空約束?マルチドメイン作戦の世界での1年 (War on the Rocks)

米陸軍が2014年に公表した「The U.S. Army Operating Concept : Win in a Complex World 2020-2040」からほぼ10年が経過した。このコンセプトから発展していったと言われる「TRADOC Pamphlet 525-3-1: The U.S. Army in Multi-Domain Operations 2028」を核として米国の統合コンセプトや米各軍種のコンセプトやドクトリンに影響を及ぼしたと言われている。防衛省・自衛隊の多次元統合防衛力や領域横断作戦にも影響を与えている。「陸自は、領域横断作戦と米陸軍のマルチ・ドメイン・オペレーションを踏まえた日米の連携・・・」というフレーズは良く目にする。米国の作戦コンセプトや作戦のドクトリンが西側の軍事に大いに影響を与えていることは容易に想像できる。一方で、米軍内部でのこのコンセプトやドクトリンがどれだけ受け入れられているかについては、肯定的な意見だけではないとも言われている。このような中で「War on the Rocks」に掲載された「MULTI-DOMAIN OPERATIONS」についての論稿を紹介する。なお、記事中に引用されているイスラエルのエアド・ヘヒト(Eado Hecht)氏の論稿「Defeat Mechanisms: The Rationale Behind the Strategy」MILTERMで確認できる。(軍治)

空約束?マルチドメイン作戦の世界での1年

EMPTY PROMISES? A YEAR INSIDE THE WORLD OF MULTI-DOMAIN OPERATIONS

DAVIS ELLISON AND TIM SWEIJS

JANUARY 22, 2024

War on the Rocks

デイビス・エリソン(Davis Ellison)はハーグ戦略研究センターの戦略アナリストで、キングス・カレッジ・ロンドン戦争研究科の博士候補。

ティム・スウェイス(Tim Sweijs)はハーグ戦略研究センターの研究ディレクターであり、オランダ戦争研究センターの上級研究員でもある。

写真提供:米海兵隊(ヨーロッパ、アフリカ)技術軍曹 バート・トレイナー(Burt Traynor)

米国国防総省の2023年の「中華人民共和国に関わる軍事・安全保障の開発(Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China」報告書は、中国における2021年の「中核的軍事コンセプト」がマルチドメイン精密戦(multi-domain precision warfare)を中心とするものであると指摘した。

このコンセプトは、「ビッグ・データと人工知能の進歩を取り入れた(指揮・統制・通信・コンピューター・インテリジェンス・監視・偵察)ネットワークを活用し、米国の作戦システムにおける重要な脆弱性を迅速に特定し、その脆弱性に対して精度の高い攻撃を仕掛けるために、ドメインを超えた統合部隊を組み合わせることを意図している」

聞き覚えがないか?そうだろう。これは、少なくとも2015年以降に米陸軍が開発し、その後NATO全域でコピーされるようになった用兵コンセプトであるマルチドメイン作戦のほぼ正確な鏡像である。その流行り廃りにもかかわらず、あるいは流行り廃りがあるからこそ、マルチドメイン作戦のコンセプトは現在、西側諸国の軍隊とその仲間たちの変革と近代化の指針となっている。

しかし、マルチドメイン作戦が完全に機能する用兵コンセプトとして成熟するのか、それともかつてのエフェクト・ベース作戦のように廃れてしまうのか、懸念は大きい。

我々は1年近くにわたり、マルチドメイン作戦を考える主要な拠点をいくつか訪問した。国防総省の計画担当者、ドイツやオランダの陸軍司令部の将校、イスラエル国防軍の戦略家、フランス、デンマーク、NATOの専門家や運用者たちと同席した。

我々のうちの一人は、むかしNATOのコンセプトに携わったこともある。我々は、マルチドメイン作戦の開発状況を、第一の疑問を念頭に置いて評価した。それは実際に戦争に勝てるのか?もしそうなら、どうやって?

