会戦ネットワークと将来の部隊 第2部

2021年11月11日紹介した戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies)のJoint All-Domain Command and Control(JADC2)についての課題と提言事項を述べている戦略国際問題研究所報告(CSIS Briefs)「Battle Networks and the Future Force」の2021年11月2日付の第2部「Part 2: Operational Challenges and Acquisition Opportunities」を紹介する。

第1部の「A Framework for Debate」では、複雑化することが前提の統合レベルの会戦ネットワークを構築するにあたって、構成する要素を明らかにしたものであった。第2部では、米国防総省がこれまでに取り組んできた各種のシステムでの教訓を明らかにしたうえで、JADC2を所掌する組織・権限のあり方、これまでのこの種のネットワーク・システムの取組みに無用に引きずれれないBattle Networkに好ましいアーキテクチャの決定、商用レベルのサービスの積極的な活用などの提言している。

第1部でも触れられているが、米軍の各軍種はまだ確定はされていないが、構想段階の統合用兵コンセプト(joint warfighting concepts)や暫定的な統合作戦コンセプトに基づいて、これまで新たな関係する軍種と協力しながら実証と実験を繰り返している。この論稿で取り上げられてる課題や解決の方向性は、多分にそれらの実証と実験から導き出されたものもあるのであろう。

11月9日投稿の「米国防総省における統合作戦コンセプト開発の改善」でも触れられているように統合レベルの取組みには大きな障害が伴うものである。JADC2の実現もその大きな壁を打ち破ることが必要なのだと考えるところである。

安全保障環境の変化を踏まえた新たな国家安全保障戦略や防衛計画の大綱などの検討が始まると報じられているところである。現場レベルでの実効性までを考えると、ドメインを横断して戦力を発揮することが求められる中において、いわゆる用兵コンセプト、作戦ドクトリンを単に机上での議論に終わったり、それに基づく局地?最適な装備品ならないように、軍種を越えて行動できるよう統合レベルの実証や実験が望まれるのであろう。(軍治)

会戦ネットワークと将来の部隊 第2部:作戦・運用上の課題と取得機会

Battle Networks and the Future ForcePart 2: Operational Challenges and Acquisition Opportunities

 

November 2, 2021

CSIS Briefs

論点:The Issue

この戦略国際問題研究所(CSIS)の報告書は、会戦ネットワーク(battle networks)と統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の将来に関するシリーズの第 2 弾である。本稿では、会戦ネットワーク(battle networks)の相互運用性と復元力(resilience)を高めるために必要な、作戦上の利点と敵対者の脅威を検証している。この論文は、会戦ネットワーク(battle networks)の一体化を改善するための過去の試みから得られた教訓をもとに、米国防総省(DoD)が解決しようとしている問題を適切にスコープし、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)のビジョンを実現するために必要なシステムを効果的かつ効率的に取得するための組織をどのように構築するかを探っている。本論稿では、米国防総省(DoD)が(1) 統合プログラム執行室(JPEO)、国防次官(研究・工学)(USD/R&E)の下にある新しい独立した機関、または統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)のための主導的な戦闘軍(COCOM)の設立の可能性を含めて、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の組織的な役割と責任を明確に定義することを推奨する。(2)統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の範囲を会戦ネットワーク(battle networks)だけに絞ることを含む、トップ・レベルの主要なアーキテクチャの決心(decisions)をできるだけ早く行う。(3)典型的な作る/買う(make/buy)分析を拡大し、製品の代わりにサービスを購入するオプションや、商業的に所有・運営される可能性のあるシステムを含める。

会戦ネットワークの競争:Battle Network Competition

会戦ネットワーク(battle networks)、特に米国防総省(DoD)の統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)のビジョンは、最終的には指揮官のためのより良い選択肢を可能にし、意思決定(decisionmaking)のテンポを速め、戦場での効果を最適化することである。監視、照準、ダメージ評価などの情報をプラットフォーム間でシームレスに受け渡し、プラットフォームと部隊を、ドメインを超えて、同盟国やパートナーと接続することで、効果の精度、範囲、持続性、スピードが向上する。これらの改善は、プラットフォーム、センサー、通信経路、その他のノードが会戦ネットワーク(battle networks)に追加されるほど、非線形的に増加し、従来、戦力増強効果(force multiplier effect)と考えられていたものが、戦力拡大効果(force exponent effect)に変わる。最終的な目標は、敵対者よりも遠くをより明確に見て、より正確に、より速く行動することである。

以下の仮想シナリオは、本シリーズの最初の報告書で取り上げた各機能的要素(functional elements)のそれぞれを会戦ネットワーク(battle networks)がどのように利用して、センサーからシューターへのキル・チェーン(kill chain)(より適切には、センサーからシューターへのキル・ウェブ)を閉じるかを示すものである。最初のシナリオは、一体化された会戦ネットワークがもたらす戦況の優位性を示している。2つ目のシナリオは、会戦ネットワーク(battle networks)競争の裏側を示している。敵対者は、会戦ネットワーク(battle networks)を攻撃するためのすべての能力を持っているわけではないが(あるいは使用することに成功しているわけでもないが)、これらの攻撃は部分的にしか成功していなくても大きな影響を与える可能性がある。重要なのは、センサー・ツー・シューター・キル・ウェブを閉じる、または壊すためのプロセスの多くの段階は、作戦の展開に応じて並行して行われる可能性があり、また、一部のプロセスは時間がかかるが、将来の作戦に役立つ貴重な情報を得ることができる。

図1:将来の会戦ネットワーク作戦の例

図1は、敵対者がブースト・グライド極超音速ミサイルを米軍および同盟軍に向けて発射するという、将来の仮想的な交戦(hypothetical future engagement)を描いたものである。この交戦(engagement)は、将来の会戦ネットワーク(future battle networks)がどのように働くかを示すために、6つの重複する活動に分けられている。この例では、ミサイルの発射(1)は、静止軌道(GEO)にある宇宙配備赤外線(Space-Based Infrared:SBIRS)衛星と、その周辺にいるF-35に搭載された赤外線センサーによって検知される。宇宙配備赤外線(SBIRS)衛星とF-35がミサイルのプルームを追いかけて高度を上げていくと、このデータをもとに、さまざまな軌道上にある赤外線衛星や合成開口レーダー(SAR)衛星(一部は商業衛星の可能性あり)が脅威の特徴を把握し、ブースター段階の燃焼後も含めて、ミサイルの高品質な追跡調査を行う(2)。この追跡データと特性データは、様々な手段(無線(RF)やレーザーのリンク、軍事衛星や商業衛星との通信、宇宙ベースや空中の通信ノード間の通信など)を介して、その地域の乗員や遠隔地の乗員を乗せた航空機、海上や陸上の迎撃拠点に伝達される。

