主たる努力について Maneuverist #15
米海兵隊機関誌(Marine Corps Gazette)の機動戦論者論文(Maneuverist Paper)として紹介してきた15番目の論文「On Main Effort」を紹介する。
紹介する論稿の冒頭にもあるが、機動戦(Maneuver Warfare)とは、「行動のための哲学(philosophy for action)」でもあり「考え方(mindset)」であると言われる。
それは、他の様式とは区別される戦いの様式(style of warfare)である。それは、分散型の権限、ハイテンポ、敵の重要性や脆弱性への焦点を置いた攻撃、機会の冷酷な利用、弱さ(weakness)に対する強さ(strength)、柔軟性(flexibility)と適応性(adaptability)、予測不可能性(unpredictability)と奇襲(surprise)の追求などがその特徴として挙げられる。
戦いにおいては、指揮官が使用できるあらゆるリソースには限界があり、そしてその任務を達成するために使用できる時間にも制約がある。その中で指揮官が「行動のための哲学(philosophy for action)」としての機動戦(Maneuver Warfare)を適用する際の重点を示すことは、組織体として行動する場合には欠かせない重要なことである。
標題の「On Main Effort」は、訳語として“主戦力”や“主たる取組み”などとする向きもあるが、「米海兵隊のドクトリンを読む② MDCP 1 Warfighting」でも使用した「主たる努力」とした。
ちなみに、これまで紹介してきた米海兵隊が戦いのコンセプトとして受容している機動戦(maneuver warfare)についての論文は、次のとおりである。
機動戦の特徴を論じたものとして
1番目の論文「米海兵隊の機動戦―その歴史的文脈-」、
2番目の論文「動的な決闘・・・問題の枠組み:戦争の本質の理解」、
3番目の論文「機動戦の背景にある動的な非線形科学」
米海兵隊の機動戦に大きく影響を与えたといわれるドイツ軍に関する文献として
4番目の論文「ドイツからの学び」
5番目の論文「ドイツ人からの学び その2:将来」
戦争の本質や機動戦に関わる重要な論理として
6番目の論文「三つ巴の闘い(Dreikampf)の紹介」
7番目の論文「重要度と脆弱性について」
8番目の論文「機動戦と戦争の原則」
新たな戦いのドメイン(domains of warfare)への機動戦の適用の例として
9番目の論文「サイバー空間での機動戦」
機動戦を論じる上で話題となる代表的な用語の解釈の例として
10番目の論文「撃破(敗北)メカニズムについて」
11番目の論文「殲滅 対 消耗」
機動戦で推奨される分権化した指揮についての
12番目の論文「分権化について」
情報環境における作戦(Operations in the Information Environment)を念頭に置いた
13番目の論文「情報作戦と機動戦」
作戦術を機動戦の関係性を説いた
14番目の論文「作戦術と機動戦」
時間が許せばご一読いただきたい(軍治)
主たる努力について ‐ On Main Effort –
Maneuverist Paper No. 15
by Marinus
主たる努力(main effort)を指定することは、戦術指揮官が機動戦の原則を実際に適用するための唯一の規定された方法の一つである。(写真提供:ジャミン・パウエル(Jamin Powell)米海兵隊伍長) |
一般的に機動戦(maneuver warfare)とは、特定の技法(techniques)ではなく、広範な概念(broad precepts)で構成されている。アルフレッド・M・グレイ(Alfred M. Gray)米海兵隊大将が『用兵(Warfighting)』の序文で書いたように、それは「行動のための哲学(philosophy for action)」である。また、ある評論家が主張したように、それは「考え方(mindset)」である。それは、他の様式とは区別される戦いの様式(style of warfare)である。それは、分散型の権限、ハイテンポ、敵の重要性や脆弱性への焦点を置いた攻撃、機会の冷酷な利用、弱さ(weakness)に対する強さ(strength)、柔軟性(flexibility)と適応性(adaptability)、予測不可能性(unpredictability)と奇襲(surprise)の追求などの教訓である。
機動戦(maneuver warfare)は一般的に技法(techniques)を規定するのではなく、海兵隊員が状況に応じて最適な技法(techniques)を自由に選択、作成できるようにしている。主たる努力(main effort)を指定することは、指揮官が機動戦(maneuver warfare)を実施するための数少ない規定技法(techniques)の一つである(指揮官の意図(commander’s intent)もその一つである)。別の用語としては、主たる努力(main effort)のポイント、努力の焦点、そして時には、重心(Schwerpunkt:独)がある。作戦コンセプトを策定する際、指揮官は下位部隊の一つを主たる努力(main effort)として指定し、その部隊に最大のリソースを提供し、他の部隊にはその部隊の任務達成を支援するよう指示する。その根拠は、主たる努力(main effort)となる部隊が成功すれば、全体の作戦も成功する可能性が高いからである。
