高出力マイクロ波システム-運用状態にもっと近づけるために (Association of Old Crows)

特にロシア・ウクライナ戦争で注目されているドローンによる攻撃、それもスウォーム攻撃は防御する側としてはとても厄介な課題である。そこで日本でも装備研究(高出力マイクロ波照射技術の研究)がなされている高出力マイクロ波に関するAssociation of Old Crowsの記事を紹介する。(軍治)

高出力マイクロ波システム-運用状態にもっと近づけるために

High-Power Microwave Systems – Getting (Much, Much) Closer to Operational Status

By Barry Manz

Journal of Electromagnetic Dominance • January 2023 Volume 46, Issue 1

最近、無人航空システム(unmanned aerial systems: UAS)が大きな話題になっているが、必ずしも良い意味での話題ばかりではない。10月、ロシアはウクライナ全土のエネルギー・電力インフラに対して、殺傷力の高い無人機や巡航ミサイルを使った広範囲の攻勢戦役(extensive campaign of attacks)を開始した。

ロシアのミサイルや浮遊弾(イランから供給されたシャヘド-136やシャヘド-131を含む)の多くは初歩的なものだが、ウクライナの防空システムを圧倒する目的で、時には一度に最大10数発の波状発射をしたこともある。

シャヘド-136

シャヘド-131

ウクライナは、これらの攻撃で少なくとも4分の3のドローンと巡航ミサイルを撃墜したと主張しており、限られた供給量の無線周波数(radio frequency :RF)誘導地対空ミサイルおよび赤外線(infrared radiation :IR)誘導地対空ミサイルにほぼ依存している。ウクライナにとって、75%の撃墜率は良いことだが、エネルギー・インフラに対するロシアの攻撃の成功率は25%であり、これはウクライナにとって深刻な問題である。

ロシアはウクライナの発電所に対する無人機攻撃をすぐに放棄することはないだろう。長期的に見れば、2万ドルの無人機を20万ドルの地対空ミサイルで打ち負かすことは、ウクライナをコスト面で不利な立場に置くことにもなる。しかし、より良いものを手に入れるまで、今あるもので闘う。

ロシアによるウクライナのインフラへの無人機と巡航ミサイルによる攻撃は、世界の注目を集めたが、これは特殊なことではない。将来の紛争では、多くの国が敵対者の兵器化したドローンに直面し、同じような状況に陥る可能性がある。ウクライナ戦争が示しているように、地対空ミサイルやレーダー誘導型対空砲兵(antiaircraft artillery :AAA)は、この問題に対する完全な解答にはならない。

地対空ミサイル

レーダー検知型対空砲

空中の目標に対してより長い射程と精度を提供するが、比較的安価な大量のドローンよりも、戦闘機や爆撃機、そして巡航ミサイルを攻撃するように主にデザインされている。必要なのは、低コスト(ノン・キネティック)で迅速に複数回発射でき(奥行きのある弾倉(deep magazine))、できれば光速(speed of light)で動作するシステムである。つまり、こうしたドローンや巡航ミサイルの攻撃に対抗するために防空部隊(air defense units)に必要なのは、指向性エネルギー兵器(directed energy weapons :DEW)なのである。

過去10年間、米国、イスラエル、ヨーロッパ諸国は、主に高エネルギー・レーザー(high-energy laser :HEL)システムと高出力マイクロ波(high-power microwave :HPM)システムという指向性エネルギー兵器(DEW)の開発で大きな進歩を遂げてきた。この記事では、高出力マイクロ波(HPM)技術、その歴史と現在のプログラムについて見ていく。

高出力マイクロ波(HPM)兵器は、他のタイプのキネティック兵器やノン・キネティック兵器と比較して、いくつかの利点がある。高出力マイクロ波(HPM)システムは通常、1秒以内に発射することができ、最新世代のシステムは奥行きのある弾倉(deep magazine)(短時間に複数回発射する能力)を備えている。

