ウクライナと将来の軍のリーダーのための教訓 (mickryan.substack.com)
ウクライナ戦争から得られる教訓のうち、リーダーシップについて論じた記事を紹介する。著者のミック・ライアン氏は2022年末に退役した豪陸軍少将である。豪陸軍では小隊、分隊、連隊、旅団レベルの指揮官を歴任。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院、米海兵隊指揮幕僚大学、高等戦術学校を卒業し、豪州軍と米軍で高いレベルの職務に就いてきた経験豊富な戦略家であり、最新の科学・技術に関する知識も非常に高い。この記事では、リーダーシップに焦点を当てた教訓を述べているが、併せて最新の科学・技術の進展がもたらす戦いの性質に変化などの軍事に与える傾向も記述している。(軍治)
ウクライナと将来の軍のリーダーのための教訓
指導力と勝利をウクライナから学ぶ
Ukraine and Lessons for Future Military Leaders
Learning from Ukraine to Lead and Win
mickryan.substack.com
2023/07/05
ミック・ライアン(MICK RYAN)氏は、オーストラリア陸軍退役少将。作家、戦略家、基調講演者、SF作家。現代と未来の戦争、軍事戦略、軍事機関がいかに未来に備えることができるかに焦点を当てる。
リーダー:第47機械化旅団ヴァレリー・マルクス(Valery Markus)曹長とゼレンスキー大統領。(画像:@MilitaryLandnet) |
ウクライナでの戦争が始まって以来、戦争についての初期的な見解を示す文書が数多く発表されてきた。 ここでは紹介しきれないが、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)からの報告書、T.X.ハメスによる最近の報告書、そして今週は『エコノミスト』誌に掲載された国防特派員シャシャンク・ジョシによる優れた連載記事などが、教訓をまとめた最良のものである。
ほとんどの場合、これまでの観察結果は3つのカテゴリーに分類される。
まず、装備品に関する見解がある。これには、戦闘作戦や軍事力および民間インフラの防衛を支えるために使用される軍需品やその他の資材だけでなく、多種多様な戦闘装備や支援装備が含まれる。
第二に、考え方、つまりどちらかの側が用いた戦術や戦略についての観察がある。これには、特にロシア軍による戦闘兵器の統合の不備や、キーウ以北でロシア軍を打ち負かすためのウクライナ側の戦術についての観察が含まれる。
最近では、ロシアのZストーム部隊やドローンを使用するための進化した戦術、ワグネルの人海戦術(Wagner human wave tactics)、検知から破壊までのギャップを埋めるための野戦砲兵とドローンの使用、ウクライナの防空網の進化した統合についての観察がなされている。
第三に、組織についての観察である。戦争初期には、ロシアの大隊戦術グループ(Russian battalion tactical groups)の有用性について多くの観察がなされた。それ以来、ウクライナのドローン中隊やロシアの民間軍事会社についても他の見解が出されている。マイケル・コフマンとロブ・リーは、ロシア軍の大規模な戦力デザインについても書いている。
これら3つのトピックはいずれも有益な洞察を与えてくれる。しかし、多くの場合、これらの見解は教訓として述べるには時期尚早である。というのも、多くの機関が、ウクライナのどの見解がこの戦争だけに関連するもので、どの見解がより広範に役立つ可能性があるのかをまだ見極めていないからである。
米国陸軍は、教訓とは何かについて適切な定義をしている。教訓とは「経験によって得られる知識や理解である。成功も失敗も教訓の源と見なされる」。さらに、教訓とは「行動の変化を測定できるとき(when you can measure a change in behavior)」である。
にもかかわらず、専門的な軍事機関には、戦争に関する膨大な観察結果を整理し、どれが迅速に行動に移せるかを評価する責務がある。そして、装備、考え方、組織など、短期・中期的に活用できる教訓は間違いなくたくさんあるが、もうひとつ、注意を払わなければならない分野がある。それは、戦争の人間的側面の中心(central to the human dimension of war)であるリーダーシップである。
リーダーシップ:Leadership
リーダーシップは、多くの定義がある人間にとって不可欠な技能(skill)である。モンゴメリー陸軍大将(Field Marshal Montgomery)は、1961年に出版した著書『リーダーシップへの道(The Path to Leadership)』の中で、リーダーシップとは「人の心と心の戦い(battle for the hearts and minds of men)」であると述べている。その他にも、政府、商業、芸術、軍事に携わる人々によって、多くの定義が提示されてきた。
戦時下における国家のリーダーシップほど、利害関係の大きいものはない。指導者や指揮官に選ばれたり任命されたりした人たちは、恐ろしく厳しい状況の中で、最も複雑で困難なことを行うよう、他の人たちを鼓舞したり説得したりする存在感を持たなければならない。