会戦ネットワーク(battle networks)は、連続したキル・チェーン(kill chain)ではなく、“分散した弾力性のあるキル・ウェブ(distributed and resilient kill web)”として振舞い(act)、どのプラットフォームが迎撃ミサイルを発射するのに最適な位置にあるかを運用者が判断するのに役立つ(3)。また、軌道データは、衝突しそうな場所を予測し、その地域の部隊に警告を与えるためにも使用される。迎撃とその他の部隊保護活動(force protection activities)が行われている間、合成開口レーダー(SAR)衛星、F-35、その他の射程距離にある航空機は、地上のミサイルランチャーの動きを追跡するために複合的な対応を開始する(4)。各指揮官は、このメッシュ状の戦場を見て、攻撃機、陸攻ミサイルを搭載した艦船や潜水艦、長距離射撃を行う地上部隊のどの組み合わせがミサイルランチャーを破壊するのに最適かを、その位置、使用可能な武器、目標までの飛行時間、これらの部隊が他の任務に必要かどうかなどを考慮して判断する(5)。これらの作業と並行して、人工知能と機械学習(AI/ML)アルゴリズムに助けられたアナリストたちが、宇宙や空中のプラットフォームからの何テラバイトものアーカイブされた監視データをふるいにかけ、ミサイルランチャーの位置をペイロードを発射した時点から逆算して追跡し始める(6)。

ミサイル発射装置を過去にさかのぼって追跡し、どこから来たのか、どのように運用したのかを明らかにすることで、今後の攻撃に的確に対応し、さらに重要なことには、将来の攻撃を事前に予測するための予測アルゴリズムを改良することができる。

図2は、この仮想的な交戦(hypothetical engagement)における会戦ネットワーク(battle networks)の競争の相手側からのものを描いたもので、敵対者が検知を遅らせたり防いだり、攻撃が成功する確率を高めるためにあらゆる攻撃を行う方法の一部を示している。ミサイルが発射される前であっても、敵対者はミサイル防衛のために使用される空中および宇宙ベースのセンサーを無効にしたり(disable)、質を低下させたり(degrade)することができる。例えば、レーザーで衛星の赤外線センサーの目をくらませたり(1)、陸上や空中の電子攻撃システムでレーダーや通信システムを妨害したり偽装したり(2)、軌道上の対衛星(anti-satellite:ASAT)兵器でミサイル警報や通信に使われる衛星を妨害したり、キネティック的に攻撃したり(3)することができる。また、サイバー攻撃は、指揮・統制施設、地上ネットワーク、衛星地上局をターゲットとし、これらのネットワークを破壊するために使用される可能性がある(4)。防御型の対空機や地対空ミサイルは、空中給油機、空中通信ノード、ドローン、攻撃機などを脅かし(5)、センサーからシューターまでのキル・チェーン(kill chain)をさらに劣化させ、混乱させる。

図2:将来の会戦ネットワーク作戦への対抗の例

これらの例が示すように、米軍部隊と同盟軍部隊は、敵対者の部隊(adversary forces)の作戦ネットワーク(operations networks)と会戦ネットワーク(battle networks)を破壊するために攻勢に出ると同時に、会戦ネットワーク(battle networks)を攻撃から守ることができなければならない。競合する会戦ネットワーク(battle networks)環境で作戦するのに最適なシステムとしては、ステルス性を備えたプラットフォームや、敵対者の防御範囲外(または上空)で効果的に作戦できるプラットフォーム、検知・傍受・破壊が困難な通信手段、分散・多様化されたセンサーや通信ノード(シリアル・データ・リンクではなくウェブやメッシュ・ネットワークなど)、プラットフォーム間で自動的にデータを集約・受け渡しするセンサー融合システム(sensor fusion systems)などが挙げられるだろう。最後の特徴は特に重要である。なぜならば、運用者はますます作業に追われるようになり、センサーの操作やデータの送信方法にはより高度な自動化が求められているからである。可能であれば、センサーの操作を自動化したり、ネットワーク内の他の人が遠隔操作したりすることで、プラットフォームの運用者の負担を軽減し、最優先のミッションに必要なデータを確実に届けることができる。

人工知能の役割:Role of Artificial Intelligence

このような会戦ネットワーク(battle networks)間の競争は、目新しいものではないが、現代戦(modern warfare)ではますます重要な構成要素となっており、その競争の大部分は、急速に進化した方法で機械同士が直接戦うことになる。近年、人工知能・機械学習(AI/ML)による戦闘能力の向上が注目されているが、こうした能力の向上を可能にするのは、“堅牢で復元性のある会戦ネットワーク(robust and resilient battle networks)”、特に会戦ネットワーク(battle networks)の通信要素(communications elements)とデータ処理要素(processing element)である。人工知能・機械学習(AI/ML)アルゴリズムは、大量のセンサー・データをタイムリーに入手し、意思決定者(decisionmakers)や運用者(operators)間でデータ製品や分析結果を伝達する能力に依存する。人工知能・機械学習(AI/ML)アルゴリズムを用いた“堅牢で復元性のある会戦ネットワーク(robust and resilient battle networks)”は、意思決定(decisionmaking)を迅速化し、プロセスを自動化することで、戦術・作戦レベルでのアルゴリズム戦(algorithmic warfare)を可能にする。平時の競争においても、これらの同じネットワークとアルゴリズムは、敵対者の発見回避を防ぐための指示(indications)や警告(warnings)を大幅に改善し、最終的に抑止力を高めることができる。

アルゴリズムを使用して指示(indications)や警告(warnings)を強化することは、病気の検出や拡散の追跡にアルゴリズムがすでに使用されている方法と類似している部分がある。例えば、BlueDotと呼ばれる人工知能(AI)システムは、多くの世界的な保健機関が気づく前の2019年12月に、Covid-19ウイルスの出現を検知することができた。このシステムは、公的な保健機関の声明、ソーシャル・メディア、家畜の健康報告書、航空券の発券データなど、さまざまなソースからデータを採掘する。BlueDotはこれらの情報をもとに、感染症の発生場所を特定し、どのように感染が拡大するかを予測する。2016年には、フロリダ州へのジカウイルスの感染が発生する6カ月前に予測し、同様の成功を収めた。しかし、このアルゴリズムの成功の鍵は、人間をループから外すことではない。むしろ、アルゴリズムを使って「干し草の中の針」を見つけ出し、それを専門家に提示して分析してもらうのである。

