ロシアのウクライナに対する戦争 -現代のクラウゼヴィッツ戦争の複雑性- ⑤ロシアの空中ドメインでの戦いの方法 ロシア・セミナー2024

前回の投稿「ロシアのウクライナに対する戦争 -現代のクラウゼヴィッツ戦争の複雑性- ④ロシア海洋理論 ロシア・セミナー2024」に続いてロシア・セミナー2024の論文集の第5弾を紹介する。この論考は、表題が示す通り航空戦力に関するロシアのこれまでの考え方とウクライナとの戦争を通じて露呈している限界などについて論じたものである。量のアプローチと最新の技術を使用したアプローチの違いなどについて考察する際の参考となると考える。(軍治)

ロシアのウクライナに対する戦争 -現代のクラウゼヴィッツ戦争の複雑性-

Russia’s war against Ukraine -Complexity of Contemporary Clausewitzian War-

5_ロシアの空中ドメインでの戦いの方法

5_ THE RUSSIAN WAY OF WARFARE IN THE AERIAL DOMAIN

ヴィクトリア・フェドルチャク(Viktoriya Fedorchak)

ヴィクトリア・フェドルチャク(Viktoriya Fedorchak)博士は、2022年9月よりスウェーデン国防大学航空作戦学部講師。以前は、ノルウェー科学技術大学(ノルウェー)、メイヌース大学(アイルランド)、ノッティンガム大学(英国)で、民間人と軍人の両方を対象に教えていた。現代戦略、航空戦力、戦史、グローバル・セキュリティ、地政学、国際関係論、ヨーロッパ研究などの講義を担当。専門は航空戦力、現代戦、軍事ドクトリン、ロシア・ウクライナ戦争など。航空戦力の教科書「現代航空戦力の理解(Understanding Contemporary Air power)」(Routledge、2020年)、単行本「英国航空戦力:統合へのドクトリン上の道(British Air power: The Doctrinal Path to Jointery)」(Bloomsbury Academic、2018年)の著者。ハル大学(英国)にて、1999年から2014年までの空軍ドクトリンの発展について博士号を取得。近刊「ロシア・ウクライナ戦争:復元性ある戦闘力に向けて(The Russia-Ukraine War: Towards Resilient Fighting Power)」(Routledge、2024年)では、ロシアによるウクライナへの全面侵攻の最初の1年間における、陸、空、海、サイバー・ドメインにおける両国の戦闘力(fighting power)の様々な側面を探求している。

ロシア・セミナー2024におけるヴィクトリア・フェドルチャク(Viktoriya Fedorchak)のプレゼンテーションは、フィンランド国防大学(FNDU)のYouTubeチャンネル(https://youtu.be/P8VA1bT8ADs)で3:41:20よりご覧いただける。

はじめに

本稿の狙いは、「ロシアの戦いの方法(Russian way of warfare)」を、「航空戦における大量運用のアプローチ(approach to the employment of mass in air warfare)」に焦点を当てて取り上げることである。この点で、ロシアの航空戦力の構造、能力、およびロシア戦争中の大量攻撃(mass attacks)における航空戦力(air power)の運用という観点から、ロシアの大量運用(Russia’s employment of mass)に注目する。

ヘザー・ヴェナブル(Heather Venable)[1]、デビッド・デプトゥラ(David Deptula)、ヘザー・ペニー(Heather Penney)[2]、ヴィクトリア・フェドルチャク(Viktoriya Fedorchak)[3]による最近の著作を含む、このテーマに関する既存の学術的・軍事的議論を参照しながら、「現代の量のコンセプト(modern concept of mass)」について説明する。この点では、数的優越(numerical superiority)と最先端技術(cutting-edge technologies)のバランスから、臨界量(critical mass)、つまり提起された目標を達成するのに十分な数の確立への移行に焦点が当てられている。ウクライナにおけるロシアによる最近の航空戦力(air power)の使用について、その長所と限界の観点から評価し、ロシアの数的優越(numerical superiority)を低下させるウクライナ側の対抗措置の有効性を取り上げている。考察セクションでは、数的に優越な相手に対する国の防衛を強化するための重要なヒントを提示している。このテーマに関する従来の著作とは異なり、ロシア流の航空戦力(air power)の使用方法の歴史的痕跡にも注意が払われている。従って、冷戦後の航空戦力(air power)の発展や運用、航空戦力(air power)のコンセプト化において、「ロシアの戦いの方法(Russian way of warfare)」の特徴が辿られている。

