人民解放軍とミッション・コマンド:中国の政党統制システムは硬直的すぎるのか? (AUSA)
ミッション・コマンドに対する関心は高く、MILTERMでも米統合軍や米陸軍、米海兵隊の機関誌などの記事を何度も取り上げている軍隊の指揮に関する方法である。この指揮の方法は、民主主義の国の軍隊に特有の指揮の方法なのか、あるいは国家の体制に関わらず適用可能な指揮の方法なのかについては興味を引かれるところである。
NATO関連のサイトには昨年末にNATO諸国とウクライナが取りまとめたと言われる教訓事項を教育に取り込むための冊子「ウクライナに対するロシアの戦争での教訓 カリキュラム・ガイド」が公開されているが、この中に、ウクライナとロシアの分隊長レベルの指揮に関する違いを表しているところがある。(下絵参照)
ここで紹介するのは米陸軍協会のHPに公開されている中国の人民解放軍の視点から検証されたミッション・コマンドに関する論稿である。この文献を読んではっきりとしているのは人民解放軍がミッション・コマンドについて米国の文献等を研究しているということである。中国共産党と人民解放軍との関係性をご承知の方は理解が容易であろうと推察する。
指揮の方法が優れていれば闘いに勝つという保証はないが、指揮の方法の違いを理解する上で参考になる論稿であると感じる。(軍治)
人民解放軍とミッション・コマンド:中国の政党統制システムは硬直的すぎるのか?
THE PLA AND MISSION COMMAND: IS THE PARTY CONTROL SYSTEM TOO RIGID FOR ITS ADAPTATION BY CHINA?
March 14, 2024
by Larry M. Wortzel, PhD
Land Warfare Paper 159, March 2024
This publication is only available online.
ラリー・M・ウォーツェル(Larry M. Wortzel)博士は32年間の軍歴の後、1999年に陸軍大佐として退役。米陸軍士官学校を卒業後、ジョージア州コロンバス・カレッジで学士号、ハワイ大学で修士号と博士号を取得。軍での最後の役職は、米陸軍士官学校戦略研究所所長。現在は米国外交政策評議会アジア安全保障上級研究員。
************
要約
- ミッション・コマンドのコンセプト(concept of mission command)は19世紀に発展し、西側諸国の軍隊では隷下の指導者が指揮官の意図(commander’s intent)を柔軟に実行できるようになった。これとは対照的に、中国人民解放軍(PLA)は、柔軟な解釈を許さない厳格なトップダウン構造を採用している。
- 一部の人民解放軍(PLA)将校や軍事出版物は、ミッション・コマンドの利点(benefits of mission command)を探求している一方で、習近平(Xi Jinping)は、党の指針から逸脱する可能性のある創造的思考よりも、技術と兵器開発における革新を奨励している。
- 上級指導者、政治委員、兵士、下士官は、ますます中央の指示に従わなければならず、作戦を指揮するために自動化された意思決定に依存しなければならない、これは、敵の介入やサイバー攻撃に対する脆弱性など、人民解放軍(PLA)に新たな課題を課すことになる。
はじめに
中国共産党(CCP)が軍隊と社会を指導・統制するシステム全体は、中央指導部からの厳格なトップダウンの指導という基盤の上に成り立っており、国家安全保障と軍事問題のあらゆる側面をカバーしている。最終的には、中国人民解放軍(PLA)が中国共産党(CCP)による中国指導の継続を保証している。
中国共産党(CCP)は、習近平(Xi Jinping)・中国共産党総書記、党中央軍事委員会(CMC)主席、中国国家主席が示した党の指針からの逸脱を許さない。習近平(Xi Jinping)は2013年に開かれた人民解放軍(PLA)の政治委員会議「全軍党建設会議(All Army Party Building Meeting)」で、人民解放軍(PLA)に「党とその精神を揺るぎなく支持し、党と人民が中央軍事委員会の指揮下にあることを確保する」よう指示した[1]。習(Xi)は同じ演説で、習近平は政治委員(political commissars)に対し、人民解放軍(PLA)は技術と科学の進歩を高めなければならないと述べた。習(Xi)の人民解放軍(PLA)への課題は、技術革新や指揮官の意図(commander’s intent)を理解すること、あるいは軍事的任務を達成するために創造性や主導性を発揮することを求めているのではない。
それは、新しい兵器システムとそれを統制する方法を開発するための革新を求めるものである。
従って、ミッション・コマンドのコンセプト(concept of mission command)や指揮官の意図(commander’s intent)を独自に遂行することは、中国共産党(CCP)や人民解放軍(PLA)の政治文化では忌み嫌われるもののようだ。