我々が発見したのは、これらの疑問に対する明確な答えはほとんどないということだ。新しいコンセプトは、しばしば非常に楽観的で、他部隊や同盟国との連携が取れておらず、明確な成功理論がない。用兵コンセプトとは、定義されたパラメーターの範囲内で軍事の術と学(military art and science)を適用することを一般的な用語で説明したものである。

多くの現代的なコンセプトの中で際立っているのは、考え(ideas)やビジョン、用語の寄せ集めであり、それらは互いにほとんど関係ないことが多い。ある者にとっては、マルチドメイン作戦は、ミサイルや衛星、ネットワークが敵を破壊するために連動するイメージを持つ、新たな軍事における革命の一歩に過ぎない。また、ある人にとっては、あらゆるものを、あらゆる場所で、あらゆる時間に抑止できるような、政府全体のスタイルによる統合(一体化)に新たなエネルギーを注ぐことを求めるものである。

それ以上に重要なのは、この考え方が戦場に与える影響である。現場のウクライナ軍は、ロシアの防衛線を克服するために闘う中で、NATOのトレーナーから教わった機動中心のコンセプトを捨てざるを得なくなっている

イスラエル軍は、ガザがおそらく地球上で最も監視の厳重な地域であるにもかかわらず、ハマスの大規模な奇襲攻撃によって窮地に陥った。そして、ガザでの戦争は、イスラエルのマルチドメイン・コンセプトの期待に反して、すでに激しい市街戦へと突入している。

民間人への影響を最小限に抑えながら紛争を迅速に解決するために、すべてを見渡し、迅速に移動し、どこでも攻撃できるという主張が、再び問われている。機動中心、マルチドメイン作戦スタイルの思考は、空約束をしているようだ。

このことはすべて、軍隊がトレーニング・センターでの取組みを「考える人」から「実行する人」に軸足を移し、新しい考え(ideas)と戦場での経験におけるニーズや現実との間の実際のフィードバック・メカニズムをより洗練されたものにする用意があることを意味する。

コンセプトの開発は、現在進行中の戦争や、統合部隊内での演習や実験から抽出された洞察に基づくべきである。また、特定の敵対者に対する成功の理論も明確にする必要がある。最後に、マルチドメイン作戦を効果的に実施するには、成熟した技術を十分な数、訓練された即応部隊に配備できるかどうかにかかっている。

優れた用兵コンセプトの条件:What Makes a Good Warfighting Concept

過去において、用兵コンセプトは軍事組織が戦争に勝利するのに役立ってきた。第一次世界大戦中の諸兵科連合戦の開発や、第二次世界大戦を前にした機械化の導入は、この成功の典型である。

1980年代に米陸軍のベトナム戦争後の変革の一環として開発されたエアランド・バトル(AirLand Battle)(NATO用語では後続部隊への攻撃(Follow-On Forces Attack))は、湾岸戦争での一方的な勝利のためのコンセプト的な舞台を整えた。精密誘導航空兵力が用兵コンセプトの中心であることは、1999年のコソボで再び証明されることになる。

上記のような統合用兵コンセプトがうまく採用され、実施されるためには、多くの要因が整備されている必要があった。各軍種と同盟国間で共有された理解と、一致したインセンティブ構造が、コンセプトの実際の正式採用に貢献した。軍の将校は文民指導者の支持を取り付けた。

上記のケースでは、明確な脅威が、理論的な課題ではなく、実際の作戦上の課題にコンセプトの焦点を当てていた。その結果、実際に検証可能な撃破(敗北)メカニズムを明文化した成功理論を策定することができ、それが演習プログラムを推進する原動力となった。技術が十分に成熟し、十分な数が利用可能であった。

我々の調査によって、NATO諸国とその親密なパートナー諸国におけるマルチドメイン作戦開発の状況は暗いものであることが明らかになった。我々が調査したケースでは、上記のような条件はほとんど整っておらず、新しいコンセプトが過大な期待を抱かせ、過小な成果をもたらし、具体的な戦略的・作戦的課題の解決から重要な注意をそらすという現実的なリスクを生み出している。

バビロニアの混乱:Babylonian Confusion

マルチドメイン作戦のコンセプト開発は、多国間の取組みにおいて明確さを欠き、混乱を悪化させてきた。我々が調査した事例では、用語とその意味に大きなばらつきがあった。「マルチドメイン」の後には、主に「作戦」(デンマークNATO米国)、「統合(一体化)」(英国)、「機動」(イスラエル)、「抑止」(台湾)など、さまざまな用語が続く。

Multimilieux/multichampsはフランス語で、ドイツはMultidimensionalitätと表記する。「ドメイン」と「ディメンジョン」はしばしば異なる意味を持ち、ある国(デンマーク、フランス、ドイツ、イスラエル、米国)は5つの軍事ドメイン(空、海、陸、サイバー、宇宙)のみを明確に指しているが、他の国(英国、台湾)は他の政府機能を含む可能性があるため、この用語をより広く理解している。

