軍の意思決定を生成AIで強化する (NATO C2COE)

NATO指揮・統制に関わる高等研究所(NATO C2COE)の「軍の意思決定を生成AI で強化する」題する論文を紹介する。

NATO C2COEの論文紹介では、生成AI(GenAI)について「生成AI(GenAI)は、私たちのコンテンツ作成や関わり方を急速に変革している。2022年のChatGPTリリース以降、この分野は急速に拡大し、一貫したテキストだけでなく、画像、音楽、動画、複雑なコードも生成できる高度なモデルが登場している。誤用の懸念はあるものの、情報の生成、共有、分析の方法に広く採用されている」との認識を示している。

本論文では、「生成AIが迅速かつ適応的な意思決定を可能にする重要な推進要因となり得る」とし、これにより、「OODAループと連携し、DOTMLPFIフレームワークを通じて推進要因を検証することで、NATOが高速かつ適応的な作戦環境で意思決定優位を達成・維持するのを助ける」ことになると述べている。

ここでよく目にするDOTMLPFにI(相互運用性)を加えたDOTMLPFIとし、「生成AI(GenAI)」を軍の意思決定に活用する場合、関係する軍との連携ができる必要性を上げている。(軍治)

軍の意思決定を生成AIで強化する

ENHANCING MILITARY DECISION MAKING WITH GENERATIVE AI

Major Önder Alparslan PhD, TUR AF

Supreme Allied Commander Transformation Representative in Europe

Lieutenant Colonel Rabia Saylam PhD, TUR AF

NATO Command and Control Centre of Excellence

2026.6.19

はじめに

生成AI(GenAI)は、コンテンツの制作やコンテンツとの関わり方を急速に変革しつつある。2022年のChatGPTのリリース以来、この分野は急速に拡大し、高度なモデルは首尾一貫したテキストだけでなく、画像、音楽、動画、さらには複雑なコードまでも生成できるようになった。悪用への懸念はあるものの、生成AIはあらゆる分野で広く採用されるようになり、情報の生成、共有、分析の方法に影響を与えている。

防衛・安全保障分野にとって、この変革は単なる技術的進歩にとどまらず、将来の紛争がどのように闘われ、勝利を収められるかという点における戦略的な転換を意味している。国家および非国家主体がともに作戦においてAIを活用しており[1]、米国と中国がその競争をリードしている。「戦いの知能化(intelligentization of warfare)」といったコンセプトは、中国人民解放軍(PLA)の軍事近代化の中核をなしている[2]。最近の紛争では、こうした技術が持つ作戦上の可能性が実証されている。

「スパイダーウェブ作戦(Operation Spiderweb)[3]」で見られたように、高度かつ比較的低コストのAIシステムは、より強力な相手対する複雑な作戦を支援してきた。一方、現在進行中のウクライナ戦争では、生成AI(GenAI)を活用したツールが衛星画像を分析して部隊の配置や兵站拠点(logistics hubs)の変化を検知し、人間の分析官が達成できるよりもはるかに迅速に、実用的な知見を提供している。こうした状況の進展は、NATOによる生成AI(GenAI)の活用が単なる孤立した技術的取り組みではなく、ますます複雑化する環境において作戦上の関連性を維持し、意思決定における優位性を確保するための、より広範な取り組みの一環であることを浮き彫りにしている。

こうした文脈において、「クロスドメイン・コマンド(CDC)[4]」、すなわち将来のマルチドメイン作戦における指揮・統制に関する同盟のコンセプトでは、「決心の優位性(Decision Advantage)」を、仮想・認知・物理の各次元にわたる脅威に対処しつつ、指揮官が敵対者の脆弱性が露呈するわずかな機会を最大限に活用できるようにする、情報に基づいた、より迅速かつ優れた意思決定と定義している。このような機動力と対応力を実現するには、関連性のある情報を適切な速度で処理し、洞察を生み出すことのできる新興技術を統合することが必要である。

この基礎を踏まえ、本論文では、生成AI(GenAI)が迅速かつ適応的な意思決定の重要な推進要因となり得ることを考察する。具体的には、生成AI(GenAI)の機能をOODAループ[5]と整合させ、DOTMLPFIフレームワーク[6]を通じて推進要因を検証することで、NATOがハイテンポな作戦環境において意思決定上の優位性を獲得・維持できるよう支援する。

