機動戦は死んでいないが、進化しなければならない (www.usni.org)

撃破(敗北)メカニズム:戦略の背後にある合理性 (Military Strategy Magazine)で、「Defeat Mechanism」についての論稿を紹介した。相手をdefeatすることを、相手の意志(will)と能力(capability)から論じたものであった。「機動戦(maneuver warfare)」か「消耗戦(attrition warfare)」かの議論は、意志(will)と能力(capability)のどちらに焦点を置くかについて、戦いの方式(way of warfare)として表現したものとして捉えることが出来るのかもしれない。「機動(maneuver)」か「消耗(attrition)」かの議論は、軍事に関わる哲学・思想を論ずる際に取り上げられる一つの側面であろう。特に、目覚ましく進展する情報技術が作戦環境の変化を生み出し、戦争の本質は変わらないが、戦争の性質を変えているとの認識が多くの同意を得られる状況を作り出していたと言えるのではないだろうか。そのような中にあって、「機動(maneuver)」という概念に軸足を置きながら、戦いにおいて何が変わっていくのかを解き明かしていこうとする努力がなされていたように感じるところである。

しかしながら、未だに戦況の推移が見通せないウクライナにおける戦争や、ガザ地区におけるイスラエル軍の行動に関する報道などを見ると「消耗(attrition)」という概念を根本に戦いを構想するべきではとの考えも生まれてくるのではないかと感じるところである。ここで紹介するのは、「機動戦は死んでいないが、進化しなければならない」という元海兵隊将校の論稿である。「機動戦の死(death of maneuver warfare)」といわれる最近聞かれる議論に一石を投じるものである。(軍治)

ちなみに、和訳の参考はいかのとおり

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Defeat 撃破・敗北     Disruption 混乱    Maneuver 機動    Dislocation 転位    Paralysis 麻痺           

Surprise 奇襲    Disorientation 志向喪失    Circumvention 迂回    Movement 移動

Destruction 破壊    Preemption 先制    Mobility 移動性    Degradation 劣化

Annihilation 殲滅    Combined arms 諸兵科連合    Destruction 破壊    Paralysis 麻痺

Warfighting function 用兵機能    Disintegration 崩壊    Attrition 消耗    Surfaces and gaps 面とギャップ

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機動戦は死んでいないが、進化しなければならない

Maneuver warfare Is Not Dead, But It Must Evolve

消耗と機動の議論は見当違いの動揺を生むものである

The attrition versus maneuver argument is an irrelevant distraction.

Marine Corps Essay Contest—Second Prize

Sponsored by U.S. Naval Institute

By Colonel Pat Garrett, U.S. Marine Corps (Retired),

and Lieutenant Colonel Frank Hoffman, U.S. Marine Corps Reserve (Retired)

November 2023

Proceedings Vol. 149/11/1,449

パット・ギャレット(Pat Garrett)大佐は28年間現役で、ライフル小隊から歩兵連隊まであらゆるレベルの指揮を執り、師団参謀長も務めた。チャールズ・C・クルラック(Charles C. Krulak)米海兵隊大将のもとでは米海兵隊総司令部参謀グループの一員であり、戦力変革室ではアート・セブロウスキー(Art Cebrowski)副提督の下で働いた。カリフォルニア大学バークレー校のNROTCプログラムを通じて徴兵され、米海軍大学校を優秀な成績で卒業し、国家安全保障と戦略研究の修士号を取得している。

フランク・ホフマン(Frank Hoffman)米海兵隊退役中佐は、国家安全保障問題アナリスト、コンサルタントとして30年以上の政策・作戦経験を持つ。現在、バージニア州クアンティコにある米海兵隊戦闘開発コマンドの新興脅威・機会センターの研究員。同センターの戦略・世界情勢アナリストとして、先進的なコンセプトの開発、将来の紛争の本質に関する研究を行っている。この任務に先立ち、国防長官から「21世紀の国家安全保障に関する米国委員会(ハート・ラドマン委員会)」のスタッフに任命された。同委員会では、将来の軍事・安全保障環境の予測、戦略立案、軍事戦略、組織改革を専門とした。同委員会の国土安全保障と将来の軍事紛争評価の主任アナリスト。1978年から1983年まで、米海兵隊歩兵将校として第2海兵師団と第3海兵師団でさまざまな参謀職を歴任。ウォートン・ビジネス・スクール、ジョージ・メイソン大学、米海軍大学(最優秀)で学位を取得。