アルゴリズム戦(algorithmic warfare)の潜在的な利点は、米国だけのものではない。他の国も同じ手法や能力を使って、自軍の状況認識(situational awareness)や決心のスピードを高めることができる。これにより、アルゴリズムが重なり合い、競合する会戦ネットワーク(battle networks)を介して互いに戦う平時の競争が必然的に発生する。このアルゴリズム競争は、今日の金融市場で使用されている高頻度取引システムに似ている部分がある。これらのシステムでは、経済分析や企業の財務報告から、ソーシャル・メディアやニュース・フィードに至るまで、大量のデータをアルゴリズムでリアル・タイムに処理する。取引アルゴリズム(Trading algorithms)は、これらの情報をもとに数分の一秒単位で意思決定を行い(make decisions)、複数の市場で同時に他の投資家と競争する。場合によっては、ある取引会社のアルゴリズムが他の取引会社のアルゴリズムと戦うことで、株価が短期間で大きく上下することもある。

競合するアルゴリズムに関わる力学に対応できていないと、どのような結果になるかを示す代表的な例として、2010年5月6日に発生した「フラッシュ・クラッシュ(flash crash)」がある。この日の午後、ダウ平均株価は5分足らずの間に史上最速で9%以上も急落した。これを受けて、他の証券取引所も急落した。しかし、取引が続くうちに、ダウは15分以内に元の水準近くまで回復した。一瞬の暴落を引き起こした要因はまだ議論されているが、この日観察されたダイナミクスは、市場で働く競合するアルゴリズムがお互いに、そして人間のトレーダーに反応した結果であった。

軍事のドメインでは、会戦ネットワーク(battle networks)の競争は、作戦コンセプトの開発やアルゴリズム、意思決定(decisionmaking)プロセスのテストの際に考慮すべき、さらなる結果をもたらす可能性がある。例えば、危機的な状況下で相手のインテリジェンス・監視・偵察(ISR)の機能を停止させたり(blinding)、自軍の指揮・統制リンクを切断したりすると、敵対者の部隊(adversary forces)が正確な情報を持たずに行動を開始した場合、誤算やエスカレーションの可能性が高まる。さらに、適切な状況認識がなければ、相手(opponent)はデエスカレーション(de-escalation)の兆候を検知できなかったり、良性の防御的行動を攻撃的・エスカレーション的行動と混同したりする可能性がある。

作戦上の課題:Operational Challenges

会戦ネットワーク(battle networks)がより多くの能力を包含するようになると、その複雑さ、有効性、脆弱性も増大する。将来の会戦ネットワーク(battle networks)をデザインする際には、敵対者の脅威、干渉や攻撃に対するネットワークの復元力(resilience)、軍の各軍種間や同盟国・パートナーとのネットワークの相互運用性など、いくつかの運用上の要素を考慮する必要がある。

脅威:THREATS

クリス・ブローゼ(Chris Brose)は、著書『Kill Chain: Defending America in the Future of High-Tech Warfare』の中で、敵対者が会戦ネットワーク(battle networks)の脆弱性を利用していかに壊滅的な優位性を獲得しているかを克明に説明している。2014年のクリミア占領では、ロシアの「リトル・グリーン・メン(Little Green Men)」が電子攻撃によってウクライナの無人機の制御リンクを妨害したり、爆弾の信管が正しく作動しないようにしたり、ウクライナ軍が無線を使って通信するたびにターゲットにしたことを紹介している。ある事件では、ロシア軍が探していたあるウクライナ軍指揮官の母親に電話をかけ、彼が重傷を負ったことを伝えた。その母親が息子の携帯電話に電話をかけると、ロシア軍はすぐにその信号を察知して息子の居場所を突き止め、ロケット砲で殺してしまった。

会戦ネットワーク(battle networks)は作戦上の利点が多いため、攻撃の対象になりやすい。例えば、ロシアと中国は、宇宙に依存する、あるいは宇宙を経由する米国および同盟国の会戦ネットワーク(battle networks)を破壊することをデザインしたキネティックおよびノン・キネティックの対衛星(ASAT)兵器群の構築と試験を大幅に進めてきた。これらの対衛星(ASAT)兵器の多くは、衛星通信(satellite communications:SATCOM)や全地球測位システム(Global Positioning System:GPS)の信号を妨害または偽装するなど、可逆的な効果を持つようにデザインされており、検知が困難であったり、公的に否定できる可能性がある。会戦ネットワーク(battle networks)に対する攻撃のうち、タイムリーに属性を特定するのが難しく、意図が曖昧なものは、グレー・ゾーン活動(gray zone activities)に最適である。米国や同盟国の指示(indications)や警告(warnings)を混乱させたり、低レベルの攻撃や悪意のある活動を隠したりするために使用することができる。このような状況では、最良の防御は必ずしも最良の攻撃ではない。むしろ、会戦ネットワーク(battle networks)の復元力(resilience)があれば、上級指導者の選択肢が増え、判断の幅が広がる。

復元性:RESILIENCE

復元力(resilience)には、ネットワークが障害に対応し、障害から迅速に回復できるようにするための、さまざまな形のリスク回避、管理、および緩和が含まれる。復元力(resilience)とは、平時・戦時を問わず、障害や攻撃が発生することを想定したものであり、システムはこの現実に対応してデザインされなければならない。復元力(resilience)を高めるには、敵対者が検知、傍受、破壊するのが難しいレーザー通信(lasercom)や高周波(RF)通信を使用するなど、パッシブな防御を強化する必要がある。同様に、ターゲットを識別・追跡する複数のセンサーや、その情報を中継する複数の通信経路など、ネットワーク内のノードや経路を冗長化することで、耐障害性と性能の両方が向上する。分散と多様化は、ネットワーク内の単一ポイントの脆弱性を制限し、敵対者が成功するために攻撃しなければならないターゲット(およびドメイン)の数を大幅に増やすことで、復元力(resilience)を向上させる。また、会戦ネットワーク(battle networks)を構成するシステムに、より攻勢防御(active defenses)を組み込むことでも、復元力(resilience)を高めることができる。例えば、前方センサーとして行動する航空機は、空対空ミサイルや電子攻撃システムで武装し、自分自身や会戦ネットワーク(battle networks)内で作戦する他の航空機を守ることができる。