これらの各分野は、それぞれ単独で専門的な研究やプロジェクトの基盤となり得るが、本稿では、生成AI(GenAI)がNATO内においていかにしてより優れた、かつ迅速な意思決定を支援できるかについて、明確かつ理解しやすい概要を示すとともに、あらゆるレベルの意思決定者に対する共通認識を提供し、将来的な、より的を絞った応用に向けた指針を示すものである。

生成AIの概観

「スパイダーウェブ作戦」中にドローンに攻撃され、オレニャ空軍基地で炎上したTu-95

生成AI(GenAI)とは、アルゴリズムや調整されたパラメータを用いて、既存データから学習したパターンに基づき、画像、テキスト、音声、データセットなどの新しいコンテンツを生成する機械学習モデルを指す(図1)。分類や予測に重点を置いていた従来のAIとは異なり、生成AI(GenAI)はコンテンツ生成に優れており、データの合成、シナリオのシミュレーション、そしてあらゆる分野における創造性の支援において高く評価されている[7]。近年では、比較的少ない計算能力でビッグ・データを活用できるようになり、AIが広く普及するようになった。

その発展における重要な節目としては、2014年にイアン・グッドフェロー(Ian Goodfellow)によって発明された敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Networks :GAN)1が挙げられる。これは、「生成器(generator)」ネットワークと「識別器(discriminator)」を対立させることで、驚くほどリアルな画像を生成するものだ[8]。また、2017年に「アテンション・メカニズム(attention mechanism)」を備えたトランスフォーマー・アーキテクチャ(Transformer architecture)2が開発され、自然言語処理(natural language processing)[9]に革命をもたらし、OpenAIのGPTシリーズのようなモデルの道を開いた。

※1 「敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Networks :GAN)」とは、AI自らが本物そっくりのデータ(画像や動画など)を新たに生み出すためのディープラーニング(深層学習)技術

※2 「トランスフォーマー・アーキテクチャ(Transformer architecture)」とは大規模言語モデル(LLM)で人間の言語を理解して生成するために機械学習で使用される高度なモデルのこと

本質的に、ほとんどの生成AI(GenAI)モデルは、表現学習を利用して、生の高次元データ(何千枚もの画像のピクセルなど)を、コンパクトで意味のある形式に凝縮している[10]。この学習された「潜在空間(latent space)」3により、モデルはデータの本質的な特徴を理解できるようになり、それを活用して新しい出力を生成することができる。「人間からのフィードバックを用いた強化学習(RLHF)」のような最新の手法により、これらのモデルと人間の意図との整合性がさらに向上し、信頼性と制御性が向上している[11] [12]

※3 「潜在空間(latent space)」とは、AIや機械学習が、画像・音声・テキストなどの膨大なデータを内部で圧縮し、抽象化された特徴として整理・配置する「仮想的な数値空間」

生成AI(GenAI)は、防衛・軍事分野の多くの人々にとってはまだ馴染みの薄い存在だが、意思決定、作戦効率、および即応性を向上させることで、軍事作戦に革命をもたらす大きな可能性を秘めている。世界の生成AI(GenAI)市場は、2024年の360億6000万ドルから、2030年までに3561億ドルへと成長すると予測されている[13]。米国防総省は、これらの能力を評価・導入するため[14]に生成AI(GenAI)タスク・フォース(タスク・フォース・リマ)を設立した。英国国防省は、日常業務の自動化や政策立案[15]の迅速化を目的として生成AI(GenAI)の活用を模索している。ドイツ連邦軍は、軍事用途[16]に特化した生成AI(GenAI)モデルの訓練にスーパー・コンピューティングを活用している。中国は、百度(Baidu)の「Ernie」やiFlyTekの「Spark」[17]といった大規模言語モデルを統合している。

図1:生成AIモデル

 

図2:ジョン・ボイド(John Boyd)のOODAループ

OODAループにおける生成AIの軍事的な応用可能性

軍事作戦では、プレッシャーのかかる状況下で迅速な意思決定が求められ、その判断が生死を分けることもある。生成AI(GenAI)は、戦闘における決定的な要素としてスピードと適応力を重視するために米空軍のジョン・ボイド(John Boyd)大佐が提唱した「OODAループ」の各フェーズを強化することで、この課題に直接的に対処することができる。

観察(Observe)

OODAの「観察(Observe)」フェーズでは、現状を把握するために環境データの収集と処理に重点が置かれる。偵察、ターゲットの特定、追跡は、このフェーズにおいて不可欠な要素である。生成AI(GenAI)は、状況認識を研ぎ澄ますことで、このフェーズを強化することができる。

