト工業化時代(post-industrial era)におけるロシアの帝国的野心に関する研究である。ポスト工業化時代(post-industrial era)にあってなお、領土を狙っているといえるこの戦争について、ウクライナへの侵攻もソビエト連邦崩壊後に失われた多極的世界秩序を回復することを狙いとしたものに他ならないと考えている。なかなか計り知れないロシアの意図を推察する上で帝国主義的考えの論拠を探ろうとすることは有益なのであろう。論考紹介にあたって、それぞれの関与の構図を理解するために論考にない図を加えている。(軍治)
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ロシアのウクライナに対する戦争 -現代のクラウゼヴィッツ戦争の複雑性-
Russia’s war against Ukraine -Complexity of Contemporary Clausewitzian War- |
10_ポスト工業化時代における「国家と戦争」の理論的関係:ロシア対ウクライナ戦争の戦闘経験を考慮して
10_THEORETICAL RELATIONS BETWEEN THE “STATE AND WAR” IN THE POST-INDUSTRIAL ERA, TAKING INTO ACCOUNT THE COMBAT EXPERIENCE OF THE WAR OF RUSSIA AGAINST UKRAINE
マルガリータ・カポチキナ(Margaryta Kapochkina)とスタニスラフ・コヴァルコフ(Stanislav Kovalkov)
マルガリータ・カポチキナ(Margaryta Kapochkina)は、国立大学「オデッサ海事アカデミー」海軍研究所ウクライナ軍研究センター「国立海洋水族館」の研究員で、人事将校、大尉、哲学博士。ウクライナ軍参謀本部から委託された10件の研究プロジェクトに参加(責任ある実行者を含む)。
スタニスラフ・コヴァルコフ(Stanislav Kovalkov)は修士号、人事将校、少佐、ウクライナ軍海兵歩兵中隊長。2014年3月、自発的にウクライナ軍に赴任。敵対行為に直接参加。
要約
ロシア連邦が帝国的野心を不当に宣言する理由に関する科学的研究の結果が発表され、その経済的無駄が示された。ロシアの外交政策の帝国的性質は、ロシア連邦の指導部が国家テロリズムを非難することを恐れていることを隠していることが判明した。「ソビエト連邦2.0(USSR 2.0)」プロジェクトの実施意図は、ソビエト連邦崩壊後に失われた多極的世界秩序を回復することを狙いとしている。戦争は、地政学的空間における支配の回復に関するドクトリンの実施におけるロシア連邦の主要な主張であることが示されている。我々は、ロシア連邦の外交政策の計画策定を、コンセプト的、戦略的、作戦的・戦術的レベルで明らかにした。ウクライナ戦争に対するロシア連邦の準備の結果とその実施方法も分析した。
はじめに
工業化時代(industrial era)において、旧来の領土戦争のドクトリンが実行されるとすれば、つまり戦争は資源をめぐって行われるとすれば、ポスト工業化時代(post-industrial era)においては、領土を奪取する動機は著しく低下する。今、世界は第三次世界大戦の入り口に立っている。バチカンの定義によれば、第三次世界大戦は、新しいハイブリッド型の戦争(a war of a new hybrid type)という形で、2013年にすでに始まっている。21世紀になっても、世界秩序の多極化のための新しいハイブリッド型の戦争(the war of a new hybrid type)は、工業化時代の戦争の兆候を失っておらず、同時にポスト工業化時代の兵器(自律型無人兵器)や技術(サイバネティック兵器、人工知能)を使い始めている。このように、新たなハイブリッド型の第3次世界大戦(the third world war of the new hybrid type)は、領土と資源をめぐって依然として闘われており、民間人を含む多大な破壊と人的損失を伴うが、古い従来型の兵器で戦争に勝つことは今や事実上不可能である。それは何を意味するのか?ウクライナでの戦争の現代的な戦闘経験は、人工知能の要素を持つ無人兵器の使用によって、国内総生産が小さくても、ポスト工業化時代に入った国が、工業化時代の強国に勝つことができることを示している。2年前でさえ、中国との戦争における台湾の勝利は現実のものとは考えられていなかったのに、黒海でウクライナの無人攻撃ドローンによってロシアの船が魔法のように破壊された後では、台湾に対する中国の海軍作戦は中国にとって失敗に終わるかもしれない。そして、中国が台湾の領土を物理的に奪取しなければ、「中国の統一(unification of China)」のための戦争は意味をなさない。
トピックの分析的概要
