作戦術の衰退:中国戦略ウォーゲームの物語 (war on the rocks)
作戦術(Operational Art)に関する認識は高まりを見せていると言われている。しかしながら、作戦術を適用する能力に関しての評価についてはあまり聞かれるものではない。ここで紹介するのは、war on the rocksに掲載の作戦術の重要性の再認識することを推奨したうえで適用するための能力向上策についての提言を論じたものである。この際、AIを有効に活用することを前提にしている点が興味深い。(軍治)
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作戦術の衰退:中国戦略ウォーゲームの物語
Decline of Operational Art: The Story of A Strategic China Wargame
December 12, 2025
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マルコ・J・ライオンズ(Marco J. Lyons)は、現在ポーランドで第5軍団(前方)の参謀副総長を務めている米陸軍将校である。2022年7月から2025年7月までは、太平洋陸軍の計画担当参謀副総長を務めた。2021年にはハーバード大学ケネディ・スクールの国家安全保障フェロー、2020年にはマサチューセッツ工科大学の国家安全保障フェローを務めた。2021年には国防長官室の中国タスク・フォースに所属し、2016年と2017年には陸軍科学委員会によるマルチドメイン作戦に関する研究にも参加した。2014年に海軍大学院を修了し、優秀な成績で米国の核兵器政策、戦略、および戦力構成に関する論文を発表した。
今日の計画担当者たちは、大規模戦争において作戦術(operational art)を適切に適用することに苦慮している。そして、その理由を完全に理解していない。戦略レベルのウォーゲームで人間のレッド・チーム(red team)と直接対戦する経験など、古典的な軍事術への理解がどれほど失われてきたかを完全に理解するには、経験が必要不可欠だ。
21世紀は大国間の競争が再燃し、インド太平洋地域が米国と中国の地政学的対立の焦点として浮上した。急速な技術進歩と新たなマルチドメイン作戦によって特徴づけられる戦いの複雑化は、軍事計画担当者と戦略家にかつてないほどの要求を突きつけている。こうした要求に応える上で中核となるのは、戦略と戦術を結びつける重要な結合組織である作戦術の適用である。西側諸国とソビエト連邦の両方の伝統においてコンセプト化された作戦術(operational art)は、戦略目標を広大な作戦空間と時間枠にわたる協調行動へと転換するための枠組みを提供する。
基礎的な役割を担っているにもかかわらず、近年のウォーゲーム、特に中国との高烈度紛争を模擬したシナリオでは、米軍および同盟国軍における作戦術の理解と適用が深刻なほど低下していることが明らかになった。統合ドクトリンに依然として重要なコンセプトである決勝点(decisive points)や重心といったコンセプトは、実際にはしばしば誤解され、誤用され、あるいは全く無視されている。その結果は単なる理論上の問題にとどまらない。作戦デザイン(operational design)の失敗は、たとえ最も技術的に進歩した部隊であっても、戦略的な麻痺と敗北につながる可能性がある。
ソ連の崩壊と冷戦の終結に伴い、米国が大規模戦争の計画策定から対反乱作戦などの小規模作戦へと方針を転換するにつれ、作戦術(operational art)の能力は低下した。この低下は今も続いている。この下降傾向は、2034年の米国、中国、フィリピンによる紛争をシミュレートした、2022年に国防総省が実施した機密の、人間が判定するウォーゲームを通して最もよく見ることができる。米国の統合ドクトリン、歴史的事例、専門家の分析、ウォーゲームでの直接の経験に基づき、私は、敵の重心に関する決勝点(decisive points)を特定して活用できないことが、統合部隊作戦の有効性を損なうと主張する。計画担当者は、統合(integration)、量(mass)、そして同期(synchronization)の重要な実現役割と、手続き主義や想像力の欠如などのドクトリンの習熟を妨げる認知的障壁を理解する必要がある。現代および将来の戦いの課題に対応するために、作戦術を再活性化する機会がある。
