ウクライナの効果に基づく精密誘導弾打撃: その意味するもの Forbes
ウクライナ保安庁が公表した6月1日の「クモの巣作戦」について、戦略国際問題研究所の記事「ウクライナの「スパイダー・ウェブ作戦」は非対称戦争をどのように再定義するのか CSIS」を紹介した。この作戦をウクライナがロシアに対する航空優勢獲得の一つの手段として捉えられるのではとの観点から、米空軍退役中将であるデビッド・A・デプチュラ氏の論稿を「航空優勢の重要性:ウクライナ・ロシア戦争 (MITCHELL INSTITUTE)」も併せて紹介したところである。今回は、同じくデビッド・A・デプチュラ氏が「クモの巣作戦」を米国の本土防衛に関係する戦略的な課題として捉えた記事を紹介する。今回、ロシアで起きたことは過去には考えられないことだったかもしれないが決して他人事ではないとの警鐘とも受け取れるものである。(軍治)
ウクライナの効果に基づく精密誘導弾打撃: その意味するもの
Ukraine’s Effects-Based Precision Guided Munition Strikes: Implications
By David A. Deptula,
Jun 12, 2025
デビッド・A・デプチュラ(David A. Deptula)は退役空軍3つ星将官。ミッチェル航空宇宙研究所の学長であり、米空軍士官学校の上級研究員。著書『航空戦力の先駆者達: ビリー・ミッチェルからデイブ・デプトゥーラまで』に登場する世界屈指の空軍専門家。戦闘機パイロットとして3,000時間以上の飛行時間(戦闘経験は400時間)を誇り、砂漠の嵐作戦の主席攻撃計画官、イラク、アフガニスタン、南アジア津波救援活動、太平洋軍の航空作戦司令官などを34年以上務めた。
![]() ロシアの爆撃機を攻撃するウクライナのドローン ウクライナ保安庁(USS) |
ビッグ・ロックス(Big Rocks:解決しなければならない厳しい課題)
2025年6月1日、ウクライナはロシア領内の奥深くを含む4つのロシア空軍基地に対して、大胆かつ革新的な一連の攻撃をした。今では世界中が知っているように、彼らは小型爆薬で武装した安価なクアッドコプター型の精密誘導弾を使用した。「スパイダー・ウェブ作戦(Operation Spider Web)」と名付けられたこの作戦は、ロシアの貴重な戦闘機を破壊しただけでなく、その深い戦略的意味合いでも注目された。これらの攻撃は、非従来型の方法で望ましい戦略的成果を達成するために革新的な手段を採用することで、作戦への効果に基づくアプローチを例証した。これらの行動を通じて、ウクライナはロシア軍よりも賢く闘っていることを示し、ロシアの消耗に基づく戦闘アプローチを打ち破る潜在的な戦略を浮き彫りにした。
あらゆる大規模軍事戦役の中核となるのは、航空優勢(air superiority)、すなわち制空権(control of the airspace)の獲得と維持、すなわち攻撃からの自由を確保しつつ最適な攻撃作戦を可能にするという有益な目標である。対空作戦、特に地上の敵航空機をターゲットとした攻勢的な対空任務は、この到達目標を達成するために極めて重要である。こうした任務は伝統的に、戦闘機、爆撃機、敵防空の制圧(SEAD)、そして空中給油機からなる打撃パッケージによる協調的な取組みを伴い、防御された空域に侵入し、敵の指揮・統制、通信、航空機、空軍基地、そして関連する兵站支援を無力化する。
ウクライナは長距離爆撃機を欠き、少数の最新鋭戦闘機しか持たず、空中給油機もなく、最小限の敵防空制圧(SEAD)能力、長距離ミサイルの在庫も限られていたため、攻勢的な対空効果を達成するために非伝統的な方法を適用した。その結果、地上の複数のロシア爆撃機を破壊または損傷させ、ウクライナに対するロシアの攻勢能力の容量を低下させた。