2023年NATOバルト海作戦演習で、HMSアルビオンからラトビアへ小型ボート作戦を行う海兵隊員たち。

米海兵隊(ザカリー・カーギル)

機動戦(maneuver warfare))はペテンであり、用兵機能(warfighting function)としての機動(maneuver)は死んだ。少なくとも、一部の学者や軍事アナリストはそう主張している。我々はそうは思わない。しかし、戦争の性質(character of war)には、対処すべき知覚(perceptions)を煽るような変化が進行中である。戦いの変化する性質(warfare’s changing character)は、しばしば攻撃と防御のバランスを変化させるが、米軍は今日、こうした定期的な変化のひとつに直面している。

このような変化は、専門家がその影響について創造的に考えることを必要とする。戦い(warfare)が進化する中、技術的変化に直面しても備えを怠らないことは、武器という職業にとって重要である。今日の作戦環境に突きつけられた課題は、作戦を複雑にし、米海兵隊ドクトリン出版物(MCDP 1)「用兵(Warfighting)」の更新を刺激するはずである。

現在の議論:Current Debate

2022年11月、ノースカロライナ州キャンプ・ルジューン米海兵隊基地で、都市環境訓練コースの警備を行う第26海兵遠征隊海上特殊目的部隊の米海兵隊員。都市部での作戦には高いコストがかかるが、鉄骨や石造りの峡谷では移動も攻勢機動も可能だ。

米海兵隊(ラファエル・ブランビラ=ペレイ)。

ベトナム戦争後の登場以来、機動戦(maneuver warfare)は、米海兵隊や米陸軍のドクトリンにその名を刻むことに成功したものの、常に争点となるコンセプトとなってきた[1]。この40年以上にわたる議論のルーツは、第一次世界大戦後のバジル・リデル・ハート(Basil Liddell Hart)の著作にまで遡ることができる[2]

戦争による人的・物的被害は甚大であり、両陣営が消耗戦略(attrition strategies)を追求したことがそれを際立たせた。歴史の中で、ハート(Hart)は「すべての決定的な戦役(decisive campaigns)において、敵の心理的・物理的バランスの転位(dislocation)が、敵打倒の重要な前段階であった」ことを発見した[3] 。この転位(dislocation)というコンセプトが、今日の機動戦(maneuver warfare)の核心にある[4]

戦略としての消耗(attrition as a strategy)は、ベトナム戦争後にさらなる批判を受けた。米国が圧倒的な戦闘力と兵站上の優越(logistical superiority)を有していたにもかかわらず、北ベトナムの戦争を仕掛ける能力(war-making abilities)を低下させるという10年にわたる米国の試みは、明らかにその望ましい狙いを達成することができなかったのである。米陸軍も米海兵隊も、ヨーロッパと中東で急成長するソ連の脅威に、そのコンセプト上の焦点を戻した。

米陸軍のエアランド・バトル(AirLand Battle)コンセプトは、機械化機動部隊(mechanized maneuver forces)と一体化された新技術、特に縦深攻撃システムを活用しようとするものであった[5]。ベトナム帰還兵の著作やビル・リンド(Bill Lind)、ジョン・ボイド(John Boyd)のアイデアに促されて、米海兵隊は機動戦(maneuver warfare)を模索し始めた[6]

後者は、米軍の理論では見過ごされがちな意思決定と認知の要因を強調した[7]。米海兵隊のドクトリンにおいて、機動戦(maneuver warfare)はその地位を確立しているにもかかわらず、過去10年間に批判的な意見も生じている[8]

最近、何人かの学者がこの議論を復活させ、勝利への確実な道として、敵対者の消耗(attrition)と物理的破壊(physical destruction)を再び強調している。これらの批評家には3つの重要な主張がある。第一に、新たなコンセプトに「認知的麻痺(cognitive paralysis)」という言葉を方法(method)や到達目標(goal)として含めることは疑わしい。

転位(dislocation)から麻痺(paralysis)へのこの進化は、米陸軍の新たなマルチドメイン作戦コンセプトに現れた[9]。学識経験者たちは、主要な競争者に対して「戦略的麻痺(strategic paralysis)」を得ようとすることに問題があるとしている[10]。彼らは、敵を麻痺させるために複数のジレンマを課すことは、ハート(Hart)とボイド(Boyd)の著作の歴史的根拠に明確に疑問を呈し、消耗(attrition)を優先して再考されなければならないと主張している[11]