理論的基礎:作戦術、決勝点(decisive points)、重心
作戦術(operational art)、決勝点(decisive points)、そして重心(centers of gravity)は、現代の戦役デザインと戦役遂行における知的バックボーンを形成している。これらのコンセプトは、戦略目標と戦術行動を結び付け、軍事作戦のあらゆるレベルにおける一貫性を確保するための枠組みを提供する。作戦術の理論的基盤を理解することで、指揮官はより効果的に作戦を同期させ、戦場における機会を活かすことができるようになる。
作戦術:戦略と戦術の橋渡し
米国の軍事思想における作戦術、あるいはフランスの軍事思想でコンセプト化されたオペラティーク(opératique)は、戦略と戦術の中間に位置する重要なレベルである。これにより、指揮官は広大な範囲に及ぶ戦役を指揮し(orchestrate)、多様な部隊と行動を調整して戦略目標を達成することができる。作戦術レベルの出現は、特に20世紀における戦いの規模と致死性の増大に伴い、戦略と戦術という伝統的な二元論的な区別の限界への対応として現れた。
作戦レベルは明確な視点を提供し、戦術レベルや戦略レベルでは見えない問題と解決策を実務者が特定することを可能にする。これを効果的に適用するには、適切な組織構造だけでなく、迅速な適応と調整を可能にする機敏なシステムも必要である。作戦実践家は、行動を慎重に計画された順序に並べ、時宜を得た機会を活用し、迅速な作戦ペースを維持する。これにより、敵の効果的な対応能力を阻害し、統合されたシステムとしての敵を弱体化させる。
統合ドクトリンの決勝点(decisive points)
米国の統合ドクトリンでは、決勝点(decisive points)は戦役デザインと戦役遂行の中心となる。統合出版物 5-0「統合計画策定(Joint Planning)」では、決勝点(decisive points)を「行動を起こすことで、指揮官が敵に対して顕著な優位に立つこと、または成功の達成に大きく貢献することを可能にする重要な地形、重要な出来事、決定的要因または機能」と定義している。これらは恣意的なターゲットやつかの間の機会ではない。むしろ、戦役の結果が左右される可能性のある、物理的、コンセプト的、または機能的な作戦上重要な結節点である。定義には「~に対する[行動]」というコンセプトもある。この区別は、決勝点(decisive points)は行動を起こして初めて意味を持つことを明確にしている。つまり、その価値は意図的な関与または介入を通じて戦役の方針(course of a campaign)を変える可能性にあるということである。
決勝点(decisive points)は、敵の重心との関係において定義される点が重要である。決定的点は踏み石または連結点として機能し、その占拠または無力化によって敵の抵抗能力を体系的に低下させる。ジェフリー・A・スプリングマン(Jeffrey A. Springman)が明確に述べているように、決勝点(decisive points)は中間目標として機能し、適切な順序付けによって友軍は敵の重心に集結し、最終的に無力化することができる。これは、決勝点(decisive points)を戦略的目標と意図的に結び付けた、綿密な作戦デザインの必要性を強調するものである。
重心:クラウゼヴィッツのルーツとその応用
重心は、異論はあるものの、統合ドクトリンの根幹を成す要素であり続けている。「統合計画策定(Joint Planning)」では、重心は「道徳的または肉体的な力、行動の自由、あるいは行動する意志をもたらす力の源泉」と定義されている。クラウゼヴィッツに倣うと、重心は、戦場に展開された戦力、重要な兵站網、あるいは社会の政治的意思など、敵対者が抵抗し、あるいは力を投射する能力の要となると考えられている。
敵対者の重心を特定することは、戦略目標を作戦方法や戦術手段に結び付け、作戦デザインを確固たるものにする。しかし、スプリングマンが警告するように、タスク、決勝点(decisive points)、そして重心の間に明確な関連性を確立できないと、作戦上の矛盾と取組みの散逸につながる。重心重視のアプローチには、ドクトリンの熟達と、変化する状況に適応するための作戦的想像力の両方が求められる。
作戦術の衰退:2034年の米中比ウォーゲームからの洞察
