マルチドメイン・タスク・フォース:2035年の米陸軍を覗き見る - 米陸軍協会サイトから

今回紹介するのは米陸軍の新たな作戦コンセプト「マルチドメイン作戦」において重要な役割を似合うとされる「マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)」に関して米陸軍協会のサイトで3月に公表された論文である。

2021年3月16日付の米陸軍参謀総長ジェームズ・マッコンビル米陸軍大将署名の「米陸軍のマルチドメイン変革―競争と紛争における勝利への備え」の中でマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)について触れられているが、その詳細は各種の米陸軍の実験のプロジェクトで検討が進められているところであると言われている。

その詳細が公表されるのは、まだまだ先であろうが、本論文で米軍の統合の作戦コンセプトにどのように貢献するのか、統合レベルの指揮・統制はどのように考えられているのか、同盟国の陸軍等とはどうやって連携するのか等のイメージは確認できると考える。(軍治)

マルチドメイン・タスク・フォース:2035年の米陸軍を覗き見る – MULTI-DOMAIN TASK FORCES: A GLIMPSE AT THE ARMY OF 2035 –

March 02, 2022

By Charles McEnany

チャールズ・マケナニー(Charles McEnany)は、米国陸軍協会で国家安全保障アナリストを務める。ジョージ・ワシントン大学で安全保障政策学の修士号を取得。

論点:ISSUE

米陸軍のマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、米陸軍のマルチドメイン作戦(MDO)コンセプトを運用する上で重要な中心的存在であるが、戦略的競争におけるその役割と価値は、統合部隊や議会に十分に理解されていない。

注目すべき範囲:SPOTLIGHT SCOPE

米陸軍のマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の構造、役割、競争、危機、紛争のスペクトラムにおける統合部隊の接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力に対する価値を説明し、今後の課題と考察を明らかにするものである。

洞察:INSIGHTS

・ マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は戦略的競争時代への論理的対応であり、長距離精密効果により中露のハイブリッド脅威に対抗でき、長距離精密火力により抑止が失敗した場合の統合部隊の機動の自由度を高めることができる。

・ 競争中の機動を成功させることは、全ドメインで優位な立場を確保することで、危機や紛争におけるマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の価値の基礎を形成する。

・ マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は本質的に統合されたものであり、統合部隊の能力を増強するだけでなく、各戦闘軍指揮官(combatant commanders)に対する価値を最大化するために、国防総省と他の部局(特に統合全ドメイン指揮・統制:JADC2)の近代化取組みの成功に依存しているのである。

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ソ連邦の崩壊後、米国に対抗できる国が存在しない「戦略的猶予(strategic respite)[1]」の30年間は、もう終わった。地政学の地殻変動、すなわち中国の台頭とロシアの復活は、急速な技術進歩と相まって、米国の次の戦争はその速度、殺傷力、到達範囲において前例のないものになる可能性がある。

このような潮流を認識し、米陸軍はマルチドメイン作戦(MDO)-陸、海、空、宇宙、サイバースペースで米国に挑んでくる高い能力を持つ敵対者に対抗し、必要なら打ち負かす-に向けて、米陸軍事業体全体の近代化に着手した。米陸軍にとっての賭けは高く、2019年に当時の米陸軍太平洋軍司令官ロバート・ブラウン将軍が述べたように、「すべての編隊はマルチドメインにならなければならない、さもなければ無用になる」のである[2]

このマルチドメイン能力を実現するための道筋を示すのが、米陸軍のマルチドメイン・タスクフォース(MDTFs)である。2017年にインド太平洋を中心に設立された1つ目のマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)と、2021年に欧州で設立された2つ目のマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、マルチドメイン作戦(MDO)コンセプトを採用する米陸軍の組織の中心的存在である。このスポットライトは、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)が統合部隊にもたらす独自の価値を評価することを目指している。

戦略的環境:STRATEGIC ENVIRONMENT

2018年の米国家防衛戦略(NDS)は、米国の安全保障に対する主要な課題として、中国やロシアとの「長期的・戦略的競争の再来」を挙げている[3]。これらの戦略的競争相手は、平和と紛争の境界線を曖昧にすることで政治的狙いを達成するつもりである。政治、軍事、経済、外交、技術、情報など、国力のあらゆる手段を駆使して、北京とモスクワは米国の優位性を損なおうとしている。

第一に、中国とロシアは、米国の攻撃的な対応を抑止する能力を示す到達目標をもって、大幅な軍事的近代化に取り組んでいることである。第二に、米国の伝統的な軍事的優位性を鈍らせ、紛争で勝利しようと決意していることである。いずれのシナリオも、地域的・世界的なパワーバランスを変化させ、米国の軍事的優位とそれを支える政治的・経済的・外交的強さを損なうことになる。

2021年11月6日、フォートブリスのマグレガーレンジで行われた実弾演習でパトリオットミサイルを発射するパトリオットミサイルシステム。第38防空砲兵大隊とチャーリー砲台1-1ADAの兵士は、日本の自衛隊の第5防空ミサイル群および第11防空ミサイル群の相手と統合パトリオットミサイルの実射を行った。

(米軍撮影:イアン・ベガ-セレゾ米陸軍伍長)

時間の暴君:接近阻止・領域拒否:THE TYRANNY OF TIME: ANTI-ACCESS/AREA-DENIAL

米国の作戦を研究した北京とモスクワは、接近阻止・領域拒否(A2/AD)を作戦コンセプトの中心に据えている。米国議会調査局によれば、以下の通りである。米国議会調査局によれば、「接近阻止(Anti-Access)とは、前進する軍事力が作戦地域に進入するのを阻止するためにデザインされた、通常は長距離のあらゆる行動、活動、能力のことである。領域拒否(Area Denial)とは、作戦地域内における敵対勢力の行動の自由を制限するためにデザインされた行動、活動、能力で、通常は短距離のものと定義される」[4]

