米国防総省 デジタル・エンジニアリング戦略 2018年6月

「もしトラ」、「ほぼトラ」という言葉が話題になっているトランプ氏である。そのトランプ氏が大統領時代に国防長官を務めた米海兵隊大将であったジェームズ・マティス国防長官が手掛けた米国の国防省の改革は多くあったと記憶している。その中にすさまじく進展する技術的な側面を取り入れながら軍の改革を推し進めようとする動きがあった。その一つであったデジタル・エンジニアリング戦略について2018年の戦略文書を紹介する。MILTERMではミッション・エンジニアリングや米陸軍のモデリング&シミュレーションを取り上げた中にも、それらの上位に位置する戦略文書として引用されていた。米国防総省では今ではデジタル・エンジニアリングはその知識体系(DEBOK)として、取組みが参照できる。米国はデジタル・エンジニアリング戦略で何を目指していたのかを確認できる文書である。(軍治)

米国防総省

デジタル・エンジニアリング戦略

2018年6月

序文

2018年の米国防総省(DoD)国家防衛戦略において、ジェームズ・マティス国防長官は、現在および将来の課題に対応するため、より高い性能と手頃な価格を実現する新しい手法を採用するよう、すべての人に促した。

即応性を回復し近代化するための持続的で予測可能な投資がなければ、我々は急速に軍事的優位性を失い、その結果、国民の防衛とは無関係なレガシー・システムを持つ統合部隊(Joint Force)になるだろう。国家防衛戦略の取組み目標(lines of effort)を達成するためには、防衛システムを近代化し、将来の戦争に闘い(fight)、勝利できるよう、提供速度を優先させなければならない。

その一つの方法として、デジタル・コンピューティング、分析能力、新技術を取り入れ、より一体化された仮想環境でエンジニアリングを行うことで、顧客やベンダーの関与を高め、脅威対応のタイムラインを改善し、技術の注入を促進し、文書化のコストを削減し、持続可能な経済性に影響を与えることができる。

これらの包括的なエンジニアリング環境は、米国防総省(DoD)とその業界パートナーがコンセプトの段階(conceptual phase)でデザインを進化させ、高価なモックアップや早期のデザイン変更、物理テストの必要性を減らすことを可能にする。

この米国防総省(DoD)デジタル・エンジニアリング戦略では、デジタル・エンジニアリング構想に関する同省の5つの戦略目標を概説している。目標は、システムやコンポーネントをデジタルで表現し、多様な利害関係者間の技術的なコミュニケーション手段としてデジタルの人工物(digital artifacts)を使用することを促進する。

この戦略は、国防システムの取得と調達に関わるさまざまな分野を対象としており、国防システムの構築、試験、実戦、維持の方法、およびこれらの方法を使用するための労働力の訓練と形成方法における革新を奨励するものである。この戦略は、米国防総省(DoD)の各部門と学術パートナーとの広範な研究と協力、および業界の専門学会や防衛取得協会との交流の結果、生まれた。

これらのデジタル技術がもたらす可能性は、長年にわたる取組みと、技術・法律・社会科学における進歩から生まれた。これらの実践は、エンジニアリング関連のタスクや米国防総省(DoD)の多くの分野でその有用性が実証されている。

この戦略では、デジタル・エンジニアリングの実践を促進するために必要な「何を」するかを説明する。デジタル・エンジニアリングを導入する側は、「どのように」、つまり各事業体でデジタル・エンジニアリングを適用するために必要な実装ステップを開発する必要がある。

各軍種は、この時宜を得た必須の取組みを確実に進めるため、2018年中に対応するデジタル・エンジニアリングの実装計画(digital engineering implementation plans)を策定する必要がある。

マイケルD.グリフィン(Michael D. Griffin)

米国防総省(DoD)研究・技術担当次官

I.導入

米国防総省(DoD)は、世界中の敵国からの脅威に対して優位性を維持するために必要な兵器システムを開発するために、堅牢なエンジニアリング手法を必要としている。

従来、米国防総省(DoD)は、さまざまな任務やユーザーに対応する複雑なシステムを開発するために、直線的なプロセスに依存してきた。多くの場合、取得エンジニアリング・プロセスは文書集約的で縦割りであり、変更と維持が面倒なシステムでサイクルタイムが長くなってしまう。

米国防総省(DoD)は、急速に変化する作戦・脅威環境、厳しい予算、厳しいスケジュールの中で、複雑なシステムのデザイン、提供、維持のバランスを取るという課題に直面している。現在の取得プロセスやエンジニアリング手法は、指数関数的な技術の成長、複雑さ、情報へのアクセスといった要求を満たす妨げとなっている。

米国の技術的優位性を継続的に確保するために、技術省はエンジニアリングの手法をデジタル・エンジニアリングに転換し、技術革新を一体化した、デジタルで、モデル・ベースのアプローチに組み込んでいる。米国防総省(DoD)は、ライフサイクル活動を支援するエンジニアリングの実践状況を向上させるとともに、革新、実験、効率的な作業を行う文化や労働力を形成することを目指している。

デジタル技術は、ほとんどの主要産業におけるビジネスや、我々の個人的な生活活動に革命をもたらしている。コンピューティング速度、ストレージ容量、処理能力の向上により、デジタル・エンジニアリングは、従来のデザイン・構築・テスト手法からモデル・分析・構築手法へのパラダイムシフトを後押ししている。このアプローチにより、米国防総省(DoD)のプログラムは、意思決定やソリューションが戦闘員(warfighter)に提供される前に、仮想環境でプロトタイプ、実験、テストを行うことができるようになる。

デジタル・エンジニアリングは、新しい手法、プロセス、ツールを必要とし、エンジニアリング・コミュニティの活動方法を変化させるが、この変化はエンジニアリング・コミュニティの枠を超えて、研究、要求、取得テスト、コスト、維持、情報コミュニティにも影響を及ぼす。デジタル・エンジニアリングの変革は、取得実務、法的要件、契約活動などの業務活動(business operations)にも同様のポジティブな変化をもたらす。

