イスラエルと新たな航空優越 (www.foreignaffairs.com)

今年6月1日のウクライナの「クモの巣作戦」について、航空戦力の必要性は変わらない旨の主旨を述べた「ウクライナの効果に基づく精密誘導弾打撃: その意味するもForbes」を紹介した。この論文では、携帯型精密誘導弾/ドローンの効果は認める一方で、不用意に安価なドローンなどの非対称的な手段で航空機を失うことのないような基地防衛と地域防衛を最優先課題にすることについて述べたものであった。今回は同じ著者は、イスラエルがイランに対して行った航空戦役を例に分析し、航空優越(air superiority)への投資の重要性を述べたものになっている。航空戦役だけですべてを解決するものではないが、航空戦力(airpower)は戦略的な影響力を発揮する独特の手段であるとしている。(軍治)

イスラエルと新たな航空優越

イランへの打撃から得られる真の教訓

Israel and the New Air Superiority

The Real Lessons of the Strikes on Iran

David A. Deptula

August 11, 2025

www.foreignaffairs.com

デビッド・A・デプチュラ(DAVID A. DEPTULA)はミッチェル航空宇宙学研究所所長、米空軍士官学校上級研究員。退役米空軍中将。

テルノフ空軍基地でジェット機に乗り込むイスラエルの戦闘機パイロット(2025年7月)

Amir Cohen / Reuters

何年もの間、軍事理論家や政治学者は、航空戦力(airpower)は過大評価されており、ある意味では時代遅れだと主張してきた。小型で安価な無人のドローンの普及が、伝統的な航空優越(air superiority)(空を制する能力)が時代遅れになった証拠だと指摘する者もいる。この見解によれば、技術革新によって、敵が空中で自由に作戦する能力を制限するだけの「航空阻止(air denial)」が十分代替可能なものになったという。

また、「スマート・ボム・トラップ(smart bomb trap)」(精密な空爆によって国家を服従させることができると指導者たちが過信していること)を挙げる者もいる。こうした批評家たちは、航空戦力(airpower)だけでは政治的目標を達成することはできず、事実、しばしば無意味な空爆戦役(bombing campaigns)を延々と続けることになると主張する。たとえば、政治学者のロバート・ペイプ(Robert Pape)は1996年、「戦略的空爆戦役で決定的な結果をもたらしたものはない」と断言している。これらの批評の根底にあるのは明確なメッセージである。航空戦力(airpower)はあまりにも限定的であり、あまりにも高価であり、あるいは技術的革新(technological innovation)の約束に依存しすぎていて、あまり重要ではないということだ。

そして6月、イスラエルは対イラン航空戦役「ライジング・ライオン作戦(Operation Rising Lion)」を開始した。わずか12日間で、イスラエル空軍は約1,500回の戦闘出撃、600回以上の空中給油を行い、強化された核施設、ミサイル砲台、軍事司令部など900以上のイランのターゲットを打撃した。結果は決定的だった。イランの核開発計画は大幅に中断され、防空網の重要な要素は粉砕され、テヘランの軍事指導部は深刻な打撃を受けた。その間、イスラエルの有人航空機は1機も失われなかった。

イスラエルはイランの核戦力を完全に排除することはできなかったが、その航空戦役(air campaign)はイランの野望を遅らせ、劣化させ、抑止し、中東の政治情勢をさらに一変させた。「ライジング・ライオン」作戦は、健全な戦略と政治的決意に裏打ちされた近代的な空軍が何を成し遂げられるかを示す、驚くべき事例となった。「ライジング・ライオン」作戦は、長期にわたる地上戦争に頼ることなく、意味のある政治的成果を達成できる航空戦力(airpower)の能力を再確認させた。

敵の航空戦力の排除

1991年の米国主導の砂漠の嵐作戦の航空戦役(air campaign)は、現代の航空戦の原則(the tenets of modern air warfare)を確立した。すなわち、航空優越(air superiority)を獲得し、同時に敵の重心を打撃し、ステルス性と精度を駆使し、部隊の消耗以上の所期の効果を優先させることである。イスラエルはその教訓を生かした。イスラエル空軍は、ステルスF-35I戦闘機を使ってイランの地対空ミサイル砲台を制圧、破壊した。これらの航空機は、非ステルス性のF-15I戦闘機やF-16I戦闘機にリアルタイムのターゲティング情報を提供し、F-16Iは追加のターゲットに対して精密打撃を行った。無人航空機(UAV)はインテリジェンスを収集し、通信を妨害し、イスラエルが精密誘導弾を追加で発射できるようにした。

このステルス性、精密性、持続的な監視という破壊的な組み合わせによって、イスラエルは航空優越(air superiority)を迅速に獲得し、維持することができた。イランの防衛力を弱体化させることで、イスラエルは米国の「ミッドナイト・ハンマー作戦(Operation Midnight Hammer)」への道も開いた。この作戦では、B-2ステルス爆撃機が、米国の大型貫通爆弾(MOP)でしか到達できないフォルドウ(Fordow)とナタンツ(Natanz)の深く埋もれた核施設を打撃した。