カール・ハウスホーファー(Karl Haushofer)は地政学の創始者である。カール・ハウスホーファー(Karl Haushofer)の見解の基本は、マルサス的(Malthusian)な「生活空間(living space)」のコンセプトであった。彼は、あらゆる帝国の到達目標は「生活空間(living space)」の拡大であると考えた。カール・ハウスホーファー(Karl Haushofer)は、「大陸ブロック(Continental Bloc)」という軍事的・地政学的ドクトリンを発展させた。これは、ベルリン-モスクワ-東京の軸の創設を指し、スペイン、イタリア、フランス、ドイツ、ロシア、そして日本といったユーラシア大陸の国家を統一し、大英帝国と米国に代わる東側の対抗軸とするものであった。ロシア連邦の現代外交政策は、「リスボンからウラジオストクまで(from Lisbon to Vladivostok)」という同様のドクトリンを宣言している。
ポスト工業化(情報)時代(post-industrial (information) era)には、戦争は情報レベルでの支配性を求めて闘われるため、領土や資源基盤の獲得が戦争の動機にはならなくなる。人類が存在する現段階では、社会の発展段階が工業化段階からポスト工業化(情報化)段階へと徐々に移行している。この社会発展の段階では、経済は革新的な部門が支配している。グローバリゼーションの状況下での戦争は、各国経済の相互依存の拡大によって特徴づけられる[1]。したがって、ポスト工業化時代には、資源の獲得は領土を奪うことなく、つまり専ら政治的・経済的手段によって行われることになる。軍事戦略とは、軍事的狡猾さ(military cunning)、外交(diplomacy)、戦術(tactics)、そして最後に「要塞への正面攻撃(frontal assault on fortresses)」から成ることを忘れてはならない。軍事術(military art)の頂点は、兵器を使わずに勝利することであり、敵が戦争に負けたことにさえ気づかなかったときである。
ポスト工業化時代の他国の成果を利用し始めた工業化時代の国々は、必然的に依存に陥る。つまり、工業化時代の国とポスト工業化時代の国との戦争では、ポスト工業化時代の国が勝つのである。なぜなら、ポスト工業化時代の国は、経済的にポスト工業化時代の国の共同体(commonwealth)の輪の中に位置しており、その国々は直接的または間接的に戦争に参加するからである。
戦争研究所は、「プーチンは自らを、歴史的に正当化された帝国再征服の権利を持つ現代ロシアの皇帝とみなしている」と指摘する。過去20年間、大統領制・議会制の連邦共和国の地位に反して、ロシア連邦の帝国主義が宣言されてきた。これは、プーチン大統領の公の質問「ロシアの国境はどこにあるか?」と、彼自身の答え「ロシアには国境はない」によって宣伝されている。このようにして、プーチンは、近隣諸国の領土への合法的な拡大の意図について宣言したのである。実際、ロシア連邦の外交政策の帝国的性質は、ソビエト連邦崩壊後に発展した世界秩序を変えたいという願望によって規定されている。ロシアは、軍事的手段によってソビエト連邦を復活させるという帝国的権利を正当化するために、実に多大な努力を払っている。現在、ロシアはリトアニア、ラトビア、エストニアに対する戦争の準備をしている。では、ロシア連邦は帝国の地位を宣言することによって何を望んでいるのか、という主な疑問が生じる。よく誤解されるのは、ロシア連邦は領土拡張という歴史的使命を遂行し、力によって他の民族や領土を併合(征服)しようとしているということである。しかし、このようなドクトリンは経済的に非効率である。ロシア連邦のウクライナとの戦争の過程で、侵略国は、あらゆる手段を使って、(帝国の復興権を使って)本来の帝国の野望を遂行している、つまり、資源のために闘っており、過去の工業化時代の規範に従って戦争を繰り広げているという印象をあえて作り出している。これは、国家テロリズムにおけるロシア連邦指導部の法的非難を避けるために行われている。「テロリズムに関するジュネーブ宣言(The Geneva Declaration on Terrorism)[2]」が、民間人を脅かす狙いで隣国を攻撃することを国家テロと定義していることはよく知られている。
我々は次の疑問に対する答えを得ることを狙いとして科学的研究を実施した。
「ロシア連邦は、帝国として国境を回復する権利を本当に持っているのだろうか?」この質問に対して科学的根拠に基づいた否定的な答えを得ることは、ロシア連邦指導部の国家テロリズムを非難するために利用できる。残念なことに、2022年、この問題は理論的なレベルから現実的なレベルへと移行した。これは、ウクライナのルハンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソンの領土の一部が軍事的手段によってロシア連邦に併合された結果起こったことである。つまり、ロシア連邦は宣言はしていないが、地理的な国境はなく、人々がロシア語を話し、自らをロシア人だと考える独立国家の領土を占領することを示している。