II.目的

米国防総省(DoD)のシステム・エンジニアリング担当副次官補室(ODASD(SE))は、政府、産業界、学界の関係者と協力して、この戦略を策定した。この戦略は生きた文書であり、重要な能力をできるだけ早く戦闘員(warfighter)に提供するという米国防総省(DoD)の継続的な必要性を支援するために進化していく。

米国防総省(DoD)は、この戦略の実施に関するコミュニケーションと連携を維持するため、国防産業基盤を含む米国防総省(DoD)内外のパートナーと積極的に関わり続ける意向である。

この戦略は、米国防総省(DoD)全体のデジタル・エンジニアリング変革の計画策定、開発、実装の指針(guide)となることを意図としている。米国防総省(DoD)の各部門がデジタル・エンジニアリングの進展を続ける中、この文書は、米国防総省(DoD)全体の実装の取組みを調整するのに役立つ。

この戦略は、杓子定規になることを意図していない。この戦略は、共有のビジョンを育み、タイムリーで集中的な行動を喚起するようデザインしている。システム・エンジニアリング担当副次官補室(ODASD(SE))は、米国防総省(DoD)の各部門と協力して、目標達成のためのロードマップと目標(objectives)を提供する軍種の実装計画の策定を指導する。ODASD(SE)は、図1に示す行動を指導・調整する。

III.ビジョン

米国防総省(DoD)のデジタル・エンジニアリングのビジョンは、システムのデザイン、開発、納入、運用、維持の方法を近代化することである。米国防総省(DoD)は、デジタル・エンジニアリングを、コンセプトから廃棄までのライフサイクル活動を支援するために、分野横断的な連続体として、権威あるシステムデータおよびモデルのソースを使用する一体化されたデジタル・アプローチ(integrated digital approach)と定義している。

米国防総省(DoD)のアプローチは、エンド・ツー・エンドのデジタル事業体において、人、プロセス、データ、能力を安全かつ確実に接続することである。これにより、ライフサイクルを通じてモデルを使用し、対象システム(システム、システム、プロセス、機器、製品、部品など)を仮想世界でデジタルに表現することが可能になる。

米国防総省(DoD)は、先進的なコンピューティング、ビッグ・データ分析、人工知能、自律システム、ロボティクスなどの技術を取り入れ、エンジニアリングの実践を向上させる予定である。

デジタル・エンジニアリングは、関係者がデジタル技術と対話し、新しい画期的な方法で問題を解決することを可能にする。モデルの使用は新しいコンセプトではないが、デジタル・エンジニアリングでは、ライフサイクルを通じたモデルの使用の継続性が重視される。

デジタル・エンジニアリングへの移行は、米国の防衛システムの配備と使用における複雑性、不確実性、急速な変化に伴う長年の課題に対処するものである。より俊敏で応答性の高い開発環境を提供することで、デジタル・エンジニアリングは卓越したエンジニアリングを支援し、未来の戦争を闘い(fight)、勝利するための基盤を提供する。

デジタル・エンジニアリングに期待される効果としては、情報に基づいた意思決定の向上、コミュニケーションの強化、システム・デザインの理解と信頼性の向上、エンジニアリング・プロセスの効率化などが挙げられる(図2)。

IV.到達目標の要約

図3は、デジタル・エンジニアリング戦略を構成する5つの目標を示している。

  1. 事業体およびプログラムの意思決定に情報を提供するために、モデルの開発、統合、および使用を公式化する。最初の到達目標は、ライフサイクルに渡って連続したエンジニアリング活動を行う上で、モデルの公式な計画策定、開発、利用を不可欠なものとして確立することである。

このようなモデルのユビキタスな使用により、対象システムのエンド・ツー・エンドのデジタル表現が継続的に行われることになる。これにより、プログラムおよび事業体全体における一貫した分析と意思決定が支援される。

  1. 永続的で権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)を提供する。この到達目標は、主要なコミュニケーション手段を文書からデジタル・モデルやデータへと移行させるものである。

これにより、デジタル・モデルやデータの共通セットから、情報へのアクセス、管理、分析、使用、配布が可能になる。その結果、権限を与えられた関係者は、ライフサイクルにわたって使用するための、最新で、権威があり、一貫性のある情報を手に入れることができる。

  1. 技術革新を取り入れ、エンジニアリングの実践を向上させる。この到達目標は、従来のモデル・ベースのアプローチを超えて、技術と実践の進歩を取り入れることにある。また、デジタル・エンジニアリングのアプローチは、デジタルでつながったエンド・ツー・エンドの事業体内でイノベーションを迅速に実施することを支援する。
  2. 利害関係者間で活動を行い、コラボレーションし、コミュニケーションするための支援インフラと環境を確立する。

この到達目標は、デジタル・エンジニアリングの到達目標を支援する強固なインフラと環境の確立を促進する。この到達目標には、情報技術(IT)インフラ、高度な方法、プロセス、ツール、および知的財産の保護、サイバーセキュリティ、セキュリティ秘密区分(classification)を実施する共同信頼システムなどが含まれる。

  1. ライフサイクル全体でデジタル・エンジニアリングを採用し、支援するために、文化と労働力を変革する。最終到達目標は、変更管理(change management)と戦略的コミュニケーションのベスト・プラクティスを取り入れ、文化と労働力を変革することである。

変革をリードし実行し、組織のデジタル・エンジニアリングへの移行を支援するために、焦点を絞った取組みが必要である。

V.デジタル・エンジニアリングの到達目標と焦点となる分野

到達目標1:事業体やプログラムの意思決定に情報を提供するためにモデルの開発、統合、使用を公式化する

モデルは、システム、現象、実体、またはプロセスを正確かつ多用途に表現することができる。ライフサイクルの初期段階(early phases)では、モデルは、実際にインスタンス化する前に、ソリューションを仮想的に探索することができる。ソリューションのライフサイクルの中で、モデルは成熟し、仮想テストや兵站維持支援(logistics sustainment support)のための物理的な対応物への有用な複製となり得る。

この到達目標は、コンセプトから廃棄までのすべてのシステムのライフサイクルの段階(system lifecycle phases)を支援するために、モデリングを公式に適用することに重点を置いている。図4は、ライフサイクル全体にわたって権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)の基礎として開発、一体化、使用されるさまざまなタイプのモデルの例を示している。