第二に、変化する戦争の性質(changing character of war)により、機動(maneuver)の成功が難しくなっている[12]。新しいインテリジェンス、監視、ターゲット取得、偵察能力の普及は、攻勢的機動(offensive maneuver)を発見しやすくし、機動戦(maneuver warfare)から奇襲の機会(chance of surprise)を奪っている。

最後に、機動戦(maneuver warfare)は都市での作戦とは無関係であると主張する。都市における人口密度が記録的なものとなっていることから、将来の作戦環境として顕著になると推測される[13]。現在、世界の55%以上が都市に居住しており、世界銀行は2050年までにこの水準が3分の2を超えると予測している[14]。この密度は、地上編成の運河化を不可避にし、機械化された軍隊の移動性の優位性(mobility advantages)を相殺するようだ[15]

批評家が正しく理解していること:What the Critics Get Right

今日の消耗の擁護派(attrition advocates)は、技術の傾向がターゲッティングと監視を改善し、打撃アセットの範囲と精度を向上させることは正しい。「探知から打撃(sense-to-strike)」機能は、現在ではキル・チェーンを緊密に圧縮したものとなっている[16]。攻勢的機動部隊(offensive maneuver forces)は決定的な結果を得ることが難しくなる。

これは、ロシアとウクライナの戦争で見られたような、準備されたレイヤー化された防御を突破する必要がある攻勢作戦(offensive operations)では特に当てはまる[17]。持久力、兵站、弾薬在庫の重要性を指摘する評論家の意見も正しい[18]

批評家たちは、戦略的麻痺(strategic paralysis)の背後にある願望的な伸張(aspirational stretch)についても正しく、米陸軍が勝利の理論としてそれを取りやめたと聞けば喜ぶだろう。米陸軍の最新のドクトリンにはこう書かれている。

マルチドメイン作戦は、脅威の相互依存的なシステムや編成を破壊し(destroying)、転位させ(dislocating)、孤立させ(isolating)、崩壊させる(disintegrating)ことによって、脅威の作戦アプローチの一貫性を破壊し、これらの混乱(disruptions)がもたらす機会を利用して、敵部隊を詳細に撃破する[19]

この定義における破壊(destruction)の優先順位は批判者を満足させるかもしれないが、より重要なのは、混乱(disruption)と敵対者の指揮する能力の一貫性低下を追求するために、4つの異なる並列的な撃破(敗北)メカニズム(defeat mechanisms)を強調することである。米海兵隊のドクトリンは1997年以来、これに沿っている[20]

なぜ消耗が不十分なのか:Why Attrition Is Insufficient

火力/消耗(firepower/attrition)対機動(maneuver)という議論は、人を惑わすような情報(red herring)である。破壊(destruction)と機動(maneuver)、あるいは物理的効果と心理的効果という白黒の区別は単純化されすぎており、実際の戦闘の相互作用的、相互互恵的効果を見落としている。消耗(attrition)は、火力の同義語(synonym for fires)として使われることが多いが、それ自体が戦い(warfare)に必要な要素であることはあっても、十分な要素であることはまれである[21]

敵対者の能力を低下させることは、敵対者に戦役(campaign)を継続することはできないと認識させる衝撃(shock)や損失(loss)を与えるために必要である。特定の状況下では、消耗の戦略(strategy of attrition)が必要かつ効果的である[22]。より多くの場合、組み合わせによる相乗効果が必要とされる。

第二に、現在進行中の技術革新により、機動の遂行(conducting maneuver)が難しくなっているという議論は、簡単には否定できない。現在の技術シフトは防御に有利である[23]。しかし、1863年のゲティスバーグ、1904~5年の満州、そして1914~1918年の西部戦線でも同じことが起こった。それぞれの会戦の後、軍人は戦場での機動(maneuver)を立て直すために戦術と武器を進化させた[24]

しかし、攻勢的機動(offensive maneuver)が必要とされる状況もある。突角部の修復、陣地的優位性(positional advantage)の改善、同盟国に対する既成事実の企てを克服するためなどである[25]。課題は、防御に特典があるとする作戦環境の中で、いかにして火力と機動(maneuver)の両方を成功させる部隊をデザインするかである。

批評家たちは、機動戦(maneuver warfare)のコンセプトを機動/移動(maneuver/movement)と混同しすぎている。前者は、「迅速で、集中的で、予期せぬさまざまな行動によって、敵の結束を打ち砕こうとするもの」である[26]。迅速な移動(rapid movement)もその一部であるが、火力/破壊(firepower/destructionも同様である。重要なのは、純粋に敵の防御を長時間にわたって削るような火力は避け、その代わりに「敵の道徳的、精神的、物理的な結束力、つまり効果的かつ協調的な全体として闘う能力を打ち砕くことによって」敵に効果的な反撃をできなくすることに重点を置くことである[27]