現代の軍事計画策定における作戦術(operational art)の衰退は、特に中国のような対等な敵対者が関与する戦略レベルのウォーゲームの複雑さを鑑みると、ますます顕著になっている。インド太平洋地域が大国間の競争の震源地となるにつれ、戦略を複数の領域にまたがる効果的かつ同期した作戦へと転換する能力は、これまで以上に重要かつ困難になっている。
ウォーゲームの概要と結果
国防総省が最近実施したウォーゲームでは、米中比3軍が関与する2034年の仮想的な紛争シナリオがシミュレーションされた。このシナリオでは、人民解放軍が2年前に台湾で勝利を収めた後、フィリピンに侵攻し、米国主導の青部隊(Blue force)が反撃に出た。青部隊(Blue force)は強力な航空・海上戦力を有していたにもかかわらず、青部隊(Blue force)は、人民解放軍に決定的な敗北を喫し、フィリピン中部の重要な地域を急速に掌握・統制した。
失敗の分析
青部隊(Blue force)の敗北は、技術的劣勢や資源の制約によるものではなく、作戦術の適用における根本的なコンセプト的および手順的欠陥に起因するものであった。青部隊(Blue force)の計画担当者は、決心点(decision points)(選択を必要とする瞬間)と決勝点(decisive points)(戦役の成功に重大な影響を与える行動または場所)を繰り返し混同し、敵対者の作戦上の重心と自軍の取組み線(lines of effort)を関連付けることができず、不十分な複数の統合の作戦線(integrated lines of operation)に戦闘力を分散させた。明確さと焦点の欠如は、決定的な場所と時間に効果を集中させることを妨げ、人民解放軍に主導性を譲り渡した。
対照的に、人民解放軍は内線を突破し、主要な飛行場と海上の要衝を占拠し、接近阻止・領域拒否ネットワークを迅速に構築し、驚くべき速さで作戦上の成果を確固たるものにした。この成果は、マイケル・D・ヘレディア(Michael D. Heredia)による1995年の「砂漠の嵐作戦(Operation Desert Storm)」に関する論文(monograph)など、歴史的な戦役研究の知見とよく一致する。ヘレディア(Heredia)の論文(monograph)では、イラク軍を重心として明確に位置付け、決勝点(decisive points)(特に兵站拠点と司令部)に対する作戦を段階的に実施し、攻撃と防御の作戦をバランスよく行うことで、早期の結集を防いだことが成功の要因となっている。
より広範な含意
ウォーゲームで観察された失敗は、単なる手続き上のものではなく、深く認知的な問題であった。ウォーゲーム後の分析では、計画担当者が反乱鎮圧(counter-insurgency)や安定化作戦(stability operations)のパラダイムに頼り、機動性、主導性、迅速な適応よりも、プロセス、リスク回避、支援構築を重視していたことが明らかになった。当然のことながら、ウォーゲーム参加者は、アフガニスタンやイラクといった地域における以前の専門的経験や派遣経験、そして低烈度作戦における以前の専門的な軍事教育に頼っていた。この認知的惰性(cognitive inertia)は、低烈度作戦と大規模戦闘作戦の要件を区別できないことでさらに悪化し、取組みの不統一(disunity of effort)と戦略的麻痺(strategic paralysis)につながった。
これらの調査結果は、ジェームズ・レイシー(James Lacey)による現代のウォーゲーム分析とも一致する。レイシー(Lacey)は、高烈度の対等な紛争において、決勝点(decisive points)や重心を特定し、それを活用することの難しさを浮き彫りにしている。このウォーゲームで目撃された作戦上の萎縮(operational atrophy)は、今日の統合部隊の計画担当者や指揮官が直面しているより広範な課題の兆候である。私はかつて青部隊(Blue force)の計画担当者の一人だったため、このことをよく理解している。
決定的な行動を可能にする:統合、量、同期
効果的な作戦術は、軍事力のシームレスな統合(integration)、量(mass)、そして同期(synchronization)によって、決定的な瞬間に決定的な効果を生み出すことにかかっている。統合ドクトリンに根ざしたこれらの基本原則は、ばらばらの行動を統一された戦役レベルの成功へと転換するために不可欠である。