量、人工的量、臨界量

冷戦終結後、世界中の軍隊は改革を余儀なくされ、国際関係における平和的傾向への期待と、それに伴う軍事予算削減の機会という新たな現実に適応しなければならなかった。平和の配当という現象は、西側諸国の国軍にさまざまな影響を与えた[4]。軍事改革の結果のひとつは、国軍を構成し改革する際に、ある種の二項対立が確立されたことである。それは、量的(mass)(数的:numerical)アプローチと最先端(数は少ないがより質的)アプローチである。軍隊を構成するための量的アプローチ(mass approach)は、冷戦時代の大規模な軍隊(massive armed forces)と、数が多ければ能力が高く効果も強いという伝統を引き継ぐものだった。これとは対照的に、先端技術の洗練と多面的な効果は、実際の装備品や人員の数の削減を意味し、その結果、連合国全体の各軍種が縮小した[5]

どちらを選択するかは、多くの場合、コスト、使用可能な装備の洗練度、欧米の最先端技術へのアクセス、使用可能な装備の状態や訓練された人員の質などを考慮することによる。従って、西側諸国は軍隊を構成する上で最先端のアプローチに従った。これとは対照的に、ロシアと中国は、数的アプローチ(numerical approach)または量的アプローチ(mass approach)をとった。この点で、数的アプローチ(numerical approach)の適用は、単に既存の冷戦時代の兵器庫の数を維持することを意味したのではないことを強調しておきたい。中国とロシアの軍事力の改革は、量(mass)と数(numbers)に対するかなり全体的なアプローチに従った。どちらの国も(特定の技術へのアクセスに制限があるため)西側の最先端技術に同じペースと数で完全に追いつくことはできなかった。また、両国とも、より先進的な分野の能力のためのスペースと資金を確保するために、冷戦時代の古い軍事力を見直さなければならなかった。西側諸国に対して完全な技術的優越性を持つことはできないため、解決策は、前世代の機能的能力をより多く組み合わせるとともに、西側諸国との競争に対抗するため、より高度な技術を徐々に増加・発展させることであった[6]

コンセプト上の観点から見ると、軍隊の構造におけるこの二律背反は、量(mass)が実際に何を表し、どのようにしてそれを達成できるのかという議論に要約することができる。量(mass)を数的優位性(numerical advantage)として捉える伝統的な理解は、徐々に人工的量(artificial mass)と呼ばれるものへと移行した。人工的量(artificial mass)とは、さまざまな作戦環境において、より効果的な状況認識、指揮・統制 (C2)、および致死性をもたらす最先端技術によってもたらされる優位性を意味する[7]。この点で、さまざまなプラットフォームの多機能性がより重視されるようになり、大量の効果を達成するためにシステムの統合(一体化)が進んだ。このため、最先端技術のコストは上昇し、開発、生産、調達の時間枠(timeframe)にも影響を及ぼした[8]

冷戦後の様々な複雑さ、テンポ、長さの紛争において、人工的量の至高性(supremacy of artificial mass)が重要であることが証明された一方で、対等そしてほぼ対等の紛争が復活したことで、最先端技術、数的優越(numerical superiority)、利用可能な能力の適時性に対するアプローチを再考する必要性がさらに示された。デプテューラとペニーは、2021年の報告書の中で、米国の国家オフセット戦略において、人工的な数と伝統的な数のバランスをとることの必要性を概説し、対等そしてほぼ対等な紛争で優位性を獲得するために必要なことを述べている[9]。必要な戦場の範囲と地理を効果的にカバーし、敵のターゲティングと作戦遂行能力を弱体化させ、「争われた環境での消耗に・・・・耐え、作戦の復元性と効果を維持する(withstand[…] attrition in contested environments to remain operationally resilient and effective[10]ためには、能力の数と多様性を強化しなければならない。