第三に、消耗(attrition)は両刃の剣である。テンポと同様、関係性がある。一方的なゲームではない。最終的には、米国の能力をも低下させようとする相手との相互作用の関数である。現在の米海兵隊のドクトリンは、消耗(attrition)を無視しているわけではない。事実、現代戦(modern warfare)は「選択された敵部隊の極めて高い消耗(extremely high attrition)を伴うことが多い」と明確に認識している。

その違いは、敵の装備(matériel)を時間をかけて高価に削減することではなく、それが引き起こす混乱(disruptionに焦点を当てることである。勝利のメカニズムとして敵の各プラットフォームの累積的な破壊(destruction)を追求するのではなく、狙いは「敵のシステムを攻撃すること(to attack the enemy ‘system)」、つまり敵を体系的(systemicallyに無力化することである[28]

最後に、都市化は正当な懸念事項である。将来のどこかで、都市部での戦闘が発生することはほぼ確実である[29]。モガディシュ、ファルージャ、モスルでの経験から、懸念材料は多い。しかし、空路、地下通路、河川での選択肢を含め、都市周辺での機動(maneuver)は可能である。

確かに、市街地作戦には「面(surfaces)」が多く、コストも高いが、鋼鉄や石造りの峡谷では、移動(movement)も攻勢機動(offensive maneuver)も、しばしば困難ではあっても可能である[30]。さらに、市街地作戦は、指揮(command)や兵站(logistics)が孤立し、利用する可能性のある防御者側にとっても難しい。

米海兵隊が準備を整えれば、無人や遠隔の選択肢を含め、このナッツを割る方法はある[31]。都市システムの「流れ(flows)」を理解することは重要であり、無人システムとセンサー・パッケージは効果的な火力と機動(fire and maneuver)に役立つ[32]

しかし、消耗(attrition)は必要かもしれないが、それだけでは十分ではない。真に単次元的な解決策は理論的には可能だが、歴史的にはまれである。火力の価値(value of fires)を否定するわけではないが、純粋に消耗(attrition)によって領土を解放し、決定的な結果を得たという記録は、せいぜい薄い[33]

最も過酷な戦役(campaigns)であっても、結果は通常、消耗(attrition)と機動(maneuver)がどの程度うまく補完し合えるかにかかっている。ハート(Hart)の著作の発端となった高コストで停滞した作戦デザインに戻るのではなく、敵対者の火力と機動の組合せ(combination of fires and maneuver)を指向する能力を混乱させることに焦点を当てた、真のシステム混乱を目標としたコンビネーション・アプローチには、いくつかの有望な要素がある。

解決策:The Solution

有利な地形と適切な準備のための時間があれば、現在進行中のセンシング、精度、交戦速度の発展は防御に有利である。戦力デザインとドクトリンはそれを考慮しなければならない。移動プラットフォーム(mobile platforms)や装甲プラットフォーム(armored platforms)は必要であるが、重量、速度、センシング、火力のトレードオフに関して再考する必要がある[34]

2023年1月、ノルウェーのセテルモーンで開催された米海兵隊ローテーションフォース・ヨーロッパ23.1において、米第2海兵隊兵站群第2連隊戦闘兵站大隊の米海兵隊員が3マイルの行進を実施。米海兵隊は、どのような作戦環境でも成功するために、火力と機動の両方を生み出すことができる部隊をデザインしなければならない。

米海兵隊(クリスチャン・M・ガルシア)

技術、特にロボット工学は、攻撃的な作戦を可能にする選択肢を提供し、防御の固有の優位性を相殺する[35]。特に将来の戦場では、より透明性の高い「デッド・ゾーン(dead zone)」を横切ることになる。イギリス陸軍参謀総長のパトリック・サンダース卿(Sir Patrick Sanders)将軍が「成功は、諸兵科連合(combined arms)とマルチドメインの力量(competence)によって決定される」[36]と強調している。

前統合参謀本部議長のマーク・ミリー(Mark Milley)米陸軍大将は、これは米国の新しい統合用兵コンセプト(Joint Warfighting Conceptと一致していると考えている。これは、重要な信条として拡大した機動(expanded maneuver)を必要としている[37]。これは指揮官に対して、「陸、海、空、宇宙、サイバー、電磁スペクトル、情報空間、認知領域を通じた機動(maneuver)」について創造的に考えるよう求めている[38]

