内線はインド太平洋における地上戦力の非対称的な優位性となる (www.defenseone.com)

ウクライナでの戦争でも第一線で闘う部隊に対して、補給をどのように続けるかが話題となっている。軍事分野では、部隊の後方連絡線(line of communications)をどのように構築していくかは重要な課題となる。ja.wikipedia.orgでは、これらのことを「内線および外線作戦」で「内線および外線作戦(interior and exterior lines of operations)とは、彼我の部隊の態勢によって決まる作戦の二つの類型である。内線作戦は複数の敵の間に位置する態勢での作戦であり、外線作戦は敵を挟んで位置する態勢での作戦である」と説明している。

列島線(island chains)といわれる戦域で敵と相対する時にこの問題は極めて重要であり、米軍とこの地域でパートナーとして戦うことを想定する各国の部隊は、各種演習でこの支援の態勢を指揮・統制や機動(maneuver)などを含めたシナリオで確認しているようである。その一端を垣間見ることのできる記事を紹介する。(軍治)

内線はインド太平洋における地上戦力の非対称的な優位性となる

米陸軍は、機動、通信、兵站のコンパクトなラインを構築している

Interior lines Will Make Land Power the Asymmetric Advantage in the Indo-Pacific

The Army is building compact lines of maneuver, communications, and logistics.

By GEN. CHARLES FLYNN and LT. COL. SARAH STARR

MARCH 15, 2023

www.defenseone.com

チャールズ・フリン(Charles Flynn)米陸軍大将は、2021年6月から米太平洋陸軍(USARPAC)を指揮している。これまでの指導的立場(第25歩兵師団司令官、米太平洋陸軍(USARPAC)副司令官など)は、米インド太平洋軍(USINDOPACOM)の統合作戦における米陸軍の役割に対する理解やアプローチに影響を与えている。

サラ・スター(Sarah Starr)米陸軍中佐は、米太平洋陸軍(USARPAC)の陸軍戦略官である。陸軍参謀を経て、ハーバード・ケネディスクール、ノースジョージア大学、ゴンザガ大学から学位を取得。

2022年2月、ハワイ州パールハーバーの第8戦域後方支援コマンドの計画担当者は、フロアマップを使って米陸軍の事前集積(prepositioned stocks)とパシフィック・パスウェイズ(Pacific Pathways)2022に参加する他の要素を表示した。

リチャード・ペレス(RICHARD PEREZ)米陸軍2等軍曹

中華人民共和国の接近阻止/領域拒否(anti-access/area denial)の重要な脆弱性により、従来型の地上部隊(米兵と海兵隊員)は、2つの海を意味する戦域において、統合部隊の非対称な優位性を持つことになる。接近阻止/領域拒否(A2/AD)システムは、大型で高速移動する船舶や飛行機を発見して破壊し、宇宙やサイバー能力を混乱させるために構築されたものである。しかし、A2/ADシステムは、その保護されたバブルの中に移動型の地上部隊(mobile land forces)のグループを追跡するようにはデザインされていない。

エアランド・バトル(AirLand Battle)を逆手に取れば、地上部隊(land forces)は航空・海軍のアセットを闘いに参加させるために不可欠となる。元インド太平洋軍司令官ハリー・ハリス(Harry Harris)提督の言葉を借りれば、地上部隊(land forces)はA2/ADネットワークに穴を開けるために「船を沈め、衛星を無力化し、ミサイルを撃ち落とし、敵をハッキングまたは妨害する」。このような軟化攻撃(softening attacks)は、空軍と海軍が攻撃的な攻撃から戦力や装備の輸送まで、バースト的な作戦(bursts of operations)を実施するための窓を提供することになる。

