統合出版物(JP)1、第1巻 統合用兵(Joint Warfighting)

MILTERMでは、これまでに米海兵隊のドクトリンを「米海兵隊のドクトリンを読む」シリーズとして数種、米陸軍のドクトリンのうち「FM 3-0 Operations(2022年版)」を紹介してきているところである。

既にご存じの方も多いと思うが年末(令和6年12月27日)に海上自衛隊が海上自衛隊基本ドクトリン(https://www.mod.go.jp/msdf/about/img/2024doctrine.pdf)を公表した。ドクトリンの公開は、自衛隊としては画期的なことであると感じた次第である。

軍隊におけるドクトリン策定の意義とその重要性はここでは述べないが、「防衛力抜本的強化の進捗と予算 ー令和7年度予算案の概要ー」(https://www.mod.go.jp/j/budget/yosan_gaiyo/fy2025/yosan_20241227.pdf)にみられるように、令和7年度も米国をはじめとして多くの国の軍隊との共同の訓練が予定されているなかで、関係国の軍隊に、当該国の軍隊として行動する上での統一された行動の準拠を共有することは十分に必要なことであると考える。

海上自衛隊にとっては、海上自衛隊基本ドクトリンは、この文書の「はじめに」に述べられているように任務遂行に関する準拠としての役割を大いに果たすだろう。また、ドクトリンの策定にあたって随所に米国をはじめとした西側の軍事的な標準的な考え方を基に作成されたと思われるところも大事なことだと考える。

ここで紹介するのは、米国の統合ドクトリン体系の中の最上位に位置する「JP 1 Joint Warfighting(統合用兵)」の「EXECUTIVE SUMMARY」である。

序文も含め、本文の挿図も加えているので「JP 1 Joint Warfighting(統合用兵)」とは何かを概観できるものと考える。(軍治)

統合出版物(JP)1、第1巻 統合用兵

(エグゼクティブ・サマリー)

2023年8月27日

Joint Publication 1 Volume 1 Joint Warfighting

(EXECUTIVE SUMMARY)

27 August 2023

https://keystone.ndu.edu/Portals/86/Joint%20Warfighting.pdf

序文

1. 範囲

統合出版物(JP)1、第1巻、「統合用兵(Joint Warfighting」は、統合部隊(joint force)の戦略的方向性、国防総省(DoD)とその主要な構成要素の機能に基本的なドクトリンを提供する。統合出版物(JP)1、第1巻はまた、統合全ドメイン作戦(joint all-domain operations)を実行し、統一された行動(unified action)を達成し、世界規模の軍事戦略および作戦の統合(一体化)を実行するために統合指揮組織の組織と指揮・統制メカニズムを説明している。

2. 目的

米国の軍隊の目的はシンプルであり、内外のあらゆる敵から合衆国憲法を支持し擁護し、米国民と我々の利益を守るという我々の宣誓(oath)に含まれている。第二次世界大戦以来、同盟国やパートナーとともに、我が国と軍隊の強さは、再び大国間戦争(Great Power War)が起こることを抑止してきたが、我々の自由は決して保証されていない。2023年、我々は戦争の性質(character of war)がかつてないほど根本的に変化するのを目の当たりにしており、我々が永続的な競争上の優位性を確実に維持するための好機が訪れようとしている。今後数年間に何をするかが、将来の勝敗の条件を決ることになる。米軍は世界が知る限り最も効果的な闘う部隊(fighting force)であるが、この優位性を維持することは容易ではない。

80年前に確立された、いわゆるリベラルなルールに基づく国際秩序は、現在非常に大きな緊張状態にある。そのため、統合部隊は今すぐ適応しなければならず、さもなければ将来の大国間戦争で敗北するリスクがある。わが国の歴史上初めて、米国は公然と侵略を示す2つの核保有国に直面している。戦争の性質と地政学的状況の変化により、信頼できる抑止力を発揮するためには、統合(一体化)され、相互運用可能で、マルチドメインに対応できる統合部隊と連合部隊が求められる。次の戦争に勝つために我々ができる最も重要なことは、そもそも戦争が起こらないようにすることである。