  • データの収集と分析(Data collection and analysis):生成AI(GenAI)は、テキスト、画像、リアルタイム・フィードなど、多様なソースからのデータを、文脈を考慮した形で自動的に分析することを可能にする。オープンソースのインテリジェンス(OSINT)から機密ネットワークに至るまで、秘密区分レベルを超えたクロスドメインのデータ融合をサポートし、一貫性があり、状況に応じて適応可能な作戦状況像を提供する。例えば、生成AI(GenAI)ツールは、リアルタイムのSIGINTを分析して異常な暗号化パターンを検出し、それをOSINTと照合して敵対者の部隊の地理的位置や、インフラの変化を示す衛星画像を特定することで、最終的に包括的なインテリジェンス状況図を提供することが可能である。
  • 合成衛星画像(Synthetic satellite imagery):衛星データが限られている、あるいは利用できない場合、生成AI(GenAI)はこの不足を補うためにリアルな合成画像を生成することができる。これらは、季節的要因や人為的要因による地形の変化をシミュレートすることが可能である。例えば、生成AI(GenAI)は、数週間にわたる厚い雲に覆われて見えなくなっているターゲット地域について、高精細な合成衛星画像やドローン画像[18]を作成することができる。
  • 多言語およびパターンベースの処理(Multi-language and pattern-based processing):生成AI(GenAI)は多言語データを解釈し、暗号化された通信や隠された通信の中からパターンを検出することで、状況把握や意思決定を支援する貴重なインテリジェンスを提供する。
  • 異常検知(Anomaly detection):生成AIは、反例(counterexamples)を生成することで、偽造された画像や動画を検知し、敵対者が作成した偽造コンテンツの不整合を明らかにすることができる。敵対的な影響力作戦をターゲティングして、生成AIツールは、指揮官が通常とは異なる命令を下しているディープフェイク音声を自動的に検知したり、軍の機動に関する誤情報を拡散しているAIによって作成されたソーシャル・メディア・アカウントを特定したりすることができる。

指向(Orient)

このフェーズでは、収集したデータを解釈し、その文脈を理解して意思決定に活かすことに重点が置かれる。生成AI(GenAI)は、予測的な理解を実現することで、このフェーズを強化する。

  • 動的モデリング(Dynamic modelling):生成AI(GenAI)は、過去の作戦データ、地政学的動向、経済指標を統合することで、適応性の高い戦略の策定を支援する。これにより、指揮官は、環境や技術の変化が作戦にどのような影響を与えるかをシミュレーションし、敵の行動を予測し、同盟関係の変化を評価することが可能になる。指揮官は、考えられる行動方針(COA)についてウォーゲームを行うことができ、それによって計画に潜む予期せぬ脆弱性を明らかにすることができる。
  • 仮想偵察(Virtual reconnaissance):生成AI(GenAI)は、都市戦や砂漠戦など、多様な条件下で偵察チームを訓練するためのシミュレーション環境を構築する。これには、実世界のデータや専門家の知見に基づいた、変化する地形や敵の戦術のシミュレーションが含まれる。米陸軍の「合成訓練環境機能横断チーム(STE CFT)」はその一例であり、視覚拡張ツールを用いた仮想戦闘訓練を提供している[19]。同様のツールは、チームが過酷な環境下での訓練を行うためのプラットフォームを提供しており、AIは北極圏の気象パターンに基づいて突発的な吹雪を発生させ、同時に視界不良を突くよう敵の戦術を調整することも可能である。
  • 最適化された整備と兵站(Optimized maintenance and logistics):生成AI(GenAI)は、装備の使用状況を分析し、故障シナリオをシミュレーションすることで整備ニーズを予測し、任務の即応性(mission readiness)を向上させる。F-35の機群から得られるリアルタイムの性能データ、センサーの測定値、さらにはパイロットの報告までを分析することで、生成AI(GenAI)モデルは、特定の航空機のエンジン部品が今後20飛行時間以内に故障する可能性が高いと予測することができる。こうしたシステムの有効性は、米空軍のCBM+(Condition-Based Maintenance Plus)イニシアチブにおけるコスト削減と即応性の向上によって実証された[20]

決心(Decide)

このフェーズでは、事前に収集・分析した情報に基づいて、最適な行動方針を選定する。生成AI(GenAI)は、意思決定のスピードと質を向上させるための戦略、行動方針(COA)、および戦術的な提言を生成することで、このプロセスを支援する。

