エッジの権限を強化する (Special Competitive Studies Project)
ロシア・ウクライナ戦争に関する話題では、空中を飛び回る無人機やドローンのみならず陸上や水上の無人機の有効性に関する内容にあふれていると感じているところである。最近では、ウクライナのゼレンスキー大統領が軍用のドローン部隊を創設する法令に署名したとの報道もあったところである。しかしながら、このことは、ただ単にドローンを戦いに投入するための部隊を作る以上の大きな取組みとなると考えられる。
ここで紹介するのは、無人のビークルや兵器を有効に軍の用兵の在り方に取り入れていくこと以上に戦略的優位性を獲得するためのものとして捉え、そのために米国防総省への提言としてまとめられた文書である。本文書では無人のシステムをunmanned system(無人システム)ではなくuncrewed system(搭乗員無しのシステム)と呼び、搭乗員はいないが人間が遠隔で操作する運用を想定した内容として論述されている。そして、搭乗員無しのシステム(uncrewed system)を、効果的に運用するためのインテリジェンスをどのように適用するか、搭乗員無しのシステム(uncrewed system)の指揮・統制の在り方はどうあるべきかと、搭乗員無しのシステム(uncrewed system)自体をどのように開発していくかなどに言及している。
文書の表題の「Empowering the edge」は、搭乗員無しのシステム(uncrewed system)を使用した作戦は分権化した指揮・統制を前提とし、組織の末端(edge)に権限を与えるべきであるとの意味合いを持っている。ネットワーク・セントリック・ウォーフェア(NCW)のコンセプトが登場した時代に、リチャード・E.ヘイズ、デヴィッド・S.アルバーツ両氏に著書「Power to the edge」が出版されている。この文献は、経営組織論としてもネットワーク・セントリック・ウォーフェア(NCW)のコンセプトを普及させ、末端までネットワークを整備していくことが如何に組織に変革をもたらすかの観点から述べられたものである。
既にかなりの程度にネットワークが整備され指揮・統制システムの多くがデジタル化されている現状を踏まえて、搭乗員無しのシステム(uncrewed system)をして敵対者に対して戦略的・作戦的・戦術的優位性を獲得するためには、搭乗員無しのシステム(uncrewed system)とセンサーのネットワークと、デジタル化された指揮・統制システムを三位一体として整備していくことが重要で、そのことによって変革がもたらされるという。(軍治)
エッジの権限を強化する
搭乗員無しシステムと米国の用兵能力容量の変革
Uncrewed systems and the Transformation of U.S. warfighting Capacity
Lieutenant General (ret.) Clint Hinote, U.S. Air Force
Major General (ret.) Mick Ryan, Australian Army
2024.2.5
著者:Authors
S・クリントン・ヒノテ(S. Clinton Hinote)米空軍退役中将
S.クリントン・ヒノテ(S. Clinton Hinote)は米空軍退役中将であり、「空軍フューチャーズ」の初代指導者である。そのキャリアを通じて、斬新な戦術の開発、時代遅れの会戦計画(battle plans)の見直し、堅苦しい組織の改革、複雑な同盟関係の指導、時代遅れのドクトリンの破壊など、変革の最先端(leading edge of change)で活躍した。米空軍参謀次長として、彼は400人規模の組織を率いて「空軍フューチャーズ」とし、将来の空軍の計画策定と統合(一体化)を担当した。彼の知的リーダーシップは、米国防総省が中国との競争で成功するためにはどうすればよいかという根本的な再考をもたらし、軍事力を政治的目標に結びつけた。
NATOと韓国で司令官を務めたほか、バグダッド米大使館のカントリー・チームでも活躍。退任後は、政府、企業、金融、非営利部門を問わず、国家安全保障における変革志向の指導者への助言、指導、奨励に従事している。ヒノテ(Hinote)大将は、特別競争研究プロジェクトの上級防衛アドバイザー、Dcodeのフィールド・エキスパート、パラス・アドバイザーズのプリンシパルである。空軍士官学校と空軍指揮幕僚学校を首席で卒業。ハーバード大学ケネディスクールで公共政策の修士号、航空大学で軍事戦略の博士号を取得。
ミック・ライアン(Mick Ryan)豪陸軍退役少将
ミック(Mick)は豪陸軍に35年間在籍し、部隊、分隊、連隊、タスク部隊、旅団レベルで兵士を指揮する栄誉に浴した。軍事史と戦略、先端技術、組織革新、適応理論に長年関心を持っている。国防企業家フォーラム(オーストラリア)の初代会長を務め、軍事作家組合(Military Writers Guild)のメンバーでもある。軍事戦略、イノベーション、先端技術の接点や、機関が知的優位(intellectual edge)を高める方法について熱心な執筆活動を行っている。
2022年2月、ミック(Mick)は豪陸軍を退役。同月、USNIブックスより著書『War Transformed』を出版。ワシントンDCの戦略国際問題研究所非常勤研究員、シドニーのローウィー研究所非常勤研究員、特別競争研究プロジェクトの上級国防顧問。2023年1月、ミック(Mick)はオーストラリアのブリスベンにあるクイーンズランド大学の非常勤教授にも任命された。自身の戦略アドバイザリー会社を経営し、シドニー・モーニング・ヘラルド紙とABCオーストラリア放送のレギュラー・コラムニストでもある。また、ABCテレビ、BBC、CNNのコメンテーターとしても頻繁に出演している。最新刊『White Sun War: The Campaign for Taiwan』は2023年5月4日にCasemate Booksから出版された。次作は、ウクライナ戦争における戦略と適応に関するもので、2024年に出版予定。
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「将来的な労働力とコストの制約の下で、そして今日利用可能な代替技術によって、高価で労働集約的なシステムのレガシーな艦隊で闘い続けることは、経済的に疑わしい提案である。敵が大量の精密兵器で権力と人の集中をターゲットとする中、それはすでに戦争に負ける戦略かもしれない[1]」
新しい技術は、古い考え(ideas)、古い戦略、そして戦争に備える人間の古い方法を更新することをしばしば必要とする。第一次産業革命以降、その頻度が高まったとはいえ、戦争が始まって以来、軍事組織への新技術の流入は絶え間なく続いている。しかし、時折、新技術が戦争の開始(started)、闘い(fought)、終結(ended)の方法に破壊的な変化をもたらすことがある。
現在、能力、品質、量においてカンブリア紀の爆発的な進化を遂げつつある「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」は、そのような技術であるように思われる。これらのシステムは、現代の戦場で戦闘員がリスク、コスト、権限をどのように考慮するかを破壊している。
米国防副長官のキャスリーン・ヒックス(Kathleen Hicks)は、この課題に立ち向かい、「一歩先を行くために、米国が以前に行ったように、あらゆるドメインで「損耗可能なシステム(attritable systems)」を活用し、より安価で、より少ない人員で、変更、更新できる新しい最先端のシステムを作り出そうとしている」と述べている。または、大幅に短いリード・タイムで改善される[2]」
これは立派な到達目標であり、新しいレプリケーター・プログラム(Replicator Program)[3]の不可欠な基盤である。ヒックス(Hicks)の主張は、ナゴルノ・カラバフからウクライナ、ガザ、イスラエル北部まで、現代の会戦の証拠と一致している。航空機や海洋環境における「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の有用性が証明されたことは、あらゆるドメインで、さまざまなタイプの人間と機械とAIの統合(一体化)チームによる軍事作戦の変革への移行を予感させる。
これらの「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」は、コストや能力もさまざまで、遠隔操作、半自律、自律の各操作モードで運用されている。我々はまだ、この技術によって開かれる可能性と、さまざまな任務の全容を発見していない。
まだ学ぶべきことは多いが、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の広範な使用は、主に空中において、しかし陸のドメインや海のドメインでの使用も増えており、戦争の遂行を混乱させていることは明らかである。しかし、「搭乗員無し航空システム(uncrewed aerial systems)」の破壊的な性質にもかかわらず、それだけでは戦争を一変させることはできない。
ドローンが、デジタル化された指揮・統制システムの民主化、民間と軍用センサーの新時代のメッシュ化されたネットワークと組み合わされて初めて、変革が起こるのである。これら3つの要素は、本稿で後述する変革の三位一体を構成するものであり、この構成の中でこそ、ドローンは防衛やその他の国家安全保障への応用の可能性を十分に発揮することができる。
この変革の最も重要な影響は、戦闘空間(battlespace)における情報が、従来は限られた数の需要の高いセンサーと、分析された情報の階層的な分配によって統制されていたが、それが情報の不足から浪費へと変化したことである。
その結果、より質の高い情報が民主化され、「エッジまで(to the edge)」行き渡ることで、軍事機関が部隊を指揮・統制する方法、統合・同盟国軍隊チームを編成・再編成する方法、戦術や作戦術(operational art)を適用する方法、そして人々を訓練・教育する方法が変化する。
技術はこの変革の三位一体の中心にあり、三位一体の技術的構成要素のほとんどは営利団体(commercial entities)から調達されている。しかし、他の技術と同様、これらも人間の革新と代理性を必要とする。したがって、21世紀に効果的な抑止力と用兵能力(warfighting capabilities)を開発する上で、この変革的三位一体が中心的な役割を果たすためには、人、プロセス、調達(procurement)の要素(これらは主に米国防総省の権限に属する)が必要である。
