軍事AI革命の到来 (Military Review)

MILTERMでは、人工知能に関わる記事等を紹介している。米陸軍のMilitary Reviewの最新号で人工知能の特集を組んでおり、その中の記事を紹介する。記事では米国防総省のレプリケーター構想(Replicator initiative)にも触れている。(軍治)

軍事AI革命の到来

The Coming Military AI Revolution

May-June 2024

Military Review

Col. Joshua Glonek, U.S. Army

ジョシュ・グロネック(Josh Glonek)米陸軍大佐はスタンフォード大学の陸軍士官学校フェローで、人工知能と米中戦略競争について研究している。ウェスト・ポイントで学士(BS)、シカゴ大学で公共政策修士(MPP)を取得。最近の任務では、第10山岳師団の師団作戦将校、第87歩兵連隊第2大隊長、国防長官の首席スピーチライターを務めた。

2018年8月15日、北京で開催された世界ロボット会議で、中国のロボットメーカー、江蘇東方金玉知能ロボット社のロボットに乗った中国人民解放軍兵士の映像を流すビデオ・スクリーン。

(写真:マーク・シーフェルバイン(Mark Schiefelbein)、AP通信)

単純な事実として、我々は敵の行動をすべて見ており、敵は我々の行動をすべて見ている。この行き詰まりを打破するためには、中国が発明し、私たちがいまだに殺し合いに使っている火薬のような、何か新しいものが必要なのだ。

ヴァレリー・ザルジニー(Valery Zaluzhny)元ウクライナ軍最高司令官

米軍の長年の技術的優位(technological overmatch)は急速に失われつつある[1]。過去25年間、中国は人民解放軍(PLA)に多額の投資を行い、「2035年までに国防と軍備の近代化を完了」させ、人民解放軍(PLA)を「今世紀半ばまでに世界トップクラスの軍隊」に変貌させるという道を歩んできた[2]

中国の軍事力強化は現在、米国主導の国際秩序、そして米国の同盟国やパートナーの安全保障に対する手ごわい挑戦となっている[3]

特に、今後数十年の軍事力の優位性を左右する技術のひとつが、人工知能(AI)だ。自動運転車やChatGPTの登場により、AIは空想科学小説(SF)の域を超え、今や社会全体に普及し始めている。この破壊的な技術は、軍事力にも新たな機会をもたらしている。

AIのデュアル・ユース・アプリケーションは、大量のデータを迅速に分析し、センサーとシューターとの連携を強化し、意思決定速度を向上させるツールを提供する。米軍は、技術的優位性を維持し、敵対者の侵略を抑止し、必要であれば武力紛争で勝利するために、この変革的技術を受け入れ、AIの革新的アプリケーションの開発を加速させなければならない。

収集したデータを分析し、戦術レベルの作戦に備えるためにAIを活用する兵士たち。

(ジョシュア・グロネック米陸軍大佐によるAIイメージ)。

来るべき軍事AI革命は、米中間のより広範な地政学的競争(geopolitical competition)の中に位置づけられる。この競争の賭け金は高く、結果は不透明だ。中国は、米国は衰退しつつある超大国だと考えている。

人民解放軍(PLA)が力を増すにつれ、その行動はより攻撃的になっている。過去2年間、米国は、米国の同盟国やパートナーに対する人民解放軍(PLA)の危険な航空迎撃(air intercept)を180件以上記録している[4]

南シナ海は、中国が非合法な領有権を主張し、台湾に対して軍事力を行使する意思を示し続けているため、依然として論争の火種となっている[5]。緊張は高く、紛争のリスクは現実のものとなっている。

この大国間競争で成功し、戦争を抑止するためには、米軍が技術的優位性を維持する必要がある。しかし、これを達成するには、中国が急速にその差を縮めているため、画期的な技術革新の取り組みが必要となる。

戦いを「インテリジェント化」することを決意した中国共産党は、まったく新しい世代のAI対応軍事システム(AI-enabled military systems)を急速に追求している[6]。これを支援するため、中国共産党は国家と民間のリソースを大量に投入している。進展は加速し続けている。

兵士は、さまざまな武器や支援システムを個別に、あるいは連携して使用することを考える。未来の戦場は、無人航空機や戦術車両を含む、さまざまなAI主導の兵器プラットフォームや支援システムによって特徴づけられるだろう。

(イラスト:米陸軍ジェイミー・リア(Jamie Lear))