重要なのは内線(interior lines)、つまり機動、通信、兵站のコンパクトなラインを作ることである。内線(interior lines)は、地上軍を配置することで、軍や国の指導者に選択肢を提供する。例えば、海兵隊のスタンドイン・フォース・コンセプトは、位置的優位性を保ち、海上交通の要衝など重要な地形を物理的にコントロールするために、内線(interior lines)に依存している。内線(interior lines)はまた、紛争に基本的な防護、収集、指揮・統制、後方支援のための基盤設備を配置することで、作戦の耐久性(戦争の連続的な会戦を闘う軍の能力)を強化する。

欧州では、NATOの内線(interior lines)は冷戦時代の態勢をバックボーンとして構築されている。常駐する部隊、備蓄品、基地や空港、港湾を含む兵站ネットワークはすでに整備され、大規模な軍事作戦を支援する準備が整っている。

しかし、インド太平洋地域では、米軍は闘い、勝利するために必要な内線(interior lines)に欠けている。米軍の兵力と装備は韓国と日本に集中し、米国はアジアの他の場所での態勢について紛争前の合意を確保することが恒常的に課題となっている。縦深性ある弾薬庫と独自の内線(interior lines)という優位性を持つ人民解放軍(PLA)部隊に対抗するためには、米軍は、東南アジアから第1、第2列島線を経てオーストラリアまで、欠けている内線(interior lines)を開発するための創造的かつ実用的なアプローチを採用しなければならない。

内線を構築する:Building interior lines

そこで米陸軍は、毎年行われている「ディフェンダー・パシフィック(Defender Pacific)」演習を、将来のハイエンド紛争における5つの基本的役割に沿った統合内線(joint interior lines)を構築するための「パスウェイ作戦(Operation Pathways)」に変更した。

作戦の耐久性の基礎であり、将来の紛争における脆弱性であると認識されている「後方支援(sustainment)」に、早くも焦点が当てられている。統合部隊は全体として、12月のAUSMIN協定などの外交的前進により、国際座標軸の西側で物資や装備の備蓄を増やしている。このような事前集積(prepositioning)は、時間、費用、そして紛争時に重要な、米国から出航する船舶や飛行機のスペースを節約する。

陸軍は、東南アジアで「パスウェイズ作戦(Operation Pathways)」中に「活動セット(activity sets)」を作成することで、これらの備蓄を増やしている。戦闘に特化した事前集積(prepositioned stocks)よりも争点が少ない活動セットは、多目的の装備や店舗を保管するものである。例えばフィリピンでは、折りたたみ式の6,000人収容の住宅が、食料、水、土木資材、飛行場修理キット、医療品と一緒に保管されている。

しかし、事前集積(prepositioning)が解決するのは問題の一部だけである。戦場での持続には、大規模なリハーサルだけでなく、兵站ネットワークの広範な開発が必要なため、「パスウェイ作戦(Operation Pathways)」は2023年に航空移動コマンドの「モビリティ・ガーディアン作戦(Operation Mobility Guardian)」と協力することになる。陸軍の第8戦域後方支援コマンドは初めて、第1、第2列島線と東南アジア全域で6カ月連続の兵站・後方支援作戦を指示することになる。

日本を拠点とする米陸軍の水上艦艇が、米軍の装備を列島線にわたって輸送する。米陸軍が昨年から実践していることだが、1990年代から危機のために艦船に保管されていた装備品を部隊が使用することになる。これらの取組みは、7月と8月に行われる米豪最大の演習「タリスマン・セイバー(Talisman Sabre)」での複雑な沿岸部兵站作戦(over-the-shore logistics operations)で頂点に達することになる。

「パスウェイズ作戦(Operation Pathways)」のもう一つの初期の焦点は、ハイエンド紛争に向けた軍事演習を再構築し、同盟国やパートナーとのマルチドメイン能力およびドクトリンの存在と使用を常態化することである。

例えば日本では、昨年の二国間演習「オリエント・シールド(Orient Shield)」が戦略的に重要な南西諸島に移動し、HIMARSが初めて奄美大島に配備され、マルチドメイン・タスク部隊(multi-domain task force)が日本の自衛隊と演習を行った。その数ヵ月後、日米の二つ星(少将)の司令部、三つ星(中将)の司令部がペアを組み、日本の領域横断作戦(cross-domain operations)と米軍のマルチドメイン作戦をやり遂げた。