極めて重要なことは、この変革は、同盟国の国防機関において数十年間見られなかったペースで行われなければならないということである。ロシア、中国、イラン、北朝鮮といった権威主義的な「四つの国」による民主主義国家への脅威という緊急事態は、本稿で述べるような緊急の変革と調整を迫るものである。
搭乗員無しのシステムと現代の状況下の戦争:Uncrewed systems and War Under Modern Conditions
戦争の性質(character of war)は固定的なものではない。戦争は社会的、政治的、技術的発展に応じて変化する。人間の視点が変化し、新しい技術が出現するにつれて、効果的な軍隊は学習し、適応する。人間的なパフォーマンスと先端技術の長所を併せ持つ軍事組織は、しばしば優位性を享受する。
時として、その優位性は決定的なものとなる。例えば、冷戦後の時代には、同盟国の軍隊が旧来のパラダイムにとらわれた敵対者を瞬く間に制圧した一方的な戦場での争い(battlefield contests)がいくつかあった[4]。
残念なことに、この優位性-「オーバーマッチ(overmatch)」と呼ぶ人もいる-は急速に損なわれている。中国やロシアとの競争が激化するなか、米国は新たな闘い方(ways of fighting)を模索している。その新たなアプローチのひとつが、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の普及である。これらのシステムは、会戦空間(battle space)におけるリスクの捉え方を変えつつある。戦争においてリスクは常に存在する。
何世紀もの間、戦時指導者たちは、軍事部隊の一部、つまり闘い(fighting)を行う人々が、任務を達成するために高いリスクに直面しなければならないことを受け入れてきた。人間や機械の消耗(attrition of humans and machines)は、闘い(fighting)の必然的なコストである。
しかし、ここ数十年で、我々の見方は変わった。現代の同盟国の軍隊は、同盟国思想の基本原則を反映している。我々は、個人のリスクを低減するために可能な限りのことを行う。
戦闘機(fighter aircraft)、戦車、軍艦、潜水艦は、それらに乗る人々を守るための金字塔である。現実的な訓練や詳細な脅威の再現も同様である。ここ数十年、戦闘において新たな脅威が出現すると、我々は多大な犠牲を払って防護能力を開発してきた。
しかし極端に言えば、このアプローチは自滅的である。ここ数十年、われわれは国民を守るために増え続ける資源を費やし、近代的な兵器システムにかかるコストは増え続けている。指導者たちは、当然のことながら、リスクを低く抑えたいと考え、そのためには多額の出費をいとわない。
現代の軍事装備は非常に貴重であるため、それを会戦(battle)で使用することに強い阻害要因が生まれる。人的・能力的な影響に加え、この開発は政治的にも大きな影響を与えるだろう。同盟国の軍隊は、高い政治的コストを伴わずに「損耗可能(attritable)」※と考えられる戦力をほとんど持たず、それが我が国の軍隊の従来の抑止力の価値を損なうものである。
※ attritableとは、防衛用語で「喪失した場合にも替わりのものを投入できるほど安価なもの」という意味を持つ専門用語
彼らは20年もの間、こうした高価なアセットを発見し破壊するためのセンサーや兵器の開発に費やしてきた。比較的安価な技術は、絶妙な近代兵器を脆弱にし、潜在的な敵対者に拡散している。これはコスト押しつけの定義であり、我々は長年にわたって間違った側にいた。
「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」は、その方程式を劇的に変える。DJIドローンのような安価で高性能な商用システムから、イランのシャヘド(Shaheds)のような中級システム、リーパー(Reaper)やグローバル・ホーク(Global Hawk)のような高価で高性能な軍事用プラットフォームまで、さまざまなものがあるが、これらはすべて「搭乗員有システム(crewed systems)」よりも消耗品であると考えられている。
このようなシステム、特に低コスト帯のシステムは、「搭乗員有システム(crewed systems)」やより高価な「搭乗員無しビークル(uncrewed vehicles)」に注力している敵対者にコストを押し付けるために使用することができる。最小限の能力しかない「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」が大量に存在する場合、敵対者は難しい選択に直面する。
高価な兵器を消費して安価なシステムを撃ち、さらに多くの波が来ることを知っている。あるいは、高価な兵器を保持し、攻撃の結果に苦しむこともできる。
このダイナミズムが、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の攻撃的利用を魅力的かつ効果的なものにしてきた。その結果、非搭乗員システムに対する費用対効果の高い防衛に対する用兵上の要件(warfighting requirement)が生まれたのである。
ウクライナやイスラエルなどでは現在、攻撃に使用される「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」と、これらのシステム、通信リンク、ナビゲーション・サブシステム、そしてそれらを操作する人々を混乱させたり破壊したりするようにデザインされた技術や手法との間で、加速度的に適応の会戦(adaptation battle)が起きている。
最近の欧州政策分析センター(CEPA)の研究では、NATOが「迎撃コスト曲線を防御側に有利に変える[5]」必要性を強調している。「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」での適応の会戦(adaptation battle)は現在、攻撃側に有利である。米国とその同盟国が適切な通常型抑止戦略を策定し、配備され自国に駐留する軍事部隊を守るためには、この状況を変えなければならない。
ウクライナでは、双方が「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」を急速に計画に取り入れたため、これらのシステムに対抗する技術は遅れた。同様に、同盟国の軍隊も、特に分散・分権化が可能な対自律システムの配備が遅れている。この状況を早急に変えなければならない。2020年に設立された米陸軍の統合小型無人航空機システム対策室は、有望なスタートである。
しかし、この適応の会戦(adaptation battle)にタイムリーで有能な資金を投入するためには、その範囲、予算、権限を拡大し、同盟国とより深く協力する必要がある[6]。最も重要なことは、変革のペースを加速させることである。その際、ウクライナの経験から重要な教訓を得ることができる。特に、これらのシステムを阻止するための電子戦(EW)の重要性である。
ウクライナのドローン使用の成功を受けて、ロシア軍は電子戦、ミサイル・システム、接続センサーを組み合わせた統合(一体化)システムを導入し、ウクライナのドローンと徘徊型弾薬(loitering munitions)の使用を妨害している[7]。このロシアのシステムは、ウクライナのドローンを妨害するだけでなく、重要な通信回線も妨害する。
これらの連携を断ち切ることは、部隊の結束を損ない、ウクライナの火力攻撃複合体を遅らせることになり、2023年夏の大規模な反攻計画を阻止する重要な要素となった。
ロシア軍は、ウクライナの司令部をピンポイントで特定し、ドローンとその操作員の間のリンクを切断し、ドローンの運用基地を見つけ、そして重要なことは、ウクライナのドローンと精密兵器の効果を妨害または低下させることができた。
ロシア側はこうした成功から学び、電子戦(EW)装備の工業生産の拡大に注力することで電子戦(EW)能力を拡大した。そうすることで、ロシアは電子戦(EW)システムにおける伝統的な強みを活用し、戦略的国防産業との協力を通じてこれらを改善した。
ドローンに対抗するための電子攻撃の広範な使用は、ハードニングやスマートリンクなどの防御能力で答えることができるが、これらの能力はコストと重量を増加させ、コストの低い方のドローンでは実現可能性が低くなる。このため、電子戦(EW)への投資がドローンの脅威に対する効果的な対抗策となり得ることは明らかである。
効果的な電子戦は、ドローンそのものに対するものに限らない。ウクライナでは、双方が前方のドローン作戦センターから発信される無線放出(radio emissions)を探知する能力を開発し、それに対して迅速で正確な砲撃を行うことができる。このため、暗号化された通信リンクを備えた、機動性の高い、低シグネチャのドローン作戦センターが必要とされている。
したがって、特に中国人民解放軍が同様のアプローチを開発し、それを支える技術を配備することは確実であるため、シグネチャを減らす技術に投資する必要があると考えている。
この分野では、適応と反適応のサイクルがウクライナで何度も繰り返されている。ウクライナもロシアも、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」が自軍に大きな犠牲を強いることを学び、それに応じて戦術や装備を調整してきた[8]。
この適応の会戦(adaptation battle)から得た重要な教訓は、軍にはより安価に購入でき、広く展開できる新世代の対自律システム(counter-autonomy systems)が必要だということだ[9]。「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」が従来の防衛システムよりもはるかに安価であったためにコストを圧迫していたように、次世代の対自律のアプローチは、直面している「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」とほぼ同等か、それよりも安価であることを到達目標とすべきである[10]。この組み合わせをマスターした軍隊は、将来の紛争で成功するだろう。そうでない軍隊は、極度の消耗を強いられるだろう。
搭乗員無しシステムが大きな変革に貢献:オフセット-X:Uncrewed systems Contribute to a Larger Transformation: Offset X
2023年5月、特別競争研究プロジェクトは「オフセット-X(Offset-X):抑止力のギャップを埋め、将来の統合部隊を構築する」と題する主要な報告書を発表した。この報告書は、敵対者に対して効果的な通常型戦略的抑止力を提供できる10の主要オフセット技術を特定している。
