米海兵隊ドクトリン刊行物-8「情報」 – MCDP 8 Information - (Marine Corps Gazette)

軍事において、「Intelligence」ではなく「Information」をどのように取り扱うのかは、極めて難しい問題であり、ウクライナで起きていることと大いに関係がある。

「Information」に関して言えば、米国防総省は、2015年の米国家安全保障戦略の劇的な戦略的環境の変化の認識を受けて、2016年6月に「情報環境における作戦のための戦略」を策定、米統合参謀は、米統合ドクトリンとして2017年7月にJP 1 「米国の軍隊のためのドクトリン」で、「情報」を統合機能の第7番目の機能として明文化し、2018年7月に統合コンセプト文書「情報環境における作戦の統合コンセプト」を発出している。

2020年4月に「21世紀の戦場における情報の意義~米陸軍の7番目の機能としての地位を提案~」を紹介し、その後の掲載においても「Information」に関わる記事等を紹介してきた。

ここで紹介するのは、米海兵隊が米海兵隊ドクトリン刊行物(Marine Corps Doctrine Publication)として刊行を予定している「MCDP 8 Information」についての米海兵隊機関誌ガゼット(2022年4月号)の論文である。

「情報」が用兵機能となるということは何かについて理解するには参考となると考える。バーガー大将の署名が終われば刊行されるとのことであり、早い公表が待ち望まれる。(軍治)

米海兵隊ドクトリン刊行物-8「情報」 – MCDP 8 Information –

米海兵隊の用兵機能「情報」の新たなドクトリン

A new Marine Corps doctrine for the information warfighting function

Marine Corps Gazette • April 2022

by Mr. Eric X. Schaner[1]

米海兵隊は、新しいドクトリンを刊行しようとしている。第38代米海兵隊総司令官バーガー米海兵隊大将がMCDP 8「情報」に署名すれば、「情報」を用兵機能(warfighting function)として記述する米海兵隊初のドクトリンとなる。

MCDP 8「情報」の刊行は、用兵機能「情報」を持つことの意味を理解するための米海兵隊の複数年にわたる努力の重要な一里塚を意味する。また、米海兵隊が競争の連続体のあらゆる点における情報の役割を理解し、あらゆる戦闘領域において、「情報に基づく優位性」を創出・活用するための作戦をより効果的に計画・実施するための出発点となるものである。

MCDP 8「情報」の到達目標は、用兵機能「情報」の目的と仕組みを説明し、すべての米海兵隊員が理解しやすく、どんな状況でも利用できるようにすることである。その教訓を適用することで、長年にわたって参謀を悩ませてきた情報の後知恵問題(information afterthought problem)を効果的に解決することができる。「情報」を用兵機能とすることで、「情報」を指揮官の仕事とするのである。

どのような用兵ドメインであっても、指揮官は用兵機能「情報」を適用して、多くの優位性を生み出し、活用し、目標を達成することができる。本記事の目的は、MCDP 8「情報」に至る道を簡単に紹介し、次にそのドラフト版のドクトリンに含まれる主要な考え方とコンセプトを要約することである。

MCDP8「情報」への道:The Path to MCDP 8, Information

MCDP 8「情報」の刊行までの道のりは、2017年9月15日に始まった。ジェームズ・マティス(James Mattis)国防長官が統合機能「情報」の設立を支持するメモに署名した日である。長官のメモのわずか2カ月前に、統合参謀本部議長が統合出版物1「合衆国軍隊のドクトリン」に定期的修正外の変更を行い、「情報」を新たに7番目の統合機能として導入した[2]

この同じ頃、米海兵隊はすでに、「情報」という主題とそれに関連するコンセプト、用語、組織変革の要求について深く考え、議論していた。

2018年8月までに、情報関連の新しいコンセプトがいくつか公表され、米海兵隊遠征部隊(MEF)情報グループや情報担当副司令官(DC I)などの新しい組織が立ち上がった。

米海兵隊の考えを進め続け、統合部隊との連携を図るため、第37代米海兵隊総司令官ネラー米海兵隊大将は2019年1月、米海兵隊会報5400号に署名し、「情報」を米海兵隊の第7の用兵機能として正式に確立させた。そして2020年5月、第38代米海兵隊総司令官バーガー米海兵隊大将は情報担当副司令官(DC I)に、MCDP 8「情報」を開発するための小規模な執筆チームを編成するよう正式に命じた。新ドクトリンは最終ドラフトに近づいている。

