目的に応じて構築されていないロシア軍の不運な戦力デザイン warontherocks.com
ロシアのウクライナ侵略については、MILTERMでも「ロシアのウクライナ侵略」、「モスクワとともに沈んだ戦いの全時代」で取り上げている。
戦争の行方は未だ見えないところであるが、西側諸国の報道の中には、ロシア軍研究の観点からの分析が公開されている。ここでは、6月初めに「warontherocks.com」に掲載された軍の戦力デザインに関する記事を紹介する。
戦争では、計画上の部隊の規模と実際の部隊の規模との相違から、生じる齟齬が勝敗を大きく左右するのは常なのであろう。本記事から、人的資源の観点から定員と実員の乖離が、部隊の即応性にどのような影響を及ぼすかについて示唆を受けるとともに、その中でも歩兵の重要性について再考するきっかけを得られると考える。
また、米陸軍が対反乱作戦(counterinsurgency)に偏重していたことを反省し、対規模な戦闘作戦(Large-Scale Combat Operations)への転換を果たそうとしているなかに、師団司令部以上の指揮統制機能の役割を重視していたことについても再認識させられるものと考えられる。(軍治)
目的に応じて構築されていないロシア軍の不運な戦力デザイン
NOT BUILT FOR PURPOSE: THE RUSSIAN MILITARY’S ILL-FATED FORCE DESIGN
MICHAEL KOFMAN AND ROB LEEJUNE 2, 2022
マイケル・コフマン(Michael Kofman)はCNAのロシア研究プログラムディレクターで、新アメリカ安全保障センターのフェローである。
ロブ・リー(Rob Lee)は、外交政策研究所のユーラシア・プログラムのシニア・フェローである。キングス・カレッジ・ロンドンの戦争研究学部でロシアの国防政策を研究する博士課程に在籍し、元海兵隊歩兵将校でもある。
ロシアのウクライナ侵攻は、楽勝というモスクワの思い込みから、準備不足、計画不備、戦力投入に至るまで、軍事作戦として深い欠陥があった。しかし、この戦争の結果を左右する重要な要素として、ロシアの戦力構造と人的資源(manpower)の問題にはあまり注意が払われていない。
しかし、戦略的な戦力構造(force structure)の選択は、決定的なものとなりうる。戦力構造は、その軍隊がどのような戦争をどのように闘うつもりなのか、その前提について多くを明らかにする。
ロシア軍が経験している最も重要な問題のいくつかは、意識的な選択とトレードオフの結果である。このような判断は、ロシア軍が諸兵科連合作戦(combined arms operations)、都市環境での闘い、地形保持の試みなどで経験してきた苦闘の多くを説明するのに役立っている。
今回の戦争で、ロシアの人材の弱点が全面的に明らかになった。現状では、ロシア軍は人手不足、特に歩兵が不足している。ロシア軍も部分動員部隊を編成することで妥協した。
その結果、ロシア軍は短期的で鋭い戦争に最適化されたが、「平時」の人員レベルでは大規模な通常型紛争を維持する能力容量(capacity)が欠けていたのである。ロシア軍部隊は現在、ウクライナでの作戦維持に追われており、戦場での大逆転の可能性を食い止めるため、部分的な動員を試みているところである。
最高か、最低か?:The Best or Worst of Both Worlds?