「国家と戦争(state and war)」というテーマに関する議論における主な疑問が、「ロシア連邦を帝国と見なす科学的根拠はあるか?」という疑問である理由を理解することが重要である。この点で、「資本主義帝国は、絶えず戦争し、拡大しているときにのみ存在する」という定説を考慮に入れる必要がある。言い換えれば、次のようになる。「戦争はロシア連邦の成功した存在にとって不可欠な要素なのか?」もしその答えが肯定的であれば、ロシア連邦(核保有国)の膨張政策は必然的なものであり、不可抗力の状況ということになる。つまり、NATOとロシア連邦の戦争は不可避なのである。このことから、ロシア連邦の侵略的政策に対する抑止力の保証に関する積極的な行動の必要性が生じる。
もし答えが否定的で、軍事衝突は避けられず、戦争はロシア連邦の指導者の自発的な行動によって行われるのであれば、ロシア連邦の指導者を変える必要がある。そのような経験はある。ソビエト連邦は、ソビエト連邦の指導部に長期的なイデオロギーと経済的影響を直接与えることによって、15の独立国家に崩壊した。実際の経験から、ソビエト連邦の崩壊には軍事介入は必要なかった。最初の数年間は、ソビエト連邦が戦争での損失を認識しないように、すべてが行われた。
そこで、皇帝の最大の特徴である拡大権について考えてみる。以前の歴史的時代においては、このような当然の権利はより強い者の権利であった。我々は、過去の帝国が軍事的に力の弱い国を本当に強制的に併合していたことを認識している。領土を併合する皇帝の権利は、国家から与えられたものではなく、兵器によって与えられたものでもなく、「神から(from God)」与えられたものであり、教会の総主教による皇帝への奉献の儀式を通じて確定されたものであった。つまり、帝国の基本は霊的な力であり、それは神の油注がれた者、すなわち皇帝(王)によって物質的な面で行使されるのである。プーチンが実際にそうである国の大統領とは異なり、皇帝は教会権力、世俗権力、軍事力を1人で兼ね備えている。歴史上、ロシアの君主制はまさに大陸型の帝国だった。ロシア帝国最後の皇帝戴冠式は1896年に行われた。奉献の儀式は神聖シノドス(Holy Synod)の長によって行われた。しかし、ロシアは帝国の地位を失った。ロシア最後の皇帝は退位し、プーチンは血統相続人ではない。従って、ロシア帝国は消滅し、復活の対象にはならない。
ソビエト連邦が崩壊する前、米国は非公式にソビエト連邦を社会主義帝国主義として特徴づけていたことに留意すべきである。つまり、現代の歴史的状況において、プーチンを皇帝と認める可能性に疑問があるということだ。確かに1721年までは、皇帝への奉献という宗教的儀式は、一般人との関係で行われることがあった。そこで、2016年5月30日にギリシャで行われたとされるプーチンの宗教的「奉献(consecration)」の事実を調査した。なお、世界の東方正教会の精神的指導者であるエキュメニカル総主教バルトロメオ1世は、この宗教的儀式を欠席した。宗教儀式では、ビザンチン帝国の帝国旗が掲揚された。この帝国は何世紀も前に消滅した。さらに、その国境はロシア連邦の国境と交差していない。さらに、ギリシャの宗教儀式は、形式的な特徴によれば、例えば、2023年5月6日にイギリスの新君主チャールズ3世が即位する儀式の手順とは一致しなかった。このように、プーチンは皇帝への奉献の儀式を受けていないことがわかった。
プーチンは2012年6月26日にイスラエルを、2023年12月6日にサウジアラビアを訪問した際、ギリシャでの身分不相応の宗教的処置に加え、過剰な、つまり同国大統領の地位にはふさわしくない名誉を与えられたことに留意すべきである。キリスト教、ユダヤ教、イスラム教の世界宗教界がプーチンの「人格(personality)」をこのように評価した理由は、いまだ不明である。
帝国とは、ある国家が支配的で、他の国家が従属的であるとみなされる領土的な存在であることは常識である。つまり、帝国とは、民主的な政治形態や法体系、市民社会とは相容れない、厳格なヒエラルキー原理に基づいて構築された君主制国家なのである。帝国は皇帝一人によって統治される。皇帝の称号は継承される。
結果
大陸帝国は緩衝地帯の国々に対しては吸収政策をとる。外郭諸国との関係では、最高レベルの管理職に賄賂を贈ることで、国家行政システムを徐々に破壊する政策がとられる[3]。ロシア連邦は帝国ではないが、その外交政策は大陸帝国の方法を用いている。
ロシア連邦の外交政策の帝国的本質は、世界秩序を変えることを狙いとした膨張を正当化したいという願望によって規定されている。多極化した世界を回復したいというロシア連邦の願望は、地政学における支配政策によって実現されている。これは、緩衝地帯の国々の領土を暴力的に掌握することによって実行され、BRICSタイプの政治ブロックの国境の拡大によっても現れている。ロシア連邦の帝国政策は、アフリカ大陸や南米大陸での軍事的・政治的活動によっても示されている。
