COVID-19のパンデミックによるドイツの国防費への影響は?

掲載:2020年4月9日
作成:フォーキャストインターナショナル(FI)社
投稿:Daniel Darling FI社アナリスト
(この論評は米国人のアナリストが米国内に向けて出したブログです)

How Will Germany’s Defense Spending be Affected by the COVID-19 Pandemic?
April 9, 2020 – by Daniel Darling

世界的な新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックにより、政府は病気の蔓延を緩和するために避難と隔離命令の実施を余儀なくされ、世界経済はほぼ完全な凍結状態に直面している。

4月7日の時点で、ドイツで確認されたCOVID-19の症例数は10万7千人に達し、保健省は週に30万人以上を検査しており、つまり、減少傾向にある場合でも、総数は増加し続けている。
にもかかわらず、ロックダウンが終了すると徐々に国を再開するための措置が政府によってすでに計画されている(現在4月19日に設定)が、日付と目標は現場の事実とともに変化する可能性がある。
ドイツのような輸出志向型経済の場合、実施されている必要な対策の波及効果は、深刻な景気後退に陥る可能性が高まっている。

ドイツの経済はすでに2019年末までに鈍化していたが、第1四半期の3月末(パンデミックがヨーロッパですでに定着していた時点)までの数値は、一部のエコノミストが深刻な景気後退になると予測し始めていた。
ドイツの経済は今年の第1四半期に1.9%縮小し、第2四半期から6月までの予測では最大10%の深刻な縮小となった。
正確には、後者の数値は、世界的な金融危機が本格化した2009年の第1四半期の業績の2倍にのぼるとみられる。

ドイツの5つの主要な経済研究所の研究者たちは、国民経済が年間4.2%減少すると予想している。
ドイツのエンジニアリング会社のサプライチェーンの混乱は引き続き高まっている。
これがどのように継続して進行するかは不明だが、短期的には、全住民と経済の大部分をロックダウンに置いても限られた、又は深刻な痛みをもたらさないかどうかを知ることは難しい。

国家経済と住民への短期的な打撃と戦うために、ドイツ政府は非金融会社と個人の家計を支援することを目的とした7500億ユーロ(8150億ドル)の刺激策を展開する準備をしている。
これを行うためにベルリンは憲法上の均衡予算規則、つまりシュルデンブレンセ(注:ドイツ語「債務ブレーキと呼ばれる予算修正」)又は、連邦政府がGDPの0.35%を超える構造的赤字を実行することを制限する債務ブレーキを一時停止した。

また、一部の良いニュースは:ドイツの主要な貸し手であるドイツ銀行AG(注:AGはAktiengesellschaft(株式会社)の略)とコメルツ銀行AGは十分な資産を有し、会計帳簿上でのリスクは限定的である。
そして、今年の深刻な不況を予測している同様の研究者達は、パンデミックが通過すると2021年に最大5.8パーセントの成長の強い反発を見込んでいる(当然、政府に管理措置と作業停止を再度課すことを強いる感染の第2波への警戒に準備することとしている)。
COVID-19の大発生と国の経済のほとんどを閉鎖することに対するドイツ政府の対応の中で、ドイツの国防体制へのその後の影響に関する問題は、依然見通しが付かないままである。

政府は、短期および中期の赤字圧力を緩和するために将来の支出予測から資金を削減することを選択するだろうか?
もしそうなら、どの主要な防衛プログラムが影響を受けるだろうか?
ドイツ連邦軍(ドイツ軍)の人員面で低下したフォースストラクチャを再建するための取り組みについてはどうだろうか?
防衛予算の削減により受注が減少した場合、ドイツの重要な防衛産業の先行きはどうだろうか?