世界最大の軍隊の1つであるロシアがなぜこのようなことになったのかを理解するためには、まずロシアの戦力デザインにおける主要なトレードオフを検証することから始める必要がある。ソビエト連邦崩壊後のロシアの軍事改革は、徴兵制に偏った旧動員軍を放棄するため、編成と装備を集約統合し、扱いにくいソ連の遺産をより小さな常備軍に転換しようとするものであった。
ロシア軍は、年2回の徴兵制を敷く徴兵兵と、数年間の勤務を自ら志願する「下士官専門職」と呼ばれる契約兵で主に構成されていた。ロシアは、契約軍人を軍隊の大部分とすることに力を注いだ。米国と同様、ロシアも、規模は小さくても装備と訓練に優れた軍隊があれば、さまざまな紛争に対処できると考えるようになったのである。この流れは、2008年から2012年にかけて大きく進んだ。
ロシア軍は2013年以降、これらの改革の一部を撤回した。いくつかの改革が根強い不人気を招いただけでなく、格上の相手との地域戦や大規模戦争には兵力が小さすぎると考えられたからである。そのため、地上軍は師団と旅団の混成の戦力構造を採用し、全体的な戦力構造を高めた。
旅団や師団への人員配置も同様であった。ロシアは部分動員部隊に回帰し、より多くの兵力と装備、人員配置とコストの削減、さらに短期間で実質的な戦闘力を生み出す実力(ability)という、両者の長所を手に入れることを望んだのである。
軍は、ある程度の動員が必要な大編成という旧ソ連の手法の中で、高い即応性を持つ部隊(high-readiness force)を持つことを目指した。また、約25万人の徴兵制は、一般に軍事作戦への適性が低く、紛争での雇用に政治的制約があるため、その調整に苦慮した。
ロシア軍は最終的に、大隊戦術グループ(Battalion Tactical Groups:BTG)として、あるいは連隊や旅団のような編成全体として展開できる戦力構造を採用するようになった。大隊戦術グループ(BTG)は、連隊や旅団内の機動大隊を中心に、習慣的な訓練関係を持つ任務別諸職種連合の編成(task organized combined arms formations)であった。
そのため、装備や人員の面でより高い即応性を持ち、短期間で配備できることが期待された。これらの編成は、歩兵、装甲、砲兵、および支援アセットから構成されていた。大隊戦術グループ(BTG)は最近開発されたものではないが、ロシア軍において即応性と部隊を短期間に生み出す能力を測る基準となっている。
理論的には柔軟性があるが、実際に大規模な戦争でどのように機能するかは推測の域を出ない。今回の戦争で明らかになったように、限定戦争において10個大隊でできることが、複雑で大規模な軍事作戦では100個以上あっても再現できないことがある。
その結果、実際にはどうだったのか。階層化された即応部隊として、ロシアの地上編成(空挺部隊、海軍歩兵部隊を含む)は、70%から90%の人員で編成されていた。その結果、3500人規模の旅団が平時には2500人しかいないこともあった。
部隊にいる可能性のある30%の徴兵を考慮すると、配備可能なのは1,700人以下ということになる。もし、実際の即応性レベルが水増しされていたり、2つの大隊戦術グループ(BTG)を埋めるのに十分な数の契約軍人がいなかったりすれば、利用可能な実際の兵力はさらに減少することになる。
ロシアの戦場における作戦レベルの司令部は、通常、諸兵科連合軍(Combined Arms Army)である。軍(Armies)は、軍管区から割り当てられた旅団、師団、支援部隊で構成される。軍隊の規模は様々であるが、結果的にこれらの編成の多くは1.5〜2個旅団に近い常備戦力を有していたことになる。
空挺師団もまた、最終兵力の認可レベルに対して、実際には人員は減少していた。時間が経つにつれ、戦力はますます薄くなった。ハードはあるが、人がいない。このギャップが、ロシア軍関係者の常套手段である「帳尻合わせ」を促した。
ロシア軍は、野戦砲を多用した短期間かつ高強度の作戦に適している。これとは対照的に、ロシアの地上部隊の大部分を必要とする持続的な占領、あるいは消耗戦の擦り減らしには不向きである。
