米国の新しい戦い方「JADC2」について

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9月14~16日に実施された米空軍協会のイベントで、米空軍が主導している新しい戦い方のコンセプトが話題になっています。

本会議の3日目の16日に、エスパー国防長官が、近年、米国に拮抗しつつある中国、ロシアとの戦いでは、全ての領域での激しい戦いになり、「中国とロシアは、長距離射撃、A2ADシステム、その他の強みに対抗するために設計された非対称戦闘力を通じて、長年に渡る空軍力の優位性を侵食しようとしている。」と述べました。

此に対抗するために2018年国防戦略が策定されたことは周知の事ですが、この国防戦略は、米国の直面する課題を定義し、この戦略を成功させるために①「我々の殺傷力と部隊全体の即応態勢の強化」②「同盟を強化しパートナーシップを構築」③「最高のものをそろえるために軍を改革-最優先順位にリソースを」と規定しています。

そして、長官は、このリソースの優先順位の問題について「この国防戦略の下に、レガシーシステムを売却し、より優先度の高いシステムに再投資し、現状を打破し、競争に打ち勝つために必要な厳しい選択をする」ように求めていると語りました。特に、空軍については、B-21、X-37、次世代エアドミナンスプラットフォームなどの、21世紀に向けた航空部隊の近代化の推進と同様に「主要な戦闘の能力を維持しながら、統合軍を使用するためのスケーラブルなオプションを提供するダイナミックフォースエンプロイメントなどの独創的なコンセプトの実装を通じて戦い方を変革している。」と紹介し、この独創的なコンセプトの可能性を引き出すために「システム、サービス、プラットフォームにおいて、すべてのドメイン間でシームレスに情報交換および同期できるJoint All-Domain Command and Control」を推進しなければならないとしています。

このJADC2の概念は、此まで数多くの場で論じられている、マルチドメインオペレーションを進めた全領域でのオペレーション(all-domain operation)に不可欠な統合戦闘コンセプト(Joint Warfighting concept)で、空軍が主導して進めているABMS(Advanced Battle Management System)もこのコンセプトを実現するもののようです。

今回は、このJoint All-Domain Command and Controlについて、空軍協会での議論を9月18日付けのAFMagazineの記事「Giving Airmen the Edge: The Promise of JADC2」を紹介し、この新しい戦い方に関する概念の進め方について概観してみたいと思います。(黒豆柴)

Giving Airmen the Edge: The Promise of JADC2              Sept. 18, 2020

空軍長官バーバラM.バレットは、2019年11月11日にカタールのアルウデイド空軍基地で合同航空作戦センターを視察。上級エアマン、ホープガイガーによる空軍の写真。

飛行士にエッジを:JADC2の将来性

何十年もの間、米軍は、空、陸、海、宇宙及びサイバースペースで優位性を維持する情報領域における支配に依存していた。
より優れた情報は、より良い状況認識をもたらした。米軍は、より正確でタイムリーなデータを収集し、それを最も必要とする人々に迅速に提供することで、敵を出し抜き、戦うことができた。

「より多くのデータをより多くのユーザーに収集、共有、流すことできれば、司令官はより適切な決定を下すことができる。これは相当なアドバンテージだ。」と国防総省の元電子戦部長であり、現在はマーキュリーシステムズの最高技術責任者であるビルコンリー氏は言う。
しかし、その歴史的なアドバンテージは、益々圧力にさらされている。敵対者たちは、近年米国の作戦の様相を明らかにし、追いつきつつある。

昨年2月、航空戦闘軍の司令官のジェームズM.「モバイル」ホームズ大将は、空軍協会のエア・ウォーフェア・シンポジウムでまさにそれを述べた。
「我々は、中国が過去15〜20年間に亘り、我々の行動を監視し、それに対抗する方法を考え出そうとしている事を分っている。」と彼は言った。
今日、彼は加えて、洗練された敵は、「我々が伝統的に支配してきたドメインで、我々に挑戦するのではなく、この情報ドメインに挑戦することで、我々の作戦能力を脅かす事が出来る。
この新しい世界で勝利し、米国の意思決定の優位性を維持することは、データをより迅速かつ広範囲に収集して配布することを意味するだけではない。
また、そのデータを情報にすばやく変換し、その情報を使用して、人工知能の力を活用することで、より迅速かつ確実に、より適切な意思決定を行うことができる。
「あなたは、[その敵]が追いつけないテンポで作戦し、彼らを複数のジレンマの角に置くことで勝利する。」とホームズ大将は語った。
「我々の指揮官のために敵に我々が次にどこから来るかわからないように、十分なオプションを持ちたいのだ。」