致死性(lethal)であり続けるためには、統合部隊はこのような基本的な環境の変化に対応していかなければならない。だからこそ、我々は「統合用兵コンセプト(Joint Warfighting Concept(秘区分無し)」(略称:JWC)を策定し、公表したのである。「統合用兵コンセプト(Joint Warfighting Concept(秘区分無し)」は国家安全保障戦略と国家防衛戦略の直下に位置するため、統合部隊が国防総省(DoD)の4つの最優先防衛課題‐国土防衛、米国と同盟国・パートナーに対する戦略的攻撃の抑止、紛争での勝利に備えつつ侵略の抑止、将来の軍事的優位性の確保‐にどのように対処するかも記述されている。最も重要なことは、ペースの速い、ハイテクの、急速に変化する、並外れて困難な環境において、空間と時間を機動することについての考え方を根本的に転換するよう、戦闘員(warfighter)に課すことである。しかし、コンセプト(conceptが統一的なビジョンを提供する一方で、統合部隊が敵対者の侵略をどのように抑止し、必要であれば撃破するかを導くのはドクトリンである。

この新しい統合出版物(JP)1第1巻「統合用兵(Joint Warfighting」は、統合部隊指揮官が国家軍事戦略の任務を遂行し、国家安全保障の目標を達成し、同盟国やパートナーと協力して強さ(strength)によって平和を維持するためのドクトリン上の原則と考慮事項を示している。

3. 適用

  1. 本書で確立された統合ドクトリンは、統合参謀、戦闘軍(combatant commands)、隷下の統一されたコマンド、統合タスク・フォース、これらのコマンドの隷下の構成部隊、各軍種、州兵局、および戦闘支援機関に適用される。
  2. このドクトリンは、添付の主題に関する公式のアドバイスを構成する。しかし、あらゆる状況において、指揮官の判断が最優先される。
  3. 本書の内容と軍の出版物の内容に矛盾が生じた場合、統合参謀本部議長が、通常、統合参謀本部の他のメンバーと連携して、より最新かつ具体的な指針を提供した場合、または、国防長官室が別段の指示をした場合を除き、本書が優先される。多国間(同盟または連合)軍司令部の一部として活動する部隊の指揮官は、本指針と矛盾しない限り、米国が批准した多国間のドクトリンおよび手続きに従うべきである。米国が批准していないドクトリンや手順については、指揮官は、適用可能であり、米国の法律、規則、ドクトリンと整合性がある場合には、多国籍軍のドクトリンや手順を評価し、それに従うべきである。

マーク A・ミリー米陸軍大将

エグゼクティブ・サマリー

指揮官のための概観

・統合ドクトリンの役割、軍事力の戦略的使用、統合用兵(joint warfighting)の性質について論じる。

・武力の職業の枠組みを提示する

・政策、戦略、国力の概観を提供する。

・戦争の戦略的、作戦的、戦術的レベルだけでなく、一般的な戦いの形態である従来型の戦いと非正規戦についても論じている。

・戦争の理論、本質、性質について概説を提供する。

・統合作戦の原則を提示

・統一された行動(unified action)、世界規模の統合(一体化)、戦略的競争、戦役遂行、統合戦役と作戦の文脈における統合指揮について説明する。

・統合作戦に共通する7つの統合機能(指揮・統制、情報、インテリジェンス、火力、移動と機動、防護、後方支援)を示す。

・統合の計画策定を議論する。

・世界規模の作戦コンセプト、世界規模の効果の調整、複数の支援コマンド、強制や悪意ある影響に対抗するための軍事支援、危機に対応するための世界規模の視点など、先進的なドクトリン上のコンセプトの概要を提供する。

・武力紛争への態勢整備、統合用兵(joint warfighting)と武力紛争の課題、新たな競争など、統合用兵(joint warfighting)の実践について論じる。

・次の作戦環境を予測し、技術、リーダーシップ、ドクトリンの優位性を活用することで、いかにして統合用兵(joint warfighting)の未来を形作ることができるかを論じる。