統合とは、統合出版物1「合衆国軍隊のためのドクトリン(Doctrine for the Armed Forces of the United States)」で定義されているように、「全体として交戦することにより機能する部隊を創出するための、軍事力とその行動の配置」である。この原則は、決勝点(decisive points)における集団と相対的優位性の創出を意味し、部隊がばらばらの部分としてではなく、単一の統合された全体として行動することを可能にする。ウォーゲームにおいて、ブルーの取り組みは、航空阻止、海上攻撃、そして潜水艦作戦という、連続した縦割りの作戦(stovepiped operations)を特徴としており、それぞれが同期した取り組みの一部としてではなく、個別に実行された。この断片化は作戦上の相乗効果を妨げ、敵対者に隙(gaps)を突かせることを許した。
マーク・ルガーレ(Marc LeGare)の分析は、量(mass)とは単に資源の集積ではなく、統合と同期によって決勝点(decisive points)と時間に戦闘力を集中的に投入することであることを強調している。青部隊(Blue force)がウォーゲームでマス効果を発揮できなかったのは、不十分な統合と明確な作戦目標の欠如が直接の原因であった。決勝点(decisive points)についての一貫した理解が欠如していたため、取組みは複数の、調整されていない作戦線(lines of operation)に分散し、効果を発揮できなかった。
同期とは、「決定的な場所と時間において、相対的に最大の戦闘力を発揮するために、軍事行動を時間、空間、目的において調整すること」と定義される。クライド・L・ロング(Clyde L. Long)は、非同期の行動は、たとえ個別に効果的であっても、作戦目標に向けられなければ効果を失ってしまう可能性が高いと警告している。ウォーゲームにおいて、同期の欠如は人民解放軍が作戦上の隙間を突いて領土獲得を強化し、迅速かつ効率的に戦役目標を達成することを可能にしたのである。
統合(integration)、量(mass)、そして同期(synchronization)が適切に実施されれば、作戦術師(operational artists)は決勝点(decisive points)を攻略し、敵の重心を体系的に狙うための状況を作り出すことができる。ウォーゲームで見られるように、これらを怠ると作戦の麻痺、戦闘力の喪失、そして敗北につながる。
認知障壁:想像力と手続き主義の失敗
想像力の欠如や既成の手順への過度の依存といった、人間が持つ理解しうる二つの傾向は、戦争における効果的な作戦計画策定と実行を幾度となく阻害してきた。ドクトリンが停滞し、手順が無批判に踏襲されると、組織は硬直化し、リーダーは変化する戦場の脅威や複雑な作戦環境に適応するために必要な創造性を失ってしまう。
手続き主義とドクトリンの停滞
ウォーゲームで観察されたドクトリン上および手順上の欠陥の根底には、作戦構想力のより深刻な欠如がある。チャールズ・D・アレン(Charles D. Allen)は、堅牢な作戦構想は、前提を疑い、見落とされてきた道筋を探し出し、作戦の失敗を回避するための全体論的視点を取り入れなければならないと主張している。ウォーゲームでは、戦略レベルと作戦レベルの間の継続的な混乱が、作戦レベルで紛争の性質を再定義しようとする試みとして現れ、計画のネストを損ない、決定的な行動を遅らせ、結果として、個々に合理的な行動が累積的な作戦効果を生み出すことができなかった。
歴史的な類似点と現代の教訓
ヘレディア(Heredia)の「砂漠の嵐作戦」研究や1991年以降の将校たちの回想といった歴史分析は、作戦デザインの要素(重心(center of gravity)、決勝点(decisive points)、最高点(culmination)、連携(linkage)、順序付け(sequencing)、紛争終結(conflict termination))が、現代の海上紛争や、フィリピンをめぐる将来の戦争のような高烈度紛争にも適応する上で、依然として重要であることを改めて強調する。そこから得られる教訓は、単なる手続き的なものではなく、根本的に認知的なものである。効果的な作戦術には、ドクトリンの熟達と、プレッシャーの下で革新と適応を行う意欲の両方が求められるのだ。
作戦的視点の衰退