ウクライナでの戦争は、絶えず変化する闘いの環境に柔軟に対応できるよう、能力を構成し維持するためのバランスの取れたアプローチの必要性を示している。「臨界量(critical mass)」という用語は、自国の軍隊を構成するためのバランスの取れたアプローチを指し、「作戦上の要求に従って、与えられた作戦環境の戦力構成に配備、変更、維持、統合(一体化)するのに十分な数の軍事能力を迅速に生産し、あるいは保有する能力」と定義することができる[11]。したがって、臨界量アプローチ(critical mass approach)全体を単純化して理解すれば、より複雑で最先端の技術と、より洗練されてはいないが、ある時点で必要なエッジと効果の集中をもたらすことができる、より多くの技術とのバランスをとることを意味するかもしれない[12]。一方、開発から運用までの全サイクルとしてアプローチするならば、臨界量(critical mass)は、闘いの環境に必要なテンポで十分な能力を提供するために必要な一連の決定と行動に焦点を当てることになる。したがって、国家間の戦い(inter-state warfare)における臨界量(critical mass)の構築と維持には、生産能力の問題が最重要となる。

ロシアの数的アプローチ

ソ連の数的アプローチ(numerical approach)がロシアの軍改革に与えた影響は、さまざまな考慮事項によって左右された。第一に、冷戦時代から残る大量の装備(mass of equipment)を新しい現実に合わせて再調整する必要があった。これは、資金、生産能力、そして1990年代に古いプラットフォームをフル機能で維持する手段が不足していたため、数を減らすことを意味した。しかし、プーチンの統治が始まると、軍の改革へとシフトした。西側諸国の発展に合わせて、プラットフォームの再コンセプト化と近代化、装備の最先端の本質の強化(cutting-edge nature of equipment)という新たな流れが強調された。ロシアのステルス機や一部の弾道ミサイルの極超音速化についてさまざまな主張がなされたが、西側の専門家の多くはこれらを疑っていた。ロシアでは、より誇張されたプラットフォームは実現しなかったが、ロシアの航空艦隊は、さまざまな空中任務にわたってより幅広い機能と応用を備えたより高度な航空機(MiG-35戦闘機、Tu-22M3M爆撃機、Su34戦闘爆撃機)を追加した。2021年、ロシア航空宇宙軍(VKS)は、アメリカ、中国に次いで世界で3番目に大きな戦闘航空隊(1,531機の戦闘機)を保有していたが、タンカー機については4位で、19機しか保有していなかった[13]。伝統的に、ロシアの空対空給油能力は戦略爆撃機隊に限られていた。

西側の最先端技術(cutting-edge technologies)に対抗できる航空資産の全領域を持たないロシアは、長距離地対空ミサイル・システム(S-400)、対アクセス/地域拒否(A2/AD)環境の構築、イスカンデル(Iskander)やカリブル(Kalibr)(長距離精密攻撃)などの弾道ミサイルや巡航ミサイル・システムに重点を置いた。戦闘機と爆撃機の艦隊が数の上では強くなっているのは確かだが、伝統的な二次的/支援的役割のプラットフォーム(AWACS(空中警戒管制システム)、戦略輸送、空対空給油)はロシア艦隊では存在感が薄く、完全な多機能ドローンも持っていなかった。

冷戦後の紛争におけるロシアの航空兵力の活用には、いくつかの特徴があった。第一に、航空部隊を陸軍の延長として、あるいは空からの砲兵として使用したことである。つまり、航空部隊は完全に独立しておらず、作戦レベルや戦略レベルで効果的な活動を計画する訓練を受けていなかった。第二に、軍種横断の統合(一体化)や統合作戦の成功や効果についてさまざまな主張があるにもかかわらず、ロシアはこの分野で大きな不足を示した[14]。チェチェン戦争(Chechen Wars)では、空と陸の部隊のコミュニケーションは不十分で、協力体制も非常に初歩的なものだった。シリアにおけるロシアの航空資産の使用は重要な空陸統合(一体化)(air–land integration)を実証し、ロシアはその教訓を学び、ウクライナにおけるロシアの空戦にある程度取り入れたと考えられるが、シリアにおける空陸統合(一体化)(air–land integration)は、航空資産と特殊作戦部隊(SOF)グループとの統合(一体化)というはるかに小規模なものであった[15]