用兵(Warfighting)によると
我々の指揮内で行われているすべての行動の中で、その瞬間に成功するために最も重要なものを認識する。この重要な任務を達成する責任を与えられた部隊は、部隊の戦闘力を収束させる中心点である「主たる努力(main effort)」と呼ばれる。主たる努力(main effort)には、あらゆる種類の支援が優先される[1]。
主たる努力(main effort)の指定は、機動戦(maneuver warfare)に特有のものではなく、また、特に難しいアイデアでもなく、議論を呼ぶものでもない。『用兵(Warfighting)』では1ページほどしか割かれていない。機動戦(maneuver warfare)が登場する以前の米軍のドクトリンには、作戦コンセプト(concept of operations)の中に主攻撃と一つ以上の支援攻撃という構成が含まれていた。ある時点での戦闘力の比重が大きいだけでは、機動戦(maneuver warfare)とは言えない。しかし、ドイツ軍の流れを汲む機動戦(maneuver warfare)の実践では、すべての作戦に必要なものとして「主たる努力(main effort)」を定め、それに道徳性を持たせた。機動戦主義者(maneuverists)は、ヒンデンブルク陸軍元帥の言葉を好んで引用した。「重心(Schwerpunkt:独)のない計画は、性格のない人間のようなものだ」。一つの仕事に優先順位をつけ、他の仕事を節約することを強いられることには意味がある。何が重要なのかを判断し、リソースを配分する際にトレードオフを迫られるのである。
主たる努力(main effort)は3つの基本的な目的で行われる。一つ目は作戦上のデザインの支援、2つ目は計画策定・実行時のリソース配分、そして最後は任務戦術(mission tactics)の遂行である。
敵のシステムのどこを攻撃するかを決める:Deciding Where to Attack the Enemy System
第一に、この技法(technique)は、敵のシステムを重要度(criticality)と脆弱性(vulnerability)に基づいて評価し、そのシステムを攻撃して一貫した機能を破壊するための最適なポイントを決定するよう、指揮官に促すものだ。(Maneuverist第7号「重要度と脆弱性について」[米海兵隊機関誌ガゼット2021年4月]およびManeuveristト第10号「撃破(敗北)メカニズムについて」[米海兵隊機関誌ガゼット2021年7月]参照) その理由は、敵のシステムを破壊するための様々なタスクの中で、この重要度・脆弱性を打撃するタスクが最も重要だからである。ここでの成功が全体の成功に最も貢献する。このように、主たる努力(main effort)の技法(technique)は、作戦上のデザイン時に指揮官が主たる目標を明確にすることを促すものである。
ある敵のシステムをダウンさせるためには、2つ以上の重要度(criticalities)が同じように重要であると判断することも可能だと思われる。さらに言えば、複数の線で敵を攻撃する場合、作戦が開始されるまで、どれが重要な努力(critical effort)であるかを特定することはできないかもしれない。ある作戦が最初に進展を見せた後に、その作戦が主たる努力(main effort)として指定されるのが妥当であるかもしれない。これらは、少なくとも当初は主たる努力(main effort)の指定を避けるための正当な理由であるが、慎重に検討した上で指定することと、難しい決心をしたくないがために指定することは別物である。我々は、この技法(technique)が一般的なルールとして貴重な強制機能であり続けることを提案する。
リソースと優先順位の調整:Aligning Resources with Priorities
第二に、この技法(technique)は、重要度(criticality)/脆弱性(vulnerability)の評価に合わせてリソースを調整するメカニズムを提供する。一般的には、重要な脆弱性を攻撃するタスクを割り当てられた下位の要素(または指揮系統を統一するためにまとめられた要素)が主たる努力(main effort)とされ、火力の優先順位(priority of fires)、兵站、インテリジェンス支援(intelligence support)、欺瞞の取組み(deception efforts)、増援(reinforcements)など、利用可能なリソースの大部分が割り当てられる。重要なタスクには余裕がある限り割り当て、他のタスクには必要なものだけを割り当てるという考え方である。
クラウゼヴィッツは、敵の重要性と味方の努力の重さを明確に結びつけた。
重心(Schwerpunkt:独)は、常に質量が最も密集している場所にある。重心(Schwerpunkt:独)は最も効果的な打撃の対象となる。さらに、最も重い打撃は重心(center of gravity)(Schwerpunkt:独)で打たれたものである[2]。
