ウクライナの領土防御軍からの教訓:指揮所の残存性 (www.army.mil)

戦場においては、衛星からの監視、監視・偵察に使用されるドローンの普及などにより隠れているつもりでも常に見張られていると考えたほうが良いと言われる。このことは第一線か後方地域にいるかを問わず、何も策を施さなければ脅威にさらされるということである。MILTERMでは、昨年6月に、ウクライナでの戦争での状況をみると、従来型の指揮所は簡単にターゲットにされるため、指揮所の在り方について論じた記事「指揮所の墓場 May-June 2023  Military Review」を紹介したところである。

今回紹介するのは、米陸軍の教訓センター(Center for Army Lessons Learned :CALL)が公表している記事である。指揮所の位置選定に当たっての考慮事項などが整理されたものであり、その内容は、具体的で至極当たり前のこととして理解できると推察する。指揮所設置を含む訓練などでチェックリストとしても使用できそうである。(軍治)

ウクライナの領土防御軍からの教訓:指揮所の残存性

Lessons Learned from the Ukrainian Territorial Defense Forces: Command Post Survivability

By Siegfried Ullrich and Sean Moriarty

February 6, 2024

1.    目的

本書は、ウクライナ領土防衛軍(TDF)の指揮所(CP)の残存性に関する観察と教訓を提供するものである。米陸軍教訓センター(CALL)は、ウクライナ領土防衛軍(TDF)の「大隊指揮所と観測所:戦争経験に基づく実践的な助言」と題するマニュアルから直接これらの観測結果を入手した。

ウクライナ領土防衛軍(TDF)は、指揮・統制(C2)ノードと兵士がロシア軍から探知されず、結果的に安全でいられるよう、これらの戦術・技法・手順(TTP)をまとめた。米陸軍の指導者と兵士は、現代の戦場で生き残る能力を向上させるために、これらの指揮所(CP)生存の教訓とベストプラクティスを考慮すべきである。

2.    はじめに

ロシア・ウクライナ紛争の主な特徴は、無人航空機システム(UAS)、間接火力(IDF)、電子戦(EW)による絶え間ない連携した脅威である。ロシア・ウクライナ紛争では、無人航空機システム(UAS)は隠れることが困難な無人航空機(UAV)で定期的に上空を埋め尽くしている。

さらに、間接火力(IDF)と電子戦(EW)の普及と有効性は、米陸軍のレガシー・コマンド・ポストの脆弱性に警鐘を鳴らしている。指揮所(CP)が大規模戦闘作戦(LSCO)で生き残るためには、計画者は指揮所(CP)のデザイン、配置、偽装のための新しい戦術・技法・手順(TTP)を考慮しなければならない。

この文書には、指揮所(CP)を敵から完全に見えなくしたり、生存可能にしたりすることができる機密の方法についての記述は含まれていない。なぜなら、そのような方法は存在しないからである。しかし、この文書は指揮所(CP)の生存可能性に関する重要な基本規則とガイドラインを提供している。ウクライナ領土防衛軍(TDF)は、指揮所(CP)の残存性に関する教訓を、信頼できる通信の確立、発見の回避、および間接火力(IDF)からの脅威の軽減の3つの主要分野に分けている。

3.    指揮所の場所に関する考慮事項

任務(Mission)、敵情(Enemy)、地形・気象(Terrain and weather)、部隊(Troops and support available)、時間(Time)、そして民事考慮事項(Civil consideration)[任務変数](陸軍)(METT-TC)が指揮所(CP)の位置を決定する原動力となる。ウクライナの指揮所(CP)は通常、前線から約2~5キロの位置にあり、戦闘段列指揮所(CTCP)は前線から約10キロの位置にある。

※ 参考(ATP 6-0.5_COMMAND POST ORGANIZATION AND OPERATIONS_MARCH 2017から)

戦闘段列指揮所(COMBAT TRAINS COMMAND POST :CTCP

1-30. 諸兵科連合大隊と歩兵大隊にも戦闘段列指揮所(CTCP)が配備されている。戦闘段列指揮所(CTCP)は、管理および兵站支援を管理・調整する。戦闘段列指揮所(CTCP)はS-1(大隊または旅団の人事参謀)とS-4参謀部の要員で構成される。大隊のS-4がこの指揮所(CP)を指導する。大隊の野戦支援中隊は通常、戦闘段列指揮所(CTCP)と共同配置される。