2021年10月20日、アリゾナ州ユマ試験場でのプロジェクト・コンバージェンスで、フィールドをナビゲートするロボット戦闘車。次世代戦闘車両機能横断チームは、この車両を半自動の補給に使用し、兵士が戦場で必要な資材を入手できるよう実験している。

(米陸軍撮影:デスティニー・ジョーンズ専門官)

しかし、接近阻止・領域拒否(A2/AD)システムが貢献するのは、対立する部隊の物理的な動きを阻止する「不可侵の赤い泡」だけではない。接近阻止・領域拒否(A2/AD)の中心は時間的なものであり[5]、「時間の暴君(tyranny of time)[6]」を利用することである。紛争地域への米軍の展開を遅らせることは、北京とモスクワが迅速に既成事実(fait accompliを達成する機会を増やすことになる。つまり、領土を奪い、利益を強固にし、米軍と同盟軍の反撃があまりにも高くつくようにする。

「時間の暴君(tyranny of time)」は、北京とモスクワの政治的、経済的、技術的、情報的な取組みがどのように接近阻止・領域拒否(A2/AD)を補完しているかを説明する。中国とロシアの非対称的な影響力は、米国とその同盟国による集団行動を抑止することができる。例えば、経済報復の脅威を伴う偽情報キャンペーン(disinformation campaign)は、同盟国間に不和をもたらし、行動を起こす決心を遅らせる可能性がある。このような接近阻止・領域拒否(A2/AD)のコンセプトは、中国とロシアの軍事戦略がいかに非軍事的な取組みを支えているか、そしてなぜ米陸軍と統合部隊が戦争に至らずに粘り強く戦っていかなければならないかを伝えている。

将来の戦いの統合部隊の視点:THE JOINT FORCE’S VIEW OF FUTURE WARFARE

米国家防衛戦略(NDS)は、米国が「これまで以上に致命的で破壊的な戦場に直面し、ドメインを超えて結合し、近接戦闘から海外戦域、そして国土に至るまで、益々、速度と到達力が増している」と述べている[7]。米国防総省は、「全ドメイン統合作戦(JADO)」というコンセプトに象徴されるように、すべての軍種にかつてないほどの統合性が必要であることを認識してきた。全ドメイン統合作戦(JADO)は、次の戦争に勝つためには、陸、海、空、宇宙、サイバースペースなどすべてのドメインで効果を迅速に一体化し、敵対者に複数のジレンマを同時に突きつける必要があると主張している[8]

データは、この全ドメインのコンバージェンスを実現するための「弾薬」である。そのため、国防総省は統合全ドメイン作戦(JADO)のイネーブラ:統合全ドメイン指揮・統制(Joint All-Domain Command and Control:JADC2)実現に向けて開発を続けている。統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)は、米国防総省(DoD)のコンセプトで、全軍種のセンサーを統一ネットワークに接続し、シームレスな情報共有と迅速な意思決定を可能にするクラウド的環境を構築するものである[9]。人工知能(AI)を活用してデータを高速処理し、最適なシューターを推奨することで、米軍は意思決定の優位性を獲得し、いかなる敵対者にも打ち勝つことを意図している。

マルチドメイン作戦:統合全ドメイン作戦への米陸軍の貢献:MULTI-DOMAIN OPERATIONS: THE ARMY’S CONTRIBUTION TO JADO

統合全ドメイン作戦(JADO)への貢献として、米陸軍はマルチドメイン作戦(MDO)コンセプトを開発した。米陸軍訓練ドクトリン・コマンドによると、マルチドメイン作戦(MDO)は「戦いの全ドメインの迅速かつ継続的な一体化」と定義されている[10]。米陸軍は統合部隊とともに、「すべてのドメイン(空、陸、海、宇宙、サイバースペース)で米国と争うことができる対等な敵対者に、競争と武力紛争の両方で対抗し、打ち負かすこと」を目指しているのである[11]

マルチドメイン作戦(MDO)の目的は、各戦闘軍指揮官(combatant commanders)があらゆるドメインで迅速に作戦を実行し、敵対者に複数のジレンマを同時に与えるための豊富な選択肢を提供することである[12]。米陸軍が地上で戦うだけでなく、地上戦能力を活用して空、海、宇宙、サイバースペースに影響を与えることができれば、紛争を抑止し、必要に応じて勝利する統合部隊の能力(ability)は著しく強化される。

マルチドメイン作戦(MDO)の控えめになりがちだが、重要な側面は、競争を重視していることである。この間、米陸軍は潜在的な紛争に有利な条件を設定し、それによって競争相手に、彼ら側の攻撃的な行動が受け入れがたいコストにつながることを示すことができる。マルチドメイン作戦(MDO)が競争を重視することで、米陸軍は米国防総省の「一体化した抑止」コンセプトに不可欠な役割を果たすことができる[13]

抑止が失敗した場合、米陸軍は統合部隊の一部として、敵対者を圧倒し、勝利し、米国に有利な条件で競争に復帰することを目指す。米陸軍は、競争中に確保した優位な立場を活用して、対接近阻止・領域拒否(counter-A2/AD)能力を統合部隊に提供し、敵に打ち勝つための統合行動の自由を得る機会を創出する[14]

マルチドメイン・タスク・フォース:マルチドメインの近代化取組みの中核:MDTFS: THE CENTERPIECE OF THE MULTI-DOMAIN MODERNIZATION EFFORT

各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、米陸軍がマルチドメイン作戦(MDO)を運用する上で、組織の中心となるものである。各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、電子戦、宇宙、サイバー、情報などの長距離精密効果(LRPE)と長距離精密火力(LRPF)を同期させる戦域レベルのマルチドメイン機動要素である[15]。マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、これらの能力を1人の指揮官のもとに一体化する一方、部隊の構成員が分散した作戦を展開し、残存性を高める。