クラウゼヴィッツは、ナポレオンの戦いを見て、強さ(strength)対強さ(strength)の決定的な争い(decisive contest)を提唱していた。「自分の力の中心を常に探し出し、すべてを賭けることによって、人は本当に敵を倒すことができる」[3]。今日、我々はどちらかというと、致命的な脆弱性/脆弱な臨界という形で、弱さ(weakness)に対して強さ(strength)を集中させたいと考えているが、敵のシステム内の重要な要素(どのように判断されるかは別として)に対して圧倒的な戦闘力を集中させるという論理は変わらない。このように、主たる努力(main effort)はすべての指揮官に優先順位付けを強いるものであり、作戦コンセプトの中でどの下位タスクが最も重要であるかについて、潜在的に困難な決定を下すことになる。
調和のとれた主導性:Harmonizing Initiative
第三に、主たる努力(main effort)を指定することで、部下が主体性を発揮するための調和のとれたメカニズムを提供する。この調和の目的は、『用兵(Warfighting)』において最も重視される。
指揮内の他のすべての部隊は、その部隊(すなわち、指定された主たる努力(main effort))が任務を達成するのを支援しなければならないことが明確になる。指揮官の意図(commander’s intent)と同様に、主たる努力(main effort)は部下の主導性を調和させる力となる。決断を迫られたとき、我々は自問する。どうすれば主たる努力(main effort)を最大限に支援できるか?[4]
実際、ある『用兵(Warfighting)』の解釈者は、ミッション・コマンド(mission command)の3つの部分のうちの一つとして主たる努力(main effort)を挙げている[5]FMFM 1では、集中する役割を強調するために「努力の焦点(focus of effort)」という言葉を使っていたが、MCDP 1では、より一般的な主たる努力(main effort)に変更された。主たる努力(main effort)が任務戦術(mission tactics)の実践に貢献することは確かに同意するが、その用途はそれだけにとどまらず、作戦上のデザインや計画策定にまで及ぶことはこれまで述べてきたとおりである。
重要なのは、戦争の不確実性と変化の激しさに直面したとき、任務達成を支援すべき部隊という形で中心点を確立することは、あらゆるレベルの指揮官が独自の判断で行う、潜在的に発散的で分散的な行動を調和させたり、規律付けたりするためのもう一つの重要なメカニズムとなるということである。
主たる努力(main effort)の変更:Shifting the Main Effort:
『用兵(Warfighting)』では、主たる努力(main effort)の指定は不可逆的な決心(irreversible decision)であってはならないと指摘している。
状況の変化に応じて、指揮官は主たる努力(main effort)をシフトし、成功に最も重要な部隊を支援するために戦闘力の比重を変えることができる。一般的に、主たる努力(main effort)をシフトする際には、失敗を補強するのではなく、成功を利用するようにする[6]。
これは言うは易く行うは難しかもしれない。『用兵(Warfighting)』では、戦闘力をシフトする際の現実的な問題を扱っていない(将来の改訂ではそうすべきかもしれないが)。例えば、直接支援や一般支援の任務に適した長距離火力能力のように、他よりもシフトしやすいリソースもある。他のリソースは、通常、独立して作戦するのではなく、基本部隊(base unit)に取り付けられており、特に戦闘に参加した後は、そう簡単に切り離して他の場所に移すことはできない。多くのことがそうであるように、最初の主たる努力(main effort)を十分に成功させることと、後に必要に応じて主たる努力(main effort)をシフトできる柔軟性を維持することの間で、バランスを取る必要がある。
一つ問題がある。『用兵(Warfighting)』が示しているように、指揮官だけが主たる努力(main effort)をシフトできるのか、それとも下位の指揮官が横方向に連携し、作戦コンセプト(concept of operations)の論理を理解した上で、それぞれが主たる努力(main effort)をシフトできるのか。例えば、敵の戦線(enemy line)を突破するという重要な任務を与えられたA中隊が主たる努力(main effort)となり、B中隊が火器による支援を行うことになったとする。しかし、A中隊の進行が止まり、B中隊が突破口を開く位置にいる。A中隊とB中隊の役割を入れ替えて、B中隊が主たる努力(main effort)になることはできるだろうか?明らかに、機会の窓はすぐに開いたり閉じたりするものなので、任務戦術(mission tactics)に基づく指揮システムでは、これが理想的である。
米海兵隊空地任務部隊(Marine Air-Ground Task Force:MAGTF)の奇妙なケース:The Odd Case of the MAGTF
主たる努力(main effort)の技法(technique)は、通常は歩兵という共通の種類の部隊を使った地上戦の文脈で発展したものである。例えば、師団長は3つの類似した連隊のいずれかに主たる努力(main effort)を割り当てることができ、それぞれの連隊は支援部隊や補助部隊になることができる。このような文脈では、他のすべての部隊が主たる努力(main effort)を支援するという考え方は完全に理にかなっており、後に主たる努力(main effort)を別の部隊に移し、それが支援部隊になるという考え方も同様である。
