欧州における航空宇宙及び防衛製造業と空の旅に関するCOVID-19の情勢と衝撃
掲載:2020年3月30日
作成:フォーキャストインターナショナル(FI)社
投稿:J. Kasper Oestergaard FI社アナリスト
(この論評は米国人のアナリストが米国内に向けて出したブログです)
COVID-19 Status and Impact on Aerospace and Defense Manufacturing and Air Travel
in Europe March 30, 2020
by J. Kasper Oestergaard European Correspondent, Forecast International.
イメージ:エアバス社
コロナウイルスCOVID-19は、ヨーロッパの航空宇宙および防衛産業に大きな打撃を与えており、航空旅行の需要に大きな損害を与えている。エアバス社は最近、フランスとスペインの生産拠点を再開したが、2020年の財務及び生産量の指針を撤回し、リクイディティ(注:会計における資産の流動性)を高めることを余儀なくされた。
COVID-19の感染者が米国で急増している現在、ここ1か月以上にわたって、深刻な影響と各種制限がヨーロッパの日常生活の一部となっている。
コロナウイルスは、最初の中国人来訪者がこの病気にかかっていたことが確認された1月下旬にすでにヨーロッパの地にもたらされていた。
3月28日土曜日現在、イタリアとスペインが最も大きな影響を受けており、COVID-19感染者と報告されたヨーロッパの367,473人の内の45%とヨーロッパ大陸の21,791人の死亡者の75%を占めている。
イタリアだけでも、先週の死者数は1万人を超えた。ドイツでは感染者57,695人でヨーロッパの全感染者の16%だが、死者はわずか433人、つまり2%で、これは確かに際立った数である。世界中で、ヨーロッパはCOVID-19の全感染者の56%、死亡者の71%を占めている。
コロナウイルスは、ヨーロッパでの空の旅、航空宇宙及び防衛製造業に大打撃をもたらし続けている。航空会社は全てのフライトを一時停止するか、フライトスケジュールを60〜95%削減した。
主要な航空宇宙及び防衛製造業は、いくつかの例外を除いて、ある程度の生産を維持している。
多くの企業は、業務上緊急と見なされない限り、ゲストを受け入れたり、顧客やサプライヤー、その他の利害関係者を実際に訪問したりしていないため、出張はほぼ取りやめている。
ホワイトカラーの従業員は可能な限りオフィスから離れて勤務しており、テレビ会議は此までの実際に集まる会議に取って代わった。
企業は、それぞれの市場で適切な行動を取っていることを確認するため世界保健機関(WHO)及び中央政府からのガイドラインをモニターしていると報告している。
防衛ビジネスの重要な性質を考えると、多くの企業は、国家安全保障を保護する政府や軍隊および治安機関のメンバーを助けるために多くの必要とされる能力を提供するためにできるだけ通常の運営を継続する必要がある。
下の図に示すように、COVID-19の感染者が最も多く報告されているヨーロッパの5か国には、主要な航空宇宙産業があり、ヨーロッパ最大の航空宇宙企業であるエアバスは、フランス、ドイツ、スペイン、イギリスで主要な製造事業を行っており、比較的規模は小さいがイタリアも同様である。報告されたCOVID-19感染者別の上位国:イタリアとスペインが最も影響を受け、ドイツは少数である。
Source: Forecast International chart based on data from Worldometer.
COVID-19がヨーロッパにおける航空宇宙製造業、航空旅行、その他の事業活動に与える影響–最重要点:
- 殆どの企業はある程度の生産を維持しているが、ソーシャル・デイスタンス等の予防策を講じており、ホワイトカラーの従業員は、可能な場合に自宅勤務となっている。
- ファーンボロー国際航空ショー2020は中止となった。
- 業界全体で各企業は、バランスシートを強化し、リクイディティにてこ入れしている。
- 3月13日現在、米国からヨーロッパへの人員・機材の移動は全て停止。NATO演習ディフェンダー・ヨーロッパ2020の規模と参加範囲を変更。
- エアバス社は、2020年の指針を撤回し、バランスシートを新たな150億ユーロ(160億ドル)の信用枠で強化し、2019年の配当を取りやめた。エアバスは、3月23日に再開したフランスとスペインの施設を、最近4日間閉鎖した。
- 英国の防衛大手BAE システムズ社のCEOは、世界中のリーダーシップチームが、顧客やサプライヤーと協力して事業運営への影響を最小限に抑えながら、従業員とその家族の健康と福祉を守るために必要な行動に注力していると発表した。
- ロールス・ロイス社は、3月27日から1週間、英国の民間用航空宇宙事業の施設内の必須の活動を除くすべての活動を大幅に削減する計画である。
- イタリア国防産業大手のレオナルド社は、生産現場内の特定の部門の一時的、部分的、対象を絞った運用の停止を排除することはできないと述べている。同社によると、従業員の70%以上がイタリアの拠点に勤務している。
- ヨーロッパ最大の造船業者であるフィンカンティエリは、4月3日まで生産停止を延長した。-生産停止は、3月中旬から実施されていた。
- イタリアのカ-メリにあるF-35最終組立てチェックアウト(FACO)施設は、予防的な洗浄を可能にするために2日間の一時的な操業停止の後、3月18日に再開された。
- EUは、EU以外の市民の不要な旅行を30日間停止した。禁止令は3月17日に発表され、直ちに発効した。
