ヨーロッパのロシアからのエネルギーの独立

ロシアがウクライナを侵略してほぼ1ヶ月が経とうとしています。

欧米をはじめとする各国のロシアに対する経済制裁やウクライナに対する各種の支援が実施され、停戦への行く末を見守っているところですが、中々見通しの付かない状況になっている気がしています。

経済制裁の中では、ヨーロッパがロシアとエネルギー分野で深い関わりを持ち、今後のヨーロッパのエネルギーの安全保障に関わる問題をどのように対応していくのかが注目されますが、3月16日、フォーキャストインターナショナル(FI)社から「ヨーロッパがロシアからエネルギーの独立を目指す」としてその方向を示す記事が出ていましたので紹介したいと思います。(黒豆柴)

 

 

掲載:2022年3月16日
作成:フォーキャストインターナショナル(FI)社
投稿:J. Kasper Oestergaard, FI社アナリスト(ヨーロッパ特派員)
(この論評は米国人のアナリストが米国内に向けて出したブログです)

 Europe and Natural Gas: EU Unveils Ambitious Plan to Reduce Energy Imports from Russia
ヨーロッパと天然ガス:EUがロシアからのエネルギー輸入を削減する野心的計画を発表

March 16, 2022 – by Forecast International

欧州連合は、ロシアからのエネルギー輸入に関するヨーロッパの依存を排除するために、「REPowerEU」と題された新しいエネルギー戦略を発表した。この戦略は主に天然ガスの輸入と消費に対応している。写真提供:欧州委員会。

ロシアのウクライナ侵攻は、ヨーロッパのロシアとの深いエネルギーリンクに関する精算を余儀なくされた。

直接的な対応として、3月8日、欧州委員会は新しい野心的なエネルギー戦略を発表した。
「REPowerEU:より経済的で、安全で、持続可能なエネルギーのための欧州共同行動」と題された戦略の下、欧州連合は、今年すでにロシアの天然ガス輸入を3分の2もの驚異的な削減が可能であり、10年後には完全に削減できると発表した。
長期計画は、2030年よりかなり前にヨーロッパをロシアの化石燃料から独立させることとしている。

2021年では、ロシアはEUのガス輸入の45%を占め、総ガス消費量の40%を占め、また、石油輸入の27%、石炭輸入の46%を占める。欧州のロシアからの化石燃料への依存を排除するために、欧州委員会は、2つの柱に基づいてEU全体のエネルギーシステムの回復力を高めることを提案している。

  1. より高い液化天然ガス(LNG)とロシア以外の供給業者からのパイプライン輸入によるガス供給の多様化及び大量のバイオメタンと再生可能水素の生産と輸入の導入。
  2. エネルギー効率を高め、再生可能エネルギーと電化を増やし、インフラストラクチャのボトルネックに対処することにより、住宅、建物、産業、電力システムでの化石燃料使用量の削減を加速する。

欧州委員会は加盟国と協力して、夏までにREPowerEU計画を準備する予定。

欧州委員会によると、ロシアがウクライナに侵攻した後、急速なクリーンエネルギーへの転換のケースはかつてないほど強力で明確になっている。ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員会委員長は、次のように述べた。

「我々は、ロシアの石油と天然ガスから独立しなければならない。露骨に脅迫しているサプライヤーに頼ることはできない。 エネルギー価格の上昇の影響を緩和し、来年の冬に向けてガス供給を多様化し、クリーンなエネルギーへの転換を加速するために、今すぐ行動しなければならないのだ。」

すでに来月、欧州委員会は、毎年10月1日までにEU全体の地下ガス貯蔵をキャパシテッィの少なくとも90%まで満たすことを要求する議案を提示する予定である。
現在、ヨーロッパ全体の貯蔵充填レベルは30%弱である。ロシアからの供給が完全に途絶えた場合でも、ガス貯蔵は来年の冬の終わりまで需要をカバーするのに十分となっている。

REPowerEUでの対策により、2021年にロシアから輸入された量に相当する少なくとも1,550億立方メートル(bcm)の化石ガスの使用が徐々に取り除かれることになる予定だ。その削減のほぼ3分の2は1年以内に達成でき、EUの単一サプライヤーへの過度の依存を事実上終わることが出来る。

欧州グリーンディールの副委員長であるフランス・ティメルマンスは、次のように述べている。
「今こそ、脆弱性に取り組み、エネルギーの選択において急速に自立する時だ。電光石火の速さで再生可能エネルギーに飛び込みもう。」

2021年、EUは総ガス消費量の約90%を輸入。ガス輸入の45%以上はロシアから。EUへの他の主要なガス供給業者は、ノルウェー、アルジェリア、米国、及びカタール。写真提供:欧州委員会。

エネルギー価格の高騰に対処するために、欧州委員会は、一時的な価格制限など、天然ガス価格が電力価格に与える影響を制限するための緊急措置のすべての可能なオプションを検討するとしている。
欧州委員会はまた、EUの電力市場の設計を最適化するためのオプションを評価するとしている。
その他の措置には、棚ぼた(偶発的な)利益に対する一時的な課税や、高いエネルギーコストに直面している企業への支援を含む可能性がある。

欧州中央銀行(ECB)は最近、エネルギー価格のショックが今年のGDP成長率を約0.5パーセントポイント低下させると推定した。

RePowerEUハイライト

  • ガス供給の多様化と国際的なパートナーとの協力によるロシアのガスからの脱却及び必要なインフラへの投資。
  • 電化と再生可能水素への切り替えを加速し、EUの低炭素製造能力を強化することによる脱炭素産業。
  • エネルギー節約と化石燃料への依存を減らすために、より多くのヒートポンプと屋上ソーラーパネルの設置を奨励し、家と建物のエネルギー効率の向上
  • 再生可能エネルギーの許可プロセスをスピードアップして、再生可能プロジェクトの展開とグリッド・インフラストラクチャの改善にかかる時間を最小限に抑制。
  • バイオメタンに対するEUの意欲を倍増させる:この戦略では、特に農業廃棄物と残留物から、2030年までに年間350億立方メートルを生産することが求められている。
  • 2030年までに水素使用量が4倍に:追加の1500万トンの再生可能水素が、ロシアの輸入ガスの年間250〜500億立方メートルに置き換わることとなる。

一部の国では、短期的にロシアの天然ガスから石炭に切り替えることが合理的かもしれない。ただし、この動きは温室効果ガスの排出量の増加につながるだろう。

今後の展望

新しい地政学的及びエネルギー市場の現実により、EUはクリーンエネルギーへの転換を大幅に加速し、信頼性の低い供給業者や不安定な化石燃料価格からのヨーロッパのエネルギー独立性を高めることを余儀なくされた。

ヨーロッパは、そのエネルギー供給の多くが、事実上、侵略戦争を行っている全体主義体制からもたらされる立場に居続ける事は出来ない。

現在、ヨーロッパの道筋は、ロシアのエネルギー輸入を他国からの供給に置き換えると同時に、エネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を増やすための段階的で断固とした野心的な取り組みにある。


参照:

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=COM%3A2022%3A108%3AFIN
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_22_1511
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/fs_22_1513
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/qanda_22_1512
https://www.reuters.com/business/energy/europes-plan-wean-itself-off-russian-gas-faster-2022-03-02/
https://audiovisual.ec.europa.eu/en/photo-details/P-055281~2F00-13
https://time.com/6155885/eu-plan-cut-russian-gas-imports/
https://www.bbc.com/news/science-environment-60664799
https://www.dw.com/en/eu-unveils-plan-to-reduce-russia-energy-dependency/a-61047997