米海兵隊空地任務部隊(MAGTF)の空軍、地上軍、後方支援の戦闘要素(combat elements)では、一般的に主たる努力(main effort)の論理が成り立つ。しかし、米海兵隊空地任務部隊(MAGTF)レベルでは、この考え方はそれほど明確には当てはまらない。米海兵隊空地任務部隊(MAGTF)の指揮要素(command element: CE)、地上戦闘要素(ground combat element: GCE)、航空戦闘要素(aviation combat element: ACE)、兵站戦闘要素(logistics combat element: LCE)は、それぞれ非常に異なる能力と役割を持ち、その結果、お互いに非常に具体的な支援・支援関係を持つことが多い。航空戦闘要素(ACE)と兵站戦闘要素(LCE)の能力の多くは地上戦闘要素(GCE)を支援するために特別に設計されているが、地上戦闘要素(GCE)は安全を提供する以外に航空戦闘要素(ACE)と兵站戦闘要素(LCE)を支援する能力は限られている。このような状況では、戦闘部隊の間で主たる努力(main effort)を指定して変更することはあまり意味がない。なぜなら、さまざまな部隊がそれぞれの固有の能力に応じてすでに日常的に支援を行っており、互いに支援されているからである。
米海兵隊空地任務部隊(MAGTF)の組織構造は常に 以下の4つの要素を含んでいる
引用:https://www.mccdc.marines.mil/Portals/172/Docs/MCCDC/EF21/MEB_Informational_Overview.pdf |
まれに航空戦闘要素(ACE)や兵站戦闘要素(LCE)が米海兵隊空地任務部隊(MAGTF)の主たる努力(main effort)に指定されることがあるが、大多数の状況では、これらの要素は地上戦闘要素(GCE)を支援することになる。歴史的に見ても、ベトナム戦争やデザートストーム作戦では、米海兵隊遠征部隊(Marine Expeditionary Force: MEF)には2つの地上戦闘要素(GCE)が含まれており、米海兵隊空地任務部隊(MAGTF)レベルで主たる努力(main effort)を割り当てる論理が復活している[7]。
この奇妙な点は、主に、主たる努力(main effort)の3つの目的のうち、3番目の目的である「主導権の調和」に影響する。最初の2つの目的、すなわち敵のシステムのどこを攻撃するかを決定し、その決定に合わせてリソースを調整することは、一般的に米海兵隊空地任務部隊(MAGTF)レベルでは有効である。
陸、空、海、宇宙、サイバースペース、電磁スペクトルといった用兵ドメイン(warfighting domains)や、統合用兵機能(joint warfighting functions)の中で主たる努力(main effort)を指定しようとすると、同じ問題に直面することになるだろう。様々なドメインや機能は互換性があるわけではなく、それぞれがお互いを支援したり、支援されたりする特定の方法がある。主たる努力(main effort)のドメインや主たる努力(main effort)の機能を指定しようとしても、ほとんど意味がない。
結論:Conclusion
比較的単純でわかりやすい技法(technique)ではあるが、主たる努力(main effort)は機動戦(maneuver warfare)の特徴として最もよく知られている。その簡潔さは、作戦上のデザイン、リソース配分、任務戦術(mission tactics)を通じた実行に重要性を信じて疑わない。
ノート
[1] Headquarters Marine Corps, MCDP 1, Warfighting, (Washington, 1997).
[2] Carl von Clausewtiz, On War, ed. and trans. by Michael Howard and Peter Paret, (Princeton, NJ: Princeton University Press, 1976).
[3] On War.
[4] Warfighting.
[5] B.A. Friedman, On Tactics: A Theory of Victory in Battle, (Annapolis, MD: Naval Institute Press, 2017).
[6] Warfighting.
[7] In Vietnam, III MAF included 1st and 3rd MarDiv, while in the Gulf War, I MEF included 1st and 2nd MarDiv. In both cases, the divisions operated as separate maneuver elements directly under the MAGTF command element and not under a GCE headquarters. Similarly, a MEF could be assigned an Army division.