統合用兵への導入

概観

戦闘軍指揮官(Combatant commanders :CCDR)は、協力、武力紛争以下の競争、武力紛争/戦争が同時に発生する、ますます複雑化する作戦環境(OE)に直面している。

各脅威はそれぞれ独自の課題を提示しているが、戦闘軍指揮官(CCDR)はこれらの脅威を孤立したものとして見たり、武力紛争の文脈でのみ見たりするのではなく、対等な敵対者(peer adversaries)が戦略の重要な一部として競争的な活動を採用していることを認識している。

統合ドクトリンの役割

統合ドクトリンは、戦い(warfare)、演習(exercises)、ウォーゲーム、および国力の軍事的道具の使用を必要とする他の作戦の経験から得られた抽出された洞察力と知恵を通じて、軍事部隊の運用を導く基本原則を提示する。統合ドクトリンは、軍事力の応用において政策と戦略を効果的にするのに役立つ。

軍隊の戦略的使用

米国は、外交、情報、軍事、経済といった国力の道具を駆使して国益を追求している。国防総省(DoD)は、米国外交の伝統的手段を強化し、大統領と米国外交官が強い立場(positions of strength)で交渉できるよう、軍事的選択肢を提供している。

統合用兵の性質

「統合用兵(joint warfighting)」の基本は、戦闘軍指揮官(CCDR)が、すべてのドメインと複数の責任地域(AOR)を通じて、すべての統合機能と、相互に支援し、可能な限り、統一された部隊、戦役、作戦を統合(一体化)し、同期させる能力にある。その結果、相乗効果が軍事的優位性を生み出し、戦闘能力を最大化する。統一された行動(unified action)を追求する上で、戦闘軍指揮官(CCDR)は同盟国、パートナー、そして省庁間のプロセスの重要性と貢献を認識する。

統合用兵の基本的事項

武力の職業(The Profession of Arms)

米国の軍隊は価値観に基づく組織である。軍人の人格、プロ意識、原則、チームワークは、戦術的、作戦的、戦略的成功のために不可欠である。国家の防衛を担う軍事専門家として、統合指導者は戦いの遂行(conduct of warfare)の専門家であり、強い人格と能力(competence)を必要とする。

Policy, Strategy, and National Power:政策、戦略、国力

国家政策とは、国家政府がその価値と利益に関連する国家戦略目標を追求するために採用する広範な指針である。軍事戦略の目的は、国家政策‐国益を追求するために複雑な戦略環境において協力、競争、または戦争を行う政府および他者の立場と追求‐に奉仕することである。軍事戦略の到達目標は、そのような国益に資する戦略環境の要素を維持または変更することによって、政策の狙いを達成することである。

戦い(Warfare)

米軍は、従来型の戦い(conventional warfare非正規戦(irregular warfareという2つの一般的な戦いの形態(forms of warfare)を認識している。それは核兵器の使用(employment of nuclear weapons)を含むまでにエスカレートする可能性がある。統合部隊指揮官(JFC)は、どちらか一方を選択するのではなく、戦略的・作戦的目標に適し、特定の作戦環境(OE)に合わせた様々な組み合わせで戦いを遂行することを選択する。

3つの戦いのレベル(levels of warfare)は、戦術的行動を戦略的目標の達成に結びつける。これらのレベルの間に有限の限界や特定の境界線はないが、統合部隊指揮官(JFC)が戦役や作戦を計画し、同期させ、資源を配分し、タスクを割り当てるのに役立つ。運用の戦略的目的、作戦的目的、戦術的目的は、任務の本質による。

戦いのレベル(Levels of Warfare)

