サービスとしての戦争:技術の誇大宣伝をやめる (www.rsis.edu.sg)

先般紹介した「過去の長い影を乗り越えて -日本の防衛AI- (Defense AI Observatory)」は防衛AI監視所(DAIO)が公表している人工知能に関わる調査報告であった。防衛AI監視所(DAIO)の活動に関わっているHeiko Borchert氏が、軍事に関わる議論が技術中心であることに対する論評「War as a Service: Stop Overhyping Technology」という論評を公開している。「サービスとしての戦争(WaaS)」という考え方は、なかなか理解の難しい概念である。2021年8月の論稿であるが、用兵(warfighting)を考える際の一つの示唆を与えていると思われるので紹介する。併せて、論稿で引用のある「Beware the Hype」について、「サービスとしての戦争(WaaS)」の何たるかを知るのに有益であるとも思われるので、その論文冒頭の「summary」も最後に掲載している。(軍治)

サービスとしての戦争:技術の誇大宣伝をやめる

War as a Service: Stop Overhyping Technology

By Heiko Borchert, Torben Schütz and Joseph Verbovszky

www.rsis.edu.sg               No. 123 – 13 August 2021

ハイコ・ボルヒャート(Heiko Borchert)博士は共同ディレクター、トルベン・シュッツとジョセフ・ヴェルボフスキーはハンブルクのヘルムート・シュミット大学/連邦軍大学の防衛AI監視所(Defense AI Observatory)の研究員であり、軍隊によるAIの利用を監視・分析している。彼らはRSIS軍事変革プログラムとの協力のもと、この共同論評を寄稿した。

*************************

RSIS論評は、時事的かつ現代的な問題について、タイムリーに、また必要に応じて政策に関連した解説や分析を提供するプラットフォームである。執筆者の見解は執筆者個人のものであり、NTU S. ラジャラトナム国際大学院の公式見解を代表するものではない。これらの論評は、RSIS の事前の許可と、著者および RSIS への謝意をもって、複製することができる。RSIS論評の編集者ヤン・ラザリ・カシム氏(RSISPublications@ntu.edu.sg)までメールでご連絡されたい。

概要

今日、紛争の安定、部隊変革(force transformation)、戦力の拡散(force proliferation)に関する議論は、非常に技術中心的である。この焦点は、より重要な発展を見逃しており、その一つが「サービスとしての戦争(WaaS)」である。「サービスとしての戦争(WaaS)」とは、戦略的パートナー間の軍事能力(military capabilities)を深く統合(一体化)し、潜在的に統合する(amalgamating)ことであり、行為主体に対等な者を飛び越える選択肢を提供するものである。

論評

ウクライナ、シリア、リビア、ナゴルノ・カラバフのような紛争における無人航空機(UAV)の役割に関する現在の議論は、防衛革新の言説を支配している一般的な技術の盲目的崇拝(techno-fetishisation)を物語っている。我々が『誇大広告に注意(Beware the Hype)』で論じたように、UAVを過度に強調することは、用兵(warfighting)の現実を歪めて知覚することにつながる。

この誤った知覚(misperception)を正すことは重要である。軍事革新の文献(military innovation literature)に関する文献を読めば、技術は文化的、コンセプト的、組織的側面も考慮した、より広い文脈でとらえる必要があることがよくわかる。したがって、どのような軍事アセットもそれだけでは決定的なものにはならない。むしろ、すべてのアセットは、この幅広い文脈を反映した複雑な軍事生態系(military ecosystem)に統合(一体化)される必要がある。

サービスとしての戦争(WaaS)とは何か?

単一の側面に焦点を当てるのではなく、複雑な軍事生態系(military ecosystems)の提供方法にもっと注意を払う必要がある。「サービスとしての戦争(WaaS)」は、上記の4つの紛争の顕著な特徴であり、部隊変革(force transformation)と軍事力の使用を変化させる可能性を秘めている。これまでのところ、この2つの側面は見過ごされてきた。

「サービスとしての戦争(WaaS)」は、政府間の枠組みで軍事力を移転する包括的な政治・軍事的コンセプトである。この政府中心の焦点は、潜在的に権力の独占を「再国有化(renationalises)」するものであり、「サービスとしての戦争(WaaS)」を、軍事力を非国家主体にアウトソーシングしたり、パートナーに用兵(warfighting)の負担を負わせたりするのとは一線を画すものである。

