統合全ドメイン指揮統制(JADC2)

米陸軍が打ち出したマルチドメイン作戦のコンセプトは、統合レベルでのコンセプトへと移行しつつある。2020年11月16日掲載の「米陸軍プロジェクト・コンバージェンス」にもあるように2020年12月に公開される予定の米国防総省(DOD)の統合用兵コンセプト(Joint Warfighting Concept)が一つの結節点であろう。この動きの中で米軍の各軍種は、それぞれの軍種の既存のコンセプトや将来に向けての検討中のコンセプトとの整合を図っているが、米空軍が全体をリードするように指揮統制に関する考え方を打ち出していた。それが、統合全ドメイン指揮統制(Joint All-Domain Command and Control:JADC2)である。Miltermでも最近では、2020年9月22日掲載の「米国の新しい戦い方「JADC2」について」で紹介している。この記事では、「戦い方」という言葉で誤解を招きそうであるが、統合全ドメイン指揮統制(JADC2)は新たな戦い方での指揮統制のコンセプトである。ここで紹介するのは、2020年11月16日掲載の「米陸軍プロジェクト・コンバージェンス」に続いて、JADC2に関する米国議会調査局のレポートである。(軍治)

統合全ドメイン指揮統制(JADC2):Joint All-Domain Command and Control (JADC2)

2020年10月23日

統合全ドメイン指揮統制(JADC2)とは何か?:What Is JADC2?

統合全ドメイン指揮統制(JADC2)は、米国防総省(DOD)のコンセプトであり、米空軍、米陸軍、米海兵隊、米海軍、米宇宙軍などのすべての軍種のセンサーを1つのネットワークに接続するものである。伝統的に、各軍種は他の軍種と互換性のない独自の戦術ネットワークを開発してきた(つまり、米陸軍ネットワークは米海軍または米空軍ネットワークと連携できなかった)。米国防総省(DOD)の当局者は、将来の紛争では、現在の数日間のプロセスと比較して、数時間、数分、または場合によっては数秒以内に決定を下し、作戦環境を分析して命令を発行する必要があると主張している。彼らはまた、米国防総省(DOD)の既存の指揮統制アーキテクチャは米国防戦略(NDS)の要求を満たすには不十分であると述べている。米国議会は、すべての軍種のための多くの注目度の高い調達プログラムを開発するために使用されているので、このコンセプトに興味があるかもしれない。

米国防総省(DOD)は、ライドシェアリングサービスのウーバー(Uber)を例えとして使用して、統合全ドメイン指揮統制(JADC2)の望ましい最終状態を記述している。ウーバーは、2つの異なるアプリを組み合わせている。1つはライダー用、もう1つはドライバー用である。ウーバー・アルゴリズムは、それぞれのユーザーの位置を使用して、距離、移動時間、および乗客(他の変数の中でも)に基づいて最適な一致を決定する。次に、アプリケーションは、ドライバーがたどる方向をシームレスに提供し、乗客を目的地に届けることになる。ウーバーは、セルラーネットワークとWi-Fiネットワークを利用して、ライダーに合わせてデータを送信し、運転指示を提供する。

統合全ドメイン指揮統制(JADC2)は、統合部隊がインテリジェンス、監視、および偵察データを共有し、多くの通信ネットワークを介して送信するためのクラウドのような環境を提供し、より迅速な意思決定を可能にすることを想定している(図1を参照)。統合全ドメイン指揮統制(JADC2)は、多数のセンサーからデータを収集し、人工知能アルゴリズムを使用してデータを処理してターゲットを特定し、ターゲットと交戦するためのキネティックおよびノンキネティック(サイバーまたは電子兵器など)の最適な兵器を推奨することで、指揮官がより適切な決心を下せるようにすることを意図している。

図1.統合全ドメイン指揮統制(JADC2)ビジョンの概念図

一部のアナリストは、統合全ドメイン指揮統制(JADC2)に対してより懐疑的なアプローチを取っている。彼らは、その技術的な成熟度と手頃な価格、そしてセンサーをシューターに安全かつ確実に接続し、致死的で電子戦(electronic warfare)が豊富な環境で指揮統制を支援できるネットワークを構築することさえ可能かどうかについて疑問を投げかけている。アナリストはまた、従来、戦役(campaign)全体の観点からではなく、各ドメインで指揮権限が委任されていることを考えると、ドメイン全体で誰が意思決定権限を持つかについて問いかけている。また、統合全ドメイン指揮統制(JADC2)がリアルタイムで意思決定を行うために人間がどれだけ必要になるか、軍事に関連する決心への人間の関与の量を減らすことが適切かどうかについても疑問を持っている。

なぜ今の指揮統制構造を変えるのか?:Why Change Current C2 Structures?