1-31. 戦闘段列指揮所(CTCP)は次の機能を行う。

 現在の作戦を監視し、主指揮所(MCP)の機能を引き受ける準備をする。

 大隊の後方支援を調整する。

 計画策定と統合(一体化)のために、主指揮所(MCP)に後方支援の代表を提供する。

 主要補給路を監視し、大隊の作戦地域内の後方支援輸送を統制する。

 負傷者、装備品、抑留者の避難を調整する。

一般に、戦闘段列指揮所(CTCP)が前線から離れれば離れるほど、探知や間接火力(IDF)から防護される。しかし、戦闘段列指揮所(CTCP)は車道や倉庫の近くに位置し、指揮所(CP)の位置から離れた場所に配送経路を持つべきである。

4.    村落と都市に位置する指揮所

部隊は村や都市に指揮所を配置する時に以下を考慮する必要がある。

  • 近隣の地階(basements)の広さ、質、量は指揮所(CP)に最適な場所を提供する。地下施設(underground facilities)は通常、敵の発見や間接火力(IDF)から最も防護される。さらに、地階(basements)は電磁波の発生源を覆い隠すため、多くの追加対策を必要としない。部隊は、近くに地階(basements)がなければ、地下要塞(underground earth fortifications)の建設を組織すべきである。
  • 指導者は、近隣に住む一般住民に注意を払うべきである。現地の民間人は、故意または無意に指揮所(CP)の位置を明らかにする可能性があるため、村民との意思疎通は制限されなければならない。
  • 都市開発では、多くの建物や既存のインフラがあるため、指揮所(CP)立地の可能性がある。
  • 部隊は、トンネルや下水道を使って秘密の通路を組織し、防護された目立たない後方連絡線(lines of communication)を通すことができる。
  • 高層ビルの地階(basements)には、指揮所(CP)要員全員を同時に配置するのに十分な避難スペースがある場合がある。
  • 指揮所(CP)の場所を選ぶときは、地階(basements)や厚い壁、天井のある目立たない建物を利用する。
  • 建物の間、兵士は壁の間に通路を作り、敵を惑わす新しい経路を作ることができる。さらに、壁に小銃のポータルや穴を作り、装飾品で偽装することもできる。

部隊は指揮所(CP)を農村地域(森林、農場、小さな村)に配置する場合、以下を考慮すべきである。村地域(rural area)は、既存のインフラの利用と新たなインフラ開発の可能性を効果的に組み合わせることを可能にする。農村地域(rural area)では、周囲の建物や森林に人員を分散させることが容易である。

  • 指揮所(CP)が森林内に設置された場合、密生した植生は自然な偽装となり、敵が陣地を攻撃する可能性を制限する。しかし、樹木は信頼できる通信を確立し維持するための障害となる。また、生い茂る森林の中で信頼できる防護と防御を提供することはより困難である。道路や指揮所(CP)位置へのアプローチがないため、兵站や工兵装備も制限される。
  • 農村地域(rural area)には、指揮所(CP)が機能するためのインフラや施設がほとんどない。そのため、場所の選定、戦闘陣地(fighting positions)の掘削、人員や技術装備の移動など、いくつかの段階を踏んだ事前準備が必要となる。
  • 中毒を起こす可能性があるため、地元の井戸は調理に使うべきではない。
  • 豁地(open fields)における偽装の選択肢は限られている。他に選択肢がない場合を除き、部隊は決して指揮所(CP)を開豁地(open field)に配置してはならない。
  • 部隊は、農村地域で指揮所(CP)を設置する際に、大型の土木機材を使うべきではない。機材は、可聴・視覚的シグネチャーと、機材が残した痕跡によって、その位置を暴露してしまう。
  • 戦闘陣地(fighting positions)は、「L字型(L-shaped)」の入口、内壁、補強された屋根で、できるだけ深く作るべきである。戦闘陣地(fighting positions)は、頭上掩護のために少なくとも3層の丸太を使用すべきである。しかし、重量分散の計算や耐荷重構造のデザインを誤ると、崩壊を招く恐れがある。