  • 創造的な問題解決(Creative problem solving):生成AI(GenAI)は、従来のアプローチを超えた革新的な選択肢を提案することができる。指揮官は、兵站拠点の重大な損失を受けて、生成AI(GenAI)に復元性あるサプライ・チェーンの解決策を考案するようタスクを指示することができる。AIは、断片的なセンサー・データ、現地の民間輸送能力、過去の交易路などを分析し、季節的な河川網を活用した「はしけ輸送(barge transport)」や、商業漁船の転用といった型破りな輸送方法を提案したり、さらには現場での修理のための移動式積層造形ユニットの導入を提案したりするかもしれない。
  • スピードと効率性(Speed and efficiency):時間的制約のある危機的状況において、人間の参謀は数時間で2~3つの実行可能な行動方針(COA)を策定する程度にとどまるかもしれない。一方、生成AI(GenAI)は膨大なデータセットを迅速に処理し、人間の分析官なら数時間を要する洞察を導き出すことができる。数分以内に十数もの異なる行動方針(COA)を迅速に生成し、それぞれに初期のリソース見積もり、包括的なリスク評価、成功確率を盛り込むことができる。この機能は、指揮官が検討すべき選択肢を大幅に充実させ、重要な判断に取って代わるのではなく、意思決定サイクル(decision-making cycle)を劇的に加速させる。
  • リスク評価(Risk assessment):生成AI(GenAI)はさまざまな戦略をシミュレーションし、その脆弱性を特定する。これらの評価はリアルタイムで更新されるため、指揮官は状況の変化に対応し、リスクの低い行動を選択することができる。

行動(Act)

このフェーズでは、決定事項が実行に移される。生成AI(GenAI)は、シミュレーション、適応、状況に応じた対応を通じて、このプロセスを支援する。生成AI(GenAI)は、現場の状況が変化しても、計画が常に適切であり続けるよう支援することができる。

  • リアルタイムのパフォーマンス評価(Real-time Performance Assessment):作戦の遂行中、生成AI(GenAI)は、望ましい成果が達成されているかどうか、またどの程度達成されているかのパフォーマンスを継続的に測定する。この機能により、指揮官は計画が及ぼす影響について、データに基づいたリアルタイムの把握が可能となり、作戦の展開に合わせて迅速かつ的確な調整を行うことができる。
  • 実行支援(Execution support):生成AI(GenAI)は、実行前に計画をシミュレーションすることができ、指揮官が潜在的な失敗要因を特定し、リアルタイムで調整を行うことを可能にする。また、状況の変化に応じて緊急時対応計画を策定することもでき、作戦が戦略目標に沿ったものとなるよう支援する。
  • 適応的な行動(Adaptive actions):生成AI(GenAI)は、敵対者の振舞い、リソースの可用性、環境の変化に応じて計画を調整するのに役立つ。兵站ルートの変更、重要拠点の強化、あるいは敵の弱点の活用などを提案する場合がある。リアルタイムのデータを分析することで、リソースの再配分を支援し、危険な地形での移動や通信障害といったリスクを軽減する。

DARPAのOFFSETプログラム(都市部におけるドローン・スウォームの誘導[21])に携わる人間のオペレーターは、スウォームに対して「エリア・ブラボーから不発弾を排除・除去し、地上部隊のための安全地帯をマッピングせよ」といった簡単な命令を出すかもしれない。この指示を受けると、生成AI(GenAI)は即座に、不発弾の検出および除去に関する包括的な計画を生成するだろう。

これには、磁力計、地中探査レーダー、高解像度カメラを搭載した専用ドローンを投入し、エリア・ブラボー全域で最適な捜索パターンを実行することが含まれる。また、AIは地形の複雑さや、過去の紛争地域に関する既知のインテリジェンスも考慮に入れ、捜索区域の優先順位を決定する。

  • ターゲットを絞ったサイバー作戦および心理作戦(Targeted Cyber and Psychological Operations):生成AI(GenAI)は、心理作戦向けに極めて具体的なメッセージを作成し、偽造物の検出を支援することができる[22]。敵対者の文化的・情報的背景の分析を活用することで、生成AI(GenAI)は、敵陣内の不満を煽ったり士気を低下させたりするようにデザインされた、きめ細やかなビラ、ラジオ放送、あるいはソーシャル・メディアのコンテンツを生成することができ、汎用的なメッセージよりもはるかに高い効果を発揮する。