優れたリーダーシップは、経験、学習、内省、指導、そしてさまざまな考えを受け入れる精神力によって培われる。
「なぜ」、つまり目的を提供することも、リーダーの中心的な責任である。目的は、取り組むべき仕事以上に重要である。リーダーは部下に意味を与えることで、鼓舞(inspire)する。
しかし、リーダーに与えられた権限には多くの限界がある。そのため、影響力を通じて導くことが重要な技能(skill)となる。明確な目的も役立つが、リーダーはタスクや任務の論理的・感情的な魅力を高めることに投資し、他者と協力し、さまざまな媒体を使ってコミュニケーションをとらなければならない。このことは、ウクライナ戦争で改めて証明された。
軍の傾向と軍のリーダーシップ:Military Trends and Military Leadership
軍事機関は、現在のウクライナ戦争から得た知見をもとに、さまざまなレベルでリーダーを育成する方法を進化させなければならない。しかし、軍のリーダーの育成をどのように進化させるかを評価するにあたっては、戦争そのものがどのように変化しているかを理解することも重要である。
戦争と軍事専門職を研究する人々は、戦争が変化する性質と永続する本質を区別する。戦争がどのように変化するか、またどのように変わらないかというこの概念(notion)は、少なくとも文書化された形では、カール・フォン・クラウゼヴィッツの『戦争論(On War)』に端を発している。これは現在でも戦争研究の重要な枠組みとなっている。
戦争の永続性(War’s Enduring Nature)。戦争の永続性とは、時代を超えて一貫したテーマである人間同士の争いの側面を指す。この戦争の本質(nature of war )は、対立する意志の相互作用、暴力、そして政治によって引き起こされることによって定義される。
クラウゼヴィッツは、この戦争の本質に関する理論を説明する際に、何よりもすべての理論家が関心を持つべき普遍的な要素、すなわち永続的な要素であると考えたものを描き出そうとした。
戦争の性質の変化(War’s Changing Character)。 戦争の性質の変化を探るとき、私たちは政治的、技術的、社会的発展が戦争の仕方の進化を促していることを受け入れる。人類は剣と盾から戦車と飛行機へと移行し、そして現在は、人間の競争と紛争のあらゆるドメインで使用される自律機械とアルゴリズムの時代へと移行している。戦争に適用される考え方も、新しい技術と新しい組織を融合させながら、時代を超えて発展し続けてきた。このプロセスは、ウクライナ戦争中も続いている。
私は2022年に出版した『変貌する戦争(War Transformed)』の中で、戦争の性質の変化を象徴する現代の戦争における7つの傾向を指摘した。 ウクライナの戦争に影響を及ぼしているその傾向は、すべて以下の通りである。
- 時間に対する新たな評価(A New Appreciation of Time)。極超音速兵器、メディア・サイクルの高速化、さまざまなレベルでの人工知能(AI)支援により、計画策定、意思決定、行動のスピードが増している。 軍事組織は、意思決定を改善するために時間をより有効に活用することで、あらゆるレベルの国民や組織が知的に物理的に環境に対処できるようにしなければならない。さらに、軍人はこのような時間の使い方を活用し、再組織化、再装備、再思考、再技能化(re-skilling)を通じて適応能力を向上させることができなければならない。
- シグネチャーの戦い(battle of signatures)。これは、軍事組織が戦術的シグネチャーから戦略的シグネチャーまでを最小化し、記録されたシグネチャーを使って欺き、人間が競争し、闘うすべてのドメインにわたって、敵対者のシグネチャーを検知して利用できるようにすることである。
- 新たな量の形態(New forms of mass)。軍事組織は、高価なプラットフォームと、より安価で小型の自律型システムを適切なバランスで組み合わせた部隊を構築しなければならない。
- より一体化された思考と行動(More integrated thinking and action)。過去20年間の対反乱戦とは異なり、将来の軍事組織はあらゆるドメインで同時に作戦し、より広範な国家戦略に一体化できなければならない。
- 人間と機械の一体化(Human-machine integration)。ロボット・システム、ビッグ・データ、高性能コンピューティング、アルゴリズムが、人間の身体的・認知的能力を補強するために、より大量に軍事組織に吸収され、より致死的な抑止力、より迅速な意思決定、より効果的な一体化を生み出す。
- 進化する影響力の闘い(The evolving fight for influence)。 21世紀の破壊的技術は、より遠距離における軍事力の致死性を高めただけでなく、以前には不可能だった方法で、さまざまな人々をターゲットにし、影響を及ぼす技術的手段を提供するようになった。