高出力マイクロ波(HPM)兵器は、敏感な電子部品の破壊や損傷から、性能の低下、再起動や再起動の強制まで、さまざまな効果をターゲットに発生させることができる。高出力マイクロ波(HPM)システムは、無線周波数(RF)やマイクロ波のエネルギーを、ターゲットの無線周波数(RF)やマイクロ波アンテナを通して、あるいはシールドされていない配線や回路など、実質的に開口部の役割を果たす場所に送り込み、ターゲットのプロセッサやその他のロジック・コンポーネントを破壊する。

また、高出力マイクロ波(HPM)システムはアンテナから送信されるため、ビームを広範囲に集中させたり、狭い範囲に集中させたりすることができる。開口(aperture)の種類によって、広いアンテナ・ビームは複数のターゲットを同時に攻撃することができ、狭いアンテナビームは単一のターゲットにエネルギーを集中させることができる。さらに、アクティブ電子スキャン・アレイを搭載した高出力マイクロ波(HPM)システムでは、必要に応じてこのビーム形状を高速に変更することができる。

運用評価の一環としてアフリカに配備されたLeidos社、BAE Systems社、Verus Research社が開発した米空軍研究所(AFRL)のTHOR実証機システム。(写真:米空軍研究所(AFRL))

スパーク・ギャップ・トランスミッター[1]からフェーズド・アレイへ

高出力マイクロ波(HPM)兵器には魅力的な技術的歴史があり、それは1962年に米国が太平洋上空250マイルの地点で核兵器を爆発させたことに始まる。スチュアート・モラン(Stuart Moran)が2012年に発表した論文「ダールグレン(Dahlgren)における指向性エネルギー研究の歴史的概要(Historical Overview of Directed-Energy Work at Dahlgren)」で述べているように、科学者たちは「この爆発によって、高層大気中の電子のバランスが大きく崩れ、地球の磁場と相互作用して太平洋の広い範囲に振動電場が発生した。この電界は、1000マイル離れたハワイの電子機器を損傷するほど強く、電磁パルス(electromagnetic pulse :EMP)の影響を明確に示した」と述べている。

この発見は、国防総省に大きな衝撃を与えた。もし、これを利用できれば、国防総省の武器として非常に有効なノン・キネティック兵器になるからだ。そのためには、1メートルあたり数十万ボルト(またはそれ以上)の電界強度を発生させる手段が必要である。その前に、2つの事実を考慮しておく。

第一に、60年以上前の国防総省の意図は、ターゲットを無力化することよりもむしろ消滅させることであった。そして第二に、ターゲットを構成するほぼすべての部品はデジタルではなくアナログであり、小さな半導体デバイスよりも高レベルの電磁(electromagnetic :EM)エネルギーによる損傷に対してはるかに耐性があった(そして現在もそうである)。

そのため、大量の無線周波数(RF)エネルギーが必要不可欠であると考えられていた。しかし、高出力マイクロ波(HPM)兵器で敵対者のシステムに対抗する場合、大量のエネルギーは必ずしも必要ではないし、望まれるものでもない。

「電子爆弾(E-bomb)」という言葉を作った「Air Power Australia」のシンクタンク共同設立者であるカルロ・コップ(Carlo Kopp)博士は、2012年の記事で次のように指摘している。「モノリシック半導体デバイス[2]は、過渡的であれ高周波的であれ、数ボルトの仕様限界値を超える電圧にさらされると、たいてい悪いことが起こる。主電源やバッテリー電源がデバイスに接続されている場合、致命的な電気的故障を引き起こすのに必要なエネルギーはごくわずかで、電源が致命傷を与えるからだ」[3]

1960年代に話を戻すと、モラン(Moran)の論文では、太平洋での爆発後、ダールグレン(Dahlgren)(現在のバージニア州ダールグレンの海軍水上戦センター・ダールグレン部門(Naval Surface Warfare Center Dahlgren Division :NSWCDD))の海軍兵器研究所特殊用途部門の研究者が仕事に取り掛かり、ラジオ放送初期のものと同じスパーク・ギャップ送信機(spark-gap transmitters)のハイパワー版に焦点を当てたことが説明されている。

無線周波数(RF)発生装置は、「コンデンサを高電圧に充電し、スイッチを閉じて回路に電流を流し、蓄積したエネルギーをコンデンサの電界とインダクタの磁界の間で振動させ」、スパーク・ギャップ(spark gap)の空気の耐圧に達するまでのヘルツ波発振器であった。