ロシアの航空戦力運用(Russian employment of air power)のもうひとつの特徴は、精密誘導弾(PGM)をあまり重視せず、さまざまなターゲットに対して大量に使用する(used en masse)ダム爆弾を優先していることだ。この特徴は、ある考慮の結果である。ソ連の兵器庫の残骸は、無差別大量攻撃(indiscriminate mass attacks)を実施するのに十分な数的優位性(numerical advantage)をもたらし、ロシアはさまざまなターゲットに到達できるようになった。このアプローチの欠点は、特徴的でよりニッチなターゲットに対するこれらの攻撃の効果が限定的であったことである。他方、民間と軍事のターゲットとの区別がないことは、ロシアの戦略文化のもう一つの特徴、つまり自国側と敵国側の双方における人命尊重の限界に対応していた[16]。ロシアはまた、相手の戦意を削ぐ手段として、またターゲットとした国の政治指導者に圧力をかける試みとして、民間人に対する無差別爆撃を使い続けた[17]。この点で、大量の爆撃戦役(mass bombing campaigns)はロシア航空戦力(Russian air power)の特徴的な特徴のようなものになった。グロズヌイ、アレッポ、マリウポリ、そしてウクライナの多くの都市が、ロシアの航空資産の使用におけるこの永続的な傾向を裏付けている。

前の特徴に続いて、ロシアの軍事戦役、ひいてはその航空部隊は、威嚇と火力の強化、その結果としての大量打撃(mass strikes)のある段階を経た。この点で、チェチェン(Chechnya)からウクライナに至る戦役において、軍事的・戦略的対象からインフラ、そしてより大規模な民間人ターゲットへのターゲティングのシフトを追跡することができる。したがって、ロシアの軍事戦役には懲罰的な要素が含まれることが多く、それは民間人や人口の多い地域に向けられることが多い。過去2年間のウクライナの場合、軍事からインフラ、民間へとターゲットが変化したのは、2022年春から秋にかけてのロシアの長距離弾道ミサイル戦役が大きな軍事的成果を挙げられなかったことに直接起因している[18]。ロシアによる砲撃の激化は、しばしば地上での失敗と関連している。ウクライナが領土を大幅に回復した後、ロシアはしばしばウクライナの民間人をターゲティングすることで報復した。その最たる例が、2022年夏から秋にかけてハリコフとヘルソンでウクライナの反攻作戦が成功した後、セルゲイ・スロヴィキン(Sergey Surovikin)将軍がウクライナにおけるロシアの作戦指揮官に任命されたことだ[19]

ウクライナにおけるロシアの量的アプローチとその限界

本格的な侵攻の最初の数日間から、ロシアは航空部隊をさまざまな軍事的ターゲットの破壊支援に使用し、1日の出撃回数による数的優位性(numerical advantage)を利用した。さまざまな計算によると、1日に140から200回の出撃を行ったという。ウクライナ空軍は敵との最初の接触で生き残り、国内の他の地域に分散したため、多数の戦力を投入した最初の攻勢は弱体化した。最初の数日間、一部の防空線が妨害される中、ウクライナのパイロットはキーウ上空の空戦で時間を稼いだ。かなりの数の航空機を保有しているにもかかわらず、本格的な侵攻の最後の2年間にわたるロシアの攻撃は、1回の任務で多くの航空機を使用することに限界があることを示している[20]。この観察にはいくつかの理由がある。第一に、ウクライナの空は、航空機と地上防空網の両方の効果と火力の組み合わせにより、ロシア軍機にとってはるかに危険であった。第二に、ロシア航空戦力(Russian air power)の兵員数は依然として多かったが、人員とパイロットの損失は、ウクライナにおけるロシアの航空戦力(air power)の有効活用に打撃を与えた。第三に、空軍の構造において数的優位性(numerical advantage)を有していたにもかかわらず、大量生産(construction of mass)のハイブリッドな性質が重大な不足を物語っていた。この点で、激しい国家間戦争において、旧式のソ連艦隊の数が多く、より近代的な航空機の数が少なかったため、Su-30やSu-34の使用がより好まれ、艦隊の最先端セグメント(cutting-edge segment)に対する需要が高まった。Su-30とSu-34は精度が高く、マルチ・ロールであるため、同じ出撃回数でより多くの成果を上げることができ、異なる役割を切り替えることができる。しかし、より先進的で数の少ない機体への依存は、これらの機体やパイロットへのプレッシャーも大きくなり、結果として両機の消耗が早まった[21]