従来の作戦は各戦争ドメインを別々に統制する。航空作戦センターは航空作戦を統制し、陸上司令官は陸軍を統制する。
「しかし、航空指揮統制、陸上指揮統制、海上指揮統制が一斉に発生し、何をすべきかを決定するには時間がかかりすぎる」とホームズ大将は述べた。「すべてをまとめなければならない。」この結合されたアプローチは、Joint All-Domain Command and Control、またはJADC2として現在知られている。
より統合された真にネットワーク化された軍を優先して従来のストーブパイプを排除することにより、統合の指揮統制システムは、任意のシューターを任意のセンサーにでもいつでも接続できる。

空軍のチーフデータアーキテクトであるプレストンダンラップ氏は、これを「軍事のもののインターネット(注:軍のIoT)」と呼ぶ。

グラフィック:航空戦闘コマンドのPowerPointスライド

この戦闘ゾーンの軍事インターネットを可能にすることは、ネットワークの最先端にあるオンボードセンサーやデータプロセッサから、商用クラウドコンピューティングや人工知能の能力の軍までの情報技術の重要な進歩である。
マーキュリーシステムズは、これらの機能を活用し、JADC2を実験室から実戦に持ち込むことができる組み込みシステムとテクノロジーを製造している。
「米軍が使用している機器を見ると、我々のテクノロジー(我々のRF及びマイクロ波コンポーネント、我々の信号処理、我々の組み込みコンピューティング)は、ほぼすべてのレーダー、ほぼすべてのC4ISRシステム、ほぼすべてのEWシステムの内部にある。」とコンリー氏は言った。

商用の世界と同様に、これらのシステムは急速に進化している。ソフトウェア規定のテクノロジーは、能力の供給方法に革命を起こしている。
各システムをハードウェアで構築する代わりに、オープンシステムアーキテクチャに基づくより強力なテクノロジーが、専用のハードウェアではなくソフトウェアを使用して進化する能力を実装できるようになった。
これにより、1つのネットワーク又はテクノロジーから次のネットワーク又はテクノロジーにシームレスに移行できるだけでなく、迅速で相互に変更と改善も可能になる。そのようなスペクトラムの巨大な帯を飛び越えることは、10年前でさえ想像もできなかっただろう。

レーダーやラジオの周波数を変更しても、もはやすべてのハードウェアを交換する必要がなくなるとコンリー氏は語った。 「今や、ネットワークを介して機器の一部を電子的に再構成する能力を持つに至った。」と彼は説明した。そのシステムが、本来の目的とはまったく異なる目的で使用できるのだ。」
レーダーとしてシステムを考えるのではなく、コンリー氏は次のように述べた。「今ではそれはセンサーである。これは開口部の集まりで、これは信号プロセッサの集まりだ。同じ機器を使用して、非常に異なる様相で複数のデータストリームを収集及び処理して、さまざまなタスクを実行できる。また、そのデータを他のプラットフォームと共有することもできる。」

全く新しい世界 

テクノロジーの世界も進歩するにつれ、変化のペースも変化している。
技術は、米軍がそれを手に入れて武器システムに展開するよりも速く開発されている。
数か月で単位での商用製品のサイクルに駆り立てられ、テクノロジーは、数年、さらには数十年の時間を要する軍事調達システムを待ち続けることはできない。格差は、軍が技術の選択を固定して将来数か月または数年先の将来のイノベーションをブロックするのを見るだけの潜在的な悪夢のシナリオが、JADC2の長期的な成功を脅かしている。

テクノロジーの進歩のペースはムーアの法則によって長く定義されてきており、チップ上のトランジスタの数は2年ごとに2倍になるといわれている。
それ自体は、数十年にわたって設計され、それを超える数十年にわたって配備されてきた軍事システムに対する課題だった。

