なぜ戦争を学ぶのか?軍事的即応性の知的次元 (Modern War Institute)

米国のウエスト・ポイントにある米陸軍士官学校「現代戦争研究所(Modern War Institute)」の「戦争を学問として学ぶことの意義」について述べられた記事を紹介する。ほぼ、ウエスト・ポイントにある米陸軍士官学校の「戦争学プログラム」の紹介となっているが、将校の知的レベルを向上するために戦士を学ぶことの意義は大きい。(軍治)

なぜ戦争を学ぶのか?軍事的即応性の知的次元

Why Study War? Military Readiness’s Intellectual Dimension

Shane R. Reeves | 06.17.25

 

画像出典:ロバート・L・フィッシャー3世、米陸軍

昨年夏に発表された世論調査によれば、米国人の3分の2近くが、今後5年から10年の間に再び世界大戦が起こると考えている。調査会社YouGovが実施した世論調査の結果によると、回答者の39%が今後10年以内に世界大戦が「ある程度起こりうる」と考えており、22%が「非常に起こりうる」と考えている。回答者の大多数、77%が「米国が参戦する」と考えている。

こうした不穏な結果は、侵略者の枢軸(すなわち、中国、ロシア、イラン、北朝鮮)が、中東や第二次世界大戦後最大のヨーロッパ陸戦を含む世界中の紛争において、軍事的、経済的、外交的に互いに補強し合っているという現実に根ざしている。中国共産党指導部の明言した意図と大胆な攻撃性に基づけば、危機と紛争は南シナ海や台湾海峡にも連鎖する可能性が高い。

不思議なことに、迫り来る世界大戦の恐怖は、それを防ごうという危機感を生んでいない。一方、ロシアのウクライナ戦争は、米国の防衛産業基盤の不十分さとグローバル・サプライ・チェーンの脆弱性を露呈した。こうした国家安全保障上のリスクに対処しようとする試みは失敗に終わり、大規模な戦争で十分な規模と期間にわたって作戦する軍の能力を危険にさらしている。

ウクライナやイスラエルの国境沿いでは、新しい兵器、戦術、戦いの形態が出現している。例えば、ウクライナとロシアの部隊は毎日、何千機ものドローンやその他の自律型システムを使用している。さらに、ウクライナでの戦争は、ロシアと中国を巻き込んだより広範な影の戦争(shadow war)に取り囲まれている。ロシアと中国は、政治的破壊活動(political subversion)サイバー対応の情報戦(cyber-enabled information warfare)海底ケーブル切断を含む重要インフラへの攻撃など、持続的な戦役を展開している。

なぜ戦争を学ぶのか?

ジョージ・ワシントン(George Washington)は、最初の年次議会演説で、「戦争に備えることは、平和を守る最も効果的な手段の一つである」と述べた。危険が増大している今、平和を守るには、防衛産業基盤の生産能力容量を高めるだけでなく、米国の統合部隊の近代化が必要である。こうした取り組みには時間がかかるだろう。

今、軍にできることは、軍事即応性を向上させるための継続的な取組みを強化することである。即応性には物質的な側面もある。装備は十分に整備されていなければならない。また、訓練の側面もある。部隊は、想定されるあらゆる戦闘状況のもとで、チームとして闘う能力を示さなければならない。しかし、即応性には知的な側面もある。将校は戦いの術(art of warfare)の専門家でなければならない。

戦闘部隊における専門知識は、任務を達成するための闘いの方法(how to fight)と作戦の維持方法に関する知識を伴う。しかし、将校は、敵を打ち負かし、政治的目標と一致した持続可能な成果を達成するために、軍事手段を国力の他の要素と統合する方法も理解しなければならない。ウェスト・ポイント陸軍士官学校の学際的な戦争学プログラムは、このような理解を育むために作られた。軍事史家であるマイケル・ハワード(Michael Howard)卿が提唱した枠組みを用い、ウェスト・ポイントの戦争学プログラムは、戦争と戦いを幅広く、深く、そして文脈の中で研究することに重点を置く。