作戦術の衰退は米軍に限ったことではない。フランスの軍事理論家たちも同様に、作戦の成功に必要な機敏性(agility)、テンポ(tempo)、そして調整(coordination)が、組織の惰性と手続き遵守への過度の依存によって損なわれることが多いと指摘している。一方、セス・ジョーンズ(Seth Jones)は、ロシア・ウクライナ戦争の開戦時の戦役は、ロシアの作戦術の失敗を示すケース・スタディであると主張している。作戦術レベルでは、本来は見えなかった問題と解決策を特定することができるが、その効果的な適用は、組織とその指導者の機敏性と適応力にかかっている。
技術がどのように役立つか
技術は人間の専門知識の必要性を置き換えるものではないが、賢明な活用によってその必要性を高めることができる。先進技術は今後も存在し続け、戦争を含む人間活動のあらゆる分野に浸透していく可能性が高いため、作戦術への統合は不可欠である。技術は、より小規模で生存性の高い拠点での作戦行動が求められる将来の紛争環境において、必要な優位性をもたらす。技術を活用することは、将来の紛争における作戦術における軍事的熟練度を維持し、向上させるための重要なステップである。
技術、特にAIは、複雑で競合する環境下における統合の計画担当者のドクトリンと作戦術の理解と適用を飛躍的に向上させることができる。中国やロシアのような対等な敵対者に対して、計画担当者はより小規模で分散した人員構成と劣悪なネットワーク環境下で作戦を展開する可能性が高いため、伝統的な計画策定手法はリスクが高く、効果も低下する。リアル・タイムの実データによる共通作戦図(COP)を含むAIと高度なデジタル・ツールは、計画担当者が情報過多を管理し、定型業務(routine tasks)を自動化し、分析を強化するのに役立ち、より高次の作戦術上の課題に集中することを可能にする。
自動データ処理と地形分析
AIは広大な地理的領域を迅速に分析し、重要な地形を特定し、膨大な作戦データを統合することで、計画担当者が戦場の可視化と複数領域間の相互依存関係の理解に集中できるようにする。過去のデータとリアル・タイム・インテリジェンスを活用する予測アルゴリズムは、敵の動きを予測し、兵站要件をより正確に推定することで、より綿密な緊急時対応計画の策定を可能にする。これにより、決勝点(decisive points)と作戦リスクのより的確な特定が可能になる。
強化された重心分析
AIを活用したネットワーク分析およびパターン認識ツールは、敵の能力、要件、脆弱性間の複雑な関係をマッピングする。これらのシステムは、戦略および作戦上の重心を明らかにし、複数の行動方針をシミュレートし、敵対者の反応を予測することができる。これにより、計画担当者は目標と作戦を決勝点(decisive points)と重心に結び付けることができる。AIツールを適切に使用すれば、軍事上の意思決定者と計画担当者の認知的負担を軽減できる。
意思決定支援と可視化
AIを活用した意思決定支援ツールは、作戦タイムライン、資源要件、そして戦闘空間の物理的特性を含む空間関係を分析し、決勝点(decisive points)を提案し、作戦の同期を図る。高度な可視化プラットフォームは、計画担当者が目標、決勝点(decisive points)、そして重心が時間と空間を超えてどのように相互に関連しているかを理解するのに役立つ。また、これらのプラットフォームは複雑な問題を明確かつ双方向性をもって表現する。
情報管理
AIは情報をフィルタリングして優先順位付けし、簡潔な情報要約を生成し、ドクトリンと教訓を整理することで、認知的負担を軽減し、計画担当者が任務の成功に最も重要な事項、例えば決定的な情報やタスクを迅速に特定し、優先順位を付け、行動を起こす能力に集中できるようにする。さらに、AIは客観的でデータに基づいた評価を提供することで、ストレスの高い複雑な環境における意思決定に影響を与えることが多い人間の認知バイアスを軽減するのに役立つ。
分散型計画策定と協業