各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の役割は、危機や紛争時に活用できる優位な立場を獲得するために、持続的に競争することである。各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、すべてのドメインでノン・キネティック効果やキネティックな火力を一体化することで、各戦闘軍指揮官(combatant commanders)に対接近阻止・領域拒否(counter-A2/AD)能力の強化メニューを提供する[16]

最初のマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、2017年に統合基地ルイス・マッコードに実験部隊として設立され、インド太平洋に焦点を合わせている。米陸軍の2番目のマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、2021年9月16日にドイツの米陸軍ヴィースバーデン駐屯地で活動可能になり、ヨーロッパに配置されている。米陸軍はさらに3つのマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)を創設する計画で、インド太平洋地域向けに2つ目、北極地域向けに1つ、世界規模対応向けに1つがある[17]

マルチドメイン・タスク・フォースの構造:MDTF STRUCTURE

マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の共通要素は、効果、火力、防護、後方支援の4つの機能に分類される(図1および脚注参照)。マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)には共通点があるが、一律に対応できるものではない。マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の構成要素は、戦闘軍指揮官(combatant commander)のニーズに基づいて調整可能である[18]。このボトムアップ・アプローチにより、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)には、その作戦地域に対する価値を最大化するために必要な特定の組織構成要素が含まれるようになる。

図1:マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の構造[19]。この図は、一般的なマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)のテンプレートを表している。各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、戦闘軍指揮官(combatant commander)の意見によって異なるかもしれない。

【訳者註】上記組織図のI2CEWSがMDEBと単純に名前が変わるのかはわからない。

米陸軍将来コマンドの初代司令官であるジョン・マレー将軍によると、「マルチドメイン・タスク・フォースの中心」はマルチドメイン効果大隊(MDEB)で、以前はインテリジェンス、情報、サイバー、電子戦、宇宙(I2CEWS)部隊という名前であった[20]

各マルチドメイン効果大隊(MDEB)は従来の通信と軍事インテリジェンスを宇宙、サイバースペース、情報空間、電磁スペクトラムの能力と一体化したものである。マルチドメイン効果大隊(MDEB)の能力の多くは機密であるが、これらの部隊は、敵のセンサーやネットワークをハッキングし妨害するなどの攻撃能力を提供しながら、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の火力部門に情報を提供するために、衛星やドローンなどの幅広いセンサーからのデータを一体化していると思われる[21]

戦略火力大隊(Strategic Fires Battalion)は、各マルチドメイン効果大隊(MDEB)が提供するインテリジェンス能力を活用する。米陸軍は長距離精密火力(LRPF)の開発を近代化の最優先事項としており、高機動で生存性の高い一連の火器を開発している。マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)にとって重要なのは、敵対者のミサイル防衛を迂回できる長距離極超音速兵器の開発で、2023会計年度に実戦配備される予定である[22]

マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、ミサイル防衛能力や直接エネルギー砲兵中隊(Direct Energy Battery)を含む部隊防護のための防空大隊を組み込んでいる。敵対者は益々高性能なターゲッティング・システム、ミサイル、ドローン・スウォームを使用するため、これらの防空は極めて重要である。

さらに、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)には、非許容の環境で作戦する際に地上部隊を保護するための治安部隊(security force)も含まれる。最後に、旅団支援大隊は、補給物資の配給と後方支援(現場整備と医療能力を含む)を計画、指示、監督する。

米陸軍は、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の多様な構成要素を一体化する全ドメイン作戦センター(ADOC)を創設している。全ドメイン作戦センター(ADOC)は情報共有を強化する指揮ノードとして機能することを意図しており、司令官は現場からのデータを確認し、より迅速な分析を行うことで、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)がホーム・ステーションや前線で持続的に戦えるようにする[23]

米陸軍は、全ドメイン作戦センター(ADOC)を「設立当初から統合」し[24]、統合組織間多国籍(joint interorganizational multinational:JIM)スペクトラムを完全にネットワーク化することを意図している。全ドメイン作戦センター(ADOC)がどの指揮階層でこの統合を行うのか、また、米空軍の航空作戦センター(AOC)が単一障害点であるという懸念を緩和するために航空作戦センター(AOC)のようなセンターを補完的に機能させるのか[25]、あるいは米陸軍が全軍からの存在を想定しているのかは、まだ明確になっていない。

競争、危機、紛争におけるマルチドメイン・タスク・フォースの役割:THE ROLE OF THE MDTFS IN COMPETITION, CRISIS AND CONFLICT

統合部隊を支援するため、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は競争段階で敵対者との接触を獲得・維持し、危機時に競争状態に戻るためのエスカレーションを防ぐことに貢献し、紛争が発生した場合は敵の接近阻止・領域拒否(A2/AD)を破壊して統合部隊の機動を可能にすることを目指している[26]

最も重要なことは、中国やロシアの接近阻止・領域拒否(A2/AD)が米国の特定の能力を無力化する可能性があるため、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)が各戦闘軍指揮官(combatant commanders)に一連の選択肢を提供することが不可欠な付加価値となることである。

確かに、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は将来の紛争に対する「銀の弾丸(silver bullet)」ではない。マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、単独で紛争を抑止したり、敵対者の接近阻止・領域拒否(A2/AD)ネットワークを解体したりすることはできない(他の軍隊も同様)。マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、接近阻止・領域拒否(A2/AD)対策として重要な効果を発揮する能力を備えているが、その価値は、各軍種の能力との組み合わせで最大となる。

競争:COMPETITION

競争におけるマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の役割を評価すれば、このフェーズの本質が明らかである。孫子の言葉にあるように、「すべての戦いは戦う前に勝利する」のである。競争において有利な立場に立つことができれば、その後の有事におけるマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の価値の基礎となる。

マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は敵対者とのコンタクトを獲得・維持し、持続的に競争する[27]。全ドメインで作戦を展開することで、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は競争において優位性の地位を獲得する。このような相対的な優位性を得ることで、米陸軍と統合部隊の抑止態勢に貢献し、潜在的な紛争に有利な条件を設定するという、2つの主要な機能を果たすことができる。

マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、敵対者の接近阻止・領域拒否(A2/AD)システムの「内部部隊(inside force)」として前方に展開するのが理想的であり[28]、米陸軍のネットワークの不可欠な構成要素となり得る。同盟国やパートナーとともに地上に部隊を駐留させることは、米国の決意を示すものである。この前方配置を活用し、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は同盟国やパートナーと共に実験や演習を行う。

このような演習は、潜在的な敵対者が注意深く監視しているため、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の能力の一部を明らかにし、敵対者のエスカレーション計算を疑わせる機会でもある。このように、現地に駐留して決意を示し、演習で信頼性を示すという組み合わせは、強力な抑止力となる。

競争において、各マルチドメイン効果大隊(MDEB)は潜在的な危機や紛争時に利用する有利な条件を設定するのに役立つ。衛星、航空プラットフォーム、敵対者の通信やサイバー・ネットワークなどの収集プラットフォームから収集されたインテリジェンスは、状況認識(situational awareness)を維持するために必要な情報を各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)と各戦闘軍指揮官(combatant commanders)に供給する。データによって強化された各戦闘軍指揮官(combatant commanders)は、発展する危機に迅速に対応し、紛争にエスカレートするのを防ぐことができる。

米陸軍欧州・アフリカ地区司令官クリス・カボリ将軍によると、各マルチドメイン効果大隊(MDEB)は情報空間を積極的に形成し、敵対者が米国と同盟国を弱体化させたり紛争の条件を整えるために利用する偽情報(disinformation)を特定し反論する[29]のに必要な権限も持っているとのことである。

サイバー戦と電子戦の能力は、持続的に競争するための追加的な選択肢を提供する。各マルチドメイン効果大隊(MDEB)は電子送信を利用して、敵のレーダー、ジャマー、サイバー防御、地上部隊を刺激し、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)が分析できるような反応を起こさせることができる[30]

また、各マルチドメイン効果大隊(MDEB)は敵対者のサイバー・ネットワークに侵入する能力も備えている。競技中は、これらのネットワークを監視し、危機や紛争時に各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)が悪用できるような脆弱性がないかスキャンして、インテリジェンスを収集する。各マルチドメイン効果大隊(MDEB)は、サイバー侵入の成功例を敵対者に意図的に公開し、潜在的なエスカレーション・コストを示すことで、認知・抑止効果を達成することができる。

2021年10月14日、アリゾナ州ユマ試験場でプロジェクト・コンバージェンスに備え、ネットワーク機能に取り組む第1マルチドメインタスク・フォース所属のエリック・ドーリング米陸軍大尉

(米軍撮影:デスティニー・ジョーンズ専門官)

危機:CRISIS

米陸軍は、危機的シナリオを競争段階の最上位に位置づけ、戦略的競争を紛争に変える潜在的な火種とみなしている[31]。各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は各戦闘軍指揮官(combatant commanders)に、危機の際に敵対者の利益を信頼できる形で危険にさらす選択肢を提供し、それによって、危機を緩和して米国に有利な条件で競争に復帰させる統合部隊の能力に貢献する。

危機の段階では、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)による情報環境の監視と形成が最重要となる可能性がある。統合部隊指揮官が全ドメインで敵対者の行動を察知できるようにすれば、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は敵対者の狙い(既成事実化など)を先取りするためのインテリジェンス提供に貢献できるだろう。さらに、敵対者の偽情報(disinformation)に対抗する各マルチドメイン効果大隊(MDEB)の能力により、米軍とパートナー軍は事態の正確な把握を維持し、集団的対応を阻止しようとする敵対者の企てをはねのけることができる。

十分な状況認識があれば、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は各戦闘軍指揮官(combatant commanders)に対して、敵対国の非エスカレーションを強要するためのキネティックおよびノン・キネティックの選択肢を提供することができる。競争段階と比べ、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は敵対者に能力をよりあからさまに示すことができる。

例えば、マルチドメイン効果大隊(MDEB)は敵対者のサイバー・ネットワークを一時的に機能停止させ、エスカレーションが受け入れがたいコストをもたらす可能性があることを示すことができる。どのような行動も、敵対者が重要な能力を失う前にエスカレートしなければならないと認識するような、紛争を回避するためにうまく調整される必要がある。しかし、米国の能力を示すと同時に、オフランプを提供する比例した措置は、敵対者に競争への復帰を強いることができる。

紛争:CONFLICT

危機が紛争にエスカレートした場合、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は敵対者の接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力に対抗するキネティック効果とノン・キネティック効果を一体化する選択肢を提供する。2019年、少なくとも10回の演習とウォーゲームに基づき、当時のブラウン太平洋陸軍司令官は各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)を「ゲーム・チェンジャー」と呼び、「以前は接近阻止・領域拒否(A2/AD)を突破できなかった」と発言している。以前は接近阻止・領域拒否(A2/AD)を突破することができなかったが、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)を使えばできるようになった」と述べている[32]

各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の価値は、主に地上部隊としての独特の能力から生まれる。マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は小型で分散配置され、機動性が高いため、海や空のプラットフォームよりも敵の火力に強い可能性がある。各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、トンネル、樹木、山などの地形を利用し、敵対者のターゲッティングを妨害することができる。同様に、地形は欺瞞の機会を提供する。

各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、費用対効果の高い物理的なデコイ(ミサイル発射装置や車両の偽物など)や電子的・サイバー的なスプーフィングを採用し、敵の探知メカニズムを刺激することができる。これらのデコイは、敵の監視やターゲッティング(人工知能(AI)システムを含む)を欺くことができる[33]