ほとんどの分析は、スパイダー・ウェブ作戦を特殊作戦の急襲(special operations raid)と表現している。効果に基づく戦略(effects-based strategy)の実施は、そのアプローチを超える。この種の戦略は、すべての作戦ドメインにわたって適用でき、すべての軍種の構成部隊が運用できる。この方法論は、相手の疲弊を達成するための消耗に頼った伝統的な戦力対戦力のドクトリンを超えて、敵に有効な代替行動を取り入れることを狙いとしている。直線的に敵との闘いに代わって、レバレッジを効かせたパンチを連打し、大きな衝撃を与えることが目標である。このアプローチは、ウクライナがロシアに対して目標を達成するための最良のチャンスとなる。
ロシアの戦略は、軍隊、砲兵、その他の用兵装備における数の優位性を活用して、長期にわたる消耗の戦争に勝利することにかかっている。ウクライナは、6月1日の攻撃に見られるように、軍事作戦をより効果的に実行しなければならない。ウクライナはこのアプローチを、対空目標だけでなく、ロシアの重要な重心全体に拡大すべきである。効果に基づく戦略(effects-based strategy)とは、敵対者の振舞いを変化させ、最終的にウクライナの全体的な軍事的・政治的目標を支援する望ましい結果を達成することを狙いとした、代替的な行動方針の特定と計画策定である。
これらの攻撃は戦術的な成功にとどまらず、非対称的なイノベーションが武力に代わる手段としていかに機能するかを示し、より広範な戦略的枠組みを提供している。ウクライナは、大規模な直接対決ではなく、特定の結果に焦点を当てることで、勝利への現実的な道を示している。原則は明確である。戦いにおいては、戦略的洞察力と作戦上の革新性が、単なる数的優位性だけよりも決定的な役割を果たす可能性がある。
ウクライナが対ロシア戦略の基本としてこのアプローチを採用するかどうかはまだわからないが、そうすれば成功の可能性は高まるだろう。米国とウクライナの西側同盟国がウクライナ軍に装備を与え、ウクライナの成功を促進するのと同様である。その結果は、米国の重要な国家安全保障目標の確保に直結する。
対空脆弱性以上のもの
スパイダー・ウェブ作戦を評価するコメンテーターは、主に航空機の脆弱性に注目している。しかし、安価で小型かつ多数の精密誘導弾(致死性のドローン)を使用した、歩兵、戦車、船舶、兵站、発電所、その他のターゲットに対する最近の攻撃が持つ意味は大きい。これらの小型無人航空機が戦いの性質を変えたことは否定できない。この現実を有効活用するには、正確な評価とその影響についての現実的な理解が不可欠である。
小型致死性ドローンの実際の効果はさまざまである。おそらくロシア・ウクライナ戦争の文脈で最も重要なのは、個々の兵士に精密誘導弾へのアクセスとコントロールを提供することだ。この戦争以前は、このような弾薬は一般的に戦闘機によってのみ使用されていた。存亡の危機に直面したウクライナは、ロシアに対する兵器の能力と能力容量の不足を補いつつ、効果的に自国を防衛する手段を考え出した。その解決策とは、安価で数が多く、生産が容易で戦術的に効果的な精密誘導弾を開発することで、主に爆発物を運搬するクアッドコプターと、比較的安価な巡航ミサイルを開発し、ウクライナにロシア国内の重要ターゲットを打撃する能力を与えることだった。
メディアはウクライナのドローンによるロシア空軍への攻撃に注目しているが、これまでドローンが最も効果的に使われてきたのは、通常の歩兵や装甲車との交戦に対抗するためである。実際、現在、ウクライナ陸軍が前線で交戦するターゲットの80%は、携帯型精密誘導弾/ドローンによるもので、野戦砲がドローンに取って代わられ、新たな「戦場の王(king of the battlefield)」となるのを目撃しているのかもしれない。
新しい問題ではない
