用兵見直しのケース (Marine Corps Gazette)

8月18日投稿の「機動戦を放棄する (Marine Corps Gazette)」に続いて、MCDP 1を見直すことへの意見を述べた記事を紹介する。この論稿はmaneuver warfare全般、特にWarfightingの推進派と懐疑派の両方のインタビューにも触れており、米海兵隊員の意見が反映されたものになっている。(軍治)

用兵見直しのケース

将来の部隊のためのドクトリンの近代化

The Case for Revising Warfighting

Modernize doctrine for the future force

by Col Brian Greene & Maj Robert Malcolm

Marine Corps Gazette • September 2023

グリーン(Greene)米海兵隊大佐は歩兵将校であり、現在は米海兵隊戦術作戦グループの指揮官である。

マルコム(Malcolm)米海兵隊少佐は歩兵将校であり、現在第8海兵連隊第2大隊で作戦将校を務めている。彼は以前、米海兵隊戦術作戦グループの先進機動戦課程を担当する将校を務めていた。

「技術的、社会的、地政学的な変化の圧力の下で、戦いの性質が常にそうであるように進化し続ける中で、我々は、我々の用兵哲学を形成したときに当然と考えることができた前提を再検討し、我々の「共通言語(common language)」が時代に合ったものであり続けるように、軍団全体でそれらの考えを明確かつ包括的に伝達する必要に迫られるかもしれない」[1]

第38代米海兵隊総司令官 デビッド・バーガー(David Berger)米海兵隊大将

2022年、米海兵隊戦術作戦グループは、公式ポッドキャスト用に機動戦(maneuver warfare)をテーマとしたいくつかのインタビューを収録した。これらのインタビューのゲストには、機動戦(maneuver warfare)全般、特に「用兵(Warfighting)」の推進派と懐疑派の両方が含まれていた。

これらのインタビューで「用兵(Warfighting)」に向けられた批判の中で、本稿の目的上、注目に値するものがいくつかある。懸念される問題のひとつは、機動戦(maneuver warfare)と消耗戦(attrition warfare)を表現する言葉である。「用兵(Warfighting)」は、あらゆる状況において機動戦(maneuver warfare)を道徳的に必須である(ひいては消耗戦(attrition warfare)を道徳的に欠陥がある)と提唱しているように解釈されやすい。

「用兵(Warfighting)」は、「純粋な消耗戦(attrition warfare)は実際には存在しない」「火力と消耗は機動に不可欠な要素である」と述べているが、その一方で、機動戦論者(maneuverist消耗戦論者(attritionistという用語も紹介している。後者が前者より劣っていることは明らかだ[2]。こうして機動戦(maneuver warfare)と消耗戦(attrition warfare)に付けられた意味合いは、「用兵(Warfighting)」の最も明白で永続的な遺産の一つである。

もうひとつの懸念は、「用兵(Warfighting)」では、「敵が対処できないような激動的で急速に悪化する状況を作り出す、迅速かつ集中的で予想外のさまざまな行動を通じて、敵の結束を打ち砕くことを目指す」[3]べき時期やレベルを区別していないことだ。

敵のシステムを崩壊させることは、いつでもどこでも達成できるわけではない。しかも、ある部隊、ある場所、ある時間に敵のシステムを崩壊させることは、実際には上層部の意図を達成することにはならないかもしれない。実際、あるレベルでそうすることが、より大きな作戦の狙いや戦略的到達目標にとって、かえって有害であった歴史上の例がある[4]

「用兵(Warfighting)」の著者であるジョン・シュミット(John Schmitt)も、こうした批判に同意していた。実際、我々の会話で最も驚いたのは、彼が多くの批判者が思っているようなこと、つまり、単に正しい決定的な脆弱性(critical vulnerability)を見つけ出してそれを突けば、システミックな崩壊は簡単に達成できるということを、彼はまったく信じていないということだった。

それどころか、シュミット(Schmitt)は重心(center of gravity)や決定的な脆弱性(critical vulnerability)を 「正しく(correct)」理解することは不可能だと考えている。重心分析の価値は、正確な正解を得ることではなく、議論から導き出されるシステムとしての敵の共有された理解にある。