予想外のことではあるが、この地域のいくつかの二国間演習が急速に多国間演習に発展していることは喜ばしいことである。例えば、「ガルーダ・シールド(Garuda Shield)」は、歴史的にインドネシアとの陸軍同士の演習だったが、昨年、14カ国から4,000人の部隊が参加する合同演習に急成長した。

これらの演習はすべて、毎年2万人以上のローテーション部隊をこの地域に移動させ、東南アジアの訓練場へのアクセスを拡大し、米軍と装備をこの地域に長期滞在させる演習の窓を拡張することによって、統合部隊の内線(interior lines)を有機的に厚くしている。

戦略的意味合い:Strategic implications

こうした戦術的な行動は、すでに戦略的な利益を生み出し始めている。米軍と地域軍の結びつきを強化する演習は、同盟やパートナーシップの破壊に依存する地域覇権を狙う中国の戦略を阻止するのに役立つ。インドと米軍の演習「ユード・アビハス2022(Yudh Abyhas 2022)」は、内線(interior lines)の構築が地域関係の進展にいかに役立つかを示している。また、米国の政策立案者は、国防の優先順位の変化やつかの間の機会(fleeting opportunities)など、地域の動向や各国の安全保障上の懸念について洞察することができる。

最も重要なのは、内線(interior lines)構築に伴う持続的な存在感と投資によって、米国のコミットメントを示すことができることである。これは、米国のウクライナ支援を注意深く監視している地域にとって重要なことである。実証されたコミットメントは、各国がより重要な政策課題に対して時間をかけて立場を変えていくための根拠となる。そして、最近の日本やオーストラリアとの2+2協議のように、5年前には考えられなかったような連続的な外交的前進は、アジア全体の安全保障情勢が先鋭化する中で、複合的な機会をもたらしてくれる。

そして、いざ紛争が起きれば、内線(interior lines)を構築するローテーション部隊によって構築されたプレゼンスが、すべての違いを生むかもしれない。米軍をまだ受け入れていない国は、例えば、国境内からミサイルや航空機を発射するという米国の要求に応じないかもしれない。例えば、最近の戦略国際問題研究所(CSIS)の報告書は、陸軍のマルチドメイン・タスク部隊や海兵隊の海兵沿岸連隊は、インド太平洋の危機において重要な役割を果たすことはないだろうと論じている。

しかし、米国がすでに演習のために部隊を派遣している場合、同盟国やパートナーの意思決定は変化する。相手国政府は当初、米軍の収集、後方支援、指揮・統制、防護など、あまり目立たない、あるいはエスカレートするような作戦を承認する可能性がある。そして、その国がさらに立場を変えれば、地上にいる米国の各能力は、軍や国の指導者が利用できる選択肢を拡大することになる。

同盟国の態勢や能力、海兵隊のスタンド・イン・フォースと組み合わせることで、陸軍の「パスウェイズ作戦(Operation Pathways)」は内線(interior lines)を太くし、初期の共同作戦の基礎を築くことができる。個々では、これらの取組みは取るに足らないものに見えるかもしれない。

これらは共に、人民解放軍(PLA)の侵略に対抗するための手段を米軍に提供する準備とリハーサルの統合戦役(joint campaign)を形成しているのである。内線(interior lines)は、一体化した抑止(integrated deterrence)に対する米軍の貢献を支えるものであり、そうすることで、この地域の安全保障構造を結びつける同盟国やパートナーのネットワークをさらに強化するものである。

将来のインド太平洋戦争に勝利するためには何が必要なのか、誰にもわからない。人民解放軍(PLA)の能力と中国共産党(CCP)の野心は、米国に第二次世界大戦のような自由を与えてはくれない。アジアは、統合の解決策を必要とする問題を抱えた統合戦域である。協力することが勝利への唯一の方法であり、それは内線(interior lines)から始まる。