様々な分野やドメインが、仮想環境においてシステムの異なる側面について同時並行的に運用することができる。モデルを破棄して再開発するのではなく、モデルのコレクションはある段階(phase)から次の段階へと進化していく。その結果、モデルはシステムの寿命が尽きるまで生き続けることになる。

1.1ライフサイクル全体を通したエンジニアリング活動と意思決定を支援するための各種モデルの計画策定を公式化する

米国防総省(DoD)の組織は、ライフサイクルを通じて、モデルの作成、保管、一体化、及び関連するプログラム及び事業体のエンジニアリング活動に関する公式な計画を策定する。この計画では、作業活動の実施や分析・決定の支援に伴い、モデルが首尾一貫した効果的な方法で実現される方法を説明することになる。

対象システムをデジタルで表現するための計画を公式に策定する。

米国防総省(DoD)の組織は、対象となるシステムをデジタルで表現するための計画を公式に策定し、実施する。この計画策定では、モデルを使用して、活動のオーケストレーション、作業の効率的な管理、事業体や学際的なチーム間での作業成果物の一体化を可能にするアプローチを確立し、対象システムのデジタル表現につなげることになる。

この計画策定により、モデル開発が遵守すべき基礎的な品質基準や規則(構文、意味、語彙、標準、その他)を確立する形式主義が定まる。

1.2モデルの開発、一体化、キュレーションを公式に行う。

米国防総省(DoD)の組織は、モデルの開発、一体化、およびキュレーションを支援するために、モデルの形式主義を使用する。公式主義(formalism)は、システム及び外部プログラムの依存関係との整合性を確保する。米国防総省(DoD)は、ライフサイクルを通じて対象システムをデジタルで表現するために、すべての利害関係者が作成したモデルを一体化するアプローチを特定し、維持する。

モデルの正確性、完全性、信頼性、再利用性を確保するために、モデルを開発する。

モデルは、方針(policy)、指針(guidance)、標準、およびモデル形式論に従って開発される。米国防総省(DoD)の組織は、信頼、信用、正確性、およびモデルの再利用を判断する基準を確立するために、モデルの実績と血統を取得し維持する。モデル・ベースのレビュー、監査、および検証属性に基づく信頼は、効果的なコラボレーションと対象システムの進化に不可欠である。

凝集性のモデル主導のライフサイクル活動を支援するため、分野横断的にモデルを一体化しキュレートする。

ライフサイクルの共同作業は、一体化された一連のモデルによって支援される。モデルは、権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)となるように構築され、コンセプトから廃棄までのモデルのトレーサビリティを含むべきである。モデルの一体化とキュレーションは、意思決定者に情報を伝達するための計画に従って行われる。

1.3ライフサイクルにおけるエンジニアリング活動や意思決定を支援するために、モデルを使用する。

モデルは、代替案の定義、評価、比較、最適化、および意思決定のための基礎として使用される。モデルはすべての分野にまたがり、同時のエンジニアリング(concurrent engineering)や他のプログラム活動を可能にする統一的な表現を提供する。

モデルを使用して、コミュニケーション、コラボレーション、モデル駆動型のライフサイクル活動を行う。

モデルは、質問に答えるため、ソリューションについて推論するため、決定を支援するため、そして、あらゆるレベルの忠実度で、ライフサイクル活動にわたって、明確かつ曖昧さを排除したコミュニケーションを行うために使用される。モデルは、ライフサイクルの全活動を支援するために使用する必要がある。

技術分野や組織間の情報交換は、可能な限りモデル交換や自動変換によって行われることが望ましい。正確な使用と運用を保証するために、コラボレーションを支援する説明書が作成される。

到達目標2:永続的で権威ある信頼できる源を提供する。

この到達目標は、到達目標1のモデルやデータにアクセスし、管理し、保護し、分析するために、組織全体の利害関係者に権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)を提供する。コミュニケーションの主要な手段は、静的で断絶した人工物(artifacts)から離れ、従来サイロ化していた要素を接続し、ライフサイクルを通じて一体化された情報交換を行うための基礎となるモデルやデータへとパラダイムをシフトさせることである。

図5に示すように、利害関係者は、ライフサイクル全体で共有された知識やリソースを用いて、権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)の中で、またそれを通じて、共同で作業を行うことができるようになる。

2.1権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)を定義する

技術的なベースラインの現状と歴史を把握する、権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)である。ライフサイクルを通じたモデルやデータの中心的な参照ポイントとして機能する。権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)は、対象システムの進化に伴うトレーサビリティを提供し、歴史的な知識を取得し、モデルやデータの権威あるバージョンを接続する。

権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)に加えられた変更は、デジタル・デザイン・モデル全体を通じて、影響を受けるすべてのシステムや機能に伝搬する。権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)を適切に管理することで、不正確なモデル・データを使用するリスクを軽減し、現在および過去の構成データ・ファイルの効果的な管理を支援する。到達目標は、適切なデータを適切な人に、適切な時間に、適切な用途で提供することである。

真実の権威ある情報源を計画・開発する

権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)の実現には、到達目標1で取り上げたモデルを前もって計画策定し、使用することが必要である。ライフサイクルを通じて、分野横断的に権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)を定義し、開発し、使用するための明確な期待を設定することが不可欠である。

計画策定には、取得のためのデータ・ニーズの決定、決定を支援するためのエンジニアリング、権威あるデータソースのシームレスな一体化の作成が含まれる。権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)は、エンジニアリング分野、分散チーム、およびその他の機能領域の境界を越えた共有プロセスを促進する。ライフサイクル全体で異種のモデルやデータを整理し、一体化するための構造を提供することになる。

さらに、権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)は、モデルやデータの作成、更新、検索、一体化のための技術的要素を提供する。

2.2権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)を統括する

組織は、権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)の適切な使用を保証するために、方針(policies)と手順を確立する。ガバナンスにより、モデルおよびデータがライフサイクルを通じて公式に管理され、信頼されるようにする。さらに、利害関係者は、モデルとデータを正確に収集し、保管し、維持する。

モデルやデータの完全性と品質を維持し、組織や業務規則(business rules)に確実に準拠するためには、標準的な手順を確立することが不可欠である。ガバナンス・プロセスは、利害関係者が問題を解決し、権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)の一貫性と正確性を確保し、利害関係者がデータ駆動型の意思決定を行えるようにするものである。