5.    指揮所の偽装

偽装は、敵の発見やターゲッティングから指揮所(CP)を防護するために必須である。部隊は以下を考慮する必要がある。

  • 部隊は、自治体や州の建物、公共施設のインフラビル、教育機関、寮、大企業の建物など、容易に認識できる行政建造物を指揮所(CP)に使用すべきではない。ほとんどの行政建造物はオンライン地図(グーグルマップやアップルマップ)にプロットされているため、その検索と識別は敵が容易に利用できる。
  • 防空壕やその他の民間防衛施設として知られ、マークされている地階(basements)は使用しないこと。敵がその場所を知っていて、ターゲットとしている可能性が高い。
  • 目立たない場所や部屋を使い、それらは、地域に溶け込むようにする。
  • 指揮所(CP)の位置を知る者は、捕虜となった場合、その情報を敵に開示する可能性があるため、できるだけ限定されるべきである。指揮所(CP)に配属された要員、または指揮所(CP)と直接接触する必要のある要員だけが、その位置を知るべきである。
  • 部隊は指揮所(CP)と戦闘段列指揮所(CTCP)を別々の場所に配置すべきである。観測可能な補給経路は戦闘段列指揮所(CTCP)を通るので、指揮所(CP)の位置は秘密にしやすい。
  • 指揮所(CP)付近での活動の兆候は、特に軍装備品や軍関係者については、ないか最小限であるべきである。
  • 指導者は、指揮所(CP)ができるだけ自立できるように組織すべきである。仕事場と就寝場所をデザインし、それらの間の移動時間を制限するように組織する。
  • 指揮所(CP)の偽装を視覚的に確認する効果的な方法は、無人航空機システム(UAS)を使って部隊の陣地上空を飛行し、上空から評価し、地形の中で目立つかどうかを確認することである。無人航空機システム(UAS)を最大高さまで上げ、近づきすぎず、敵の無人航空機システム(UAS)が観察するように地形を見る。さらに、指導者は指揮所(CP)付近の活動に特に注意を払うべきである。
  • 部隊は、電子戦(EW)を使用して指揮所(CP)の位置を探知する確率を最小化するために、以下のことを行うべきである。
    • 指揮所(CP)の近くに軍人が集まるのを防ぐ。
    • 指揮所(CP)の業務に関与しない人員によるWi-Fiの使用を禁止する(および関与する人員に対する使用規則を定める)。
    • 手持ち通信、移動通信、および携帯電話通信の使用を禁止する。
    • 無線通信機器および遠隔設置アンテナを指揮所(CP)から遠ざける。
    • Wi-Fiルーターを地表に設置しない(地表または地表より低い位置がよい)。

6.    指揮所の欺瞞作戦

敵を欺くことは、指揮所(CP)の残存性を維持する上で同様に重要な要素である。偽のターゲットや位置を作り出すことで、敵の幻惑を誘い、敵がターゲットの確認に時間を費やすように仕向ける。これは、長距離弾や高精度弾の過剰な消費につながる。偽の位置やその他の欺瞞手段の目的は、敵に誤った情報を与え、実際の指揮所(CP)から火力を遠ざけることである。部隊は欺瞞を使用する際、以下を考慮すべきである。

  • 部隊は、リピーターとして作戦を模倣する無線信号エミッター・デコイの助けを借りて、敵の電子戦(EW)センサーを欺くことができる。部隊は戦術的に指揮所(CP)から離れた地形にこれらを配置することができる(しかし、信じられ、敵を欺く構成で)。もう一つの方法は、指揮官と参謀の無線通信を模倣する移動チームを使用することである。
  • 敵の電子戦(EW)手段から作動中の通信機器の電波を隠すことは困難である。敵はその電磁放射を追跡することによって、デコイ指揮所(decoy CP)のおおよその位置を知ることができる。敵はデコイ指揮所(decoy CP)の大まかな位置を特定した後、無人航空機システム(UAS)を派遣してインテリジェンス、監視、偵察(ISR)を行う。この段階で、敵に偽の情報を提供する必要がある。
  • 敵が空中偵察の際に探す目印のひとつが、スターリンク・システムのアンテナである。楕円形の物体(鍋やバケツなどの大きな容器の蓋)や本物の衛星テレビ・インターネットアンテナを使い、その物体を白いペンキやチョークで着色したり、白いテーブルクロスで包んだりする手法が開発されている。偽のスターリンク・アンテナを、偽の指揮所(CP)場所を作りたい場所の近くに設置する。さらに、スターリンク・アンテナの接続部に見立てたケーブルを敷設する。
  • さらに、ロープに吊るされたズボン、椅子の背もたれに放置されたコート、靴、タバコの吸い殻、キャンディの包み紙など、指揮所(CP)での通常の生活状況を模擬することも、欺瞞の技法として挙げられる、
  • 駐車場を模擬するには、すでに破壊されたり故障した車両や装備を使用し、それを囮(decoy)の場所まで牽引する。壊れた装備をあたかも本物の機能的な指揮所(CP)部隊の装備であるかのように偽装する。さらに、囮(decoy)の装備を特定の物や建物の周りに集中させ、敵へのアピールを強める。
  • 闘段列指揮所(CTCP)を模擬するには、空き箱、使い捨てロケット弾(RPG)の発射筒、燃料缶などを使う。これらの物体を偽装ネットで覆うが、上から見えるように意図的に行う。さらに、敵が車輪の跡を観察できるようにして、車両の活発な動きを模擬する。