この残存性を活用し、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は敵の接近阻止・領域拒否(A2/AD)を突破するために、キネティック効果とノン・キネティック効果を同期させる。各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、長距離精密効果(LRPE)を利用して、敵対者の指揮・統制(C2)、通信、サイバー・ネットワークを混乱させることができる。

また、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は長距離精密火力(LRPF)を使用して、歩兵、防空、ミサイルシステム、指揮・統制(C2)ノードなどの地上部隊や、敵対者の航空・海軍部隊など、敵のターゲットを破壊することができる。各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、人工知能(AI)を利用して新たな機会を活用し、敵対者に迅速に対抗できるよう、非定型的な運用に取り組んでいる。

元米国インド太平洋軍司令官のハリー・ハリス提督が言うように、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は「船を沈め、衛星を無力化し、ミサイルや飛行機を撃墜し、敵の指揮・統制能力(ability)をハッキングまたは妨害しなければならない」のである[34]

各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、米海軍の艦船を狙うミサイルを迎撃したり、米空軍を狙う敵戦闘機を撃墜したりすることができる。また、敵対者の海軍部隊を海岸から深海に追いやることも可能で、米海軍は中国やロシアに対して海中での大きな優位性を維持している[35]

このように、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、統合部隊が距離を縮め、敵の死活的な利益を狙い、オーバーマッチを達成するためのレーンを開くという到達目標をサポートする。敵は、複数の同時進行するジレンマに直面すると、紛争を終結させる可能性が高くなる。

インド太平洋及びヨーロッパにおけるマルチドメイン・タスク・フォースについての考慮事項:CONSIDERATIONS FOR MDTFS IN THE INDO-PACIFIC AND EUROPE

マルチドメイン・タスク・フォース‐1(MDTF-1)とマルチドメイン・タスク・フォース‐2(MDTF-2)は、米国の防衛戦略における2つの優先地域(それぞれインド太平洋と欧州)に沿っていることを考えると、それらがどのように変化し得るかを考える価値がある。マルチドメイン・タスク・フォース‐1(MDTF-1)とマルチドメイン・タスク・フォース‐2(MDTF-2)は同じ包括的な役割を果たし、実験しながら適応し続けるが、その組織構成は戦域の地理、地域の安全保障構造、敵対者の能力などに基づいて異なる可能性がある。

インド太平洋地域は、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)にとって様々な課題を抱えている。まず、インド太平洋の大部分は、広大な海洋と陸地が混在していることが特徴である。このような地形は、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)が有利になるように占有できる面積を狭める(図2参照、フィリピン北部に拠点を置く場合の米陸軍の長距離火力能力の一例を示す)。

さらに複雑なことに、インド太平洋地域には包括的な地域安全保障同盟が存在せず、米国は主に日本、韓国、オーストラリア、タイ、フィリピンとの二国間協定に依存している[36]

このことは、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の基地をこの地域に設置するための二国間合意を達成するための政治的プロセスをより困難なものにする可能性がある。最後に、特に中長期的には、中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)システムは量的にも質的にもロシアを凌駕し、米軍の通信を不能にする能力がより大きくなる可能性があることである。

図2.インド太平洋における長距離火力[37]

これらの要因によって、マルチドメイン・タスク・フォース‐1(MDTF-1)の組織構成が形成される可能性がある。例えば、インド太平洋の地理的条件から、マルチドメイン・タスク・フォース‐1(MDTF-1)の長距離火力大隊(Long-Range Fires Battalion)は、米陸軍の長距離極超音速兵器(LRHW)(射程1,725マイルの超音速が可能、2023年に実用化予定)に大きく依存しなければならなくなるかもしれない。長距離極超音速兵器(LRHW)はインド太平洋の多くの場所から十分な射程距離を持ち、中国の海上にあるプラットフォームに加えて、地上のターゲットも危険にさらすことができる。

精密打撃ミサイル(PrSM-800マイルのターゲットを攻撃可能)や戦略的長距離砲(SLRC-1,000マイルのターゲットを攻撃可能)のような射程の短い米陸軍長距離火力は、その位置によっては、特に台湾や尖閣諸島の有事の際に中国の海上能力をターゲットとするのに効果的である可能性がある。しかし、特定の地上ターゲットに対しては、これらの兵器はより近い位置に配置した方が有利である。

また、インド太平洋地域内は距離が離れているため、特に中国が急速に進化している宇宙やサイバー能力を考慮すると、通信の復元性に課題がある。同様に、この地理的条件は、紛争環境においてマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の分散作戦を維持することを難しくしている。その結果、マルチドメイン・タスク・フォース‐2(MDTF-2)のマルチドメイン効果大隊(MDEB)は宇宙・通信中隊を増員し、旅団支援大隊にはより多くの配備中隊を必要とする可能性がある。

このような要求は、米陸軍がインド太平洋地域と連携した2つ目のマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)を計画している理由の一つでもあり、米陸軍は必要な予算を受け取り、この部隊を迅速に設立することが不可欠である。

インド太平洋の広大な海とは異なり、欧州の地理は陸地が多く、距離もはるかに短い(図3参照)。さらに、NATOは、輸送ネットワークや補給基地などのNATOの強固なインフラの恩恵を受け、欧州のより多くの場所でマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の基地配置を獲得するプロセスを簡素化することができる。

また、有利な地理的条件と安全保障構造により、ロシアの利益を危険にさらす可能性のあるマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の拠点は増加する。また、中長期的には、ロシアは経済的な制約を受けるため、中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力に追いつくことは難しく、特に情報ドメインにおいて、より低コストの選択肢に依存する可能性がある。

図3.ヨーロッパにおける長距離火力[38]