これを受けて、米国防総省(DOD)は独自の軍事近代化路線に乗り出した。国防総省(DOD)は現在、AIの採用を加速させることを主要な優先課題としており、世界有数のAI企業が存在する米国の民間部門のイノベーション力を活用しようとしている。AI対応システム(AI-enabled systems)を大規模に実戦投入し、戦場で新たな方法で活用することで、米軍は人民解放軍(PLA)の進歩を相殺し、世界の比類なき超大国であり続けるつもりだ。

来るべき軍事AI革命がもたらす結果は甚大だ。効果的に開発されれば、AIはすべての軍事システムや軍事のプロセスに浸透するだろう。AIが人間のデータ処理に対する要求を軽減し、認知的過負荷を防ぎ、より徹底的な分析を可能にすることで、莫大な効率向上が実現するだろう。

状況認識(situational awareness)が高まり、作戦がより正確になり、意思決定がより的確な情報に基づくものになる。戦いのスピード(speed of warfare)は増すだろう。最高のAIツールを持つものは常に主導権を握るが、そうでないものは何が起こっているのか理解するのに苦労するだろう。

軍隊のAI革命が進むにつれ、軍事専門職に従事するすべての者に準備が義務付けられている。将官から二等兵に至るまで、私たちは皆、今後数年間で起こるだろう軍隊の変革に果たすべき役割を担っている。私たちは新しいものを受け入れ、環境の変化に適応しなければならない。

イタリアの空軍理論家ジュリオ・ドゥーエ(Giulio Douhet)がかつて述べたように、「勝利は戦争の性格の変化を予期する者に微笑むものであり、変化が起きてから適応するのを待つ者に微笑むものではない」[7]。100年以上前に書かれたドゥーエ(Douhet)の言葉は、今日でも力強く響いている。

AIの簡単な歴史

AIは比較的新しい現象のように思えるかもしれないが、イギリスの数学者アラン・チューリング(Alan Turing)は1950年に初めてこの理論を考案した。コンピュータの開発で重要な役割を果たしたチューリング(Turing)は、機械が人間の回答と見分けがつかないような答えを生成できるようになれば、AIが実現すると考えていた[8]

その後20年間、国防高等研究計画局の資金援助により、いくつかの主要大学にAI研究室が設立され、AIの研究は盛んになった[9]。このように当初はAI研究が盛んであったにもかかわらず、原始的なコンピューターに見られる計算能力やデータ・ストレージの不足から、多くの人が継続的な進歩はもはや不可能だと考えるようになった。その結果、ほとんどのAI研究に対する資金は大幅に削減された。

1936年、プリンストン大学でのアラン・チューリング(Alan Turing)(1912-1954)。イギリスの数学者、コンピュータ科学者、暗号解読者、理論生物学者。理論計算機科学の父であり、人工知能の創始者の一人と広く考えられている。

(写真提供:ウィキメディア・コモンズ)

AIの開発は、1980年代にマイクロプロセッサの進歩によって計算能力が向上したため、復活を遂げた。「ムーアの法則(Moore’s law)」と呼ばれるコンセプトに従い、コンピューター・チップの容量は指数関数的に増加し続け、約2年ごとに倍増した[10]

より強力な半導体により、コンピューター科学者はより大きなデータベースにアクセスできるようになり、より洗練されたアルゴリズムが可能になった。「エキスパート・システム(expert systems)」と呼ばれる新しい一連のプログラムが開発され、初めて人間の意思決定を再現できるようになった[11]

エキスパート・システム(expert systems)には、特定のトピックに関する知識と事実の広範なコレクションが含まれていた。これらのプログラムは、人間の専門家を必要とするような狭い範囲の問題を解決することができる。例えば、国防総省(DOD)は、ユーザーが診断データを入力すると、故障の根本的な原因や推奨される解決策に関するレポートを受け取ることができるメンテナンス・ソフトウェアを開発するために、エキスパート・システム(expert systems)を採用した[12]

エキスパート・システム(expert systems)は、特注のアプリケーションには優れていたが、あらかじめプログラムされた知識を超えた問題解決には関与できなかった[13]

AIの進歩の次の波は、1990年代の機械学習(machine learning)の誕生によってもたらされた。手作業でプログラミングしなければならなかったエキスパート・システムとは異なり、機械学習アルゴリズムは、学習データを使ってタスクの実行方法や問題の解決方法を「学習(learn)」する[14]。これにより、開発者はモデルのパラメーターを微調整して望ましい結果を得ることができるようになり、新しい環境でも優れたパフォーマンスを発揮する柔軟性の高いAIプログラムが誕生した。