米国防戦略(NDS)、米国防戦略(NDS)委員会、およびその他の情報源によって明確に示されている将来の作戦環境は、潜在的な敵対者が洗練された接近阻止・領域拒否(A2 / AD)機能をどのように開発したかを説明している(図2を参照)。これらの機能には、電子戦(electronic warfare)、サイバー兵器(cyber weapons)、長距離ミサイル、および高度防空(advanced air defenses)が含まれている。米国の競争国は、権力を投影する実力(ability to project power)などの従来の米軍の優位性に対抗し、迅速で決定的な交戦を勝ち取る実力を改善させる手段として、接近阻止・領域拒否(A2 / AD)機能を追求してきている。

図2.接近阻止・領域拒否(A2 / AD)環境

米国防総省(DOD)の上級指導者は、情報へのアクセスが将来の作戦環境において重要になると述べている。さらに、これらの指導者は、潜在的に対等な敵対者に挑戦するには、マルチドメインアプローチが必要であると述べている(米軍が地上、米空軍、米海軍、宇宙、サイバー軍を使用して敵対者の計算されたターゲッティングに挑戦する場合)。したがって、統合全ドメイン作戦(Joint All-Domain Operations)のコンセプトは、指揮官に情報へのアクセスを提供し、奇襲(surprise)とすべてのドメインにわたる能力の迅速かつ継続的な一体化を使用した同時および順次の作戦を可能にし、物理的および心理的な優位性を獲得しようとし、作戦環境に対して影響を与え統制しようとする。

米国防総省(DOD)は、航空宇宙作戦センター(Air and Space Operation Centers)、E-8C統合監視およびターゲット攻撃レーダーシステム、E-3航空早期警戒管制システムなど、現在の指揮統制(C2)プログラムは、数十年前のプラットフォームでは、新しい技術を十分に活用できておらず、将来の紛争の速度、複雑さ、および致死性に対して最適化されていないと主張している。また、将来の指揮統制(C2)を可能にする支援構造が存在しないか、成熟が必要であるとも主張している。  米空軍当局者は、統合全ドメイン指揮統制(JADC2)アーキテクチャにより、指揮官は(1)戦闘空間(battlespace)を迅速に理解し、(2)敵よりも速く部隊を指揮し、(3)すべてのドメインに同期した戦闘効果を提供できると主張している。

米国防総省(DOD)内各部署の取り組み:DOD Lines of Effort

米国防総省(DOD):米国防総省(DOD)は、コンセプトの進化に合わせて統合全ドメイン指揮統制(JADC2)を調査するために、統合機能横断チーム(Joint Cross-Functional Team)を率いている。チームには、米国防総省(DOD)の最高情報責任者(CIO)、研究およびエンジニアリングの米国防次官、取得および維持のための米国防次官からの代表者が含まれている。

統合参謀本部:統合参謀本部は、統合全ドメイン指揮統制(JADC2)をコンセプトからポリシー、ドクトリン、要件、および包括的な研究開発戦略に移行する取り組みを主導している。統合参謀本部は、米空軍を統合全ドメイン指揮統制(JADC2)技術開発の執行機関に指名した。

米空軍:統合全ドメイン指揮統制(JADC2)を実装するために、米空軍は高度戦闘管理システム(Advanced Battle Management System:ABMS)を開発している。高度戦闘管理システム(ABMS)は、すべてのドメイン間で情報を渡すためのデータを提供することを意図したネットワークである。米空軍の指導者たちは、COVID-19パンデミック時の米国防総省(DOD)支援を促進するために高度戦闘管理システム(ABMS)が使用されたと述べた。2020米会計年度を通じて、米空軍は接続するために少なくとも3つの高度戦闘管理システム(ABMS)の実証実験を開催した。

米陸軍:米陸軍の近代化戦略は、マルチドメイン作戦(multidomain operations)を可能にするネットワークの近代化を特定した。米陸軍将来コマンド(Army Futures Command:AFC)は、統合全ドメイン指揮統制(JADC2)コンセプトを開発している陸軍種の担当者である。プロジェクトコンバージェンス(Project Convergence)と呼ばれる演習の一環として、統合ネットワークと連合ネットワークへのアクセスを提供する陸軍種の実力を実証する一連の実験を実施した。米陸軍は、2020年9月に、プロジェクトコンバージェンスの最初の実証実験で、従来とは異なる方法を使用してターゲティング情報を送信するいくつかのコンセプトをテストしている。