ロシア軍には、戦争でかなりの戦闘力が拘束された場合に、簡単に調整したり、部隊をローテーションしたりできるような人数はないのだ。彼らの大きな想定は、NATOとの間で危機が発生した場合、政治指導者が動員を承認し、人員レベルを引き上げ、人員増強された編成を配備することである。
プーチンの「特別作戦」は、平時の兵力レベルで、ヨーロッパで2番目に大きな国に対して大規模な戦争を仕掛けることを意味する。プーチンは、ウクライナはすぐに降伏し、大規模な戦争を計画し組織化する必要なく、政権交代作戦を実施できると考えていた。
この結果生じた大失敗は、今後何十年も研究されることになるだろうが、この規模の戦争に利用可能な戦力に関するロシアの恐ろしい政治的仮定と軍隊の仮定が交差することによって生じた(戦力デザインで考えられていたように)ものである。
大隊戦術グループの再検討:Revisiting the Battalion Tactical Group
2014年と2015年にロシアがウクライナに対して攻勢をかけて最初の侵攻を行った後、ロシア軍は契約兵と将校のみで構成される即応性大隊戦術グループ(BTG)をより恒常的に持つことを優先させた。2016年以降、各連隊や旅団は将校と契約兵だけで2つの大隊戦術グループ(BTG)を編成でき、第3の大隊は徴兵が構成するとされた。実際には、部隊の全体的な即応性レベルに応じて、状況はさまざまであった。
ヴァレリー・ゲラシモフ(Valery Gerasimov)参謀総長によると、ロシアは2016年に66の大隊戦術グループ(BTG)を持ち、年末までに96の大隊戦術グループ(BTG)、2017年に115の大隊戦術グループ(BTG)、2018年に126の大隊戦術グループ(BTG)と急速に増やす計画である。ショイグ(Sergei K. Shoigu)国防大臣は、ロシアは2019年に136の大隊戦術グループ(BTG)、2021年8月に168の大隊戦術グループ(BTG)を持っていると述べた。
これらは700人から900人の軍人がいることになっているが、大隊戦術グループ(BTG)の公式数が急速に増加したため、契約による兵員数は頭打ちとなり、年間の徴兵数はこの4年間ほとんど変化していない。その結果、ロシアの大隊戦術グループ(BTG)の典型的な規模や構成に関する現代の描写は不正確なものとなった。
ロシア軍は、2017年までに契約兵士を42万5000人にし、その後2019年までに49万9200人にする目標を立てていた。その代わり、ロシア当局によると、2016年に38万4000人、2019年に39万4000人、2020年に40万5000人に達しており、これが、最後に数字が公表された時であった。
国防省が数年続けて同じ契約兵員数を発表しているうちに、おそらく減少しているのだろうということが分かってきた。国防省が数年おきに発表する契約軍人の数は、減少しているのではないか、ということである。
ロシア軍はこの目標を、各大隊の中隊を含む人員数を減らすことで達成したようで、ウクライナでの作戦に大きな影響を与えたという。この決定には、2つの重要な成果があった。
まず、ロシアの攻撃機動編成は、米国の公式資料で開示されているように125から130程度の大隊戦術グループ(BTG)を想定しているが、実際の戦力を考えるともっと小さいものであった。この部隊は、補助部隊やその他の支援部隊を除いた全体の規模が約8万であった(総戦力は10万を超える可能性が高い)。
第二に、これらの編成は、自動車化狙撃歩兵(motorized rifle infantry)や下車部隊の利用可能性よりも、砲兵、装甲、支援、イネーブラに大きく偏っていたことである。市街地での作戦行動、下車歩兵による装甲支援、地形制御など、ロシアの実力(ability)に大きな影響を与えた。また、イネーブラから兵站に至るまで主要な人材が不足しており、(我々を含む)多くの人が想定していたよりもはるかに脆い戦力となっていた。