作戦を成功させるためには、機動部隊(maneuver forces)はますます無人システムを採用する必要がある。改良された機動防空システムと対無人航空機システムは機動(maneuver)を促進し、ロボット工学、致死性の高い自律型無人航空機と地上車両、高度な電子戦能力は移動性(mobility)を可能にする。

これらの無人システムは群れをなして機動(maneuver)し、ターゲッティングを複雑にすることができるため、安価な無人システムを仕留めるために高コストの軍需品の支出を余儀なくされる[39]。結局のところ、こうした傾向は、「機動(maneuver)」があらゆる用兵のドメイン(warfighting domains)で反映されることを意味する。

ウクライナで進行中の闘いは、将来を垣間見せてくれる。軍事アナリストの中には、この戦争を消耗ベース(attrition-based)であり、機動戦(maneuver warfare)の対極にあるものだと評価する者もいる[40]。現在進行中のウクライナの反攻を消耗の戦略(strategy of attrition)と見る者さえいる。確かに、この戦争では砲弾(artillery ammunition)が集中的に使用されている[41]

しかし、2022年9月にハリコフを占領したウクライナの見事な反攻(counteroffensive)は、陽動(feints)、欺瞞(deception)、高移動砲兵ロケット・システム(High Mobility Artillery Rocket System :HIMARS)による攻撃、機動部隊(maneuver forces)の使用などを考えれば、機動戦(maneuver warfare)の模範と見るべきだろう。作戦上の奇襲(operational surprise)は、ロシアの弱い要素(ギャップ)に対して行われ、彼らの急速な崩壊(collapse)につながった[42]。「タイム誌」には以下のように記載されている。

ロシア軍は油断していた。多くの兵士が武器や装備を置き去りにして逃げ惑った。現地の報道では、兵士たちが市民の衣服や自転車、車を盗んで逃走したという屈辱的な撤退劇が描かれた。ウクライナ軍は6日間で、ロシア軍への補給に使用される戦略的に重要な鉄道拠点を含む、推定3,000平方キロメートルのロシア占領地域(Russian-held territory)を奪還した[43]

これは典型的な転位(dislocation)であり、機動主義的思考(maneuverist thinking)の現れである。キーウに対するロシアの作戦が明確に示しているように、火力だけでは十分ではない[44]

今日、ウクライナはロシアのやり方に合わせる以上のことをしている。英国国防参謀総長のトニー・ラダキン卿(Sir Tony Radakin)提督は最近、ウクライナの最新のアプローチを「飢餓(starve)、伸張(stretch)、打撃(strike)」と表現した。第一段階では、ウクライナ軍はロシアの指揮・統制ノードと兵站を縦深に攻撃し、指揮官を転位させ(dislocate)、防御者側の物資を飢えさせた。

「伸張(stretch)」の段階では、ウクライナ軍はギャップを突いてロシアの戦線を探り、潜在的なミスであるロシアの反応を強要する。最高潮の段階では、訓練された突撃旅団と頭上のドローン(drones)による精密火力と全ドメイン機動(full domain maneuver)が、防御者側の混乱した防御を突く。リデル・ハート(Liddell Hart)も満足だろう。

推奨事項:Recommendations

機動戦の死(death of maneuver warfare)という報告は時期尚早だが、その継続的な有用性は適応にかかっている[45]。機動戦(maneuver warfare)を「システム混乱戦(system disruption warfare)」に更新すれば、あらゆるドメインで敵対者のシステムを混乱することをより強調できる。これは既存の米海兵隊のドクトリンに合致する。「面とギャップ(Surfaces and gaps)」は、単に砂煙を上げて弱点を颯爽と通り抜け、敵の背後を狙うというだけでなく、時間やドメインを含むあらゆる次元で考えなければならない[46]

さらに、諸兵科連合(combined arm)は、単純な「スチール・オン・ターゲット(steel-on-target)」思考から、相手の観測能力を劣化させ、相手のシステム全体の一貫性を混乱させることにシフトしなければならない。これは火力や致死性を減少させるためではなく、全ドメインにわたるすべての用兵機能(warfighting function)の一体化を促進するためである。