しかし2022年、人民解放軍(PLA)のさまざまな組織や経歴を持つ4人の佐官級将校(field grade officers)が、ミッション・コマンドの理論(theory of mission command)(任务式指挥的理论)に関する探究的な論文を執筆した。この論文は、人民解放軍(PLA)の権威あるドクトリン雑誌である中国軍事科学(中国解放军事科学院)の出版物である中国軍事科学アカデミー(AMS)(中国军事科学)[2]に掲載された。
軍事科学アカデミー(AMS)は中央軍事委員会(CMC)に直接助言を与える中国随一の軍事理論・ドクトリン機関であるため、今回発表された論文は重要である[3]。人民解放軍(PLA)が米軍におけるミッション・コマンドのコンセプト(concept of mission command)とその実践を踏襲していることは、研究に値する。ミッション・コマンド・コンセプト(mission command concept)に具現化されている将校、下士官(NCO)、兵士に期待される主導性のレベルは、指揮・統制の硬直したトップダウンの構造や政治文化とは正反対のように思われる。特に、指揮官と中国共産党(CCP)の政治委員(PC)(政治委员)による部隊の二重指揮(dual command of units)の慣行は、中国軍がミッション・コマンド(mission command)採用できないことを決定づけるように思われる[4]。
実際、本来は部隊の指揮を共有すべきところを、政治委員(PC)が支配する傾向がある。政治委員(PC)は、指揮官と部隊内の全兵士に関する昇進、表彰、機密書類、政治的信頼性の書類を管理する[5]。
19世紀とミッション・コマンド
19世紀、ヘルムート・フォン・モルトケ(Helmuth von Moltke)のような改革者たちは、戦役(campaigns)を計画し、広大な戦場で大軍を指揮するための新しいアプローチを開発しようとした。この取組みは、現場の隷下指揮官がしばしば参謀本部よりも戦場で起きていることをよく理解していることを認識した。指揮官たちは、その知識に基づいて決心を下すことができれば、脅威や機会に効果的に対応できる可能性が高くなる。
数十年にわたる議論の末、1888年のドイツ教練規則でミッション・コマンドのコンセプト(concept of mission command)[任務戦術:Auftragstaktik]のコンセプトが成文化された[6]。任務戦術(Auftragstaktik)では、指揮官は部下に明確に定義された到達目標と、それを達成するための資源と時間枠を与える。隷下指揮官は、上位指揮官の意図(higher commander’s intent)の範囲内で任務を計画し、実行しなければならない。部下指揮官は、見たままの状況に適応しなければならない。この指揮スタイルは、作戦に対する共通のアプローチと、自主的な意思決定ができる部下の能力に基づいている。
米陸軍参謀本部のベルギー軍将校は、ミッション・コマンドのコンセプト(concept of mission command)の変遷をこう説明した。
歴史的に見れば、1857年から1888年にかけてプロイセン陸軍参謀総長を務めたヘルムート・フォン・モルトケ(Helmuth von Moltke)陸軍元帥は、戦場の中心的な位置から一人の指揮官が軍事組織を指揮することはもはや不可能であることを認識した最初の軍事指導者であった。彼は、新技術を含む作戦環境が、戦略、作戦、戦術の各レベルにおいて、明確な任務声明(mission statement)と意図に基づく、異なる指揮哲学を課していることを理解していた[7]。
人民解放軍の将校は、米陸軍におけるミッション・コマンドの進化を検証
ミッション・コマンドに関する2022年中国軍事科学(China Military Science)論文の著者は、米陸軍におけるコンセプトの使用を4つの段階(阶段)に分けている。これらの段階は、米国がこのコンセプトを発展させた方法と一致している。
第1段階(Stage 1)は、人民解放軍(PLA)の著者によれば、1905年の米陸軍野戦服務規程(Field Service Regulations)に簡潔にまとめられている[8]。1905年の「野戦服務規程(Field Service Regulations)」では、指導者に対し、「命令を下す際、その実行方法を部下に指示する必要はない。部下が直面する現場の状況に応じて敵と交戦するようにせよ」[9]。これは、1905年「野戦服務規程(Field Service Regulations)」のコンセプトが2013年のミリタリー・レビューの記事で述べられている方法に非常に近い。
命令は部下の領域(province of the subordinate)に踏み込んではならない。命令には、部下の独自の権限を超えるものはすべて含まれるべきだが、それ以上のものは含まれるべきではない。命令の伝達がかなりの期間を伴い、その間に状況が変化する可能性がある場合、詳細な指示は避けるべきである。命令の発信者が完全に予測できない状況下で命令を実行しなければならない場合も、同じ規則が適用される。そのような場合は、指導書がより適切である。指導書は、達成すべき目標に重点を置き、敵に向かって前進するために……採用すべき手段を明らかにしておくべきである[10]。