人間の脳をゆるやかにモデル化したニューラル・ネットワークを使用する「深層学習(deep learning)」アルゴリズムの開発によって、さらなる進歩がもたらされた。深層学習と膨大なデータセットを組み合わせることで、自動運転車から顔認識プログラムまで、さまざまなアプリケーションの基礎となる「コンピューター・ビジョン(computer vision)」が可能になった[15]

IBMのエンジニア、アーサー・サミュエル(Arthur Samuel)と彼が開発した初期の機械学習コンピューター(1962年頃)。

サミュエル(Samuel)は、1990年代にIBMで人工知能における一連の飛躍的進歩の基礎を築いた。

(写真提供:IBM)

AIにおける最新のブレークスルーは、2022年11月にオープンAIがChatGPT大規模言語モデル・プログラム(Large Language Model)をリリースした際に世界に紹介された。ラージ・ランゲージ・モデル(Large Language Model)は、自然言語が連続した順序で並べられているという事実を利用し、文中の単語間に論理的なつながりを作り出す。

トレーニング中に非常に多くの文章を読むことで、これらのモデルは首尾一貫した方法で単語の配置を予測するのに有効になる[16]。ChatGPTに読書感想文やビジネス・プランの作成、詩の創作を依頼すれば、ほぼ瞬時に、しかも高い効果でそれを実行してくれるだろう。

また、言葉は単なるデータの一形態であるため、こうした新しい技術は言語だけに限定されるものではない。生成AI(generative AI)の新たな応用として、画像や映像の作成、作曲、コンピューター・コードの記述といった機能が登場している。

近年、AIの進歩は大きな成果をもたらしている。2016年、グーグル・ディープマインドのコンピューター・プログラム「アルファ碁(AlphaGo)」が、囲碁の世界チャンピオンであるイ・セドル(Lee Sedol)棋士を5番勝負で破った。第2局で「アルファ碁(AlphaGo)」は異例の手を打ち、それを見ていた専門家たちは当初ミスと思った。

ゲームが進むにつれ、この「過ち(mistake)」がマシンの勝利に極めて重要であることが明らかになった[17]。さらに2020年には、国防高等研究計画局(DARPA)主催の仮想ドッグファイト競技で、AIエージェントが人間のエリート戦闘機パイロットに決定的な勝利を収めた。

度重なる敗北について尋ねられた人間のパイロットは、「戦闘機パイロットとして標準的なことが機能していない」と答えた[18]。これらの偉業は、複雑なシナリオにおけるAIの腕前の見事なデモンストレーションであるだけでなく、AIがいかに新しい技術や戦略を学習する能力があり、優れた人間をも出し抜くことができるかを示している。

軍事AI開発競争

さまざまな狭い範囲での応用において、AIはすでに勝利を収めている。米国も中国もこのことを理解しており、自国の軍事戦略にAIを取り入れようと競い合っている。2018年、国防総省(DOD)は米軍によるAIの採用を加速させることを目的とした初の「人工知能戦略(Artificial Intelligence Strategy」を発表した。

報告書は、中国が「軍事目的のAIに多額の投資を行っている」という事実を強調し、それが「技術的・作戦的優位性を侵食する恐れがある」とした[19]。2019年、中国は国防白書を発表し、「中国の特色ある軍事分野における革命(Revolution in Military Affairs with Chinese characteristics)」が進行中であると主張した[20]

ビッグ・データ、クラウド・コンピューティング、モノのインターネット(internet of things)が「軍事分野で急成長している」中、新興技術の新たな進歩に助けられ、報告書は将来の戦いにおけるAIの重要性を強調した[21]。AIが戦いの性質(character of warfare)を一変させるという考えは、今や両国の軍事戦略の最前線にあった。

長弓、火薬、戦車など、比較的特定の用途に使われた過去の重要な軍事技術革新とは異なり、AIは多様な用途を持つ汎用技術である。

電気の出現が照明、暖房、交通、通信の進歩をもたらしたのと同じように、AIは他の多くの技術に普及し、その能力と効果を大幅に向上させるだろう。

現在、米国と中国の防衛部門では、自律走行車、情報収集、予測兵站、サイバーセキュリティ、指揮・統制など、さまざまな軍事利用を追求するAIの研究開発が盛んに行われている。AI競争の勝敗は、ある特定のアプリケーションに基づいて決まるのではなく、むしろ、用兵のあらゆるドメイン(all domains of warfighting)におけるさまざまなシステムやプロセスにわたってAIを最もうまく統合(一体化)できる側が決めることになるだろう。