これらの要因により、精密打撃ミサイル(PrSM)と戦略的長距離砲(SLRC)は、マルチドメイン・タスク・フォース‐2(MDTF-2)の火力部隊において、より重要な役割を果たす可能性がある。なぜなら、ヨーロッパ各地から十分な射程を持ち、例えばバルト三国に侵攻しようとするロシア軍をターゲットとし、ロシア国境内の目標を危険にさらすことさえ可能だからである。さらに、マルチドメイン・タスク・フォース‐2(MDTF-2)のマルチドメイン効果大隊(MDEB)は、ロシアの偽情報(disinformation)を識別し、それに対抗するための情報防衛中隊を追加で必要とする可能性がある。

モスクワは、グルジア、クリミア、ウクライナでの作戦において、また、より広い意味では、米国や欧州との競争において、こうした低コストのサイバー・情報ツールを多用している。ロシアの軍事力が相対的に低下し、ディープフェイクのような情報環境に影響を与える技術が進化すれば、こうした低コストのサイバー・情報ツールがより顕著になる可能性がある。したがって、マルチドメイン・タスク・フォース‐2(MDTF-2)の組織構成は、このような重点を反映するように変更される可能性がある。

マルチドメイン・タスク・フォースの重要なイネーブラ:CRITICAL ENABLERS OF MDTFS

各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)にとっては、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の有効性、マルチドメイン作戦(MDO)の同盟国との相互運用性、敵対する接近阻止・領域拒否(A2/AD)ネットワーク内の外国でのアクセス権獲得の3つの外部要因が不可欠である。米陸軍は、これらの実現要因の1つ以上が実現しない場合、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の想定される役割がどのように変化するかを計画しておく必要がある。

統合全ドメイン指揮・統制(JADC2):JOINT ALL-DOMAIN COMMAND AND CONTROL (JADC2)

各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、各戦闘軍指揮官(combatant commanders)に最大限の選択肢を提供するために、データの一体化に依存している。例えば、地上火力を使って敵対者の海上能力をターゲットにすることができる。しかし、必要なセンサーやシューティング・マシンをすべて所有している軍種はない。そのため、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の一体化ネットワークを利用することで、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は敵対者に複数のジレンマを提示する能力を最適化することができる。

第二に、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の人工知能(AI)機能は、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)が敵対者に対してオーバーマッチを達成するために必要なデータ分析のスピードを提供することができる。すべてのセンサーを統一ネットワークに接続することで、シームレスなデータ一体化が可能になるが、その一方で、データ量が膨大になり、タイムリーな分析が困難になるという課題がある。統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の人工知能(AI)機能により、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は関連性のある情報を迅速に分析し、行動することができる。

最後に、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)はかなりの距離にわたって分散した作戦を行うことができるため、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)のネットワークが想定している復元性は不可欠である。中国やロシアとの紛争では、米国の通信が劣化する可能性が高いため、この劣化にもかかわらず機能を維持できるネットワークが重要である。そうでなければ、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)はデータを一体化して、利用可能な最善のシューターに送るのに苦労し、統合部隊指揮官の状況認識と選択肢を減少させる可能性がある。

米国防総省(DoD)が統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)を完全に実現できるかどうかは、未解決の問題である。米国防総省はこれまでに、異なる軍種が所有する限られた数のプラットフォーム間でリアルタイムにデータを収集、分析、共有する大規模な統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)演習を数回実施している[39]。10月には、米陸軍が統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の開発に毎年貢献しているプロジェクト・コンバージェンス21(PC21)を実施し、初めて統合部隊からの参加を得た。

この「学習キャンペーン」には、米陸軍が他の軍種とセンサー・トゥ・シューターの能力を実際のシナリオでリンクさせる能力をテストする演習が含まれていた[40]。それでも、「致死性の高い電子戦の多い環境で、センサーとシューターを安全かつ確実に接続できるネットワークを整備することが可能なのかどうか」については懐疑的な意見もある[41]

2019年5月15日、ルーマニアの海軍支援施設デベセルへの終末高高度防衛(THAAD)の展開中に警備を行う第173空挺旅団戦闘団第503歩兵連隊第2大隊チョーズン中隊に所属する米陸軍落下傘兵

(米陸軍撮影:ジェイソン・エパーソン米陸軍1等軍曹)

内部部隊としての作戦:OPERATING AS AN INSIDE FORCE

米陸軍は、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)を敵対者の接近阻止・領域拒否(A2/AD)ネットワークの中で活動する「内部部隊(inside force)」と想定している[42]。各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は潜在的な紛争地点に近ければ近いほど、敵の重要な利益を危険にさらす能力が高くなる。例えば、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の長距離火力部隊が敵対者の領域に近ければ近いほど、その戦略的支援地域を危険にさらすことができる。

しかし、外国へのアクセス獲得は、米陸軍も米国政府も直接コントロールできない政治的な問題である。各国は、米軍のプレゼンスがもたらす利益と、中国やロシアが課すことのできるコストとを比較検討する。時間、説得、そして米国の圧力ではなく、敵対的な敵対者の行動の潜在的な影響が、最も大きな進展を達成することになる。

米陸軍はこれらの決定をコントロールすることはできないが、役割を果たすことは可能である。米陸軍は、敵対者の能力と意図に対する評価を伝えるために、ハイレベルな軍対軍の接触を通じて、同盟国およびパートナーとの共通の戦略的理解を得るよう努力すべきである。また、演習やデモンストレーションを通じて、敵対者の接近阻止・領域拒否(A2/AD)ネットワークで各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)が使用された場合の価値を説明することもできる。

米陸軍の取り組みは、27カ国の国防長官のうち21人(約78%)が米陸軍士官であるインド太平洋地域においては特に有益であろう[43]。これに対し、NATOでは30人の国防長官のうち19人(約63%)が陸軍将校である[44]。やがて、軍と軍との共通の視点を実現することで、政治的な意思決定に影響を与える効果が期待できる。