ブレークダウン時には、スパーク(spark)がLC回路(line control circuit)を完成させ、その共振周波数で発振する。そして、電磁波を電気振動として通過させることができる。ヘルツ波タイプの装置は、一般的に簡単なアンテナに接続され、100MHz以下の低周波で発振していた。

これらの装置の出力電界を測定するのは、地面の影響で難しいので、溶接ワイヤで100mの接地面を畑に敷き、両端に半地下式トレーラーを置いて、高電圧発生装置と診断装置を置き、基本測定システムを形成した。その結果、ピーク電力は1ギガワットを超え、電界強度は1メートルあたり数キロボルトに達することがしばしばあった。

モラン(Moran)は、1970年代を通じてダールグレン(Dahlgren)でデザイン、製作、テストされた多くの種類のヘルツ波デバイスについて説明している。例えば、空洞発振器は、「1/4波長の同軸パイプを使い、片方の端でスイッチングして発振波形を作る」。

もう一つのタイプ、いわゆる「凍結波」ジェネレーターは、「ケーブルの1/4波部分を充電して、ケーブル内に2サイクルの波形を『凍結(frozen)』させたもの」で、メガヘルツ周波数帯の数キロワットの無線周波数(RF)パルスを数十キロヘルツの繰り返し率で発生させた。ダールグレン(Dahlgren)で作成されたヘルツ波発振器を使ったソリューションのほぼ全てが、少なくとも500kVを発生させ、アンテナから数百メートル離れた場所に大きな電界を発生させることができた。

このほか、トランスを必要としない「ベクトル反転発電機(vector inversion generators)」(渦巻き状に巻いた容量板で電圧を発生させる)などもあり、大幅な改良が加えられた。パラボラ・アンテナの焦点部分に取り付けられたランデッカー・リングと呼ばれる装置は、「パドル・ホイール配置のコンデンサとインダクタを使い、並列に充電し、直列に放電する」ものである。この円形配置により、ダイポール(双極子)として放射することができ、事実上のアンテナを作ることができた。

また、低周波の広帯域効果を生み出す磁束圧縮発電機(Flux Compression Generator :FCG)についても考えてみる。初期電流を流すと、「高速の爆薬を使って磁場を機械的に圧縮し、爆薬のエネルギーを磁場に伝える」と、コップ(Kopp)は「電子爆弾(E-Bombs)」[4]についての記事で説明している。「磁束圧縮発電機(FCG)は動作中に崩壊するが、強力なパルス電流を発生させる」。

さらに、3つの磁束圧縮発電機(FCG)をカスケード接続することで、100倍に増幅し、ピーク出力は数ギガワットに達する。

そして、仮想カソード発振器(Virtual Cathode Oscillator)(Vircator)[5]は、調整可能な狭帯域周波数で非常に高い出力レベルの短パルスを発生させるものである。この「バーチャル・カソード・オシレーター」は、数十メートル以内ならともかく、数百メートル離れたターゲットにも正確にパワーを当てることができる。コップ(Kopp)の「電子爆弾(E-Bomb)」にもあるように、「仮想カソード発振器(Vircator)」は磁束圧縮発電機(FCG)のパワーを数百メートル先の目標に正確に集中させることができるが、最も深刻な被害は数十メートル以内に発生する。

1973年、ダールグレン(Dahlgren)は「単発の非常に高いピーク・パワーの電磁パルス(EMP)を使用して敵のレーダーやミサイルシステムを焼き尽くす」ことの実現可能性を探るため、特殊効果弾頭(Special Effects Warhead :SEW)プログラムを開始した。

到達目標の1つは、1マイル先までの電子機器を無効化できる電磁波弾頭を作れるかどうかということだった。この研究所は、非常に興味深く、また非常に危険な場所であったに違いない。

モラン(Moran)の記事によると、「高電圧の電界とスパーク発生(sparking)のために、作業員はビルの1つに『SF部門(Science Fiction Department)』という看板を作った」そうだ。