AIを組み込んだクラウド・ベースのプラットフォームは、地理的に分散した参謀が、ネットワーク状況が悪化した場合でも、連携し、計画を同期させ、一貫性を維持することを可能にする。例えば、平時の訓練であっても、伝送資産の不足や通信インフラの混雑により、遅延が大きく帯域幅が低下する可能性がある。その結果、データ伝送速度が低下し、戦術環境におけるリアル・タイムの連携やクラウド・サービスへのアクセスが制限される。ネットワーク侵入、スプーフィング、サイバー攻撃の増加は、ミッション・コマンド・システムやデジタル共通作戦図(COP)の性能をさらに低下させる可能性がある。しかしながら、十分な接続性があれば、自動計画チェックによってギャップや矛盾を特定し、より堅牢な作戦計画策定を支援することができる。クラウド・ベースのプラットフォームとAIは、堅牢なデータ管理、自動分析、ローカル処理、そして復元性のあるコラボレーション・ツールを提供することで分散計画策定を支援し、ネットワーク状況の悪化による運用リスクを直接的に軽減する。クラウド・ベースのシステムは、データをローカルにキャッシュし、サービスやエッジ・コンピューティングの断続的な復旧と更新を同期させることで、接続が中断されてもAI機能とデータ処理を継続できる。
シナリオ例、重要な考慮事項、注意事項
戦術的な例では、AI 駆動型の意思決定支援ツール、AI 駆動型情報管理、AI 強化型クラウド・ベース・プラットフォームが、複雑な作戦の指揮・統制をどのように変革できるかを示す。
ある軍団司令部は、対等な敵対者に対して複数旅団による攻勢を計画策定している。参謀は、米陸軍の「Maven Smart System」のようなAI駆動型意思決定支援ツールを導入している。このツールは、リアル・タイムの情報報告、作戦データ、航空、防護、兵站の状況、そして地形分析を取り込み、計画策定を迅速化し、以下の機能を実行することで、人員によるミスを削減する。
まず、AIは友軍部隊の予測移動速度、戦場における民間人の行動、敵の反応予測、そして兵站スループットを分析する。燃料と弾薬の補給が最大効率となり、センサーが最適な監視位置に配置できる12時間の時間帯を、重要な河川渡河地点への橋梁資産の到着に合わせて提示する。
第二に、このシステムは高解像度の地形データと敵の配置図を重ね合わせ、狭い隘路を潜在的なチョーク・ポイントであると同時に作戦の決勝点(decisive points)として特定する。敵の砲兵射程をシミュレートし、機動部隊が横断地点への接近時に探知を回避し、最大限の掩蔽効果を発揮するための最適な経路を提案する。
第三に、指揮官の意図と繰り返し実行される完全自動シミュレーションに基づき、AIは決勝点(decisive points)とより良い同期を実現する方法を分析する。AIは、特定された時間帯に隘路への火力と機動を集中させ、電子戦、航空、地上攻撃を同期させることを推奨する。また、敵の予備部隊を決勝点(decisive points)から遠ざけるための欺瞞計画も提案する。計画立案者は、目標、決勝点(decisive points)、重心を視覚的にリンクする動的な3次元マップを操作する。このプラットフォームでは、ユーザーはタイムラインやリソース配分を調整し、同期とリスクへの即時的な影響を確認できる。双方向性あるオーバーレイは、ある領域(橋梁建設の遅延や砲弾不足など)の変化が作戦全体にどのように波及するかを示し、推奨事項をリアル・タイムで更新する。
最後に、指揮官はこれらの知見を用いて機動の計画(scheme of maneuver)を精緻化し、資源を配分し、明確な命令を発令する。この可視化プラットフォームは、すべての参謀部が共通作戦図(COP)を共有できるようにすることで、曖昧さを軽減し、連携を強化する。AIを活用したこの戦場可視化アプローチは、複雑でマルチドメインな問題を、実行可能で同期化された計画へと変換し、意思決定の優位性と作戦の有効性を直接的に支援する。
このシナリオは、作戦計画策定におけるAI主導型プラットフォームの変革の可能性を示しているが、これらのメリットを実現するのは容易ではない。統合部隊のリーダーが認識しておくべき、実装に関する考慮事項(重要な注意事項を含む)がいくつかある。第一に、米軍司令部は、軍事計画策定、インフラ、参謀の訓練、そして多国間の相互運用性に特化したAIに投資する必要がある。第二に、指揮官はAIツールを段階的に統合する必要がある。地形と情報の管理から始め、次に重心と決勝点(decisive points)の分析に進み、行動方針(course of action)を策定する。第三に、指揮官は、技術と作戦術の強化された教育を組み合わせ、計画担当者がAI支援の能力と限界の両方を理解できるようにする必要がある。最後に、指揮官は、すべての技術の応用において、人間の判断とドクトリンの整合性を維持する必要がある。
作戦術の活性化:ドクトリン、教育、実践に関する提言