敵対者を抑止できない場合、統合部隊に新たに投入されるこれらの技術は、中国人民解放軍のような潜在的な敵のネットワーク戦力に対して、さまざまな非対称的優位性(asymmetric advantages)をもたらすだろう[11]。
「オフセット-X(Offset-X)」戦略の重要な提言のひとつは、人間と機械のチーミングが将来的に大きな優位性をもたらす可能性があるということである。この戦略では、ヒューマン・マシン・コラボレーション(HMC)とヒューマン・マシン・チーミング(HMT)におけるリーダーシップを奨励し、ヒューマン・マシン・コラボレーション(HMC)が戦いにおける意思決定を最適化するために不可欠になる一方、ヒューマン・マシン・チーミング(HMT)が複雑な任務、特にリスクの高い任務をより低い人的コストでより効果的に遂行するために不可欠になることを説明している。米軍はこの両者における指導者でなければならない[12]。
「オフセット-X(Offset-X)」戦略には、この技術を米国の抑止力と用兵コンセプト(warfighting concepts)に活用することを可能にする、いくつかの重要な短期的・中期的要件も記述されている。「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の普及は、特に他の技術や能力と組み合わせた場合、「オフセット-X(Offset-X)」と完全に互換性がある[13]。
「オフセット-X(Offset-X)」で特定された能力の配列の中で、三位一体のシステムが中央ヨーロッパとそれ以遠の戦場を変革している。それらは以下の通りである。
- 民主化され、デジタル化された会戦指揮・統制(C2)は、戦闘空間(battlespace)にいる誰もが軍事的に価値のある情報をアップロードし、配信できるようにする。
- 民間と軍のセンサー・ネットワークがメッシュ化され、オープン・ソースと機密データの前例のない組み合わせ、民間、商業、政府の分析がメッシュ化され、戦闘空間(battlespace)と敵の戦略的システムに関する前例のない(しかし透明ではない)表示が提供される。
- 空、陸、海での「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」と「対搭乗員無しシステム(counter-uncrewed systems)」の複合体。
これらのシステムが他の重要な技術と組み合わされたとき、その使用方法は一変する。具体的には、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」が、メッシュ化された民軍センサー・ネットワークやデジタル化された指揮・統制と組み合わされることで、新しいことが成し遂げられる。
これらの能力は、軍事作戦の最前線(forward edge)でリアルタイムの情報を入手することを可能にする。「エッジ(edge)」にいる指導者がこの情報に基づいて行動する権限を与えられれば、軍事作戦の指揮・統制に関する考え方が一変するだろう。
われわれは、戦術的作戦が迅速かつ分散して実施されなければならず、作戦の計画策定がより迅速で脆弱な戦術的作戦をサポートするように進化しなければならず、作戦的防御が現在より強力ではるかに低コストである軍事パラダイムに突入している。
したがって、指揮・統制を成功させるアプローチは、こうした作戦上の課題と戦術上の課題を考慮し、長期的な政治的解決を支える軍事作戦を生み出すものでなければならない。そのためには、集権化と分権化をバランスよく組み合わせる必要がある。
指揮官の意図、作戦計画策定、現在の作戦の評価を集中的に展開する必要性は依然としてある。同時に、三位一体によって得られる情報を活用し、戦術的レベルで迅速かつ分権化された行動をとる必要もある。
ウクライナ、ガザ、そしてそれ以外の地域の戦闘員にとって、この三位一体は重大な影響を及ぼしている。一部の特権階級だけが戦場に関する正確な情報にアクセスできた過去の戦争とは異なり、今や下位の部隊階層の軍事指導者たちは、デジタル化された指揮・統制(C2)と、無数の異なる「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」から供給される多様なセンサー・ネットワークという強力な組み合わせにアクセスできる。
彼らはこの知識を使って、致死性の「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」に指示を出し、それを使って敵対者を迅速かつ自軍のリスクレベルを下げて攻撃する。同時に、敵対者は同じ技術の多くにアクセスでき、適応と反適応のサイクルにより、戦術的優位性はつかの間である。
変革の三位一体でのドローン:Drones in the Transformative trinity
すべての戦争は多くの古い考え(ideas)の集合体であるが、古い要素に少数の新しい技術や考え(ideas)が加わることも多い。例えばウクライナでは、装甲車、砲兵、歩兵の使用といった伝統的なアプローチに、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」が追加されている。
しかし、それと同じくらい重要なのは、民間と軍のセンサー・ネットワーク(その大部分は「搭乗員無しのプラットフォーム(uncrewed platforms)」から供給される)の融合と、新時代のデジタル指揮・統制(C2)システムへの接続である。
これらの技術を組み合わせることで、より効果的な新しい戦いへのアプローチが可能になったのである。このため、多角的なドローン作戦の検討は、この変革の三位一体という文脈で行われなければならない。
メッシュ化された民軍インテリジェンス・システムを通じて開発された知識は、デジタル指揮・統制(C2)システムを通じて最下層まで共有され、軍の意思決定に反映される。戦闘では、この情報に基づいた指揮・統制(C2)システムは、指導者が迅速な機動(rapid manoeuvre)を指示し、敵対者の重要な脆弱性に多様な砲火を集中させるのに役立つ。
その優位性を生かす装備と訓練を備えた軍隊と組み合わせれば、敵対者の部隊に対して迅速で正確な効果を大規模に適用できる真の可能性がある。しかし、三位一体の潜在能力を最大限に発揮するには、軍事部隊の基本原則である「より大きな(しかし無統制ではない)分散化」を受け入れない限り実現することはできない。
三位一体は、軍隊が意思決定において強力な分業を採用することを可能にする。作戦指導者は、政治的および戦略的な指針を、作戦的レベルの計画策定によって裏付けられた指揮官の意図に変換できる。戦術的指導者は、この計画策定を特定の状況に適用し、リアルタイムで調整を行うことで、誤った決定のダメージを制限し、機会を生かすことができる。
ここで強調しておきたいのは、「エッジ(edge)」にいる戦術的指導者が必要とする情報は、作戦計画策定や評価に必要な情報と同じではないということである。戦場の空間と時間の次元には重要な違いがある。
とはいえ、三位一体の組み合わせは、戦術的レベルと作戦的レベルの両レベルで必要な情報を供給し、さまざまなクラスの「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」を広く適用することで、戦術的な実行をサポートするだけでなく、作戦的、さらには戦略的な効果を生み出すこともできる。
ウクライナのような場所で三位一体が進化しているのを見るにつけ、同盟国軍隊が真の変革能力を達成するには、共有された知識(shared knowledge)を提供し、機械が支援する(搭乗員のいない)計画策定、タスク割り当て、紛争解消(deconfliction)を可能にするAI主導の統合(一体化した)環境が極めて重要であることは明らかだ。これは、すべての指導者や計画担当者が接続できる能力を提供し、軍事作戦の統合(一体化)と紛争解消(deconfliction)を成功させる中核的な能力となる[14]。
ウクライナで起こったこと、そして今後の戦場で起こるであろうことは、戦闘部隊のほとんどのレベルが三位一体の恩恵にアクセスできるということである。最良の情報は必ずしも司令部や作戦センターにある、というのはもはや真実ではない。
むしろ、「エッジ(edge)」にいる指導者は、同じデジタル情報にアクセスし、周囲で起きていることを局所的に把握することができるため、本部で享受するよりも優れた状況認識(situational awareness)を持っていると言えるかもしれない。
これは司令部の役割を否定するものではない。司令部は作戦意図、計画策定、評価のために依然として必要である。しかし、戦術的レベルと作戦的レベルの指導者間の役割分担を再考する必要がある。
メッシュ化された民軍ネットワークから生み出される情報と、戦闘空間(battlespace)全体にわたる一般化された指揮・統制(C2)とが相まって、「エッジ(edge)」にいる指導者たちは迅速かつ致死性の決心を下し、より広範な取り組みの中で局地的な作戦を成功させることができる。この進展は、ウクライナにおける指導者の戦闘への取り組み方を変えつつある。
例えば、ウクライナのデルタ・デジタル指揮・統制(C2)システム(Delta digital C2 system)は、多くの状況で意思決定サイクルを大幅に短縮している。デルタ(Delta)は2022年以前にNATOと共同で開発されたもので、リアルタイムの地図と敵部隊の写真や位置を組み合わせたもので、デルタ(Delta)のアプリとネットワークに接続されたスマートデバイスにアクセスできる人なら誰でも入力できる[15]。
人工知能もデルタ(Delta)の一部であり、適切なユーザーに関連情報を迅速に提供するために使われている[16]。ウクライナ軍はGIS Artaと呼ばれるシステムも採用しており、ボトムアップ・アプローチで戦場のターゲットを選定する。GIS Artaのほとんどのユーザーは、スマートフォンのアンドロイド・アプリを使っている。
このアプリは、迅速なターゲット検証、指揮官の優先順位に応じた選択肢の生成、ターゲットとの交戦のための提案を提供する[17]。さらにウクライナは、小型UAVの飛行に関するデータを「グラファイト(Graphite)」と呼ばれる指揮・統制システムに統合(一体化)することに取り組んでいる[18]。
これらのシステムによって提供される情報へのアクセスと合理化された指揮・統制(C2)は、戦術的指導者が「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」をよりよく使用することを可能にする(ただし、この現実の完全な可能性は、実装における文化的および技術的な課題のためにまだ実現されていない…これらについては本稿で後述する)。