第2段階(Stage 2)は、1982年に発行されたフィールド・マニュアル(FM)100-5「作戦(Operations)」から始まる[11]。「自己規律ある主導性(self-disciplined initiative)」(自律主动性)という言葉が使われ、「指揮官の意図(commander’s intent)」(指挥意图)や「分権化を提唱する(または開始する)(advocate for (or initiate)decentralization)」(倡导分权)という言葉も使われた[12]。これらは人民解放軍(PLA)の執筆者の共感を呼び、1982年に発行されたフィールド・マニュアル(FM)100-5は、1986年に発行されたフィールド・マニュアル(FM)100-5の修正版によってさらに強化された[13]。
ある米陸軍の著者によれば、「1986年のフィールド・マニュアル(FM)100-5は、作戦術(operational art)という用語を我々のドクトリン用語に導入することで、マニュアルの作戦重視を維持した。しかし、全体的に見れば、1986年のマニュアルは前任者たちよりも『理論的で一般的』であった。このフィールド・マニュアル(FM)は「より一過性の(具体的な)戦術(tactics)、技法(techniques)、手順(procedures)(TTP)を開発するための長期的な基礎」を提供することが期待されていた[14]。人民解放軍(PLA)将校にとって、米陸軍が新しい組織と世界情勢に照らして作戦コンセプトを再検討したという事実は、ミッション・コマンドのコンセプト(concept of mission command)の進化の重要性を立証するものであった。
第3段階(Stage 3)は、米陸軍が2003年に発表した指揮官・参謀向けの実戦マニュアル、FM6-0「ミッション・コマンド:陸軍部隊の指揮・統制(Mission command: Command and Control of Army Forces)」によって特徴づけられた[15]。人民解放軍(PLA)の4人の著者は、これを新たな段階と見なした。なぜなら、これは2002年のフィールド・マニュアル(FM)6-0よりも、米陸軍におけるミッション・コマンド・コンセプト(mission command concept)の完全な実施であると評価したからである。2003年のフィールド・マニュアル(FM)のこの節は、彼らの心に響いた。
ミッション・コマンド(mission command)とは、効果的な任務遂行のために、任務命令(mission orders)に基づいて分散実行することにより軍事作戦を遂行することである。ミッション・コマンド(mission command)を成功させるには、任務達成の指揮官の意図(commander’s intent)の範囲内で、あらゆる階層の隷下の指導者が規律ある主導性を発揮することが必要である。そのためには、信頼と相互理解の環境が必要である。ミッション・コマンド(mission command)の成功は、次の4つの要素にかかっている。指揮官の意図(Commander’s intent)、部下の主導性(Subordinates’ initiative)、任務命令(mission orders)、資源配分(Resource allocation)である[16]。
また、2003年のFM6-0では、紀元前331年のアルベラの会戦(Battle of Arbela)から第二次世界大戦の1942年のブナの会戦(Battle of Buna)までの間に起こった12の主要な会戦の挿話が提供されたことも、人民解放軍(PLA)の思想家たちに大きな印象を与えた。彼らは、歴史的な挿話に地図が添えられており、ミッション・コマンド(mission command)の使用やそのコンセプトの失敗についての議論がなされていることを高く評価した[17]。
第4段階(Stage 4)は、米陸軍が後に、ミッション・コマンド(mission command)に関する2つの説明と指示を発行したことで特徴付けられる。これらは、米陸軍ドクトリン出版物(ADP)と米陸軍ドクトリン参考出版物(ADRP)であった。米陸軍ドクトリン出版物(ADP)と米陸軍ドクトリン参考出版物(ADRP)はともに、ミッション・コマンド(mission command)の背後にあるコンセプトについて、より詳細な説明を行っている[18]。特に米陸軍ドクトリン参考出版物(ADRP)は、「指揮官が幕僚の支援を受けながら、指揮の術(art of command)と統制の学(science of control)をどのように組み合わせ、状況を理解し、決定を下し、行動を指示し、任務達成に向けて部隊を指揮するかについて説明している」[19]。
ここで皮肉なのは、人民解放軍(PLA)が個人の主導性の発揮や指揮官の意図(commander’s intent)を理解することにあまり重点を置いていないことだ。人民解放軍(PLA)は中国共産党(CCP)の軍隊であり、その政治文化は中国共産党(CCP)のものである。部隊と党組織は、兵士と党員の研究会を行い、党の見解を採用しない者を隔離する。そして、党の路線に抵抗する個人を批判する闘争セッションや、党の路線から逸脱したイデオロギー的あるいは実践的な誤りを告白する自己批判セッションを行う[20]。人民解放軍(PLA)の一部には、ミッション・コマンド(mission command)に具現化されたコンセプトを賞賛する者もいるかもしれないが、人民解放軍(PLA)文化における実践からかけ離れたものはない。