ウクライナにおけるロシアの量的アプローチ(Russian mass approach)のもう一つの特徴的だが予測可能な限界は、パイロットの不足だった。新しいパイロットの教育と訓練には時間がかかり、経験豊富なパイロットは現代戦では依然として少ない。本格的な侵攻に先立つ10年間の改革で、状況は著しく悪化した。よく見られる改革の第一の問題は、ある軍種が優先されなかったり、重要な関連性を持たなかったりすると、そのさまざまな構造や活動が必要最低限にまで縮小されてしまうことである。ロシア空軍の軍事教育の場合、2008年に導入された新たな改革の波は、モスクワにあるジューコフスキー・ガガーリン・アカデミー(Zhukovsky-Gagarin Academy)のさまざまな地域子会社(イェイスク(Yeysk)、サンクトペテルブルク(Saint Petersburg)、チェリャビンスク(Chelyabinsk))の閉鎖と、ヴォロネジ(Voronezh)にある軍用航空工学大学との合併という結果を徐々にもたらした。これらの改革は、要するに、かなりの数の専門家と教育関係者が解雇されたことを意味し、ロシアの航空専門家養成プログラムの体系的かつ質重視の再編成は行われなかった。こうした改革に照らせば、ロシア人パイロットの飛行訓練時間が減少したことは驚くことではない[22]

ウクライナ全土に対する長距離大量攻撃戦役(long-range mass attack campaign)は、本格的な侵攻が始まった当初から始まり、現在に至るまで続いている。圧倒的な大量攻撃(overwhelming mass attacks)は、ロシア軍の強さを示し、より多くのターゲットを攻撃することを狙いとしていたが、過去2年間の戦役の変革は、この量の戦役(mass campaign)の中で、アプローチ自体に大きな不足があること、ロシアの備蓄とこうした取組みを維持する能力に限界があることを物語っていた。この戦役の初期段階は、ウクライナの領土の大部分に対して、主に弾道ミサイルと巡航ミサイルを使った一貫した攻撃が特徴的だった。この段階での主な問題は、より最先端で高価な技術(cutting-edge and expensive technologies)が、大きな軍事的効果を達成することなく無差別に使用されたことである。第2段階は、ウクライナ軍がヘルソンとハリコフで反撃に成功したことに起因する。ロシアのウクライナ戦役の責任者としてセルゲイ・スロヴィキン(Sergei Surovikin)将軍が任命されたことで、2022年10月、ウクライナ全土の民間のターゲットとインフラに対する懲罰的攻撃の新たな段階が始まった。数的優位性(numerical advantage)の観点から見ると、ある段階から別の段階へのターゲティングの移行は、数数的優位性(numerical advantage)の本質的な問題点、つまり長期的にそれを維持することの難しさを物語っている。ロシアは、コスト削減と大量攻撃(mass attacks)における資産の多様化のために、イランのシャヘド・ドローン(Shahed drones)を弾道ミサイルや巡航ミサイルと組み合わせて攻撃に導入した。この懲罰的措置は、ウクライナ国民の士気を低下させることと、多数のターゲットで防空網を圧倒することの両方を狙いとしていたが、西側の先進的な防空網の存在感が高まり、シャヘド・ドローン(Shahed drones)を破壊する解決策が見つかったことで、大量攻撃(mass attacks)の効果を減らすことができた。

このような状況の中、2年目のロシアの弾道ミサイルによる長距離大量攻撃(ballistic missile long-range mass attacks)は、2023年の夏から秋にかけて、より散発的で激しくない攻撃へと変化した。したがって、キーウが安全な避難所になったという以前の主張は、キーウへの攻撃強化によってすぐに否定された。従って、防空に関する次のような側面は依然として有効である。「適切なシステムが必要なだけでなく、防衛を維持するために十分な弾薬が必要なのだ。弾薬は無尽蔵にあるわけではなく、問題は十分な量があるのか、さらに補給があるのか、ということだ[23]

大量攻撃戦役(mass attack campaign)を持続させるためには、ロシアの数多くの備蓄では不十分であることが判明した。そこでロシアは、通常兵器の大量使用(use of conventional mass)という要求を維持するため、大量軍事生産産業(mass military production industry)に切り替えた。この点で、焦点は「新しい航行システム、素材、生存性を向上させるためのプロペラのよりステルス性の高い設計[24]を導入することの狙いとともに、弾道ミサイルの最先端分野(cutting-edge segment)と、航空攻撃の安価な分野であるイランのシャヘド・ドローン(Shahed drones)の近代化の両方に置かれる。