真実の権威ある情報源へのアクセスと統制を確立する。

許可されたユーザーが適切なタイミングで適切な情報にアクセスできるようにするためには、アクセスと統制を確立する必要がある。権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)に対するアクセスと統制を適切に定義することで、組織の境界を越えてモデルやデータの流れを途切れさせないようにすることができる。

データは、意図されたすべての受信者が容易に利用できるものでなければならないが、同時に不正な利用者から保護されたものでなければならない。アクセスおよび管理基準を維持することで、情報が適切に作成、管理、保護、保持されることを保証する。

権威ある真実の源(ASoT)のガバナンスを実行する

効果的で強固なガバナンス・プロセスには、さまざまなレベルでの責任が伴う。方針(policies)、手順、標準を管理することで、権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)の適切なガバナンスを確保し、ライフサイクル全体でデータ品質を向上させることができる。ガバナンスを実行することで、権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)の完全性に対する利害関係者の信頼が高まるはずである。

2.3ライフサイクルを通じた権威ある真実の源(ASoT)を使用する

権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)は、コンセプトから廃棄に至るまで、システムに関する情報を開発、管理、および伝達するために使用されることになる。そのため、権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)は、モデル、データ、およびデジタルの人工物(digital artifacts)を共有し交換する主要な手段として機能する。権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)は、システムの計画、デザイン、維持に必要な全事業体に広がる知識をプログラムに提供することになる。

技術的なベースラインとして、権威ある真実のソースを使用する

利害関係者は、コスト、スケジュール、パフォーマンス、リスクを管理するために、情報に基づいたタイムリーな意思決定を行うために、権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)を使用するべきである。例えば、契約上の成果物は、権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)からトレースされ、検証されるべきである。これにより、様々なレベルの利害関係者が、システムの開発、運用、実行に知識を持って対応できるようになり、任務の成功に対する技術的、管理的障害を回避することができる。

デジタルの人工物(digital artifacts)の作成、レビューの支援、および意思決定に、権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)を使用する。

技術的なベースラインが成熟するにつれて、プログラムやライフサイクルの段階(programs and lifecycle phases)を越えて知識を保存することが不可欠になる。技術レビューは、権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)から継続的に実施することができる。関係者は、権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)から、複数の見解や様々な視点を表すデジタルの人工物(digital artifacts)を生成することができる。デジタルの人工物(digital artifacts)は、機能ドメイン、分野、組織を超えて、適切な情報を可視化する。

権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)を使ったコラボレーションとコミュニケーション

権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)によって、チームは最新のモデル、データ、情報にアクセスし、作業をシームレスに一体化しながら、共同作業を行うことができるようになる。到達目標1で確立されたように、モデルはライフサイクルの連続体として機能する。このパラダイムシフトは、文書を受け入れるという現在の慣習を、モデルを受け入れるというものに根本的に変え、取得ドメインと機能領域の技術的基盤を提供する。

ユーザーは、モデルやデータの共有ネットワークを用いて様々なビューを生成し、首尾一貫したデジタルの人工物(digital artifacts)を提供するとともに、時間のかかる作業や手戻りを減らすことができる。その結果、関係者は代替案の提案やチーム間のコラボレーションが可能になり、変化の影響を分析しながら、再利用を促進し、生産性を高めることができる。

   

到達目標3:技術革新を取り入れて、エンジニアリングの実践を向上させる。

この到達目標は、米国防総省(DoD)が迅速な技術革新を行い、先進技術へのアクセスと利用を提供することで、技術的優位性を維持できるようにデザインされている。到達目標1と到達目標2のモデル・ベースのアプローチに基づき、この到達目標は、エンド・ツー・エンドのデジタルの事業体を構築するために、技術と実践の進歩を注入するものである。

関係者、プロセス、能力、データをデジタルでつなぐことで、米国防総省(DoD)の組織は、能力を近代化し、よりタイムリーで適切な意思決定を行うために、迅速に分析し、適応する能力を持つことになる。このアプローチは、学習、適応、自律的な行動をする技術を活用する機会も生み出す。図6は、デジタル接続された事業体を実現し、エンジニアリングの実践を変革するためのイノベーションを推進する例を示している。

例えば、アドバンスト・コンピューティング、ビッグ・データ解析、人工知能、自律システム、ロボティクスなどである。

3.1エンド・ツー・エンドの事業体全体のデジタル・エンジニアリングを確立する

米国防総省(DoD)のビジョンは、システムのライフサイクル全体にわたってデジタルと物理の世界をつなぐエンジニアリングの事業体を持つことである。エンド・ツー・エンドのデジタルの事業体は、コンセプトから廃棄までのライフサイクル全般を実施するために、先進技術によって実現されたデジタル接続環境において、モデル・ベースのアプローチを取り入れることになる。

ライフサイクルの初期段階(earlier phases)では、コンセプトの評価、ユーザーの参加、興味のあるシステムのデジタル表現を使ったトレードオフの特定に焦点が当てられる。ライフサイクルの後半では、最終品目(end item)の製造、配送、維持に焦点が当てられている。到達目標は、最終品目(end item)とともにデジタル表現を継続的に進化させ、運用環境から継続的な洞察と知識を得ることである。

エンド・ツー・エンドのデジタルの事業体を実現するための技術革新の導入

米国防総省(DoD)の戦略は、技術投入プロセスを改善し、市場を活用しながら高収益のソリューションを見出す最先端技術投入を支援することである。関係者は、デジタルの事業体を支援する技術を選択する際に、現在および将来の事業体およびプログラムのニーズを考慮する必要がある。米国防総省(DoD)は、費用対効果の高い技術開発と選択の決定を支援するために、厳格なプロセスを導入する。

3.2デジタル・エンジニアリングの実践を向上させるために技術革新を利用する

データ解析の進歩は、既存のモデル・データからより大きな洞察を得るのに役立つ。関係者は、技術革新を利用して、意思決定、システム能力、および計算集約的なエンジニアリング活動のパフォーマンスを改善する必要がある。