人民解放軍(PLA)の著者が決して尋ねなかった疑問は、2003年のフィールド・マニュアル(FM)でミッション・コマンドのコンセプト(concept of mission command)について説得力のある説明を行った後、陸軍はなぜ米陸軍ドクトリン出版物(ADP)と米陸軍ドクトリン参考出版物(ADRP)の 2 回にわたり、このコンセプトについてさらに詳細な説明を行わなければならなかったのか、ということである。これは、歴代の米陸軍参謀総長が、 ミッション・コマンドのコンセプト(concept of mission command)が理解され、実施される 方法に不満を抱いていたことを示しているのか。米軍指揮系統(U.S. chain of command)の中には、このコンセプトに抵抗する者もいたのか。
人民解放軍の執筆者は、中国軍のミッション・コマンドの公式を推し進めている
その要約部分とミッション・コマンド(mission command)に関する議論の中で、人民解放軍(PLA)の4人の著者はフリードリヒ・エンゲルス(Friedrich Engels)にインスピレーションを受けている。「戦争に勝つのは人間であり、その意志と勇気であって、武器ではない」[21]。また、毛沢東(Mao Zedong)の言葉も引用している。「戦争とは、2人の指揮官とその武力行使の技量であり、その強さと能力を競い合うものである。競争の結果は、勝者の主観的な指揮の正しさであり、勝者は相手の主観的な指揮の誤りを克服することができる」[22]。
著者は、ミッション・コマンドのコンセプト(concept of mission command)を用いることで、西側軍は部下のリーダーの精神と主導性を利用していると主張する。エンゲルス(Engels)や毛(Mao)への言及は、西側流の指揮・統制にはメリットがあると主張することへの内部からの批判を避けるための方法である。4人の著者は、人民解放軍(PLA)がミッション・コマンド(mission command)を研究し、おそらくは採用すべきであるとほのめかしているが、党内の批判から身を守ろうとしている。
著者はまた、ミッション・コマンドのコンセプト(concept of mission command)は、マルクス主義者(Marxists)の弁証法的推論(dialectical reasoning)への信頼を反映したものであり、部下は自らの主導性の潜在的に相反する側面を吟味するものであるとも論じている[23]。彼らはまた、習近平(Xi Jinping)自身の言葉を使うことで、内部の政治的批判から身を守ろうとしている。例えば、現代の軍事指導者は主導性を発揮し、部下に同じことをするよう促し、上官の指示を理解しなければならないという考え方である[24]。
記事は、ミッション・コマンドのコンセプト(concept of mission command)と指揮官の意図(commander’s intent)との関係は、部下のリーダーが柔軟性と創造性(创造性和灵活性)を持つのに役立つはずだというコメントで締めくくられている。この2つの用語は、習近平指導部の「新時代(new age)」において軍人が身につけるべき資質に関する習近平(Xi Jinping)の演説を反映したものである。
ミッション・コマンドのコンセプトに関する他の人民解放軍の検証
他の著者や人民解放軍(PLA)の将校たちもまた、ミッション・コマンドの考え方(idea of mission command)を探求し、「相互理解(mutual understanding)」を育む上級指揮官と隷下指揮官の関係を発展させ、関係を変えることに取り組んでいる[25]。
ある 人民解放軍(PLA)の著者は、2021年の人民日報(PLA Daily)誌の試論記事(exploratory article)で、「任務を基盤とする指揮(mission-based command)では、部隊指導者は戦闘の意図、作戦コンセプト、部下のタスク、必要な調整指示に集中する。しかし、実行は分権化されており、タスクを完了するための具体的な方法や手段は部下が独自に決定する」[26]。
党支配の新聞によれば、これは主導性を育み、「『情報化された戦い(informationized warfare)』の作戦空間の多次元的拡大、戦闘部隊の個別展開、戦闘作戦のクロスドメインの統合(一体化)」を改善することを意図している[27]。
人民解放軍(PLA)の編集グループは、別の人民解放軍(PLA)の権威あるドクトリン出版物の中で、統合機動地上作戦に関する全マニュアルという形で、指揮官が柔軟に対応し、敵の防衛や攻撃の可能性がある場所を見極め、敵を攻撃する方法や場所を工夫する必要性を強調している[28]。しかし、このマニュアルには、政治活動(political work)や政治委員(political commissars)の役割についての議論はない。