会戦ネットワーク(battle networks)を復元性があり(resilient)、より能力を高める方法の一つとして、複数のドメインと軌道に分散したセンサーを赤外線、光学、レーダーなどの多様な方法で情報収集して連携させることが挙げらる。分散と多様化は、既存の資産を1つのミッションに集中させるのではなく、複数の役割や任務に同時に使用することで実現できる。例えば、主に攻撃や対空任務を意図した航空機が、重要なインテリジェンス・監視・偵察(ISR)能力を備えている場合がある。高度40,000フィートからの空中プラットフォームは、地球の曲率によって制限さるが、地表では約240マイルの距離を見ることができる。ターゲットとなるミサイルや航空機が地平線上に浮上すると、航空機が探知できる距離はさらに長くなり、最終的にはセンサーの解像度によって制限さる。例えば、F-35に使用されている赤外線センサーは、800マイル以上離れた場所でロケットの発射を検知し、追跡することができた。

また、攻撃を受けた際に能力を猶予的に低下させることも復元力(resilience)の重要な要素である。会戦ネットワーク(battle networks)では、メッシュ構造を採用し、必要に応じて動的に小さなサブネットワークに分割し、機会があれば自動的に代替ネットワークに接続するようにシステムをデザインする。人工知能・機械学習(AI/ML)システムは、人間が見逃してしまうような異常やネットワーク攻撃を検知し、必要に応じてネットワークを再構成することができる。代替ネットワークには、追加のサージ容量や、質が低下した能力を補強するための商用システムが含まれる。

緩やかに劣化するシステムの例として、GPS衛星群(constellation of satellites)がある。世界規模の継続的な覆域(coverage)を提供するためには24機の衛星が必要であるが、宇宙軍は一群(constellation)内に通常30〜32機の衛星を運用している。一部の衛星に障害が発生しても、一群(constellation)内の「余分な」衛星がユーザーへの影響を最小限に抑えてくる。また、一群(constellation)が24機以下になった場合、衛星の軌道を変更することで、優先順位の高い地域を継続的な覆域(coverage)を確実にし、直接的な覆域(coverage)のギャップは優先順位の低い時間帯や場所に誘導することができる。さらに、欧州のガリレオ、ロシアのグロナス、日本の準天頂衛星など、他の宇宙ベースのナビゲーションシステムを利用できるGPS受信機は、GPS群(constellation)全体が故障しても、支障なく動作し続けることができる。現在販売されている市販のGPSチップ(携帯電話などに搭載されているもの)の多くは、複数の一群(constellation)を使用しており、GPSだけに依存しているわけではない。

相互運用性:INTEROPERABILITY

プラットフォーム、各ドメイン、軍の各軍種、同盟国を超えてデータを共有する能力は、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)のコンセプトの基本である。このダイナミックな相互運用性を実現するためには、データ標準、通信プロトコルと波形、マルチレベルのセキュリティ標準、そしておそらく最も重要なことは、リアル・タイムでのデータ共有とアクセスを可能にする同盟国やパートナーとの政策的合意など、複数のレベルでの調整が必要である。相互運用性は二元的なものではない。システムやネットワーク間の相互運用性には度合いがあり、適切なレベルの相互運用性は、提供される利点とかかるコストによって決まる。

ヒックス(Hicks)国防副長官が2021年5月に発表したメモには、米国防総省(DoD)のデータ共有能力を向上させ、より自動化されプラットフォームに依存しないデータ・インターフェイスを構築することを狙いとした5つの「国防総省データ政令」の概要が記されている。この政策メモは会戦ネットワーク(battle networks)よりも広い範囲を対象としているが、特に統合全ドメイン作戦(Joint All Domain Operations:JADO)への適用を挙げている。米国防総省(DoD)の最高データ責任者(chief data officer)には、これらの政令を実施するための方針とガイダンスを発行し、統合参謀と協力して、「戦場や実世界での作戦、シミュレーション、実験(experiments)、実証(demonstrations)で証明された既存の能力を拡大する」ことを求めている。

データ中心 ネット中心:Data-Centric versus Net-Centric

先行する取組み:PRIOR EFFORTS

データの共有と相互運用性を会戦ネットワーク(battle networks)に適用するという現在のコンセプトは、20年以上前の“ネットワーク中心の戦い(network-centric warfare)”のコンセプトを彷彿とさせる。この2つのイニシアティブは同じではないが(現在の取組みは、ネットワークの接続よりもデータの共有に重点が置かれているようである)、最終的な狙いには多くの類似点がある。2001年の「4年ごとの国防見直し」(Quadrennial Defense Review: QDR)では、「新しい情報通信技術は、高度に分散した統合・諸兵種連合部隊(highly distributed joint and combined forces)をネットワーク化し、そのような部隊が過去よりも優れた状況認識(situational awareness)(味方の部隊についても、敵対者の部隊についても)を持つことができるようにするために有望である」と述べられている。4年ごとの国防見直し(QDR)は、統合ビジョン2020(Joint Vision 2020)と、その中の“ネットワーク中心の戦い(network-centric warfare)”というコンセプトに基づいている。統合ビジョン2020(Joint Vision 2020)は、データをより簡単に利用できるようにすることで、「非対称の情報優位性」を達成する方法であると説明している。“ネットワーク中心の戦い(network-centric warfare)”を支えているのは、“グローバル情報グリッド(GIG)”であり、戦略、作戦、戦術、業務のすべてのミッションにおいて、政府が所有するソフトウェアやリースされたハードウェアを含む米国防総省(DoD)の情報技術インフラ全体を対象としていた。

約20年前、このビジョンを実現するために、米国防総省(DoD)は組織を再編成し、新たな政策や要件を発表し、すでに進行中の多くの取得プログラム(acquisition programs)を方向転換した。例えば、2003年5月、ラムズフェルド国防長官は、指揮・統制・通信・情報(command, control, communications, and intelligence:C3I)担当の国防次官補(ASD)を、国防次官補(network and information integration:NII)担当の国防次官補(ASD)に再指定した。その後、“国防次官補/国防次官補(ASD/NII)”はいくつかの方針を打ち出し、例えば、米国防総省(DoD)のすべての無線機取得プログラムに対して、ソフトウェア通信アーキテクチャ(SCA)の標準規格を遵守し、システム間で移植可能な波形を持つソフトウェア・プログラマブルな無線機のみを構築するよう指示した。さらに統合参謀は、すべての取得カテゴリー(acquisition category:ACAT)レベルのプログラムで要件を平準化するために、一連のNR-KPP(Net-Ready Key Performance Parameters)を発行した。

教訓:LESSONS LEARNED

2000年代初頭、米国防総省(DoD)は統合軍全体でのデータ共有と相互運用性の向上に向けた取組みを開始したが、2020年になっても「統合ビジョン2020(Joint Vision 2020)」の目標は達成されなかった。遅々として進まない状況には様々な要因があるが、いくつかの教訓は現在の取組みに貴重な示唆を与えるものである。