「情報」の説明:Information Explained

情報担当副司令官(DC I)チームは、ドラフト版のドクトリンのための調査を行う中で、「情報」という主題は非常に幅広く、多くの学問分野や分野に適用可能であることを確認した。「情報」という言葉には、唯一正しい定義や説明がない。

MCDP 8「情報」は、目的と範囲を絞った文脈を設定するために、「情報」という言葉が一般的に使われている様々な方法を認め、説明している。これには、インテリジェンス、指揮統制(C2)、状況の理解、火力と機動、意思決定、あらゆる形態の人間と機械の行動に関連する「情報」が含まれる。

さらに、ドラフト版のドクトリンは、「情報」がすべての社会、政府、組織の機能にとって基本的なものであることを論じている。また、「情報」は国力の手段(instrument of power)であり、外交、軍事、経済の手段と協調して、戦略的結果に影響を与え、我々の意志を課し、その他の政策の到達目標を達成するために使われると論じている。

主要な点は、「情報」という言葉は、その使い方によって、さまざまな意味を伝えることができることである。MCDP 8「情報」は、これらの異なる用途を説明し、読者を用兵機能としての「情報」に焦点を当てた出版物に引き込むために、かなりの量の文章を充てている。

なぜ「情報」か?:Why Information?

MCDP 8「情報」の初期のスタッフ編成の際に寄せられたフィードバックには、「なぜ」という問いから始めるようにという提言が含まれていた。なぜ「情報」の機能が必要なのか?そこで情報担当副司令官(DC I)チームは、米国のライバル国が競争と戦争の主要な要素として、どのように「情報」に取り組んでいるかを調査することになった。

我々の調査では、「情報」はライバルの考え方や戦い方の中心であり、それゆえ我々の焦点でなければならないという結論に達した。米国と統合部隊は、戦略的環境において、「情報」を効果的に利用して相対的優位性を得るライバルから挑戦を受けている。

米海兵隊員は、決して自分たちが「情報の優位性」を有していると思い込んではならない。米海兵隊は統合部隊の一員として、すべての用兵ドメインと電磁スペクトラムにおいて「情報の優位性」を生み出し、活用することで、米国の政策の到達目標を支えている。

これには、死活的な「情報」を保護し、意思決定者に影響を与え、あるいは強制し、必要に応じて戦闘力の有効性を高め、あるいは維持するために、防御的・攻撃的な行動を取ることが含まれる。

MCDP 8「情報」では、用兵機能「情報」を通じて、米海兵隊員は「情報の力(power of information)」を活用し、戦闘状況を含むあらゆる軍事状況において、「情報の優位性」を作り出し活用することで、他者の意思決定、行動、機能、意志に影響を与え、事象の流れを舵取りする実力(ability)を獲得すると説明されている。

MCDP 1「用兵(Warfighting)」には、こう書かれている。「機動の本質は、我々の目標を可能な限り効果的に達成する手段として、敵に対する何らかの優位性を生み出し、それを利用するために行動を起こすことである」[3]。MCDP 8「情報」は、MCDP 1「用兵(Warfighting)」から、我々の目標を達成し、我々の意志を課す主要な手段として、「情報の優位性」を生み出し、活用するというコンセプトを説明している。

ライバルはどのようにして「情報」にアプローチしているか:How Do Rivals Approach Information?

上記のフィードバックに基づき、情報担当副司令官(DC I)チームは、ドクトリンのドラフト版において、ライバルが高度な用兵コンセプト(warfighting concepts)を通じて「情報」や技術をいかに活用するかについて、より幅広い議論を提供することを余儀なくされた。

20世紀半ばから、一連の「情報」と技術の進歩により、「情報」は世界規模の現象になった。冷戦時代から現在に至るまで、米国が保持してきたいくつかの優位性に挑戦するため、ライバルや敵対者はこの現象を巧みに操り、利用するようになった。