「戦力デザイン2030Force Design 2030)」に明示された継続的な変革は、戦争の性質(war’s character)におけるこうした継続的な変化に対応しなければならない[47]。長距離精密火力(long-range precision fires)、先進型徘徊型弾薬(advanced loitering munitions)、電子戦(electronic warfare)など、米海兵隊が変革のために優先的に導入した能力は、現在進行中の傾向を支えるものである[48]。米海兵隊が将来にわたって適切な存在であり続けるためには、戦い(warfare)におけるその他の変化についても慎重な検討が必要である。

このような将来に備えるため、米海兵隊はウクライナからの教訓を吸収するとともに、中国のシステム対決アプローチ(systems-confrontation approach)を理解する必要がある[49]。米海兵隊ドクトリン出版物(MCDP 1)「用兵(Warfighting)」を更新する際には、ハート(Hart)が提唱した二次元的転位(bidimensional dislocation)の原型を維持するとともに、人間的側面の重要性を強調すべきである。

戦争は基本的に人間の意志のぶつかり合いであることに変わりはない。ウクライナが証明しているように、リーダーシップ、軍事指揮、士気、そして闘う意志(will to fight)は、成功の鍵となる要素である。物資の破壊(destruction of matériel)を優先させることは、道徳的、認識的要因を軽視することになる[50]

適切に理解され、更新された機動戦(maneuver warfare)は、将来においても極めて重要である。主導性を握ること、情報の優位性を追求すること、テンポを利用すること、奇襲(surprise)と欺瞞(deception)を用いることは、依然として重要である。イスラエルに対する最近のハマスの攻撃は、新しいインテリジェンスやセンシング能力に関係なく、奇襲(surprise)が依然として可能であることを示している。しかし、敵対者のバランスを崩し、敵対者の対応能力を崩壊させる一連の激しい衝撃を与えるために必要な手段は、拡張された一連のドメインで応用されなければならない。

機動の死(death of maneuver)を宣告したある兵士は、「哲学は会戦に勝てない(philosophies do not win battles)」と口にした[51]。しかし、会戦に勝つためには、知的に準備された指揮官が必要であり、それこそがこの議論なのである。1980年代の機動戦(maneuver warfare)のドクトリンは、大規模な対戦相手を打ち負かすためのハードウェアとソフトウェアを備えた部隊を再構築する取組みだった。この課題は、今日においても変わりがなく、さらに緊急性を増している。

ノート

[1] Craig Tucker, “False Prophets: The Myth of Maneuver Warfare and the Inadequacies of FMFM-1 Warfighting,” Ft. Leavenworth Command and Staff College, 1995; Wilf Owens, “The Manoeuvre Warfare Fraud,” Small Wars Journal, 5 September 2008; and Maj Joseph Williams, USMC, “Mindlessness in Maneuver Warfare,” Marine Corps Gazette (August 2021): 63–5.

[2] Basil H. Liddell Hart, Strategy, 2d ed. (New York: Penguin, 1991), 5–6; Richard Swain, “B. H. Liddell Hart and the Creation of a Theory of War, 1919–1933,” Armed Forces & Society 17, no. 1 (Fall 1990): 35–51; and Azar Gat, A History of Military Thought (New York: Oxford University Press, 1996), 645–95.

[3] Brian Bond, Liddell-Hart: A Study of His Military Thought (London: Cassell, 1979), 55.

[4] Hart, Strategy, 5–6.

[5] Huba Wass de Czege, “Army Doctrinal Reform,” in The Defense Reform Debate, Asa Clark, ed. (Baltimore, MD: The Johns Hopkins University Press, 1984), 101–104.

[6] Marinus, “Marine Corps Maneuver Warfare: The Historical Context,” Marine Corps Gazette (September 2020): 85–7. See also William Lind, The Maneuver Warfare Handbook (London: Routledge, 1985).

[7] Antulio J. Echevarria Jr., War’s Logic: Strategic Thought and the American Way of War (New York: Cambridge University Press, 2021), 169–92. For an exposition on Clausewitz and Boyd, see Martin Samuels, “The Finely-Honed Blade: Clausewitz and Boyd on Friction and Moral Factors,” MCU Expeditions, 2020.

[8] LtCol Thaddeus Drake, USMC, “The Fantasy of MCDP 1,” Marine Corps Gazette (October 2020): 33–36: Williams, “Mindlessness in Maneuver Warfare,” 63–65; and LtCol Nate Lauterbach, USMC, and Heather Venable, “Why Attack Weakness? A Reconsideration of Maneuver and Attrition,” Marine Corps Gazette (September 2021): 98–101.