DOTMLPFIのフレームワーク

米国国防総省が開発し、NATOが採用したDOTMLPFIフレームワークは、新たな軍事能力を評価・統合するための体系的なアプローチを提供する。自律システムなどの新技術の導入は、すでにこのようなフレームワークがいかに有用であるかを示している。HodickyとProchazkaが論じているように[23]、DOTMLPFIは、訓練や相互運用性を含む複数の相互依存的な要因を考慮することで、協調的な導入を可能にする。本節では、即応性を強化し、脅威に先手を打つために、DOTMLPFIフレームワーク全体にわたって生成AI(GenAI)の導入について評価を行う。

  • ドクトリン(Doctrine:生成AI(GenAI)の可能性を軍事ドクトリンに組み込むには、実験と実戦運用からの教訓が必要である。これには、作戦において生成AI(GenAI)をどのように活用すべきかを明確にする倫理指針や交戦規則も含まれる。例えば、生成AI(GenAI)システムが敵のアセットの予測される移動に基づいて、時間的制約のある攻撃を推奨した場合、軍事ドクトリンでは、指揮官が国際法上の比例性および説明責任の原則を遵守しつつ、そのような推奨事項をどのように検証すべきかを定義しなければならない。
  • 組織(Organization:新たな組織体制の構築が必要となる。これには、各軍種内にAIおよびデータ・サイエンスの専門部署を設置し、実験の管理・推進を行うとともに、インテリジェンス、兵站、サイバーなどを含む、生成AI(GenAI)主導・支援型の作戦活動を改善することが含まれる可能性がある。さらに、データ・サイエンティストと指揮官が連携して業務を進めるためには、分野横断的な協力が不可欠である。
  • 訓練(Training:あらゆるレベルの要員に対し、生成AI(GenAI)の活用に関する教育を行う必要がある。その際、特に「プロンプト・エンジニアリング(prompt engineering」と呼ばれる、有意義な質問の立て方や、システムの出力結果の評価方法に重点を置くべきである。シミュレーション環境を活用することで、意思決定における人間とAIの相互作用を改善することができる。
  • 装備(Materiel:調達には、リアルタイムのデータ分析と意思決定支援を可能にするため、生成AI(GenAI)を活用した意思決定ツールおよび必要なハードウェア(指揮センターと展開先の双方で運用可能な信頼性の高いコンピューティング・システムを含む)を含める必要がある。自律型協調プラットフォームは、次世代の軍事装備の一部であり、さまざまな環境下で効果的に運用できる、モジュール式で更新可能なシステムが求められる。
  • リーダーシップ(Leadership:リーダーは、システムの出力をいつ頼りにし、いつ自らの判断を適用すべきかを理解した上で、生成AI(GenAI)ツールを、責任を持って活用する準備を整えておく必要がある。また、システムの出力を疑問視することが容認されるような指揮文化を醸成すべきである。この移行を支えるためには、ツールそのものだけでなく、意思決定チームの一員として人と機械が協働することによる付加価値に対しても、理解と信頼を深めることが不可欠である。
  • 要員(Personnel:生成AI(GenAI)はチームの運営方法に影響を与え、人と技術の連携に重点を置くことが求められるようになるでしょう。こうしたツールの普及に伴い、役割は変化する可能性があり、スタッフが必要なスキルを身につけられるよう、研修が必要となるでしょう。データ分析などの新たなキャリア分野が登場する見込みである。インテリジェンス分析官や計画担当者といった従来の役割は、データ収集から、生成AI(GenAI)システムと連携して業務を行う方向へと移行する可能性がある。
  • 施設(Facilities:生成AI(GenAI)を支えるには、標準的なデータ・センターだけでは不十分である。運用上の要求を満たすことのできるテスト環境や高性能コンピューティング・システムを含む、安全で分散型のインフラストラクチャが必要である。こうした「デジタルの要塞(digital fortresses」は、サイバー脅威や物理的な障害の両方から、機密データやシステムを保護しなければならない。
  • 相互運用性(Interoperability:生成AI(GenAI)システムは、既存の技術と互換性があり、さまざまな軍種や連合パートナーと連携して運用できる必要がある。そのためには、統合作戦に向けた共通の標準やプロトコルが求められる。例えば、航空部隊が画像分析に使用するシステムは、手動での形式変換を必要とせずに、ターゲティング・データを陸軍の火力ネットワークや海軍の指揮・統制システムに直接提供できるべきである。