軍事技術開発に対する中国のアプローチは、中央集権的な政府管理によって同期化された中国の民間企業による研究開発に軍が直接関与することを特徴とする軍民融合の戦略(strategy of military-civil fusion)である。

(AIイメージ:ヘラルド・A・メナ・ジュニア(Gerardo A. Mena Jr.)米陸軍大学出版局)

米国は長い間、強力な技術革新の文化と確立された防衛産業基盤によって、軍用ハードウェアの開発において世界をリードしてきた。近年、中国は国家が意図的に軍事近代化に重点を置き、大きな進歩を遂げている。

しかし両国は、AI対応軍事システム(AI-enabled military systems)の開発競争で新たな課題に直面している。政府主導の研究プログラムを通じて開発された過去の多くの技術革新とは異なり、今日の最先端AI技術は現在、民間部門に存在している。

この技術にアクセスするためには、国防総省(DOD)と中国共産党が民間企業と新たなパートナーシップを結び、デュアル・ユース・アプリケーションを開発する必要がある。米中両国の伝統的な国防請負業者や国有企業は、民間セクターのAIイノベーションのペースについていけない。

この問題を解決するための中国のアプローチは、軍民融合戦略を通じて官民融合を深めるために国家権力を利用することである[22]。近年、この戦略のいくつかの側面が、人民解放軍(PLA)と中国の民間企業のより緊密な統合(一体化)に成功した。

これには、軍事、学術、営利企業間のデュアル・ユース研究を促進するための統合研究所の設立、人民解放軍(PLA)に営利技術へのアクセスを提供することに重点を置くアジャイル・イノベーション防衛ユニットの創設、軍事的問題に対する創造的な解決策を促進することを目的とした課題やコンペティションの人民解放軍(PLA)スポンサーなどが含まれる[23]

さらに、軍民融合(military-civil fusion)は、人民解放軍(PLA)の商業分野への進出を拡大することに成功している。安全保障・新興技術センター(Center for Security and Emerging Technology)の最近の調査によると、人民解放軍(PLA)はAI関連機器の大半を、レガシーな国有企業ではなく、中国の民間技術企業から入手している[24]

腐敗(corruption)と官僚主義的非効率(bureaucratic inefficiencies)は依然として中国の権威主義体制の限界であるが、これまでのところ目覚ましい進歩が見られる。

中国のトップダウンのアプローチとは対照的に、米国の戦略は、活気に満ちた革新的な市場ベースの経済を活用し、新たなAI対応軍事技術を生み出すことである。そうすることで、国防総省(DOD)は、精巧で有人、高コストのレガシー戦闘プラットフォームから、消耗品で自律的、比較的安価な新世代のシステムへと戦力をリバランスしようとしている。

国防総省(DOD)は「レプリケーター(Replicator)」と呼ばれる構想(initiative)を通じて、「今後18~24カ月以内に、複数のドメインで、数千の規模で」これらのシステムを実戦配備するという到達目標を掲げている[25]。レプリケーター構想(Replicator initiative)は、人民解放軍(PLA)(中国共産党)の従来型の優位性を量で相殺することを意図しており、高度に競合する環境で効果的に活動できるAI対応システム(AI-enabled systems)を大量に配備することで、米国の従来型の能力を補完しようとしている。

人民解放軍とは異なるアプローチで、米国防総省は防衛技術開発プログラムにおいて、民間企業や競合する民間企業間の経済競争に大きく依存している。このアプローチは、自由企業が創造性と革新においてより大きな自由を促進すると仮定している。

(イラスト提供:DroneXL、https://www.dronexl.co

こうした技術開発の主導的役割を果たすのが、国防総省(DOD)と民間部門との緊密なパートナーシップを促進するために創設された国防イノベーション・ユニット(DIU)である。2023年、国防イノベーション・ユニット(DIU)は国防長官の直属部隊に昇格し、「戦闘員の要件を満たすために商業技術を適応および適用できる民間部門のコミュニティとの関与と投資を促進する」[26]