シュミット(Schmitt)は、システミック・ディスラプション(システミック崩壊(systemic collapseよりも彼が好むレッテル)という敗北メカニズムは、ほとんどの場合達成できない可能性が高い、熱望的な目標であると述べている[5]。 彼はまた、敗北メカニズムの概念に関する議論を含めることで、「用兵(Warfighting)」を改善できると信じていると過去に述べている[6]

興味深いことに、批評家も賛成派も一致していたのは、米海兵隊は「用兵(Warfighting)」の改訂に慎重を期すべきだということだった。批判はあっても、ゲストは皆、この本が自分たちの人生やキャリアにどれほど大きな影響を与えたかをすぐに指摘し、大方の評価では成功した定式化に手を加えないよう忠告した。シュミット(Schmitt)が言うように、「FMFM1は瓶の中の稲妻を捕まえたのだ。また同じことができると期待するのは非現実的だ」

米海兵隊の用兵哲学は技術に左右されるものではないが、過去30年間の技術の進歩を無視することはできない。Hero-400は、米海兵隊が特定のミッションセットに組み込み始めている徘徊弾薬ドローン(loitering munition drone)。

(写真:ダニエル・チャイルズ(Daniel Childs)米海兵隊上等兵)

とはいえ、いくつかの理由から、今こそ我々の基本ドクトリンの出版物を更新する時だと感じている。明白なことは、前回の改訂から25年の間に多くのことが起こったということである。「用兵(Warfighting)」に代表されるようなドクトリンは、天候ではなく気候とともに変化すべきであると我々は考えているが、世界的な対テロ戦争の時代、それに続く大国間競争の復活、そして「フォース・デザイン2030(Force Design 2030)」で想定されている変化は、かなりの気候の変化を意味しているように思われる。

現在の戦略的文脈は、1989 年や 1997 年のそれとは大きく異なっている。「用兵(Warfighting)」では、海軍(naval統合(jointという用語は顕著に見られなくなったが、今日の状況では、適切な存在であるためには、統合部隊と一体化し、統合部隊に価値を提供しなければならないという認識が軍種全体に広がっている。ドクトリンも進化した。1997年以降、統合ドクトリンには宇宙とサイバースペースの2つのドメインが追加され、米海兵隊のドクトリンには3つ目の「情報(information)」が追加された。

最後に、我々の用兵哲学(Warfighting philosophy)はテクノロジーに左右されるものではないが、過去30年間の軍事テクノロジーの進歩を無視することはできない。ほんの一例を挙げれば、1997年当時、優先的なインテリジェンス要件の大半は、地上偵察・監視部隊によって対処されていた。

今日、優先的なインテリジェンス要件の大半は、空中インテリジェンス・監視・偵察プラットフォームが担っている。しかし、おそらく改訂の最大の理由は、何が起こったかではなく、誰が米海兵隊を構成しているかということにある。

MCDP 1はおろか、FMFM 1が出版された当時に米海兵隊に所属していた現役米海兵隊員の割合はごくわずかである。したがって、大多数の米海兵隊員は、機動戦の採用(adoption of maneuver warfare)と「用兵(Warfighting)」の出版につながった1980年代と90年代の議論の背景を知らず、その結果、それに関連する問題を抱えることになるかもしれない。

「用兵(Warfighting)」の改訂は必要であるが、我々はシュミット(Schmitt)やその他の人々の懸念を真摯に受け止めている。そのため、基本的なドクトリンを改訂・更新する際には、いくつかの原則を述べ、それを遵守することが重要だと考えている。

何よりもまず、単に変更のための変更があってはならない。「用兵(Warfighting)」の絶対に変更する必要のない部分は、たとえ改訂を任された著者らが原文の文言を改善できると考えていたとしても、そのままにしておくべきである。

第二に、「用兵(Warfighting)」への追加は短くすべきである。到達目標は、出版物のサイズを大幅に増やすことなく、価値のあるコンテンツを追加することである。