また、技術の進化は、機械同士が、そして人間とのコミュニケーションやコラボレーションのあり方を変え、人間と機械の両方の強みを活かしてエンジニアリングの実践を向上させる。

データを活用し、意識、洞察、意思決定を向上させる。

様々なフォーマット、データ構造、ソースからのデータが飛躍的に増加している。ビッグ・データと分析の技術的進歩により、戦場で各戦闘員(warfighters)を支援するだけでなく、ライフサイクルの各段階(each phase)にわたって膨大かつ増大するデータを有効に活用し、ライフサイクル・プロセスに情報を提供することが可能になった。

米国防総省(DoD)のビジョンは、データと分析を安全に活用して洞察を可能にし、より迅速で優れたデータ主導の意思決定を実現する事業体能力を構築することである。デザインの進化に合わせてデータを取り込み、継続的に評価することで、潜在的な改善点や選択肢を短時間で比較し、最適化することができる。

人間と機械の相互作用(human-machine interactions)を進化させる

エンド・ツー・エンドのデジタルの事業体の実現、タスクやプロセスの自動化、よりスマートで迅速な意思決定には、人間と機械の相互作用(human-machine interactions)を変革する次の技術の開拓者(next frontier of technologies)が必要である。人工知能の進歩により、従来は人間の知能が必要だったタスクを実行することができる認知技術(cognitive technologies)が誕生している。

機械は現在、知識を構築し、継続的に学習し、自然言語を理解し、従来のシステムよりも自然に推論し、人間と対話することができるようになっている。米国防総省(DoD)のビジョンでは、人間が機械と対話することで、データに基づいた意思決定を迅速に行い、人間が単独で行うよりも効果的にデータを活用できるようになることを期待している。

米国防総省(DoD)は、これらの技術に対する認識を深め、試験的に導入する機会を評価し、これらの技術で価値を生み出す選択肢を示すことによって、人間と機械の相互作用(human-machine interactions)を促進する。

到達目標4:利害関係者を超えた活動、コラボレーション、コミュニケーションのための支援インフラと環境を構築する。

この到達目標は、すべてのデジタル・エンジニアリング到達目標を支援するデジタル・エンジニアリングのインフラと環境の構築に重点を置いている。現在の米国防総省(DoD)のITインフラと環境は、デジタル・エンジニアリング関係者のニーズを十分に支援していない。

また、プログラムごとに使用方法が異なるため、縦割りで複雑、管理、統制、セキュリティ、支援が困難な場合が多い。米国防総省(DoD)は、そのインフラと環境を、より一体化された協調的な信頼できる環境へと進化させる。米国防総省(DoD)は、デジタル・エンジニアリングの各目標の実現を支援するインフラストラクチャ・ソリューションを、事業体およびプログラム・レベルで提供する。

図7は、技術に対応し、サイバーセキュリティと知的財産保護を強化し、情報共有(information sharing)を向上させるためのインフラと環境の中核となる要素を示している。

4.1デジタル・エンジニアリングIT基盤の開発・成熟・活用

デジタル・エンジニアリング ITインフラは、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、および関連機器の集合体である。それらは、地理的な場所や組織にまたがっており、セキュリティ要件を満たす必要がある。デジタル・エンジニアリングのITインフラは、この分野を発展させるための文化的なイネーブラーと重要な要素であり、基礎となるものである。

デジタル・エンジニアリング活動を行うためのセキュアな接続情報ネットワークを提供する。

ライフサイクル全体にわたってデジタル・エンジニアリング活動を行うためには、信頼性が高く、利用可能で、安全で、接続された情報ネットワークが必要である。このネットワークには、情報の流れと権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)を安全に促進する、あらゆる秘密区分(classification)レベルのコンピューティング・インフラストラクチャーと事業体サービスが含まれていなければならない。このネットワークは、コラボレーションの向上、学習の強化、情報共有(information sharing)の促進、データ駆動型の意思決定を可能にする。

デジタル・エンジニアリング活動を行うためのハードウェアとソフトウェアを提供する。

米国防総省(DoD)は、労働力および関連するデジタル・エンジニアリング活動のニーズを満たすために、デジタル・エンジニアリングのハードウェアおよびソフトウェア・ソリューションを計画、資源化、配備する予定である。

米国防総省(DoD)は、デジタル・エンド・ツー・エンドの事業体を確立する際に、柔軟な拡張性、大幅なコスト削減、迅速な展開を実現するために、モジュラー・アプローチと幅広いハードウェアおよびソフトウェア・ソリューションを検討する予定である。米国防総省(DoD)は、適切な場合には、商用クラウド・プラットフォーム、技術、および軍種のソリューションの採用を取り入れる予定である。

4.2デジタル・エンジニアリングの方法論の開発、成熟、活用

事業体のモデル・ベースを効果的に利用するには、ドキュメント・ベースのアプローチからデジタル・アプローチへの変換が必要である。その結果、米国防総省(DoD)は、エンジニアの働き方、管理方法、エンジニアリング、ソリューションの提供方法において進化することになる。技術的能力を活用するために、米国防総省(DoD)はエンジニアの働き方、管理、エンジニアリング、ソリューションの提供方法を進化させる必要がある。

事業体やライフサイクルにおけるデジタル・エンジニアリング活動を支援するための手法やプロセスを開発、成熟させ、導入する。

米国防総省(DoD)は、進化するデジタル・エンジニアリング・インフラストラクチャにおけるエンジニアリング手法とプロセスの開発、成熟、実装によってこの取組みを支援する。その結果、米国防総省(DoD)はエンジニアリング・プロセス、マニュアル、および指示書を更新し、望ましいデジタル・エンジニアリングの利点を達成することになる。

少なくとも、これらの新しいエンジニアリング手法は、品質、生産性、および取得効率を向上させるために、技術革新、権威ある真実の源、形式化されたモデリング、労働力、および文化の機会を組み込む必要がある。

デジタル・エンジニアリング・ツールの開発、成熟、実装

米国防総省(DoD)は、現在および将来のニーズに基づき、関係者のためのデジタル・エンジニアリング・ツールを評価・特定する。ツールは、分野やドメインを超えた関係者の要求を満たす、拡張性のある事業体対応ソリューション(enterprise-ready solutions)の組み合わせであるべきである。

