コネクティビティ飽和時代の兵士とソーシャル・メディア (RUSI)

ソーシャル・メディアが戦いの様相を変えていることについては、多くの事例と共にその効果などが研究されている。ここでは、ソーシャル・メディアの軍隊における普及とその影響について兵士の視点から論じた英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)の研究員の論稿を紹介する。(軍治)

コネクティビティ飽和時代の兵士とソーシャル・メディア

Soldiers and Social Media in the Age of Connectivity Saturation

Major Patrick Hinton

22 September 2023

パトリック・ヒントン少佐は、2023年8月末までRUSIの軍事科学研究グループで参謀総長の客員研究員を務めていた。

ソーシャル・メディア・プラットフォームの普及は、軍の作戦成果を助けることもあれば妨げることもあり、管理と取り締まりがますます困難になることを意味する。不適切に使用すると、セキュリティへの影響や、致命的な標的化につながる可能性がある。また、それは部隊の結束を損ない、規律上の問題を引き起こし、国内外を問わず、部隊が主要な成果の準備と実行に集中できなくなる可能性がある。

ウクライナでのミサイル攻撃、ロシアでの暗殺、米国での国家機密の漏洩、英国での逮捕と投獄:これらすべての出来事は軍関係者によるソーシャル・メディアの使用に関連している。Instagram、Twitter (または X)、Threads、Facebook、Snapchat、TikTok、Twitch、Discord、LinkedIn、Strava、Reddit – ソーシャル・メディア プラットフォームのリストは続き、増え続けている。

ほとんどの人にとって、ソーシャル・メディアの使用は無害である。しかし、軍関係者にとって、これらのプラットフォームの使用には、機密情報の提供から犯罪行為に至るまで、数多くのリスクが伴う。兵士のオンライン活動を追跡することは困難である。兵士は複数のソーシャル・メディア・アカウントを持っており、自分の名前、ペンネーム、またはタグを使用している可能性がある。人々はコストをかけずに、ほとんど考えずにコンテンツを視聴者に瞬時にブロードキャストできる。

軍事ビジネスをオンライン化するのは悪い考えであることは長い間認識されてきた。しかし、今日では兵士がソーシャル・メディアと交流する方法は数多くあり、戦場はますます混濁するばかりだ。オンライン活動を完全に防ぐことは不可能である。軍人によるソーシャル・メディアの使用をめぐる問題を見るには、2つのレンズを通している。1つ目はセキュリティ、2つ目は評判への影響である。この記事では、ソーシャル・メディア上での軍人の過激化というテーマについては取り上げないが、これについては他で詳しく取り上げられている

セキュリティ上の懸念:Security Concerns

兵士がソーシャル・メディアに情報を投稿する際に懸念されるのは、作戦上の安全が脅かされることだ。敵対者に場所や部隊の配置を教えることは、死傷者を出しかねない現実的な脅威である。ウクライナ紛争の初期には、ソーシャル・メディアが情報を提供し、それがターゲッティングに利用されていることが明らかになった。

2022年8月、ウクライナのミサイル打撃がポパスナ市を襲い、ワグネル・グループの兵士の司令部として使用されていたビルを直撃した。建物は破壊され、未確認だが多数の死傷者が出た。その場所は、メッセージング・放送アプリ「Telegram」に写真を投稿した兵士たちのソーシャル・メディア活動によって特定されていた。

このような懸念が現実のものとなったのは今回が初めてではなく、軍隊はソーシャル・メディアの活動を通じて所在を特定されないように予防策を講じてきた-ただし、その効果には疑問が残る。2018年には、アフガニスタンとシリアに駐留する欧米軍の兵士が、フィットネス・アプリケーション「Strava」に運動データをアップロードした後、同地域の軍事基地の位置をうっかり明らかにしてしまったことが広く報じられた。

最近では、ロシアの元潜水艦司令官が朝のランニング中に暗殺されたのは、彼がいつものルートを「Strava」にアップロードしていたからだと指摘された。

若い兵士たちの生活は、携帯電話やインターネットへのアクセスと密接に絡み合っているため、微妙なバランスを保つ必要がある。

2019年、NATOの戦略的コミュニケーション・センター・オブ・エクセレンスの研究者たちは、大規模な軍事演習中にある実験を行った。ソーシャル・メディアを使って、研究チームは演習参加者を特定し、演習と公式にリンクしているように見せかけた偽のFacebookグループへの参加を促すことができた。

これらのプロファイルを分析することで、他の兵士、部隊の正確な位置や連絡先の詳細、装備品の写真を確認することができた。最も憂慮すべきは、一部の兵士が自分の持ち場を離れ、任務を遂行しないよう説得されたことである。

ほとんどの軍隊は、派兵時にソーシャル・メディアにアクセスするための最も一般的な経路である携帯電話の使用に関する方針を持っている。例えば、ロシア議会は2019年に軍人が携帯電話を持って派兵することを禁止することを決議したが、これが決して効果的な対策ではなかったことは2022年の侵攻を見れば明らかだ。

兵士が携帯電話でバーチャル・プライベート・ネットワーク(VPN)を使って居場所を隠蔽しなければならないという中間地点があるかもしれない。実際、西側諸国の多くは、携帯電話が禁止されているか、指揮官に手渡さなければならない演習を実施している。しかし、外の世界へのアクセスを維持できるよう、予備を持参して寝袋の底に忍ばせておく進取の気性に富んだ兵士も珍しくない。

若い兵士たちの生活は、携帯電話やインターネットへのアクセスと密接に結びついているため、微妙なバランスを保つ必要がある。それを完全に断ち切ることは、士気に悪影響を及ぼしかねない。英国海軍は、ソーシャル・メディアにアクセスできることを望むため、英国の継続的な海上核抑止力にとって重要な潜水艦乗組員の採用に苦労している。