ウクライナが公開した鹵獲文書や、ハッキングで開示されたと思われる信憑性の高い人員表から、ロシアは自動車化狙撃部隊(motorized rifle units)の編成表を変更し、人員数を削減することを決定したようである。自動車化狙撃大隊(motorized rifle battalions)の兵員は539名や461名ではなく、新しい自動車化狙撃大隊(motorized rifle battalions)の編成表は約345名となっているようである。
しかし、この削減されたT/Oでも、多くのロシア大隊は2/3または3/4の兵力しかなく、しばしば230から280人の兵士しかいないようである。自動車化狙撃中隊(motorized rifle company)の新しい定員は、従来の101または113名から約75~76名になり、小隊はわずか22名となったようである。これまでの自動車化狙撃小隊(motorized rifle platoons)は30~32人で、8~9人の分隊が3つ、小隊本部が1つであった。
Contract:契約兵 Coscript:徴集兵 Data Source: Henry Schlottman (based on leaked documents) |
新しい自動車化狙撃小隊(motorized rifle platoons)は、小隊本部を持たず、7人の兵士で3つの分隊を構成している。小隊長だけが1つの分隊に属さず、第1分隊は副小隊長が率いる。7人分隊ということは、BMPやBTRの車両1台につき、3人の乗員を除いて4人の下車が可能ということになる。
しかし、これらの分隊の多くは5、6人の兵士しか持っていない。つまり、ロシアの自動車化狙撃分隊(motorized rifle squads)の多くは、車両を操作するための兵員はいても、下車して徒歩で闘うための兵員はいないのである。実際、ロシアのBTRやBMPには3人しか乗員がおらず、下車もしないケースもあった。
こうした削減と人員配置の問題から、ウクライナに展開するロシアの小隊の多くは、現在13人で15人に増員予定の米海兵隊分隊の規模に近く、ロシアの多くの大隊は182人の海兵隊員と船員にイネーブラなどを加えた海兵隊強化中隊の規模である。
このような自動車化狙撃大隊(motorized rifle battalions)を中心とする大隊戦術グループ(BTG)の規模は、添付資料では400人から600人が多く、ロシア当局が発表した700人から900人を大きく下回っている。例えば、第138自動車化狙撃旅団(Motorized Rifle Brigade)からウクライナに派遣された2個大隊の人員は310人と226人、この大隊から編成された大隊戦術グループ(BTG)の人員はそれぞれ666人と499人であったとされる。
鹵獲文書によると、これは異なる軍管区の部隊(南軍管区は最も人員が多いようだが、それでもこの問題に悩まされている)、沿岸防衛や空挺部隊でも同様に問題があることがわかる。
また、ウクライナに配備されている大隊戦術グループ(BTG)の規模にもかなりのばらつきがある。900人規模のものもあるが、多くはその半分の規模である。つまり、さまざまな国防当局が定期的に発表または更新する数字は、ウクライナにおけるロシアの地上戦力を評価する際には、比較的限られた、あるいは全く関連性のないものであるということだ。
実際には、大隊戦術グループ(BTG)の人員は350から900人程度であり、大隊戦術グループ(BTG)としてではなく、連隊全体とその司令部ユニットが配備される部隊もあった。このような場合、砲兵や他の連隊や師団のアセットは必ずしも大隊戦術グループ(BTG)に所属せず、より高いレベルで保持され、これらのユニットの規模はさらに縮小された。
実際、ウクライナで死亡した連隊長や旅団長が多いのは、ロシアの部隊が連隊や旅団として闘っており、必ずしも独立した大隊戦術グループ(BTG)で戦っているわけではないことを示す1つの証拠である。また、旅団や連隊は1つの大隊戦術グループ(BTG)で臨むことができるが、2つ目は不足することが多く、手持ちの人員が乏しいことが露呈していることも、ばらつきの原因であろう。
歩兵はどこにいるのか?:Where Is the Infantry?