MCDP 8「情報」では、ライバルが彼らの優位性のためにどのように「情報」を利用しているかを米海兵隊員が理解するために、ライバルと米国の平和と戦争に対する考え方の違いに着目している。米国や同盟国と競合するライバルの共通の到達目標は、「闘うことなしに勝つこと(win without fighting)」である。この到達目標は、ライバルが公然の紛争を避け、強制的な段階的増加または日和見的な突進によって到達目標を達成することを好むという、戦略的競争における勝利の理論を明らかにするものである[4]

この到達目標は、中華人民共和国(PRC)、ロシア、イランといった一部のライバル国が、自らを常に闘争や戦争の状態にあると見なしていることを示している。ライバルたちは、国際システムにおける政治的行為主体間の永続的な関係を表現するために、しばしば「戦争」という言葉を使う。この関係は、暴力を伴うことはめったにないか、あるいはまったくないかもしれない。

このような永続的な闘争の考え方(struggle mindset)は、平和と戦争の間の永続的な本質と曖昧な境界線について同様の見解を持つ非国家主体にも共通するものである。これは、米国における見解とは対照的である。米国では、国家は平和か戦争かのどちらかであると、明確に分けて考える傾向がある[5]

MCDP 8「情報」は、ライバルがどのように「情報」を競争戦略の中心に据えているか、この二分化された視点を利用する方法を説明している。例えば、中華人民共和国(PRC)が、公然の紛争を避けてとる主要な戦略のひとつに、「三戦(Three Warfares)」と呼ばれるものがある。

MCDP 8「情報」は、「三戦」を、世論・メディア戦、心理戦、法律戦の3本柱を含む、中華人民共和国(PRC)の包括的な「情報中心アプローチ(information-centric approach)」と説明している。「三戦」の全体的な目標は、シナリオをコントロールし、中華人民共和国(PRC)の目標を推進する方法で知覚(perceptions)に影響を与え、ライバル国の対応する実力(ability)を挫折させることである[6]

ナラティブ、心理戦、偽情報、あるいはプロパガンダを積極的に用いる政治的行為主体は中華人民共和国(PRC)だけではない。MCDP 8「情報」は、ロシアのライバル関係へのアプローチを、中華人民共和国(PRC)のアプローチと似ているが、ロシアの考え方が戦争の「ハイブリッド」方式であるとして論じている。利用可能な曖昧さを生み出し、平和と戦争の分断を曖昧にするために、ロシアの紛争に対する政治戦略は、国家はもはや戦争を宣言すべきではないと主張している[7]

平和と戦争の分断を曖昧にするこのコンセプトは、宣戦布告のない「戦いのハイブリッド型(hybrid form of warfare)」に関与する要素を動員するものである。ロシアのハイブリッド戦(hybrid warfare)では、民間の行為主体が政府の到達目標を達成するために非正規の要素と積極的に協調する。この民軍融合には、ロシアの企業経営者、メディア組織、政治指導者が、画策された政治的ナラティブと一連の目標のもと、ロシア軍および治安部隊と連携して活動することが含まれる。

ロシアの戦いのハイブリッド方式の根底にあるのは「反射的統制(reflexive control)」のコンセプトである。MCDP 8「情報」では、米海兵隊員は「反射的統制(reflexive control)」を、知覚と行動を操作して混乱と麻痺を引き起こし、相手の行動に影響を与え、出来事をロシアに有利な方向に導くことに根ざした「情報中心の理論(information-centric theory)」として理解すべきであると説明している[8]。「反射的統制(reflexive control)」は、戦略的レベルの地政学的ライバルから、戦術的レベルの戦場の敵までの規模のコンセプトである。

我々の「情報の理論」とは何か?:What Is Our Theory of Information?

MCDP 8「情報」は、用兵機能「情報」の包括的な論理と仕組みを説明する「情報理論(theory of information)」を説明するための舞台として、意図的にライバルに焦点を合わせている。我々の情報理論は、何よりもまず、現代の情報環境(information environment:IE)を通じて利用可能な「情報の力(power of information)」を活用することに根ざしている。

現代の情報環境(IE)が社会の性格、国際関係、軍事組織、そしてグローバルな安全保障環境全体に与える影響は過大評価することはできない。現代の情報環境(IE)は、高度な通信技術とデジタル・メディア技術にアクセスできるあらゆる個人または集団の手に「情報の力(power of information)」を握らせる。