その攻撃的な政策を隠すために、ロシア連邦は、ヨーロッパにおける国境の再分配の「大規模な(massive)」プロセスの外観を作り出している。このために、ロシア連邦は、ドイツの君主主義野党(Reichsbürgerbewegung)側の意図、クーデターの試みの外観を人為的に作り出した。君主主義野党は、1919年の状態に従ってドイツの国境を暴力的に変更する意図を宣言している。ポーランド、デンマーク、ベルギー、フランスの既存の国境を暴力的に変更することを指す。将来、ロシア連邦の計画によれば、ポーランドがウクライナの領土に、ハンガリーがウクライナとクロアチアの領土に、ルーマニアがウクライナの領土に、それぞれ拡大することになる。例えば、ロシア連邦は、独立国の国境再配分プロセスの「大規模さ(massiveness)」を示すために、ガイアナ(Guyana)の領土奪取に関するベネズエラの声明を「組織化(organized)」した。つまり、ロシア連邦の到達目標は、国境再分配のための戦争に大衆性を与え、この隠れ蓑の下でウクライナや旧ソビエト連邦の他の共和国の領土の奪取を合法化することである。
実施した調査の結果、ロシア連邦は帝国であるという命題を裏付ける議論が策定された。また、ロシア連邦は帝国であるという命題に反する議論も別途策定された。
形式論理学の法則(the laws of formal logic)によれば、ロシアが帝国であるというテーゼを裏付ける事実の存在は必要であるが、十分ではないことが立証された。しかし、ロシアが帝国であるという事実に反する兆候が少なくとも1つ存在すれば、ロシア連邦が帝国であるという言明を否定するのに十分である。
ロシア連邦が帝国であるというテーゼを支持する論拠を考えてみる。
議論その1。ロシア連邦は、他の帝国と同様、独立国家の内政に介入している。イデオロギーと政治的影響は、外郭の国々(セルビア、ギリシャ、イタリア、ベネズエラ、ブラジル)で行われている。外郭の国の中には、さらに経済的依存に陥る国もある(ハンガリー、キプロス、スロバキア、ブルガリア)。
ロシア連邦は緩衝地帯の国々(ウクライナ、ベラルーシ、ジョージア(Georgia)、リトアニア、ラトビア、エストニア、フィンランド)を併合しようとしている。
![]() ロシアに隣接する国 訳者作成 |
議論その2。ロシア連邦は、他の帝国と同様に、絶えず軍事紛争に参加し、挑発し、国境を変更する狙いで直接武力侵攻を行っている。ロシア軍は、その31年の間に、イチケリア(Ichkeria:チェチェン・イチケリア共和国)、ジョージア(Georgia)、モルドバ(Moldova)、シリア(Syria)、アゼルバイジャン(Azerbaijan)、ウクライナの領土における14の戦争と武力紛争に参加した。ロシア連邦は海外に軍事基地を増やしている。2014年以降、ロシアの民間軍事会社「ワグネル(Wagner)」は、世界の32カ国で軍事・政治活動を強化している。
議論その3。ロシア連邦は、他の帝国と同様、占領地での大量虐殺政策をとっている。ウクライナ人大量虐殺の計画は、戦争での迅速な勝利のために計算されたものであり、数十万人のウクライナの愛国者を戦闘で破壊する保証はなかった。電撃戦(blitzkrieg)の後、彼らは我々を密かに殺害し、気候の悪いシベリアの辺境に追放する計画だった。2024年2月20日、ロシアのメドベージェフ(Medvedev)元大統領は、愛国的なウクライナ人をシベリアに追放し、さらに絶滅させる計画を公に発表した。この大虐殺計画を実行に移すため、開戦の6カ月前、ロシア連邦の国防相は、生活に適さない辺境のシベリアに100万人規模の入植地を建設することを提案した。ウクライナ人はすでに2度、シベリアのこの地域に強制送還されている。1931年と1959年に、すでに数十万人のウクライナ人がそこで絶滅させられた。
議論その4。過去の帝国、たとえばオスマン帝国になぞらえれば、ロシア連邦はウクライナ人の家庭から子供を強制的に選び出し、ウクライナに対する憎悪の精神で彼らの強制的な養育を組織している。
ロシア連邦は帝国であるというテーゼに反する議論。
帝国の基礎は宗教的権力であり、それは皇帝という人物の世俗的権力と軍事的権力との結合をもたらす。帝国の宗教を受け入れなかった奴隷民族は、支配教会の道徳的規範に守られないため、ヒエラルキーの最下層に位置することになる[4]。
ロシア連邦の中に奴隷化された独立共和国イチケリア(Ichkeria:チェチェン・イチケリア共和国)が存在することは、ロシア連邦が帝国ではないことの証明になる。戦争に負けた後、チェチェン人はイスラム教を守り続けた。
にもかかわらず、彼らはロシア連邦の連邦予算から400億ドルを受け取っている。彼らは税金を納めず、公共事業を無料で利用している。チェチェンには3万人の近代的武装軍隊があり、ロシア連邦当局には従わない[5]。ウクライナでの戦争では、チェチェンの部隊は、ロシア民族が戦線(fighting line)から退いた場合、射殺し拷問するタスクを負っている。
ロシア連邦では、ウクライナに対するハイブリッド作戦(hybrid operations)は、ロシア連邦保安庁の第5作戦情報国際関係局(対外インテリジェンス機能を果たす)によって実施されている。この組織のウクライナでの活動を分析した。2004年以降、ロシア連邦保安庁はウクライナでの活動を急激に強化している(資金が急増した)[6]。