関係者は、ツールを選択する際に、ライセンス契約とデータ交換の要件を考慮する必要がある。米国防総省(DoD)の戦略は、特定のツールに制約されるのではなく、ツール間の標準、データ、フォーマット、インターフェースに焦点を当てることである。

デジタル・エンジニアリング・ツールのキーファクターは、可視化、分析、モデル管理、モデルの相互運用性、ワークフロー、コラボレーション、拡張カスタマイズの支援などである。革新的なデジタル・エンジニアリング・ツールの開発、成熟、導入は、エンジニアリングの効率性を高める方法で人と技術を結びつけることにつながる。

4.3 ITインフラのセキュリティと知的財産の保護

デジタル・エンジニアリングの変革は、モデルの保護とデータの秘密区分(classification)、可用性、完全性に依存している。モデルに存在する情報量を考慮すると、米国防総省(DoD)はサイバーリスクを軽減し、内部および外部の脅威からの攻撃に対してデジタル・エンジニアリング環境を保護する必要がある。米国防総省(DoD)と産業基盤は、知的財産と機密情報の保護を徹底するとともに、産業界と政府間のコラボレーションを促進する。

デジタル・エンジニアリングの到達目標達成を促進しながら、ITインフラを保護する。

米国防総省(DoD)は、デジタル・エンジニアリングの計画策定と実行のすべての段階(phases)にサイバーセキュリティを一体化する。デジタル・エンジニアリングの関係者は、デジタル・エンジニアリングの到達目標の実現を促進しながら、ITインフラの保護を確保しなければならない。

米国防総省(DoD)は、米国防総省(DoD)のネットワークやデータに高いリスクをもたらす既知の脆弱性を一括して軽減する。米国防総省(DoD) と産業基盤は、コラボレーションとモデル内の膨大な情報へのアクセスによってもたらされるリスクを軽減する。

方法、プロセス、ツールは、異なるネットワークやセキュリティレベル間のコラボレーションに特有の課題に対応するために更新・開発される。

知的財産を保護しながら、プログラムのライフサイクルを通じてコラボレーションを行うためにモデルを使用する。

米国防総省(DoD) は、ベンダーと政府の両方の財産権を保護しながら、データとモデルの交換を可能にする方法、プロセス、およびツールを更新する。知的財産の特定と保護は、政府と産業界のパートナーが共に取り組まなければならない極めて複雑な課題である。

米国防総省(DoD)とその産業パートナーは、著作権、商標、特許、競争上重要な情報を保護すると同時に、ライフサイクルを通じて関係者の間で関連情報が自由に流れるようにする責任がある。

到達目標5:デジタル・エンジニアリングを採用し、ライフサイクル全体で支援するための文化と労働力の変革

第5の到達目標は、米国防総省(DoD)のデジタル・エンジニアリング変革の計画、実施、支援に対して、意図的かつ体系的なアプローチをとることである。この変革では、米国防総省(DoD)は技術的な側面だけでなく、人材や文化(組織の共有価値、信念、行動を含む)といった労働力の課題に取り組む必要がある。これらの規範や信念は、人々がどのように行動し、業務を遂行するかに根本的に影響する。

デジタル・エンジニアリングの導入を成功させるためには、米国防総省(DoD)は文化的な変化を促進するために、労働力を変えるための意図的な努力をする必要がある。これらの努力には、図 8 に描かれているように、訓練、教育、戦略的コミュニケーション、リーダーシップ、継続的改善などが含まれる。

5.1デジタル・エンジニアリングの知識ベースを向上させる

デジタル・エンジニアリングの知識ベースは、様々な成熟度で進化している。米国防総省(DoD)は、この知識を、デジタル・エンジニアリングの卓越したサイロを詳述する広範な標準、ウェブ・リソース、学術・業界文献に文書化している。この知識ベースを継続的に改善、更新し、さらに整理するための協調的な取組みが必要である。

デジタル・エンジニアリングの方針(policy)、指針(guidance)、仕様、標準を進める

米国防総省(DoD)は、エンジニアリング活動全体の一貫性と規律を確保するために、方針(policy)、指針(guidance)、仕様、および標準を使用している。現在、デジタル・エンジニアリングを可能にする幅広い標準(モデリング言語、プロセス、アーキテクチャフレームワークなど)があるが、ライフサイクルの分野、ドメイン、段階(phases)を越えて取得し交換しなければならないモデルやデータの範囲をカバーするデジタル・エンジニアリング標準のセットはない。

その結果、米国防総省(DoD)は、用語の共通化を促し、コンセプトの共通理解を深め、エンジニアリング活動全体でデジタル・エンジニアリングを実施する際の一貫性と厳密性を確保する必要がある。ギャップを特定するために、米国防総省(DoD)はまず、現在の方針(policy)、指針(guidance)、仕様、標準を評価し、デジタル・エンジニアリングを実施するためにどのような変更が必要かを判断する必要がある。

契約、調達、法律、ビジネス慣行の合理化

米国防総省(DoD)の調達実務は、行動を導き、変革し、契約に関する効果的なパフォーマンスを支援する。既存のプロセスは紙ベースであり、モデル・ベースのアプローチに移行する必要がある。モデル・ベースのアプローチは、柔軟性を提供し、手作業を自動化し、コラボレーションを支援する一方で、調達の計画、評価、授与、および授与後の管理に関する米国防総省(DoD)のプロセスを変更する必要がある。

例えば、デジタル・エンジニアリングは、提案依頼書(RFP)、作業指示書(SOW)、契約データ要件リスト(CDRL)、および付随するデータ項目記述書(DID)に影響を与えるでしょう。このような進化を遂げるには、契約チームや法務チームを巻き込んで、ビジネスと契約の実務を合理化する必要がある。

ベスト・プラクティスの確立と共有

組織が課題を解決し、デジタル・エンジニアリングを制度化するために、米国防総省(DoD)は既存のイニシアチブとネットワークを進め、デジタル・エンジニアリング関係者の情報共有(information sharing)を同期化する。ベスト・プラクティスは、再利用や適応が可能であるべきである。