[9] On creating simultaneous multiple dilemmas, in Air Force doctrine see Air Force Doctrine Publication (AFDP) 3-99, Department of the Air Force Role in Joint All-Domain Operations, Curtis LeMay Center for Doctrine Development and Education, 2020, 1.

[10] LtCol Thaddeus Drake, USMC, “The Fantasy of MCDP 1,” Marine Corps Gazette (October 2020): 33–36: Williams, “Mindlessness in Maneuver Warfare,” 63–65; and LtCol Nate Lauterbach, USMC, and Heather Venable, “Why Attack Weakness? A Reconsideration of Maneuver and Attrition,” Marine Corps Gazette (September 2021): 98–101.

[11] Franz-Stefan Gady, “Manoeuvre versus Attrition in U.S. Military Operations,” Survival (August/September 2021): 131–48; Heather Venable, “Paralysis in Peer Conflict? The Material Versus the Mental in 100 Years of Military Thinking,” War on the Rocks, 1 December 2021; and Michael Kofman, “A Bad Romance: U.S. Operational Concepts Need to Ditch Their Love Affair with Cognitive Paralysis and Make Peace with Attrition,” Modern Warfare Institute, 31 March 2021.

[12] Gady, “Manoeuvre versus Attrition,” 132; and Amos C. Fox, “Manoeuvre Is Dead?” The RUSI Journal 166, 6-7 (2021): 16–17.

[13] Anthony King, Urban Warfare in the Twenty-first Century (Cambridge, UK: Cambridge University Press, 2021), 84.

[14] Tadros Wahba et al., Demographic Trends and Urbanization (Washington, DC: World Bank Group, 2021), 9.

[15] Fox, “Manoeuvre Is Dead?” 15–16.

[16] Chris Brose, The Kill Chain, Defending America in the Future of High-Tech Warfare (New York: Hachette, 2020), 198–203.

[17] Stephen Biddle, “Ukraine and the Future of Offensive Maneuver,” War on the Rocks, 22 November 2022.

[18] Antulio J. Echevarria, “It’s Time to Recognize Sustainment as a Strategic Imperative,” War on the Rocks, 15 February 2023.

[19] Department of the Army, U.S. Army Field Manual 3-0: Operations (Washington DC: Headquarters, U.S. Army, October 2022), 1–2.

[20] Marinus, “Defeat Mechanisms,” Marine Corps Gazette (July 2021): 101–6; and LtCol Frank Hoffman, USMC (Ret.), “Defeat Mechanisms in Modern Warfare,” Parameters 51, no. 4 (Winter 2021/2022): 49–66.

[21] Lamar Tooke, “Blending Maneuver and Attrition,” Military Review 80, no. 2 (March-April 2000): 10–11; and J. Boone Bartholomees Jr., “The Issue of Attrition,” Parameters 40, no. 1 (Spring 2010): 5–19.

[22] On attrition, see Carter Malkasian, A History of Modern Wars of Attrition (Westport, CT: Praeger, 2002); and Cathal Nolan, The Allure of Battle: A History of How Wars Have Been Won and Lost (Oxford, UK: Oxford University Press, 2017), passim.

[23] Col T. X. Hammes, USMC (Ret.), “The Tactical Defense Becomes Dominant Again,” Joint Force Quarterly, no. 103 (4th Quarter 2021): 10–17.

[24] Paul Lockhart, Firepower: How Weapons Shaped Warfare (New York: Basic Books, 2021), 181–86; and Peter Hart, Fire and Movement; The British Expeditionary Force and the Campaign of 1914 (Oxford, UK: Oxford University Press, 2015).

[25] Biddle, “Ukraine and the Future of Offensive Maneuver.”

[26] U.S. Marine Corps, MCDP 1: Warfighting (Washington, DC: Headquarters, U.S. Marine Corps, 1997), 4-4.

[27] MCDP 1, Warfighting, 4-5.

[28] MCDP-1, Warfighting, 4-5.

[29] Fox, “Manoeuvre Is Dead?” 6.

[30] For counterarguments, see John Spencer, “Maneuver Warfare and the Urban Battlefield,” Modern Warfare Institute, 11 March 2021.

[31] Russell Glenn, Heavy Matter: Urban Operations’ Density of Challenges (Santa Monica, CA: RAND 2000); Russell Glenn and Todd Helmus, A Tale of Three Cities (Santa Monica, CA: RAND, 2007); and Gian Gentile et al., Reimagining the Character of Urban Operations for the U.S. Army: How the Past Can Inform the Present and Future (Santa Monica, CA: RAND, 2017), xiii-xiv.