第一に、ハワード(Howard)は、戦いが長い時間をかけてどのように変化し、発展してきたかを観察することによって、「幅を持って(in width)」勉強することを勧めた。彼は、「戦争の原則に関する知識は、変化に対する感覚によって和らげられ、心の柔軟性をもって応用されなければならない」と書いている。第二に、彼は「深く(in depth)」研究することを提唱した。ハワード(Howard)は、戦いを真に理解するためには、「歴史家が後から押し付けた秩序の裏をかき」、「実体験の混乱と恐怖」を垣間見なければならないと観察している。最後に、ハワード(Howard)は戦いを「文脈の中で(in context)」研究することを勧めた。

彼は、「勝利と敗北の根源は、しばしば戦場から遠く離れた場所に求めなければならない」ことを理解していた。したがって、戦争の社会的、文化的、経済的、人間的、道徳的、政治的、心理的文脈を理解するには、政治学、社会科学、哲学、文学、地理学、心理学などの理解が必要である。米軍将校にとって、戦争の文脈を研究するには、憲法の下での軍の役割の理解と、市民と軍の関係の理解も含まれなければならない。

戦争研究プログラムでは、将来への根拠ある予測を立てるために、最近および現在進行中の紛争の研究を重視する。また、このプログラムでは、世界一流の学者を招集し、将来の戦争の需要を予測し、必要であれば、士官候補生が米国の戦士チームを率いて闘い、勝利するための準備を整える。さらに、戦争研究の実践コミュニティには、大学全体から戦争の方向性について教え、研究し、執筆する学者が集まる。ウェスト・ポイントは、士官候補生の教育を強化し、現在および将来の脅威から我が国を守るために重要なアイデアを生み出すための協力を促進する。

現在を研究し、未来を予測する必要性は高い。今日、わが軍に入隊した将校たちは、不安定で不確実な競争環境に身を置くことになる。ウクライナでの戦争は、複雑な静的塹壕システムを持つ全長800マイル近い前線に沿って激化し続けている。一見、第一次世界大戦を彷彿とさせるロシアとウクライナの紛争は、実際には新しい時代の戦いの前触れである。空には何百万というドローンが群がり、偵察やデータ収集を行い、ターゲットを定めている。ドローンの偏在は、対抗手段としての電子戦(electronic warfare)の重要性を浮き彫りにした。その結果、自律性が高まり、人工知能を搭載した、より高度なドローンの開発が加速している。

紛争の過酷な性質とこの新興技術の致死性が相まって、控えめに見ても数十万人の死傷者を出している。しかし、北朝鮮の兵士が闘いに参加しているため、紛争が収束する様子はない。隣接していない国家が交戦国として参加することは、重大なエスカレーションであり、ヨーロッパの紛争であったものを劇的に国際化するものである。残念なことに、この火種は今や世界規模に拡大しつつある。

武器開発、情報共有、プロパガンダでロシアと連携するイランは、中東で暴力の連鎖反応を引き起こし、驚くべき速さで広がり続けている。イランは、その代理テロ集団であるハマス、ヒズボラ、フーシを利用してイスラエルを打ち負かそうとしているが、失敗に終わっている。イスラエルがガザのハマスやレバノン南部のヒズボラに対して成功を収めたことで、イランは影から顔を出し、ドローンや弾道ミサイルによる攻撃を行わざるを得なくなった。イランはまた、世界貿易を積極的に妨害し、紅海とアデン湾の米海軍資産を直接攻撃するためにフーシ派を解き放った。

ロシアもイランも、自分たちのエスカレートした行動がもたらす結果を予見していたとは思えない。最も顕著な例は、シリアの傀儡政権が衝撃的かつ急激に崩壊したことだ。バッシャール・アル=アサド政権の崩壊は、両国にとって地政学的に重大な後退ではあるが、戦略的パートナーシップは崩れていない。これは、この関係が取引的で日和見的な性質を持っているためかもしれない。

とはいえ、シリアを失ったからといって、彼らの活動の統合、特に現在進行中の軍事作戦の遂行は止まっていない。実際、ウクライナと中東の戦争は、ロシアとイランが地域の空白地帯で活動する国家というよりも、連合体のように行動することで、ますます絡み合っている。