この課題に対処するには、包括的なアプローチが必要である。陸軍は、手続き主義にとらわれず、最も困難な戦術的問題が伴う動的かつ複雑な環境において、作戦術の原則を理解し、柔軟に適用できる計画担当者を育成する必要がある。ドクトリンの習得と経験的学習(experiential learning)、そして歴史的洞察を統合することは、大規模戦闘作戦における作戦熟達度の回復と向上に不可欠である。
手続き主義を超えたドクトリン教育
ドクトリン教育の新たな重視は不可欠であり、それは単なる暗記や手続き上の遵守を超越するものである。計画担当者は作戦術の論理を体得し、最終目的(ends)、方法(ways)、手段(means)の間の動的な関係を熟知し、重心と決勝点(decisive points)を特定して活用し、統合され同期化された統合戦闘力を編成する必要がある。そのためには、ドクトリンの定義に精通するだけでなく、多様なシナリオに柔軟に適用する能力も求められる。
経験的学習とウォーゲーミング
ウォーゲーミングと経験的学習(experiential learning)は、専門的な軍事教育・訓練の中心となるべきである。自由参加で人間が判定するウォーゲームは、コンセプト的な弱点を露呈させ、参加者にリアル・タイムでの適応を促し、敵対者に思考、適応、そして作戦上の機会を活かす力を与える。レイシー(Lacey)とエレディア(Heredia)が指摘するように、こうした経験は、知的自己満足やプロセス重視の惰性に対する最も効果的な解毒剤である。
支援と主導性のバランス
作戦計画担当者は、テンポと主導性を犠牲にして支援と兵站を過剰に設計しようとする誘惑に抗うべきである。持続性は不可欠であるものの、行動のための完璧な条件の追求は、主導性、リスク受容、そして迅速な適応が結果を左右する、高烈度の対等紛争の現実とは相容れない。計画担当者は、攻撃と防御のバランスを取り、最終目標を認識し、重要でないターゲットへの労力の浪費を避けるよう訓練されるべきである。
歴史的知恵と現代の革新を統合する
クラウゼヴィッツの原理に根ざした「旧来の」作戦思考を、21世紀の戦場の現実と統合するには、意図的な取組みが必要である。歴史的知恵と現代の革新を融合させることによってのみ、計画担当者は大規模戦闘作戦における成功に必要な熟練度を取り戻すことができるのである。
退役軍人高官の衰退反転における役割
退役した陸軍の上級幹部は、専門的な軍事教育における高度な資格を持つ専門家として、ドクトリンの指導と経験的学習(experiential learning)にさらに貢献できる。ドクトリン教育は単なる暗記にとどまるべきではない。むしろ、計画担当者は作戦術の論理を内面化し、柔軟に適用し、複雑で流動的な環境において最終目的(ends)、方法(ways)、手段(means)を合成する方法を理解できるように教育されるべきである。経験的学習(experiential learning)、特に人間が判断する自由参加型のウォーゲームを通じた経験的学習(experiential learning)は、教育体験の中心となるべきである。このような演習は、参加者に適応力のある敵対者と対峙することを強い、暗記教育では対処できない認知的・コンセプト的なギャップを明らかにする。
結論
統合ドクトリンにおける決勝点(decisive points)と重心の継続的な重要性は、単なる理論的な議論の問題ではなく、作戦の成功にとって実践的な必須事項である。歴史的な戦役と現代のウォーゲームの両方で実証されているように、敵対者の重心との関係で定義される決勝点(decisive points)を特定し活用できないことは、最も資源の豊富な部隊でさえ戦略的敗北に脆弱に陥らせる。この失敗は、手続き的な問題であると同時に、知的かつ組織的な問題でもあり、数十年にわたる作戦の迷走と認知の惰性に根ざしている。
前進するには、ドクトリンの厳格さ、批判的考察、そして経験的学習(experiential learning)への再コミットメントが不可欠である。計画担当者は、統合(integration)、量(mass)、そして同期(synchronization)を活用し、決定的な機会を創出し、それを活用する作戦デザインの術と科学(art and science)の両方を習得する必要がある。そうすることでのみ、主導性を取り戻し、敵の作戦上のシステムに連鎖的な影響をもたらし、動的かつ有能な敵対者に対して競争優位性を維持できるのである。インド太平洋地域、そしてそれ以外の地域においても、21世紀における米国の影響力と軍事力の信頼性の維持が、まさに重要な課題となっている。