この用語のギャラリーは、英語以外ではさらに複雑になる、 ドイツ語やヘブライ語のように、”domain “と “dimension “が同じ意味で使われることもある。

個々のコンセプトでさえ、言葉やイメージは説明するのと同じくらい混乱させる。英国の「マルチ・ドメイン統合(一体化)統合コンセプト・ノート」と、そこから引用した下の画像を例にとる。

図 1. 統合コンセプトノート1/20 マルチドメイン統合(一体化)(英国国防総省)

マルチ・ドメイン統合(一体化)のコンセプトは以下のとおりである。

国力の他の手段、同盟国、パートナーと協調して軍事能力を態勢化すること。作戦ドメインと戦いのレベル全体にわたって、最適なテンポで効果を感知し、理解し、組織化(orchestrate)するように構成されること。

つまり、このコンセプトは同時に戦略的、作戦的、戦術的であり、ほぼすべての国家機能を包含し、「機会の窓(window of opportunity)」を利用することに大きく依存している。これは典型的な 「流行語ビンゴ(buzzword bingo)」であり、実際にこのコンセプトを理解することを容易にしている。一般論で埋め尽くされた曖昧で漠然とした言葉は、官僚の大幅な妥協の結果である可能性が高い。つまり、形式は実質に優先するのだ。

体制の適合性が低い:Poor Regime Fit

多くの場合、マルチ・ドメイン作戦のコンセプトは、既存の政治的・軍事的構造にはうまく適合しない。新しいコンセプトが、軍や国防を他の省庁の指導的役割や調整的役割に担わせるような場合は特にそうである。

安全保障問題全般の調整役として軍が暗黙の中心的役割を担う英国のコンセプトは、外務・英連邦・開発局や議会と対立してきた。このコンセプトは、国防に過大な役割を提案するものであるため、英国の政治・軍事システムの中では消化しにくい。

米国の場合、軍部間の対立が特に強く、統合部隊全体でマルチドメイン作戦を制度化する取り組みに直接的な影響を与えた。米陸軍と空軍は競争する開発の取組みを主導し、海軍と海兵隊は西太平洋に非常に焦点を絞った独自の軍種別アプローチを開発した。

重要なのは、訓練、予算編成、調達における軍種のプロセスが異なっていることで、軍種固有のチャンネルで実装することになり、統合の取組みの妨げになっていることである。

最も低いレベルでは、軍種内にも緊張が見られる。米国、英国、ドイツ、フランスイスラエルなど、マルチ・ドメイン作戦を推進する多くの国々では、陸軍の師団が、作戦を展開する上で最も適切な部隊として想定されてきた。しかし、これはケースによって一貫していない。

米国にもイスラエルにも、異なるレベルに位置するマルチドメイン部隊(米国のマルチドメイン・タスク部隊とイスラエルのゴースト部隊)がある。米国の場合は事実上、戦域レベルの一連のミサイル旅団(欧州と太平洋の両方に拠点を置く)であり、イスラエルの場合は実験的な特殊部隊の大隊である。イスラエルでは、空挺軍団と機甲軍団の間で長年続いている軍内の対立と同様に、誰がマルチドメイン作戦を「行うのか(does)」が依然として論争の的となっている。

これら3つのレベルの間にも、またそれぞれのレベル内にも不協和音が存在する。「政府全体(whole-of-government)」型のアプローチを強調するコンセプトは、指揮をめぐる軍民間の緊張を招く危険性があり、精密打撃システムを強調するコンセプトは、こうした新しい能力を誰が所有するのか、あるいは誰が指揮の主導権を握るのかをめぐる軍間の対立を招く危険性がある。そして、これらは主として平時の議論であるが、緊張は戦時下でも続いており、理解することがより重要となっている。

技術の未熟さ:Technological Immaturity

マルチドメイン作戦のコンセプトの中で技術的に重視されているのは、通信のスピード、行動のスピード、そして移動のスピードである。戦争が早期かつ迅速に解決されることを前提とするある観点からは、これは完全に理にかなっている。しかし、別の見方をすれば、スピードを追求し続けることはテンポを無視することになり、作戦は指揮官と政治指導者の双方から統制不能に陥る可能性がある。