7.    指揮所通信上の考慮事項

指導者と計画担当者が指揮所(CP)の場所を選ぶときに考慮しなければならない第一の点は、部隊間の通信能力である。地形の種類によって、指揮所(CP)を設置するのに有利な点と不利な点がある。この章では、指揮所(CP)を人口密集地域内及び人口密集地域外に配置する場合の具体的な考慮事項について述べる。

  • 指揮所(CP)を効果的に運営するには、信頼できる安全な接続を確立することが必要である。参謀は無線、衛星、インターネット通信の助けを借りてこれを行うことができる。
  • 無線通信の品質は、要素間の距離と地域の地形に左右される。通信要員は、必要であれば、その地域に中継器を設置して信号を強化することができる。
  • 揮所(CP)は、その強力な電磁放射と容易に認識されるシグネチャーのため、高周波(HF)無線局を使用すべきではない。指揮所(CP)が高周波(HF)無線通信を使用する必要がある場合は、リピータ・システムを設置し、最低電力設定で運用し、アンテナの地形マスキングを使用した後にのみ使用すべきである。
  • 高出力/長距離無線局は、敵のミサイルや砲兵火力を素早く誘発する。高出力システムで送信してから、敵がその地域を標的にするまで15分もかからないことが多い。
  • バイル・インターネット接続は距離や地形にあまり左右されないが、敵の電子戦(EW)はルーターのシグネチャーや位置を簡単に見つけることができる。

8.    指揮所の設置と移転手順

部隊の指揮所を設置し、移転することは、部隊が行うことができる最も危険な作戦の一つである。部隊は、指揮所を移転または設置する際、以下を考慮すべきである。

  • 地形を偵察し、指揮所(CP)の設置場所を特定する。その場所が、部隊や上位司令部との信頼できる通信を行うのに適していることを確認する。さらに、その場所が敵の監視や間接火力(IDF)から防護されていることを確認する。代替場所を計画する。
  • 将来の指揮所(CP)地域に安全(security)を提供する。安全な境界線は不正アクセスを防ぎ、人員と機器の安全を確保する。
  • 選択した地域の特徴に基づき、指揮所(CP)のすべての要素の位置を計画する。
  • 作業地域、居住地域、保管地域、装備駐車地域を計画する。
  • 揮所(CP)設置時の安全対策と偽装の遵守を監視すること。新しい指揮所(CP)が準備段階で危険にさらされると、潜在的なターゲットになるだけでなく、作戦意図を敵に裏切ることにもなりかねない。
  • 移動中に要員を防護する手段を含む、指揮所(CP)の移動計画をデザインする。
  • 指揮所(CP)の予定日と具体的な場所を上位司令部に通知する。
  • 臨時指揮所(CP)を配置するため、新しい場所に先遣隊を送る。この部隊には、指導者と通信要員を含める。
  • 新しい指揮所(CP)の場所で、必要な通信と電力供給が最初に確立されるようにする。
  • 現在の指揮所(CP)で勤務しているすべての要員に、新しい場所への移転の具体的な開始時刻と終了時刻を通知する。さらに、指揮所(CP)要員が移転中に遵守しなければならない指示および要件を提供する。
  • すべての文書、機器、電子機器が説明され、安全かつ便利に輸送できる状態にあることを確認する。指揮所(CP)要員は、新しい指揮所(CP)に持ち込まれなかったすべての文書を破棄しなければならない。
  • 確立された計画に従って、要員、装備品、および財産の移動を組織する。
  • 指導部は、移動の完了後、指揮所(CP)の場所の変更について、上位司令部に適切な戦闘報告を行う。

9.    結論

米陸軍教訓センター(CALL)は引き続き、ロシア・ウクライナ紛争からの現代戦の観察に焦点を当てる。さらに、米陸軍教訓センター(CALL)は安全保障支援グループ・ウクライナ(SAG-U)、統合多国籍訓練グループ・ウクライナ(JMTF-U)、米陸軍欧州・アフリカ(USAREUR-AF)、ポーランド軍事教訓学習センター、およびウクライナ領土防衛軍(TDF)との定期的な訪問とバーチャル・ミーティングを実施する。さらに、これらの訪問は、他の陸軍および統合組織からの将来の収集の取組みを促進する。