当時、外国や米国の電子機器やシステムの脆弱性についてはほとんど知られておらず、テストに使われた送信機では、ナイキのハーキュリーズ・レーダー・システムのような大型ターゲットをテストできるほど高いフィールドを発生させることはできなかった。この問題を解決するために、トレーラー型の無線周波数(RF)インパルス・システムが作られたのだとモラン(Moran)は説明する。

ナイキのハーキュリーズ・レーダー・システム

200万ボルトで充電するマルクス発電機駆動のL-C発振器を採用していた。輸送可能な振動パルサー・システム(Transportable Oscillating Pulser System :TOPS)として知られ、「レーダーやミサイル全体を置くのに十分な大きさの領域で均一なフィールドを生成する大きな境界波構造に接続されていた」のである。

モラン(Moran)は続けて、「システムから放出される電場は非常に高く、放射構造が通常の大気に移行できる大きさになるまで、絶縁ガス(六フッ化硫黄)の入った特別な袋を使用しないと、空気が弧を描くほどだった」と書いている。

更なるパワーアップへ

ダールグレン(Dahlgren)では、「これらのシステムのサイズ、重量、コストは、無線周波数(RF)源そのものではなく、システム駆動に必要なパルス直流(direct current :DC)技術によって決まる」ことが明らかになった、とモラン(Moran)は説明する。その結果、多くの兵器コンセプトで必要とされる電力供給技術に、より多くの努力が払われるようになった」。パルス・パワー・コンポーネントは、エネルギーを数秒(直接エネルギー(DE)用語では長い時間)にわたって蓄積することを可能にし、「ピーク・パワーを10億倍にするために」ナノ秒単位で放出することができるようになった。

ダールグレン(Dahlgren)の幹部は、「将来の兵器に必要な電源、エネルギー貯蔵システム、ハイパワースイッチ、電力調整システムを開発するため」、1978年にパルスパワー技術プログラムを開始するよう海軍首脳を説得した。

「大量の電力を供給するために、フライホイール、従来のオルタネーター、ホモポーラ発電機、回転磁束圧縮機、補償パルス式オルタネーターなど、新しいタイプの回転機械が研究された」とモラン(Moran)は説明する。これらの機械は、損失、渦電流、機械的応力を減らすために特殊な材料を用いて、高速で高出力のパルスを発生させようとした。

1970年代の終わりから1980年代にかけて、大学や米空軍研究所(AFRL)を含む国防総省の部局がダールグレン(Dahlgren)の高出力マイクロ波(HPM)に参加し、プライム技術と無線周波数(RF)パワー技術の改良が続けられた。しかし、冷戦の終結により、指向性エネルギー兵器(directed energy weapons)への関心は薄れた。

パルスパワー技術プログラムと海軍の荷電粒子ビーム・プログラムは中止されたが、ダールグレン(Dahlgren)は後に使える中核的な技術能力を維持するための資金を何とかかき集めた。ダールグレン(Dahlgren)は現在、高出力マイクロ波(HPM)技術開発に特化した部門を持つ米国内の2箇所のうちの1つであり、もう1つはニューメキシコ州カートランド基地の空軍研究所の指向性エネルギー部門(Directed Energy Directorate)である。

高出力マイクロ波(HPM)への回帰

2000年代半ばになると、世界はアナログからデジタルへの移行を始めて久しく、かつてはほぼ完全にアナログだった製品も、ほぼ完全にデジタル化された。このような電子機器に対して、高出力マイクロ波(HPM)攻撃への脆弱性を検証したものはほとんどない。ソビエト連邦の崩壊後、電磁パルス(EMP)を大量に発生させることは重要ではなくなり、有害なレベルの無線周波数(RF)エネルギーから電子機器を保護することも重要ではなくなった。

しかし、このような安穏とした状況は続かなかった。デジタル・エレクトロニクスが米軍のシステムや、発電所、通信システム、緊急・産業システムなどの民生インフラの制御に広く使われるようになると、敵対者がこれらのシステムを高出力マイクロ波(HPM)兵器で攻撃する可能性がますます懸念されるようになった。