このようなシステムは、特に空中では、偵察や野戦砲、迫撃砲、戦車からの間接射撃の修正に使われる。また、徘徊型弾薬(loitering munitions)としても使用される。最近では、より長距離の攻撃にも使用されるようになっている。
「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」と他の三位一体技術を組み合わせることで、戦場により広範なセンサー・ネットワークが確保されている。収集された情報は、砲撃を要請したり、ドローン自体を攻撃システムとして使用し、弾薬を投下したり、「神風(kamikaze)」ドローンとして使用したりするために使用される。戦術的な結果として、発見から破壊までの時間が大幅に短縮される。ターゲットを探知し、交戦するまでの時間は約3〜5分である[19]。
キル・ウェブの急激な縮小は、厳しい現実を生む。戦闘部隊とそれを支援する部隊の集中は、より危険になった。集中部隊や固定部隊は容易に発見可能であり、それらに迅速な火力を指向する能力はすべての側が達成可能である。
したがって、戦闘部隊は、複数のドメインにわたって部隊の全体的なシグネチャを低下させる分散化戦術を採用しなければならない。これらの部隊はまた、防御の重要な側面として移動を受け入れなければならない。その結果、攻撃の脅威にさらされている部隊の分散と移動を指揮する上で、若手指導者が積極的な役割を果たす必要がある。これはリーダーシップ、訓練、装備、戦術に大きな影響を与える。
つい最近まで、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」は希少資源であり、これらの能力は決して十分ではなかった。戦闘機(fighter aircraft)も、砲兵隊も、偵察機も、ある部隊階層以下の個々の地上部隊に割り当てられるだけの数はなかった。
空中では、各任務指揮官に割り当てる空中給油機も指揮・統制(C2)機も十分ではなかった。こうした希少資源の配分は経済問題に最も似ていたため、軍隊は経済原則を採用し、希少資源に関する権限は高いレベルで保持した。
ウクライナは、比較的安価で広く入手可能な商用ドローンを大量に調達している。ウクライナ軍はこれらのドローンを前線に配備しており、その数が多く、能力レベルが高まっているため、ドローンの運用は偵察、監視、打撃作戦において非常に効果的である[20]。
例えば、中国企業DJIが製造したドローンが大量に配備されている。ウクライナのデニス・シュミハル首相は、軍に直接販売しないという同社の方針にもかかわらず、DJIのマビック(Mavic)・クアッドコプター・ドローンの世界生産量の60%以上をウクライナが調達したと述べたほどだ[21]。
多くのドローンは単体の攻撃要素として使用されている。各ドローンには操作員が割り当てられ、一人称視点(FPV)を使って個別に任務を指示する。戦場でのスウォーミングは、特にライトショーや花火の代替など、民間産業で広く使用されているにもかかわらず、まだ始まったばかりである。
スウォーミングがあらゆるドメインで一般的になれば、軍事作戦におけるドローンと人間の密度にまた新たな変化が起こるだろう。スウォーミングによって、個々の操作員が多数のドローンを指揮できるようになり、攻撃と防御の両方で潜在的な効果が倍増する(この意味については後述)。これにより、特に個々のドローンのコストが下がり続ける中、より多くのドローンがスウォームに加わる必要性が高まるだろう。
「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」のコストが低下し、能力が向上しているため、十分な数を確保することができる。適切な投資を行えば、軍隊は前線部隊の個々の指導者に相当数のこれらのシステムを提供することができ、指導者は三位一体によって提供されるリアルタイムの認識と、「エッジ(edge)」に存在する戦場の感覚を最大限に活用することができる。
安価で十分な性能のシステムを大量に使用すれば、「エッジ(edge)」の指導者は迅速に行動し、友軍のリスクを抑えながら敵に損害を与えることができる。より少数の、より有能な「搭乗員有システム(crewed systems)」乗員付き、あるいは「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」、さらには少数の精巧なシステムと組み合わせれば、その効果は甚大で、ゲームを変えることさえある。
戦略的な搭乗員無しシステムの開発の機会:Opportunities for the Strategic Development of Uncrewed systems
本稿では、「変革の三位一体」と形容される巧妙かつ絶え間なく進化するシステムの中で、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」が採用する軍事機関にいかに大きな優位性をもたらすかを探ってきた。このアプローチの戦略的可能性を完全に実現するためには、人材、プロセス、調達(procurement)における変化が必要である。
人材:People
あらゆる軍事能力の中心にあるのは人である。逆説のように思えるかもしれないが、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の恩恵を最大限に享受するためには、人材が不可欠である。これを可能にする人材を求める軍隊は、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の普及が、採用、訓練(個人および集団)、教育、文化、昇進、指導者育成モデルにどのような影響を与えるかを検討する必要がある。
軍事機関は、自律システムを運用し、保守し、その能力を向上させるための研究を行う人材に対して、外部産業と競争できる勤務条件を提供しなければならない。「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の労働力におけるさまざまなニーズに対応できる人材を惹きつけ、維持する能力だけでなく、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の任務の計画策定と実行における自動化拡大の迅速な検討が必要である。
一人称視点(FPV)や海上半潜水型システムのような「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の大部分は、プラットフォームごとに少なくとも1人、多くの場合はそれ以上の操作員を必要とする。この構成は最適とは言い難く、コストがかかりすぎ、適切な人員配置が難しく、戦術的に脆弱である。
そのためには、優秀な人材の獲得に加え、複数の「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」を個人で操作・連携できるソフトウェアの導入が必要だ。「ロボットやドローンによる組織化(robotic or drone orchestration)」[22]と形容される、このための技術的解決策が現在市場に登場しているが、このような運用形態は、人材に新たなアプローチを求める原動力となるだろう。
軍隊は、複数の「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」が同時に任務を遂行する環境で、単独で、あるいはより大規模な人間と機械のチームの中で活動できる人材を採用し、訓練し、権限を与える必要がある。
多くの同盟国の軍隊は、正規軍と予備役軍を志願または半志願の構成で抱えている。これは「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」に対して大きなチャンスとなる。予備役部隊には、三位一体の変革の運用に関連する現代的な技術的技能を持つ人材がいることが多い。
このような人材を特定し、これらの技能を活かせる職務に就かせる必要がある。正規軍や予備軍の労働力モデルの中で必要な技能を見つけることができない、あるいは維持することができない場合、これらの軍隊は請負業者を使って戦力を補う必要がある。
現役、予備役、請負業者のためのこの統合(一体化)された労働力モデルは、変革的な三位一体の可能性を最大限に引き出すために、技術的技能と多様な新しい考え(ideas)をもたらすための基本となる。これは、軍隊が「エッジ(edge)」で奉仕する若手指導者を育成しようとしているときに特に当てはまる。
ミッション・コマンド(mission command)を遂行するために訓練され、信頼された、あらゆるレベルの権限を与えられた指導者(empowered leaders)は、将来の戦闘において、認知的、時間的側面を支配することができる。三位一体を活用し、部隊を分散・移動させながら、より迅速かつ低リスクで敵に大きな損害を与えることができる。
このように、三位一体は、広い意図の中で分権的に行使されるタイムリーな戦場での行動の主導性に報いる。別の言い方をすれば、三位一体は指揮系統(chain of command)の上下の信頼に報いるものであり、この信頼が真のミッション・コマンド(mission command)を可能にするのである。
各部隊階層で人々を信頼し、権限を与えることで、このような発展を優位性を利用する軍事部隊は、作戦上の優位性と戦略上の優位性へと変換できる多大な戦術的優位性を享受することになる。
この優位性を獲得するには、軍隊は、国内および戦場で信頼できる部下と上司の関係を構築することを到達目標に、信頼構築を強化するための訓練と教育を進化させる必要がある。この訓練と教育は、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」と、その中で活動する変革的な三位一体を活用できるような指導者が生まれれば、成功するだろう。
これは、従来の共産主義の原則の下で形成された軍隊よりも好ましい形で、同盟国の軍隊にとって極めて重要な機会である。同盟国の軍隊には、下士官や下士官レベルで戦闘指導者(combat leaders)を育成してきた長い歴史がある。
これらの指導者は、たとえ上層部から切り離されていても、判断力と主導性を発揮することができる。佐官級将校(field-grade officer)や上級下士官の階級に就くまでに、各国は彼らに何時間もの訓練と教育を施してきた。
共産主義のドクトリンに基づく部隊の同世代の指導者たちよりも、これらの指導者たちは、全体的な意図の中で独立した意思決定を行うことができる。これはしばしばミッション・コマンド(mission command)と表現されるが、三位一体によってより達成しやすくなっている。