- ヨーロッパの政府の多くは、旅客とフライトに制限を課した。ハイリスク地域への出入りのフライトをすべて禁止している国もあれば、外国人に対して国境を完全に封鎖している国もある。
- 本国への帰還/帰国者便は多数実施されており、ヨーロッパ諸国が世界中から市民を帰国させるなど、さらに多くの計画が立てられている。
- 一部の航空会社は一時的に全便を運休しているが、大半の航空会社はキャパシティを60〜95%削減している。
例えば、ヨーロッパ最大の航空会社である格安航空会社のライアンエアーは、6月まですべてのフライトを一時停止した。ブリティッシュ・エアウェイズのオーナーであるIAG(注:インターナショナル・エアラインズ・グループ)は、4月と5月に乗客数を少なくとも75%削減する予定。ルフトハンザ貨物は、通常の運行を続けているが、ルフトハンザは763機のうち700機を地上待機にした。 - 資金不足の航空会社は、キャンセル時の現金の払い戻しや代わりにバウチャーを発行を必要とするEU規則を一時停止できることを望んでいます。
- 旅客数でヨーロッパ最大のロンドンのヒースロー空港は、空港全体に600を超える手指消毒剤ディスペンサーを設置し、一部の配布済みの持ち帰り用の食品や医薬品を除いて、すべてのショップとレストランが閉鎖するなど、多くの新しい対策を実施している。
さらに、カードによる支払いのみで可能で、クリーニングの手順と頻度が強化されている。
COVID-19との戦いを支援する医薬品を運ぶ貨物便を空港では優先するため、ヒースロー空港での毎週の貨物輸送は53%急増すると予想される。
エアバス特別報道
3月23日、エアバス社のCEOであるギヨーム・フォーリィ氏は、COVID-19に起因する同社の2020年の財務指針およびデリバリーの予測の撤回を発表した。
エアバス社は、引き続き生産フローを評価し、財務の安定性と受注残管理、および顧客のサポート、そして長引く危機においても事業継続性を確保することに重点を置いている。
4日間の休止の後、エアバスは3月23日にフランスとスペインで生産と組立作業を部分的に再開した。
ドイツとイギリスでの生産は、通常のレートで継続するが、ブレーメン、フィルトン、ブロートンの翼工場での生産は、ブロートンとフィルトンでのイースター休暇の延長とブレーメンでのワーキングウィークの減少によって削減されるものとなる。
現場はイースター期間中もオープンのままである。彼らの活動が生産に直接関係しない場合、エアバス社の従業員は職場から離れて仕事をする事になる。
エアバス社は、WHOと地元の保健当局のガイドラインに従っており、従業員、顧客、訪問者への職場の安全と旅行の推奨事項を更新した。
規則は、衛生、ソーシャルインタラクションとディスタンス、疾病報告、エアバスの現場との往復に関する日常の行動に履行されている。
同社は出張を業務上緊要な活動に制限しており、リスクの高い地域への出張はすべて中止された。
リスクの高い地域からエアバスを訪問する場合も同様で、そのような地域から戻ってきた従業員は2週間自己隔離しなければならない。
経営陣は取締役会から、同社の既存の30億ユーロ(33億ドル)のリボルビング信用枠に加えて150億ユーロ(167億ドル)の新しい信用枠を確保する承認を得た。
エアバス社はまた、約14億ユーロ(16億ドル)を維持する手段として、計画された2019年の配当を撤回した。
これらのアクションにより、エアバス社は、COVID-19の状況の結果として、追加の資金要件に対処するために利用できるかなりの流動性があると考えている。
エアバス社が利用できるリクイディティは、約300億ユーロ(335億ドル)に上る。
さらなる視点
COVID-19がヨーロッパおよびその他の世界の将来の航空業界にどのように影響するかについて詳細な結論を出すのは時期尚早だが、航空旅行、航空宇宙及び防衛製造業に強力なリスク要因が浮上している事は合理的な主張である。
国境を越えた感染症の大流行は前例のないものではないが、最近の歴史では影響は地理的に集中していた。
2002-2004年のSARSの大流行は、主に東南アジアに大きな影響を及ぼし、2013-2016年のエボラ出血熱の大流行は主に西アフリカの3か国で大発生した。COVID-19は、感染症を封じ込めるために講じられた措置のために、感染症が世界の経済活動にかなり迅速に大きな被害を及ぼす可能性があることを証明した。
航空宇宙および防衛産業全般、特に航空輸送業界は、リスク管理に対するアプローチを完全に変更する必要はないかもしれないが、企業は確かにモデルを見直し修正する必要があるだろう。
パンデミックがいつヨーロッパ大陸での支配を和らげるかについては、それを伝えるのはまだ時期尚早だ。しかし、イタリアでは毎日の死亡者数が増加している一方で、毎日の新しい感染者は安定化しており、いくらかの希望はあるところだ。(黒豆芝)
参照
https://www.worldometers.info/coronavirus/
https://www.rrpowersystems.com/corona/
https://www.baesystems.com/en/article/coronavirus-update
https://www.heathrow.com/latest-news/an-open-letter-from-our-chief-commercial-officer
https://unric.org/en/covid-19-european-union-suspends-non-essential-travel-for-non-eu-citizens/