現在、米国の同盟国を中心に、ロシアや中国など十数カ国が高出力マイクロ波(HPM)兵器技術を開発しており、その中には数十年の経験を持つ国もある。そのため、国防総省の指導者たちは近年、高出力マイクロ波(HPM)攻撃に対する防御に、より大きな関心を寄せている。ダールグレン(Dahlgren)の特殊技術対策統合プログラムオフィス(JPO/STC)は、無線周波数(RF)攻撃に対するデジタル・システムの脆弱性について集中的な研究を行ってきた。

また、モラン(Moran)の記事にあるように、このプログラムでは「脆弱性データ、ソースデザイン、無線周波数(RF)効果情報」の米国防総省(DOD)全体のデータベースを構築し、長年にわたってかなりの先見性を持って蓄積されてきた情報と結合させた。

「1990年代後半から2000年代前半にかけて、ダールグレン(Dahlgren)はノン・キネティック破壊を用いた無線周波数(RF)攻撃の可能性に関するプログラムを開始し」、また「無人航空システム(UAV)用の無線周波数(RF)ペイロードを開発し、その効果を実地試験で実証した」とある。この種の高出力マイクロ波(HPM)技術の米国防総省(DOD)初のデモンストレーションであった。それらをテストするために、2つの多層階建ての建物が、異なるタイプの建物の構造と電磁シールドを反映するように再構成された。

その中には、「電子機器、コンピュータネットワーク、サーバーシステム、電話システム、セキュリティシステム、様々な種類のデジタル産業制御の大規模な複合体があり、それらは組み立てられ、計測され、攻撃にさらされる可能性がある」のである。

マジノ野外実験場(Maginot Open Air Test Site :MOATS)と呼ばれるこの複合施設は、潜在的な高出力マイクロ波(HPM)兵器に対する電子機器の無線周波数(RF)感受性のテスト用にデザインされ、現在もターゲット・システムのテストや、内部および外部・国際機関が開発したさまざまな無線周波数(RF)兵器技術のテストに利用されている。

今はどうなっているのか?

従来、高出力マイクロ波(HPM)システムは、兵器システム内の脆弱な電子部品を破壊することに集中していた。しかし、ドローンやドローンのスウォーム(drone swarms)などのターゲットの場合、必要なのは電子機器を混乱させるか、操作不能にすることのみである。

高出力の超広帯域パルスで破壊する必要はない。つまり、高出力マイクロ波(HPM)システムは、他のアセットに対するように、単一のターゲットを破壊するために必ずしもギガワットの出力を送信する必要はなく、センサーを動作不能にしたり、兵器システムのナビゲーションや飛行制御に影響を与えるために必要なものだけでよいということである。この能力は、2006年にレイセオン社がValiant Eagleシステムを開発し、その後BAE Systems社のBofors高出力マイクロ波(HPM)Blackoutを開発して以来、15年以上にわたって何らかの形で実証されている。

BAE Systems社のBofors 高出力マイクロ波(HPM) Blackout

米空軍研究所(AFRL)は過去数年間、少なくとも4つの高出力マイクロ波(HPM)実証システムを開発し、評価してきた。この中にはRaytheon社の「Phaserシステム」も含まれており、高レベルの無線周波数(RF)エネルギーを反射鏡アンテナに送信し、複数のターゲットを同時に破壊することができる。円錐形のビームは、1つのパルスで空中にある複数のドローンを同時に攻撃できるため、ドローンのスウォーム(drone swarms)に対して「Phaserシステム」が有効であることを意味する。

Raytheon社の「Phaserシステム」

 

PhaserもRaytheon社が米空軍研究所(AFRL)のために開発した対ドローン用HPMシステムである。単体でもスウォームでもドローンを落とせるようにデザインされている。(写真:米空軍研究所(AFRL))

Leidos社、BAE Systems社、Verus Research社が開発した米空軍研究所(AFRL)の戦術高出力オペレーショナル・レスポンダー(Tactical High Power Operational Responder :THOR)高出力マイクロ波(HPM)システムは、一度に100機以上のドローンを無力化する能力を実証している。米空軍研究所(AFRL)は、軍事基地を脅かすドローンのスウォーム(drone swarms)を無力化するため、戦術高出力オペレーショナル・レスポンダー(THOR)のさらに高度なバージョンも進めている。次世代プラットフォームは、神話に出てくるトールのハンマーへの敬意として「Mjölnir」と名付けられている。米空軍研究所(AFRL)はLeidos社に2600万ドルの契約を結び、「Mjölnir」のプロトタイプを開発し、2024年初頭に納品することにしている。