本格侵攻2年目の適応

本格的な侵攻の2年間、ロシアの戦術や航空戦力(air power)に対する数的アプローチ(numerical approach)の運用にはさまざまな変化があった。さまざまな場面で示されたように、相当量の弾薬が備蓄された備蓄庫はまだ枯渇していない。弾道ミサイルによる長距離大量攻撃戦役(long-range mass attack campaign)、無差別爆撃、不十分な戦闘被害評価(BDA)は、軍事効果を達成するための火力の有効性を著しく損なう。ウクライナの軍事力に対して大きな数的優位性(numerical advantage)があるにもかかわらず、ロシアは、より集中的な、しかしそれほど長引かない攻撃のために、戦力と資産を集めることに重点を置き始めた。

戦争のコストと量的アプローチ(mass approach)は、既存のプラットフォーム用の弾薬の需要が高まり、より安価な装備の存在感が増すにつれて、ロシア軍に反映され始めた。それゆえ、ロシアの軍需産業は、より多く、より速く、より安価な兵器の需要を満たすために、フル稼働し始めた。それに伴い、ウクライナがさまざまなタイプのドローンを生産・活用することで非対称性の優位性を利用したことに学び、ロシアはドローンの多様化と大量生産(mass production)に力を入れ始めた。2024年の国防予算はGDPの6%に増加した[25]。一方、ウクライナとその西側パートナーも、ここ数日に発表されたように、ウクライナに合計約100万機のドローンを提供することの狙いとともに、闘いにおける数値的・無人的分野の強化を進めている[26]

この文脈において、より複雑なプラットフォームや兵器、そしてドローンのようなより安価な兵器についての議論において、中核となる有用性は、より先進的な技術をより安価で洗練度の低いツールや兵器に置き換えることからではなく、より短時間で必要な兵器を入手することから生まれる。なぜなら、高強度戦(high-intensity warfare)の要求は平時のルールや契約上の取り決めに準拠していないからである。一方、平時においては、バランスの取れたアプローチで軍隊を構成し、装備することが重要であり、必要な兵器を自給自足で生産することに重点を置くことが理想的である[27]

航空戦力(air power)の物理的要素の観点から、ロシアは固定翼機をより慎重かつ控えめに使用するようになった。空軍基地でも、さまざまな欺瞞や偽装が見られた。パイロットの訓練には時間がかかり、卒業後もウクライナ領空の紛争環境に対応するには程遠い。同様に、民間航空から転用され、軍事目的で再訓練を受けたパイロットも、戦闘機パイロットの運用経験にはほど遠い。

結論

全体として、航空ドメインでのロシアの闘い方(Russian way of fighting)は、ソ連の数的アプローチ(numerical approach)が維持され、ロシア軍改革の波の中で資材の近代化と組み合わされて、ほとんど変わっていないと結論づけることができる。陸地中心の考え方(land-centric thinking)と、航空戦力(air power)を陸軍の火力の延長としてコンセプト化すること、つまり長距離砲やロケット砲の資産とすることは、ロシアの考え方と航空戦力(air power)の運用において依然として一般的であった。ウクライナでの戦争は、実際の各軍種の空陸統合(一体化)(air–land integration)が逆説的に貧弱であることを示しており、シリアにおける特殊作戦部隊(SOF)と航空能力の統合(一体化)とは大きく対照的であった。もう1つの永続的な傾向は、航空優勢を得る代わりに火力優勢を重視することであった。空対空戦闘で対等な相手(peer)に追いつけなかったロシアは、長距離地対空ミサイル・システム(S-400)、接近阻止/領域拒否(A2/AD)環境、弾道・巡航ミサイル・システム(イスカンデル:Iskander、カリブル:Kalibr)(長距離精密攻撃)に注力した。ロシアにおける過去20年間の改革は、その最先端の本質(cutting-edge nature)を向上させるために装備品に重点を置く一方で、基本的な部分(兵站、人員、技能、訓練)を節約していることを物語っている。数的優越(numerical superiority)は即座に結果をもたらすかもしれないが、長期的にはどうなるのか?

ウクライナでの経験は、数的アプローチ(numerical approach)に関するさまざまな問題や、さまざまな種類のドローンのような安価な機材に基づいて臨界量(critical mass)を構築する必要性を示している。闘いにドローンを統合(一体化)する際のウクライナのさまざまな発展や革新は、ここ数カ月でロシアによって学ばれ、そして模倣された。

ノート

[1] David Alman and Heather Venable: ‘Bending The Principle Of Mass: Why That Approach No Longer Works For Airpower,’ War on the Rocks (accessed 3 March 2023). Available online: https://warontherocks.com/2020/09/bending-the-principle-of-mass-why-that-approach-no-longer-works-for-airpower/.