同盟とのマルチドメインの相互運用性:MULTI-DOMAIN INTEROPERABILITY WITH ALLIES

マレー将軍は、「米陸軍は、決して単独では戦わないという信念を持って(将来の戦いに)臨んでいる」と述べている[45]。各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、単に外国で存在感を示すだけでなく、パートナーや同盟国とともにマルチドメイン作戦(MDO)を実施しなければならない。

しかし、マルチドメイン作戦(MDO)の相互運用性を実現するためには、いくつかの課題が存在する。米国と多くの同盟国の間には、マルチドメイン環境を記述する一貫した方法が存在しない[46]。さらに、同盟国の人工知能(AI)を支える共通のオペレーティング・システムも存在しない。このような標準化の欠如は、これらのシステムがデータをシームレスに共有するために互換性がない可能性をはらんでいる[47]

さらに、小規模な同盟国やパートナーは、マルチドメイン作戦(MDO)に完全に貢献するために必要な能力を欠いているかもしれない。米陸軍が近代化の取り組みに関して同盟国と一定の関係を維持できなければ、「米国の能力が同盟国のシステムと乖離し、コンバージェンスに必要なレベルの一体化が実行不可能になる」危険性があるのだ[48]

幸いなことに、米陸軍は同盟国やパートナーを引き込んでいる。プロジェクト・コンバージェンス21(PC21)で統合パートナーを迎えた後、プロジェクト・コンバージェンス2022(PC22)では同盟国を迎える予定である[49]。プロジェクト・コンバージェンス22(PC22)はファイブ・アイズ・パートナーが中心となりそうであるが、米陸軍は将来的にヨーロッパとインド太平洋地域から、より広範なグループを取り込むつもりである。マルチドメイン作戦(MDO)を理解するパートナーや同盟国が多ければ多いほど、互換性のあるシステムに投資し、貢献できる能力を理解し、コンセプトの有効性を高めることができる。

2021年9月15日夜、ノルウェーのアンドーヤで行われたサンダー・クラウド実弾演習で、M270A1多連装ロケットシステムからM31ロケット6発の発射に成功した第41野戦砲兵旅団第6連隊第1大隊の兵士の頭上にオーロラが輝いている。サンダー・クラウドは、マルチドメイン・タスク・フォース-ヨーロッパ(MDTF-Europe)を通じて調整された高高度気球システムのターゲット能力を、北極圏上空のアンドーヤ沖20kmにある海上ターゲットへの長距離精密火力で検証するためにデザインされた。

(米軍撮影:ジョー・ブッシュ米陸軍少佐)

提言:RECOMMENDATIONS

米陸軍:ARMY

提言1:マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の価値を実証し、敵対国の米軍能力に対する知覚に影響を与えるため、統合部隊、同盟国、パートナーとの現実的なマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の実験、ウォーゲーム、演習を拡大すること。

提言2:将来の同盟国やパートナーとのマルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の一体化を促進するため、戦略・作戦環境に関する共通の理解を促進するために、軍対軍のコンタクトを活用する。

提言3:マルチドメイン相互運用性が最も能力の高い同盟国のみによって達成されることのないよう、小規模な同盟国やパートナーのニッチなマルチドメイン能力(例えば、サイバースペースや情報ドメインにおける東欧の専門知識)を特定し、一体化すること。

国防長官室:OFFICE OF THE SECRETARY OF DEFENSE

提言1:統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の開発を一体化する中央機関を設立する。そうすることで、各軍種がそれぞれのネットワークを開発するために行っている現在の取組みが、真の意味での統合ネットワークを作るために収束できないのではないかという懸念を軽減することができる。

提言2:マルチドメイン作戦(MDO)が将来の闘いに不可欠であることを議会に伝え、米国がマルチドメイン戦場で勝利するために議会が優先的に取り組むべき重要な近代化プログラムを明らかにする。

議会:CONGRESS

提言1:長距離精密火力(LRPF)やサイバー、宇宙、情報、人工知能(AI)などの新興技術への投資を含め、各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)や統合部隊の全ドメインの近代化取組みに一貫した十分な資金を提供すること。

提言2:安定を促進し、復元性ある信頼を構築するために、同盟国やパートナーとの議会外交政策への関与を高める。そうすることで、より広範な軍事的関与と、マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)のプレゼンスなどの基地を確保するための基礎を築くことができる。

提言3:中国を優先するあまり、他の脅威から過剰な脆弱性を生むという「一つの問題に迷妄すること(one-issue fallacy)[50]」を避けること。米国は次の戦争を予測するのが苦手であるため、米国の地上戦力への過小投資はインド太平洋地域にとって近視眼的であり、次の闘いがロシア、イラン、北朝鮮、その他の地域で発生した場合は危険である。

結論:CONCLUSION

各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は米陸軍の積極的な近代化の重要な柱となるものである。長距離精密火力(LRPF)と長距離精密効果(LRPE)を高度に生存可能な地上部隊に一体化することで、統合部隊指揮官に独自の選択肢を提供する。各マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)は、競争において優位に立つことで、統合部隊の抑止態勢と紛争時の対接近阻止・領域拒否(counter-A2/AD)の選択肢の貴重な構成要素を形成する。マルチドメイン・タスク・フォース(MDTF)の価値は、紛争時の役割だけでなく、すでに発生している日常的な競争にもある。

確かに、米国が直面している課題は、ペンタゴンの枠をはるかに超え、米国の経済と外交の活性化を必要としている。しかし、米国が紛争を誘発する最も確実な方法は、軍事能力の低下である。この変曲点では、議会と米国民は、国家の安全を確保するために必要な投資を行うコストは、中国やロシアに世界の地位を譲り渡すコストとは比べものにならないことを認識すべきである。

ノート

[1] Richard Haass, Foreign Policy Begins at Home (New York: Basic Books, 2013), 9.