ウクライナにおけるロシア連邦保安庁の活動の成功例として、ロシア人サラマティン(Salamatin)の経歴を挙げよう。2006年から2011年にかけて、彼はウクライナの人民代議士だった(必要な政治的コネクションを得た)。
![]() ウクライナの大統領とヤヌコーヴィチ大統領時代の国防相 訳者作成 |
2011年、彼はすでにウクライナ国防産業コンツェルンのディレクターであった(軍産複合体(military-industrial complex)のシステムにロシア連邦のエージェントのネットワークを構築するタスクを負っていたらしい)。
2012年、彼はすでにウクライナ国防相だった(ウクライナ軍にロシア連邦のエージェント・ネットワークを構築するタスクがあったらしい)。おそらくロシアのインテリジェンス機関の影響がなかったわけではなく、戦争前の2年間、ウクライナ国防省のインテリジェンス総局では、海外での作戦のほとんどすべてが失敗していた[7]。出版物によると、ウクライナ国防大臣としてのサラマティン(Salamatin)の後継者(レベディエフ(Lebedev))は、ロシア連邦の計画によると、ウクライナ戦争におけるロシア連邦の計画された電撃戦(blitzkrieg)の後、ウクライナ政府のトップになった。
興味深い事実は、ロシア連邦がウクライナ軍に裏切り者(traitors)のネットワークを作っている可能性を示している。ロシアによるウクライナ攻撃の2日目、プーチンはウクライナ軍将校たちの裏切り者(traitors)のネットワークに自ら呼びかけ、「権力を自らの手に取り戻せ!そうすれば我々があなたたちと合意に達するのが容易になるだろう…」と呼びかけた[8]。プーチンは2024年2月28日まで、ウクライナの軍事クーデターを待っていた。このことは、ロシア連邦が3日間、ウクライナ軍に対する航空の使用を一時的に停止した事実を裏付けている。
ウクライナの内政におけるロシア連邦保安庁の帝国的影響力のもう一つの例を考えてみよう。ロシア連邦がウクライナに本格的に侵攻する前の2年間、親ロシア派のヤヌコーヴィチ(Yanukovych)政権の幹部たちが、ウクライナの縦割り行政の至る所で指導的立場に任命され始めた。こうした人々が政権に復帰することで、2022年2月24日のロシア軍との花合わせが確実になるはずだった。この計画の失敗のために、ウクライナでの電撃戦(blitzkrieg)の失敗の後、ロシア連邦保安庁第5部の部長が解任された。
ウクライナのNATO加盟の力学に対するロシア連邦の悪影響を分析した。ブカレストNATO首脳会議(2008年4月2日)で、ドイツとフランスはウクライナとジョージア(Georgia)のNATO加盟を阻止した。これが4ヵ月後のロシアによるジョージア(Georgia)への攻撃を誘発した。
2014年にロシア連邦がウクライナをハイブリッド攻撃(hybrid attack)した後、2014年12月2日、NATO事務総長はウクライナを再びNATOに招聘した。このため、ウクライナは2014年12月23日に非同盟の地位を放棄し、2019年2月21日にはNATOにおけるウクライナの新たな戦略的方針に関する憲法を改正した。残念なことに、その後、明らかにロシア連邦の影響を受けて、ウクライナのNATOへの動きのベクトルは逆に変化した。2019年10月31日、29カ国で構成されるNATO北大西洋理事会のウクライナ訪問の際、ウクライナはNATO加盟申請を拒否した。
我々は、ロシア連邦がウクライナの防衛力に及ぼす悪影響について分析を行った。戦争直前、ウクライナの軍産複合体(military-industrial complex)はほとんどロシア連邦の命令で動いていた。一例を挙げよう。ウクライナのある企業は、2023年6月1日までロシア連邦の大陸間弾道ミサイル15P118M「サタン(Satan)」の整備に参加した[9]。
我々は、ウクライナ軍に所属するオデッサ地方を例にとって、ロシア連邦のウクライナにおける戦争の準備と遂行の特殊性を明らかにしようと思う。この地域の占領は、依然としてロシア連邦のウクライナ戦争の主要な到達目標である。
オデッサの住民の相当数が親ロシア的な感情を持っていたことは周知の事実であり、それゆえロシア連邦は戦争の最初の数カ月間、オデッサの領土で「人民蜂起(people’s uprising)」が起きることを予想していた。我々は、オデッサにおける領土防衛力の発展の負の力学にロシア連邦のエージェントが影響を与えた事実を個人的に記録している。
ロシア連邦の揚陸艦がオデッサに接近した2022年3月2日の時点では、領土防衛旅団は編成され始めたばかりだった[10]。
我々は、ウクライナの民間警備組織に基づいて、ロシアのインテリジェンス総局のネットワークが展開されている事実を調査した[11]。
ロシアのインテリジェンス総局のネットワークは武装し、よく組織化され、地形を熟知し、都市開発の状況下でロシア連邦の装甲車の輸送隊に同行することになっていた。破壊されるべき愛国的市民の住所リストが事前に作成された。