瞬時のグローバル・コミュニケーション、先端技術、ハイパーコネクティビティは、米国に挑戦し、グローバルな規模で影響力を行使しようとする個人、国家、非国家的政治主体に力を与えている。

戦争は、他のあらゆる形態の競争と同様に、基本的には意志の競い合いを通じて力の分配と再分配を行うものである[9]。MCDP 8「情報」は、用兵機能「情報」を通じて「情報の力(power of information)」を引き出すための枠組みを提供する。

我々の理論と用兵機能「情報」の仕組みは、図1に示すような単純なドクトリン論理モデルで説明される。

米海兵隊のすべての部隊は、目標を達成し、意思を貫徹する手段として、「情報の優位性」を生み出し、利用するために、「情報」を生成、保存、拒否、投射する。ドクトリンのドラフト版は、米海兵隊が用兵機能を適用して求める「情報の優位性」を、システムのオーバーマッチ、優勢なナラティブ、部隊の復元性の三つの類型に定めている。

このドクトリンで表現されているように、我々の情報理論の意図は、すべての米海兵隊員が用兵機能「情報」を利用できるようにし、任務の目標を追求するために「情報の優位性」を作り出し利用しようとするあらゆる指揮官に役立つようにすることである。

システムのオーバーマッチ:Systems Overmatch

MCDP 8「情報」では、システムのオーバーマッチについて、一方の側が他方に対して技術的に優位性に立ち、火力、インテリジェンス、機動、兵站、部隊防護、指揮・統制(C2)の面で優位性に立つことを指すと述べている。すべての用兵機能、および軍事作戦の範囲にわたってこれらの機能を実行するために使用されるシステムは、信頼できる「情報」への確実なアクセスに依存している。

これは、敵対者やそれぞれの機能・システムについても同様である。米海兵隊は、兵器システムや指揮・統制(C2)システムなど、相手のシステムに流れる、あるいはシステム内の情報を否定、劣化、操作、破壊することで、相手の心に疑念や混乱を生じさせたり、まとまりのある方法で機能する実力(ability)を混乱させたりすることができる。

MCDP 8「情報」では、情報システムの対立と破壊という考え方が導入されている。これは、システムのオーバーマッチの戦い(battle)における継続的な攻撃と防御の行動と言える。これらの行動が、誤った情報、偽情報、欺瞞、プロパガンダ、支援行動と組み合わさったとき、指揮官は戦闘力の優位性を含め、大きな軍事的優位性を生み出すことができる。

優勢なナラティブ:Prevailing Narrative

MCDP 8「情報」の起草にあたり、情報担当副司令官(DC I)の執筆チームは、ナラティブというコンセプトと、「情報の優位性」としてのナラティブの役割について調査し、考えることにかなりの時間を費やした。ナラティブは、一連の事実に意味を与えるものであり、あらゆる作戦や活動において重要な役割を担っている[10]

信頼できるナラティブは最も効果的であり、最も効果的で優勢なナラティブとは、意図する聴衆に最も響く信頼できるナラティブである。MCDP 8「情報」は、我々のプレゼンス、任務、目標に対する信頼性、信用性、信憑性をもたらすことによって、世論や知覚(perception)の優位性をもたらす優勢なナラティブを達成する必要性を強調している。

どのような二つの相手の間でも、優勢なナラティブは説得力を持ち、その真偽にかかわらず、一方の側が他方よりも成功したり失敗したりする可能性がある。例えば、米国のベトナム戦争への関与に関するいくつかの否定的な優勢なナラティブは、米国の民衆の支持を損なった。民衆の支持の喪失は、米国の戦術的、作戦的成功を損ない、最終的に米国のベトナム戦争からの撤退につながった。

ナラティブの重要性を強調するため、MCDP 8「情報」ではコマンド・ナラティブの必要性を確立している。このドクトリンのドラフト版は、指揮官が効果的なコマンド・ナラティブを作成し、それを混乱から守るための原則と行動を説明している。また、ナラティブを評価し、有害なナラティブをコマンドの目標達成に役立つ信頼できるナラティブに置き換えるための課題と技法についても述べている。