過度に野心的な取得プログラム:Overly ambitious acquisition programs

米陸軍の“将来戦闘システム(Future Combat System:FCS)”、米空軍の“変革をもたらす衛星通信(TSAT)”、米海軍のDDG-1000駆逐艦、統合戦術無線システム(JTRS)など、新しいネットを中心とした作戦方法(net-centric way of operating)を実現するための主要な取得プログラム(acquisition programs)の多くは、一世代前の技術を飛び越えて「飛躍」しようとした。これらのプログラムは、実績のある商業技術(commercial technology)の進歩を利用したり、プログラムの目標を縮小するのではなく、未熟なキーテクノロジーを使って進めようとすることが多々あった。これらのプログラムはいずれも最終的に中止または縮小され、“ネットワーク中心の戦い(network-centric warfare)”に投入された多くの努力と資金が無駄になった。

権限を持たずに責任を負わせること:Assigning responsibility without authority

“国防次官補/国防次官補(ASD/NII)”は、米国防長官室(OSD)の中で、ネット中心の変革のための中心的な役割を果たすことを意図していたが、実際には効果がなく、米国防長官室(OSD)内の効率化の一環として、統合参謀第6部(J6)の対応部署とともに、最終的には廃止された。“国防次官補/国防次官補(ASD/NII)”は監督という大きな責任を与えられ、それを精力的に遂行したが、その決心(decisions)を実行するために必要な権限は持っていなかった。“国防次官補/国防次官補(ASD/NII)”は、方針を発表したり、取得(acquisition)のマイルストーン・レビューで意見を述べたりすることはできるが、プログラムの計画やスケジュールに関する最終的な権限(予算権限)は軍の各軍種が保持していた。

要求事項や政策を早急に発行すること:Issuing requirements and policies prematurely

また、“国防次官補/国防次官補(ASD/NII)”と統合参謀は、効果的な実施のために十分な技術的詳細を提供することなく、政策や要求の実施を急ぎすぎるという罠に陥った。統合戦術無線システム(JTRS)/ソフトウェア通信アーキテクチャ(SCA)政策もNR-KPPも、開発の様々な段階にある既存のプログラムにどのように実装できるかを理解するのに苦労したため、大きな不確実性と不安定性をもたらした。例えば、2003年の統合戦術無線システム(JTRS)/ソフトウェア通信アーキテクチャ(SCA)ポリシーでは、すべての無線機(より高い周波数とデータ・レートで動作するものを含む)がソフトウェアでプログラム可能であり、ソフトウェア通信アーキテクチャ(SCA)に準拠することが求められていた。問題は、(当時の)統合戦術無線システム(JTRS)準拠ガイドラインが、広帯域通信や保護衛星通信などの一部のアプリケーションで使用される、より高いデータ・レートと高い周波数を想定していなかったことである。政策立案者が迅速に行動して、乖離したプログラムを抑制することは重要であるが、プログラムマネージャーやエンジニアにとって、定義されていない、あるいは構想されていない要求を満たすことは困難である。

会戦ネットワークを越えて範囲を広げること:Expanding the scope beyond battle networks

ネットワークとデータの相互運用性を向上させるためのこの初期の試みから学ぶべき最も重要な教訓は、問題をより適切に扱うことである。戦略、作戦、戦術、業務の各ミッションに使用される米国防総省(DoD)のすべてのネットワークにおいて、データの相互運用性とアクセス性を高めることで、多くのメリットが得らる。しかし、“グローバル情報グリッド(GIG)”の場合のように、すべてを含むように問題を範囲に含めることは、機能障害(dysfunction)の原因となる。バックエンドの業務システムでのデータ共有は、会戦ネットワーク(battle networks)間の相互運用性とは根本的に異なる課題であり、この2つを同じ取組みの中に含めるべきではない。

重要な決心と提言事項:Key Decisions and Recommendations

2000年代の経験から、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の組織構造と取得戦略(acquisition strategy)が、どれだけ進展するかの決定要因になると思われる。今後数ヶ月の間に、米国防総省(DoD)は統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の進め方や成功の見通しに大きな影響を与えるいくつかの重要な決心(decisions)をする必要がある。というのも、各軍種といくつかの防衛省全体の機関が、これらの取組みをどのように収束させるのか、あるいは非干渉化させるのかという計画なしに、それぞれの統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)関連プログラムを進めているからである。

組織的な役割と権限:ORGANIZATIONAL ROLES AND AUTHORITIES

米国防総省(DoD)は、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の開発・導入プロセスにおいて、様々な組織の責任と権限を明確にする必要がある。誰が何を担当するのか、関係する様々な組織がどのように協力するのかなどである。多くの異なる組織モデルが可能であり、戦略国際問題研究所(CSIS)のモーガン・ドワイアー(Morgan Dwyer)が以前指摘したように、米国防総省(DoD)は過去に多くのモデルを試みたが、あまり成功しなかった。以下は、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)開発のために米国防総省(DoD)がどのように役割と権限を割り当てるかのいくつかの例であり、以下に述べる組織構造のうちの1つ以上を組み込んだ多くのハイブリッドなアプローチが可能である。

統合プログラム執行室(Joint Program Executive Office):JPEO

米国防総省(DoD)は統合プログラム執行室(Joint Program Executive Office:JPEO)を設立し、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の開発と調達の管理を一元化することができる。これは、2000年代に統合戦術無線システム(JTRS)プログラムで試みられたアプローチに似ているが、これには多くの欠点があった。F-35の統合プログラム室(joint program office)から得られた教訓は、各軍種が独自の“一体化室(integration offices)”を設立し、統合プログラム室(JPO)と連絡を取り合い、自分たちの要求が適切に反映されるようにすることが有益であるということである。また、統合プログラム室(joint program office)は、技術的な問題やプログラム上の問題について単一の連絡先を提供することで、開発中の同盟国やパートナーとのやりとりを容易にすることができ、米国防総省(DoD)や議会の上級指導者に説明責任を果たすための特定の焦点(統合プログラム執行官(joint program executive officer)を務める人)を与えることができる。しかし、米国防総省(DoD)は、失敗するには大きすぎるし、成功するには大きすぎる主要な取得プログラム(acquisition program)(または相互に依存するプログラム群)を作らないように注意すべきである。