批評家の中には、この戦役がイランの核インフラをすべて破壊できなかったと指摘する者もいる。しかし、イスラエルの「ライジング・ライオン作戦(Operation Rising Lion)」の目標は、イランの核兵器プログラムを混乱させ、遅らせる一方で、再び打撃する能力を保持することであり、核兵器を根絶することではない。その基準からすれば、「ライジング・ライオン」作戦は大成功だった。主要な濃縮施設と兵器支援施設を機能不全に陥れ、軍幹部と科学者を排除し、イラン上空で航空優越(air superiority)を獲得することで、イスラエルは遅延による拒否戦略(a strategy of denial)をとった。しかも、地上部隊をイランに派遣したり、長期にわたる紛争に巻き込まれたりすることなく、全てを成し遂げた。実際、イランがウラン濃縮や施設再建の試みは、イスラエルによる精密航空攻撃の影に隠れて行われることになる。

航空優越(air superiority)への投資は米国の安全保障にとって選択の余地がない。

決定的なのは、イスラエルがすべての狙いを効率的かつ効果的に達成したことだ。イランとの距離が何千キロも離れているにもかかわらず、12日間で、しかも死傷者ゼロで航空優越(air superiority)を獲得した。このような結果は航空戦力(airpower)によってのみ可能だった。地上戦役では、これほど早く、これほど正確かつ強力に、しかも死傷者を出さずにこれらの施設を攻撃することはできなかった。

確かに、「ライジング・ライオン」作戦は空だけの戦役ではなかった。緊密に統合されたマルチドメイン作戦だった。サイバー作戦はイランの指揮・統制を混乱させた。宇宙を基盤とするインテリジェンス・監視・偵察(ISR)と空のインテリジェンス・監視・偵察(ISR)プラットフォームは、ニア・リアル・タイムのターゲティング・データを提供した。電子戦(electronic warfare)は敵のレーダーを妨害するのに役立った。イラン国内の隠密地上チーム(covert ground teams)は、小型ドローンを使って防御を抑え、座標を中継した。また、ガザ、レバノン、シリアで数年にわたって繰り広げられた広範に展開された一連の軍事行動は、すでにイランの地域的な代理勢力を著しく弱体化させ、テヘランの報復能力を鈍らせていた。

これらの要素が相まって、イスラエルに圧倒的な優位性を与えた。しかし、支配的な役割を果たしたのは航空戦力(airpower)だった。「ライジング・ライオン」作戦を文句なしの成功に導いたのは、テンポとリーチ、そしてパンチ力だった。

新たなツールと同様の教訓

最先端の航空戦力(airpower)は、航空機が正確なセンシング技術、リアルタイムの接続性、全天候型弾薬を欠いていた「砂漠の嵐」作戦以来、著しく向上している。F-35のような今日の第5世代戦闘機は、搭載されたさまざまなセンサーからのデータを統合し、正確なターゲティング情報に融合させ、他の航空機と共有することができる。F-35は、統合されたインテリジェンス、監視、偵察センサー・シューターとして機能し、より多くの情報とデジタル接続性をユーザーに提供する。また、ステルス性を備えているため、係争空域での作戦も可能である。これらの革新の結果、より少ない第5世代航空機で、より能力の低い非ステルス航空機を何十機も必要とするようなことを達成することができる。

しかし、技術の進歩は現代の戦闘機に限ったことではない。防空システムはかつてないほど安価になり、適応性も高まっている。人工知能(AI)、自律型兵器システム、高度な情報統合が戦いの性質(the character of warfare)を変えつつある。たとえば2020年のナゴルノ・カラバフ紛争では、アゼルバイジャンはバイラクタルTB2ドローン、徘徊型弾薬、リアルタイムのターゲティング・データのネットワークを使い、アルメニア軍に壊滅的な効果をもたらした。

しかし、戦争形態(modes of warfare)が進化しても、航空戦力(airpower)固有の優位性は揺るぎない。航空戦力(airpower)は依然として、敵の行動を変化させ、戦略的レッドラインを強化し、地域の軍事バランスを再編成するために使用することができる。国の財政を圧迫したり、国民の息子や娘を過度に危険にさらしたりすることなく、すべてが可能になる。実際、ロシアがウクライナ上空で航空優越(air superiority)を確保できなかったことで、クレムリンは迅速かつ単純な侵攻を想定していたものが、消耗の激しい戦争(a grinding war of attrition)に変わってしまった。対照的にイスラエルは、近代的な航空戦力(airpower)を駆使してこのような罠を回避した。大規模な地上部隊を投入しなかったため、アフガニスタンやイラクにおけるワシントンの宿命である終わりなき戦争に陥ることを回避した。

とはいえ、航空戦役(air campaign)だけで全てを成し遂げられるわけではない。どのドメインからの作戦も、単独で勝利を達成することはない。しかし、航空戦力(airpower)の批評家は、航空戦力(airpower)が単に他の種類の作戦の使用を可能にするだけではないことを見落としている。むしろ、航空戦力は戦略的な影響力を発揮する独特の手段なのである。現代において、航空優越(air superiority)は単に統合作戦の成功のための前提条件というだけでなく、決定的な要因となりうる。言い換えれば、イスラエルの航空戦役(air campaign)はイランの核開発計画を後退させただけではない。航空戦力(airpower)が近代的な軍事的成功の基盤となりうることを再確認したのである。米国の国防計画担当者はこの点に注意を払うべきだ。航空優越(air superiority)への投資は、米国の安全保障にとって選択肢ではなく、不可欠である。