作戦に関する指導は、射撃、特に重火力集中砲火の調整に重点が置かれている[29]。また、ミッション・コマンドのコンセプト(concepts of mission command)や指揮官の意図(commander’s intent)についての議論は皆無である。このように、中国軍事科学は4人の人民解放軍(PLA)著者による2022年の論文を認めたが、それは人民解放軍(PLA)においてドクトリンが正式に受け入れられたことを意味するものではない。
人民解放軍(PLA)の一部も、下士官のリーダーシップと自主的な主導性、意思決定を育成する必要性を認識している[30] 。人民日報(PLA Daily)に掲載された2018年の演習では、訓練中の下士官が実弾射撃訓練(live-fire drill)を行うよう指示された。訓練は下士官教官と任務指揮官を務めるリーダーの指示の下、幹部候補生下士官によって実施された。命令を受けた下士官訓練生は戦闘位置に移動し、ミサイルを構え、実弾射撃を開始した。
記事によれば、「これまでの実弾射撃訓練(live-fire drill)では、訓練生は教官の命令を各自の持ち場で正確に実行することだけに責任を負っていた。今回の訓練では、訓練生はミサイルの発射位置や砲列の射撃将校としての役割を含め、射撃部隊のすべての機能を遂行することになった」[31]。この訓練では、主導性と、射撃将校や下士官がどのように砲列を管理するかを学んだ。人民日報(PLA Daily)の著者は、この演習を下士官養成の「ベイビー・ステップ(baby step)」と評したが、これは下士官の役割に対する人民解放軍(PLA)の理解を示すものであり、ミッション・コマンドのコンセプト(concept of mission command)を教えるものである。
ソビエト軍、ドイツ軍、人民解放軍の政治委員たち
本稿の読者は、中国軍における政治委員(political commissars)への歴史的な注目について理解しなければならない。人民解放軍(PLA)は中国共産党(CCP)の一部門であり、中国共産党が結成されたときからそうであった。一方、中国の国民党政府は独自の国民革命軍を持っていた。ソ連は中国国民党(Kuomintang:KMT)の中国国民革命軍と中国共産党(CCP)の軍隊の両方を支援した。ソ連の目標は、国民党軍と中国共産党軍の間で統一戦線を形成することだった。しかし、毛沢東(Mao Zedong)は統一戦線(united front)に反対した。それでも、ソ連の影響と支援は中国共産党の紅軍(Red Army)で続いた[32]。
ソ連軍では、時代とともに政治委員(political commissars)の影響力は盛衰した。しかし、中国軍では、政治委員(political commissars)は大きな権限を行使し、中隊レベル以上のすべての階層の部隊の指揮官と同格だった[33]。ソ連軍では、ロシア革命後、「内戦赤軍に多くの元帝政ロシア将校(ex-tsarist officers)が流入したため、政治的に信用できないと考えられていた職業軍人(professional soldiers)の行動を監視するため、各部隊に共産主義者の代表を置く必要が生じた」。
1925年まで、「各部隊の委員は事実上、監視役だった。彼の使命は単に指揮官を補佐することではなく、指揮官を監督することであった」[34]。政治委員(political commissar)は作戦命令を検証し、指揮官の将来のキャリアにとって重要だった。これは基本的に、今日の人民解放軍(PLA)における政治委員(PC)の機能を表している。
第二次世界大戦末期には、ソ連の政治将校は「部隊の目的のために訓練や戦闘任務を遂行することができたが、彼らの仕事はプロパガンダと士気に集中していた」[35]。ソ連軍を長年観察してきた一人の米陸軍予備役少佐は、ロシアでの豊富な学術経験と安全保障関連の経験を持ち、「軍の専門家は表向きは党体制に従属していたが、……正規将校はザンポリット(zampolits)(政治委員)を軽蔑していた」と感じていた[36]。
ソ連崩壊後も政治将校は兵士の忠誠心や士気の向上に努めたが、指揮官を監督することはなかった。その制度と機能がプーチン大統領によって若返った[37]。2018年にロシアがクリミアに侵攻した後、プーチンは大統領令を出し、ロシア軍に愛国心を促進するための部局を創設した。これは、「モスクワが西側諸国との地政学的対立に陥っているときに、兵士の忠誠心を確保するためのもの」である[38]。
第二次世界大戦中のドイツ軍では、ヒトラー(Hitler)はミッション・コマンドの伝統(tradition of mission command)に腹を立てていたようだ。ドイツ国防軍(Wehrmacht)に対する絶対的な支配力を損なうと考えたからだ[39]。国防軍プロパガンダ・グループが創設され、当初はドイツ国防軍(Wehrmacht)と武装親衛隊(Waffen SS)のメディアとプロパガンダに焦点を当てた。1943年までに、それは部隊に組み込まれた23のドイツ国防軍プロパガンダ会社(Wehrmacht propaganda companies)にまで成長した。彼らは国家社会主義プロパガンダを配信し、人種憎悪のイデオロギーを強化した[40]。しかし、指揮官の作戦権限を妨げることはなかったようだ。