[32] David Kilcullen, Out of the Mountains: The Coming Age of the Urban Guerrilla (Oxford, UK: Oxford University Press, 2015), 52–115.

[33] Surprisingly, the pro-attrition crowd spends little time looking at the history of their preferred option. On air power limitations, see Robert Pape, Bombing to Win: Air Power and Coercion in War (Ithaca, NY: Cornell University Press, 1996). On developments against limited opponents see Phil Haun, Colin Jackson, and Timothy Schultz, eds., Air Power in the Age of Primacy (Cambridge, UK: Cambridge University Press, 2022).

[34] For some ideas about reconceptualizing the tank, see Azar Gat, The Future of the Tank and the Land Battlefield, The Institute for National Strategic Studies, Tel Aviv, 20 July 2023.

[35] See Col T. X. Hammes, USMC (Ret.), “Technologies Converge and Power Diffuses: The Evolution of Small, Smart, and Cheap Weapons,” Policy Analysis, no. 786 (Washington, DC: The Cato Institute, 2016).

[36] GEN Patrick Saunders, British Army, RUSI Land Warfare Conference, keynote speech, London, 26 June 2023.

[37] GEN Mark A. Milley, USA, “Strategic Inflection Point,” Joint Force Quarterly, no. 110 (3rd Quarter, 2023): 6–15.

[38] Milley, “Strategic Inflection Point,” 12.

[39] Eric Schmitt, “The Future of War Has Come in Ukraine: Drone Swarms,” Wall Street Journal, 8 July 2023; and David Hambling, “Ukraine Wins First Drone vs. Drone Dogfight Against Russia,” Forbes, 4 October 2022.

[40] Franz-Stefan Gady and Michael Kofman, “Ukraine’s Strategy of Attrition,” Survival 65, no. 2 (April/May 2023): 7–22.

[41] Jack Watling and Nick Reynolds, “Ukraine at War: Paving the Road from Survival to Victory,” RUSI Special Report (July 2022), 3–4; “Artillery Is Playing a Vital Role in Ukraine,” Economist, 2 May 2022; and Adam Pasick, “A Grinding Artillery War in Ukraine,” The New York Times, 6 May 2022.

[42] Julian E. Barnes, Eric Schmidt, and Helene Cooper, “The Critical Moment Behind Ukraine’s Rapid Advance,” The New York Times, 13 September 2022; and Kateryna Stepanenko, Grace Mappes, George Barros, Layne Philipson, and Mason Clark, “Russian Offensive Campaign Assessment,” Institute for the Study of War, 9 September 2022.

[43] Simon Schuster and Vera Bergengruen, “Inside the Ukrainian Counterstrike that Turned the Tide of the War,” Time, 26 September 2022.

[44] Thomas Gibbons-Neff, Julian E. Barnes, and Natalia Yermak, “Russia Learns Firepower Alone Is Not Enough,” The New York Times, 18 June 2023.

[45] For a thorough assessment of maneuver warfare, see Christopher Tuck, “The Future of Manoeuvre Warfare,” in Mikael Weissmann and Niklas Nilsson, eds., Advanced Land Warfare; Tactics and Operations (Oxford, UK: Oxford University Press, 2023).

[46] Lawrence Freedman, “There Is Only One Way to Win a War of Attrition,” New Statesman, 1 August 2023.

[47] Gen David Berger, USMC, Force Design 2030 (Washington, DC: Headquarters U.S. Marine Corps, March 2020); HON Robert Work, “Marine Force Design Overdue Despite Critic’s Claims,” Texas National Security Review 6, no. 3 (Summer 2023); and Berger, Force Design Annual Update 2023 (Washington, DC: Headquarters U.S. Marine Corps, 5 June 2023).

[48] Shashank Joshi, “A New Era of High-Tech War Has Begun,” Economist, 9 July 2023, 2–3.

[49] Jeffrey Engstrom, Systems Confrontation and System Destruction Warfare (Santa Monica, CA: RAND, 2018). See HON Robert Work, “A Joint Concept for Systems Warfare,” Center for a New American Security, December 2020.

[50] For a balanced perspective on the human and moral dimensions of war, see Mick Ryan, War Transformed: The Future of Twenty-First-Century Great Power Competition and Conflict (Annapolis, MD: Naval Institute Press, 2022), 165–208.

[51] Fox, “Manoeuvre Is Dead?” 7.