戦術高出力オペレーショナル・レスポンダー(THOR)高出力マイクロ波(HPM)システム

「Mjölnir」のプロトタイプ

最後に、米空軍研究所(AFRL)はRaytheon社と協力して、対電子高出力マイクロ波長距離航空基地防衛(Counter-Electronic High Power Microwave Extended Range Air Base Defense :CHIMERA)システムを開発している。

対電子高出力マイクロ波長距離航空基地防衛(CHIMERA)システム

対電子高出力マイクロ波長距離航空基地防衛(CHIMERA)システムは、近距離のターゲットを攻撃する「Phaserシステム」や戦術高出力オペレーショナル・レスポンダー(THOR)とは異なり、その名の通り、より遠距離の空中ターゲットを攻撃するためのシステムである。

戦術高出力オペレーショナル・レスポンダー(THOR)や「Phaserシステム」を含むこれらのシステムの多くは、必要な放射パワーを生成するために真空管技術を使用していることに留意することが重要である。また、そのほとんどが比較的大型で、軍事基地をドローンやロケット攻撃から守るなど、固定された場所での使用に最も適している。

米空軍研究所(AFRL)と米海軍研究所(NRL)は、より小型でミサイルや無人航空システム(UAS)に使用するためにデザインされた、別のクラスの高出力マイクロ波(HPM)兵器を開発している。2012年にボーイング社と米空軍研究所(AFRL)によって実証された対電子高出力マイクロ波ミサイルプロジェクト(Counter-electronics High Power Microwave Advanced Missile Project :CHAMP)は、AGM-86 従来型航空発射巡航ミサイル(Conventional Air Launched Cruise Missile :CALCM)のボディを使用して、レイセオン社が開発した高出力マイクロ波(HPM)ペイロードを搭載し、出撃ごとに複数の高出力マイクロ波(HPM)「ショット(shots)」を提供することが可能である。

AGM-86 従来型航空発射巡航ミサイル(CALCM)

「HiJENKS」として知られる高出力統合電磁波ノン・キネティック攻撃兵器(High-Powered Joint Electromagnetic Non-kinetic Strike Weapon)もまた、マイクロ波技術を使用して敵対者の電子システムを無効化するものである。「HiJENKS」は「CHAMP」の後継機で、より小型で頑丈な高出力マイクロ波(HPM)技術を使用しており、より広範囲のキャリアシステムに組み込むことができる。米空軍研究所(AFRL)と米海軍研究所(NRL)の共同出資による5年間の「HiJENKS」プログラムは、昨夏、海軍航空基地チャイナレイク(カリフォルニア州チャイナレイク)で「キャップストーン(capstone)」テストを完了した。

「HiJENKS」ミサイル

Boeing社 「CHAMP」ミサイル

窒化ガリウム(gallium nitride)による強化

高出力マイクロ波(HPM)技術の最も新しい開発は、アクティブ・フェーズド・アレイと、必要なレベルの無線周波数(RF)パワーを生成するために真空管ではなく固体(窒化ガリウム-GaN)ベースの無線周波数(RF)電力増幅器を使用することである。「Leonidas」と呼ばれるシステムの1つは、Epirus社という比較的新しい会社が独自に開発したものである。2018年にスタートし、ロサンゼルスとバージニア州マクリーンに施設を持つEpirus社は、防衛と商業の両方の用途に、厳選されたコア技術を活用している。

「Leonidas」高出力マイクロ波(HPM)システム

「Leonidas」は、同社が提供するスケーラブルな高出力マイクロ波(HPM)である。当初はトレーラー型として開発されたが、無人航空システム(UAS)用のエアボーンポッドのテストも行い、10月にはストライカー車両に搭載するモバイル型も公開された。アクティブ電子走査アレイ(AESA)システムと同様に、「Leonidas」はビームステアリングを使用して、エネルギーをターゲットに集中させ、友軍が活動を継続できるように飛行禁止区域を設定する。

アクティブ電子走査アレイ(AESA)システム

 