歩兵、戦車、船舶などとともに、航空機が野外で脆弱であることは、誰にとっても驚くべきことではない。冷戦時代、ヨーロッパと朝鮮半島の米空軍は、事実上すべて強固な航空機シェルターに配置されていた。当時の米軍指導部は、無防備な戦闘機が前方に展開した場合の影響を理解しており、そのようなリスクを冒すことを望まなかった。
米国本土を拠点とする軍隊に関しては、当時はまだ海洋が有効な防衛手段であると考えられていた。しかし、もはやそうではない。可搬型の精密誘導弾/ドローンは、広大な海洋距離を克服するために、他の手段で使用予定地域の近くに隠して輸送することができる。2023年12月にバージニア州のラングレー空軍基地で発生したドローン事件に注目してほしい。ドローン操縦者が望めば、非常に簡単にウクライナ式の攻撃を実行できただろう。
1999年に中国空軍の2人の大佐によって書かれた「超限戦(Unrestricted Warfare)」と題されたプレイブックには、望ましい効果を達成するための非伝統的な方法が詳述されている。そこには、中国が非対称的な手段を用いて米国の防衛を無効化する計画について書かれている。我々は警告を受けており、警告表示は何年も前から赤く点滅している。敵対者が海外や米国本土の米軍をリスクにさらすつもりであることに、誰も驚くべきではない。致死性のあるドローンは、軍事的なターゲットだけでなく、発電所、通信、輸送ネットワーク、石油、ガス、配水などの脆弱な民間インフラなど、より活用しやすいターゲットに対してだけでなく、この種のコンセプトを実現するための安価で大量かつ効果的な手段を提供する。
1941年の真珠湾攻撃は、遠方の限られた軍事施設に対するものだった。現代のそれに相当するものであれば、非常に狭い時間内に全米の広範なターゲットに影響を与えることができる。一連の包括的な重要なターゲットにわたって実行された場合、米国の有能な戦闘能力は紛争の幕開けで頓挫する可能性がある。
強さによる平和には防護を優先することが必要
冷戦終結後、米軍や重要インフラを保護する文民当局にとって、部隊防護は優先事項ではなかった。この現実は、誤った戦略的前提、それに伴う財政的制約、官僚的惰性、防護コストを正当化するために信頼できる脅威が発生する確率が低いことを前提としたリスクテイクが重なったことに起因している。これらの仮定はもはや通用しない。米軍に対する脅威も敵対者の能力も劇的に進歩しており、こうした変化を無視することは、米国の安全保障を重大なリスクにさらすことになる。
さかのぼること2004年、太平洋空軍の作戦部長を務めていた私は、B-2とF-22を防護するためにグアムに強化型航空機シェルターを建設することを提案した。この提案は資金不足のため却下された。当時、米国の安全保障の指導部は、グアムや米国本土への攻撃のリスクを受け入れていた。それから20年が経ち、脅威環境が根本的に異なるにもかかわらず、その考え方は今ようやく変わり始めただけである。対照的に、中国は正反対の見解を示している。同国は、何千もの強固なシェルターを建設することで、空軍力の防衛に多額の投資を行っており、残存性を戦略的に重視していることを明確に示している。
おそらく最近の携帯型精密誘導弾/ドローンの拡散は、国防総省の指導部、行政管理予算局、そして連邦議会にとって、軍事資産の安全確保に必要な資金を提供するための警鐘となることだろう。無防備な米国の空、宇宙、海、陸、そしてサイバー資源の脆弱性は明らかである。
ウクライナ軍による携帯型精密誘導弾の広範かつ革新的な使用は、主要な軍事大国を相手にしても、このような兵器が有効であることを明らかにした。米軍は決意をもって対応しなければならない。基地防衛と地域防衛を最優先課題としなければならない。これには、分散化した作戦、多層防御への投資、軍事力の適切な防護を確実にすることなどが含まれる。
航空戦力は、軍事力の他のあらゆる要素と同様、確実な残存性がなければ、空虚な抑止力となる。戦闘に投入する前に、効果がなくなってしまうかもしれない。闘う能力を確保することは、生存する能力を護ることから始まる。