さらに、戦術的・作戦的スピードを戦略的成果に結びつけること自体、証明されていない仮定である。これと並行して、ゲームを変えるような能力の多くがまだ存在していないという単純な事実もある。特に、こうした能力の大幅な不足に直面し続けている欧州軍にとってはそうである。

特に通信の分野では、ほとんどのコンセプトがこの技術的過信の餌食になる。戦闘中の確実な接続は、ほとんどすべてのマルチドメイン作戦の中心的な役割を果たす。米国、英国、フランス、ドイツ、イスラエル、台湾、NATOはいずれも、何らかのスタイルの次世代指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・監視・偵察能力をコンセプトの中核に据えており、比較的近い将来、強力なネットワークが確実に利用可能になることを前提としている。

現実には、ここ数年、かなり注目されているにもかかわらず、多くのマルチドメイン作戦思想の前提となっている確実な接続性のレベルは、現実的とは言い難いロシア中国イラン軍が過去数十年にわたり、電子戦能力と相手の戦場での接続性を低下させることに多大な投資を行ってきたことを考えれば、これは依然として盲点である。技術的な成熟を前提に、かなりの量のコンセプト的な、さらにはより高度な戦略的レベルの作業が行われていることは、現世代の取組みの重大な欠陥である。

マルチドメイン作戦のコンセプトが想像するようなスピードと決断力が、技術的に実現可能であり、望ましい結果をもたらすと考える理由はほとんどない。米国の統合全ドメイン指揮・統制システムのような近年のハイレベルな取組みは、まだ大きな一歩を踏み出せていない。この思い上がりは、欧米流の戦いの方法に関する考え方を浸透させ続けるリスクをもたらしている。

漠然とした脅威:Vague Threats

軍事コンセプトが特定の敵対者を指定すべきものであることは自明の理のように思われる。想定される結果が敵を自分の意のままに従わせることであるなら、敵対者とその敵対者がもたらす脅威を明確に考慮に入れることは理にかなっている。しかし、多くのコンセプトは敵対者を特定できず、漠然とした脅威の説明しかない。

英国、フランス、ドイツ、デンマークは暗黙のうちにロシアとNATOの東部戦線を重視しているが、これは敵の接近に基づく詳細な脅威の記述にはつながらない。NATO自体は、その2022年戦略的コンセプトを通じて同盟が特定することに合意した2つの脅威-ロシアとテロ組織-を持つという点で、その具体性に助けられている。

米国にとっては、世界的な利益にまたがる取組みが必要であるため、より困難であることは間違いない。米陸軍のマルチドメイン作戦コンセプトは、暗黙のうちにバルト海と台湾の両方のシナリオを想定してデザインされており、ミサイルが支配的な環境における機動性の確保が主な問題であることを暗に示している。

イスラエル、台湾、韓国など、国境で直接脅威に直面している国にとっては、これは問題ではない。彼らのコンセプトは敵対者を特定し、明確な脅威の説明を含んでいる。NATOの主要国にはそれがないため、戦略策定の観点と防衛計画策定の観点の両面から問題が生じている。

成功の理論がない:No Theory of Success

成功の理論を明確に打ち出している国はほとんどない。フランス、イスラエル、台湾だけが、それぞれのマルチドメイン作戦コンセプトの中で想定されている新しいアプローチが、どのように相手を打ち負かす(defeat)ことにつながるかについて、暫定的な因果関係を説明している。

実際には、このような議論は次のようになる。「もしNATO軍が前方防御システムとともに長距離精密火力を組込んだマルチドメイン作戦アプローチを採用するならば、 その時は、これらの部隊は東部戦線におけるロシアの攻撃を効果的に撃破する(defeat)ことができる、 というのも、これらの師団は後方の梯団のターゲットを効果的にターゲットにすることができる、一方で前線のロシア軍部隊による攻撃を鈍らせることができるからである」

上の仮説に登場するのは、撃破(敗北)メカニズムである。イスラエルを代表する軍事アナリストであるエアド・ヘヒト(Eado Hecht)によって記述されたこのメカニズムは、敵を打ち負かすために意図された損害を引き起こすさまざまなプロセスを表している。このようなメカニズムは、訓練センターで厳密にテストされ、改ざんされ、改良される。