[2] Sydney J. Freedberg Jr., “Army’s Multi-Domain Unit ‘A Game-Changer’ In Future War,” Breaking Defense, 1 April 2019.

[3] James Mattis, Summary of the 2018 National Defense Strategy of the United States of America, January 2018, 2.

[4] Congressional Research Service, “The Army’s Multi-Domain Task Force (MDTF),” 29 March 2021.

[5] Chris Dougherty, “Moving Beyond A2/AD,” Center for a New American Security, 3 December 2020.

[6] Billy Fabian, “Overcoming the Tyranny of Time: The Role of U.S. Forward Posture in Deterrence and Defense,” Center for a New American Security, 21 September 2020.

[7] Mattis, Summary of the 2018 National Defense Strategy of the United States of America, 3.

[8] Air Force Chief of Staff GEN David Goldfein, “Joint All-Domain Command and Control,” speech at the Air Force Association, 17 September 2019.

[9] Congressional Research Service, “Joint All-Domain Command and Control (JADC2),” 1 July 2021.

[10] U.S. Army Training and Doctrine Command (TRADOC), TRADOC Pamphlet 525-3-1: The U.S. Army in Multi-Domain Operations 2028, 6 December 2018, iii.

[11] Congressional Research Service, “Defense Primer: Army Multi-Domain Operations (MDO),” 22 October 2021.

[12] LTG Stephen Lanza, USA, Ret., and COL Daniel S. Roper, USA, Ret., “Fires for Effects: 10 Questions about Army Long-Range Precision Fires in the Joint Fight,” Association of the United States Army, August 2021, 5.

[13] C. Todd Lopez, “Defense Secretary Says ‘Integrated Deterrence’ Is Cornerstone of U.S. Defense,” Department of Defense News, 30 April 2021.

[14] Department of the Army, Army-Multi Domain Transformation: Ready to Win in Competition and Conflict: Chief of Staff Paper #1, 16 March 2021, 8.

[15] Department of the Army, Army Multi-Domain Transformation, 12.

[16] Department of the Army, Army Multi-Domain Transformation, 12.

[17] Congressional Research Service, “The Army’s Multi-Domain Task Force (MDTF).”

[18] Department of the Army, Army Multi-Domain Transformation, 12.

[19] Department of the Army, Army Multi-Domain Transformation, 12.

[20] Thomas Brading, “Talent management key to filling future specialized MDO units,” Army News Service, 21 May 2020.

[21] Freedberg, “Army’s Multi-Domain Unit ‘A Game-Changer’ In Future War.”

[22] Lanza and Roper, “Fires for Effects: 10 Questions about Army Long-Range Precision Fires in the Joint Fight,” 4.

[23] Jackson Barnett, “Army building new All-Domain Operations Centers,” Fed Scoop, 26 March 2021.

[24] Barnett, “Army building new All-Domain Operations Centers.”

[25] Sherrill Lingel et al., Joint All-Domain Command and Control for Modern Warfare: An Analytic Framework for Identifying and Developing Artificial Intelligence Applications (Santa Monica, CA: RAND, 2020), iii.

[26] Department of the Army, Army Multi-Domain Transformation, 12.

[27] Department of the Army, Army Multi-Domain Transformation, 12.

[28] Lanza and Roper, “Fires for Effects: 10 Questions about Army Long-Range Precision Fires in the Joint Fight,” 8.

[29] GEN Christopher G. Cavoli, USA, “AUSA Noon Report – Gen. Christopher Cavoli,” virtual remarks to the Association of the United States Army, 3 February 2021.

[30] Freedberg, “Army’s Multi-Domain Unit ‘A Game-Changer’ In Future War.”

[31] Department of the Army, Army Multi-Domain Transformation, 10.

[32] Freedberg, “Army’s Multi-Domain Unit ‘A Game-Changer’ In Future War.”

[33] Rémy Hémez, “To Survive, Deceive: Decoys in Land Warfare,” War on the Rocks, 22 April 2021.

[34] Admiral Harry B. Harris, Jr, “Association of the United States Army Conference,” virtual speech to the Association of the United States Army Annual Meeting, 4 October 2016.

[35] Frank Hoffman, “Extending that ‘Loving Feeling” to Undersea Warfare,” War on the Rocks, 3 November 2021.

[36] Gordon and Matsumura, Army Theater Fires Command, 6.

[37] John Gordon IV and John Matsumura, Army Theater Fires Command: Integration and Control of Very Long-Range Army Fires (Santa Monica, CA: RAND, 2021), 6.

[38] Gordon and Matsumura, Army Theater Fires Command, 5.

[39] Congressional Research Service, “Joint All-Domain Command and Control (JADC2).”

[40] U.S. Army Futures Command, “Project Convergence.”

[41] Congressional Research Service, “Joint All-Domain Command and Control (JADC2).”

[42] Lanza and Roper, “Fires for Effects: 10 Questions about Army Long-Range Precision Fires in the Joint Fight,” 8.

[43] Lanza and Roper, “Fires for Effects: 10 Questions about Army Long-Range Precision Fires in the Joint Fight,” 2.

[44] “NATO Chiefs of Defense,” North Atlantic Treaty Organization, last modified 8 December 2021.

[45] Joseph Lacdan, “Project Convergence 21 to showcase abilities of the joint force,” Army Services Network, 16 August 2021.

[46] Dr. Jack Watling and COL Daniel S. Roper, USA, Ret., “European Allies in US Multi-Domain Operations,” Royal United Services Institute, October 2019, v.

[47] Watling and Roper, “European Allies in US Multi-Domain Operations,” v.

[48] Watling and Roper, “European Allies in US Multi-Domain Operations,” v.

[49] Congressional Research Service, “The Army’s Project Convergence,” 27 September 2021, 2.

[50] Richard Fontaine, “What the New China Focus Gets Wrong,” Foreign Affairs, 2 November 2021.