生成AI(GenAI)の課題

生成AI(GenAI)には大きな優位性がある一方で、軍事組織が慎重に対処しなければならない重大な倫理的・セキュリティ上のリスクも伴う。

倫理的配慮(Ethical Considerations:生成AI(GenAI)の出力は、たとえ誤りや偏りがあったとしても、非常に説得力があるように見えることがある。訓練データから引き継がれたこうした偏りは、差別的な結果につながる可能性がある。例えば、生成AI(GenAI)を活用した監視システムが個人を誤って特定し、プライバシーの侵害や運用上のミスを引き起こす可能性がある。また、ディープフェイクの生成や誤情報の拡散に悪用される恐れもある[24]。安全対策のフィルターは存在するが、慎重に作成されたプロンプトによってそれらを迂回され、有害な出力が生成される可能性がある。このような悪用は、信頼を損ない、評判を傷つけ、あるいは法的措置を招く恐れがある。

責任(Responsibility:説明責任は依然として課題となっている。生成AI(GenAI)を活用したシステムが、巻き添え被害などの意図しない被害を引き起こした場合、その責任が誰にあるのかは不明確である。開発者か?それを運用する軍事部隊か?それとも操作者か?多くのモデルが持つ「ブラック・ボックス」的な本質が、追跡可能性を複雑にしている。軍事用途においては、国際法への遵守に関する懸念も生じている。AIによって生成された戦略が、意図せず法的または倫理的な規範に違反する可能性がある。不完全なデータや不透明な論理による誤判断が、意図しない民間人への被害を招く恐れがある。

しかし、こうした課題は克服可能である。厳選された高品質な学習データを使用することで、バイアスを低減できる。規模が小さく、微調整されたモデルの方が、信頼性が高くなる場合がある。出力を検証するためには、依然として人間の監督が不可欠である。役割と責任は明確に定義されるべきである。説明可能なAI(XAI)ツールは、AIの意思決定をより理解しやすくすることで、透明性を高める。制御されたテスト環境は、生成AI(GenAI)システムを本番導入前に評価するのに役立つ。規制のフレームワークも整備されつつある。EUのAI法や米国のNISTガイドラインは、倫理的および技術的な基準の確立を目指している。軍事機関は、最新情報を把握し、それに応じて適応していかなければならない。

セキュリティ上の懸念(Security Concerns:生成AI(GenAI)は、偽情報や心理作戦に利用され得る、現実味のある偽のコンテンツ(画像、動画、文書など)を迅速に作成することを可能にする。ディープフェイクは、2022年に流出した、ゼレンスキー(Zelenskyy)大統領が降伏しているように見える偽の動画のように、軍事指導者が虚偽の発言をしている様子を模倣し、作戦を混乱させ、士気を低下させる恐れがある。国家および非国家主体は、すでにこうしたツールの実験を行っている。敵対者は、衛星画像、戦況報告、あるいはセンサー・データを捏造する可能性がある。

こうした入力が軍事システムに組み込まれると、誤った判断を招く恐れがある。また、生成AI(GenAI)は自律システムに対する敵対的攻撃を助長する可能性もある。例えば、視覚的なパッチによって、ドローンが味方部隊を誤って識別してしまうようなケースが考えられる。データ・ポイズニングもまた脅威の一つであり、微妙に改ざんされたデータで学習したAIシステムが、燃料消費量などの兵站情報を誤って計算してしまう恐れがある[25] [26]

こうしたリスクを軽減するためには、ディープフェイク検出ツール、メタデータ分析、逆画像検索といったAIを活用した検出ツールを導入すべきである。暗号技術やブロック・チェーンは、データの真正性を検証するのに役立つ。また、AIシステムは、敵対的操作(adversarial manipulation)を検知し、それに耐えられるよう学習させる必要がある。

ゼレンスキー大統領のディープフェイク動画の静止画(2022年)、YouTube

結論と提言

生成AI(GenAI)は、軍事作戦における適応力、効率性、意思決定を向上させるための重要なツールとなりつつある。本稿では、生成AI(GenAI)がOODA(Observe、Orient、Decide、Act)ループの各フェーズをどのように支援するか、例えば偵察能力の向上、意思決定の強化、資源配分の最適化などについて考察した。