しかし、現在の中国軍では、政治委員制度(political commissar system)を維持することに議論はない。それは中国共産党(CCP)が人民解放軍(PLA)を統制し、中国の軍隊が党に対応できるようにするための基盤である。習近平(Xi Jinping)は政治委員の役割を強化した。本稿の結論で述べたように、それは個人の主導性を妨げ、指揮官の成功に影響を与えるかもしれないが、習近平の軍支配を脅かすものではない。
結論
中国共産党(CCP)指導部のトップダウン体制は、党による軍の強固な統制の上に成り立っている。最終的に、人民解放軍(PLA)は党の権力を維持する使命を担っている[41] 。党は兵士に対し、党の指針から逸脱しないよう警告する。一部の限られた分野を除いて、創造的で新しいアイデアで革新し、前進することを求める声はない。習近平(Xi Jinping)はしばしば創造性や革新性について議論するが、その焦点は兵器開発や科学実験にある。
習近平(Xi Jinping)自身は、2013年に開かれた人民解放軍(PLA)の「全軍党建設会議(All Army Party Building Meeting)」の政治委員会議で、人民解放軍(PLA)に対し、「党とその精神を揺るぎなく支持し、党と人民が中央軍事委員会の指揮下に置かれるようにせよ」と指示した[42]。習(Xi)は同じ演説で、習近平は政治委員に対し、人民解放軍(PLA)は技術的・科学的レベルを高めなければならないと述べた。習(Xi)は、指揮官の意図(commander’s intent)を理解し、創造性と主導性を発揮して軍事任務を達成するよう促すことはなかった。
習近平(Xi Jinping)は中国共産党中央委員会(CCP CMC)の拡大会議での演説で、人民解放軍(PLA)全体が「確固とした正しい政治的方向性」を維持しなければならないと強調し、政治委員制度(political commissar system)の役割に焦点を当てた[43] 。この種の会議には、上級指揮官とその政治委員が参加することが多い。
本稿で取り上げた4人の著者の論文が『中国軍事科学(China Military Science)』誌に掲載されたということは、人民解放軍(PLA)とその上層部の少なくとも一部は、人民解放軍(PLA)が近代的な軍隊となり、21世紀の戦場の変化に対応していくためには、政治委員制度(political commissar system)という二重の指揮構造が人民解放軍(PLA)を締め付けていることを再考する必要があるかもしれないと考えていることを意味する。確かに、ソ連軍はその教訓を学んだ。
しかし、習近平(Xi Jinping)が描く人民解放軍(PLA)の将来像は異なるようだ。人民解放軍(PLA)はデータと情報技術に牽引され、意思決定と兵器統制を支援する自動化と人工知能を活用した統合的な(一体化した)統合作戦を実施する。つまり、上級指導者、指揮官、政治委員(PC)、兵士、下士官は、指揮官の意図(commander’s intent)を柔軟に解釈する必要はない。その代わりに、彼らはますます中央から指示された命令に従わなければならず、作戦を調整するために(to orchestrate operations)自動化された意思決定に依存しなければならない。
特に、こうした自動化された決心システムは敵の介入や電磁波、サイバー攻撃に対して脆弱であるため、人民解放軍(PLA)に新たな課題を課すことになるのは間違いない[44]。習近平(Xi Jinping)は、情報技術を駆使して軍事作戦を調整する(to orchestrate military operations)指導者を求めている[45]。個人やチームによる真の主導性(initiative)や革新(innovation)が習(Xi)に受け入れられるのは、それが軍事作戦ではなく、科学や兵器の研究である場合に限られるようだ。自動化を利用することと、政治委員制度(political commissar system)の支配下にとどまることとの間の内部矛盾が、人民解放軍(PLA)に対立をもたらすことは疑いないだろう。党制度と、ミッション・コマンド(mission command)や指揮官の意図(commander’s intent)の解釈を含む別の道を見出す将校グループとの間に対立が生じるのだ。
ノート
[1] Xi Jinping (习近平), “不断提高军队党的建设科学化水平为实现强军目标提供坚强思想和组织保证 (Continuously improve the scientific level of party building in the military and provide a strong ideological and organizational guarantee for achieving the goal of strengthening the army),” 13 November 2013, in PLA General Political Department (中国人民解放军总政治部), ed., 习近平关于国防和军队建设重要论述选编, Vol. 1 (Selected Expositions of Xi Jinping on National Defense and Army Building, Vol. 1) (Beijing: PLA General Political Department, 2014), 197.