ロシア教会による対ウクライナ破壊活動への関与の過程で、ロシア連邦のエージェントが影響を及ぼした事実も記録している。2014年以前から、ロシア教会の修道院の建設がウクライナで開始されていた。修道院の地理的位置は、オデッサの軍事占領計画に従って計画されている。オデッサの占領は、ティラスポリ(Tiraspol)市(モルドバ領内の未承認共和国)のロシア軍の参加によって計画されている。ティラスポリ(Tiraspol)から戦略道路E95(キエフ-オデッサ)沿いのヴォズネセンスク(Voznesensk)までロシア軍が進軍すると思われる経路上に、5つの修道院のネットワークが配備され、ロシア連邦の破壊集団とウクライナの裏切り者(traitors)が事前に集中できるようになっている。建設された修道院は、フェンスで囲まれた領土、居住用建物、二重の生命維持システムを持っている。
また、戦争のはるか以前から、ロシアのメーカーのソフトウェアを搭載した何千台もの監視カメラのネットワークがウクライナで構築されていたことにも注目すべきである。このようなカメラからの映像は、消費者に届く前にロシア連邦のサーバーに送られる[12]。2024年2月、このようなビデオ監視カメラは、ロシア連邦保安庁によってポーランドに設置され、NATOの軍事装備がウクライナに移動する物流ルートに設置された。
ウクライナへの大規模侵攻後、オデッサ領内で得た戦闘経験を考えてみよう。
出版物によると、戦争の最初の数日間、ロシア軍がオデッサ市から100キロの地点にいたとき、海からの水陸両用攻撃を2回試みたが、ロシア連邦は志願兵の徴兵の妨害、領土防衛軍の創設の妨害、民間人への兵器支給の妨害を組織した。
我々は、オデッサで実施されたロシア連邦の海上からの上陸に対する対策の有効性を評価した。分析は、オデッサの防衛システムをクリミアの同様のロシアのシステムと比較することで行った。分析は、2022年5月時点のGoogle Earthe衛星画像を用いて行った。我々の評価によれば、オデッサの黒海沿岸にある特殊な要塞構造は、おそらくロシア軍が水陸両用の橋頭堡を作るためにうまく利用できるだろう。
結論として、2022年2月24日の電撃戦に備えるため、ウクライナ領内でのロシア連邦の計画実施についてまとめる。このような一般化は、モルドバ、ジョージア(Georgia)、ラトビア、エストニア、リトアニア、フィンランド、ポーランドなど、ウクライナと同様にロシア連邦の緩衝地帯に位置し、必然的な吸収という帝国政策を実施している国々の利益のために行った。
ウクライナに対するロシア連邦の戦争は、ロシア連邦の戦略的帝国計画の一部であったため、不可避であったことを述べることは重要である。これは、1991年12月8日、ソビエト連邦の存在の終了の間に、ソビエト連邦の復権のための正式な法的根拠がロシア連邦によって人為的に築かれたという事実によって証明される。ロシア連邦によるクリミア自治共和国(ウクライナ)併合の1年前の2013年2月、独立国家共同体執行委員会が1991年12月8日付の合意原本を持っていないと報告したという事実によって、ソビエト連邦の暴力的な復活に関するロシア連邦のあらかじめ計画された意図が確認される。2013年秋には、どの加盟国も1991年12月8日付の原協定を所有していないと宣言された。
2003年10月23日、ケルチ海峡(Kerch Strait)でのウクライナとの国境紛争でロシア連邦が敗北した後、ウクライナで弾薬庫が爆発し始めた(ブルガリアとチェコの弾薬庫は2014年に爆発し始めた)。つまり、ロシア連邦の大規模なウクライナ侵攻の前に、ウクライナとその同盟国の弾薬を破壊する計画が実行されたのである。ウクライナと同様に、2008年8月8日にロシア連邦軍がジョージア(Georgia)に侵攻する前、2008年7月3日にブルガリアで1,453トンのソビエト式弾薬が爆発で破壊されたことを付け加えておく。
ロシア連邦による「ソビエト連邦2.0(USSR 2.0)」プロジェクトの実施は、ヤヌコーヴィチ(Yanukovych)がウクライナ大統領に昇格した後、活発な段階に入った。2010年にヤヌコーヴィチ(Yanukovych)が政権を握った直後、ロシアのインテリジェンス機関はウクライナの企業による兵器生産を妨害した。
サラマティン(Salamatin)とレベディエフ(Lebedev)のウクライナ国防相は、ウクライナ軍にロシアのエージェントのネットワークを構築したようだが、その清算についてはまだ知らされていない。ウクライナ国軍の志願兵の徴兵を阻止し、領土防衛部隊の配備を阻止した事実は、ウクライナをロシア連邦に取り込む計画の軍と軍産チェーン・リンク(military-industrial chain link)が完全に実行されたことを示している。