- より大きな主権の回復力(Greater sovereign resilience)。国家は大規模な軍事的・国家的挑戦のために人々を動員しなければならないが、同時に、サプライ・チェーンが戦略的競争者や潜在的敵対者による強制力の源とならないように、国家や同盟の枠組みの中で安全な供給源を開発しなければならない。
こうした傾向は、訓練から戦略、組織、予算問題に至るまで、軍事のあらゆる側面に影響を及ぼす。このような傾向、そしてウクライナにおけるその兆候は、軍事組織のさまざまなレベルにおけるリーダーの訓練、教育、指導、育成のあり方において、どのような進化をもたらすのだろうか。
将来の軍のリーダー:Future Military Leaders
軍事作戦が複雑であるということは、軍事的リーダーシップは制度によって教えられ、実践され、絶えず磨かれなければならないということである。軍のリーダーの育成をおろそかにすることは、軍事組織にとって、そして時にはその国にとっても、重大な悪い結果をもたらすことが、いつの時代にも証明されてきた。
戦争の永続的な本質と、戦争の性質の進化に基づき、私は、西側の組織がウクライナから学び、次世代の軍のリーダーを育成する中で、進化を必要とする以下の10の重点分野を提案する。
軍事専門職としての基礎を築く(Build a Professional Foundation)。入隊時の訓練から、将来の軍のリーダーは、軍事組織におけるリーダーシップの基礎を確立しなければならない。これは、軍事組織が求める価値観、態度、行動を身につけるための重要な段階である。ウクライナで見てきたように、倫理的振る舞い(ethical behaviour)、軍事的有効性、優れたリーダーシップなど、職業の基本に注意を払っている機関は、成功する可能性が高い。
コミュニケーションと影響力の技能(Communication and Influence Skills)。コミュニケーション能力は、リーダーシップの最も基本的で重要な機能の一つである。コミュニケーション技能(communication skills)の開発は、軍のリーダーのキャリアを通じて継続的に行わなければならない。話す能力、書く能力、影響を与える能力は、さまざまな経験を通して磨かれなければならない。優れたコミュニケーション技能(communication skills)を育成するような振舞いを奨励することで、軍事制度はこのプロセスに大きな役割を果たしている。目的を提供し、仲間と協力し、影響力を生み出し、情報戦を遂行する能力容量(capacity)は、ウクライナ戦争で前面に出てきた。軍事機関は、組織外とのコミュニケーションにおいて部下を信頼し、将来の指導者がこれらの技術を駆使する達人であることを保証しなければならない。
戦術の熟達(Tactical Mastery)。 将来の軍のリーダーが専門家として成長するための重要な要素は、自らの軍種や専門分野における戦術的な洞察力(tactical acumen)を養うことである。しかし、彼らはまた、統合一体化した作戦の実施における目的、手順、プロトコルを理解し始めなければならない。戦術はクールだが、多くの軍事機関はこのように行動しない。上級将校は、既存の技術や組織だけでなく、新しい技術や組織についても、優れた戦術的習熟(good tactical proficiency)を奨励しなければならない。
ミッション・コマンド(Mission Command)。軍のリーダーがミッション・コマンドを行使するには、十分な知識と経験が必要である。ミッション・コマンド(Mission command)とは、ドイツ語のアウフトラッグシュタークティク(auftragstaktik)のコンセプトに由来するもので、さまざまなレベルの部下指導者が、ミッション型の命令(mission-type orders)に基づいて、分権化された作戦を実行することである。また、指揮系統にフィードバックを与え、後続の任務の命令(mission orders)に反映させる。このような任務の命令(mission orders)は、部下の指導者に任務を与えるが、実行には柔軟性を持たせる。万能ではないが、ロシア軍に比べてウクライナ軍では、このアプローチの度合いが高いようだ。分散化した作戦(distributed operations)が配備された戦闘力を維持するための規範となる可能性が高い21世紀においても、リーダーシップに対するミッション・コマンド・アプローチ(mission command approach)は有効であり続けるだろう。
ヒューマン・ロボット・アルゴリズム・スウォーム・チーミング(Human-Robot-Algorithmic-Swarm Teaming)。将来の軍事リーダーは、人間、アイデア、技術の相互作用を理解しなければならない。彼らの専門的な能力開発は、人間と機械のチームの中で働き、意思決定支援に人工知能を応用することによって裏打ちされなければならない。 ウクライナに見られるように、戦場で使用されるロボット・システムの数は爆発的に増加している。人工知能(AI)を組み込んだデジタル化された指揮・統制(C2)は、作戦に不可欠な要素である。将来のリーダーは、戦闘、兵站、偵察、そして災害救援任務において、自律型システム(autonomous systems)の適用に習熟しなければならない。