機械学習と人工知能がシリコンチップによって有効化されたアルゴリズムによって駆動されるソフトウェア定義の世界では、能力が加速し続けている。

Open.aiのデータによると、今日、AIの能力は3か月半ごとに倍増している。つまり、2020年1月1日に設計されたシステムは、1年後に設計されたシステムの約10分の1の能力しか無い。2年後、それは能力としてわずか1パーセントだ。そして、10年後、通常、軍事プラットフォームが設計から展開に移るのにかかる時間—そのシステムは、新しく設計されたシステムの10億分の1の能力しか持ちない。「それが、今日我々が直面している課題である。」とコンリー氏は言う。
「JADC2が成功するには、その罠を回避しなければならない。ロックインできないか、我々は遅れてしまうだろう。」
この運命を回避するには、JADC2を有効にするシステムを、オープンで、モジュール式アーキテクチャで構築し、オープンスタンダードに基づいて構築する必要がある。-競合するベンダーによるほぼ継続的なアップグレードと、迅速な製品改善を保証するアジャイルソフトウェア開発方法論を可能にする必要がある。

空軍のチーフアーキテクトであるダンラップ氏は、空軍協会のミッチェル航空宇宙研究所の最近のプレゼンテーションで、これらのモジュール(データセット、アプリケーション、その他のソフトウェア製品)をレゴブロックと比較した。
「彼らはこれをすべて現実のものにするためにお互いに所定の位置にスナップする必要があります」と彼は言った。
したがって、国防総省は「過去20年間に商業部門が急速に動き、デジタル世界に適応してきた方法からその手掛かりをとらなければならない」。

ホームズ氏は、よく知られているJADC2をLyftやUberなどの配車サービスと比較した。 「彼らはライダーとドライバーを一致させます」と彼は言った。 「センサーとターゲットを持つシューターのマッチングについて話している。」

ダンランプ氏によると、ライドシェアリングソフトウェアがGoogleマップなどの他のアプリとシームレスにリアルタイムで統合することで、米軍システムのモジュール式の未来が示される。
「これらすべてを支えているのはデジタルエンジニアリングである。実際のレゴと同様に、レゴブロックが実際に連動して機能することを保証するオープンアーキテクチャと-オープンスタンダードである。」

空軍のチーフアーキテクトであるプレストンダンラップ氏は、2019年12月18日、フロリダ州エグリン空軍基地での初のABMSライブデモンストレーションで
ABMSがどのように機能するかについて国防総省の上級指導者に説明。写真:Tech。Tech。軍曹ジョシュア・J・ガルシア

マーキュリーのフェロー・システムアーキテクト、マシューアレクサンダー氏は、空軍は何年にもわたって「オープンシステムアプローチ」を採用してきており、業界との共同開発で開発されたオープンスタンダードがさらなる選択肢と革新の道を開くとの認識に後押しされたと述べている。
「これは多層的なアプローチである。」とアレキサンダー氏は言う。下層では、センサー自体が焦点になる。センサーオープンシステムアーキテクチャ(SOSA)は、配備された機器の新機能を「以前よりもはるかに高速に」サポートしているとアレキサンダー氏は述べている。
中間層は、同じプラットフォーム上のペイロードとサービスがシームレスにデータを共有できるようにっする。 2014年に採用されたオープンミッションシステム(OMS)規格により、アビオニクスバス上のセンサーおよび兵器システム(ユビキタスMIL-STD-1553など)がマシン間で通信可能になる。
最後に、最上位層は、プラットフォーム間およびドメイン間の相互運用性とシームレスなマシン間通信を確立する。

アレキサンダー氏は、これらのディフェンス・スタンダードは、業界のパートナーと競合他社を結集させ、可能な限り幅広い採用で可能な限り最高の技術的ソリューションを実現するために、商用のスタンダードと多様なワーキンググループを活用する必要があると述べた。
重要なことに、これらのシステムは、レガシーの装備が将来のJADC2機能からロックアウトされないようにするために、「下位互換性」を備えている必要がある。