もう一つの問題は、兵士の数が多い大隊戦術グループ(BTG)は、機動中隊(例えば自動車化狙撃中隊(motorized rifle company)や戦車中隊(tank company))に対して、砲兵、防空、工兵、電子戦などの支援付加部隊の割合が多いことである。任務によっては、これらの付加部隊は重要であるが、支援アセットに対する機動中隊の割合が少ないため、これらの編成は機動力や地形奪取占領力が劣ることになる。
戦車大隊から編成された大隊戦術グループ(BTG)は、戦車大隊の編成表が151しかないため、一般的に人員は少なく、自動車化狙撃の構成要素が減るため、さらに小さくなるのである。実際、ロシアも戦車連隊の編成表や装備を変更し、場合によっては自動車化狙撃大隊(motorized rifle battalions)を1個中隊に縮小したようである。
つまり、戦車連隊は、戦車大隊戦術グループ(tank battalion tactical group)に少なくとも1個自動車化狙撃中隊(motorized rifle company)を編成することになっているため、全兵力の大隊戦術グループ(BTG)を2個編成できないのである。例えば、ロシアの第2自動車化狙撃師団(Motorized Rifle Division)第1戦車連隊は、70人の単一の自動車化狙撃中隊(motorized rifle company)を持っているだけであり、明らかに不足している。
その結果、ロシア軍は使える下車歩兵がほとんどいない状態で機動編成を展開したが、それでも多くの装甲車を持ってきた。この状況は、1995年のグロズヌイ(Grozny)でロシア軍が直面した問題、すなわち大量の金属性装備と少ない人的資源に似ている。ロシアの戦車部隊は、さまざまな状況で歩兵の支援を必要とし、都市環境での闘いや地形の確保・維持には、下車歩兵が不可欠である。
戦車や装甲車は、対戦車チームなどの脅威から守るための歩兵がいなければ脆弱である。歩兵を最小限にすることで、自動車化狙撃大隊(motorized rifle battalions)は戦車部隊と同じ弱点を抱えているのである。また、多くのロシア軍部隊で兵士に対する装甲車の比率が高いことも、戦争初期にロシア軍から放置された車両の多くを占めたと思われる。
有機的な自動車化狙撃部隊(motorized rifle troops)の不足も、多くのロシア戦車部隊が劣勢であったことの一因であり、ジャベリン(Javelin)、NLAW(Next Generation Light Anti-tank Weapon)、およびStugna-P対戦車兵器で武装したウクライナ軽戦車部隊の待ち伏せに弱かった。この問題は、戦争開始後数週間における歩兵部隊の損失によってさらに悪化した。
特にロシア軍は、ウクライナで直面した多くの状況に対して、十分な軽歩兵部隊を欠いている。自動車化狙撃部隊(motorized rifle units)、空挺部隊、海軍歩兵部隊であっても、装甲車はすべてのレベルで有機的に結合している。そのため、下士官や将校を含む小隊や中隊の全員が、運動部隊(mobile unit)を支援する軽歩兵部隊が望ましいと思われる状況で、車両に搭乗しなければならず、まとまった部隊として下車することができないのである。
空挺大隊も同じ問題に直面している。実際、キエフ近郊のブチャ(Bucha)、イルピン(Irpin)、ホストメル(Hostomel)地区で空挺部隊が受けた大きな損害は、部分的にはこの歩兵不足の結果である可能性がある。ロシアはこの歩兵不足を、マリウポリ(Mariupol)での闘いの大半を担った分離主義者の民兵部隊と同様に、海軍歩兵に大きく傾注することによって、自動車化狙撃部隊(motorized rifle units)の歩兵不足を補っているのである。ロシア海軍の歩兵は、陸上部隊の中で最も優秀な部隊であることは間違いないが、大きな損失を被っている。
ドネツク(Donetsk)とルハンシク(Luhansk)の動員民兵(militia fighters)はドンバスを越えた地域にも展開され、ワグネル(Wagner)の民間軍事請負業者が闘いで重要な役割を果たしたと伝えられている。実際、ワグネル(Wagner)の分遣隊や分離主義者の恒久的な即応性部隊の中には、少なくとも下車部隊として活動する場合には、ロシアの正規の自動車化狙撃部隊(motorized rifle units)よりも精鋭で能力が高いものがあるのではないか、という疑問はもっともである。