この連合は明らかにロシアとイランにとどまらず、北朝鮮もウクライナでの戦争に加わっている。しかし、この侵略者の枢軸の最も重要なメンバーは中国である。中国は、世界の主要なアクターとして米国に取って代わろうと決意している。すでに急速に進んでいる軍事化を加速させるにせよ、先制核打撃能力を構築するにせよ、あらゆる行動はこの到達目標を推進するためのものである。

したがって、同じようなビジョン、すなわち米国主導の国際秩序の終焉を掲げる他の修正主義国家と提携するのは自然なことである。もちろん、中国、ロシア、イラン、北朝鮮の間には歴史的な意見の相違がある。しかし、それらは「米国への抵抗という共有された戦略テーマ」によって覆い隠され、この連携は「この60年間で米国の死活的な国益に対する最大の脅威」となっている。

しかし、戦争の遂行における困難は、将来を予測できなかったことよりも、むしろ過去を軽視したことから生じることが多い。だからこそ、戦争と戦いの歴史の研究がプログラムの基礎となるのである。士官候補生全員を対象とするコア・カリキュラムの科目には、共和国陸軍史、軍事術史、官職論が含まれる。

ウェスト・ポイントはまた、兵士を戦場で指揮し、政府最高レベルの文官に最高の軍事的助言を提供できる人材を育成するための継続的な取組みの一環として、戦争学専攻(War Studies major)を最近設置した。戦争学プログラムでは、士官候補生はマイケル・ハワード(Michael Howard)のフレームワークに沿って考えることができる。「戦いと作戦(Warfare and Operations)」や「戦略研究(Strategic Studies)」といった専門分野や集中分野に加え、「軍事革新(Military Innovation)」や「大戦略(Grand Strategy)」といった課程もあり、士官候補生はあらゆるレベルで戦争へのアプローチを深め、多様化することができる。

賭け金は高い。中国とロシアというユーラシア大陸における2つの革命主義的大国が主導する侵略者の枢軸が合体したことで、戦略的競争の新時代が到来した。インド、ブラジル、ナイジェリアといった影響力のある非同盟諸国が、自国の利益を促進する最善の方法を見極めようと注視しているように、この枢軸との競争の舞台は世界的なものとなっている。戦争を抑止し、戦争に至らない範囲で競争を勝ち抜くには、自由世界の同盟国や戦略的パートナーの団結が必要である。戦争の専門家である将来の将校は、この不確実な戦略環境において優位を維持するために不可欠である。

勝利への準備

戦略的競争の時代に勝利するためには、世界に関与し、国家の外交力、情報力、軍事力、経済力を強化することが必要である。わが軍の成功は、これまでと同様、指導者の資質と国民の気概によって左右される。建国以来250年もの間、「軍隊という職業(profession of arms)」に精通した将校たちが、戦争の災難と好機を乗り越えて軍を導いてきた。これらの指導者たちは、自らの経験だけでなく、過去の教訓にも依拠して、不確実な時代における決断を下してきた。

従って、戦争学をしっかりと学ぶことは、国家安全保障上の必須事項である。ピート・ヘグセス(Pete Hegseth)国防長官は2025年1月29日、部隊に宛てた覚書の中で、「国防総省(DoD)は米国民に対し、息子や娘が我々が提供できる最高の指導者の下で服務することを保証する義務がある」と記している。そのリーダーシップには、戦争を広く、深く、そして文脈的に研究することに時間を捧げてきた将校が含まれる。ウェスト・ポイントの戦争研究プログラムのようなプログラムは、将校が将来の戦争を戦い、勝つための準備をすることができる。

著者:シェーン・リーブス(Shane Reeves)准将は、米国陸軍士官学校の第15代学務部長を務めている。以前はウェスト・ポイントの法学部長を務め、武力紛争法や国家安全保障問題について幅広く執筆している。米外交問題評議会(Council on Foreign Relations)のメンバーであり、リーバー法律戦争研究所(Lieber Institute for Law and Warfare)の創設者。

表明された見解は著者のものであり、米国陸軍士官学校、陸軍省、国防総省の公式見解を反映するものではない。