「国防総省は、これらのスタンダードに様々なレベルに応じられるアプローチをよく考えて採用している。」とアレキサンダー氏は説明した。
「この2,000ページのドキュメントのすべての要件に準拠する必要がある。と言うのではなく、エントリの障壁が高くなりすぎて、レガシーシステムが準拠できなくなる可能性があるため、最初のベースラインとして最小限の準拠要件を定め、その後、より高いレベルで適合要件を追加することだ。」
その結果、コンリー氏は、ベンダーとその軍の顧客の両方に柔軟なフレームワークを提供し、軍が複雑さとコストを同時に管理できるようになると語っている。
「すべてのソリューションに金メッキを施すことになるため、1つの標準ですべてを実行することは望ましくない。これは非常に高価になる可能性がある。」とコンリー氏は言う。むしろ、アイデアは要件を必要に応じて調整することである。

当然、コンプライアンスと要件のスレシホールドは用途によって異なる。
超音速戦闘機への要求は、速度が10分の1未満で動作する自動車や携帯電話よりも高くなり:携帯電話での通話の切断は不便だ。
戦闘で接続が切断されると命が犠牲になる可能性がある。

「明らかに、このネットワーク部分は挑戦的だ」「ボトルネックを許容することはできない。」「これを前向きなクラウド、または戦術的なクラウド、さらにはエッジクラウドと呼ぶ。」

と言い。戦闘中のオペレーティングネットワークは、ユーザーを危険にさらすことなく、シームレスに、高速で動作しなければならない。「グローバルクラウドに到達するまでのデータが存在し、前方で運用するクラウドに入っていくデータが存在するだろう。」とコンリー氏は言った。

F-35Aには、利用可能な最先端のセンサーの一部と、同様にそのセンサーデータを分析してパイロットに提示するオンボード処理が自慢である。ただし、そのデータの一部のみが航空機から他のプラットフォームにリアルタイムで送信される。基地に戻ると、メンテナンス・クルーは他の運用データをダウンロードして、帯域幅やその他の要求が許す限りそれを共有できる。

「我々が将来に向かって進むと、構造上の壁が崩れ始め、それは、ぼんやりと意図されたもの-非常にぼんやりとなるだろう」とコンリー氏は言う。「クラウドがどこで停止し、どこでエッジが始まるかを見分けるのは容易ではない。」これがAIの領域である。パイロットは、コンリーが言うように、「その日の任務についている」。航空機の運航とターゲットとの交戦で一杯の時に、AIはバックグラウンドで動作し、航空機の高度なセンサーから収集された膨大なデータを分析し、パイロットが必要とする情報と、ネットワーク上の他のノードと共有できるまたは共有すべき情報に優先順位を付ける。

第二次世界大戦では、イギリスの空軍は、しばしば優れたドイツ空軍のラファエルによって5対1で圧倒されたが、ドイツの飛行機の位置に関する情報をレーダーステーションや見張りのポストから全国の戦闘機司令部に送り込んだリアルタイムのレポート構造のダウディングシステムのおかげで、空気優位を維持した。
そこでは、ドイツの攻撃機に挑戦するために迎撃を展開した地元の指揮官に急速に情報をひろく知らせていた。
当時、電話で情報を共有し、グリースペンシルで情報を記録していた同盟軍が情報化時代を先導した。今日、デジタル革命は意思決定サイクルを加速させ続けている。

それでも、ホームズが述べているように、「我々が戦う方法に根本的な変化をもたらすには、新しいテクノロジー以上のことが必要だ。…軍事問題の真の革命には、我々の考え方にも変化が必要である。」JADC2はまさにそれを行うことを目指している。 マーキュリーシステムズのコンリ-氏によると、出発点は、システムがどのように設計されているかではなく、システムがどのように戦場で使用されるかにあるに違いない。

AIやその他のツールを使用してデジタルデータフローを強化するには、新しい機能が出現したときにシステムの変更と更新を迅速にリリースできるように、システム設計とエンジニアリングに適応できる新しいアプローチが必要だ。

勝利の戦利品は、常に交戦の条件を決定できる側に行く。知れば知るほど、その優位は大きくなる。米国の医師決定の優位性と優れた軍事力の抑止力を維持することはオプションではなく、必要なことであるとコンリーは述べている。

これらの優位を確保するには、まずオープンスタンダードを採用するという決定から始め無ければならない。