Epirus社は、オリジナルの対ドローン・システム「Leonidas」(上左)をベースに、HPMシステム・ファミリーを開発した。ジェネラル・ダイナミクス社と提携し、ストライカー搭載型システム(上右)を発表し、ドローン用のポッド型システム(下)を発表している。(写真:EPIRUS)

「Leonidas」は比較的小型の地上車両に搭載することができ、毎秒数千発の「弾丸」を発射することが可能である。「Leonidas」はオープンシステムのアーキテクチャを持ち、GaNベースのライン交換可能なアンプモジュールに依存し、無人航空システム(UAS)のターゲットが影響を受けやすい周波数を利用した独自の波形の弾丸を高速で発射する。

同社は、「Leonidas」は衛星航法信号の通信を妨害してドローンのデジタル電子機器を混乱させるのではなく、電磁パルス(EMP)がよく表現するように「直流から可視光(DC to daylight)[6]」という超低周波から超高周波までをカバーする電磁エネルギーでターゲットを包み込む電磁パルス(EMP)発生器と表現した方が良いと強調する。Epirus社の最高製品責任者であるアンドリュー・ローリー(Andrew Lowery)は、「我々は、ドローンがどの周波数で動作しているかは気にしない」と述べている。

「我々は電磁パルス(EMP)システムなので、周波数は関係ない。データリンクやGPSを無効にするのは比較的簡単で、多くの企業がそれを行うことができる。その代わり、遠距離からターゲットを一掃する。キネティックな演習場や戦術高出力オペレーショナル・レスポンダー(THOR)さえもはるかに超えている」。

同社は「Leonidas」の範囲を「戦術的に妥当な距離」とだけ定義しているが、これは通常10km程度を意味する。「我々のビームは実はそれほど狭くなく、3dBのビーム幅は約6度である」と彼は続ける。「ドローンの艦隊を破壊したい場合、我々は1秒間に1000回の速度で空を掃射するので、そこに向かって移動するドローンは、我々が空を横切ってビームを描くので、エネルギーの壁に遭遇することになる。

「巨大な電磁フィールド(e-field)をそこに置くだけである。空洞などの侵入口は、他の場所よりもある周波数で脆弱になりやすいので、エネルギーの弾丸を撃つのではなく、エネルギーのシールドを作るのである。シールドに飛んできたものは、すべて破壊される。ちょっとした隙間やいろいろな侵入口があっても、スイッチに10ボルトや20ボルトをかければ、電子機器が停止するほどめちゃくちゃになるんである。それが電磁パルス(EMP)の威力である。コンピューター、カメラ、エンジン制御など、あらゆる回路に影響を与えることができる」。

「Leonidas」は、システムが過熱しないようにしながら、高出力パルスを生成するための無線周波数(RF)性能を最適化する、当社独自のスマートパワー(SmartPower)電源管理技術を採用している。スマートパワー(SmartPower)技術プラットフォームは、ハードウェア、ソフトウェア、機械知能アルゴリズムの独自の組み合わせで、リアルタイムの人工知能と機械学習を使用し、消費電力を最大70%削減することができる。これにより、システムの電力需要、超高出力源の必要性が低くなり、真空管ベースのシステムよりも冷却の必要性が低くなる。

デジタル技術は、例えば交流(AC)から直流(DC)へのエネルギー変換を監督している。ローリー(Lowery)は、「デジタル・アーキテクチャによって、パワーが強化される」という。

「非線形回路の性能を最適化し、ダイナミック制御の幅を持たせているので、パッシブ・スタティック・システムができることだけを超えている。つまり、機械学習(machine learning)を使って、ドレイン、ゲート、入力信号を変調して回路を管理し、あらゆる変換指標を最適化する」。

「また、ゲート上でエンベロープ・トラッキング、プレディストーション、パルス・アプリケーション用のアルゴリズム、立ち上がり時間、立ち下がり時間などを実行する」とローリー(Lowery)は説明する。「これにより、従来、非線形変換で発生していた膨大な無駄を省き、効率を高めて熱を抑えることができるため、必要な冷却が大幅に削減される。戦術高出力オペレーショナル・レスポンダー(THOR)のような単一チャンネルアプローチで必要とされる等価等方放射電力(Equivalent Isotropic Radiation Power:EIRP)[7]を各チャンネルが持っていないため、ターゲット上の等価等方放射電力(EIRP)を最大化するためにできることはすべて行っている」。