部隊の復元性:Force Resiliency

復元性は、すべての米海兵隊員の特徴であり、待機部隊(stand-in forces)が紛争地域で前進し続けるために不可欠である。MCDP 8「情報」は、部隊の復元性を「情報の優位性」の一形態として説明している。

この観点から、復元性は、敵対者の偵察、技術的妨害、誤った情報、偽情報、プロパガンダなどの悪意ある活動に抵抗し、対抗し、打ち勝つ米海兵隊員の実力(ability)を具体化するものである。

つまり、米海兵隊は、システム、人、精神をターゲットとしたあらゆる脅威に抵抗し、対抗し、打ち勝つことができる。

MCDP 8「情報」は、情報攪乱や攻撃に対して、おなじみの「待ち伏せによる攻撃(assault through the ambush)」というメンタリティを指揮官に植え付けることを強く求めている。さらに、指揮官は、部隊や個人の行動ドリルを開発し、攻撃的な敵対者に対応する訓練を個人と部隊の開発の一環として定期的に行うことによって、このメンタリティを強化しなければならないと説明している。

「情報」の四つの機能:The Four Functions of Information

兵站やインテリジェンスに機能があるように、MCDP 8「情報」では、「情報の優位性」を生み出し活用するために、作戦に適用される情報の4つの機能について説明している。図1における「情報の機能」とは、生成、保全、否定、投影の4つである。

図1.「情報の優位性」のドクトリンの論理(著者作成)

「情報生成(information generation)」とは、情報環境(IE)へのアクセスを獲得・維持し、情報に基づく脅威、脆弱性、機会に対する認識を高め、相手のシステムを危険にさらし、作戦を計画し遂行するために必要な情報を作成するためのすべての行動を指す。

米海兵隊員は、自国での作戦中であろうと、海外に展開していようと、常に情報環境(IE)で接触している。「情報生成」は、情報環境(IE)での持続的なプレゼンスと、その関連するすべての側面を理解するための強固な努力とを結びつける「情報」の機能である。

MCDP 8「情報」は、「情報の保全(information preservation)」について、友軍の作戦を促進するために使用される情報、システム、ネットワークを内外の脅威から守り、防衛するためのすべての行動と説明している。情報を保全するための闘いは継続的であり、ネットワーク作戦、サイバーセキュリティ、防御的サイバースペース作戦、電磁スペクトラム作戦、物理的セキュリティ対策などの活動が含まれる。

MCDP 8「情報」では、「情報否定(information denial)」とは、相手が状況を理解し、意思決定を行い、または協調的に行動するために必要な「情報」を混乱させたり破壊するために取られるすべての行動であると説明している。これには、相手が「情報」を収集する実力(ability)を妨害することも含まれる。

米海兵隊は、相手の脆弱性を突いて死活的な情報を否定する第一の手段として、これを実現する。ドクトリンのドラフト版では、「情報否定」行動には、攻撃的サイバースペース作戦、電磁波攻撃、指向性エネルギー攻撃、物理的攻撃などが含まれると説明されている。

また、MCDP8では、相手の死活的な情報を否定する受動的な方法として、友軍部隊から発せられる視覚、電磁気、デジタル・シグネチャを選択的に変更または抑制することを説明している。これには、作戦保全対策、通信規律、カモフラージュ、対インテリジェンス、シグネチャーの管理などを実施することが含まれる。「情報否定」と「情報保全」は密接に関連している。

「情報投影(information projection)」とは、米海兵隊員が観察者やターゲットとなるシステムに情報を与え、影響を与え、または欺くために、あらゆる種類の情報を伝達、送信、または配信するために適用する「情報」の機能である。MCDP 8「情報」では、同盟国や米国民に情報を提供するための公式コミュニケーションから、敵を欺くためのさまざまな創造的手法まで、さまざまな活動が含まれると説明されている。

米海兵隊は、ラジオやテレビ放送、印刷物、携帯電話、対面でのコミュニケーション、さまざまなデジタル・メディアなどの直接的なコミュニケーションなど、さまざまな方法で情報を投影する。また、米海兵隊員は、特定の情報効果を生み出すために、観察可能であることを知りながら物理的な行動をとることによっても情報を投影する。