これらは、ドイツとEU-NATO同盟国がCOVID-19パンデミックへの対応として、ヨーロッパ大陸全体での経済的および社会的救済に重点を置いているときに、不可避の重要事項である。
答えはとらえどころのないものだが、過去が始まりである場合、防衛は救済のためにひねり出される最初の政府の領域の1つになるものだ。

前回のヨーロッパでのこのような急激な景気後退は、防衛予算の削減、軍隊のダウンサイジング及び戦闘能力の向上の抑制をもたらした。
最終的な結果は、EU-NATO領域全体で、国ごとにより能力の低い軍事コンポーネントとしたことであった。

ドイツは確かにこの点で例外ではなく、マイナスの影響は今日まで残っている。
これまでよりも小さく、地域外の任務を遂行するための装備が不十分で-基本的な必需品(弾薬、暗視ゴーグル、実用的自動小銃)が不足しているため-自然な領土防衛の役割を果たすために、ドイツ連邦軍は、まだ2010年の主要な軍隊の再構築に続いてその基礎を回復しようとしているところである。

NATOでの重要な役割を果たさなかったとして、現在の米国政府からすでに非難を受けており、軍事投資とドイツ連邦軍の戦闘力とその対応能力をさらに大幅に削減することは、大統領執務室の住人に関係なく、大西洋を越えた関係に悪影響を及ぼす前兆となるだろう。
また、EU内でより高いレベルの戦略的自律を生み出す試みを遅らせるだけでなく、コンソーシアムや主要な防衛プライムの間でトップエンドのコストを押し上げる一方で、防衛産業チェーン内の下層企業を痛めつけることになる。

近年、ドイツのアンジェラ・メルケル首相は、ヨーロッパのパートナーと協力して行動し、EUの安全保障を引き継ぐために、国の軍事力を強化する必要があることをドイツの大衆に説得しようと努めてきた。
彼女と歴代の国防相(ウルスラ・フォン・デア・ライエン元国防相、現在は欧州委員会の委員長。現在の大臣であるアンネグレート・クランプ-カレンバウアー)は、国防予算の増額を訴えた。

最近の国防予算への割り当て総額は大幅に改善され、ドイツの国防予算は2019年に前年比で10%以上増加したが、現在の懸念は、着実な成長が突然(そしておそらく持続的に)停止するかどうかだ。
常に政府の優先事項の最下層にあるドイツ連邦国防省は、幸運なことに2020年から2021年までの期間に一定の財政支出となる予定である。

NATO同盟国の最低基準であるGDPの2%を達成するのではなく、長期的な財政赤字削減の取り組みにより、国防予算を2025年までにGDPの1.5%に引き上げるという政府の以前の目標を妨げるのは確実だ。
クランプ-カレンバウアーは、ドイツが2031年までに2%の基準に到達することを昨年末に提案した。この目標は現在、地平線上をさらに遠ざかる移動目標(時間と共に変わり彼方に消えてしまう)のようなものと考える必要がある。

ドイツにとって、軍国主義的であると認められるものに対する定着した懐疑的な考えのために、防衛への長期的なコミットメントは精査の対象となる。
アンゲラ・メルケル政権下の現在の連立政権の半分を形成する社会民主党は、COVID-19の大発生の前に、防衛のための追加資金の大規模な注入の要求にすでに反対していた。

短期間の国防費支出の横ばいが最も好ましい結果かもしれない。
しかし、より鋭い削減は、ドイツ連邦軍の軍事的即応態勢が進行中の問題として残っているときに、主要なプロジェクトを妨げることとなるだろう。

国防予算の増加を1年または2年停止すると、間違いなく短期的に犠牲が生じることになるが、国防省は2017年から2019年にかけて年平均7%増加した資金を緩和するためのさらなる時間を確保できる。
国防予算の水準が安定すれば、国防省は適切な調達スタッフを継続して採用および訓練できるようになり、壊れた防衛装備のサプライチェーンを着実に再構築できる。
決して好ましい選択肢ではないが、資本増強プロジェクトは、現在経験している生産上の問題を管理しながら、業界のワークフローの活気を続けるために、より長い納期にスケールダウンまたは拡大する場合がある。

冷戦終了後の多くのヨーロッパNATO諸国と同様に、景気後退と国防予算削減の間にラグタイムはほとんどない。今回は異なる見込みだ。
防衛のための一定の資金調達レベルは依然として課題をもたらすが、今のところそれはドイツの国防機関が求めることができる最良の結果であるかも知れない。(黒豆芝)