これらのコンセプトとは異なり、「サービスとしての戦争(WaaS)」は、外国の専門知識、部隊、アセットを相手国の軍隊に深く、戦略的に主導され、任務に誂えて統合(一体化)(mission-tailored integration)することを説明するものである。したがって、「サービスとしての戦争(WaaS)」は、アウトソーシングでも、用兵力(warfighting power)の委譲でもなく、戦略的パートナーの軍事能力(military capabilities)を埋め込み、潜在的に統合する(amalgamating)ものである。

ロシアによるシリアとハフタル(Haftar)元帥のリビア国民軍(LNA)の支援、トルコによるアゼルバイジャンとリビアの国民合意政府(GNA)の支援は、「サービスとしての戦争(WaaS)」の模範的な使用例である。

トルコが提供した「サービスとしての戦争(WaaS)」には、トルコ製ミサイルと電子戦ペイロードの使用に最適化されたトルコ製UAV、トルコの作戦センターが実施するUAV任務、UAV任務と現地の部隊要素(force elements)との緊密な同期、紛争前の第三者による訓練、トルコ人指揮官による作戦計画策定、トルコ人部隊要素や指揮官/アドバイザーによる現地でのプレゼンス、トルコ人戦場エンジニアの活用などが含まれる。

このターンキー・アプローチ1が、供給者(suppliers)と受領者(recipients)にとって「サービスとしての戦争(WaaS)」を魅力的なものにしている。受領者(recipients)は、戦場での成功に必要なアセット、コンセプト、戦術、作戦アドバイスの包括的な組み合わせに即座にアクセスできる。供給者(suppliers)は、受領者(recipient)に代わって自らのアセットを使用することで、戦力パッケージ(force package)のエコシステムを完全な軍事的・政治的管理下に保つことができる。

※1 ターンキー(turnkey)とは、「鍵を回せばすぐに使える」という意味の英語表現で、製品をすぐに稼働できる状態で顧客に納品すること。自動車はキー差し込んで回せばすぐ始動することになぞらえた表現。(引用:https://e-words.jp/w/%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%BC.html)

WaaSが重要な理由:二国間関係の繭化(Cocooning)

原則的に、「サービスとしての戦争(WaaS)」は同盟国を支援するための試行錯誤を重ねたアプローチであり、少なくとも近世以来使用されてきた。しかし、変化する戦略的課題に対応して新しい用兵コンセプト(warfighting concepts)を開発する必要性、最先端技術(cutting-edge technologies)の重要性の高まり、用兵(warfighting)への商用アプリケーションの適応は、「サービスとしての戦争(WaaS)」に新たな意味を与えている。

議論されているように、深い統合(一体化)は「サービスとしての戦争(WaaS)」の戦略的妥当性を理解する鍵である。特に3つの側面が関連している。

第一に、「サービスとしての戦争(WaaS)」は、パートナーに軍事力を貸与することを厭わない同盟国が提供する専用の戦力パッケージ(force package)を内製化することで、部隊変革(force transformation)への近道を提供する。ナゴルノ・カラバフは、その好例である。アルメニアが部隊適応力(force adaptation)を著しく軽視したのに対し、アゼルバイジャンは徐々に部隊の近代化を進めた。トルコの「サービスとしての戦争(WaaS)」を活用することで、限定的な軍事作戦におけるバクーの軍事力を高めることができた。

第二に、「サービスとしての戦争(WaaS)」は兵器供給以上のものであるため、二国間関係の性質を変える可能性がある。戦術に取り組み、作戦支援を提供し、訓練を提供することで、「サービスとしての戦争(WaaS)」は、アゼルバイジャンとトルコの結びつきがますます強くなっていることに示されるように、部隊変革(force transformation)と並行して、供給者(supplier)と受領者(recipient)の間の戦略的調和を刺激することができる。これは、外部からの干渉に対する二国間関係の繭化(Cocooning)を加速させることができる。

第三に、「サービスとしての戦争(WaaS)」が提供する政治的・軍事的余裕を最大限に活用するためには、WaaS 供給者(supplier)の防衛産業の成熟度が不可欠である。提供されるアセットを生産するための外国製品や技術への依存度が低いWaaS供給者(supplier)は、供給の安全保障を損なう第三者による輸出禁止のリスクをより軽減することができ、その結果、二国間関係を守ることができる。このことは、潜在的なWaaS供給者(suppliers)の数を制限することになるが、同時に、国家が国内のサプライ・チェーンをより厳しく統制することを奨励することにもなる。