独立機関:Independent Agency

米国防総省(DoD)は、ミサイル防衛局(Missile Defense Agency:MDA)や宇宙開発局(Space Development Agency:SDA)のように、独自の取得権限と予算を持つ統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)のための新しい独立機関を国防次官(研究・工学)(USD/R&E)の下に設立することができる。あるいは、国防情報システム局(DISA)の役割を拡大して統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)を含むようにすることも考えられるが、これは同局の中核的な能力をはるかに超えるものであり、国防全体の情報技術(IT)システムを近代化してサポートする努力を犠牲にすることになりかねない。独立した機関であれば、複数の進行中のプログラムを管理し、試作や実験(experiments)の結果が出始めたら、ポートフォリオ内の投資を交換することができる。統合プログラム執行室(JPEO)モデルと同様に、独立機関は同盟国やパートナーとの連携の中心となり、議会や米国防総省(DoD)の上級幹部に結果に対する責任を負わせる特定の人物を提供することができる。独立機関を利用するリスクとしては、各軍種の既存の統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)関連プログラムが新機関に完全に移管されない場合、冗長性や衝突が生じる可能性があることである。また、独立した機関が開発したものが各軍種に採用され、利用されるという保証はなく、いわゆる「死の谷(valley of death)」の様相を呈している。効果的にするためには、独立した機関が、各軍種が主導するプラットフォームや軍需品プログラムとの緊密な連携、米国防長官室(OSD)トップの強力なサポートと持続的なコミットメント、そして年次プログラム・レビュー・プロセスを通じて米国防長官室(OSD)が実施するトップ・レベルの決心(decisions)が必要となる。

主導する軍種:Lead Military Service

別のアプローチは、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の主導する軍種を指定し、他の軍種、機関、各戦闘軍(COCOMs)が必要な能力を開発するために主導する軍種と協力するよう指示することである。このアプローチは、各軍種の文化的本能や組織的インセンティブに反するものであり、キーウェスト合意以降の過去70年間には、このアプローチがうまく働かなかった例がたくさんある(例:近接航空支援、ミサイル防衛)。主導する軍種(lead service)アプローチを効果的に行うためには、米国防長官室(OSD)と統合参謀の指導者が、計画策定・事業化・予算・実行(Planning, Programming, Budgeting, and Execution:PPBE)と統合要求監視評議会(JROC)のプロセスにおいて、一貫性と規律を持って、(1)主導する軍種(lead service)が他の各軍種の要求に十分に対応し、(2)主導する軍種(lead service)が毎年の予算でこれらの努力に十分な資金を提供し、(3)他の各軍種が独自に代替プログラムを開始したり、互換性のないシステムを調達したりしないようにする必要がある。要するに、これを実現するためには、常に苦労することになるだろう。

主導する機能的コマンド:Lead Functional Command

もう一つのアプローチは、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の主導する戦闘軍(COCOM)を指定し、特殊作戦司令部のモデルのように、独立した取得権限を与えることである。これは、指揮・統制に特化した新しい機能的コマンド(functional command)とすることもできるし、戦略コマンド、宇宙コマンド、サイバー・コマンド、北方コマンドなどの既存の戦闘軍(COCOM)にこの機能(function)を割り当てることもできる。統合プログラム執行室(JPEO)や独立機関のモデルと同様に、主導的な戦闘軍(COCOM)を指定することで、同盟国やパートナーとの連携の中心となり、上級指揮官は米国防総省(DoD)と議会に対して結果を出す責任を負うことになる。このアプローチの課題は、軍の各軍種の統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)関連の取組みの一部がコマンドに移管されない場合、軍の各軍種との重複や衝突を防ぐことである。戦闘軍(COCOM)は、独立した機関よりも、プログラム間のポートフォリオを横断的に取引するという戦闘員(warfighter)の要求に合致していると言えるだろう。また、戦闘軍(COCOM)が世界規模の指揮・統制の作戦権限を保持していれば、開発した能力の運用部隊への移行を容易にすることもできるだろう。このアプローチのリスク(と同時に潜在的なメリット)は、戦闘軍(COCOM)は通常、戦闘員(warfighter)が現在および今後数年間に何を必要としているかという比較的短期的な焦点を持っていることである。これは、新しい能力を早期に実戦投入するための早期開発努力を促進するが、長期的な戦略計画策定やより複雑な能力の開発を妨げる可能性もある。

分権化した開発:Decentralized Development

意図的な決定がなされない場合のデフォルトのアプローチは、米国防長官室(OSD)と統合参謀の監督のもと、各軍種と機関全体で統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)システムと各構成要素(components)の分散型開発を継続することである。責任は再び“国防次官補(ASD)”に委ねられ、国防次官補(ASD)と統合参謀は、2000年代初頭の“ネット中心の戦い(net-centric warfare)”に対する“国防次官補/国防次官補(ASD/NII)”と統合参謀第6部(J6)のように、各軍種間の独立した努力を導き、調整しようとする政策、戦略、KPPを発行することができる。各軍種は統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)関連のプログラム・スケジュールと予算を独立して管理し、各軍種の他の予算の優先順位に応じて異なるペースで進めることになるだろう。しかし、一部のプログラムが他のプログラムよりもずっと早く開発から調達へと進む場合、プログラム間、各軍種間の相互運用性はますます難しくなる。この方法では、各軍種がそれぞれのドメインで高い能力を発揮する新世代のストーブ・パイプ化した指揮・統制システムを開発することになりかねない。各軍種間、ドメイン間の相互運用性は二の次になり、最悪の場合、予算のない要求になるだろう。

トップ・レベルの統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)アーキテクチャ:TOP-LEVEL JADC2 ARCHITECTURE

また、米国防総省(DoD)は、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)で想定している全体的なアーキテクチャとその実装方法について、いくつかの重要な決心(decisions)を行う必要がある。アーキテクチャによっては、特定の組織構造の下での開発に適しているものもあるため、これらのアーキテクチャの決心(decisions)は、前節で述べた組織モデルと相互に関連している。

範囲:Scope

アーキテクチャ上の最も重要な決心(decisions)のひとつは、何を統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の一部と見なすか、つまり、どのような種類のシステム、データ、ネットワーク、およびミッションをアーキテクチャの一部とするかという範囲である。米国防長官室(OSD)のデータ戦略と統合参謀の統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)戦略は、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)のスコープに対して広範な全事業体アプローチ(enterprise-wide approach)を取っているように見える。このアプローチは、1990年代から2000年代にかけて、米国防総省(DoD)の“グローバル情報グリッド(GIG)”やネットセントリシティのコンセプトで試みられたものだ。課題は、スコープを広げれば広げるほど、ミッションの要求が多様化し、意味のある進歩を遂げることが難しくなることである。統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)に含まれるものと含まれないものの線引きをするとき、米国防総省(DoD)は、すべての相互運用性に価値があるわけではなく、データ標準、セキュリティ、および通信プロトコルに対する画一的なアプローチは、よくても最適ではなく、最悪の場合は実行不可能であることを心に留めておく必要がある。例えば、医療記録やスペアパーツの在庫を処理・管理するデータシステムは、ミサイル防衛システムや戦術的戦闘機のネットワークとの相互運用性が必要なのか?そうでないとしたら、なぜそれらを同じ取組みの一部とし、同じポリシーに従うのか。