さらに、同盟国軍隊は三位一体を活用することで、常に全体的な意図の範囲内で、それぞれの状況に応じたマルチドメイン作戦を指揮できる指導者を擁し、大規模なミッション・コマンド(mission command)を実現できるようになった。このミッション・コマンド(mission command)の潜在能力をフルに発揮するには、「エッジ(edge)」の指導者が三位一体の技術と、情報に基づいた主導性(initiative)と積極性を組み合わせる必要がある。
そのためには、軍のリーダーシップ・モデルの進化が求められるだろう。人間のチームに目的、方向性、結束を提供するという古い要件は残っているが、新時代の指導者は、半知能マシンと意思決定支援アルゴリズムの割合が増加しているチームを率いるための知識と技能を開発する必要もある。
そのためには、あらゆるレベルの指導者の技術的リテラシーを向上させる必要があるだけでなく、効果的なヒューマン・マシン・チーミング(HMT)に必要なリーダーシップを根本的に評価する必要もあるだろう。
戦争におけるあらゆる変革と同様、文化改革は極めて重要かつ困難である。「搭乗員無し戦闘システム(uncrewed combat systems)」に関する大きな疑問は、同盟国の軍隊、特に米軍にとって未解決のままである。ウクライナの経験、そしてその実験と実戦の結果から、これらの軍隊は学ぶことができるのだろうか。これまではそうではなかった。
確かに、多くの有望な実験が行われてきた。しかし、現在までのところ、ウクライナで見られたような規模のドローンをコンセプト化し、実戦配備し、訓練した米軍の部隊はない。なぜなのか?その根拠は複数ある。
米国内には、我が軍はウクライナとは異なる闘い(fight)をすると思い込んでいる者もおり、ウクライナの闘い(fighting)から学べることには限界がある。密接に関連しているのは、戦い(warfare)が急速に変化し、潜在的な敵対者がドローンなどの新たな技術を使って容認できないほどの消耗を強いるという強いシグナルがあるにもかかわらず、米軍と一部の主要同盟国をいまだに悩ませている緊急性の欠如である。
これに加え、大手防衛企業は、ドローン開発に「全力投球(all in)」するための十分な利益誘因があるとは認識しておらず、新規ドローン・メーカーの参入障壁は大きい。最後に、反対の声明を出しているにもかかわらず、米軍の指導者の多くはミッション・コマンド(mission command)を信じておらず、本稿で取り上げた三位一体の技術のような、「エッジ(edge)」の指導者に権限を与えるようなシステムを導入するインセンティブがない。
このような文化的な困難にもかかわらず、米軍と同盟国の軍隊は、自らの意思で、あるいは状況によってそうせざるを得なくなることで、変化していくだろう。
プロセス:Process
軍事分野(military affairs)における変革とは、その大部分がプロセスにおける変革である。主要な軍事プロセスには、戦術、ドクトリン、組織、支援機関、軍事制度における学習と適応が含まれる。これらのプロセスにおける変革を通じて、同盟国の軍隊は、これらの新たな技術を形成し、その強みを生かす形で、その使用のための基盤を提供する機会を得、その結果、戦闘において大きな優位性を得ることができる。
同盟国の軍隊は、技術、ドクトリン、訓練を積極的に形成し、それらが連携して「エッジ(edge)」にいる指導者に権限を与えるようにする必要がある。その際、同盟国の軍隊は、これらの指導者が上級司令部と途切れることなくつながる可能性は低いことを認識しなければならない。比較的若手指導者であっても、単独で行動を起こさなければならない場合がある。
したがって、同盟国の軍隊は選択を迫られている。分散独立行動を自軍の主要な戦いの方法とするやり方を採用するか、あるいは、このやり方を司令部との通信が途絶えたときの不測の事態として扱うかである。
統合作戦における分散型用兵コンセプト(distributed warfighting concepts)の開発は、最優先事項でなければならない。これらのコンセプトは、その後の迅速な調達(rapid procurement)や訓練・教育に反映されるべきである。
同盟国の軍隊には、若手指導者を育て、信頼させるという本質的優位性(natural advantage)があり、こうした若手指導者が、潜在的な敵対者よりも戦闘状況下で効果的かつ自立的に作戦できると期待する十分な理由がある。これに加えて、戦場での通信がすべての関係者にとって妨げられ、散発的になることはほぼ確実である。
上記で論じたように、ドクトリンは、現代の戦場における「新常態(new normal)」として、指揮官の広範な意図の中での主導性(initiative)と自主的行動の重要性を強調するように調整される必要があり、それに対応して、この要求のために部隊を準備することを約束する必要がある。これらの各部隊は、予想される環境に応じて、複数のドメインにおける主要能力を備えるべきである。
技術は、「エッジ(edge)」にいる指導者たちが素早く解釈できるように、リアルタイムの認識を押し進めるように形成されるべきであり、これらの指導者たちは、デジタル化された指揮・統制(C2)システムを通じて、局地的な行動を指示できるようにすべきである。
このプロセスの重要な要素は、指導者に課された指揮の権限と法的権限である。これは、ドクトリン、教育、訓練に影響を及ぼす。同盟国の軍隊が変革の三位一体を最も効果的に活用できるのは、指導者に、関連するドメインにおける「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」を指揮する権限と、上級司令部からの一般的な指示によって導かれながら、必要に応じてそれらを統制する能力を与えるときである。
これが運用の主要なパラダイムとなるべきである。例えば、前線の地上部隊の指導者は、効果的な機動と火力の組み合わせ(combination of maneuver and fires)を可能にするため、「搭乗員無し地上および航空システム(uncrewed ground and air systems)」を利用できるようにすべきである。航空部隊の指揮官は、弾倉の縦深(magazine depth)を増すため、「地上配備の搭乗員無し地対空ミサイル砲列(ground-based uncrewed surface-to-air missile batteries)」を利用できるようにすべきである。海上の指導者は、「搭乗員無し水中(uncrewed underwater systems)」、「搭乗員無し水中(uncrewed surface systems)、「搭乗員無し水中(uncrewed air systems)」を利用できるようにすべきである。
訓練中の指導者は、民間空域で「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」を使用する権限を持つべきであり、自国での訓練演習でGPSジャマーや電子戦をより広範囲に使用できるようにすべきである。
重要なのは、特にこれまで近接戦闘(close combat)とみなされてきた戦闘において、人間と「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の密度が変化することで、軍事機関のあり方が根本的に変わる可能性があることだ。実際、今後10年のうちに、軍事機関は「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」が人間を上回る状況を実現するかもしれない。
現在、軍事組織の戦術、訓練、リーダーシップ・モデルは、主に人間である軍事組織のためにデザインされており、それらの人間は機械を密接に統制している。近い将来、人間と「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の比率は逆転し、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の多くは、人間に利用されるだけでなく、人間と協力できるようになるだろう。
単に機械を使うだけでなく、機械と提携するために人間を準備させるために教育や訓練を変えることは、必要だが困難な文化的進化である。真に賢い機械の世界が到来し、そのためには人材の採用、訓練、教育、インセンティブの与え方など、軍事機関とそのプロセスに大きな調整が必要となる。
この文化的進化は、人事・調達(procurement)政策の中核をなす、各軍種の基本的任務でなければならない。正規軍は忙しすぎてイノベーションどころではないため、予備役部隊に委ねられる任務ではありえない。そのためには、リーダーシップ、協力、リスクテイク、そして最も重要なこととして、軍事機関の異なる未来についての想像力を育むことが必要である。
しかし、その前に立ちはだかる最も困難な文化的課題のひとつは、調達(procurement)と取得(acquisition)を取り巻く現在の文化である。
調達:Procurement
三位一体の中で多数の「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」を実戦配備し、敵のこれらのシステム利用を低下させる防御システムを実戦配備するためには、軍事機関は装備要件を特定し、調達行動(procurement action)のための資金を申請し、適切な装備品とサービスの契約に合意しなければならない。これらの各分野において、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」は独自の課題を突きつける。
ウクライナ紛争では、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の多くのクラスについて、非常に高い消耗率(attrition rate)があることが経験で示されている。ウクライナ軍もロシア軍も、前線の1キロメートルごとに数十両のこれらの車両を採用している。
その大部分は兵器として使用され、その他は敵の行動や事故によって失われる。英国王立連合サービス研究所(RUSI)の最近の報告書によれば、ウクライナ軍の消耗率(attrition rate)は月に約1万である[23]。
このようなシステムの損失が双方で週に数千に達する可能性がある環境では、ドローンの迅速な調達(rapid procurement)は産業の動員同様に極めて重要である。ウクライナ政府は、ドローンの開発・生産に対する官僚的な障害に対処するため、意図的に取り組んできた。
2023年3月、ウクライナ政府は、ウクライナ軍のドローン契約入札に関連するお役所仕事の一部を取り除く政令を発表した[24]。イノベーションと技術を統括するミハイロ・フェドロフ(Mykhailo Fedorov)副首相は、「不必要な書類や官僚的作業に何カ月も費やす代わりに、(我々は)ドローンの運用開始、購入、前線への納入を加速させるだろう」と指摘した[25]。これらの措置は、「既製品」の商用ドローンの広範な調達(procurement)を伴っている。