戦争の直前、ウクライナ内務省はウクライナ全土にロシアの技術によるビデオ監視手段を配備し、ウクライナ軍の動きに関する情報をロシア連邦に送信した。ロシア軍による侵攻の脅威にさらされていたウクライナのいくつかの都市では、内務省が、祖国防衛のために民間人に銃器を自由に支給することに言及したウクライナ大統領の法令を妨害した。戦前、ウクライナにおけるロシア連邦の主要なインテリジェンス機関は、民間警備会社のネットワークを構築した。この構築されたネットワークの目的は、ウクライナ占領地でのパルチザンの動きを阻止することである。そして、ウクライナのロシア連邦を掌握する計画のこのチェーン・リンクは完全に実行された。
政治部門において、ウクライナにおけるロシアのインテリジェンス機関の最大の功績は、ウクライナがNATOからロシア連邦へと移動するベクトルを恥ずべき形で変えたことである。つまり、ウクライナのロシア連邦を掌握する計画のこのチェーン・リンクが完全に実行されたのである。
最も予想外だったのは、戦争の最初の数日間、ロシア連邦がウクライナの民族主義政党と運動の動員の可能性を阻止したことであった。我々の意見では、これは、ウクライナ民族の民族的抵抗を破壊するためのロシア連邦の強力な計画、すなわちロシア連邦のウクライナに対する計画された侵略の実行の現れである。この計画の枠組みの中で、本格的な侵攻の2年前に、ウクライナの解雇に関する法律に従って解任されたヤヌコーヴィチ(Yanukovych)時代の指導者たちが、ウクライナのあらゆる管理職の指導的地位に復帰し始めた。これらの権力者の活動は、ウクライナ領土でロシア軍の花との出会いを保証することになっていた。このようなロシアの計画がうまくいかなかったことは、ロシア連邦保安局第5部長の解任によって証明されている。つまり、ウクライナのロシア連邦を捕獲する計画のこのチェーン・リンクでさえ、完全に実行されたのである。
結論と提言
我々は、ロシア連邦が帝国的野心を人為的に宣言する理由に関する科学的研究の成果を発表し、その経済的無益性を主張する。ロシア連邦の外交政策の帝国的本質には、ソビエト連邦崩壊後に失われた多極的世界秩序の回復への期待が隠されていることが判明した。戦争は、地政学的空間における支配の回復に関するロシア連邦のドクトリンの実施における主要な主張であることが示された。
ウクライナ戦争に対するロシア連邦の準備の結果と、その遂行方法を提示する。2004年11月21日、ロシアの特別作戦(special operation)が親ロシア派のヤヌコーヴィチ(Yanukovych)候補をウクライナ大統領に任命することに失敗した結果、2003年から2004年以降、ロシア連邦は、独立したウクライナに対する新しいハイブリッド型の戦争(new hybrid type of war)の積極的な段階を開始した。このようなハイブリッド行動(hybrid actions)(選挙の結果としての権力の掌握)は、ロシア連邦によってモルドバ(2006年)、ウクライナ(2010年)、ジョージア(Georgia)(2013年)に対して成功裏に実施され、2020年にはラトビアに対して計画されていた。
ソビエト連邦復活の法的根拠は、1991年12月8日、ソビエト社会主義共和国連邦の消滅時にロシア連邦によって早くも確立された。2013年に、1991年12月8日付けの当初の合意が破棄されたことを付け加えておくことは重要である。
独立ウクライナの内政におけるロシア連邦の帝国的行動を時系列順に考えてみよう。モルドバ、ジョージア(Georgia)、ラトビア、エストニア、リトアニア、フィンランド、ポーランドといった国々は、ウクライナと同様、ロシア連邦の緩衝地帯に位置し、必然的な吸収という帝国政策を実施している。
2003年10月23日、ケルチ海峡でのウクライナとの国境紛争でロシア連邦が敗北した後、ウクライナで初めて弾薬庫が爆発し始めた。
2010年、ウクライナにおけるロシア連邦のエージェントは、ウクライナの企業による兵器製造を妨害し始めた。
2011年、ロシア連邦の特殊部隊は、ウクライナ国防省にロシア人エージェントのネットワークを構築し始めた可能性があり、それは戦争開始当初、志願兵の募集を妨害し、領土防衛部隊の展開を妨害することで顕在化した。
ウクライナ内務省のロシアのインテリジェンス機関の行動により、ロシアの技術的なビデオ監視手段がウクライナ全土に配備され、ウクライナ軍の動きに関する情報がロシア連邦に送信された。
政治分野において、ウクライナにおけるロシア連邦のエージェントたちの最も悲劇的な功績は、2020年以降、ウクライナがNATOからロシア連邦へと移動するベクトルを変えるという恥ずべき変化であった。
ノート
[1] Economic War [electronic resource] URL: https://cyberleninka.ru/article/n/ekonomicheskaya-voyna-proishozhdenie-suschnost-strategii/viewer.
[2] The Geneva Declaration on Terrorism UN General Assembly Doc. A/42/307, 29 May 1987, Annex [electronic resource] URL: https://i-p-o.org/GDT.HTM.