戦いの戦略的レベルは、国家の政策決定を国家戦略、国防戦略、軍事戦略の策定と発布に統合(一体化)するものである。

戦いの作戦的レベルは、一般に戦闘軍指揮官(CCDR)とその隷下の構成部隊の領域である。このレベルの焦点は作戦術(operational art)の適用である。戦闘軍指揮官(CCDR)は、戦役(例えば、世界規模の戦役計画や戦闘軍(CCMD)戦役計画)を通じて戦略と戦術をリンクさせ、各タイプの計画の作戦的目標と戦略的目標をリンクさせ、大統領と国防長官(SecDef)が定義する国家の戦略的目標、多国籍の戦略的目標、または世界規模の戦略的目標を常に追求し、支援するために働く。

戦いの戦術的レベルとは、会戦や交戦の遂行が、統合部隊指揮官(JFC)や隷下部隊に割り当てられた軍事目標を達成しようとするところである。

戦争の理論、本質、性質

戦争は国家間、国家と非国家武装集団の間、あるいは複数の非国家武装集団の間で起こる。戦争は国境を認めない武装集団によって、半自治地域で起こることもある。19世紀のプロイセンの将軍で戦略理論家のカール・フォン・クラウゼヴィッツ(Carl von Clausewitz)は、戦争を「他の手段による政策の継続」と定義した。これらの手段には、外交的行動、情報的行動、軍事的行動、経済的行動など多くの形態がある。政策としての戦争を分析し、理解するために、統合部隊指揮官(JFC)は敵対者を動かす戦略的利益と意志を理解しようと努める。

統合作戦の原則

古典的な軍事研究では、戦争の9つの基本原則が認められている。しかし、戦争の本質は不変であるが、その行為と方法論は進化し続けている。経験により、さらに3つの原則が特定され、伝統的な戦争の原則と合わせて、現在では統合作戦の12原則を構成している。

・目標(Objective)

・攻勢(Offensive)

・量(Mass)

・機動(Maneuver)

・部隊の経済性(Economy of Force)

・指揮の統一(Unity of Command)

・保全(Security)

・奇襲(Surprise)

・簡潔性(Simplicity)

・抑制(Restraint)

・復元性(Resilience)

・正当性(Legitimacy)

統合用兵の基本的事項

統合指揮(Joint Command)

指揮とは、軍隊の指揮官が階級や割り当てられて任務(assignment)によって部下に対して行使する合法的な権限である。この権限に付随して、与えられた任務を達成するために軍を効果的に組織し、指示し(direct)、調整し、統制する責任がある。

指揮権(command authority)は命令やその他の指令に由来するが、指揮の術(art of command)とは、能力発揮(performance)を最大化するためにリーダーシップを発揮する指揮官の能力にある。勇気(courage)、倫理的リーダーシップ(ethical leadership)、判断力(judgment)、分析力(analysis)、状況認識(situational awareness)、反対意見(contrary views)を考慮する能力容量などを組み合わせることで、指揮官は複雑な状況下で洞察に満ちた決心を下すことができる。

統一された行動(Unified Action)

統一された行動(unified action)とは、取組みの統一(unity of effort)を達成するために、政府や非政府組織の活動を軍事作戦と同期化、調整、連携させることを指す。参加者には、多国籍部隊、国際組織、非政府組織、組織間パートナー、さらには民間や商業パートナーも含まれる。統合部隊は、国防総省(DoD)内の活動を統合(一体化)し、国防総省(DoD)の権限外の活動を協力して調整しようとするものである。統一された行動(unified action)を達成できなければ、 任務の達成を危うくしかねない。

世界規模の統合(一体化)

世界規模の統合(一体化)(global integration)とは、時間、空間、目的においてまとまりのある軍事行動を配置し、他の任務とのリスクのバランスをとりながら、継続的な評価を通じて適応性を高めつつ、地域横断的、全ドメイン的、多機能的な課題に対処するために全体として実行することである。その実行には、統合部隊指揮官(JFC) が脅威、危険、リスク、および統合部隊のトレードオフについて共通の理解を持つことが求められる。世界規模の統合(一体化)の目標は、上級指導者が作戦的レベルおよび戦略レベルの目標を追求できるよう、世界規模を基本として作戦と資源に優先順位をつけることである。

統一された行動(Unified Action)

戦略的競争(Strategic Competition)

