ギリシャは軍事力のアップグレードにコミット
掲載:2020年9月15日
作成:フォーキャストインターナショナル(FI)社
投稿:Daniel Darling FI社アナリスト
(この論評は米国人のアナリストが米国内に向けて出したブログです)
Greece Commits to Upgrading its Military Capabilities
September 15, 2020 – by Daniel Darling
エーゲ海と地中海で隣接するトルコとますます対立する状況に直面して、ギリシャは、国の債務危機が軍の近代化を延期してから10年の後、ギリシャ軍の能力向上に着手している。
9月12日にキリアコス・ミツタキス首相が発表した最新の能力向上イニシアチブの下で、ギリシャ軍の全ての3軍の主要な部門は、近代化調達等を通じて増強される予定である。
ミツタキス首相の発表の最も重要なものは、ギリシャ空軍向けのフランス製の18機のラファール戦闘機の調達計画である。調達に伴い、空軍のミラージュ2000型ジェット戦闘機10機がより高度な2000-5スタンダードにアップグレードされる予定である。これにより、2004年にアップグレードされた以前の10ユニットと2000年にオーダーされた15のミラージュ2000-5型標準ユニットと併せてギリシャ空軍は合計35機のミラージュ2000-5型となる。
ミラージュ2000-5型飛行部隊のメンテナンスのための2億6,000万ユーロの契約は、さる2019年12月にフランスの企業であるダッソーアビエーション、サフランミリタリーエンジンズ及びタレスとすでに契約された。
一方、ラファーエルは、去る1985年に購入された旧式の非近代化ミラージュ2000の代わりとして就役する。
ギリシャが購入するラファーエルは、6機の新造モデルと12機の中古ユニット(2012年から2018年の間にフランス空軍に納入されたF3-O4T型)を含んでいる様であり、後者は全体的なコストの一部を賄うことを目的としている。
ギリシャ海軍もまた、新しい近代化の取り組みから恩恵を受けることとなる。
ますます能力向上し拡大するトルコ海軍によって顕在化した問題への対応を任務とする海軍は、ドイツのティッセンクルップ・マリンシステムズ(TKMS)からのMEKO 200型フリゲートの様な4隻の新しいマルチロールフリゲートの調達を含むプログラムを開始する予定である。
さらに、ギリシャは、1990年代に調達した4隻のMEKO 200HNフリゲートからなるギリシャ海軍の既存の艦隊のアップグレードを行う予定である。
2009年から2010年にかけて勃発した国の公的債務危機の前に、ギリシャは4隻から6隻の新しいマルチミッションフリゲート(4隻の新しい船の確定注文と2隻の追加の船のオプション)の要求事業の概要を示していた。
求められているフリゲート–表面的には海軍グループのFREMM[1](注:Fregata Europea Multi Missione)設計–は、1970年代後半から1980年代初頭に就役したギリシャ海軍のエリ級のフリゲートの代替として予定されていた。
しかし、公的債務危機の間にギリシャが被った経済的および財政的悪影響により、フランスの造船プライム海軍グループからマルチミッションベルハラ級フリゲート艦の2隻の中型を購入することを目的とした2019年10月にフランスとの間での書簡(LOI)に署名した後、このターゲットを絞った買収は現実的ではなくなった。
ギリシャは、ドイツのMEKO 200設計を選択することにより、地上戦闘員の共通性を維持することに意欲を示している。
最後に、ギリシャ海軍は、新しいMEKO 200フリゲートで運用するために、ロッキードマーティンシコルスキーから4機のMH-60Rロミオ海軍マルチミッションヘリコプターを受領する事となっている。
火力正面では、ギリシャの陸軍用の新しい対戦車兵器、海軍用の新しい大型魚雷、空軍用の新しい誘導ミサイルなどを含むミサイル調達から、全ての3軍の部門が恩恵を得ることとなる。
首相によって9月12日に発表された軍の能力向上計画は、次世代F-35戦闘機に対するギリシャの関心の終わりを意味するのかどうかは不明である。
2019年4月、ギリシャ空軍の在庫で最も古いF-16C / Dの代替品として最大30機のロッキードマーティンF-35を調達する可能性があるとの報告が出た。
去る1月のホワイトハウスでのトランプ大統領への訪問中に、ミソタキス首相は此に対する関心を繰り返しており、その後すぐにニコス・パナジオトポロス国防相は30億ドルの費用で24機のF-35を取得する計画を発表した。
この調達は、ギリシャ空軍のF-16飛行部隊で進行中の85機の戦闘機の近代化と、F-16Vバイパー(ブロック70/72)型との対比となるだろう。
ただし、現在のところ、F-35の調達は、短期的ではあるがより経済的に実用的な機能のアップグレードのために、短期的に犠牲にされた長期的な目標のままである可能性がある。
防衛のための新しい投資パッケージの発表は、深刻な経済的及び財政的圧力が、少数の選択されたプラットフォームのアップグレード、米軍の余剰在庫からの中古装甲車の移送や米国政府間対外有償軍事援助(FMS)プログラムを通じて追加の10機のCH-47Dチヌーク重型輸送ヘリコプターを含む単一の「新規の」調達における、軍事力の強化を抑制した10年後の転機を迎えている事を示している。
ギリシャは、エーゲ海とキプロスの分割された島の間で紛争を共有するそのより武装した隣国であるトルコに対する戦略的抑止力を維持するために、防衛支出に高い優先度を長い間置いてきた。しかし、長年にわたる防衛能力の削減の結果(トルコ自身の急増する軍事支出と相まって)、かつてギリシャ軍にハイエンドの技術と力のレバレッジを提供し、トルコの人的戦力に対抗していたものが着実に損耗している。
長年にわたるギリシャ軍の近代化計画は2010年に事実上凍結されたが、2014年以降に出てきた例外はごくわずかであった。
新しい装備を進める代わりに、2006〜2014年の近代化の空白間に提供された資本化資金のほとんどはすでに費やされていた。つまり、その期間中に年間予算内で割り当てられたそのような資金は、論争の的となっているアルキメデスプログラム(ドイツからのタイプ214潜水艦の買収)やルセン(スーパーヴィータ)クラスの高速攻撃艇の買収などのレガシープロジェクトの完済に使用された。
新たな購入の代わりに、防衛アップグレードプログラムの10億ドルのリストが、国防調達および契約に関する議会委員会によって2014年7月30日に承認された。
これは、ギリシャ陸軍のM270多重発射ロケットシステム(MLRS)とギリシャ海軍の5機のP-3Bオリオン海上哨戒機のアップグレードの資金調達に役立った。
現在、COVID-19パンデミックのギリシャ経済への影響にもかかわらず、政府はギリシャ軍の強化に取り組むことを余儀なくされている。
計画された資材調達のリストには、今後5年間で兵役部隊の数を15,000人増強する計画も含まれている。
これらすべてにより、ギリシャの軍事能力が向上し、地元の防衛産業が活性化するはずだ。
トルコとの緊張がキプロスを含む競合する経済的排他的ゾーン(EEZ)の主張と長年の紛争の中で高まり続けているため、ギリシャは軍を強化する以外に選択肢はほとんどない。政府による最新の発表は、そのプロセスの始まりを示している。(黒豆柴)
[1] FREMM計画とは、フランスとイタリアが共同で行う汎用フリゲートの開発計画である。