マルチドメイン作戦のミッション・コマンド (US Army War College)
US Army War Collegeの2020年の論文(エグゼクティブ・サマリー)を紹介する。テーマはミッション・コマンドに関するものであり、米陸軍の新たな作戦コンセプトであるマルチドメイン作戦における指揮・統制の在り方について、米陸軍の指揮・統制のアプローチである、ミッション・コマンドの観点からとらえたものである。ミッション・コマンドの7つの原則、「能力(competence)」「相互信頼(mutual trust)」「共有された理解(shared understanding)」「指揮官の意図(commander’s intent)」「規律ある主導性(disciplined initiative)」「任務命令(mission orders)」「リスクの受容(risk acceptance)」から考察した大著である。
本文では、第1次世界大戦におけるアメリカ遠征軍(American Expeditionary Forces)での教訓を分析し、他軍種との複雑な関係性を前提とした真の統合を念頭に置いた指揮・統制上の解決策を論じている。中でも、陸軍種の軍人としてだけでなく将来の統合を前提とした軍人に求められる能力に言及しており人材育成の課題を明らかにしている。是非、本文を一読されたい。(軍事)
マルチドメイン作戦のミッション・コマンド
MISSION COMMAND OF MULTI-DOMAIN OPERATIONS
A US Army War College Student integrated Research Project
Mark Balboni John Bonin Robert Mundell Doug Orsi Faculty
Craig Bondra Antwan Dunmyer Lafran “Fran” Marks Daniel Miller
Students—USAWC Class of 2019
September 2020
エグゼクティブ・サマリー
米陸軍の新たなマルチドメイン作戦(MDO)コンセプトは、最近改訂されたミッション・コマンドのための米陸軍ドクトリンに新たな課題を課すものである。米国は75年間、対等な競争者(peer competitor)と闘っていない。その結果、各軍種はコンセプト上、自国の対称的なドメインの戦争を闘うことに集中し、他のドメインで他軍種を支援することにはあまり関心を払ってこなかった。
技術の変化と国防予算の縮小に伴い、各軍種は存在感と数で自軍のドメインを支配する能力と容量を急速に失いつつある。その結果、各軍種は、各軍種のドメイン内での作戦を成功させるために、異なるドメインでの非対称的な優位性を必要とするようになった。
米陸軍の指揮・統制のアプローチは、ミッション・コマンドである。このアプローチでは、指揮官は重要な決定、リスク、重要なインテリジェンスと情報の要求(critical intelligence and information requirements)を理解し、可視化し、伝達し、評価する能力を持つことが必要である。マルチドメイン作戦(MDO)のミッション・コマンドでは、指揮官は単一ドメインの卓越性と複数ドメインにわたる知識、そして指揮官間や指揮官内の知識の両方を維持することが求められる。同様に重要なことは、指揮官は自らの意思決定プロセスについて共有された理解(shared understanding)を作り出し、確保し、維持することである。
リスク分析、重要なインテリジェンスと情報の要求プロセスは、指揮官が部下指導者に力を与え、規律ある主導性(disciplined initiative)を可能にし、複数のドメインの文脈の中で分散した作戦に影響を与える条件を設定できるようにするために必要である。したがって、これらの新しい要求に応えるためには、マルチドメインの指揮関係や参謀構造を理解し適応させるための新しいフレームワークが必要となる。
これらの新しいフレームワークは、新しい要求を特定し、資源を調達するための方法論を指揮官に提供するために、マルチドメイン同期化プロセスを必要とする。軍事的意思決定プロセスや統合計画策定プロセスを使用した従来の作戦プロセスとは異なり、マルチドメイン同期プロセスは、計画策定と実行サイクルを通じて、すべてのドメインと環境にまたがる指揮官と参謀の継続的な協力から発展するものである。この進化は、重要な意思決定、関連するリスク、および指揮官が不可欠とみなした重要なインテリジェンスと情報の要求(critical intelligence and information requirements)についての共有された理解(shared understanding)を作り出す。
この研究は、米陸軍と陸上兵力(Landpower)のグローバルな適用に関連する戦略的問題について、貴重なアイデアを作り出す指導者であり続けようとする米陸軍戦争大学(Army War College)の取組みを支援するものである。本研究は、マルチドメイン作戦(MDO)コンセプトの適用を、それがミッション・コマンドの哲学と指揮・統制機能の実行にどのように影響するかに関して検討するものである。
第一次世界大戦中の航空機の導入は、1918年の米陸軍が、対等な敵対者(peer adversary)に対する大規模な地上作戦の指揮・統制をどのように行うのが最善か、地上を支援するためにどのように空中を一体化するかに苦心したため、現在の状況に類似した文脈を提供する。
米陸軍が複数のドメインにわたる一体化する方法(how to integrate)を理解しようとする一方で、ジョン・J・パーシング(John J. Pershing)将軍の航空機の一体化からの洞察は、その一例である。ウィリアム・ミッチェル(William Mitchell)の戦争中と戦争後の役割は、将来の大規模地上戦闘作戦におけるサイバーと宇宙ドメインの防衛など、マルチドメイン作戦(MDO)を実行しようとするときに直面するであろう課題のいくつかを示している。
マルチドメイン作戦(MDO)の概要と分析により、米陸軍のコンセプトの定義を提供し、競争の連続体における米陸軍の役割を説明する。マルチドメイン作戦(MDO)コンセプトは、紛争の連続体(conflict continuum)のあらゆる側面でマルチドメイン作戦(MDO)を実施するために、新しい組織と参謀のフレームワークを必要とする。米陸軍は、陸上ドメインにおける武力戦闘に勝利すると同時に、将来の紛争を防止するための競争の形成に貢献することができなければならない。
武力紛争以下の作戦(operations below armed conflict)は、歴史的に統合部隊と米陸軍の闘いであった。戦闘における指揮・統制に対する米陸軍のミッション・コマンド・アプローチでは、日常的に敵対者に対する武力紛争以下の競争(competition below armed conflict)のために組織を編成するには十分ではない。米陸軍は、特に情報環境において、競争中の統合部隊にとって不可欠な任務を遂行しており、これらの任務はマルチドメイン作戦(MDO) の下で拡大することになる。
現在の作戦プロセスは、単一のドメインに焦点を当て、与えられたドメイン以外の支援機能への適用には限界がある。我々は、すべてのドメインでアセットを同期させ、アセットへのリスクを最小限に抑えながら効果を最適化できるような新しいプロセスを持たなければならない。すべての指揮官レベルに適用可能であるが、提案されたプロセスは、主に高い作戦および戦略レベルで必要とされる計画策定とデータ収集に焦点を当てている。
単一ドメインからマルチドメインへの焦点の変更は、統合と米陸軍のドクトリンを改訂し、更新する必要がある。統合軍事専門教育のカリキュラムと統合ドクトリンは、ドメイン間で一体化する方法を指導者の次の世代を教えるために適応する必要がある。他の軍種を知っているだけではもはや十分ではなく、指揮官や参謀は、他のドメインの能力がどのように自分たちの取組みを支援できるのか、また、他のドメインを支援する上で自分たちの要求が何であるかを知る必要がある。
統合部隊は長い間、各ドメインが自分の闘いに勝つために闘う、名前だけの統合(Joint)であった。マルチドメイン作戦(MDO)のコンセプトは、統合部隊が限られた資源を最適化して危機に対応し、最善の状況では、競争中に危機が発生するのを防ぐことができる。