DOTMLPFIフレームワークは、作戦上の即応性(operational readiness)を最大化するために、ドクトリン、組織、訓練、装備、リーダーシップ・教育、要員、施設、相互運用性の各分野にわたって生成AI(GenAI)を効果的に統合することを可能にする手段として提示された。ここでいう「作戦準備態勢」とは、動的かつ複雑な環境において、軍隊が迅速に適応し、展開し、任務の有効性を維持し続ける能力を指す。また、このフレームワークの利用にあたっては、バイアス、誤情報、信頼性に関する懸念に対処するため、慎重な監督が必要であるという点も考慮している。

ユーロ・アトランティック地域は平穏な状況にはなく、NATOの戦略的競争者や潜在的な敵対者の行動が、我々の利益と安全保障を脅かしている。機敏かつ迅速な対応の必要性が高まる中、NATOは自国の領土を効果的に抑止・防衛するために、生成AI(GenAI)を活用しなければならない。意思決定に生成AI(GenAI)を活用することは、技術的に難しいからという理由ではなく、決して容易なプロセスではない。

必要なのは、意識の変革と責任の分担である。これを効果的に機能させるためには、コンセプトやドクトリンを策定し、ウォーゲームや演習を通じて検証を行う必要がある。指揮官は、このシステムに対して批判的な視点で向き合い、明確な情報を提供しなければならない。ドクトリンや手順は生成AI(GenAI)ツールをいつ、どのように使用すべきかについての明確な指針を盛り込むよう進化させ、人間の判断、倫理的意識、状況理解の重要性を強調すべきである。最終的には、意思決定者がこの急速に進化する技術の恩恵を安心して享受できるようにならなければならない。

ノート

[1] SAS Institute and Coleman Parkes., ‘Generative AI Race: Who’s Leading in Experimentation, Adoption, and Implementation?, [website], 2025, https://advansappz.com/generative-ai-race-whos-leading-in-experimentation-adoption-and-implementation, (accessed 1 July 2025).

[2] Kania, E. B. (2021). Artificial intelligence in China’s revolution in military affairs. Journal of Strategic Studies, 44(4), 515–542. https://doi.org/10.1080/01402390.2021.1894136 (accessed 14 October 2025).

[3] Strategic Studies Department, ‘Significance and Implications of Ukraine’s Operation Spiderweb, Necesse, [website], 2025, https://trendsgroup.org/insight/significance-and-implications-of-ukraines-operation-spiderweb/?srsltid=AfmBOorZvDvSpDxzoPEwpsyETBrZvJtH_L3uoSRIiM37O0sjxdrfWPHw, (accessed 30 June 2025).

[4] North Atlantic Treaty Organization. (2025, May). Alliance concept for cross-domain command (SH/PLANS/SDF/RC/25-TT 101283/ACT/CAPDEV/OC2/TT-0552/SER:NU:294) [Unpublished manuscript] (accessed 14 October 2025).

[5] Richards, C., ‘Boyd’s OODA Loop’, Necesse, [website], 2020, https://ooda.de/media/chet_richards_-_boyds_ooda_loop.pdf, (accessed 1 January 2025).

[6] NATO, ‘Acronyms & Definitions’, NATO Encyclopedia, [website], 2019, https://www.nato.int/nato_ static_fl2014/assets/pdf/2020/1/pdf/2019-nato-encyclopedia-eng.pdf, (accessed 3 March 2025).

[7] Raffel, C., et al., ‘Exploring the Limits of Transfer Learning with a Unified Text-to-Text Transformer’, Journal of Machine Learning Research, [website], vol. 21, no. 140, 2020, https://jmlr.org/papers/v21/20-074.html, (accessed 8 January 2025).

[8] Huang, H., Yu, T., Wang, X., and Wu, S., ‘Generative AI for Data Synthesis in Defense and Logistics Applications’, Defense Technology Journal, [website], vol. 28, no. 3, pp. 67–79, 2022, https://www.researchgate.net/publication/384392297_Generative_AI_for_enhanced_operations_and_supply_chain_management, (accessed 3 March 2025).

[9] Wang, Z., Qiu, K., and Zhang, Y., ‘Cybersecurity Simulation Using Generative AI Models’, IEEE Transactions on Information Forensics and Security, [website], vol. 16, pp. 2341–2352, 2021, https://www.researchgate.net/publication/391916514_USING_GENERATIVE_AI_FOR_SIMULATING_CYBER_SECURITY_ATTACKS_AND_DEFENSE_MECHANISMS_A_NEW_APPROACH_TO_AI-DRIVEN_CYBER_THREAT_MODELING, (accessed 8 January 2025).