大きな問題を解決するためには、より小さな、管理しやすい問題に分割することが重要である。統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)のスコープは、会戦ネットワーク(battle networks)を構成する5つの機能的要素(functional elements)(センサー、通信、データ処理、意思決定(decisionmaking)、効果)のみに慎重に絞られるべきである。これらの機能的要素(functional elements)をサポートする情報システムは他にもたくさんあるが、サポートするシステムまで統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の範囲に含めることは、滑りやすい坂道を下りるようなものである。同様に、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)のスコープを、サポートするミッションのレベル(戦略、作戦、戦術)で定義しようとすると、解釈の余地が大きくなる。なぜなら、会戦ネットワーク(battle networks)を構成するシステムや各構成要素(components)の多くは、複数のミッションに使用できるからである。重要なことは、米国防総省(DoD)は商用システムが会戦ネットワーク(battle networks)(特にセンシング、通信、データ処理)においてますます重要な役割を果たしていることを認識し、これらのシステムをアーキテクチャに含めるべきだということである。

共通のオペレーティング・システム:Common Operating System

統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)では、共通のオペレーティング・システム(common operating system)を使用することを義務付けるか、あるいは会戦ネットワーク(battle networks)の各所で別々のオペレーティング・システム(operating systems:OS)を使用することを許可するかが、アーキテクチャ上の重要な決定事項となる。これまでは、ネットワーク内やネットワーク間で異なるオペレーティング・システム(OS)を使用するのが一般的だったが、その最大の利点は、システムが実行する各機能(functions)や使用するハードウェアに合わせてシステムを最適化できることである。米防高等研究計画局(DARPA)の“異種電子システムのためのシステム・オブ・システム技術一体化ツール・チェーン(System-of-systems Technology Integration Tool Chain for Heterogeneous Electronic Systems:STITCHES)”のような技術を使えば、異種システムを会戦ネットワーク(battle networks)に一体化する「ミドルウェア」を自動的に生成することができる。しかしこれは、あるオペレーティング・システム(OS)用に書かれたアプリケーションが他のシステムとネイティブに相互運用できないことを意味しており、相互運用できるようにするためには、ある程度の準備期間と開発作業が必要となる。共通のオペレーティングシステムを構築することで、ソフトウェア開発のための真の意味でのオープンなエコシステムの可能性が生まれ、小規模な企業の参入障壁を減らし、イノベーションを促進し、ソフトウェアの再利用性を高め、ベンダーロックを防ぐことができる。統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)で共通のオペレーティング・システム(OS)を作ることのデメリットは、ユーザーの多様な要求を満たすことができる1つのオペレーティング・システム(OS)を開発することが困難であることと、開発されたものが特定のミッションやハードウェア構成に完全に最適化されたものではないことである。

インターフェイス:Interfaces

統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)のアーキテクチャは、内部および外部の主要なインターフェイスを特定し、定義する必要がある。インターフェイスはシステムの範囲を定義する上で重要な部分であり、米国防総省(DoD)は会戦ネットワーク(battle networks)をサポートするデータシステムやネットワークとのインターフェイスを注意深く明確にする必要がある(アーキテクチャの外部であり、したがって統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の範囲外であるものを明確にする)。外部インターフェイスには、メンテナンスや在庫管理システム、トレーニングシステム、人事管理システムなどが含まれる。インターフェイスは単なる技術仕様ではなく、そのインターフェイスを誰がどのように使うのかというポリシーやプロセスも含まれる。統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)のアーキテクチャは、同盟国やパートナーが米国の会戦ネットワーク(battle networks)の一部となり、リアル・タイムにデータを共有するために必要な内部インターフェイスも定義しなければならないし、平時の競争や紛争時にこのような接続を可能にするための国家間の政策や協定も含まれる。また、米国防総省(DoD)が政府のシステムを強化するために、商業的な能力を活用して会戦ネットワーク(battle networks)に一体化するためにも、同様の内部インターフェイスが必要である。

“作る/買う/借りる”決心:MAKE/BUY/BORROW DECISIONS

伝統的な取得アプローチでは、最初の分析として、(1)既に存在するものをアップ・グレードまたは再利用する、(2)既に開発されているものを購入する(つまり既製品)、(3)新たな材料によるソリューションを開発する、のいずれが戦闘員(warfighter)の要求を満たすのに最適かを検討する。この枠組みは現在も適用されているが、軍事用会戦ネットワーク(battle networks)と重なる部分の商業技術が急速に進歩していることを考えると、選択肢の幅を広げていく必要がある。最初の選択肢(アップ・グレードまたは再利用)は、既存のプラットフォームに新しいセンサーやペイロードを追加したり、既存のプラットフォームを別の方法で使用するために作戦コンセプトを調整したりすることである。例えば、軍はインテリジェンス・監視・偵察(ISR)プラットフォームに打撃能力(strike capabilities)を追加したり、インテリジェンス・監視・偵察(ISR)に打撃プラットフォームを使用したり、空中給油機を通信やデータ処理のハブとして使用することを計画している。3つ目の選択肢(新規開発)は、通常、他では実現できない真に軍事的に独特な要求を満たすための最後の手段として検討すべきである。新規開発とは、必ずしもハードウェアのプログラムを意味するものではなく、ネットワークの上に乗って新しい方法で情報を処理・活用するアプリケーション(人工知能(AI)システムなど)も含まれる。

2つ目の選択肢である「既製品から能力を購入する」という方法は、伝統的な防衛関連企業と非伝統的な防衛関連企業の両方を含む、民間部門に存在する能力を十分に活用するために、拡大して再考する必要がある。既製品を購入するには、さまざまな方法がある。軍が既製品(off-the-shelf product)を購入し、政府の職員を使ってそれを運用する、これは、政府が所有し政府が運営する(Government Owned and Government Operated:GOGO)として知られている。場合によっては、製品ではなくサービスとして購入することで、軍は同様の能力を利用することができる。この場合、能力は商業的に所有され、商業的に運営される(commercially owned and commercially operated:COCO)。他の場合では、軍は商業企業から能力をリースし、政府の人員を使ってそれを運営することができ、これは商業的に所有し、政府が運営する(COGO)と呼ばれる。