この技法の例として、戦略的な場所での「航行の自由作戦」の遂行がある。米海兵隊は、「情報投影」と「情報否定」の方法と目標を常に考慮し、調整する。

新しいコンセプトと考え方、そして身近なテーマ:New Concepts and Ideas as Well as Familiar Themes

MCDP 8「情報」では、これまで述べてきたことに加え、いくつかの新しいハイレベルなコンセプトや考え方、また、おなじみのテーマを含む追加的な内容が提示されている。ドクトリンのドラフト版で導入された新しい考え方の一つは、軍事目標には認知的要素と機能的要素があり、それぞれの要素は直接的または間接的にターゲット可能であるとするものである。

これは、生物学的システムでも製造系システムでも、システムの振舞いは情報の処理方法によって理解できるという研究成果から生まれた考え方である。MCDP 8「情報」では、システムの視点に立つことで、情報処理の単純さ、複雑さに関わらず、「思考プロセス」と「非思考プロセス」の二つに集約されるという結論を導き出した。

MCDP 8「情報」は、思考プロセスと非思考プロセスを区別することで、「情報」が両者への実質的な入力であることを立証している。このアプローチは、人間の知覚、認知、意思決定、行動、意志を直接的または間接的にターゲットとするため、あるいは「情報」に依存するシステムの基本的な機能をターゲットとするため、あるいはその両方をターゲットとして、「情報」をいかに利用、操作、または否定できるかを理解するための枠組みを設定するものである。

その結果、情報環境(IE)には事実上二つのアプローチの道があり、あらゆるシステムや目標の認知的要素(=思考プロセス)または機能的要素(=非思考プロセス)を直接または間接的にターゲットとする能力と具体的行動の計画を支援することができる。図2は、米海兵隊が仮想的な目標の両コンポーネントを直接または間接的にターゲットにする方法の例を示している。

目標: 敵のレーダー・システムを防空支援できないようにする
認知的構成要素 機能的構成要素
直接的アプローチ 狙いとする点と望ましい効果

ヒューマン・マシン・インターフェース(レーダー・ディスプレイ)を通して人間の操作者を欺く

狙いとする点と望ましい効果

レーダー送信機と受信機(トランシーバ)を操作不能にする

行動

デコイを使用して偽のレーダー反射を生成する

行動

トランシーバに対する電磁攻撃でシステムの回路に過電圧をかける(燃焼)

間接的アプローチ 狙いとする点と望ましい効果

人間の心を操作して任務や根拠に疑いももたらす

狙いとする点と望ましい効果

指揮・統制(C2)ノードを無効にし、レーダー情報の提供を不能にする

行動

直接的なメッセージ(電子メールや携帯電話の文章)による誂えられたプロパガンダ

行動

サイバースペースでのDoS攻撃

図2.レーダー・システムの認知的構成要素と機能的構成要素のターゲッティング(著者作成)

MCDP 8「情報」では、思考プロセスと非思考プロセスのような新しいコンセプトや考え方に加え、用兵機能「情報」に関する出版物で誰もが期待するような身近なテーマやトピックを幅広く取り上げている。

その中には、人間の意志のコンセプト、人間と機械の欺瞞、戦争の属性の情報の側面(曖昧さ、不確実性、摩擦など)についてのしっかりとした議論も含まれている。

また、この出版物のドラフト版では、競争と戦争の物理的、道徳的、精神的特性、そして現代の情報環境(IE)がこれらの特性に関連して提供する脅威、脆弱性、機会について詳しく論じている。

上記に加えて、本書で繰り返し強調されている主要なテーマは、超接続されたデジタル世界では、米海兵隊のすべての言動がほぼリアルタイムで世界中に見られる可能性がある、ということである。そのため、駐屯地、休暇中、展開中のいずれにおいても、自分の行動や言葉を慎重に検討し、情報環境(IE)の中で極めて規律正しく行動する必要がある。

MCDP 8「情報」はまた、敵対的な行為主体が地政学的な境界を越えて、重要なインフラ、市民、政治指導者、米海兵隊に影響を与え混乱させることを比較的容易にし、瞬時に世界規模の可視性が戦争のレベルを圧縮することを強調している。