[10] Vaswani, A., et al., ‘Attention Is All You Need’, Advances in Neural Information Processing Systems, [website], vol. 30, 2017,  https://papers.nips.cc/paper_files/paper/2017/hash/3f5ee243547dee91fbd053c1c4a845aa-Abstract.html,  (accessed 8 January 2025).

[11] NATO, ‘Acronyms & Definitions’, NATO Encyclopedia, [website], 2019, https://www.nato.int/nato_ static_fl2014/assets/pdf/2020/1/pdf/2019-nato-encyclopedia-eng.pdf, (accessed 3 March 2025).

[12] Raffel, C., et al., ‘Exploring the Limits of Transfer Learning with a Unified Text-to-Text Transformer’, Journal of Machine Learning Research, [website], vol. 21, no. 140, 2020, https://jmlr.org/papers/v21/20-074.html, (accessed 8 January 2025).

[13] Statista, ‘Artificial Intelligence – Generative AI Worldwide’, [website], https://www.statista.com/outlook/tmo/artificial-intelligence/generative-ai/worldwide, (accessed 8 January 2025).

[14] US Department of Defense, ‘DoD Announces Establishment of Generative AI Task Force’, [website], 2024, https://www.defense.gov/News/Releases/Release/Article/3489803/dod-announces-establishment-of-generative-ai-task-force/, (accessed 3 March 2025).

[15] PublicTechnology.net, ‘Greater Mass, Persistence, and Reach: MoD Explores Military AI’, [website], 10 December 2024, https://www.publictechnology.net/2024/12/10/defence-and-security/greater-mass-persistence-and-reach-mod-explores-military-ai/, (accessed 8 January 2025).

[16] TheNota.com, ‘Revolutionizing AI for the German Armed Forces’, [website], 15 May 2024, https://thenota.com/post/2024/may/15/revolutionizing-ai-for-the-german-armed-forces/, (accessed 8 January 2025).

[17] McFadden, C., ‘China Train AI-General to Predict “Enemy Humans” on the Battlefield’, Interesting Engineering, [website], https://interestingengineering.com/military/china-training-ai-predict-humans, (accessed 8 January 2025).

[18] arXiv, ‘Paper ID: 2404.07754’, [website], https://ar5iv.org/html/2404.07754, (accessed 8 January 2025).

[19] US Army, ‘Synthetic Training Environment Offers Multi-Dimensional Combat Preparation’, [website], https://www.army.mil/article/254005/synthetic_training_environment_offers_multi_dimensional_combat_preparation, (accessed 3 January 2025).

[20] US Department of Defense, ‘Condition Based Maintenance Plus (CBM+)’, [website], https://www.acq.osd.mil/log/MR/cbm+.html, (accessed 3 January 2025).

[21] DARPA, ‘Offensive Swarm-Enabled Tactics (OFFSET)’, [website], https://www.darpa.mil/research/programs/offensive-swarm-enabled-tactics, (accessed 3 March 2025).

[22] arXiv, ‘Paper ID: 2209.08984’, [website], https://arxiv.org/abs/2209.08984, (accessed 1 January 2025).

[23] Hodicky, J., and Prochazka, D., ‘Modelling and Simulation Paradigms to Support Autonomous System Operationalization’, in Mazal, J., Fagiolini, A., and Vasik, P. (eds), Modelling and Simulation for Autonomous Systems, Lecture Notes in Computer Science, vol. 11995, Springer, Cham, 2020, https://doi.org/10.1007/978-3-030-43890-6_29, (accessed 10 March 2025).

[24] Chesney, R. & Citron, D., ‘Deep Fakes: A Looming Challenge for Privacy, Democracy, and National Security’, [website], https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3213954, (accessed 12 January 2025).

[25] Teo, Z.L., Quek, C.W.N., Wong, J.L.Y., and Ting, D.S.W., ‘Cybersecurity in the Generative Artificial Intelligence Era’, Asia Pacific Journal of Ophthalmology, vol. 13, no. 4, July–August 2024, Article 100091, doi:10.1016/j.apjo.2024.100091, (accessed 8 January 2025).

[26] UK Government, ‘Safety and Security Risks of Generative Artificial Intelligence to 2025: Annex B’, Frontier AI Capabilities and Risks – Discussion Paper, [website], 2025, https://www.gov.uk/government/publications/frontier-ai-capabilities-and-risks-discussion-paper/safety-and-security-risks-of-generative-artificial-intelligence-to-2025-annex-b, (accessed 30 June 2025).