[2] Huang Changjian (黄昌建), Shi Fuxiang (师福祥), Liu Xiaoliang (刘孝良) and Wang Fei (王飞), “外军任务式指挥的理论及启示 (Theories of Foreign Militaries on Mission Command and their Implications),” 中国军事科学 (China Military Science) 4, no. 184 (2022): 141–47. Title translated to English by the PLA Academy of Military Science. Huang is a colonel and an assistant group army chief of staff; Shi is an Army specialized senior colonel at the PLA National Defense University (NDU) Joint Operations College; Liu is an Army specialized senior colonel and an assistant instructor at the PLA NDU Joint Operations Staff College; Wang is a specialized technical colonel and lecturer at the PLA Air Force Command College.
[3] See Xi Jinping (习近平), “习近平: 努力建设高水平军事科研机构 为实现党在新时代的强军目标提供有力支撑 (Xi Jinping: Strive to build high-level military scientific research institutions to provide strong support for the realization of the party’s goal of strengthening the army in the new era),” Xinhua News Service (新华社), 16 May 2018.
[4] See Larry M. Wortzel, “The General Political Department and the Evolution of the Political Commissar System,” in The People’s Liberation Army as Organization, Reference Volume v1.0, ed. James C. Mulvenon and Andrew N. D. Yang (Santa Monica, CA: Rand Corporation, 2002), 225–46.
[5] 1929年12月18日の中国共産党の九天会議と呼ばれるものから今日に至るまで、部隊の党支部制度とPCは、会社レベルに至るまで、あらゆるレベルの部隊の人事、治安、規律、イデオロギーに責任を負ってきた。Wortzel, “The General Political Department,” 225–26.
[6] Andrew J. Kiser, “Mission Command: The Historical Roots of Mission Command in the US Army” (master’s thesis, School of Advanced Military Studies, U.S. Army Command and General Staff College, Fort Leavenworth, KS, Defense Technical Information Center, 21 May 2015), 2–6.
[7] Gunter Rosseels, “Moltke’s Command Philosophy in the Twenty-First Century: Fallacy or Verity?” (master’s thesis, U.S. Army Command and General Staff College, Fort Leavenworth, KS, Defense Technical Information Center, 6 August 2012), 30–56.
[8] General Staff, Field Service Regulations, U.S. Army (Washington, DC: Government Printing Office, 1905).
[9] Huang, Shi, Liu and Wang, “Theories of Foreign Militaries on Mission Command and Their Implications,” 142.
[10] Colonel Clinton Ancker III, “The Evolution of Mission Command in U.S. Army Doctrine, 1905 to the Present,” Military Review (March–April 2013): 43.
[11] Department of the Army, Field Manual (FM) 100-5, Operations (Washington, DC: U.S. Government Printing Office, 1982).
[12] Huang, Shi, Liu and Wang, “Theories of Foreign Militaries on Mission Command and Their Implications,” 142.
[13] On the 1986 issuance, see General Williams R. Richardson, “FM-100-5: The AirLand Battle in 1986,” Military Review (January–February 1986): 174–75.
[14] Michael McCormick, The New FM 100-5: A Return to Operational Art (monograph, School of Advanced Military Studies, United States Army Command and General Staff College, Fort Leavenworth, KS 18 April 1987), 6.
[15] Department of the Army, Field Manual (FM) 6-0, Mission Command: Command and Control of Army Forces (Washington, DC: U.S. Government Printing Office, August 2003).
[16] FM 6-0, 1-17.
[17] FM 6-0, vii.
[18] Department of the Army, Army Doctrine Publication (ADP) 6-0, Mission Command (Washington, DC: U.S. Government Printing Office, May 2012); Department of the Army, Army Doctrine Reference Publication (ADRP) 6-0, Mission Command (Washington, DC: U.S. Government Printing Office, May 2012).
[19] ADRP 6-0, iii.
[20] These are outlined succinctly in Ian Johnson, Sparks: China’s Underground Historians and Their Battle for the Future (New York: Oxford University Press, 2023), 102.
[21] Huang, Shi, Liu and Wang, “Theories of Foreign Militaries on Mission Command and Their Implications,”144.
[22] Huang, Shi, Liu and Wang, “Theories of Foreign Militaries on Mission Command and Their Implications,”145.