このシステムはソフトウェアで定義されるため、混雑した電磁環境下で特定のターゲットに対応するために、波形の帯域幅などをリアルタイムで変更することができる。

つまり、「Leonidas」は友軍のアセットの近くにいる敵のドローンに対処すると同時に、大規模のドローンのスウォーム(drone swarms)を軽減することができる。また、人工知能と機械学習により、「Leonidas」システムは新しいターゲット・データに触れることで、時間の経過とともに学習することができる。ソフトウェアのアップデートを空中で配信し、新しいターゲットに対してプラスの効果を発揮するように特性を最適化することができる。

現実の問題

高出力マイクロ波(HPM)技術は急速に成熟しており、1970年代、1980年代と同様、作戦地域からの要求信号が増加している。今回は、防空用途と、敵対者のセンサー・トゥ・シューターネットワーク(sensor-to-shooter networks)の多くのノン・キネティック・ソフト・スポット(すなわち、シールドされていない配線や保護されていないデジタルコンポーネント)を攻撃できる空中兵器が求められている。

ウクライナ軍は今、これらの高出力マイクロ波(HPM)システムの多くを確かに享受することができるが、ロシアの無人機と巡航ミサイルがそれらのための優れたフィールド・テストであるにもかかわらず、それはありそうもないように思える。戦術高出力オペレーショナル・レスポンダー(THOR)と「Phaserシステム」は評価の一環として米国国外に配備されたと伝えられているが、「Leonidas」はそうではない。

Epirus社のローリー(Lowery)によると、同社は「Leonidas」の頑丈なプロトタイプを4台製作し、低率初期生産(LRIP)[8]対応となり、2023年には配備可能でウクライナに送られる可能性が「ある(could)」そうだ。しかし、ウクライナに対するドローンやミサイルの攻撃は今後数カ月にわたって増加することが予想されるため、それに対抗するための高出力マイクロ波(HPM)兵器の必要性も確実に高まるだろう。複雑な問題に対する多層的な防空ソリューションの一端を形成することができる。

ノート

[1] 【訳者註】SPARK GAP TRANSMITTER(スパーク・ギャップ・トランスミッター):火花送信機(ひばなそうしんき)あるいは火花式送信機は、かつて無線通信に用いられた、間隙を設けた電極間に高電圧を印加して、火花放電による電波を発生させる装置(引用:https://ejje.weblio.jp/content/spark-gap+transmitter)

[2] 【訳者註】1枚の半導体基板の集積回路等

[3] Moran, Stuart (2012), “Historical Overview of Directed-Energy Work at Dahlgren” (Report), downloaded from https://apps.dtic.mil/sti/pdfs/ADA560558.pdf.

[4] Kopp, Carlo (2012), “E-Bomb Frequently Asked Questions – For the EE Community,” accessed at http://www.ausairpower.net/E-Bomb-FAQ.html.

[5] 【訳者註】「vircator」は、非常に高い電力レベルで調整可能な狭帯域マイクロ波の短いパルスを生成できるマイクロ波発生器(引用:https://en.wikipedia.org/wiki/Vircator)

[6] 【訳者註】「直流から可視光線まで、すべてのエレクトロニクスを網羅する波形を指す。(引用:https://community.element14.com/challenges-projects/element14-presents/dc-to-daylight/)

[7] 【訳者註】アンテナからある方向に放射されるエネルギーを「等方性アンテナ」(理想アンテナ)での送信電力に置き換えたもの。簡単にまとめると送信電波の強さで、単位は「dBm」となる。(引用:https://netvisionsystems.site/blogs/itschool/187#)

[8] 【訳者註】低率初期生産(Low rate initial production、LRIP、エルリップ)とは、軍用装備品などのプロジェクト管理またはその取得プログラムで用いられる、装備化の当初の段階に行われる少量生産を指す用語(引用:https://ejje.weblio.jp/content/Low+rate+initial+production)