多くのドローンは、商業ドローン会社から前線のウクライナ旅団に直接調達されており、手頃な価格で効果的なドローンシステムへのアクセスも向上している[26]。この傾向は今後の紛争でも続くだろう。
T.X.ハメス(T.X. Hammes)はこう書いている。「商業用ドローンの能力の向上は、軍隊がこの技術をどのように利用するかというゲームを変えつつある……このような商業用監視ペイロードを搭載した長耐久性の商業用ドローンの範囲が広がることで、小規模な国家でも手頃な価格でインテリジェンス、監視、偵察(ISR)と攻撃を利用できるようになるだろう[27]」
同盟国の軍隊がウクライナの経験から学んでいる兆候がある。前述したように、米国防総省は最近、「レプリケーター」構想(Replicator initiative)を明らかにした。この取り組みはキャスリーン・ヒックス(Kathleen Hicks)米国防副長官によって発表された。「我々は、レプリケーター(Replicator)には大きな到達目標を掲げている。今後18~24カ月以内に、数千の規模で、そして複数のドメインで「損耗可能(attritable)」な「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」を実戦配備することだ」[28]。
レプリケーター(Replicator)は、ウクライナからの洞察や、米国とその同盟国が達成したウォーゲーミングや実験と完全に一致しているように見え、米国が「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」を「エッジ(edge)」に押し上げ、大量、低コスト、全ドメイン、「損耗可能なシステム(attritable systems)」、およびさまざまな程度の自律性を通じて最前線の指導者に権限を与えるための道筋を提供する。
しかし、ドローンを大規模に採用しようとする軍隊には、重要な問題が残っている。例えば、「搭乗員無しシステム艦隊(uncrewed systems fleets)」における高度化(電子的硬化を含む)、能力、コスト、数量の間にはトレードオフがある。「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」には、「万能ですべての任務に対応できる」アプローチは存在しない。
同盟国軍隊は、ローエンドの安価な戦術システムからハイエンドの高価なシステムまで、多種多様なシステムを必要とする。これらの「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」のすべてが商業的に調達できるわけでも、迅速に入手できるわけでもない。より長い耐久性、より速い速度、そして/またはより高度な機能を必要とするものもあるだろう。
「搭乗員無しシステム艦隊(uncrewed systems fleets)」全体で適切なバランスを達成するには、さらなる実験と、「搭乗員無し艦隊(uncrewed fleets)」における能力と能力容量のトレードについての教訓を学ぶために、そのプロセスにおける多少の失敗を許容することが必要である。
さらに、国家総動員の一環として、既存の在庫とジャスト・イン・タイムの生産との最適なレベルや、内部開発システムと市販システムの適切なバランスについても疑問がある。
このような内部開発対商業開発のバランスは、国防と商業のより良い関係を模索することにも及んでおり、それは「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の能力を支えるメッシュ化されたセンサー・ネットワークの能力と質、そしてそこから得られるインテリジェンスの配布にますます影響を与えることになる。商業企業との協力は、本稿で検討した変革的三位一体の戦略的・戦術的優位性を実現する上で中心的なものである。
提言:Recommendations
「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」は何十年も前から軍に存在しているが、センシング、センス・メイキング、意思決定を支援する破壊的技術の幅広い配列の中で、その可能性を完全に実現するにはまだ初期段階にある。
この2年間で、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の能力は飛躍的に向上した。さらに、実戦配備されるシステムの量も増え、コストも下がっている。こうした傾向が今後も続くと信じるに十分な理由がある。さらに加速するかもしれない。
以下は、米国防総省(DoD)に対する提言である。他の同盟国の軍隊も、同様の具体的なステップを踏むことで、自軍の組織や統合(一体化した)用兵(integrated warfighting)の実施方法、さらには三位一体技術の文脈の中で「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の広範な利用をどのように採用するかについて、これまでとは異なる未来を想像することができるだろう。
重要なことは、これらの提言を迅速に実施し、米国防総省が変革的な三位一体をもたらし、それを絶えず進化させる適応サイクルにおいて、中国やロシアなどの敵対者を打ち負かすことができるようにするために、機関の指導者がより多くのリスクを受け入れることを推奨することである。
▷ 米国防長官は、軍種と統合要員に対する用兵への影響(warfighting implications)を調査するために、一時的な軍種横断的なタスク・フォースを設立し、軍事作戦における「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の比率を大幅に変えるための新しい訓練モデルを設立すべきである。
この作業には、現代の教訓を生かした、空、海、陸の各ドメインにおけるさまざまな組織構成の検討も含まれるべきである。これは、米国防副長官と統合参謀本部副議長が共同で主導する現在の米国防総省のレプリケーター構想(Replicator initiative)に統合(一体化)されるべきである[29]。
レプリケーター(Replicator)は、用兵コンセプト(warfighting concepts)、ドクトリン、組織、訓練から独立して追求されるストーブパイプの取得の取組み(acquisition initiative)であってはならない。その代わりに、この取組み(initiative)は、軍人、公務員、科学関係者、商業担当者で構成される小規模で高速なチームから恩恵を受け、作戦コンセプト、新しい人材管理と昇進パイプライン、および正規および予備役の両方の労働力のユース・ケースを迅速に共同開発できる。
おそらく最も重要なのは、このチームが国防革新ユニット(DIU)や他の取得団体(acquisition entities)と同時並行で、本稿で述べた変革の三位一体の可能性を追求するソフトウェアやプラットフォームの解決策を特定することである。
▷ 米国防次官(取得・維持担当)は、「搭乗員無し(uncrewed systems)」や、それに対抗するハードキル・システム、ソフトキル・システムのデザインを、調達プロセス(procurement process)において製造能力から切り離すような取得戦略(acquisition strategies)を検討すべきである。
従来のプロセスでは、プラットフォーム一式を大量に納品する契約を求めており、プラットフォームをデザインしたのと同じ企業が大規模に製造する企業でもあることを前提としている。このため、小規模で機敏な企業は、優れたデザインを提供したとしても、多数のシステムを提供する製造能力を持っている可能性は低いため、主要なインテグレーターに対して不利な立場に置かれる。
このようなシステムの最良のデザインは、防衛産業の従来からの参加者以外から生まれる可能性がある。政府は最良のデザインを選択することができるはずであり、その後、各企業が競って大規模な製造を行えるようにすべきである。さらに、優れたデザインを購入し、それを同盟国と共有することで、同盟国の製造能力が利用可能なシステム全体の数に貢献し、相互運用性がデフォルトで組み込まれるという大きな優位性がある。
▷ 米国防総省は、AUKUSのようなモデルの下で、変革的三位一体の同盟バリエーションの開発を模索すべきである。米軍は必ず、欧州やインド太平洋地域の同盟国とともに展開、訓練、作戦、用兵(warfighting)を行うことになる。メッシュ化されたセンサー、デジタル化された指揮・統制(C2)、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の三位一体が、軍種間だけでなく同盟間でも統合(一体化)されていることを確認することは、切実な優先事項である。
これには、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」製造における冗長性の開発や、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」に関する同盟ドクトリンの開発・適用も含まれるべきである。また、ハード・キルとソフト・キルの機会を含め、潜在的敵対者が実戦配備する「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」に対抗するための必須事項に関する協力も含まれるべきである。
最後に、この協業は、戦闘空間(battlespace)における人間が操作するシステム(human-operated systems)の比率が低下した場合の影響や、それが状況認識(situational awareness)や作戦上の洞察の生成にどのような影響を及ぼすかについても検討する必要がある。
▷ 米国防副長官は、異なる組織が機密情報を共有し、これらのシステムの開発に協力できるよう、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」に関する単一の共通アクセス・ポートフォリオを作成すべきである。このポートフォリオには、各軍種、防衛機関、および同盟国軍のメンバーを含めるべきである。同盟国軍は、自国の取組み(initiatives)をこのポートフォリオに含めるよう要請されるべきである。
▷ 米国防長官と統合参謀本部議長は、統合要件監督評議会(JROC)に対し、統合用兵コンセプト(Joint warfighting Concept)から統合コンセプトが要求する能力が米国防総省全体で追求されることを確保しつつ、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の統合ポートフォリオを監督するよう指示すべきである。統合要件監督評議会(JROC)には、多様なポートフォリオの開発を指示し、各軍種間の冗長性を制限する権限が与えられるべきである。