効果的な行動方針(courses of action)と経験から得た教訓に関する情報を共有することで、より広範なコミュニティが協力し合い、互いに学び合うことができる。この重点分野では、デジタル・エンジニアリングの実践における改善の把握、発見、実施に向けて、米国防総省(DoD)とそのパートナーに情報を提供し、関与させ、動員するための戦略的で省全体の取組みが必要である。

方針(policy)、指針(guidance)、基準の成文化に加え、国防取得コミュニティ全体でベスト・プラクティスを確立し共有することも含まれる。

5.2デジタル・エンジニアリングの変革の取組みを主導し支援する

定義上、変革は変更管理(management of change)を必要とする。イノベーション、実験、継続的改善の文化を推進するには、組織チームと個人の変革に対する価値観、態度、信念を形成することが必要である。

リーダーは、人々が貢献し、成長することを奨励し、活力を与えることによって、変革プロセスを可能にする。そのようなリーダーは、変革のための枠組みを提供する。これらのリーダーは、ビジョンと戦略の伝達と実行、幅広い知識とイノベーションの構築と活用、そして具体的な成果の実証と報酬を通じて、人々を巻き込み、変化を受け入れるよう努める。

デジタル・エンジニアリングのビジョン、戦略、実装の伝達と実行

デジタル・エンジニアリングは、人々の働き方と活動のあり方を根本的に変えるものである。参加を促すために、米国防総省(DoD)のリーダーは、デジタル・エンジニアリングのビジョンと戦略を構築し、伝達する。効果的なビジョンと戦略は、組織の目的、方向性、優先順位を明確にするのに役立つ。分野や組織を超えた利害関係者に気づきと共通理解を与える、複数のチャネルを通じたオープンで頻繁なコミュニケーション戦略を構築することが不可欠である。

リーダーシップは、デジタル・エンジニアリングのビジョンと戦略の実施を可能にするために、障壁を取り除き、変化への抵抗に対処し、リソースを提供し、優先順位と主要なマイルストーンを設定し、役割と責任を定義するように努めるべきである。人々が質問し、フィードバックを提供するための仕組みが必要である。

政府、産業界、学術界を横断する提携(alliances)、連合、パートナーシップの構築

デジタル・エンジニアリング事業のさまざまな側面で、さまざまな関係者がソリューションを開発している。関係者の技能、創意工夫、進歩を利用することで、実践の状態を集団的に向上させることに貢献する洞察やアイデアを得ることができる。米国防総省(DoD)は、提携(alliances)、連合、パートナーシップを利用して、情報やリソースの共有を促進するためのコンセプトを共同で作成し、展開することができる。

米国防総省(DoD)の組織は、政府、国際パートナー、各軍種、学術機関、連邦政府出資の研究開発センター(FFRDC)、および産業界を横断して、状況に応じて永続的な協力関係を構築し維持することが重要である。

プログラムおよび事業体全体の具体的な成果を測定、育成、実証、改善するための説明責任を確立する。

組織は、変革の取組みの管理及び実施に積極的に参加する説明責任を有するリーダーシップ・チーム(チャンピオン、スポンサーなど)を特定する必要がある。

リーダーシップは、短期的な勝利だけでなく、長期的な成果を生み出す広範な行動を開始する。リーダーシップは、インセンティブを生み出し、監視し、報い、是正措置をとり、事業体全体の成果を向上させる手段として、測定基準と成功の基準を定義する必要がある。

5.3労働力の構築と準備

未来の労働力は、地理的に分散し、学際的であり、多世代にわたる。新しい世代のエンジニアが労働力に加わり、まもなく引退する主題専門家(SME)の代わりを務めることになる。米国防総省(DoD)は、主題専門家(SME)とともに活動し、将来にわたって継承していく若いエンジニアを必要としている。あらゆるレベルの労働力を訓練し教育することで、知識、能力、技能を移転することがますます重要になっている。

労働力としての知識・能力・技能を身につける

デジタル・エンジニアリングの変革を支援するために、労働力の訓練や教育は、労働力の知識、能力、技能を開発するための重要な要素である。デジタル・エンジニアリングと関連分野の訓練と教育を通じて、組織は一貫して情報を発信することができる。

これは、個人、チーム、そして組織全体にとって不可欠なものである。米国防総省(DoD)は、新しいコンセプトや方法、プロセス、ツールについて、労働力を総合的に教育・訓練する必要がある。

変革の計画策定と実装の取組みにおいて、労働力全体の積極的な参加と関与を確保する。

訓練や教育は、組織文化の変革の唯一の推進力ではない。米国防総省(DoD)は、新しい習慣や行動の形成を通じて、その知識の活用を奨励しなければならない。

訓練や教育も重要だが、組織が経験を積み、新しい運用方法に適応していくためには、「実行する(doing)」ことが重要である。組織の内外を問わず、利害関係者を巻き込むことで、ライフサイクル全体におけるデジタル機能の決定、デザイン、提供に積極的に参加することができる。

VI.次のステップ

ODASD(SE)と米国防総省(DoD)構成機関は、このデジタル・エンジニアリング戦略の実施を通じて、デジタル・エンジニアリングの変革に協力することになる。米国防総省(DoD)の各部門はデジタル・エンジニアリングの実施計画を所有するが、ODASD(SE)は米国防総省(DoD)のエンジニアリング事業がエンジニアリングの実践を改善するために進歩することを保証するために、努力を調整することになる。

米国防総省(DoD)の各部門が実装計画を作成し、共有し、実行する中で、システム・エンジニアリング担当副次官補室(ODASD(SE))は、ギャップを埋め、重複を排除し、ベスト・プラクティスを共有するために働く。次のステップは次の通りである。

1.米国防総省のデジタル・エンジニアリングの取組みを調整する

ODASD(SE)は、軍種の実装計画について議論するため、米国防総省(DoD)の代表的なリーダーを集めたデジタル・エンジニアリング・サミットを開催する予定である。さらに、システム・エンジニアリング担当副次官補室(ODASD(SE))は、デジタル・エンジニアリング作業部会(DEWG)の一部として、米国防総省(DoD)の各部門との協力を継続する予定である。

デジタル・エンジニアリング作業部会(DEWG)は、共通の実践と懸念に取組み、情報交換と協力を促進し、技術的イニシアチブを調整し、方針(policy)と指針(guidance)を提案し、横断的な問題の解決を追求する。