米海軍および米海兵隊:米海軍と米海兵隊は、分散型海上作戦(Distributed Maritime Operations)のコンセプトと遠征前進基地作戦(Expeditionary Advanced Base Operations)のコンセプトを通じて、全ドメイン指揮統制の必要性を明確に示している。計画では、敵対者のターゲッティングの実力(adversary targeting abilities)に挑戦しながら、センサーとシューターを接続する艦船、潜水艦、航空機、衛星の分散ネットワークを構想している。米海軍艦船は、2020米会計年度を通じていくつかの演習に参加し、統合および連合ネットワークを繋ぐ彼らの実力(ability)を実証した。

統合全ドメイン指揮統制(JADC2)の部隊実験:JADC2 Experimentation

米国防総省(DOD)は、少なくとも2つの主要な統合全ドメイン指揮統制(JADC2)演習を実施した。2019年12月にフロリダで開催された最初の演習では、本国への模擬した巡航ミサイルの脅威に焦点を当てた。この演習は、高度戦闘管理システム(ABMS)の最初の実証実験であった。米空軍および米海軍の航空機(F-22およびF-35戦闘機を含む)、米海軍の駆逐艦、米陸軍の見張りレーダーシステム(Army Sentinel radar system)、移動式砲兵システム(mobile artillery system)、および商用の宇宙および地上センサーは、リアルタイムで、データを収集、分析、および共有し、指揮統制(C2)セルに作戦環境の全体像を提供する実力(ability)を実証した。

米国防総省(DOD)は2020年7月に統合全ドメイン指揮統制(JADC2)の2回目のテストを実施した。このテスト中、米空軍航空機は、潜在的なロシアの脅威に対抗するために、シミュレートされた環境で、特殊作戦部隊および他の8つのNATO諸国とともに黒海に配置された米海軍艦艇に接続した。

統合全ドメイン指揮統制(JADC2)の2021会計年度予算要求と承認レベル:JADC2 FY2021 Request and Authorization Funding Levels

政権の2021米会計年度予算要求は、マルチドメイン指揮統制と高度戦闘管理システム(ABMS)を1つのプログラムに結合した。米国防総省(DOD)は2021年度に高度戦闘管理システム(ABMS)に3億230万ドルを要求した。米議会上院(S. 4049)は、このプログラムに3億230万ドルを承認する。米議会下院(H.R. 6395)は、不当な成長により、要求された金額を2億1630万ドル(8500万ドルの減少)に削減する。

米議会からの予想される質問:Potential Questions for Congress

  • 他の主要な米国防総省(DOD)プログラムと比較した統合全ドメイン指揮統制(JADC2)の相対的な優先順位はどうか?
  • すべての軍種が統合全ドメイン指揮統制(JADC2)のコンセプトを採用したのか、それとも米国防総省(DOD)内に何らかの抵抗があるのか?
  • 米陸軍と米空軍は、統合全ドメイン指揮統制(JADC2)を実装するためのプログラムを発表した。この新しい指揮統制のコンセプトを実装する米海軍の計画は何か?
  • 統合全ドメイン指揮統制(JADC2)を達成するには、どのような人員、装備、施設、および訓練のリソースが必要か?
  • 統合全ドメイン指揮統制(JADC2)の強制的な実装とライフサイクルの維持にかかる推定コストはいくらか?ネットワークはいつ運用可能になるのか?
  • 統合全ドメイン指揮統制(JADC2)開発において人工知能(AI)はどのような役割を果たすのか?
  • センサーがリアルタイムでシューターにリンクされている場合、ヒューマンインザループはどのくらい必要となるのか。

関連する米議会調査局のレポート :CRS Products

・米議会調査局レポート(R46564)「米国防総省(DOD)による電磁スペクトルの使用の概要」(ジョンR.ホーン、ジルC.ギャラガー、およびケリーM.セイラー)

・米議会調査局インフォーカス(IF11654)「米陸軍のプロジェクトコンバージェンス」(アンドリュー・フェイケルト)

このレポートは本来、米議会調査局との軍事フェローシップの間にニショーン・S・スマーによって書かれたものである。

ジョンR.ホーン、軍事能力およびプログラムのアナリスト