戦略的競争は国際関係の基本的な側面である。国家やその他の行為主体は、戦略的利益を追求するために、国際システムの中で日常的に相互作用している。多くの相互作用は協力的であり、相互利益を追求するものである。国家や非国家主体は、相容れない狙いをめぐって競争する。意図的であろうとなかろうと、競合する利益の追求が武力紛争や戦争につながることもある。競争相手が協力することがあるように、友好国が競争することもある。同盟の中では、個々の国家は自国の利益にとって最も有利な方向に政策を傾けようとするのが自然である。

戦役遂行(Campaigning)

戦役遂行(campaigning)とは、世界規模の戦役、戦闘軍(CCMD)戦役、および関連する不測事態対応計画のファミリーを通じて、優先順位をつけた目標を長期的に達成するために、国力の他の道具と連携した軍事活動を持続的に実施し、順序立てて行うことである。戦闘軍指揮官(CCDR)は、攻撃を抑止し、同盟国やパートナーを確保し、武力紛争以下で競争し(compete below armed conflict)、脅威に備え、これに対処し、国際的に合意された規範を守り、必要な場合には勝利するために戦役を展開する。

統合戦役と作戦

統合戦役(Joint Campaigns。戦役とは、与えられた時間と空間の中で戦略・作戦目標を達成することを狙いとした一連の関連作戦である。戦役は戦略を実施し、戦争の戦略レベルと作戦レベルの間の連結性と連続性を提供する。戦役には、世界規模のもの、地域的なもの、機能的なものがある。

作戦(Operations。具体的な作戦とは、共通の目的や統一的なテーマをもった、一連の戦術的行動のことである。ほとんどの統合作戦は、すべてのドメインの要素を取り入れている。統合作戦はまた、世界規模のものであったり、地域を越えたものであったりする。

統合機能(Joint Functions)

統合作戦に共通する統合機能は、指揮・統制(command and control)、情報(information)、インテリジェンス(intelligence)、火力(fires)、移動・機動(movement and maneuver)、防護(protection)、後方支援(sustainment)の7つである。指揮官は作戦中、複数の統合機能の能力を活用する。統合機能は、競争の連続体(competition continuum)を超えて、すべての統合作戦に適用される。タスクと任務を達成するために、統合機能間の活動を統合(一体化)することは、あらゆる指揮のレベルで行われる。

統合計画策定

統合計画策定とは、目標(最終目的:the ends)を達成するために、時間と空間の中で軍事力(手段:the means)をどのように使うか(方法:the ways)を決定する意図的なプロセスである。言い換えれば、統合計画策定は、国力の軍事的道具を国家安全保障目標の達成に結びつけるものであり、国家戦略的目標を作戦的目標、作戦的デザインと作戦的アプローチ、作戦線(lines of operation)と取組み線(lines of effort)、戦術的タスクと戦術的活動に変えるものである。計画担当者は、省庁間、組織間、多国間のパートナーの要求が軍事計画に反映されるようにする。

高度なドクトリン上のコンセプト

概観

世界規模の到達範囲(global reach)と戦略的縦深を持つ脅威に対しては、単一支援による戦闘軍(CCMD)や、責任地域(AOR)に特化した作戦コンセプトに基づいて編成された統合部隊の哲学(philosophy)は、場合によっては適切かもしれないが、世界規模の問題に対処できない形で、効果的な統合用兵(joint warfighting)を制約する可能性もある。国防総省(DoD)の上級指導者たちは、戦争の性質がこのように変化していることを認識し、必要な場合には、地域的視点から世界規模の視点へと移行している。

世界規模の作戦コンセプト(Global Concept of Operations)

世界規模の作戦コンセプトは、すべてのドメインと複数の 責任地域(AOR) における 戦闘軍(CCMD) レベルの任務を統合(一体化)し、統一した取組みによって、世界規模の効果を達成するものである。複数の支援されたそして支援する戦闘軍指揮官(CCDR)が、国防長官(SecDef)による戦闘軍(CCMD)間の取組みの優先順位付けに基づいて、これらの作戦を遂行する。戦闘軍指揮官(CCDR)は、敵を圧倒するために、時間的、空間的、目的的にまとまった軍事行動を手配するために、世界規模に部隊を運用する。