WaaS:万能のソリューションではない

このコンセプトは魅力的であるにもかかわらず、我々の比較分析によると、WaaSアプリケーションの成功はいくつかの要因に左右される。

第一に、「サービスとしての戦争(WaaS)」はパートナー間の複雑な力関係の上に成り立っており、その結果、相互に有益な需要と供給がもたらされる。これは、受領者(recipient)がターンキー・ソリューション2を受け入れることで、供給者(supplier)にフリーハンドを与えるため、非常に一致した野心を必要とする。一方供給者(supplier)は、フルパッケージを喜んで提供し、紛争に巻き込まれるリスクを負い、自らの貢献を「ホワイト・ラベル化(white labelling)3」することに安心感を覚えなければならない。

※2 ターンキー・ソリューション:カスタマイズなどを必要とせず、すぐに利用可能なシステム。ターンキー・システムといった場合には、ソフトウェアとハードウェアの双方を含んでいるが、システムに使われるアプリケーションを指して「ターンキー・アプリケーション」と呼ぶこともある。ターンキー(turnkey)とは、“turn the key(スイッチをオンにする)”という意味で、ユーザーは面倒な前準備なしに、スイッチをオンにするだけで使えるということからこのように呼ばれている。(引用:https://atmarkit.itmedia.co.jp/icd/root/62/5784962.html

※3 ホワイト・ラベル(white label)とは、ある企業が生産した製品やサービスを他の企業が自社のブランドとして販売することをいい、この文献では供給者(supplier)側の装備品を受領者(recipient)側の装備品として使用することを指しているとみられる。

第二に、紛争の特徴が重要である。紛争当事者の一方だけが「サービスとしての戦争(WaaS)」のような支援を利用できる場合、ナゴルノ・カラバフで見られたように、パワーバランスは極めて非対称になる。この点で、供給されるWaaSポートフォリオが重要な役割を果たす。

第三に、WaaS受領者(recipient)の振舞い(behaviour)が決定的である。リビアでは、ハフタル(Haftar)元帥はエジプトとアラブ首長国連邦を支援国として頼る一方で、ワグネル・グループ(Wagner group)の支援も求めたため、おそらくカードを切りすぎたのだろう。カイロとアブダビは紛争を通じて決別しただけではない。ハフタル(Haftar)の部隊には外部からの支援を統合(一体化)する能力もなかったため、統合(一体化)された戦力パッケージ(force package)ではなく、緩やかに連携した部隊要素(force elements)の寄せ集めになってしまった。

最後に、WaaS受領者(recipient)の防衛産業の成熟度も重要だ。ポーランドは2021年5月に24機のBayraktar  TB2 UAVを購入することを決定したが、国内のUAVメーカーであれば同等のソリューションを提供できたと言われており、地元では批判的な声が上がっている。防衛産業が成熟しているにもかかわらず、地元メーカーと外国のWaaS供給者(suppliers)との間で防衛産業に対する利害が乖離している場合、「サービスとしての戦争(WaaS)」の統合(一体化)はより困難なものとなり、WaaS受領者(recipient)の軍事能力(military capabilities)を向上させる可能性は制限されることになる。

今後の展望

WaaS供給者(suppliers)が、コンセプト、作戦の経験、包括的な戦場支援と先端技術(leading technologies)を組み合わせ、完全に統合(一体化)された戦力パッケージ(force package)を提供するようになれば、今日の防衛に関する議論の技術への過度の注目は時代遅れになるかもしれない。

だからこそ、防衛アナリストは「サービスとしての戦争(WaaS)」にもっと注意を払い、適切な質問を始めなければならない。

「サービスとしての戦争(WaaS)」はプッシュ型市場か、それともプル型市場か?どの国が「サービスとしての戦争(WaaS)」を供給する準備ができているのか、あるいは「サービスとしての戦争(WaaS)」の支援を求めているのか?WaaS受領者(recipients)の軍事体制は、統合(一体化)されるべき外部の部隊要素(force elements)にどのように対応するのか?受領者国(recipient nation)の軍民関係にはどのような影響があるのか?そして最後に、「サービスとしての戦争(WaaS)」を提供する国家を規制することは、民間軍事会社(private military company)よりも容易なのか?