第三に、後述するように、改訂はニュアンスを加えつつも明瞭さを増すことを目指すべきである。見下すことなく、初級米海兵隊員にも理解しやすい表現にしなければならない。「用兵(Warfighting)」の魅力の一つは、すべての米海兵隊員が理解できるような直接的な表現であると同時に、思考を促すのに十分な洗練された表現である。

最後に、改訂が様々な利益団体を満足させるための訓練になってはならない。「用兵(Warfighting)」がこれほど首尾一貫し、読みやすく、説得力のあるものであるのは、アル・グレイ(Al Gray)元帥がその著者を一人の人物に託し、彼の指導の下で作らせたからである。マイケル・ワイリー(Michael Wyly)米海兵隊大佐が痛烈な批評の中で書いているように、「委員会によって作られた(done by committee)」という特徴をすべて備えていたためである[7]

では、このような原則のもと、「用兵(Warfighting)」新版ではどのような点に変化をもたらすべきだろうか。第一に、消耗(attrition)と機動(maneuver)の議論における美徳と悪徳の特徴(virtue-vice characterizationを抑制することである。シュミット(Schmitt)が「用兵(Warfighting)」第1版を執筆したベトナム戦争後の状況を理解すれば、彼がなぜ2つの対立する戦いのスタイル(styles of warfare)として議論を組み立てたのかがわかる。

彼が反対していたのは、火力で敵を撃破しようとすること自体ではなく、敵は単なる数であり、死体の数がすべてであり、すべての死体が平等に扱われるような闘いへのアプローチ(approach to fighting)であった。我々は、否定的な用語として投げかけられるものは消耗戦(attrition warfare)ではなく、敵をシステムとして考えず、そのシステムの重要な部分に意図的に焦点を当てない、意図しない消耗戦(unintentional attrition warfare)であると主張する。

一方、意図的な消耗のアプローチ(intentional attrition approach)とは、敵対者と比較して自軍の戦闘力を評価し、自軍が火力で優位に立ち、死傷者を吸収する能力が高いと結論づけるものである。これはまさに、ユリシーズ・グラント(Ulysses Grant)のオーバーランド方面戦役(Overland Campaign)のビジョンを支えた計算であり、アメリカ史上最も輝かしいもののひとつである。

「戦いの火力‐消耗アプローチ(firepower-attrition approach)」が米海兵隊に適さないのは、機動のアプローチ(maneuver approach)に比べ客観的に劣っているからではなく、米海兵隊が米国の対等な敵対者に対し、数でも火力でも優位性を持つことは、あるとしてもめったにないからである。従って、米海兵隊は、「敵に対して最大の決定的効果を、自らにかかる最小のコストで生み出すための哲学」を採用しなければならない[8]

第二に、改訂された「用兵(Warfighting)」は、システミックな崩壊は願望的なものであり、いつでもどこでも、すべての部隊階層で追求されるべきものではないことを明確にする必要がある。敵の結束を打ち砕くという願望は、単一の会戦(single battle)に対する評価とバランスを取らなければならない。

上位司令部の戦闘空間の枠組み(battlespace framework)における自分たちの役割を念頭に置いておかなければ、ある行動範囲の敵システムを崩壊させることで、上位司令部がより大きな敵システムに敗北を与えることができなくなるという事態に遭遇しかねない。

同様に、ある部隊階層で敵のシステムを完全に崩壊させることが、戦略目標の達成に逆行する場合もある。たとえば、限定目標の戦争では、和平合意を交渉する相手がいないため、国の指揮権限レベルで敵システムを崩壊させることは有益ではない。

重要なのは、この熱望的な到達目標を達成することではなく(達成することはほとんどない)、/熱望することによって、意図性のない消耗的なアプローチに逆戻りすることを防ぐことである。

第三に、「用兵(Warfighting)」の読者に、米海兵隊が統合部隊の不可欠な一部であることを理解してもらう必要がある。1986年にゴールドウォーター・ニコルズ法(Goldwater-Nichols Act)が成立するはるか以前から、米海兵隊には自立の文化があった。