▷ 各軍種を含む米国防総省の組織は、ウクライナとイスラエルの教訓を生かすとともに、変革の三位一体における「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の広範な適用における技術的発展を予測し、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」およびそのハードキル・カウンター(hard-kill counter)とソフトキル・カウンター(soft-kill counter)の新たな用兵コンセプト(warfighting concepts)を開発するための試作品による実験に資金を提供し、実施すべきである。
米国防副長官は、この目的のために統合迅速開発実験予備軍を利用すべきである。これらの実験の結果は、戦闘軍の計画と同様に、新しい軍種レベルのドクトリンを推進する必要がある。
▷ 米国防総省の「ヘッジ・ポートフォリオ」の一環として、米国防長官は戦略資本局(OSC)に対し、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」をデザイン・生産する企業への民間投資を奨励するよう指示すべきである。議会が戦略資本局(OSC)に、民間企業のリスク軽減に投資し、将来の調達決定(procurement decisions)において米国防総省の関心を示すための限定的な予算権限を与えれば、戦略資本局(OSC)はさらに効果的となる。
▷ 進化する用兵コンセプト(warfighting concepts)と協調して、研究所を含む米国防総省の組織は、ドメイン全体にわたる「搭乗員無しシステムの組織化(orchestration of uncrewed systems)」(すなわち「スウォーミング」)を実験すべきである。この取組みは、いくつかの潜在的な優位性を得ることに重点を置くべきである。
第一に、個人または少人数のチームの監視下での複数の「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の作戦は、一人当たりの能力が向上し、必要な訓練を受けた操作員の数が減少する。また、多数の脆弱な運用センターの必要性も減少する。さらに、グループで「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の作戦をする場合、個々のシステム間で分業(division of labor)できるようにデザインすることができる。
実用的な情報を収集し、それを共有するための高度なセンサーのような精巧なペイロードを搭載できるものもあれば、弾薬のような比較的単純なペイロードを搭載できるものもある。囮(decoys)になるものもある。これらのシステムの1つまたはいくつかが失われたとしても、編隊に深刻な損害を与えることはないだろうが、安価なドローンに対して高価な兵器を使用する敵対者には大きなコストを課す可能性がある。
任務の中には、ドメインを超えて「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」を編成することが有利なものもある。例えば、敵対者の要塞を無力化するために派遣される「搭乗員無しの陸上システム(uncrewed ground systems)」は、リアルタイムの脅威情報を提供する上空のシステムから恩恵を受ける。
同様に、敵の艦艇を感知・識別できる空中システムは、潜水艦システムを攻撃のベクトルにすることができる。スウォーミングと自律性は、必要な操作員の数を減らすことを意味するが、これらのシステムを指揮する操作員は、マルチドメイン効果を生み出すことに習熟している必要がある。
▷ 具体的な要件の代わりに、米国防総省の取得執行官(acquisition executives)は、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の性能を評価するためにトレードオフの範囲を採用すべきである。米国防総省の一組織がそのすべてを把握するには、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の潜在的なデザインは多すぎる。さらに、マイクロエレクトロニクス、先端製造、代替燃料など、重要な実現技術は急速に進歩している。
その結果、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」やハードキル・カウンター・システム、ソフトキル・カウンター・システムに対する最適な要件を公表することが極めて困難になっている。その代わりに、米国防総省は解決すべき軍事的問題を詳細に説明し、潜在的な提供者にその問題を解決するシステムのデザインを求めるべきである。
また、各社が解決策を提示する際には、作戦上の考慮事項を含め、様々な属性におけるトレードオフについて詳細な説明を行うことも求められるべきである。例えば、多くの短距離システムは、少数の長距離システムと同じコストと性能を持つかもしれない。
短距離システムは、不確かなパートナーの領域からの発進と回収を必要とする可能性があり、一方、長距離システムは、脅威の近くで空中給油を必要とする可能性があり、有人タンカー艦隊の脆弱性を増大させる。トレードオフを明確に特定することで、どのデザインを購入すべきか、十分な情報を得た上で決定することができる。
これらのトレードオフには、重量、速度、航続距離、耐久性、素材、主要な脅威に対するシグネチャ、モジュラー・コンポーネントの電力と冷却、製造と組み立ての容易さ、現場での持続可能性(「エッジ(edge)」の近くで生産された部品でシステムを修理する可能性を含む)、操作の複雑さ、自律性の程度、ソフトウェア更新の柔軟性、安全性への配慮、内蔵の冗長性などが含まれる。
▷ 重要なトレードオフの検討と密接に関連するが、米国防総省の取得執行官(acquisition executives)は、任務達成のための完全負担コストとコスト賦課を比較する「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の重要性能パラメータを採用すべきである。非搭乗員システムの採用は、軍事部隊間の交流を促進し、その結果、各陣営にとって非常に異なるコストが発生する可能性がある。
防御側が安価なドローンを撃墜するために高価な迎撃ミサイルを何発も使うようなケース(ウクライナでは双方がこれを行った)のように、コストが大きく非対称になることもある。ターゲットを破壊するために安価なドローンを大量に送り込むコストと、センサーと訓練を受けた要員を備えた高度な防空能力を実戦配備して運用するコストを比較した場合、コストの差はさらに不釣り合いなものになる(そして防御側にとっては持続不可能なものになる可能性が高い)。
「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」は、敵対者に高いコストを負担するか、能力の喪失を受け入れるかの選択を迫るという具体的な目標をもって採用することが可能であり、またそうすべきである。現在のところ、コストの問題は安価なドローンを攻撃に使用する側に有利であるが、防御コストを下げ、一方的な攻撃ドローンの使用をはるかに魅力的でなくする重要な技術が適用されつつある[30]。
この開発は、「迎撃コスト曲線を防御側に有利にする」選択肢を必要とする米国とその同盟国にとって、極めて重要なものとなる可能性がある[31]。どの攻撃ドローンを調達するのか、あるいはどのような防御能力を実戦投入するのかを選ぶにせよ、取得執行官(acquisition executives)は、任務達成とコスト賦課の間の総合的なコスト比較を検討すべきである。ほとんどの場合、この比較によって取得決定(acquisition decisions)を下すべきである。
▷ 米国防総省は、議会と協力し非伝統的な調達権限(procurement authorities)の利用を強化し、用兵能力(warfighting capability)だけでなく、自国での訓練や実験を提供する商業用ドローンや商業用ドローン・サービス・プロバイダーをより迅速に調達(more rapid procurement)できるようにすべきである。これらのシステムは、将来の採用が計画されているものと同じである必要はない。
作戦部隊は、現在利用可能なシステムで有益な学習と訓練を得ることができ、得られた経験により、より高性能な「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の採用が容易になる。これらの調達権限(procurement authorities)には、国産「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」の開発と大量生産を加速させる可能性のある、商業および学術分野の外部組織と提携する権限も含めるべきである。
▷ 統合参謀本部の統合部隊開発発部長は、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」での作戦から得られた教訓のアクセス可能なリポジトリを編集し、公開すべきである。変革の三位一体の中で、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」に関連した学習を文書化し、公表することで、米国防総省は、調達組織(procurement organizations)と同様に、軍部隊における適応を促すことができる。
さらに、採用、訓練、インフラ要件、用兵コンセプト(warfighting concepts)の継続的な適応と改善を確実にするため、このリポジトリ・データは、生成的人工知能を含むアルゴリズム学習の使用実験に利用できるようにすべきである。
結論-課題に立ち向かう:Conclusion – Meeting the Challenge
米国とその同盟国にとって、戦闘での成功には人間と技術の強力かつ強力な融合が必要である。ウクライナやガザでの実戦経験や、ウォーゲームや実験を含む最良の証拠は、本稿で取り上げた変革的な三位一体の技術の要素が、「搭乗員無しシステム(uncrewed systems)」も含めて、このブレンドの基本になることを示唆している。
将来の安全保障環境において、侵略を抑止し紛争に勝利するために米国とその同盟国が必要とする戦略的優位(strategic edge)は、技術や人間だけでは実現できない。新時代の技術と新しい考え(ideas)、新しい組織、権限を与えられたリーダーシップとの最適な融合においてのみ、同盟国軍隊は、危険で不確実な時代において潜在的な敵対者に対する戦略的優位(strategic edge)を維持するためのアプローチにドローンを統合(一体化)することができる。