世界規模の効果の調整(Coordinating Global Effects)

武力紛争では、複数の重複した支援関係が求められることがある。これらの関係は、戦役目標を達成するために、複数の地域やドメインにわたって、時間的・テンポ的に世界規模の部隊の調整を可能にする。戦闘軍指揮官(CCDR)は、責任地域(AOR)外の脅威に対する認識と、世界規模の効果を促進するために世界規模の能力、火力、作戦、情報を調整し統合(一体化)する能力を確保するために、世界規模の調整プロセスを使用する。

複数の支援されたコマンド

統合部隊を世界規模を基本として統合(一体化)するには、複数の支援された、そして支援する戦闘軍指揮官(CCDR)が求められる。統合部隊は世界規模に統合(一体化)された部隊として戦役を行う。戦役遂行を行うには、複数の 責任地域(AOR) やドメインで、それぞれ固有の支援指揮官を伴って、あらゆる能力を統合(一体化)することが求められる。

強制と悪意ある影響に対抗するための軍事支援

敵対者は、他国や他の地理的地域に対する利用と影響力を求めている。彼らは米国との戦争を避け、許容できるレベルのリスクと比較的低い機会費用でそれらの目標を達成することを好む。

危機対応のための世界規模の視点

適切な権限が与えられれば、統合部隊指揮官(JFC)は、示威行動(demonstration)、地域的再配置(regional repositioning)、航空・海上迎撃作戦(air and maritime interception operations)、世界規模の展開(global deployments)、同盟国やパートナーの強化・補強(strengthening and reinforcing)、悪意あるサイバースペース活動(malicious cyberspace activities)への対抗、立ち入り禁止区域の設定、制裁の実施、情報活動、海上・空中での航行の自由作戦(freedom of navigation operations)などを通じて、敵対的行動や悪意ある影響力に対抗することができる。

危機におけるリーダーシップの意思決定を支援するために、統合参謀本部議長命令3110.01、「2018統合戦略戦役計画(2018 Joint Strategic Campaign Plan :JSCP(秘区分無し)」は、「戦略的計画策定枠組み(SPF)」の開発をリードするために統合参謀本部に指示する。これらは、主要な世界規模の戦役計画のための主要な細部計画策定の構成要素として機能し、各優先課題セットに関連するすべての戦闘軍(CCMD)不測事態対処計画(contingency plans)のための方向性を提供する。「戦略的計画策定枠組み(SPF)」は、問題に対する共通の理解を確立し、共通の軍事目標を策定し、戦略的アプローチを明確にし、同時進行中の計画に対する資源調達の指針を提供することで、計画の統合(一体化)を可能にする。

統合用兵(Joint Warfighting)の実践

はじめに

武力紛争/戦争は、敵対者が自らの意思を押し付け、彼らの目標を達成するための主要な手段として致死性の部隊を行使する、利害または一連の利害をめぐる戦略的関係を特徴づけられる。継続的な致死性の部隊の運用は戦争の決定的な側面であり、米国が非常に重視している利益に対する実質的な決意とコミットメントの反映である。統合用兵(joint warfighting)はこの決意の機能であり、複数の 責任地域(AOR) でさまざまな手段を運用する。

武力紛争のための態勢整備

武力紛争への移行は、統合部隊にとって重大な課題となりうる。敵を打ち負かすには、文民指導者と指揮官が、世界規模の戦役に最適化された部隊を武力紛争に適した体質に移行させる必要がある。戦闘軍指揮官(CCDR)は、ほとんど警告を受けないことを想定し、武力紛争への備えを積極的に重視する。

移行の種類(Types of Transition。競争から武力紛争/戦争への移行にはいくつかの方法がある:

・不測事態対処計画(contingency plans)実行への適応

・不測事態対処計画(contingency plans)の修正

・計画策定から実行

統合用兵と武力紛争の課題

統合部隊指揮官(JFC)は、前方に展開した部隊で抑止態勢を維持し、敵の攻撃を撃破し、奇襲を克服し、主導性を失ってから回復する態勢を維持する。敵対者は、非正規の活動、従来型の活動、情報的な活動を織り交ぜて運用し、作戦や戦役が十分に進行するまで、引き金となる出来事を提示しないことがある。敵対者は、非軍事的な側面を活用し、隠された活動(covert activities)、内密活動(clandestine activities)、強制的な活動(coercive activities)を行い、警告のインテリジェンスを混乱させることがある。統合部隊指揮官(JFC)は、攻撃が差し迫っているのか進行中なのかを判断するために、継続的に更新される、適切かつタイムリーな警告情報を必要とする。統合部隊指揮官(JFC)は、誤った情報(misinformation)、プロパガンダ、欺瞞(deception)に対抗しながら、同時に敵の非正規戦(irregular warfare)と戦うことができる。

新たな競争

武力紛争の明確な結末(conclusion)と終結(finality)は、つかみどころのないものである。軍事的勝利を意味のあるものにするために、統合部隊指揮官(JFC)は軍事的成功を永続的で有利な結果に結びつけるという、時代を超えた課題に挑む。軍事的成果を有利な結果に結びつけるためのルールブックは存在しない。武力紛争から新たな競争への移行を成功させるためには、統合部隊指揮官(JFC)は、継続的な取組みを、それほど集中や注意を必要としないものと見なすことを避けなければならない。移行を成功させるためには、統合部隊指揮官(JFC)が敵や新たな敵対者に照準を合わせ続ける中で、必要であれば攻勢作戦を継続するための考え方(mindset)、態勢(posture)、即応性(readiness)が求められる。

 統合用兵の将来

次の作戦環境の予測

統合部隊は、戦争の性質の根本的な変化を経験している。敵対する側(opposing sides)が闘う方法、場所、兵器や技術が変化するのは普通のことである。しかし、根本的な変化はまれであり、それは次の作戦環境(OE)に影響を及ぼし、加速し、拡大し、将来の統合用兵(joint warfighting)は、まだ存在しない部隊によって闘われ、ドクトリンに導かれ、今こそ育成すべき指導者が率いる新しい戦争の方法を必要とするほどである。

統合部隊は、戦略的競争が世界全体の力の配分を変え、不安定性を生み出し、武力紛争の可能性を増大させる環境の中で活動している。将来の作戦環境(OE)を予測し、最新の技術と技法を統合(一体化)することは、統合軍が適応するために必要である。新しい用兵技術とドクトリンは、歴史を通じて繰り返し具体化されてきたし、今後もそうであろう。

技術、リーダーシップ、ドクトリンの優位性を活かす

統合用兵コンセプト(Joint Warfighting Concept(秘区分無し)」は、将来の戦力デザイン、戦力開発、戦力運用を導く統一ビジョンであり、適切な技術、指導者、ドクトリンを確保するためのものである。それは統合部隊指揮官(JFC)が未来に直面するのを助けるために進化する脅威を取り入れ続けます。このコンセプトには、主要な用兵コンセプトに関する忠実性と、統合部隊が敵対者に対して優位性の立場を獲得することを可能にする作戦アプローチに関する正確性が含まれている。

その先へ

敵対者は、自分たちの利益のために世界秩序を修正しようとする攻撃的な試みを続けるだろう。彼らは武力を行使して彼らの到達目標を達成するために、軍事力を増強し続けるだろう。

統合部隊は、自由世界への侵略や脅威を抑止するために、省庁間パートナーや同盟国や外国のパートナーとの協力を続けていく。

現在も、そして将来も、われわれ米軍は、憲法と、米国人であることを意味する基本原則を守る用意があるというのが、国民との契約である。

結論

この基調となる統合出版物(capstone joint publication)は、包括的な指針と意図を、統合部隊の運用に関する基本原則とともに示している。本書は、国力の手段としての合衆国軍隊の役割を説明している。