それは多くの点で我々に有益だったが、米海兵隊は対等な競争者に対して重要な能力を統合部隊の残りの部隊に依存していることを理解した上で、節度を持たなければならない。コインの反対側では、米海兵隊は、関連性を維持するためには、統合部隊の他の部隊が望むものを提供しなければならない。

我々の固有の提供物は、時代とともに変化してきたし、これからも変化し続けるだろう。歴史的な例としては、先進海軍基地の掌握、小規模戦争、危機対応などがある。「用兵(Warfighting)」は具体的な内容に踏み込むべきでなく、単に米海兵隊は単独では行動せず、独自のものをもたらす責任があることを伝える必要がある。

最後に、「紛争のスペクトル(spectrum of conflict)」を説明する際に使用される表現は、MCDP 1-4「競争(Competing)」と整合させるために修正する必要がある。紛争のスペクトルは、後者の出版物と「一体化した戦役のための統合コンセプト(Joint Concept for Integrated Campaigning)」に記載されている「競争の連続体(competition continuum)」に置き換えられるべきであり、戦争や小規模な戦争以外の軍事作戦のラベルが削除されるべきである。

米軍の考え方は、戦争と平和という白黒の二分法から、武力紛争の閾値の上でも下でも競争するという理論へと移行している。さらに、「フォース・デザイン(Force Design)」は、統合部隊に対する海兵隊の価値が、紛争と同様に競争においても発揮されることを想定している。我々の基礎となるドクトリン上の出版物は、こうした動きを反映したものでなければならない。

我々は特定の年数を重要視していない。25年経過したからといって、「用兵(Warfighting)」の改訂時期が到来したわけではない。むしろ、戦争の性質(character of war)の変化と、それに伴う海兵隊内部の変化によって、我々は、より強く、より機敏に、そして統合部隊にとってより価値のある存在となるために、改訂が正当化される段階に来ている。

しかし、原文の良さを失うことなく、必要な更新を行うよう注意しなければならない。編集や追加は、意図的、集中的、かつ簡潔でなければならない。執筆者には明確な任務が与えられ、干渉されないように保護されなければならない。ジョン・シュミット(John Schmitt)がそうであったように、彼らは司令官だけに答えなければならない。このような条件の下でのみ、「用兵(Warfighting)」というタイトルにふさわしい最新のドクトリン上の基礎を提供することができるのである。

>著者注:「戦術と作戦(Tactics and Operations)」は海兵隊戦術作戦グループの公式ポッドキャストである。この記事に影響を与えた議論をお聞きになりたい方は、以下のエピソードをご覧いただきたい。

– 「ジョン・マクスナー(John Meixner)米海兵隊中佐と機動戦を批判する」。

– 「タッド・ドレイク(Tad Drake)米海兵隊中佐とのMCDP1のファンタジー」

– 「ジョン・シュミット(John Schmitt)と「敗北メカニズム(Defeat Mechanisms)」と機動戦」

– 「戦術と作戦(Tactics and Operations)」はこちらhttps://open.spotify.com/show/65qyMOctQ78NOXr7Y7fi1s

ノート

[1] Headquarters Marine Corps, Training and Education 2030, (Washington, DC: 2022).

[2] Headquarters Marine Corps, MCDP 1, Warfighting, (Washington, DC: 1997).

[3] Ibid.

[4] Thaddeus Drake, “The Fantasy of MCDP 1,” Marine Corps Gazette 104, No. 10 (2020).

[5] Marinus, “On Defeat Mechanisms,” Marine Corps Gazette 105, No. 7 (2021).

[6] Damien O’Connell, “John Schmitt,” Controversy and Clarity (podcast), April 15, 2021, https://podcasters.spotify.com/pod/show/damien-oconnell/episodes/10–John-Schmitteuoegn/a-a57jmmo.

[7] Michael Wyly, “Review: Operational Handbook 6-1 Ground Combat Operations,” Marine Corps Gazette 72, No. 7 (1988).

[8] MCDP 1.