シリコン・バレーのような場所では、世界で最も優れた民間AI企業が、その技術のデュアル・ユース・アプリケーションを開発するための専門知識を持っているが、しばしば国防総省(DOD)の煩雑な取得手続きによって妨げられている。国防イノベーション・ユニット(DIU)は、手続きを合理化することでこの課題を克服し、より多くの非伝統的企業を防衛部門に引き込む手助けをしている。

これにより、技術革新が進み、AIの応用範囲が広がり、これらのシステムをより迅速に軍に導入することが可能になる。レプリケーター構想(Replicator initiative)が進むにつれ、国防イノベーション・ユニット(DIU)は軍部と各戦闘軍指揮官(combatant commanders)のニーズに合わせたAI技術の開発を調整する上で主導的な役割を果たすことになる。

戦争の霧を見通す

軍事作戦は、戦争に内在する不確実性のために存在する「霧(fog)」が支配的であるという特徴がある[27]。会戦がどのように展開するか予測できないことは、戦争の不可欠な本質の一部であり、完全に排除することはできない。

しかし、霧の中には、その意味を明確に理解するのに十分な速さで処理できない膨大な量のデータや情報の結果であるものもある。戦闘訓練センターのアフター・アクション・レビュー(AAR)では、情報の洪水に圧倒される部隊の欠点が日常的に強調されている。全体的な状況を明確にするような方法で、豊富なデータを効果的に統合できる参謀はめったにいない。

「他に誰が知る必要があるのか?」という質問は、情報が機能的な「ストーブ・パイプ(stovepipes:縦割り組織)」の中で孤立しがちな傾向を相殺するための手法として、よく聞かれる。情報の特定、整理、保存、普及をよりよくするために考案された知識管理(knowledge management)の手順が発達しているにもかかわらず、データ過多という根本的な問題は依然として存在している。

戦術レベルの作戦を迅速に計画・実行するためのデータ分析に人工知能を活用する兵士。

(AIイメージ:ヘラルド・A・メナ・ジュニア(Gerardo A. Mena Jr.)米陸軍大学出版局)

現代の戦場では、センサーはほぼどこにでもあり、常に軍の指揮所に情報を流している。参謀たちは、情報・監視・偵察部隊は、画像、ビデオ、信号傍受、電磁気探知を組み合わせて敵部隊のデータを提供する。友軍は、さまざまな指揮・統制システムを通じて状況の最新情報や支援要請を提供する。天候の変化、戦場での民間人の存在、偽情報の導入など、膨大な量のデータに対応するのに苦労している。その他の要因が作戦環境にさらなる複雑さを加える。

利用可能なデータの洪水は、効果的な意思決定を妨げる「分析麻痺(analysis paralysis)」の状態を生み出しかねない。最終的に意思決定がなされる頃には、もはや現在の状況とは無関係になっている。

そこでAIが役立つ。今日のAIシステムとそれを動かすハイパワー・コンピューターは、膨大な量のデータをかつてないスピードで処理することができる。通常、人間が何日も何週間もかかる作業を、AIはほんの数秒で処理することができる。

例えば銀行業界を例にとってみよう。金融機関はAIを使ってクレジット・カードの利用状況をリアルタイムで追跡している。購入者の不規則な行動が特定されると、不正行為が発生する前に取引が拒否される[28]。人手による手作業に頼った従来の方法と比較すると、その結果得られる効率性の向上は非常に大きい。

さらに、AIシステムは様々な分野で人間の専門家よりも正確であることが証明されつつある。例えば医療分野では、機械学習システムが高度な訓練を受けた臨床医よりも高い精度でがん(cancer)を予測している[29]。このような同じ技術を一般的な軍事タスクに応用することで、効率性と有効性に同様の向上をもたらすことができる。要するに、AIは戦争の霧(fog of war)を晴らすのに役立つのだ。

こうした生産性の向上は、最終的には、戦いにおける重要な優位性である、より迅速で効果的な意思決定を可能にする。ジョン・ボイド(John Boyd)は、観察、方向づけ、決定、行動(OODA)ループとして知られるプロセスを通じて、軍事的競争を特徴づけた[30]。ボイド(Boyd)の考えは、どちらの側がこのプロセスを速く実行しても、相手の意思決定サイクルの内側に入ることができ、相対的軍事的優位性(relative military advantage)を達成するというものだった。

AIシステムは、状況認識(situational awareness)を高め、大量の情報を迅速に処理し、意思決定の選択肢を計算し、作戦を自動化することで、OODAループのプロセスを大幅に加速する。インテリジェンス・アナリストは、コンピューター・ビジョンを使って、大量の画像や映像から敵の位置を特定する。オペレーターは、ドローンの自律的な群れを用いて敵の防御を圧倒する。