そしてそれは、冷戦終結後の同盟国軍隊組織には見られなかったペースで行われなければならない。ロシア、特に中国が大規模に用兵能力(warfighting capabilities)を開発、配備、進化させることができるスピードは、将来の用兵の優位性(future warfighting advantage)を構築し、維持するためには、米国防総省にこれまでとは異なる戦略的テンポを導入させる必要がある。
ノート
[1] James Hasik, Economy, Autonomy, and Rethinking the Military, CEPA (2023).
[2] Deputy Secretary of Defense Kathleen Hicks Keynote Address: ‘The Urgency to Innovate’ (As Delivered), U.S. Department of Defense (2023).
[3] The Replicator Program has been covered widely in the press and by think tanks since August 2023. See Michael O’Connor, Replicator: A Bold New Path for DoD, Center for Security and Emerging Technology (2023).
[4] 不幸なことに、戦場での迅速な勝利は、イラクやアフガニスタンでの永続的な政治的解決策にはつながらなかった。
[5] Federico Borsari & Gordon B. “Skip” Davis, Jr., An Urgent Matter of Drones, CEPA (2023).
[6] Joint Counter-small Unmanned Aircraft Systems Office, U.S. Army (2021).
[7] Oleksandr Stashevskyi & Frank Bajak, Deadly Secret: Electronic warfare Shapes Russia-Ukraine War, Associated Press (2022); Alia Shoaib, Ukraine’s Drones Are Becoming Increasingly Ineffective as Russia Ramps Up Its Electronic warfare and Air Defenses, Business Insider (2022); Mick Ryan, How Ukraine Is Winning in the Adaptation Battle Against Russia, Engelsberg Ideas (2022).
[8] Mick Ryan, How Ukraine is Winning in the Adaptation Battle Against Russia, Engelsberg Ideas (2022)
[9] Mick Ryan, Winning the Adaptation Battle, Futura Doctrina (2022).
[10] これらはおそらく、銃による防御、安価な迎撃ドローン、移動のドクトリンと組み合わせた電子攻撃をある程度含むだろう。
[11] 最新の『中華人民共和国の軍事と安全保障の発展、2023年』(国防総省、2023年)を含むさまざまな報告書が記述しているように、人民解放軍(PLA)は、理論的には、非常にシステミックで統合(一体)的な戦いへのアプローチが可能な、統合化され情報化された軍隊を開発している。
[12] Offset-X: Closing the Deterrence Gap and Building the Future Joint Force, Special Competitive Studies Project (2023).
[13] Offset-X: Closing the Deterrence Gap and Building the Future Joint Force, Special Competitive Studies Project (2023).
[14] マイク・グルーン(Mike Groen)中将(退役)のこの指摘には感謝している。
[15] Ukrainian Military Innovations Proved Effective – And They’re Changing Modern warfare. Here is How, Brand Ukraine (2023).
[16] T.X. Hammes, Game-changers: Implications of the Russo-Ukraine War for the Future of Ground warfare, The Atlantic Council (2023).
[17] Mark Bruno, Uber for Artillery – What is Ukraine’s GIS Arta System?, The Moloch (2022).
[18] Valerii Zaluzhnyi, Modern Positional warfare and How to Win in It, The Economist (2023).
[19] Mykhaylo Zabrodskyi, et al., Preliminary Lessons in Conventional Warfighting from Russia’s Invasion of Ukraine: February–July 2022, Royal United Services Institute (2022).
[20] How Ukrainians Modify Civilian Drones for Military Use, The Economist (2023).
[21] Elisabeth Gosselin-Malo, Ukraine Continues to Snap up Chinese DJI Drones for its Defense, C4ISR.net (2023).
[22] MicrosoftやVotixなどの企業がドローン・オーケストレーションのソリューションを提供している。VOTIX -Drone Orchestration and Automation, VOTIX (2024); Unmanned Life – Robotic Orchestration Platform, Microsoft (2024)を参照。
[23] Jack Watling & Nick Reynolds, Meatgrinder: Russian Tactics in the Second Year of Its Invasion of Ukraine, Royal United Services Institute (2023).
[24] Resolution on the Implementation of an Experimental Project on Defense procurement of Domestically Produced Unmanned Systems, Ukrainian Ministry of Defense (2023).
[25] Ukrainian Government Facilitates Mass Drone Production, The Kyiv Independent (2023).
[26] 同時に、ウクライナ国防省はドローンの購入資金を調達するため、民間人から多額の寄付を募った。ある戦役(ウクライナ政府主催の「Army of Drones」と呼ばれるプログラム)では、開戦以来3000機以上のドローンがウクライナ軍に提供されている。Joe Tidy, Ukraine Rapidly Expanding its ‘Army of Drones’ for Front Line, BBC Online (2023); Jake Epstein, A Ukrainian Donation Drive built an ‘Army of Drones’ and Picked Up an Unusual System Called a ‘Shahed Hunter’ for Kyiv’s Forces, Business Insider (2023).
[27] T.X.ハメス(T.X. Hammes),「ゲームチェンジャー:ロシア・ウクライナ戦争が地上戦の将来に及ぼす影響(Game-Changers:Implications of the Russo-Ukraine War for the Future of Ground warfare)」, Atlantic Council (2023).さらに、商用ドローンを民間で購入し、ウクライナ軍に提供することで、ドローンメーカーが軍による購入に課す制限を回避することもできる。直近では、ウクライナ軍を攻撃しているイラン製の徘徊型ドローンから身を守ることができる「シャヘド・ハンター」システムを購入するために、ウクライナは民間資金を投入した。Jake Epstein, A Ukrainian Donation Drive built an ‘Army of Drones’ and Picked Up an Unusual System Called a ‘Shahed Hunter’ for Kyiv’s Forces, Business Insider (2023).
[28] Jim Garamone, Hicks Discusses Replicator Initiative, U.S. Department of Defense (2023).
[29] Jon Harper, Pentagon About to Pick Systems for Replicator Initiative, DefenseScoop (2023).
[30] A Startup Called Anduril has Unveiled a Reusable Missile, The Economist (2023).
[31] Federico Borsari & Gordon B. “Skip” Davis, Jr., An Urgent Matter of Drones, CEPA (2023).