既製(off the shelf)の伝統的なアプローチは政府所有・政府運営(GOGO)であるが、民間所有・民間運営(COCO)や民間所有・政府運営(COGO)のアプローチにはいくつかの利点がある。まず、民間所有・民間運営(COCO)や民間所有・政府運営(COGO)では、システムの開発や取得にかかる多額の初期費用に民間資本を活用することができる。また、軍は常に固定された数の資産を抱えているのではなく、必要なものの使用量を継続的に調整し、必要な分だけ支払うことができる。また、政府は、技術の進歩や戦闘員の要求の進化(warfighter demands evolve)に応じて、能力を迅速に切り替える柔軟性を得ることができ、その結果、請負業者は、軍のニーズをよりよく予測して満たすために能力を継続的に向上させ、より多くのタスクオーダーを獲得するために自らの資本を投資するインセンティブを得ることができる。また、民間所有・民間運営(COCO)や民間所有・政府運営(COGO)のアプローチは、システムのライフサイクル・コストの大半を占める運用・維持コストの削減に直接的な金銭的利害関係を契約者(contractors)に与える。

確かに、商業的なアプローチがすべての状況に適しているわけではない。例えば、民間所有・民間運営(COCO)や民間所有・政府運営(COGO)のアプローチは、運用者やプラットフォームが重大なリスクにさらされる可能性があるミッション(戦闘地域など)や、運用者が独自の軍事的機能(military functions)を求められる可能性があるミッション(火災の指揮やストライキなど)には適していないだろう。また、民間所有・民間運営(COCO)も民間所有・政府運営(COGO)も、民間企業が法的にも経済的にも独自に開発できない能力に対しては有効ではない。しかし、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の取得戦略(acquisition strategy)は、何を製品として購入するのか、サービスとして購入するのか、何を政府が運営するのか、商業的に運営するのかを決めるために、意図的な努力をするべきである。

結論:Conclusion

会戦ネットワーク(battle networks)とその間の競争は、軍事力のますます重要な要素となっている。高度に「情報化」された用兵環境(warfighting environment)において、米軍部隊および同盟軍部隊は、自軍の会戦ネットワーク(battle networks)を攻撃から守り、同時に敵対者の部隊(adversary forces)の会戦ネットワーク(battle networks)を攻撃することができなければならない。高度に一体化された会戦ネットワーク(battle networks)内で実行される人工知能・機械学習(AI/ML)アルゴリズムは、指示(indications)や警告(warnings)の改善、意思決定(decisionmaking)の迅速化に利用でき、作戦の効率と効果を飛躍的に向上させることができる。

戦いのネットワークの復元力(resilience)と相互運用性は、一方が他方を可能にするという点で密接に関連している。復元力(resilience)は、受動的防御(passive defenses)および積極的防御(active defenses)によって高めることができる。また、各軍種、各ドメイン、国を超えた相互運用性は、能力の多様化と分散の機会を増やすことで復元力(resilience)を高める。しかし、すべてが相互運用可能でなければならないというわけではない。システム間の適切な相互運用性のレベルは、提供される利点とかかるコストによって異なる。

本稿では、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)として知られるようになった、米国防総省(DoD)全体の相互運用性とデータ共有を向上させるための現在の取組みが、1990年代後半から2000年代前半にかけての「変革(transformation)」や「ネット中心(net-centric)」の取組みに似ていることを明らかにしている。米国防総省(DoD)は、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の今後の道筋を描く際に、これらのイニシアティブから得られた教訓に留意すべきである。特に、(1)技術的に「飛躍(leap ahead)」しようとする過度に野心的な取得プログラム(acquisition programs)を開始すること、(2)プログラムに対する予算権限を持たない組織に統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の戦略と監督の責任を負わせること、(3)十分な技術的成熟度を持たない政策や要求を出すこと、(4)統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の範囲を会戦ネットワーク(battle networks)以外に拡大すること、などは避けるべきである。

米国防総省(DoD)は統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の開発において、よりネットワーク化された相互運用性の高い部隊を作るというこの試みがどれだけ成功するかに長期的な影響を与えるいくつかの重要な決心(decisions)をする必要がある極めて重要なポイントにいる。第一に、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の開発と導入に関する組織的な責任と権限を定義する必要がある。プログラムを統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)のための統合プログラム執行室(JPEO)に統合する、国防次官(研究・工学)(USD/R&E)の下に統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)開発のための新しい独立機関を作る、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)のための主導する軍種(lead service)を指定する、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の開発と運用のための戦闘軍(COCOM)を指定または作成するなど、いくつかの組織モデルがある。決定がなされない場合のデフォルトのアプローチは、米国防長官室(OSD)と統合参謀の監督のもと、軍の各軍種と機関にまたがる統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)システムの分散型開発を継続することである。

また、米国防総省(DoD)は統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)のアーキテクチャと取得戦略(acquisition strategy)についていくつかの重要な決心(decisions)を行う必要がある。最も重要なアーキテクチャの決定は、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の一部とみなされる範囲であり、米国防総省(DoD)は過去の取組み(“グローバル情報グリッド(GIG)”など)から学び、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の範囲を会戦ネットワーク(battle networks)以外にも拡大しないようにすべきである。また、システムの主要な内部および外部のインターフェイスを定義する必要があり、これも範囲(scope)の定義に役立つ。また米国防総省(DoD)は、軍が統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)に共通のオペレーティング・システム(OS)を使いたいかどうか、そのオペレーティング・システム(OS)をどのように開発・管理するかを決める必要がある。重要なのは、統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の取得戦略(acquisition strategy)には、製品として購入できるものとサービスとして購入できるもの、政府が運営するものと商業的に運営するものを決定するプロセスを含む必要があることである。

統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)に残された多くの疑問は、単に学術的なものや仮説的なものではない。将来の会戦ネットワーク(battle networks)を形成するためのプログラム、活動、能力にはすでに数十億ドルが投資されており、米軍(U.S. military)が質的優位性を維持できるかどうかがかかっている。統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)の背景にあるビジョンやアイデアは新しいものではなく、何十年もかけて作られてきたものであり、過去の組織や取得(acquisition)の失敗から得られた教訓は、どのように進めるべきかの指針となるべきものである。統合全ドメイン指揮・統制(JADC2)のビジョンを達成できるかどうかではなく、それを正しく理解するのにどれだけ時間がかかるかが問題なのである。

著者

トッド・ハリソン(Todd Harrison)は、ワシントンD.C.にある戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies)の国防予算分析部門のディレクターであり、航空宇宙安全保障プロジェクトのディレクターでもある。