また、ロシアは国家警備隊(ロスグバルディア)から軽歩兵の役割を担う部隊を派遣し、これを補った。その中には、警察のSWAT(Special Weapons And Tactics)に似たスペツナズ部隊や、OMON(Special Purpose Mobile Unit)機動隊も含まれている。国家警備隊(ロスグバルディア)は準軍事組織であるが、その部隊は通常戦争のための訓練や装備をしておらず、多くの国家警備隊(ロスグバルディア)部隊はほとんど装甲のない機動隊トラックでウクライナに侵攻した。
現段階では、ロシア軍は、特に装備に比して恒常的に不足している歩兵を補うために、手に入る限りの人手をかき集めようとしている。ロシアは、戦力不足の大隊戦術グループ(BTG)でウクライナに侵攻し、死傷者の大半を出した。
ロシア軍にとって、大隊戦術グループ(BTG)の数は少ないが、十分な人員が確保されていたほうがよかったのだろう。ロシア軍は侵攻直前に再び別の大隊から契約兵士や将校を引き抜いて編成したようだが、部隊は一緒に訓練し、標準作業手順を開発し、結束力を高める機会があったときに最高のパフォーマンスを発揮する。
また、多くのロシア連隊や旅団が、ロシア当局が主張するような2つの大隊戦術グループ(BTG)ではなく、1つの全戦力大隊戦術群しか配置できなかったことも明らかなようである。興味深いことに、これらの編成の弱点の1つは、多数の付属部隊を適切に指揮・統制するための十分な参謀がいないことであると以前指摘されていた。その代わりに、ウクライナのロシア地上軍は頭でっかちで、十分な歩兵下士官を持たず、多くの将校が小さな部隊を指揮していたようである。
ロシア軍が自らを薄く広げ、新しい師団や連隊を獲得する即応性を減らしていることは、分析の世界では知られていた。しかし、問題の程度が明らかになったのは戦争が始まってからであった。その証拠に、最初の結論は2つある。これらの変更や削減は比較的最近、つまり過去3年間のことであり、ロシア軍の一部は組織的に即応性を誇張していた。
その結果、軍の上級幹部は問題の深刻さを知らなかったかもしれないし、システム内のロシアの侵攻計画をめぐる秘密主義が、突然の腐敗の発見を助長し、指揮官がそれらの問題に対処する時間をほとんど与えなかったかもしれない。
下士官の不足?:A Lack of Non-Commissioned Officers?:
ロシア軍の人事上の弱点として、多くの論者が下士官の不足に注目している。下士官は西側諸国の軍隊に多く存在するため、当然といえば当然である。ロシア軍にも下士官はいるが、下士官には指揮官に対する責任や任務の分担といった指導的な役割はない。このような違いは重要だが、強調されすぎている。
例えば、ウクライナはこの戦争までに効果的な下士官団を構築しておらず、せいぜい新生的で意欲的なものでしかなかった。ロシアとウクライナの間には、一般的な言説で取り上げられるような違いもあるが、これらの軍隊の乖離を説明するものではない。この戦争で何が重要で、何が重要でなかったのか、より多くの情報に基づいた会話をするためには時間がかかるだろう。
それよりも、契約二等兵の不足の方が大きな人事問題である。実際、中隊の規模が小さくなったことで、将校が率いる兵士の数が減り、下士官の重要性が低下している。下士官が率いる13人編成の米海兵隊ライフル分隊とほぼ同じ規模の小隊を、ロシアの中尉が率いるケースも少なくない。
大隊戦術グループ(BTG)が小さいのは、ロシアが機動大隊に適切な人員を配置するのに十分な契約軍人を採用できていないことを示している。契約軍人の優先的な任務は、下士官職、精鋭部隊、高度な技術を要する専門分野である。徴兵制は、これらの技術的技能を適切に訓練できるほど長く兵役につかないので、ほとんど契約兵しか配属されないのである。
ロシア航空宇宙軍、海軍、戦略ミサイル軍は、技術的な任務の割合が高いため、陸軍よりも契約兵の割合が高い。地上軍では、防空、電子戦、その他の装備オペレーターなどの任務と同様に、すべての下士官を契約兵で充足させることが優先される。
また、空挺部隊、海軍歩兵部隊、スペツナズ、偵察部隊などのエリート部隊は、契約兵の受け入れの優先順位が高くなっている。その結果、自動車化狙撃大隊(motorized rifle battalions)には契約兵が足りず、ロシアは恒久的な即応性大隊戦術グループ(BTG)の数を減らす代わりに、この大隊の人員削減で補うことにしたようだ。
歩兵だけでない。ロシアの機動部隊は、輸送隊の運転手となる契約二等兵を十分に持たず、徴兵制に頼りすぎていた。そのため、侵攻したとたんに運転手が不足し、兵站の問題が深刻化した。
なぜ、このようなことが起こったのか?:Why Did This Happen?