兵站担当者は、データ分析を使って補給任務や装備品の整備を最適化する。軍事計画担当者は、大規模な言語モデルを使用して作戦命令を起草し、意思決定概要を作成する。サイバー戦士は機械学習を活用して異常を特定し、敵対者のネットワーク侵入を拒否する。これらはAIの軍事的応用のほんの一部に過ぎない。

OODAループがどの程度のスピードで加速するかは、人間がAIに寄せる信頼の度合いにもよるだろう。どんな新しい技術でもそうであるように、AIはエラーの可能性があり、進化し成熟し続けるにつれて、時間の経過とともに改良が必要になる。当面の間、人間の管理と監視を維持することには十分な理由がある。

ひとつは、AIが「幻覚(hallucinate)」を見る能力を発揮し、もっともらしいが現実とは一致しない出力や答えを出すことだ[31]。これは、AIモデルが学習データに基づいて統計的推論(statistical inference)を行った結果、現実の環境に適用したときに不正確な結果を導く場合に発生する。軍事的活動を支援するAIプログラムにとって、不正確な出力は深刻な結果を招く可能性がある。

多くのAIモデルのもう一つの課題は、「説明可能性(explainability)」が欠けていることだ。つまり、システムがその結論の基礎となる論理やデータを説明することができない[32]。その結果、意思決定は「ブラック・ボックス(black box)」の中で行われているように見え、ユーザーはシステムの思考プロセスを追跡することができない。このような透明性の欠如により、軍事AIに対する信頼は、経験を通じて時間をかけて築かれる必要がある。

AIはまた、敵対者がデータ入力を調整し、モデルが誤った結論を導き出すようななりすまし(spoofing)にも弱い[33]。コンピューター・ビジョンのソフトウエアをターゲッティングに使って、友軍や民間人が敵の高報酬ターゲットであると結論づけるように操作されることを想像してみてほしい。このような理由から、軍事AIの短期的な応用のほとんどは、人間の役割に取って代わるのではなく、むしろ補強するものになるだろう。

将来のグローバルな作戦環境において、AIは戦略、作戦、戦術レベルの指揮統制における軍事分析と意思決定において重要な役割を果たすだろう。

(イラスト:NIWC Pacific、2018年4月7日)

米国と中国はAIガバナンスを制定しているが、文化の違いが導入のスピードに影響するかもしれない。最近の調査では、中国国民の78%がAIには欠点よりも利点の方が大きいと考えているのに対し、米国人はわずか35%だった[34]

国防総省(DOD)は2020年、安全かつ責任ある方法で新技術の開発を導くことを目的とした、AI利用のための一連の倫理原則(ethical principles)を採択した[35]。人民解放軍(PLA)は同様の原則を発表しておらず、AIがもたらすリスクによる制約が少ないように見える。

米国では自律型軍事システムを採用することの倫理について活発な議論が行われているのとは対照的に、中国のオープン・ソースではこのトピックに関する議論はほとんど行われていない[36]。AIの倫理と規制におけるこうした対照的な視点は、米国と中国がそれぞれの軍隊にAIを採用し、統合する速度に影響を与える可能性がある。米国はそのアプローチにおいてより慎重で慎重を期しているように見えるが、中国はAIの潜在的リスクに対する制約が少ないように見える。

結論

技術だけが戦争の勝敗を保証するわけではないが、歴史上、技術革新に優れた軍隊は戦場で決定的な優位に立ってきた[37]。米軍は長い間、敵対者に対する技術的優越(technological superiority)を享受してきたが、この優位性は現在失われつつある。

中国が国家レベルでAI技術革新に注力していることは、大きな技術的進歩となって表れており、人民解放軍(PLA)が世界トップクラスの軍隊になるという目標を達成することを可能にしている。現在進行中の地政学的対立の中で、AIの力を活用するための競争は、今後何年にもわたって世界のパワー・バランス(global balance of power)を形成していくだろう。

米軍の優位(overmatch)を維持するには、国防総省(DOD)全体でAI開発を加速させる必要がある。人民解放軍(PLA)を凌駕するために必要な進歩を遂げるには、民間部門とのパートナーシップ強化が不可欠である。中国の軍民融合戦略(military-civil fusion strategy)は目覚ましい成果を上げているが、最も有能なAI企業は米国に存在する。