「情報」の制度化:Institutionalizing Information

MCDP 8「情報」は4章からなる本である。これまで述べてきた内容は、最初の3章に収められている。第4章では、用兵機能「情報」を制度化するために米海兵隊が何をしなければならないかに焦点を当てている。まず、用兵機能の目的と、「情報の優位性」の創出と活用に重点を置くことを再確認することから始める。この目的は、他のすべての用兵機能と明確に区別するために強調されている。

次に、用兵機能「情報」と他のすべての用兵機能との間の相互支援関係について、ドラフト版の出版物では詳細な考察がなされている。そして、最終章では、米海兵隊が用兵機能「情報」を最大限に活用できるようにするために、実施すべき8つの具体的な重点分野を提示している。

これには、情報を計画策定プロセスに組み込むこと、戦略、キャンペーン、計画、命令における情報の優先順位付け、同盟国やパートナーの活用、実世界の効果のために訓練演習を使用すること、情報環境(IE)における規律の実践、コマンド・ナラティブの確立、ドクトリン、訓練、教育プログラムの更新、技術開発に対応した機敏な取得戦略の実行などが含まれている。

結論:Conclusion

米海兵隊が行うあらゆる活動において、「情報」は死活的な役割を担っている。「情報」は、インテリジェンス、指揮・統制(C2)、状況の理解、意思決定、そしてあらゆる行動様式の基本である。すべての社会、政府、組織が機能するための中心的存在である。

また、「情報」は国力の手段でもあり、外交、軍事、経済の手段と協調して、戦略的結果に影響を与え、我々の意志を課し、他の政策の到達目標を達成するために使われるものである。米海兵隊員は、このような「情報」のあらゆる側面を理解すべきであり、「情報」のために競争も闘いもせずに、「情報の優位性」から利益を得られると決して考えてはならない。したがって、「機動戦の考え方(maneuver warfare mindset)」で「情報」にアプローチしなければならない。

米海兵隊2等兵から将官まで、我々は皆、競争や武力紛争で成功するために「情報」を活用している。米海兵隊の評判のナラティブを高めるために慎重な行動を取るにせよ、メッセージを送るために能力を選択的に公開するにせよ、重要な情報ネットワークを防御または攻撃するために技術的な洞察力を発揮するにせよ、米海兵隊員は任務を遂行するために「情報」を活用する方法を知っていなければならず、決定的な時間と場所で最終的に我々の意思を課す必要がある。

そのため、米海兵隊は用兵機能「情報」を適用し、敵対するシステムの認知的・機能的要素をターゲットとすることで、攻撃的なライバルに打ち勝ち、闘い、対抗する。

MCDP 8「情報」の目的は、用兵機能「情報」を通じて「情報の力(power of information)」を活用するための我々の基礎的理論を説明し、米海兵隊員が任務達成の主要な手段として「情報」を考えるための指針を示すことである。

この新しいドクトリンは、情報対応可能な将来の部隊がどのようなものかを、競争の連続体(competition continuum)のあらゆる点にある対等な敵対者に対して競争するための致死性と効果という観点から考えるための出発点となるものである。しかし、教育の真価はその適用にある。このことは、すべての米海兵隊員が受け入れ、実行しなければならない。

ノート

[1] シャナー(Schaner)氏は、米海兵隊司令部(HQMC)の情報担当副司令官、情報計画・戦略部門の上級情報戦略・政策アナリストである。

[2] James Mattis, Secretary of Defense Memorandum, Information as a Joint Function, (Washington, DC: September 2017).

[3] Headquarters Marine Corps, MCDP 1, Warfighting, (Washington, DC: 1997).

[4] Headquarters Marine Corps, MCDP 1‑4, Competing, (Washington, DC: 2020).

[5] Ibid.

[6] Elsa B. Kania, “The PLA’s Latest Strategic Thinking on the Three Warfares,” China Brief, (Washington, DC: Jamestown Foundation, August 2016).

[7] LtCol Timothy Thomas, “The Evolving Nature of Russia’s Way of War,” Military Review, ( July–August 2017), available at https://www.armyupress.army.mil.

[8] Can Kasapoglu, “Russia’s Renewed Military Thinking: Non-Linear Warfare and Reflexive Control,” (Rome : NATO Defense College, November 2015).

[9] Geoffrey Blainey, The Causes of War, (New York, NY: The Free Press, 1973).

[10] MCDP 1‑4, Competing.