*******************************

誇大広告に注意

ウクライナ、シリア、リビア、ナゴルノ・カラバフでの軍事紛争が語る戦争の未来

Beware the Hype

What Military Conflicts in Ukraine,Syria,Libya,and Nagorno-Karabakh(Don’t) Tell Us About the Future of War

Heiko Borchert, Torben Schütz, Joseph Verbovszky

DAIO Study 21/01

まとめ

将来の戦力開発に役立つ情報を引き出すために現在の紛争を調べることは、アナリストや戦力計画者にとって重要なタスク(task)である。しかし、それは、単一の要素を誇張しすぎるという固有のリスクを伴う。

このリスクは、ウクライナ、シリア、リビア、そしてナゴルノ・カラバフをめぐるアルメニアとアゼルバイジャンの紛争をめぐる報道において、明らかに作用していると我々は主張する。これら4つの紛争の共通点と相違点を比較評価した結果、我々は強い警告を表明する。

これらの紛争は、将来の用兵(future warfighting)のある側面についての洞察を提供するものではあるが、ゲームを変化させるもの(game changing)ではない。特に無人航空機(UAV)、防空、電子戦の相互作用に焦点を当て、これらのアセットの展開における継続性の線は、適応と変化の要素よりもはるかに明確であることがわかった。そこで、5つの重要な発見を2つのグループに分けて紹介する。

第一に、UAVに不釣り合いな焦点が当てられた結果、実際の用兵の実態(warfighting reality)に対する知覚(perception)が歪められたと主張する。戦争当事国が実際にUAVを配備する方法において、特定の改良が加えられたことは認めるが、試行錯誤された戦術が優勢であった。これとは対照的に、4つの紛争すべてで見られた電子戦アセットの使用と防空システムの特殊な脆弱性は、もっと注目されるべきである。

第二に、一つひとつの軍事アセットの価値は、「軍事の背骨(military backbone)」を構成するC4/5ISTAR[1]バリュー・チェーンへの統合(一体化)の度合いによって大きく左右される。この複雑な軍事生態系の管理に成功した行為主体(actors)は、4つの紛争すべてにわたって勝利を収めたが、適切な統合(一体化)を伴わないつぎはぎ的なプラグ・アンド・プレイ・アプローチは悪い結果をもたらした。C4/5ISTARバリュー・チェーンの作戦に関わるコンセプト的・組織的な変化は、軍事的意思決定の全体的な側面と密接に関連するため、より注意を払う必要がある。

第三に、生態系の議論に沿えば、人間は依然として用兵(warfighting)のあらゆる局面で決定的な役割を担っている。将来、人間の役割が変わるかどうか、またどの程度変わるかは、計画担当者、運用者、エンジニアが新境地を開拓する即応性(readiness)に大きく依存する。しかし、これは、急激な変化よりも現状維持を好む傾向にある、さまざまな要因が複雑に絡み合っているかどうかにかかっている。

これらの現状に関連する発見に加えて、さらに2つの側面も言及する価値がある。それらは、振舞いのパターンを適応させる新たな誘因を提供し、戦力開発の斬新な方法を提供するため、変化を引き起こす可能性のある将来の発展への窓を提供するからである。

第四に、軍事界はますますウォー・ストリーミング、すなわち戦場からのライブ・フィードを提供する戦争当事者の能力に支配されている。ウォー・ストリーミングは知覚(perceptions)に影響を与え、C4/5ISTARの統合(一体化)や電子戦のような目に見えにくい他の側面を犠牲にして、UAVの役割を過度に強調することにつながっている。

長期的には、ウォー・ストリーミングの美学が、まだ見たことのない写真への飢えを満たすために、作戦的振舞い(operational behavior)の変化を促す可能性があると推測している。

最後に、まだ適切に扱われていない特徴的な機能として、「サービスとしての戦争(WaaS)」がある。これは、政府間の(一時的な)軍事力移転を可能にし、促進する新しい政治戦略的「ビジネス・モデル」である。「サービスとしての戦争(WaaS)」は、技術アセットだけでなく、計画策定や作戦の支援、部隊要素(force elements)の組み込みや訓練も含めた「ホワイト・ラベル」のターンキー・ソリューションの提供と解釈されるべきである。

我々は、「サービスとしての戦争(WaaS)」を、戦略的に軍事力を内製化する受領者(recipient)の準備と、同盟国のコンセプト的、組織的、技術的成熟度、および受領者(recipient)のためにリスクを取る意思次第で、敵対する対等者(adversarial peers)を飛び越える選択肢を提供しうる、戦力開発の重要な代替ルートと考える。

ノート

[1] 指揮・統制・コンピュータ・通信・サイバー・インテリジェンス・監視・ターゲット補足・偵察(Command, Control, Computers, Communications, Cyber, Intelligence, Surveillance, Target Acquisition, and Reconnaissance)