高度に熟練した労働力と最先端の研究を持つこれらの企業は、AIの最も先進的な軍事応用を生み出す可能性を秘めている。米国の市場ベースのシステムは、イノベーションの育成において明確な優位性を保持しているが、国防総省(DOD)はその潜在能力を十分に活用するために適応し続けなければならない。

現在進行中のレプリケーター構想(Replicator initiative)は、AI開発における国防総省(DOD)最大の賭けである。その成功は米軍の将来にとって極めて重要である。

新技術は常に開発されているが、AIほどの可能性を秘めたものはめったにない。通常、軍事的な優位性は、環境、敵、そして自分自身をよりよく理解している側が獲得する。会戦は通常、タイムリーで十分な情報に基づいた決断を下す指揮官によって勝利する。AIはこれらすべてを可能にする技術である。

軍事AI革命は始まったばかりである。それがどのように進むか、そして最終的に米国が勝つかどうかは、このチャンスにいかに緊急性をもって臨むか、組織の適応力、そして国民の忍耐力にかかっている。AIの可能性(potential of AI)は無限であるが、それを理解する先見の明と、挑戦を受け入れる不屈の精神(fortitude)があればこそである。

ノート

[1] National Defense Strategy Commission, Providing for the Common Defense: The Assessment and Recommendations of the National Defense Strategy Commission (Washington, DC: United States Institute of Peace, 2018), 10, https://www.usip.org/sites/default/files/2018-11/providing-for-the-common-defense.pdf.

[2] M. Taylor Fravel, “China’s ‘World-Class Military’ Ambitions: Origins and Implications,” Washington Quarterly 43, no. 1 (Spring 2020): 85, https://doi.org/10.1080/0163660X.2020.1735850.

[3] Oriana Skylar Mastro, “The Military Challenge of the People’s Republic of China,” in Defense Budgeting for a Safer World: The Experts Speak, ed. Michael Boskin, John Rader, and Kiran Sridhar (Stanford, CA: Hoover Institution Press, 2003), 37.

[4] Office of the Secretary of Defense, Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China, 2023: Annual Report to Congress (Washington, DC: U.S. Department of Defense [DOD], 2023), 139.

[5] Ibid., 140.

[6] Elsa Kania, “Artificial Intelligence in China’s Revolution in Military Affairs,” Journal of Strategic Studies 44, no. 4 (2021): 515, https://doi.org/10.1080/01402390.2021.1894136.

[7] Giulio Douhet, The Command of the Air, ed. Joseph Harahan and Richard Kohn (Tuscaloosa: University of Alabama Press, 2009), 30.

[8] Michael Wooldridge, A Brief History of Artificial Intelligence: What It Is, Where We Are, and Where We Are Going (New York: Flatiron Books, 2020), 24.

[9] Rockwell Anyoha, “The History of Artificial Intelligence,” Science in the News Special Edition: Summer 2017, 28 August 2017, https://sitn.hms.harvard.edu/flash/2017/history-artificial-intelligence/.

[10] Chris Miller, Chip War: The Fight for the World’s Most Critical Technology (New York: Scribner, 2022), 31.

[11] Rekha Jain, “Expert Systems: A Management Perspective,” Vikalpa 14, no. 4 (1989): 17, https://doi.org/10.1177/0256090919890404.

[12] U.S. Government Accountability Office (GAO), Artificial Intelligence: Status of Developing and Acquiring Capabilities for Weapon Systems, GAO-22-104765 (Washington, DC: U.S. GAO, 2022), 5, https://www.gao.gov/products/gao-22-104765.

[13] Pamela McCorduck, Machines Who Think: A Personal Inquiry into the History and Prospects of Artificial Intelligence (Natick, MA: A. K. Peters, 2004), 511.

[14] U.S. GAO, Artificial Intelligence, 5.

[15] Mustafa Suleyman, The Coming Wave: Technology, Power, and the 21st Century’s Greatest Dilemma (New York: Crown Publishing, 2023), 60.

[16] Ibid., 63.

[17] Wooldridge, A Brief History of Artificial Intelligence, 128.

[18] Patrick Tucker, “An AI Just Beat a Human F-16 Pilot in a Dogfight – Again,” Defense One, 20 August 2020, https://www.defenseone.com/technology/2020/08/ai-just-beat-human-f-16-pilot-dogfight-again/167872/.