2.米国防総省の実装計画を開発する

ODASD(SE)の支援を受けた米国防総省(DoD)の各部門は、このデジタル・エンジニアリング戦略の到達目標を達成するために、望ましい結果を示すデジタル・エンジニアリング実施計画を策定する。

3.実証プログラムを実装する

米国防総省(DoD)は、主要なプログラムにおいてデジタル・エンジニアリングを本格的に導入する前に、障壁を特定し、ツール、プロセス、コストを評価するために、多くのデジタル・エンジニアリング・パイロット・プログラムを実施する予定である。デジタル・エンジニアリングのパイロット・プログラムの目的は、エンジニアリングの効率と効果を高めるためのデジタル・アプローチを学び、測定し、最適化することである。

4.デジタル・エンジニアリングの変革を維持する

米国防総省(DoD)は、政府、産業界、学術界全体でデジタル・エンジニアリングを制度化するために、方針(policy)、指針(guidance)、訓練、継続的改善のイニシアチブを実施する。

VII.結論

我々は、国内外で米国の利益に対する脅威が増大している時代に生きている。我々の軍隊は、刻々と変化する風景や脅威に直面しながらも、タイムリーに戦闘員(warfighter)を装備する能力を持たなければならない。現在のエンジニアリングのやり方では、縦割りプロセスやスケジュールの超過によって、その能力が制限されている。

デジタル・エンジニアリングへの移行は、デジタル環境でのリスク・テイクを可能にし、プロトタイプの迅速な実戦投入を促進する。民間事業体や米国防総省(DoD)のエンジニアリング・センターは、この移行を受け入れ、デジタル・エンジニアリング活動を実施し、大きな利益を得ている。

この戦略で特定された到達目標は、米国とその利益を守り続けるために、米国防総省(DoD)がエンジニアリング能力を向上させるための計画を提示するものである。

省内のリーダーは、この戦略で説明した到達目標を達成するために行動を起こし、プログラムや組織に責任を持たせる。防衛省は複数の任務を遂行し、さまざまな脅威に直面し、さまざまな技術を使用しているため、単一のアプローチでは十分とは言えない。

成功には、米国防総省(DoD)全体、民間事業体、米国の同盟国やパートナー、そして進化する将来の労働力の中でのコラボレーション、ビジネス、文化の変革が必要である。

付録1 デジタル・エンジニアリングの到達目標と焦点となる分野

到達目標 焦点となる分野
事業体やプログラムの意思決定に情報を提供するためにモデルの開発、統合、使用を公式化する ・ライフサイクル全体を通したエンジニアリング活動と意思決定を支援するための各種モデルの計画策定を公式化する

– 対象システムをデジタルで表現するための計画を公式に策定する。

・モデルの開発、一体化、キュレーションを公式に行う。

- モデルの正確性、完全性、信頼性、再利用性を確保するために、モデルを開発する。

- 凝集性のモデル主導のライフサイクル活動を支援するため、分野横断的にモデルを一体化しキュレートする。

・ライフサイクルにおけるエンジニアリング活動や意思決定を支援するために、モデルを使用する。

- モデルを使用して、コミュニケーション、コラボレーション、モデル駆動型のライフサイクル活動を行う。

永続的で権威ある信頼できる源を提供する ・権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)を定義する

– 真実の権威ある情報源を計画・開発する

・権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)を統括する

– 真実の権威ある情報源へのアクセスと統制を確立する。

– 権威ある真実の源(ASoT)のガバナンスを実行する

・ライフサイクルを通じた権威ある真実の源(ASoT)を使用する

- 技術的なベースラインとして、権威ある真実のソースを使用する

- デジタルの人工物(digital artifacts)の作成、レビューの支援、および意思決定に、権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)を使用する。

- 権威ある真実の源(authoritative source of truth:ASoT)を使ったコラボレーションとコミュニケーション

技術革新を取り入れて、エンジニアリングの実践を向上させる ・エンド・ツー・エンドの事業体全体のデジタル・エンジニアリングを確立する

– エンド・ツー・エンドのデジタルの事業体を実現するため の技術革新の導入

・デジタル・エンジニアリングの実践を向上させるために技術革新を利用する

- データを活用し、意識、洞察、意思決定を向上させる。

- 人間と機械の相互作用(human-machine interactions)を進化させる

利害関係者を超えた活動、コラボレーション、コミュニケーションのための支援インフラと環境を構築する ・デジタル・エンジニアリングIT基盤の開発・成熟・活用

– デジタル・エンジニアリング活動を行うためのセキュアな接続情報ネットワークを提供する。

– デジタル・エンジニアリング活動を行うためのハードウェアとソフトウェアを提供する。

・デジタル・エンジニアリングの方法論の開発、成熟、活用

– 事業体やライフサイクルにおけるデジタル・エンジニアリング活動を支援するための手法やプロセスを開発、成熟させ、導入する。

– デジタル・エンジニアリング・ツールの開発、成熟、実装

・ITインフラのセキュリティと知的財産の保護

– デジタル・エンジニアリングの到達目標達成を促進しながら、ITインフラを保護する。

– 知的財産を保護しながら、プログラムのライフサイクルを通じてコラボレーションを行うためにモデルを使用する。

デジタル・エンジニアリングを採用し、ライフサイクル全体で支援するための文化と労働力の変革 ・デジタル・エンジニアリングの知識ベースを向上させる

– デジタル・エンジニアリングの方針(policy)、指針(guidance)、仕様、標準を進める

– 契約、調達、法律、ビジネス慣行の合理化

– ベスト・プラクティスの確立と共有

・デジタル・エンジニアリングの変革の取組みを主導し支援する

– デジタル・エンジニアリングのビジョン、戦略、実装の伝達と実行

– 政府、産業界、学術界を横断する提携(alliances)、連合、パートナーシップの構築

– プログラムおよび事業体全体の具体的な成果を測定、育成、実証、改善するための説明責任を確立する。

・労働力の構築と準備

– 労働力としての知識・能力・技能を身につける

– 変革の計画策定と実装の取組みにおいて、労働力全体の積極的な参加と関与を確保する。