[23] Huang, Shi, Liu and Wang, “Theories of Foreign Militaries on Mission Command and Their Implications,”144–45.
[24] See 中央军委深化国防和军队改 革领导小组编辑 (Central Military Commission and Military Reform Small Study Group, eds.), 习近平关于深化国防和改革重要论述摘编 (Selections from Xi Jinping’s Important Speeches on National Defense and Army Building) (Beijing: PLA Press, 2016), 20−21, 59−60.
[25] Dong Wei (董伟), “怎样塑造任务式指挥氛围 (How to shape the atmosphere of mission-based command),” People’s Liberation Army Daily (hereafter PLA Daily), no. 3-2, 2 March 2021, 7.
[26] Dong, “How to shape the atmosphere of mission-based command,” 7.
[27] Dong, “How to shape the atmosphere of mission-based command,” 7.
[28] Xu Lisheng (徐立生), Feng Liang (冯良) and Wang Zhaoyong (王兆勇), eds., 路上联合机动作战 (Joint Mobile Ground Operations) (Beijing: National Defense University Press, 2015).
[29] Xu, Feng and Wang, Joint Mobile Ground Operations, 142–45.
[30] Chen Shuai (陈帅) and Li Zongren (李宗任), “角色-任务指挥长 (The Role of the Mission Commander),” PLA Daily, no. 9-18, 18 September 2018, 11.
[31] Chen and Li, “The Role of the Mission Commander,” 11.
[32] Boris Egorov, “How the USSR Helped the Communists Seize Power in China,” Russia Beyond, 14 January 2021; see also “Soviet Intervention in China—1937–1941,” Global Security.org, https://www.globalsecurity.org/military/world/war/prc-civil-su.htm.
[33] Jonathan R. Adelman, “Origins of the Difference in Political Influence of the Soviet and Chinese Armies: The Officer Corps in the Civil Wars,” Studies in Comparative Communism 10, no. 4 (Winter 1977): 347–69.
[34] Michael J. O’Grady, “The Political Officer in the Soviet Army: His Role, Influence and Duties” (student research report, U.S. Army Russian Institute, Garmisch, Germany, 14 January 1980), 2.
[35] Ray C. Finch, “Ensuring the Political Loyalty of the Russian Soldier,” Military Review (July–August 2020): 52–67.
[36] Kent J. Goff, “The Political Officer (Zampolit) in the Soviet Army” (graduate thesis submitted to Arkansas State University Graduate School, 1 December 2005).
[37] Finch, “Ensuring the Political Loyalty of the Russian Soldier,” 63–66.
[38] Andrew Osborn, “In Soviet Echo, Putin Gives Russian Army a Political Wing,” Reuters, 31 July 2018.
[39] Rolf-Dieter Muller, Hitler’s Wehrmacht 1935–1945, trans. Janice W. Ancker (Lexington: University Press of Kentucky, 2016), 34–35.
[40] Muller, Hitler’s Wehrmacht 1935–1945, 35–37.
[41] Qiu Jin 邱进, “为中国式现代化提供坚强安全保障: 深入学习贯彻习近平新时代中国特色社会主义思想 (Provide a strong security guarantee for Chinese-style modernization: In-depth study and implementation of Xi Jinping Thought on Socialism with Chinese Characteristics for a New Era),” 人民日报 (People’s Daily), 17 January 2023.
[42] Xi Jinping (习近平), “不断提高军队党的建设科学化水平为实现强军目标提供坚强思想和组织保证 (Continuously improve the scientific level of party building in the military and provide a strong ideological and organizational guarantee for achieving the goal of strengthening the army),” 13 November 2013 in PLA General Political Department (中国人民解放军总政治部), ed, 习近平关于国防和军队建设重要论述选编, Vol. 1 (Selected Expositions of Xi Jinping on National Defense and Army Building, Vol. 1) (Beijing: PLA General Political Department, 2014), 197.
[43] Xi Jinping, “确保军队建设坚定正确的政治方向 (We must ensure a firm and correct political direction for army building),” 26 December 2012 in PLA General Political Department (中国人民解放军总政治部), ed, 习近平关于国防和军队建设重要论述选编, Vol. 1 (Selected Expositions of Xi Jinping on National Defense and Army Building, Vol. 1) (Beijing: PLA General Political Department, 2014), 54–58.
[44] See Lindsay Maizland, “China’s Modernizing Military,” Council on Foreign Relations, 5 February 2020.
[45] Li Yun (黎云), “中央军委印发: 关于提高军事训练实战化水平的意见 (The Central Military Commission issued the ‘Opinions on Raising the Level of Actual Military Training’),” 20 March 2014, China Central Government Portal.