[19] U.S. DOD, Summary of the 2018 Department of Defense Artificial Intelligence Strategy: Harnessing AI to Advance our Security and Prosperity (Washington, DC: U.S. DOD, 2018), 5, https://media.defense.gov/2019/Feb/12/2002088963/-1/-1/1/SUMMARY-OF-DOD-AI-STRATEGY.PDF.

[20] State Council Information Office of the People’s Republic of China, China’s National Defense in the New Era (Beijing: State Council Information Office of the People’s Republic of China, 2019), 5, https://english.www.gov.cn/archive/whitepaper/201907/24/content_WS5d3941ddc6d08408f502283d.html.

[21] Ibid., 5.

[22] Alex Stone and Peter Wood, China’s Military-Civil Fusion Strategy: A View from Chinese Strategists (Montgomery, AL: China Aerospace Studies Institute, 2020), 26, https://www.airuniversity.af.edu/CASI/Display/Article/2217101/chinas-military-civil-fusion-strategy/.

[23] China’s Pursuit of Defense Technologies: Hearing Before the U.S.-China Economic and Security Review Commission, 118th Cong. 48 (2023) (statement of Elsa Kania, Adjunct Senior Fellow, Technology and National Security Program at the Center for a New American Security).

[24] Ryan Fedasiuk, Jennifer Melot, and Ben Murphy, Harnessed Lightning: How the Chinese Military Is Adopting Artificial Intelligence (Washington, DC: Center for Security and Emerging Technology, 2021), 32, https://cset.georgetown.edu/publication/harnessed-lightning/.

[25] “Deputy Secretary of Defense Kathleen Hicks’ Remarks: ‘Unpacking the Replicator Initiative’ at the Defense News Conference (As Delivered),” U.S. DOD, 6 September 2023, https://www.defense.gov/News/Speeches/Speech/Article/3517213/deputy-secretary-of-defense-kathleen-hicks-remarks-unpacking-the-replicator-ini/.

[26] Office of the Secretary of Defense, memorandum, “Realignment and Management of the Defense Innovation Unit,” 4 April 2023, https://media.defense.gov/2023/Apr/04/2003192904/-1/-1/1/REALIGNMENT-AND-MANAGEMENT-OF-THE-DEFENSE-INNOVATION-UNIT.PDF.

[27] Carl von Clausewitz, On War, ed. and trans. Michael Howard and Peter Paret (Princeton, NJ: Princeton University Press, 1984), 101.

[28] J. P. Pressley, “Why Banks Are Using Advanced Analytics for Faster Fraud Detection,” BizTech, 25 July 2023, https://biztechmagazine.com/article/2023/07/why-banks-are-using-advanced-analytics-faster-fraud-detection.

[29] Bo Zhang, Huiping Shi, and Hongtao Want, “Machine Learning and AI in Cancer Prognosis, Predictioin, and Treatment Selection: A Critical Approach,” Journal of Multidisciplinary Healthcare 16 (2023): 1779, https://doi.org/10.2147/JMDH.S410301.

[30] Brian R. Price, “Colonel John Boyd’s Thoughts on Disruption: A Useful Effects Spiral from Uncertainty to Chaos,” Journal of Advanced Military Studies 14, no. 1 (2023): 99, https://doi.org/10.21140/mcuj.20231401004.

[31] Herbert S. Lin, ed., The Stanford Emerging Technology Review 2023: A Report on Ten Key Technologies and Their Policy Implications (Stanford, CA: Stanford University, 2023), 26, https://setr.stanford.edu/.

[32] Ibid., 25.

[33] Ibid., 26.

[34] Nestor Maslej et al., Artificial Intelligence Index Report 2023 (Stanford, CA: Institute for Human-Centered Artificial Intelligence, 2023), 322, https://aiindex.stanford.edu/report/.

[35] “DOD Adopts Ethical Principles for Artificial Intelligence,” U.S. DOD, 24 February 2020, https://www.defense.gov/News/Releases/Release/Article/2091996/dod-adopts-ethical-principles-for-artificial-intelligence/.

[36] James Johnson, “Artificial Intelligence and Future Warfare: Implications for International Security,” Defense and Security Analysis 35, no. 2 (2019): 158, https://doi.org/10.1080/14751798.2019.1600800.

[37] Andrew Krepinevich, The Origins of Victory: How Disruptive Military Innovation Determines the Fates of Great Powers (New Haven, CT: Yale University Press, 2023), 3.