幅広い技術的リテラシー(Broad Technological Literacy)。上述したヒューマン・ロボット・アルゴリズム・スウォーム・チーミング(Human-Robot-Algorithmic-Swarm Teaming)は、軍で使用される、あるいは軍に影響を与える既存の技術、進化する技術、新しい技術に関する知識を維持するという、より広範な必要性の具体的な成果である。ウクライナでは、兵士や将校が技術リテラシーを戦場での適応に生かしている。軍のリーダーたちは、これらの技術を採用することの課題と機会を理解し、技術教育、リテラシー、倫理に常に注意を払わなければならない。
創造性と好奇心(Creativity and Curiosity)。将来の軍のリーダーは、斬新なアイデアを生み出し、批判的思考技法(critical thinking techniques)を応用するために、創造的思考(creative thinking)を用いる能力を身につけなければならない。コンピューティング能力と人工知能が急速に進化しているにもかかわらず、創造性と創意工夫は将来の軍のリーダーにとって重要な技能(skills)となる。 ウクライナ軍はこの戦争中、無人機と野戦砲の組み合わせ、新しいデジタル指揮統制システム(new digital command and control systems)、影響力活動の実施など、多くの試みで創造性を発揮した。創造性は、新しい戦術や戦略的アプローチの基礎となるものであり、リーダーの自己学習活動(self-learning activities)にも影響を与え、その職業における卓越性を築き、持続させるものでなければならない。そして創造性は好奇心から生まれる。軍事機関には、リーダーの好奇心を育むための適切なインセンティブがなければならない。これは、欧米の多くの機関では必ずしもそうではなかった。
適応できる能力容量(Adaptive Capacity)。将来の軍のリーダーは、組織論、制度文化、適応理論についての実務的な理解を有していなければならない。彼らは、外部環境の要求が変化していることを理解し、軍隊の適応能力を知り、理解し、さらに、決定的な時点でその変化を導く能力を内包する認知の能力容量(cognitive capacity)と精神的敏捷性(mental agility)を必要とする。これらは戦場でも、上級リーダーとしても重要な技能(skills)である。ウクライナで見られたように、戦場と戦略的背景は急速に変化する可能性がある。組織文化と適応の概念を理解することは、将来の軍事リーダーにとって不可欠な知識である。
戦略的基盤(Strategic Foundations)。戦場でのパフォーマンスが重要である一方で、組織は優れた戦略的思考、計画策定、リーダーシップの可能性を持つ人材を特定し、育成し、登用しなければならない。これは軍事組織にとっての組織的責任であると同時に、政治・軍事の最高指導者にとっても重大な責任である。この点で、才能の発掘と育成は極めて重要である。ザルジニー(Zaluzhny)将軍は、21世紀に入ってからの最高の軍のリーダーであり、組織的な専門家育成、指揮官としての経験、そしてゼレンスキー大統領による才能発掘の賜物である。私たちはどのようにしてザルフニーを見つけ、育てるのだろうか?
彼らは勝ち方を知らなければならない(They Must Know How to Win)。戦争とは競争であり、私たちはウクライナでこの競争環境がいかに残酷なものであるかを再び目の当たりにした。クラウゼヴィッツが思い起こさせるように、「敵に打ち勝つか、あるいは敵の武装を解除するか、それは何とでも呼べるが、それが常に戦いの狙いでなければならない」。 軍事機関は、勝つ方法を知っているリーダーを育成する必要があるが、同時に、所属機関や所属する国家の価値観や倫理的枠組みの中でそれを行う方法も知っていなければならない。軍人の職業に銀メダルはない。
ウクライナから学ぶ、指導力と勝利:Learning from Ukraine to Lead and Win
どのような軍事組織においても、最も重要な人間の技能(skills)はリーダーシップである。どのようなレベルの軍事活動であれ、軍人の指揮官に任命された者は、統率力と影響力を持たなければならない。 効果的な軍事リーダーになるためには、困難な状況下で非常に困難なことを行うよう他人を説得する指揮官としての存在感を身につけなければならない。
これは、個人の中に自然に生まれる術(art)や技能(skill)ではない。リーダーを育成し、透明で適切な昇進経路の中でインセンティブを与えなければならない。これは、長期にわたる組織的な深い投資と、あらゆるレベルのリーダーによる専門的学習への個人的なコミットメントを必要とするプロセスである。
しかし、ウクライナでの戦争が証明したように、優れたリーダーシップは重要だ。大統領(President)であろうと、諸兵科連合の突撃を担当する分隊長(squad leader)であろうと、リーダーの技能(skill)は成功のための優れた基盤を提供する。そして、優れたリーダーの資質は何世紀にもわたって進化してきたかもしれないが、成功した軍事組織の中核であることに変わりはない。