[3] С. В. Кульчицький: Імперія // Енциклопедія історії України: Т. 3: Е-Й / Редкол.: В. А. Смолій, НАН України. Інститут історії України. — К.: В-во «Наукова думка», 2005.
[4] Hont I.: The Permanent Crisis of a Divided Mankind: Contemporary Crisis of the Nation State’ in Historical Perspective // J. Dunn (ed.): Contemporary Crisis of the Nation State? — Oxford, UK; Cambridge, MA: Blackwell,1995. — P- 172; Doyle M. W.: Empires. — Ithaca: Cornell Univ. Press, 1986. — p. 45.
[5] Выстрел в спину для дезертиров: как и для чего работают российские заградотряды [electronic resource] URL: https://24tv.ua/ru/zagraditelnye-otrjady-kak-rabotajushhie-i-streljajushhie-rossijanam-v-spinu-24-kanal_n2191715.
[6] Буданов назвав проблемного російського генерала: чим він шкодить Україні [electronic resource] URL: https://24tv.ua/chim-nebezpechniy-nachalnik-5-slubzhi-fsb-yak-rosiyski-agenti_n2410925.
[7] «Вагнергейт»: бывшие разведчики ГУР МО заявили о давлении и угрозах со стороны Офиса президента [electronic resource] URL: https://ru.slovoidilo.ua/2021/12/04/novost/bezopasnost/vagnergejt-byvshie-razvedchiki-gur-mo-zayavili-davlenii-i-ugrozax-storony-ofisa-prezidenta.
[8] «Берите власть в свои руки!» [electronic resource] URL: https://www.youtube.com/watch?v=Qm_1JmoqUwM.
[9] Кабмін розірвав угоду з РФ про сервісне обслуговування міжконтинентальних ракет «Сатана» [electronic resource] URL: https://sud.ua/uk/news/publication/258561-kabmin-rastorg-soglashenie-s-rf-o-servisnom-obsluzhivanii-mezhkontinentalnykh-raket-satana.
[10] Нових людей в тероборону не беруть, іншим зброю не видають: чи “зливає” влада Одесу окупантам [electronic resource] URL: https://odesa.novyny.live/novykh-liudei-v-teroboronu-ne-berut-drugim-oruzhie-ne-vydaiut-slivaet-li-vlast-odessu-okkupantam-41486.html.
[11] СБУ: викрили російську агентурну мережу, яка готувала вторгнення і до як входив депутат Деркач [electronic resource] URL: https://www.radiosvoboda.org/a/news-derkach-sbu-rosiyskyy-ahent/31913377.html.
[12] В Україні роками працювали тисячі камер спостереження з серверами у Москві — “Схеми” [electronic resource] URL: https://suspilne.media/634966-v-ukraini-rokami-pracuvali-tisaci-kamer-sposterezenna-z-serverami-u-moskvi-shemi/.