英国の潜水艦は週に2回、返信できない60ワードのメッセージを受信することがある。これは、ほとんどの若者にとって普通になっている常時接続とは程遠いものである。

教育と意識向上が、こうした脆弱性を軽減する最善の方法であろう。英国では、安全保障環境は過去数十年よりも寛容になっているようであり、若い兵士たちは、過去に軍関係者であると特定されないように講じられた予防措置を十分に認識していない可能性がある。基地や活動の写真を投稿することは、悪意ある行為者が潜在的な標的を特定するのに役立つ。

紛争とアイルランド共和国軍(IRA)による攻撃の脅威から、何世代にもわたって兵士たちは車の下をチェックし、警戒することに慣れていた。この記憶は時間とともに薄れていった。実際、リー・リグビー(Lee Rigby)が殺害されてから10年以上が経過している。物理的にもオンライン上でも個人的なセキュリティ訓練は毎年行われているが、現実世界が安全であるかのように見えると、抽象的に感じられるかもしれない。

極端な政治環境の中で、兵士がソーシャル・メディアを使って政治的見解を発信することは、ほとんどの軍隊の行動規範に反している。

より微妙な活動としては、軍務の要員がLinkedInのような専門サイトに自分のセキュリティ・クリアランスのレベルを掲載することで、機密情報へのアクセスを示すことがある。LinkedInは、表向きは他の多くのサイトよりも「真面目(serious)」であるにもかかわらず、このことがさらに危険性を高めている。ソーシャル・メディアにおける国家ベースの敵対的活動の脅威が高まっていることは認識されている。

2016年から2021年の間に、機密情報にアクセスできる軍人や民間人と関係を築こうとする外国の諜報員によって、10,000件以上の偽装アプローチが行われたと考えられている。数十年にわたって非国家主体に焦点が当てられてきた後、国家主体による悪意ある活動に対する警戒心が再び高まっていることが認識できる。

規律上の問題:Disciplinary Issues

前述したような安全保障上の重大な懸念のほかにも、ソーシャル・メディアの使用は内部の規律にも影響を及ぼし、その影響は後に戦場で現れる可能性がある。兵士の行動は、作戦の有効性、つまり部隊が目標を完遂できる程度に与える影響によって判断される。

英国女王の軍隊規則(チャールズ3世の即位を考慮し、まだ更新されていない)は、英国軍の行動と規律に関する規則である。服務テスト(Service Test)は、ある行為が違法行為とみなされ、調査や制裁を受ける可能性があるかどうかを判断するために使用される。

このテストでは、「個人の行動や言動が陸軍の効率性や作戦の有効性に悪影響を与えたか、あるいは与える可能性があるか」が問われる。ソーシャル・メディア上の多くの活動は、この定義に抵触する可能性がある。社会的な不品行は、信頼と結束を損なうことによって作戦の有効性を損なう可能性がある。

ソーシャル・メディア上で同僚兵士をいじめたり、荒らしたりすることも、この範疇に含まれる。また、政治環境が極端に変化しているため、兵士がソーシャル・メディアで政治的見解を発信することもあるが、これはほとんどの軍隊の行動規範に反する。一般的に、軍人は政党に所属することは許されているが、政治的見解を公に発信することは控えなければならない。

上級兵士も下級兵士もこのルールに違反し、懲戒処分に直面している。軍事活動に特有で、悪い結果を招きかねないもうひとつのニュアンスは、国内外で死傷者が出た場合のソーシャル・メディアの使用である。「ミニマイズ作戦(Operation MINIMISE)」とは、死傷者の近親者に知らせる正式なプロセスが実施される間、外部とのコミュニケーションを最小限にするよう、すべての隊員に命じた名称である。

兵士が不注意で死傷者に関する情報を送信し、その情報が非公式に、あるいは報道機関を通じて遺族に伝われば、これは部隊の地位に悪影響を及ぼす。共有される情報が不正確であったり、不完全であったりすれば、その結果はさらに不利になるかもしれない。

ソーシャル・メディアはまた、兵士に副収入を得る機会を提供している。公的部門の給与は民間部門に引けを取らないことは広く認識されており、軍隊は、宿泊施設や医療支援を含む幅広い福利厚生制度をもってしても、競争することが難しい。

従来、副業といえば、週末にトラック運転手をしたり、ナイトクラブで用心棒をしたりするのが一般的だった。今や兵士たちは、Twitchでストリーミング配信をしたり、『Only Fans』のようなコンテンツ共有プラットフォームで画像や動画を売ったりしてお金を稼ぐことができる。

これ自体は容認できないことではないが、活動に関与する個人を軍隊の一員と見なさない、軍隊の評判を落とさないなど、既存の規則と一致させなければならない。ソーシャル・メディア上の活動は、まったく無害なものから、同意なしに親密な画像や動画をアップロードするような違法なものまでさまざまである。

軍関係者によるソーシャル・メディア利用の問題は複雑で、多くの要素が絡み合っている。不適切な使用や不注意な使用によって、個人の安全や作戦上の安全が損なわれる可能性があり、第二次世界大戦の「口は災いの元(loose lips sink ships)」という慣用句が今も生きていることを示している。バランスがすべてソーシャル・メディアは、同盟国を安心させたり敵対者を抑止したりと、国家目標を推進するための戦略的コミュニケーション・ツールとして上級将校によって使用されている。

また、部隊や編隊が、厳しい採用環境の中で入隊者を惹きつけるためにも利用されている。しかし、チームの団結力に影響を与え、敵対者の手中に入るような、劣悪、不適切、違法な行為が行われていることを示す証拠も後を絶たない。

本コメンタリーで述べられている見解は筆者のものであり、RUSIやその他の機関の見解を代表するものではない。