このようなデザインの選択には、戦略や作戦コンセプトに関するロシアの考え方が重要な役割を果たしている。組織文化や官僚の好みも無視できないが、ロシア軍がこのような体制をとった理由は、結局のところ、ロシア軍事思想の核心につながるものである。軍隊には、どのような戦争をする可能性があるのか、どのように闘うのか、そして能力(capability)、能力容量(capacity)、即応性(readiness)のバランスをとるための最良の方法についての考えがある。
ここでロシアの軍事的思考を深く掘り下げることはできないが、核となる選択は、単に資源のバランスを取り、戦力の柔軟性を確保しようとしただけではなく、ロシア軍がNATOと闘うためにどのように組織されるべきかという一貫した信念によって行われた。その結果、歩兵の数が減り、地上攻勢を維持したり領土を保持したりするための兵站能力容量(logistical capacity)が低下したが、火力とイネーブラへの支援は強化されることになった。
これでは、安全な通信手段の欠如から、戦場での航空支援、火力、偵察の一体化の不十分さまで、多くの分野でロシア軍に見られる問題を説明できない。技量(competence)、規模を拡大する運用(scaled-up employment)、一体化には明らかに問題がある。
しかし、通常の戦争はしばしば消耗戦となり、人的資源と装備が他の多くの要素よりも時間をかけて重要になる。十分なヘッジを持つ軍隊は、ひどい計画を補い、最初の失敗から回復し、適応しようとすることができる。ロシア軍にはそのような選択肢はなく、この戦争の政治的枠組みによってさらに制約を受ける。
実際、プーチンがロシアの軍事能力(military capability)を過大評価していたのかどうかは未解決の問題である。あるいは、ウクライナはすぐに降伏するだろうという政治的な思い込みが、プーチンの思考を支配していたのかもしれない。軍が、実際に何ができるかについて不誠実なこともあるが、政治指導者が軍隊の助言に耳を貸そうとしないのは、単に彼らが聞きたいことと違うからである。おそらく、ロシアの失敗は、その両方が組み合わさったものだろう。
ロシアの人員問題は、今後の動員が深刻な問題に直面することを示唆している。ロシア軍では、徴兵は中央の学校ではなく、ほとんどの訓練を受ける部隊に送られる。しかし、部隊の訓練将校や下士官は、場合によっては派遣されたか、あるいは追加大隊の編成に使われる可能性が高い。
つまり、ロシアの連隊や旅団の残留部隊には、現在到着している徴兵を適切に訓練するための人材がいない可能性があるということだ。この戦争が長引けば長引くほど、訓練と徴兵制に大きな混乱が生じるだろう。
現段階では、ロシアは現在の編成に残る暫定「第3」の大隊に配置された将校と下士官を基に予備大隊を創設し、断片的な解決を試みているようである。これは部分的な動員の一形態だが、これらの部隊の重要な訓練要素を共食いさせることになる。
相当な兵力を動員し、欧米の軍事支援も受けられるようになったウクライナは、この闘いを維持する態勢を整えているように見える。ロシアの作戦が失敗したのは、非現実的な政治目標を追求したためだけでなく、侵攻計画が戦力構造の選択とそれがもたらす制約を考慮していなかったためである。
ロシアの部隊運用は、構築した部隊に内在する不利な点を悪化させた。現在、ロシアは戦場で現有戦力をローテーションさせたり、ドンバス(Donbas)での現在の作戦を超える攻勢をかけたりするための人的資源が不足している。
しかし、ロシア軍はドンバス(Donbas)で地域的戦力の優位性をもっているようであり、ここで提起された全体的な長期的課題は、短期的にはロシアの進展を阻害しないかもしれない。多くのことが偶発的であり、本評価は決定論的なものではない。
ここで述べた議論は予備的なものであり、ドンバス(Donbas)での会戦の結果やこの戦争の行方を予言するものではない。しかし、戦力構造や軍事戦略に関する現代の議論は、ロシア軍がどのような選択をし、なぜこのような状況に陥ったのかを見ることによって、大きな利益を得ることができるだろう。
ロシア軍が最初にこの戦争に投入された最も決定的な要因の1つである政治的前提の優位性については多くのことが語られているが、それと同様に、ロシア軍の戦闘作戦の調整と持続性の実力(ability)を制限しているのは構造的な選択である。