[2] David Deptula and Heather Penney: Building An Agile Force: The Imperative for Speed and Adaptation in the U.S. Aerospace Industrial Base (Arlington: The Mitchell Institute for Aerospace Studies, 2021). https://mitchellaerospacepower.org/wp-content/uploads/2021/05/a2dd91_62a66638a0924d379990d859b3001242.pdf.

[3] Viktoriya Fedorchak: ‘The mass Approach in the Air War Over Ukraine: Towards Identifying a Critical Mass,’ Handlingar Och Tidskrift, no. 1 (2023):110−126.

[4] Viktoriya Fedorchak: The Russia-Ukraine War: Towards Resilient Fighting Power (London: Routledge, 2024), p. 210.

[5] Viktoriya Fedorchak: Understanding Contemporary Air Power (London: Routledge, 2020), pp. 147-165.

[6] Ibid.

[7] Alman and Venable: ‘Bending the Principle of Mass.’

[8] N. Augustine: ‘Augustine’s Laws and Major System Development Programs’, Defence Acquisition Research

Journal, 22, no. 1 (2015), 2.

[9] Deptula and Penney: ‘Building An Agile Force’.

[10] Ibid., p. 19.

[11] Fedorchak: The Russia-Ukraine War, p. 18.

[12] Fedorchak: ‘The mass Approach’, pp. 110−126.

[13] Flight International, ‘World Air Forces 2021’, https://www.flightglobal.com/download?ac=75345.

[14] Justin Bronk: ‘Is the Russian Air Force Actually Incapable of Complex Air Operations?’, Defence Systems, 2022-03-04, https://rusi.org/explore-our-research/publications/rusi-defence-systems/russian-air-force-actually-incapable-complex-air-operations.

[15] Fedorchak: The Russia-Ukraine War, pp. 100−120.

[16] Anton Lavrov: ‘The Russian Air Campaign in Syria: A Preliminary Analysis’, CNA, 2018. Available online: https://www.cna.org/reports/2018/06/russian-air-campaign-in-syria.

[17] Slavoj Žižek: ‘Death or Glory in Russia,’ Project Syndicate, 1 February 2023. Available online: https://www.project-syndicate.org/commentary/russian-orthodox-christianity-and-the-roots-of-ideological-madness-by-slavoj-zizek-2023-02.

[18] Fedorchak: ‘The mass Approach’.

[19] Andrew Roth: ‘Russia appoints notorious general to lead Ukraine offensive,’ The Guardian, 8 October 2022, available online: https://www.theguardian.com/world/2022/oct/08/russia-appoints-notorious-general-sergei-surovikin-ukraine.

[20] Justin Bronk, Nick Reynolds and Jack Watling: The Russian Air War and Ukrainian Requirements for Air Defence (London: RUSI, 2022), p. 8.

[21] Justin Bronk, Nick Reynolds and Jack Watling: The Russian Air War and Ukrainian Requirements for Air Defence (London: RUSI, 2022), p. 8.

[22] Rafael Franco: ‘Russian Air Force’s Performance in Ukraine: Air Operations: The Fall of a Myth,’ JAPCC Journal, 35 (2023), p. 50.

[23] Henrik Samuelsson: ‘Starkt luftvärn ger Kiev-borna trygghet’ Göteborgs Posten, 25 November 2023, available online: https://www.gp.se/nyheter/varlden/starkt-luftvarn-ger-kiev-borna-trygghet.e7ac6d0b-97be-5bf9-9493-230da269154a.

[24] Sam Cranny-Evans: ‘Russia’s defence industry gears up for a long war’ European Defence Review, 9 January 2024, available online https://www.edrmagazine.eu/russias-defence-industry-gears-up-for-a-long-war.

[25] Russia Plans Huge Defense Spending Hike in 2024 as War Drags, Bloomberg news, 22 September 2023, https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-09-22/russia-plans-huge-defense-spending-hike-in-2024-as-war-drags-on.

[26] Ukraine Business News, ‘One million drones and increased supply of shells: the results of the 19th Ram- stein.’ 16 February 2024, available online: https://ubn.news/one-million-drones-and-increased-supply-of-shells-the-results-of-the-19th-ramstein/.

[27] Fedorchak: ‘The mass Approach’, pp. 119–120.