当然ながら、どんな完全な理論も不完全なものだ。上記のNATOの例がうまくいく保証は何もない(ウクライナでは、そうでないことを示す証拠もある)。しかし、統合演習でテストしたり、シミュレーションで試したり、現代の紛争から得られた知見と照らし合わせたりすることで、改善や再適用が可能になる。

不透明なリスク:Opaque Risks

新しい用兵コンセプトや、それに対する多くの評価で見逃されがちな重要な要素は、新しいアプ ローチを採用する際に内在するリスクである。新しいコンセプトはどれも、リスクを伴う暗黙のトレードオフを含んでいる。ある脅威や別の脅威を優先させたり、特定の能力を選択したり、新しい組織構造を提案したりすることで、その欠点が明示されることがほとんどない選択がなされる。

現在のところ、調査したどのケースも、上記のような方法でリスクを評価していない。リスクが指摘されるとしても、それはそれぞれのコンセプトが実施されず、資金が提供されなかった場合のリスクを主張するためだけであり、脅威の知覚と同様に官僚的な考慮事項に影響される計算である。

マルチドメイン作戦タイプのコンセプトの開発に対する無批判なアプローチから生じるリスクは、少なくとも4つある。統制範囲が広すぎて、指揮官が過負荷になる可能性、接続性への過度の依存、機械論的、過剰工学的アプローチによるトップ・ヘビー化、そして、全体は究極的には部分の総和以上であるという思い込み、である。どれも、もし対処されなければ、新しい仕事を頓挫させ続けるだろう。

今後の展望:The Way Ahead

マルチドメイン作戦の運用者や戦略家と1年間過ごしてきて、私たちは、マルチドメイン作戦が流行りの考え(ideas)にとどまり、大規模に実施されないことを危惧している。マルチドメイン作戦の「なぜ(why)」、特に「どのように(how)」については、明確な説得力がない。今後、一般的なコンセプトを改善することが不可能だと言っているわけではないが、現在の軌跡は有望とは言えない。このことを念頭に置いて、我々はいくつかの提言を行う。

第一に、バズ・フィリップスが言うところの「考える人(thinkers)」から「実行する人(doers)」へと、繋がりを断ち切ることなくシフトする。考え(ideas)を検証し、無効にし、見直すことは、実験されていなければほとんど不可能である。マルチドメイン作戦を進展させるためには、参謀室を出て訓練センターに行く必要がある。

第二に、過度に巧みになることで、戦争を「戦争でなく(not war)」しようとするのはやめることだ。新しいコンセプトは、戦場から消耗(attrition)を消し去ることも、戦争の霧(fog of war)を晴らすこともできない。そのような試みは、せいぜい奇想天外なものでしかない。具体的な作戦上の問題に焦点を当て、そこから解決策を構築する。

第三に、敵対者について具体的に説明し、マルチドメイン作戦がどのように敵対者力の撃破(敗北)に役立つかを明確にすることである。戦略家には、新しい考え(ideas)が敵部隊が提起する具体的な軍事的問題をどのように解決するのかについて、明確な因果関係を主張する撃破(敗北)メカニズムを策定するよう求める。国家レベルや国際的レベルでのウォーゲーム、シミュレーション、演習でこれらを実践する。

第四に、NATO内および同盟国軍内で、用語と中核的な考え方(ideas)に関する取組みの調整を継続することである。新しいコンセプト、特に小国や中堅国のためのコンセプトは、デザイン上多国籍であるべきであり、言語とコンセプトを一致させるべきである。

最後に、マルチドメイン作戦のビジョンの中核となる技術の利用可能性を考慮する。これらの技術について、さまざまな戦力構成に直結するロードマップを作成する。能力容量(capacity)は、質的な能力容量より重要ではないにしても、それと同じくらい重要であることを認識する。量(quantity)は質(quality)である。多くの量(mass)は、消耗の戦争においては効果的に代替することはできない。

結論として、マルチドメイン作戦の約束は空虚なのだろうか?必ずしもそうではない。上記の基準に照らし合わせると、中国のアプローチは実のところかなり強固に見える。明確な敵が存在し、成功の理論があり、軍種間や政軍関係が一見明確で、既存の軍事能力に基づいている。残念なことに、西側の軍事組織は同じことが言えない。マルチドメイン作戦がその多くの約束を果たすようにするために、彼らは仕事をしなければならない。